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気体流量標準と臨界ノズルに関する調査研究

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(1)

気体流量標準と臨界ノズルに関する調査研究

竹川尚希

(2019 年 1 月 31 日受理)

A survey on gas flow standard and critical flow Venturi nozzle

TAKEGAWA Naoki

Abstract

Flow rate measurement is involved in various industrial fields such as household gas meter, aircraft engine test, exhaust gas measurement and environmental analysis. The accuracy and traceability of gas flow measure- ments are extremely important considering the market size. In Japan, Critical-flow Venturi nozzles (CFVNs) are used widely as transfer standards and can measure flow rates accurately. In this survey report, we compile the classification of national standards, the national standard equipment in each country and CFVNs as transfer standards. In addition, we introduce problems related to CFVNs. in order to realize high-precision flow rate measurement.

1.はじめに

流量計測は,工業計測における 5 大要素(流量,温度,

圧力,レベル,分析)の一つ 1)として産業分野で幅広く 利用されてきた.石油,天然ガス,化学工業などの分野 では,流量計測技術が深く関連しており,製造額および 取引額は世界全体で年間約 6 兆ポンド(1000 兆円)に も達すると報告されている 2).特に,気体流量計測では 産業構造の多様化および計測技術の向上により適用分野 の拡大が特徴的な動向として挙げられる.例えば,家庭 で消費されるガスなどのエネルギー資源取引,航空機の エンジンテスト,排気ガス測定や環境分析まで関与して おり,いずれも現代の社会活動には欠かせないものであ る.また,天然ガスなど高圧大流量の流体から半導体製 造プロセスで必要とされる微小流量の計測・制御まで,

取り扱う流量範囲も非常に幅広い.

上記のような多様化した産業需要に適合する流量計測 技術の開発には,標準となる基盤技術の整備が必要不可 欠である.しかし,気体流量計測ではその精度が十分で

あるとは言い難い.これは,流量がSI組立単位の中で も動的な量であり,特に気体流量計測では温度変化や圧 力擾乱など外乱の影響を強く受けることが理由として挙 げられる.他の静的な物理量と比較して高精度な計測が 困難であること,また,気体流量計測が関連する市場規 模を考慮すると,必然的に気体流量計測のトレーサビリ ティが重要となることは言うまでもない.現在,我が国 における気体流量の標準供給は,国家標準の移転標準器 である臨界ノズルを用いる方法が最も一般的かつ高精度 である.

本調査報告では,気体流量計測の基盤となる国家標準 の分類,各国における国家標準設備,国家標準の移転標 準器である臨界ノズルについて取りまとめ,高精度な流 量計測を実現するために解決すべき臨界ノズルの課題と 取り組みについて紹介する.

2.気体流量の標準

気体流量の標準は,体積流量(単位時間当たりに流れ る流体の体積)と質量流量(単位時間当たりに流れる流 体の質量)に分類され,2.1 節以降で詳細に解説する秤

工学計測標準研究部門気体流量標準研究グループ

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産総研計量標準報告 Vol.10, No.3 2021年 6 月

技 術 資 料

(2)

量法,プルーバ法,定積槽法のいずれかにより設定され る.図 1に気体流量標準の体系図を示す.質量を高い精 度で計測できるため,体積流量および質量流量の標準 は,質量標準から導かれることが多い.プルーバ法およ び定積槽法を用いて流量計測を行う場合,体積に関する 値が必要となる.質量標準から体積標準に変換する方法 については後述する.また,プルーバ方式では,寸法測 定,すなわち,長さ標準から体積標準を導く場合も存在 する.

2. 1 秤量法

秤量法は,事前に計測した秤量タンクと呼ばれる容器 の質量と試験気体を秤量タンク内に流入もしくは秤量タ ンク外に流出させた後の質量との差から質量流量を求め る方法である.秤量法は,静的秤量法と動的秤量法の 2 つに分類される.

2. 1. 1 静的秤量法

静的秤量法は,試験前後で秤量タンクを試験ラインか ら完全に切り離し,質量を天秤により計測し,その変化 量から質量流量を算出する方法である.静的秤量法によ り,流量計を校正する際の一般的な概要図を図2に示す.

静的秤量法では,秤量タンクを真空ポンプで可能な限り 減圧し,試験気体を流入させる方法が用いられる.試験 気体の圧力変動は,流量変動を引き起こし,校正の不確 かさを増大させる.そのため,上流側の圧力を一定に維 持するため,圧力制御装置が用いられる.また,流量計 の上下流には,温度計,圧力計が対になり設置されてい る.上流側に設置された温度計,圧力計は流量計算に使 用され,下流側に設置された温度計,圧力計は,デッド ボリュームと呼ばれる流量計を通過した気体が試験ライ ン内に残存する影響を補正するために用いられる.デッ ドボリュームの影響に起因する流量計測の不確かさにつ いては,秤量法を用いた流量計の校正に関する論文 3),4)

でおよび著書 5)で詳細に記述されている.流量計の下流 側にはバルブが設置されており,流路の切り替えを可能 としている.流量計を校正する際は,流路を真空ポンプ

側へと接続し,試験ラインに流れを発生させる.試験ラ イン内の温度および圧力が安定したことを確認し,バル ブにより流路を秤量タンク側へと切り替えを行う.試験 気体を秤量タンクへ一定時間流入させた後,流路を再び 真空ポンプへと接続し,秤量タンクを試験ラインから切 り離した後,質量を計測する.このような手順により質 量流量を算出し,流量計の校正を行う.

静的秤量法による流量計の校正では,秤量タンク内に 試験気体が充填されるため,流量計下流側圧力の変動に 注意を払う必要がある.これは,差圧で動作するような 流量計の場合,一定流量という条件の確保が困難である ことを意味する.そのため,静的秤量法では熱式マスフ ローコントローラや後述する臨界ノズルのように,下流 側の圧力変動に依らず,計側部での流量が一定となる機 能もしくは原理を有する流量計が必要になる.

2. 1. 2 動的秤量法

動的秤量法は,秤量タンクを天秤上に設置し,試験中 のある時間内で計測された質量変化量から質量流量を算 出する方法である.動的秤量法により,試験気体を秤量 タンク外部へ流出させ,流量計を校正する際の概要図を 図 3に示す.静的秤量法と比較して,流路の切り替え部 を持たないため,構成が単純化されている.流量計の上 流側には,静的秤量法と同様に,圧力制御装置,温度計,

圧力計が設置されている.流量計の下流側は大気へと解 放されているため,下流側条件として圧力が常に一定と なる.そのため,動的秤量法では,流量計の上下流の圧 力比,すなわち,差圧が一定に維持されることで,静的 秤量法において扱えなかった流量計を校正することが可 能となる.このような観点からは,動的秤量法は静的秤 量法と比較して流量計の校正に対する汎用性は高い.し かし,動的秤量法の最大の課題点としてフレキシブル チューブの取り扱いが指摘されている.フレキシブル チューブに張力が作用している場合,計測される秤量タ 図 1 気体流量標準の体系図

38

1 気 体 流 量 標 準 の 体 系 図

⻑さ標準 質量標準

秤量法 定積槽法

プルーバ法 体積流量標準 質量流量標準

体積標準

図 2 静的秤量法の概要図

39

2 静 的 秤 量 法 の 概 要 図

被校正流量計

T T P

P

真空ポンプへ

秤量タンク 流路切り替え

バルブ 圧力制御装置

天秤を用いて試験前後 の質量差を計測

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AIST Bulletin of Metrology Vol.10, No.3 June 2021

竹川尚希

(3)

ンクの質量は過少に評価される.一方,フレキブル チューブの自重が天秤に作用している場合,秤量タンク の質量は過大に評価される.そのため,フレキシブル チューブの存在に起因する測定値の変化は,天秤の分解 能以下でなければいけない.流量計を校正する際は,天 秤上に設置された秤量タンクのバルブを開き,試験ライ ンに流れを発生させる.天秤の出力,試験ライン内の温 度および圧力が安定したことを確認し,秤量タンクの質 量計測を開始する.一定時間が経過した後,計測を終了 し,試験時間内で生じた質量の変化量を求める.このよ うな手順により質量流量を算出し,流量計の校正を行 う.

2.2 プルーバ法

プルーバ法には,ベルプルーバ法とピストンプルーバ 法の 2 つが存在する.共にベルおよびピストンと呼ばれ る運動子が備え付けられており,この運動子の移動によ り,試験気体を容器に流入もしくは容器外へ流出させ る.運動子の移動により生じた容器内の体積変化を計測 することで体積流量を算出する.

2. 2. 1 ベルプルーバ法

ベルプルーバ法は,液中に沈められた浮鐘と呼ばれる 鐘状の運動子が移動し,この移動により生じる体積変化

(試験気体の流入もしくは流出)を計測することで体積 流量を求める方法である.ベルプルーバ法により流量計 を校正する際の一般的な概要図を図 4に示す.浮鐘の形 状がベルに似ているためベルプルーバと呼ばれる.試験 中にベルプルーバの内外で気体の移動が生じないよう外 側の容器とベルの間にはシール用液が存在する.シール 用封液には,水ではなく油が用いられる場合が多い.

シール用液に水を使用する場合,水蒸気圧によりガスの 体積に変化が生じることや水の気化熱により容器内温度 の均一性の確保が難しくなるため,計測の不確かさが増 大する傾向にある.

プルーバ法は体積流量を算出する方法であるため,被

校正流量計を通過した試験気体に密度変化が生じると正 確に体積流量を計測することができない.そのため,プ ルーバ法では試験時に試験気体の密度変化が起こらない ような工夫を設ける必要がある.ベルプルーバ法では,

ベルの重さにより容器内の圧力が増加することを防ぐた め,平衡錘によりベルの重さを打ち消す構造を有してい る.小さい平衡錘は,シール用液に沈められたベルの上 下運動に伴う浮力の変化を補正するために存在する.ま た,温度環境についても試験気体の密度に大きな影響を 与えるため,計測精度を決定する重要な項目となる.こ こで,プルーバおよびプルーバまでの管路において必ず 温度を等しくする必要はないことに注意したい.しか し,温度分布を安定させ,時間変化に伴う温度変化が生 じないようにしなければならない.

ベルの移動に伴う体積変化は,あらかじめ求める必要 があり,様々な方法が存在する.ベルの移動と体積変化 の関係を質量標準から求める際は,容器内を液体で満た し,ベルの移動により排出された液体の質量に基づき体 積標準に換算するなどの方法が用いられる.また,長さ 標準から体積標準に変換する際は,寸法測定を高精度で 実施することにより導かれる.

2. 2. 2 ピストンプルーバ法

ピストンプルーバ法は,シリンダー内を移動するピス トン状の運動子が移動し,これにより生じる体積変化を 計測することで体積流量を求める方法である.ピストン プルーバは,ピストン,ピストンロッド,シリンダー,

駆動モータから構成されている.ピストンとシリンダー の間からガス漏れを防止するため,Oリング,油,水銀 などが使用される.ベルプルーバでは,シール用液と呼 ばれる液体を用いてガス漏れを防止しており,容器内を 加圧すると内外の液面で高低差が生じるため,通常は大 図 3 動的秤量法

40 3 動 的 秤 量 法

図 4 ベルプルーバ法の概要図

41

4 ベ ル プ ル ー バ 法 の 概 要 図

ベル

封液

T P

T P

被校正流量計 T P 浮力補正カム

流路切り替え バルブ

気体流量標準と臨界ノズルに関する調査研究

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産総研計量標準報告 Vol.10, No.3 2021年 6 月

(4)

気圧条件で使用される.一方,ピストンプルーバはO リングなどでガス漏れを防止することにより,加圧条件 下 で の 使 用 を 可 能 と し て い る 6). ア メ リ カ のNIST

(National Institute of Standards and Technology) で は,

水銀を用いてピストンシリンダーのガス漏れを防止して いる.このピストンプルーバでは動力源がなく,差圧に よりピストンの移動が生じるため,被校正流量計を通過 した流量についても計測が可能である.

2. 3 定積槽法

定積槽法は,試験気体を既知の容積を持つ定積槽と呼 ばれる容器へ流し込み,その質量を状態方程式から計算 する方法である.定積槽法により流量計を校正する際の 一般的な概要図を図 5に示す.定積槽法は,PVTt法と も呼ばれ,これは,定積槽内の圧力P,定積槽内の体積

V,定積槽内の温度T,試験気体が定積槽内に流入した

時間tから質量流量を算出することに由来する.

気体の状態方程式を密度ρで整理することで,定積槽 内に存在する気体の質量を算出する.

M=ρV=RZT――PN V (1)

ここで,N:気体のモル質量,Z:気体の圧縮係数,

R:気体定数,ρ:密度,M:定積槽内の気体の質量であ る.試験前後における質量増加分M incは次式で表され る.

Minc=――VNR (――ZPf Tff−――ZPs Tss) (2)

ここで,添え字のsおよびfは,それぞれ試験開始時 と試験終了時を意味する.定積槽の体積Vは別途試験 を実施し,質量標準より導出される.ガスボンベなどに 封入された高純度の試験気体を減圧した定積槽内へ流入 させる.試験前後における質量変化を天秤で計測し,上 昇した定積槽内の温度および圧力,気体の状態方程式,

流入した気体の質量から定積槽の体積を決定する.

流量計を校正する際は,真空ポンプにより定積槽内を 減圧する.流入時間確保の観点から,定積槽の強度が許 す範囲で,可能な限り減圧することが望ましい.定積槽

内の温度および圧力が安定した後,これを初期条件とす る(P s,T s).試験ラインを真空ポンプ側へと接続し,

流れを発生させる.試験ライン内の温度および圧力が安 定したことを確認し,バルブにより流路を定積槽側へと 切り替える.試験気体を定積槽へ一定時間流入させた 後,試験ラインを定積槽側から切り離し,真空ポンプ側 へと接続する.定積槽内の温度および圧力が安定した 後,これを終期条件とし(P f,T f),流入時間と増加し た質量より質量流量を計算する.

定積槽法では,定積槽内に試験気体が充填されるた め,被校正流量計の下流側圧力が変動する.そのため,

被校正流量計としては,主に臨界ノズルやマスフローコ ントローラが用いられる.定積槽内の圧力の測定に関し ては大きな問題はないものの,定積槽内の温度の代表値 をどのように決定するかは重要な問題である.換言する と,定積槽内部には必ず温度分布のむらが生じるため,

この温度分布の均一化が課題になる.この均一化に関し て様々な方法が考案されている.NISTでは,国家標準 設備として 34 Lの定積槽と 677 Lの定積槽を備えてお り,定積槽を水槽に沈めることで温度分布の均一化を 図っている 7).定積槽を水没させ温度分布の均一化を実 現するためには,水槽内における水の循環や容積に対し て表面積を大きくするなどの工夫が求められる.NIST が所有する 34 Lおよび 677 Lの定積槽には,温度計は 設置されておらず,水槽内の温度計測をもとに試験を実 施している.産業技術総合研究所 計量標準総合センター

(以下産総研)においても,国家標準として定積槽が設 置されている(図 6).この定積槽の大きさが約 11 m 3 であるため,定積槽全体を水槽内に沈めるという方法は 採用されていない.産総研では,大型の水槽を用意する 代わりに,定積槽の外側にウォータージャケットと呼ば れる水の層を約 5 cm設け,ポンプにより水を循環させ ることで,定積槽全体の温度を均一に管理している.産 総研では微小流量計測で用いる小型の定積槽を真空チャ ンバー内に設置することで,熱の出入りを小さくする方 法も用いられている(図 7).この方法では,真空チャ ンバー内に熱源が存在すると熱対流がほとんど発生しな いため,温度分布の均一性が確保できなくなる点に注意 しなければいけない.また,定積槽内部に熱伝導性の優 れた銅綿を充填することにより,温度分布の均一化を図 る工夫も施されている.

図 5 定積槽法の概要図

42

5 定 積 槽 法 の 概 要 図

P T

被校正流量計 T P 定積槽

T

P 真空ポンプへ 真空ポンプへ(減圧用)

状態方程式より流入した 気体の質量を計測

流路切り替え バルブ

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AIST Bulletin of Metrology Vol.10, No.3 June 2021

(5)

3.臨界ノズルと流量計測

3. 1 臨界ノズルの特性

臨界ノズルは,図 8に示すように収縮部拡大部を有す るノズルである.臨界ノズルを通過する気体の流速は,

背圧比(ノズル下流圧/ノズル上流圧)の減少に伴い増 大し,臨界背圧比において断面積が最も小さいスロート

で流速が音速に到達する.スロートにおける流速が音速 に達した状態は臨界状態と呼ばれ,臨界圧力比より大き い圧力差を与えた場合においても,スロートでの流速は 音速で一定となる.これは,圧縮性流体の亜音速と超音 速における特性の違いが原因であり(表 1),臨界状態 に到達すると,流れがスロート下流側の条件に影響され ないことを意味する.すなわち,臨界状態では,臨界ノ ズルを通過する気体の流量は,音速とスロートでの断面 積との積で与えられ,一定流量の流れを安定して発生さ せることが可能となっている.

測定部前後の圧力差を利用する流量計測には,オリ フィス流量計,ベンチュリ流量計,フローノズル流量計 などの差圧式流量計が広く用いられている.ベンチュリ

図 6 中流量用定積槽(産総研)

43

6 中 流 量 用 定 積 槽 ( 産 総 研 )

図 7 微小流量用定積槽(産総研)

44

7微 小 流 量 用 定 積 槽 ( 産 総 研 )

(a) 外 観 図

(b) 真 空 チ ャ ン バ ー 内 の 定 積 槽

図 8 臨界ノズル

45 8 臨 界 ノ ズ ル

(a) 全 体 図

(b) 断 面 図

表 1 亜音速および超音速における断面積の増減に伴う諸 量の変化

36

1 亜音速および超音速における断面積の増減に伴う諸量の変化 断面積の減少 dA < 0 断面積の増加 dA > 0 亜音速 M < 1 超音速 M > 1 亜音速 M < 1 超音速 M > 1

速度u 増加 減少 減少 増加

圧力P 減少 増加 増加 減少

密度ρ 減少 増加 増加 減少

温度 T 減少 増加 増加 減少 音速 a 減少 増加 増加 減少

気体流量標準と臨界ノズルに関する調査研究

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産総研計量標準報告 Vol.10, No.3 2021年 6 月

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構造を用いた非圧縮性流体の流量計測は古くから研究さ れており,1950 年代には管路を流れる流量について理 論的に導出されている 8).これらの差圧式流量計と臨界 ノズルとの決定的な違いは,下流側の物理量に影響され ることなく流量計測を実施できるかどうかであり,臨界 ノズルにおいてスロートでの流れは上流側条件のみで決 定されるため,高精度な流量計測を実現可能としてい る.

臨界ノズルの背圧比を臨界背圧比以下にする際,①臨 界ノズル上流側を加圧する,②臨界ノズル下流側を減圧 する,このどちらの手法を用いても良い.臨界ノズルの 上流には,温度計,圧力計が対になり設置されている.

上流側に設置された温度計,圧力計は後述する臨界ノズ ルの理論臨界質量流量を算出するために使用され,下流 側に設置された圧力計は背圧比の確認のために用いられ る.

3. 2 臨界ノズルの質量流量

臨界ノズルのスロートでの音速をa t,断面積をS t,密 度をρ tとすると体積流量Q vと質量流量Q mは次式で表 される.

Qv=St at (3)

Qm_theo=St at ρt (4)

上式のQ m_theoは,粘性が流量に与える影響を考慮して

おらず,理論臨界質量流量と呼ばれる.実際には,ス ロートの壁面表層では境界層が発達するため,実際に流 れる質量流量Q mは,理論臨界質量流量よりも小さい値 を示す.そのため,ISOが定める規格 9)(Measurement of Gas Flow by Means of Critical Flow Venturi Nozzles)

では,次式に示すように流出係数C dを用いることで,

実際に流れる質量流量Q mを与えている.

Qm=Cd Qm_theo (5)

流出係数C dは,理論臨界質量流量Q m_theoに基づくレ イノルズ数Reの関数であり,次式で表される.

Cd=a−bRe−n (6)

一般的に流出係数C dは,それぞれの臨界ノズルに固 有の値であり,係数aおよびbは実験的に求められる.

係数nはスロートで発達する境界層が層流の場合はn=

2,乱流の場合はn=5 である.

次に理論臨界質量流量Q m_theoを導出する.理想気体で は,音速aと密度ρは以下の式で与えられる.

a=―――――γRTN (7)

ρ=――PNRT (8)

ここで,γ:比熱比,R:普遍気体定数,T:温度,N:

分子量,P:圧力である.上式を式(4)に代入すると,

(9)が導出される.

Qm_theo=St Pt―――――RTt (9)

ここで,添え字のtは,スロートにおける値である.

式(9)より,断面積S t,圧力P t,温度T tより,理論臨 界質量流量Q m_theoが求められる.しかし,実際にスロー トにおける温度および圧力を測定することは困難である ため,等エントロピー流れにおける臨界状態とよどみ点 状態の関係式を用いる.

Pt=P0(――γ+12 )――γ−1γ (10)

Tt=T0(――γ+12 ) (11)

ここで,添え字の 0 は,よどみ点における値である.

式(10)および式(11)を式(9)に代入すると,次式 が得られる.

Qm_theo=St――――――――γ (――γ+12 )γ+1――γ−1 P0―――――RTN0 (12)

式(12)より,理論臨界質量流量Q m_theoは,よどみ点 における圧力と温度,すなわち,臨界ノズル上流側の温 度と圧力より計算することができる.式(12)が,臨界 ノズルの質量流量が,上流側条件のみによって決定され る理由であり,流量がノズル下流の状態に依存しないた め,高精度な流量計測が可能となる.

4.臨界ノズルを用いた標準供給範囲の拡大

4. 1 天然ガスに関する流量計測

N I S T で は,C E E S I(C o l o r a d o E x p e r i m e n t Engineering Station Inc.)のアイオアにある設備を用い ることにより,大流量かつ高圧の天然ガスによる流量計 の実流校正を実施している 10),11).NISTにおける気体流 量の国家標準設備として 34 L,677 L,26 m 3の 3 種類の 定積槽が整備されており.26 m 3の定積槽では 1.56 kg/s までの流量を拡張不確かさ 0.13 %で計測が可能となっ ている 12).しかし,上記の流量範囲では大流量高圧であ る天然ガスの流量を国家標準に対してトレーサブルに計 測することができないため,臨界ノズルを用いて計測可 能な流量および圧力を拡大している.臨界ノズルを用い

356

AIST Bulletin of Metrology Vol.10, No.3 June 2021

(7)

て計測可能な流量を拡大する際は,臨界ノズルを並列に 接続する方法が一般的である.ここで問題となるのは,

臨界ノズルを高圧条件で使用する場合である.26 m 3の 定積槽で臨界ノズルを校正する際の圧力は,天然ガスの 流量計測時と比較して小さいため,高圧時における臨界 ノズルの流出係数を国家標準である 26 m 3の定積槽に対 してトレーサブルに求める必要がある.

図 9に国家標準である 26 m 3の定積槽から天然ガスの 実流校正に使用される流量計までのトレーサビリティを 示す.まず,第 1 段階では,26 m 3の定積槽により 4 個 の臨界ノズルを 0.57 MPaで校正する.次に,この 4 個 の臨界ノズルを用いて,高圧時における 1 個の臨界ノズ ルの流出係数を決定する(図 10).図 10に示すように,

試験ライン上では,上流側に 1 個の臨界ノズル,下流側 に定積槽で校正された 4 個の臨界ノズルが並列に設置さ れている.この試験ライン上では,質量保存の法則より 上流側臨界ノズルのスロートと下流側臨界ノズルのス ロートにおいて次式が成立する.

ρup Sup aup= ρdown Sdown adown (13)

ここで,添え字のupおよびdownは,上流側および 下流側スロートにおける値である.上流側には 1 個の臨 界ノズル,下流側には 4 個の臨界ノズルが設置されてい るため,面積比について次の関係が成り立つ.

4Sup=Sdown (14)

また,等エントロピー流れを仮定すると,スロートに おける温度は上下流の臨界ノズルで等しくなるため,密 度に関して次式が得られる.

ρup=4ρdown (15)

式(13)より,下流側の圧力に対して上流側の圧力は 4 倍 で あ る こ と が 分 か る. す な わ ち,図 9に 示 す Stage_2 では上流側の圧力を 2280 kPa(570 kPa×4)と することで,下流側の圧力が 570 kPaとなる.これは,

下流側の臨界ノズルがStage_1 で校正された時の圧力と 等しく,上流側の臨界ノズルに対して参照標準の役割を 果たすため,2280 kPa時における上流側臨界ノズルの 流出係数を算出することが可能となる.この過程を Stage_3 まで繰り返し行う.天然ガスによる流量計の実 流校正では,タービン流量計を実用標準として用いる.

タービン流量計が校正されるStage_4 では,試験気体と して乾燥空気ではなく天然ガスが使用され,この際,実 ガス臨界関数に基づいた変換が行われる.最終的に,

Stage_5 において被校正流量計は,流量が 0.7 m 3/s

10.7 m 3/s,圧力が 7.174 MPaで校正することが可能と なる.この設備の拡張不確かさは,校正時の流量に依存 し,0.28%〜0.30%である.また,被校正流量計は超音 波流量計が主であるものの,コリオリ流量計,臨界ノズ ル,タービン流量計などの校正も実施している.

4. 2 高圧水素に関する流量計測

近年,地球環境などへの問題意識の高まりから,ク リーンエネルギーが注目され,燃料電池自動車は環境対 策に大きく貢献できるものとして期待されている.燃料 自動車の特徴的な点として,高圧条件下(70 MPa)に

図 9 天然ガスの流量計測に関するトレーサビリティ

46

9 天 然 ガ ス の 流 量 計 測 に 関 す る ト レ ー サ ビ リ テ ィ

図 10 臨界ノズルを用いた圧力の拡大方法

47

10 臨 界 ノ ズ ル を 用 い た 圧 力 の 拡 大 方 法

図 11 高圧水素用の臨界ノズル式流量計

48

11 高 圧 水 素 用 の 臨 界 ノ ズ ル 式 流 量 計

気体流量標準と臨界ノズルに関する調査研究

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産総研計量標準報告 Vol.10, No.3 2021年 6 月

(8)

おける水素の充填が挙げられる.水素の充填に用いられ る流量計は計量メーターであり,消費者保護の観点から 適正な計量,すなわち,計量値の信頼性のみならず,ト レーサビリティの構築が必要不可欠となる.産総研では 高圧水素用の臨界ノズル式流量計を整備し,その特性評 価を行ってきた 13)-15).産総研で開発した臨界ノズル式流 量計を図 11に示す.図 11において流れは左から右へと 流れ,試験ラインの上流側には高圧水素用の臨界ノズ ル,下流側にはマルチノズル式校正装置が設置されてい る.高圧水素用の臨界ノズルは,ISO 9300 9)で規定され るトロイダルスロートベンチュリノズルに準拠してお り,通常用いられる臨界ノズルと同様の形状を有する.

しかし,高圧条件で使用するため,通常の臨界ノズルよ りも堅牢な構造としている.スロート直径は約 0.6 mm,

ディフューザ長さは 10D,ディフューザの開き角度は 3°

である.マルチノズル式校正装置は低圧用(700 kPa以 下)に設計されているため,流体が通過する断面積の差 を利用し減圧を行う.マルチノズル式校正装置は内部に 臨界ノズル(D=2.4 mm)を最大で並列に 9 個設置する ことができ,高圧水素用の臨界ノズルよりも断面積を大 きくすることで 70 MPaから 700 kPa以下に減圧してい る.それぞれの臨界ノズルは産総研が所有する国家標準 設備により校正を受ける.下流側に設置されたマルチ校 正装置が参照標準の役割を果たし,高圧水素用の臨界ノ ズルの臨界背圧比と流出係数が国家標準にトレーサブル な形で算出される.

上述の方法で臨界ノズルを用いた流量計測において重 要なパラメータである臨界背圧比と係数を決定すること が可能となる.一方で,高圧時における流出係数はISO 9300 9)で半経験式として広く使用されているUniversal

curve(レイノルズ数と流出係数の関係式)から大きく 外れることが確認されている.図 12に高圧水素用臨界 ノズルのレイノルズ数と流出係数の関係を示す.高圧域 で使用した臨界ノズルでは,理想気体を仮定した流出係

数とJohnson 16)の方法により実在気体効果を考慮した流

出係数がプロットされている.図 12より高圧域で使用 した臨界ノズルの流出係数は,レイノルズ数が増加する に伴い減少する傾向が確認され,同様の結果が他の既往 研究 17)においても報告されている.これは,レイノルズ 数が増大するにつれ,スロートにおける境界層が厚くな ることを意味しており,物理的な解釈が非常に難しい.

数値解析に基づいた既往研究 18)-20)では,高圧条件下にお いて臨界ノズルの流出係数がuniversal curveから外れ る傾向が確認されており,高圧時におけるレイノルズ数 と流出係数の関係は,現象としても非常に興味深く,未 解明な部分が多い課題である.

4. 3 微小流量計測

近年,半導体など製造スケールの小型化が進み,高精 度な計測が可能である臨界ノズルの微小流量への適用が 様々な工業分野で期待されている.現在,産総研におい て臨界ノズルを用いて計測可能な最小流量は,5 mg/

min.(スロート直径:34 μm)である.今後,更なる微 小流量へ範囲を拡大する際,従来通り,スロート直径を 小さくする手法が考えられる.しかし,スロート直径を 小さくするというアプローチは,複雑な形状を有する臨 界ノズルの作製が極めて難しくなる.また,スロートに おける粘性の影響についても十分考慮する必要がある.

粘性の影響が大きくなるということは,スロートでの境 界層が厚くなる,または,スロートが境界層で塞がれる ことで,臨界状態の確保が難しくなることを意味する.

スロート径が 34 μmで等エントロピー流れを仮定し,

大気圧条件下で乾燥空気を吸い込んだ際のレイノルズ数 は約 500 である.したがって,スロート直径を小さくす ることで微小流量の範囲拡大を試みる場合は,スロート での境界層の厚さが流量計測に与える影響を明らかに し,適切に臨界ノズルを使用できる範囲を明らかにする 必要がある.

臨界ノズルの質量流量は式(2)で表され,微小な流 量を発生させるためには,小さなスロート直径を有する 臨界ノズルを用いるのではなく,スロートを通過する流 体の密度を減少させるという方法が考えられる.この方 法ではスロート直径を小さくする必要がないため,境界 層の影響を小さくすることが可能である.しかし,ス ロートを通過する流体の密度を減少させるためには,圧 図 12 高圧水素用臨界ノズルにおけるレイノルズ数と流出

係数の関係 15)

49

12 高 圧 水 素 用 臨 界 ノ ズ ル に お け る レ イ ノ ル ズ 数 と 流 出 係 数 の 関 係15)

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力を低下させる必要があり,ノズルを通過する流れの状 態について注意を払わなければいけない.流れ場が連続 体として扱えるかについては,式(16)に示すクヌーセ ン数が判別式として用いられる.

Kn=―Lλ=――――√2 πσkT2 PL (16)

ここで,λ:平均自由行程,L:代表長さ,k:ボルツ マン定数,T:温度,σ:分子直径,P:圧力である.平 均自由行程とは,分子同士の衝突が発生する尺度として 用いられる概念であり,ある分子が他の分子に衝突して から次に別の分子に衝突するまでの平均的な距離であ る.この平均自由行程を代表長さで除したものがクヌー セン数であり,平均自由行程の特徴より気体密度が小さ いほどクヌーセン数は大きく,大きいほど小さくなる.

流れ場の状態はクヌーセン数により次のように分類がで きる.

Kn~0:連続流,Kn

   <1:滑り流領域,Kn~1:遷移領域,Kn

   >0:自由分子流 (17)

スロートを通過する流体の圧力を低下させると,流れ が連続流ではなくなる可能性が存在し,連続流からの乖 離の影響について考慮する必要がある.微小流量の範囲 拡大のために圧力,すなわち流体の密度を下げることは 比較的容易な方法であるが,臨界ノズル内の流れが低密 度条件によりどのような影響を受けるか,また,その影 響を受ける限界の密度およびレイノルズ数について明ら かにする必要がある.

5.臨界ノズルの実務上の課題と対策

5. 1 非臨界現象

本節では,非臨界現象と呼ばれる臨界ノズルにおける 実務上の問題について触れ,その対策に関する取り組み を紹介する.3 章で述べたように,臨界ノズルを用いて 高精度な流量計測を行うためには,背圧比(ノズル下流 圧/ノズル上流圧)が臨界背圧比以下であることが肝心 である.臨界ノズルの流出係数は,背圧比が臨界圧力比 以下なら一定値を示す.しかし,①「理論的に導出され る臨界背圧比よりも小さい値で流出係数が減少する」,

②「臨界背圧比以下のある範囲で流出係数が減少・回復 する」という挙動が報告されており,非臨界現象と呼ば れている(図 13).既往研究では,①ないしは②の挙動

のみを非臨界現象と呼ぶ場合が存在し,また,このよう な挙動に対して未成熟臨界現象という名前が用いられる 場合もあり,明確な非臨界現象の定義は確立されていな い.

流量計測の現場では,非臨界現象の有無について判断 する術がなく,非臨界現象が生じた際の流量低下率は大 きい場合で 0.5 %以上にも及ぶ.この値は,流量計測が 関連する市場規模を考えると十分な精度であるとは言い 難く,決して無視することのできない問題である.現状 における非臨界現象の対策として,臨界ノズルの背圧比 を十分に減少させる方法が提案されている.図 13から も分かるようにそれぞれの臨界ノズルにおいて,背圧比 が 0.4 以下では流出係数が一定の値を示しており,非臨 界現象が生じないことが分かる.ISO 9300 9)において,

レイノルズ数が 2×10 5よりも小さい範囲では,臨界ノ ズルの背圧比は 0.25 以下にすることが推奨されている.

しかし,このような方法は,理論的に必要とされる差圧 よりも大きい差圧を与える必要があり,大型設備の利用 が前提となるため臨界ノズルの普及および運用上の大き な課題となっている.

まず,非臨界現象を議論する上で重要となる理論臨界 背圧比について説明を行う.式(10)において比熱比γ の値を 1.4 とすると,スロートにおける圧力はよどみ点 圧力の 0.528 倍となる.スロート下流側ではディフュー ザにより圧力回復が起きる.ISO 9300 9)において,この 圧力回量の簡便な推定方法として,スロートでの断面積 とディフューザ出口における断面積の比に基づく計算が 記載されている.臨界ノズル内の流れを等エントロピー 流れと仮定すると,よどみ点状態の圧力と任意のマッハ 数Mにおける圧力の関係は次式で表される.

P0

P(TT0)――γ−1γ(1+γ−1――2 M2)――γ−1γ (18)

また,スロートにおける断面積A tと任意のマッハ数 における断面積Aとの関係は,次のように与えられる.

図 13 非臨界現象と流出係数の関係

50

13 非 臨 界 現 象 と 流 出 係 数 の 関 係

0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0.95

0.96 0.97 0.98 0.99 1.00 1.01

両ノズル共に理論臨界背圧比以下で流出係数の減少が確認される.理論臨界背圧比

その後回復する傾向が確認される.

流出係数

背圧比 臨界ノズルA

臨界ノズルB

臨界ノズルBでは,流出係数が減少し,

気体流量標準と臨界ノズルに関する調査研究

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産総研計量標準報告 Vol.10, No.3 2021年 6 月

(10)

AAt = 1―M{――――――(γ−1) Mγ+12+2}――――2(γ−1)γ+1 (19)

式(14)を式(15)に代入すると,断面積の変化率と 圧力の変化率の関係が導かれる.

AAt =√―――――――――2{(PPγ−1 0)  ―1−  1γ−1}

{

2(γ+1PP0)  ―  1−1γ

}

2(γ−1)―――γ+1 (20)

上式における任意の断面積にディフューザ出口の断面 積を代入することで,ディフューザ出口における圧力を 推定することが可能となる.

非臨界現象の原因として,既往研究ではディフューザ 内の境界層と衝撃波の干渉が指摘されている 21).臨界状 態において,スロートでは流速が音速になり,ディ フューザ内では超音速流から亜音速流へ遷移するため衝 撃波が生じる.ノズル内で生じる衝撃波に関する研究は 数多く存在し,シュリーレン法 22),23)や数値解析 24),25)に よりディフューザ内の流れについては,明確な様相が得 られている(図 14).ディフューザ内で衝撃波が生じる と,衝撃波下流の圧力は急激に上昇するため,逆圧力勾 配となり流れの剥離が生じる.この剥離により,管路の 有効断面積が減少し,ディフューザによる圧力回復効果 が低下すると考えられている.また,ディフューザ内で 生じた衝撃波は振動することが知られており,振動によ り生じた圧力擾乱と境界層の干渉と時間経過に伴う臨界 背圧比の変動が指摘されている.

既往研究では,衝撃波により生じる非臨界現象を回避 するために最適なディフューザ形状(ディフューザの開 き角度,ディフューザの長さ)について研究が実施され ている.しかし,その対策に関して統一的な見解は得ら れていないのが現状である.例えば,Carter et al. 26)は,

臨界ノズルのディフューザの開き角度が 6°までであれ ば,開き角度が大きいほど臨界背圧比は小さくなると結 論付ける一方,浅野ら 27)はディフューザの開き角度が 3.5 °付近で最適であると主張している.上述のように非 臨界現象の対策では,一見,相異なる結論がしばしば見 受けられる.この理由の 1 つとして,実験時におけるレ イノルズ数の違いが考えられる.これは,同一臨界ノズ ルであろうともレイノルズ数により非臨界現象の発生条 件が異なることを意味しており,この点において,普遍 的かつ効果的な非臨界現象対策の難しさが伺える.ま た,ディフューザの形状については,ディフューザ長さ およびディフューザの開き角度について議論されること が多く見られるものの,理論臨界背圧比,すなわち,圧 力回復の程度については,断面積の変化により決定され るため,開き角度と長さから決定されるディフューザの

出口断面積に基づいた整理も今後必要であると思われ る.

上述のように非臨界現象は,スロート下流側で生じる 衝撃波の観点から説明されることが多いが,スロート上 流側の影響についても確認されている.ドイツのPTB

(Physikalisch Technische Bundesanstalt)では参照標準 用のオリフィスと臨界ノズルを直列に接続することで,

臨界背圧比の評価を実施している.圧力変動を抑制する ために,様々な厚さを有するポーラス板をオリフィスの 下流側に設置したところ,ポーラス板の厚さにより臨界 ノズルの臨界特性が変化することが確認されている 28). また,産総研では臨界ノズルの流入部にリング状の突起 物を設置することで,非臨界現象が大幅に抑制されるこ とが明らかとなっている 29).このことから,非臨界現象

図 14 ディフューザ内で生じる衝撃波 21)

51

14 デ ィ フ ュ ー ザ 内 で 生 じ る 衝 撃 波21)

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(11)

はスロート下流側のみならず,上流側の影響についても 受けていることが推察される.このように非臨界現象 は,非常に複雑で流量計測上の重大な問題であり,物理 現象としても極めて興味深いものである.

5. 2 境界層遷移

境界層遷移とは,ある流れにおいて境界層が層流から 乱流へと遷移する過程である.平行平板上で発達する境 界層および境界層遷移については数多くの研究がなされ おり,平行平板において境界層遷移が生じる際のレイノ ルズ数は,約 5×10 5であることが明らかとなっている.

一方,臨界ノズルのスロートにおける遷移レイノルズ数 については未解明な部分が多く,正確な予想が困難と なっている.臨界ノズルの流量を算出する際に重要な流 出係数は式(6)で与えられ,境界層が層流と乱流で計 算式が異なる.すなわち,臨界ノズルにより流量を計測 する際は,スロートにおける境界層の状態を適切に判断 する必要があり,これにより計測精度が左右されるとい うことである.しかし,境界層遷移は非常に不安定であ るため,臨界ノズルによる高精度な流量計測を実現する 上での大きな課題となっている.

石橋ら 30),31)は,臨界ノズルにおけるレイノルズ数と境

界層遷移について詳細に検証を行っている.図 15は異 なる 18 個の臨界ノズルから得られたレイノルズ数と流 出係数の関係である.図 15よりレイノルズ数が約 1.0×

10 6から境界層遷移が生じ,流出係数が低下しているこ とがわかる.これは,境界層が層流から乱流へと遷移す ることで,境界層厚さが増加し,流量が減少するためだ と考えられる.レイノルズ数が 1.5×10 6の場合,境界層 遷移後における臨界ノズルの流出係数と,層流境界層を 仮定して理論的に導出された適合曲線 32)を比較すると,

大きいもので約 0.3 %の差が生じている.これは十分な 精度であるとは言い難く,決して無視することのできな

い値であると考えられる.また,特徴的な傾向として,

各ノズルにより遷移レイノルズ数が異なり,臨界ノズル の形状により敏感に反応することが分かる.遷移レイノ ルズ数の予測は極めて難しいと考えられるため,石橋 ら 33)はスロート直前の流入部を塗料でコーティングする ことで,境界層遷移が生じるレイノルズ数を制御する手 法を提案している.

6.まとめ

気体流量計測は世界的に重要な工業計測の 1 つであ る.流量計測は,家庭で消費されるガスなどのエネル ギー資源取引,航空機のエンジンテスト,排気ガス測定 や環境分析など様々産業分野で関与しており,いずれも 現代の社会活動には欠かせないものである.気体流量計 測が関連する市場規模を考慮すると,必然的に気体流量 計測のトレーサビリティが重要となることは言うまでも ない.本調査報告では,気体流量計測の基盤となる国家 標準の分類,各国における国家標準設備,国家標準の移 転標準器である臨界ノズルについて概観し,高精度な流 量計測を実現するために解決すべき臨界ノズルの課題と 取り組みについて整理を行った.

気体流量の標準は,体積流量(単位時間当たりに流れ る流体の体積)および質量流量(単位時間当たりに流れ る流体の質量)に分類され,秤量法,プルーバ法,定積 槽法のいずれかにより設定される.我が国において気体 流量の標準供給は,国家標準の移転標準器である臨界ノ ズルを用いる方法が一般的かつ高精度である.臨界ノズ ルを用いることで,国家標準で供給可能な流量および圧 力範囲を拡大し,天然ガスの流量計測などの実社会の需 要に応じた標準供給を実施している.一方,燃料電池自 動車に充填する際の超高圧水素流量や極細ノズルを用い た微小流量では,通常では説明できない物理現象も確認 され,これらの原因の解明と特殊条件下における流量計 測の高精度化が今後の課題である.

謝辞

本調査研究を実施するにあたり,多くの方々にご指導 を頂きました.石橋雅裕 主任研究員には何度もご相談 に伺い,その都度,様々なアドバイスと臨界ノズルに纏 わる秘話を教えていただきました.森岡敏博 グループ リーダーには,貴重なご意見をいただいただけでなく,

流体力学・流体計測について学べる機会を数多く設けて いただきました.また,寺尾吉哉 総括研究主幹および 図 15 広レイノルズ数範囲における流出計数の挙動 31)

52

15 広 レ イ ノ ル ズ 数 範 囲 に お け る 流 出 計 数 の 挙 動31) 気体流量標準と臨界ノズルに関する調査研究

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産総研計量標準報告 Vol.10, No.3 2021年 6 月

(12)

気体流量研究グループの皆様からは,有益なご指導ご助 言をいただきました.ここに深く感謝いたします.(所 属は原稿執筆時)

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気体流量標準と臨界ノズルに関する調査研究

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