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ライフサイクルエンジニアリング への期待

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Academic year: 2021

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 2015年に17の「持続可能な開発目標」(Sustainable Develop-

ment Goals:SDGs)を掲げた「持続可能な開発のための2030 ア

ジェンダ」が国際合意として採択された後に,多くの組織 がこのアジェンダへの貢献を進めている。本会において も,第

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回アジア太平洋化学工学連合会議(APCChE2019)に おいて,「SDGsための化学工学」をテーマとし,国連工業 開発機関(UNIDO)と共同で「国連持続可能な開発目標に関 する宣言−人々の

Well-beingのための化学工学−」と題す

る札幌宣言を発表した。

 宣言は,SDGsを共有ビジョンとし,気候危機,小島嶼 開発途上国の危機などの認識のもと,

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の宣言文からなっ ている。特徴は,Efficiencyから

Sufficiencyへ,すなわち効

率性を追い求める社会から充足性を感じられる社会への変 革を謳っていることである。言い換えると,課題解決の対 象を装置や製品から人々や社会に移していくことによって

「人々の

Well-being」の実現を目指している。AI

IoT

など の新技術を取り込み,女性の研究者・技術者を増やし,ジェ ンダー不平等の是正と多様性の取り入れによってすべての 働く人々の就労環境の改善を図り,社会的弱者,難民への 能力開発機会に寄与することを教育・研究・産業の役割と して宣言している。化学工学が,異なる学術分野間の学際,

さらに多様なステークホルダーとの「超学際」について中心 的な役割を果たしていきたいという決意も含めた。

 この宣言の起草に先だって「日本の化学産業のあるべき 未来工場について語る会」と題した会合を企画し,異なる 企業の管理職,女性を含む現場勤務者,大学教員と女性・

留学生を含む学生が集まり,1日間自由に議論する場を設 けた。この会合では,自らが開発・製造に関わる製品が社 会で人々の役に立っていることが働きがいにつながる,

チームで問題解決ができると達成感がある,本質的に事故 リスクのある人的作業を無くす技術が望まれる,長時間労 働を良しとする国民性を変えていきたい,経営層の意識の 変革が必要だなどの多彩な意見が出された。まさに「化学 産業で働く人々の

Sufficiency」が議論の中心になった。

 宣言の実現に向けた活動はこれからであるが,製品とプ ラントのライフサイクルを統合した視点が重要と考えてい る。資源から製造・使用・廃棄リサイクルまでの製品ライ フサイクルを考えると,ライフサイクルを通した環境影響 に加え,資源採掘から製造における労働者の

Well-being,

製品の社会での功罪までもが議論の対象となる。例えば,

代表的な化学製品であるプラスチックについて,化石資源 の使用,機能素材としての役割とリスク,社会制度を含む リサイクル手法,廃棄後の海洋流出による影響までの統合

的に議論しなければならない。

 化学プラントの設計,調達,建設,運転,保守,廃棄ま でのライフサイクルでも効率化だけではない多様な視点が 求められる。国内では

1950年代から 60

年代ころまでは石 油化学コンビナート建設が全国で進んだが,現在ではプラ ント建設も少なくなっている。一方で,

60年代に建設され,

現在も現役で稼働しているプラントも少なくなく,まさに プラントのライフは当初の予想を超える長寿命となってい る。さらに,この長寿命に加え,連続運転期間も長期化し ている。このような長いライフサイクルのプラントの安全 運転を支える経験豊富な技術者の不足も課題となってい る。このため技術継承などの人材育成の取り組みや,新た なセンサーやそれによる

IoT

AI

技術が注目されている。

 しかし,数

10

年前の設計意図や,増産・省エネなどの 時代の要請にしたがっておこなわれた変更の意図がその後 の長いライフの間にも継承し続けられるのか,人材育成や 新技術の導入だけで対処できるのかは大いに疑わしい。ま た,すでにグローバルにビジネスを展開する製造産業にお いて,従来の日本のやり方を展開する発想で,化学プラン トが「働きがいのある人間らしい仕事」の場になるかも疑わ しい。ライフサイクル視点の欠けた装置効率化の帰結とし て起きた事故の責任が,「運転員の判断ミス」に転嫁されて いるのではないだろうか。

 ここにライフサイクルにわたる統合エンジニアリングの 重要性がある。ハードウエアとしてのプラントの設計・調 達・建設・運転・保守・廃棄を個別のエンジニアリング業 務と捉えるのではなく,そのプラントのライフサイクルと その周囲の人・技術・情報を統合的に捉えること,プラン トで製造される製品のライフサイクルまでも視野に入れる ことがライフサイクルエンジニアリングの目指すところで あろう。その目標は,すべての人々と社会の

Well-being

で あることは言うまでもない。

ライフサイクルエンジニアリング への期待

平尾 雅彦

Expectations for Lifecycle Engineering Masahiko HIRAO(正会員)

1981年3 東京大学工学部化学工学科卒業

19873 東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程 満期退学

1987年4(株)日立製作所入社 基礎研究所に勤務 1989年3 工学博士

1996年1東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻 講師

1999年1 同 助教授

2006年4 同 教授  現在に至る 連絡先;〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1 E-mail[email protected]

第 84 巻 第 3 号 (2020) (1) 109

公益社団法人 化学工学会 http://www.scej.org/

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参照

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