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(1)

1 .はじめに

準体助詞の「の」は、日本語の文を生成する上で非常に重要な役割を持つ。名詞の代用 語、前接する用言の名詞化といった機能の他に、「だ」が後接し「のだ」の形で助動詞化 してムードを表したり、「のだが」のような接続を表す表現として使われたりすることも ある。日本語教育では、代用語や名詞化のような文法的に必須のものは比較的早い段階で 教えられ、習得の困難度もさほど高くないと予想されるが、「の」の使用により命題に心 的要素が加わるような用法は、構文的に必須ではない場合もあり、学習者にとって習得が 困難であるかもしれない。「の」の使用で日本語らしくなる一方で、過剰に使用すると本 来の意図とは異なるニュアンスが含まれ、誤ったメッセージを相手に伝える恐れもあるこ とから、「の」の習得は正しく意図を伝えるために不可欠なものだと言える。本稿は、「の」

の各用法が中国語話者の発話の中でどのように現れ、どのように正用される用法が増えて いくのかを考察することを目的とする。

使用状況

坪根 由香里

要 旨

本研究では中国語話者のOPI(oral proficiency interview)データを用い、準体 助詞「の」とそこから派生した様々な用法の使用状況を調査した。その上で、韓 国語・英語話者の結果との比較も行った。

調査の結果、OPIという環境では、中国語話者の「の」の使用は中級までは多 くは見られず、特に中級では名詞化の誤用が目立った。上級では使用数、正用す る用法の種類の大きな伸びが見られた。各用法の使用状況を分析した結果、代用 語が最も早い段階で正用が多く見られ、次いで、名詞化、「のだ」(説明告白、説 明教示)、「のか」(説明求め)、「のだが」(前置き、言いさし、逆接)、さらに、「のだ」

(意思・主張)、「というの」(一般化)、「のではないか」(推測、意思・主張)といっ た用法が続いた。また、中国語話者は中級で正用が進む用法が少なく、使用する 用法の範囲も狭いという傾向が見られた。

キーワード

の・OPI・中国語話者・使用状況・誤用

(2)

筆者は、これまでOPI(oral proficiency interview)データを用い、準体助詞「の」及び そこから派生した各用法について、坪根(2002)では韓国語話者、坪根(2004)では英語 話者の使用状況を調査した。それに続くものとして、本研究では中国語話者のOPIデー タを用いて調査し、その使用状況について考察する。その上で、韓国語話者、英語話者の 結果とも比較してみる。また、中国語話者の特徴的な誤用例も示したい。

2 .調査の対象と方法

本研究で分析対象としたデータは、OPIデータの文字化資料KYコーパス1である。KY コーパスは英語・韓国語・中国語話者各30名、計90名のデータから成るが、本研究では その内中国語話者30名分(初級5名、中級10名、上級10名、超級5名)を対象とした。

以下で学習者に付けられている番号は、初めのCが母語が中国語であること、2つ目の ローマ字はOPIにおける判定結果(初級N、中級I、上級A、超級S)を表す。また3つ 目にローマ字が付いている場合はサブレベルを表し、各レベルの中で下がL、中がM、上 がHとなっている。最後の2桁の数字は同じ母語、同じレベルの中での被験者識別番号 である。

調査方法は、坪根(2002)を踏襲する。

3 .用法分類

「の」の用法の中で本研究で出現したもののうち主なものを使用例と共に示す。なお、

OPIテスターの相槌は省略、長い文で用法に無関係の部分は途中省略してある。

1)名詞の代用語 魚ちょっと小さいの、名前は、あじ(CIL02)

2)用言の名詞化 そのけんかするのはやっぱりくやしいことと思います。(CA03)

3)のだ2:「のだ」の「の」は準体助詞であり、「のだ」で下記のような意味を持つのでは なく、文脈の中で様々な意味を持つと解釈されるのだが、本研究ではそれを踏まえた 上で、下記の文脈での使用と捉えて分類し考察する。以下の分類では吉田(1988)を 参考とし、一部の用法に追加・修正を加えた。「説明告白」は「話し手だけが知ってい るはずの情報を聞き手に提出する」もの、「説明教示」は「聞き手が知らないことが確 実であると思われる情報を話し手が提出するもの」である。

a. 説明告白 ただ今のあの、経営組織のような、知識は勉強しなかったんです。

(CA02)

b. 説明教示 10キロ20キロ非常に安い値段で買えるんです。(CS01)

c. 強調 (中国の問題について)民間には金があるんですよ。(CAH05)

d. 意思・主張 統一した方がいいんです。(CAH04)

e. 感嘆 昔の人情味とかそういうものがやはりほんとうにさびれるところがあるん だなあという、そんな感じもなきにしもあらずです。(CS01)

f. 非難 だから簡単に、考えすぎるんですよ、教育界の官僚たちは。(CAH05)

g. 確認 先生は日本からいらしたんですよね。(CS04)

(3)

3)のか:以下の「説明求め」は相手に答を期待して質問をしているもの、「疑問」は答を 期待して質問をしているのでなく、自分の中の不確かなことを述べているものとして 分類した。また、「スコープ」は文の構造上必要なもの(野田1997)である。

a. 説明求め まえはどこで、あのー、仕事なさってたんですか。(CAH06)

b. 疑問 どうして日本ていう社会こういう問題を抱えているんですかってね。

(CAH07)

c. 感嘆 あ、もう八時に、にもなったんですか。(CS02)

d. 非難 まだすっているんですか。(CS04)

e. 確認 いま、これ、入っているんですか、〈ええ〉あ、入っているんですか。(CS04)

f. 自問 えーと、何かそれはどういうのかな。(CIM05)

g. スコープ 何のために日本に来て何を勉強するのか、で、勉強したあとはどうす るのか、だいたいのプランを、先に作った方が、よいのではないかと思いますね。

(CS03)

4)というの:「一般化」は先行する具体的な名詞句・文の内容を抽象的概念にするもの、

「内容」は具体的内容に続けて用い、「という」が引用的に用いられるもの、「意味・定 義」は先行する事物の意味や定義を説明するものである。

a. 一般化 生き生きとした、雰囲気、というのを、作り出さなければならない。

(CAH05)

b. 内容 いちおう日本人はすごく礼儀正しいというのはとても印象的です。(CS02)

c. 意味・定義 洛陽というのは、やっぱり、あのー、中国ではきゅうちょう、の都 とゆわれているんです。(CAH06)

5)というのか(自問)

地方にもうちょっと、なんていうのかな、あの自主性、自由を(CAH07)

6)というのは(理由・根拠)

(女性の働きやすさについて)台湾だと思いますけれども、て言うますのは、あのう、

同居するケースが多いんです台湾のほうは。(CS05)

7)のだから(理由)

一生懸命こー学費を、支払ってくれているんですから、もう少しですね、たとえば国 のためでなくても親のためにもう少しですね、真面目に勉強してあげたほうがいいん じゃないですかと思いますけど。(CS02)

8)のだが

a. 前置き ちょっと恥ずかしいんですけど、あんまり趣味ていうのはないんですよ。

(CAH07)

b. 言いさし3 競争率もかなりまあ日本より激しいと思うんですけどね。(CS04)

c. 逆接 大学の自由の雰囲気が、いいんですけれども、あのー、なんか放任してても、

あんまり役に立ってない。(CAH05)

10)のではないか・のではないのか

a. 推測 経済が発展すればいいという感覚の中で、あえて無視、環境問題を無視し てるんじゃないかという気がしてますねー。(CAH05)

(4)

b. 意思・主張4 Tさんもねえ、なんかやったらいいんじゃないですか、なんかお好 きな。(CS04)

c. 非難 運動後のタバコは体によくないんじゃないんですか。(CS04)

d. 確認 呼吸が速くなるんじゃない?(CS04)

11)の終助詞5

a. 説明告白 日曜日わたし休みなのよ、どおかに遊びに行きません。(CA01)

b. 説明教示 中国と日本と台湾香港で、みんな目を見ているの。(CA03)

c. 説明求め いない、どこへ行ったの。(CAH04)

d. 意思・主張 わたし、六甲山に行きたいの。(CA01)

e. 非難 寝るんじゃないでしょう、今何時だとおもってんのお。(CS05)

f. 確認 先生から電話、かけてくれたの。(CIH01)

4 .結果と考察

4.1. 各用法の出現分布の概要

表1は各用法の学習者別使用数を示したものである。表の2枚目最後に総使用数と正用 カテゴリー数(正用した用法の種類の数)を示した。また、比較のために坪根(2002)の 韓国語話者の結果、および坪根(2004)の英語話者の結果も掲載した6

表1を見ると、初級段階ではどの用法も出現していない。代用語としての用法は、各 用法の中で最も早く中級−下(CIL)で使用され始める。名詞化用法は中級段階で少数の 使用が認められるが、本格的に多くの学習者で使用が見られるのは上級になってからで ある。名詞化用法は日本語教科書では初級の前半から中頃には提示される項目であるが7、 初級段階では使用されず、中級段階でもまだ誤用が多く見られる。正しく「の」を使って 複文にすることは、中国語話者にとってそれほど容易なことではないと推察される。「の だ」は説明告白と説明教示の使用が多い。説明告白は中級で半数の5名によって使用され、

説明教示は遅れて上級で使用が伸びている。それ以外の用法は、上級−上(CAH)以降 で使用されている。疑問形の「のか」は中級でわずかに使用が見られるが、上級になって 特に説明求めの用法で多くの学習者に使用が見られる。「というの」は上級から現れるが、

一般化としての使用が多く、内容、意味・定義の使用は少なかった。自問は「のか」「と いうのか」「のだろう(か)」といった形があるが、中級−中(CIM)で1例使用が見られ る以外は上級−上、超級での使用となっている。使用数はやや少ないがこの傾向は韓国語 話者、英語話者と同様である。つまり、これらを使って、会話の中で表現を選択したり、

想起したりする時に会話を止めずに自然な流れで続けられるのは、上級−上以降であると 考えられる。「のだから」は、どのレベルにおいても正用より誤用が多く、他の母語話者 同様この用法の使用の困難さがうかがえる。「のだが」は、中級−中から若干の使用が見 られるが、上級になって多くの学習者に使用されるようになり、超級ではすべての学習者 がすべての用法を正しく使っている。また、「のではないか」も上級−上以降で使用が見 られ、上級以降により自然な日本語や間接的な言い回しなどで意思を表せるようになると いうことがわかる。終助詞はOPIという性質上インタビューでは現れず、ロールプレイ

(5)

表1 学習者別用法出現分布表(の694例) 学習者のだのだのだのだのだのだのだのかのかのかのかのかのかのかというのというのというのというのかというのはのだからのだがのだがのだが 代用語名詞化説明告白説明教示強調意思主張感嘆非難確認説明求疑問感嘆非難確認自問スコープ一般化内容意味定義自問理由根拠理由前置いさし逆接 CNL01 CNM01 CNM02 CNH01 CNH02 小計0000000000000000000000000 CIL01 CIL0240/2 CIL030/2 CIM013111 CIM022 CIM0410/1111 CIM050/11 CIH0121/11 CIH0211 CIH0320/126/21410/111 小計132/830/214100001000110000000/1203 CA012/12/11122 CA02122120/11 CA0376/112 CAH01141220/242/15 CAH0212/11 CAH032/322 CAH0414961/12310/2842 CAH059391/111111123/113210 CAH067/172111232514110/3112 CAH0716571211111/4821 小計20/240/623405/250171330023212241204/123813/221 CS013315211211358 CS02311/17211112/61536 CS03213114514 CS04212/112111110/10/29152 CS059291311764 小計21828/24616202201110461012/12/8493024 使用数計35/260/1481/41007/211219163114461834132/16/218943/248 表中数字いてあるものは正用数/誤用数数字つのものは正用数。)

(6)

中国語話者韓国語話者 坪根2002より英語話者 坪根2004より 学習者のだったらのだろうのだろうのだろうかのではないかのではないかのではないかのではないかのではない/終助詞終助詞終助詞終助詞終助詞終助詞総使用数正用カテ総使用数正用カテ総使用数正用カテ 条件推測自問自問推測意思主張非難確認なくスコープ説明告白説明教示説明求意思主張非難確認慣用表現ゴリーゴリーゴリー CNL0100000/10 CNM01000000 CNM02000/1011 CNH01000/3000 CNH02000011 小計00000000000000000平均 00/4平均 02/1平均 0.4 CIL0100001/11 CIL024/210011 CIL030/2013/1711 CIM017512/1511 CIM02215/1395 CIM045/154/1223/57 CIM0512/1216/1743 CIH015/14337/25 CIH022255/41233 CIH0345/46106188 小計000000001101001072/11平均 2.6118/9平均 4.568/8平均 3.5 CA010/117/31029/4821/39 CA029/1630/69126 CA0318/1518/10825/48 CAH012125/3112/223/43 CAH025/1414/1972/117 CAH030/47/742218/110 CAH041247/31559/41411119 CAH052262/21748/51049/214 CAH0662/416110/241338/112 CAH070/10/2144/717108/1233916 小計20005/55/20/1013251101296/32平均10.5420/57平均 9.8388/16平均11.4 CS0131611698/12158/211 CS020/12560/81471/2157020 CS0327233121632118/18 CS04531/11/267/715115/12127/112 CS0514713101/122103/322 小計0/111112163/11/210020100268/15平均14.0548/5平均20.0276/7平均14.6 使用数計2/111117/521/23/21/234281211636/581086/75734/32

(7)

の中の子供を相手にした場面で若干の出現が見られる。

正用カテゴリー数の各レベルの平均を見ると、初級は0、中級で2.6と微増の後、上級 になって10.5と4倍に伸び、超級では14.0となっている。使用数は中級から上級でやは り4倍に増え、上級から超級では1.7倍となっている。使用数については必ずしも多いこ とが好ましいとは言えない可能性もあり、母語話者との比較をする必要があるが、上級段 階での正用カテゴリー数の大きな伸びはこの段階での「の」の使用の広がりを表している。

韓国語話者、英語話者と比較すると、中国語話者の中級段階での正用カテゴリー数は若 干少ない(中国語話者2.6、韓国語話者4.5、英語話者3.5)が、上級、超級では英語話者 と近い数になっている。超級では韓国語話者の伸びが際立っており、総使用数も他と比べ、

韓国語話者はかなり多くなっている。韓国語話者は「のだ」「のか」「のだが」の使用が他 の話者に比べて多く見られるが、これは日本語の「のだ」「のか」「のだが」に近い用法が あり、これらが比較的抵抗なく使用されているためだと推察される(坪根2002)。

4.2. 正用状況

表2は表1を基に各レベルの正用人数(1つでも正用があった人の数)をまとめたもの である。さらに表2より正用人数が60%以上であった用法と30%以上60%未満であった 用法を表3-1にまとめた。表3-1の各欄には初めてその割合に達した用法が入れてある。

表3-1を見ると、初級では全く使用されなかった代用語としての用法が中級で正用者 60%以上になっている。この用法は他の名詞の代わりに使われるという機能を持つだけ で、複文にしたり、ムードを表したりするものではなく、また中国語でも「的」と対応 するため、比較的容易に使用されるのだと思われる。「のだ」(説明告白)もこの段階で

30%以上が正用し、上級で60%以上の人が正用するようになる。上級ではその他、名詞

化用法、「のだ」(説明教示)、「のか」(説明求め)、「のだが」(前置き、言いさし、逆接)

も正用者60%以上である。名詞化以外の各用法は、文脈との関わりの中で自然な日本語

を話す上で必要なものであり、上級レベルでは60%以上の人が言い切りの形だけでなく より文脈と関連付けた話し方をすることができるようになっている。また、上級段階で正

用者30%以上だった「のだ」(意思・主張)、「というの」(一般化)、「のではないか」(推

測、意思・主張)は超級で正用者60%以上となり、間接的な言い回しも使用できる人が 増える。「のだ」(強調、確認、感嘆)、「というのは」(理由・根拠)、「のではないか」(非 難)については、本データでは正用者60%以上にはなっておらず、一部の学習者の使用 にとどまっている。

4.3. 母語別レベル別比較

ここで韓国語話者、英語話者、中国語話者の3つの母語話者グループの正用状況を比較 してみる(表3-1〜3-3)8

三者に共通して見られる特徴は、以下の通りである。

①  代用語の用法が最も早い段階で正用され、名詞化用法もそれに近い段階で正用が見 られる。

②  「のだ」(説明告白、説明教示)の正用者の増加がそれに続く。

(8)

表2 レベル別正用人数(一つでも正用のあった人の数) レベルのだのだのだのだのだのだのだのかのかのかのかのかのかのか 代用語名詞化説明告白説明教示強調意思主張感嘆非難確認説明求疑問感嘆非難確認自問スコープ 初級0000000000000000 中級106251100001000110 上級107977530137200222 超級1545142022011101 レベルというのというのというののだからのだがのだがのだがのだろうのだろう 一般化内容意味定義自問理由根拠理由前置いさし逆接条件推測自問自問 初級0000000000000 中級100000002020000 上級105212027662000 超級3101215550111 レベルではないではないではないではない終助詞終助詞終助詞終助詞終助詞終助詞 推測意思主張非難確認スコープ説明告白説明教示説明求意思主張非難確認慣用表現 初級000000000000 中級10000011010010 上級10330012121101 超級442110010100 正用人数60以上のもの 正用人数30以上60未満のもの

(9)

表3-1 レベル別正用状況(中国語話者)

レベル 正用者60%以上の用法 正用者30%以上60%未満の用法

初級 (正用者なし)

中級 の代用語 のだ説明告白

上級 の名詞化

のだ説明告白、説明教示 のか説明求め

のだが前置き、言いさし、逆接

のだ強調、意思・主張、確認 というの一般化

のではないか推測、意思・主張

超級 のだ意思・主張 というの一般化

のではないか推測、意思・主張

のだ感嘆というのは理由・根拠 のではないか非難

表3-2 レベル別正用状況(韓国語話者)(坪根2002より)レベル

レベル 正用者60% 以上の用法 正用者30%以上60%未満の用法

初級 (正用者なし)

中級 の代用語

の名詞化 のだ説明告白、説明教示

のか説明求め というの意味・定義 のだが前置き、言いさし 上級 のだ説明告白、説明教示

のだが前置き のだが逆接

上級上 のだが言いさし、逆接

のではないか推測、主張 のだ強調、命令 というのか自問 超級 のだ強調、感嘆

のか自問、疑問、説明求め というの一般化、内容 のではないスコープ

のかスコープ

表3-3 レベル別正用状況(英語話者)(坪根2004より)

レベル 正用者60% 以上の用法 正用者30%以上60%未満の用法

初級 の名詞化

中級下 のだ説明告白

中級中上 の代用語

の名詞化のだ説明告白、説明教示

のか説明求め

のだが前置き、言いさし

上級 のか説明求め というの一般化

のだが前置き、言いさし、逆接

のだ確認のか確認

というの意味・定義 というのか自問 のではないか推測、主張 超級 のだ強調

のかスコープ というのか自問 のだから理由

のではないか推測、主張

のだ感嘆、非難 のか非難の終助詞説明告白

(10)

③  「のだが」(前置き、言いさし、逆接)もそれにやや遅れて上級では多くの学習者に 正用されるようになる。

④  「のか」(説明求め)、「というの」(一般化)、「のではないか」(推測、意思・主張)

は超級までには正用が多く見られるようになる。

次に、母語別に異なる点を見てみよう。まず中国語話者は他の2つの母語話者と比べて 中級段階で正用が進む用法が少ないということがわかる。韓国語話者と英語話者はこの段 階で代用語、名詞化の他、「のだ」「のか」「のだが」等複数の用法で正用が現れ始めるが、

中国語話者は代用語と「のだ」(説明告白)の2用法のみである。特に名詞化は教育現場 では初級で教えられる項目であるが、中国語話者は中級では誤用が多く、上級になって正

用者60%以上になっていることが特徴的である。上級になると、中国語話者も使用の広

がりが見られる。正用者60%以上の用法を見ると、他の母語話者には現れていない用法 は、中国語話者では「のだ」(意思・主張)の1用法であるのに対し、韓国語話者は「のだ」

(感嘆)、「のか」(自問、疑問)、「というの」(内容)、「のではない」(スコープ)、英語話 者は「のか」(スコープ)、「というのか」(自問)、「のだから」(理由)といった用法が見 られ、ここでも中国語話者の使用する用法の範囲が他と比べて狭いということがわかる。

このように、本資料における分析からは、上級段階までの正用状況はかなり似通ってい ること、その用法の各レベルに出現する時期は母語によって多少の違いがあることがわ かった。小柳(2004)によると、現在の第2言語習得研究においては、普遍の習得の発達 段階があると考えられており、L1(学習者の母語)が何語であれ、習得の順序は変わら ないが、ある段階を通過する速さにL1による違いが出るという。本研究の共通部分の項 目に関して言えば、この理論が支持されていると言えよう。では、なぜ中国語話者の正用 者が他と比べて遅れて出現するのだろうか。杉村(1982)によると、中国語で「の」にあ たるものは「的」、「是」は判定詞の「だ」にあたり、「のだ」は形式的には「是…的」と 平行関係だが、意味的には状況解説的「のだ」は「是S的」でなく「S」が最もよく対応し、

次に対応するのは「是S」だという。そのため、中国語話者は「のだ」を使うところで「是 S的」ではなく、意味的に対応している「S」つまり「のだ」がない文を使用してしまう のではないか。また「的」に対応していると思われる名詞化用法の「の」の正用が上級段 階まで少ない点については、中国語の「的」の使用に関係があると思われる。中国語話者 に確認したところ、主格の部分に「の」が現れる場合、「一番いいと思うのは〜だ」とい う文では中国語でも「的」を入れるが、「映画を見るのはおもしろい」のように「的」を 伴わない文もあり、また、「彼が店から出てくるのを見た」「誰かが入ってきたのに気付い た」のように目的格部分に現れる場合は、「的」を使わないという。杉村(1980)は、名 詞化接辞「的」について、「私が書いたのは…」は中国語の「我写的…」に対応するが、「私 がこの詩を書いたのは…」は「我写這首詩…」に対応して「的」は入らないという例を 挙げ、動詞(この場合は「書く」)が必要とする格がすべてS(修飾節部分)に含まれて いる場合は「S的N」が「S的」とはならないとしている。筆者の中国語に関する情報に は限りがあり、日本語・中国語を対照して構文的説明に踏み込むことはできないが、「的」

と「の」の用法の違いが「の」の使用を困難にしている一つの原因であるということが予 想される。

(11)

さて、上で述べたような共通部分がある一方で、特に超級段階で出現項目に若干の違い が見られた。この違いが母語の違いによるものかを判断するには、学習者の母語の言語体 系との比較においてさらに検証する必要があるため、本論では踏み込んで論ずることは控 えたい。よって、本項で記述した母語別差異に関しては、将来言語学的知識に基づいた研 究をする際の参考にとどめたい。

本研究の結果を先行研究と比較してみる。大場(1995)は、「のだ」「のか」の使用条 件、非使用条件を明らかにした上で、○×式文法判定テストの結果から、使用条件の中で は「因果関係」「判断、要求、勧誘、ことわり等とその根拠(以下「根拠」)」「実情説明、

言い換え」「本来述べたいことがあることを暗示する(以下「暗示」)」の順に習得しやす いとしている。本研究とは用法の分類が異なるが、「因果関係」「根拠」は本研究では説明 としており、「のだ」の中でこれらが最も習得しやすいという結果は本研究と共通してい る。一方、大場(1995)が「暗示」としている前置きの「のだが」が「実情説明」の中に 含まれる「発見」的な用法より習得が遅いとしている点は、本研究の結果と異なる。坪根

(1997)は、質問紙調査により「ものだ」「ことだ」「のだ」の理解度と産出について調べ たものだが、そこでは「説明」「前置き」が最も習得されやすいとしている。理解難易度 については「命令」「非難」が続くとされているが、本研究ではそれらの正用は多くは見 られなかった。花城(2000)は「のだ」文の習得についてインタビューによる縦断的調査 と質問紙による横断的調査を実施している。縦断的調査の結果からは「説明」、「前置き」、

「判断」、「強調」、「確認」の順に多く使用が見られたが、これはほぼ本研究と共通してい る。横断的調査では「説明」の得点率が低いという点が本調査の結果とは大きく異なる が、この問題は日本語母語話者も正解率61.2%であり、判断が揺れるものであった可能性 もある。また「前置き」は、日本語母語話者は正解率が高かったが学習者は正解率が低く なっており、本研究とは違う結果となっている。趙(2008)は「のだ」「のか」の使用条 件、非使用条件を分類し、その習得状況、習得と日本語能力レベルとの関係について考察 している。使用条件のうち、「当為(命令・決意)」以外は習得しやすい類型グループに入 るとしているが、その中の用法の詳細には踏み込んでいないため、本研究との比較はでき なかった。

5 .誤用例

「のだから」の誤用が多いのは韓国語話者、英語話者と同様であるが、中国語話者には 特に上述したように名詞化での誤用が多く見られた。韓国語話者は「のだ」の使用が非常 に多く誤用も多かったが、中国語話者は使用も少なく誤用も少なかった。その他、「ので はないか」の誤用が他と比べて中国語話者に多く見られたのも特徴的である。

1)名詞化

a. 私日本語あれしゃべるは、ちょっと、日本語でてきない。(CIL02)

b. 日本に留学するのは、やっぱり日本語を勉強しなければいけませんね。(CA03)

aのような「の」を使用すべきところに使用しない誤用が多かったが、一方で数は少な いがbのように「の」の使用法自体が間違っているものも見られた。

(12)

2) のだから

c. 窓は普段は閉めて、ないんですから、〈ええ〉あのー、入れないと思います、あー入

れると思います。(CIH03)

このタイプの誤用は他の母語話者グループと同様であり、「のだから」は母語を問わず 使用が難しいものであると言える。

3)のではないか推測

d. 上海はーやっぱりー、広東料理に近いじゃないかなと思うけど(CAH03)

用法にかかわらず「のではないか」の誤用は「の」が必要なところに入っていないもの が多かった。また、逆に「ねえ、煙りがもうもうたってて、人に、めい、迷惑かけている んじゃないですか(CS04)」(非難)のように、「の」が不要なところに入れてしまう誤用 も複数例見られた。名詞化用法は文を名詞化するという機能として「の」が使われるもの で、話者の意思は含まれないが、「のだから」や「のではないか」のようなタイプの誤用 は誤った情報を伝えてしまう可能性もあり、注意が必要であろう。

6 .まとめと今後の課題

本研究では、中国語話者のOPIデータを用いて自然発話における「の」の各用法の使 用について調査・分析した。その結果、中国語話者のインタビューという環境での「の」

の正用は、表3-1で示したように、代用語が最も早い段階で見られ、次いで、名詞化、「の だ」(説明告白、説明教示)、「のか」(説明求め)、「のだが」(前置き、言いさし、逆接)、

さらに、「のだ」(意思・主張)、「というの」(一般化)、「のではないか」(推測、意思・主張)

といった用法が続くという状況が見られた。その使用は中級段階までは多くは見られず、

上級になって数、種類とも大きく伸びるということがわかった。中国語話者、韓国語話者、

英語話者の三者を比較すると、中国語話者は他の2つの母語話者と比べて中級段階で正用 が進む用法が少なく、使用する用法の範囲が他と比べて狭いという傾向が見られた。

本研究はOPIデータを使用したが、OPIを用いることは各学習者のそれまでの学習環 境、教育内容等が異なる場合でも客観的に能力測定が行われているという点で有効であ る。また、質問紙調査では得られない発話場面での実際の使用を分析できるという点でも 意味があると考える。しかし、一方で、ロールプレイ場面はあるが、インタビュー中心の 形式であるため、出現しやすい用法とそうでない用法が出てくる可能性もある。今後は正 用が少なかった用法、出現しなかった用法について、場面設定をして発話環境を作ること によって、その使用について検証する必要があろう。また、L1(学習者の母語)が何語 であれ、習得の順序は変わらないという理論があり、本研究でもその傾向が見られたが、

特に超級段階で母語によって正用が進む項目に相違もあった。この違いの原因を探るに は、学習者の母語の言語体系との比較を詳細に行う必要があろう。最後に、趙(2008)が

「のだ」については非使用条件の方が習得しにくいと述べているが、本来不要なところに 使用してしまうケースについて詳細に調査することも今後の課題としたい。

(13)

1 「KYコーパス」とは、鎌田修氏と山内博之氏を中心に作られたOPIの文字化資料を指す。

2 「のだ」には「んだ」「のです」「んです」等文体上異なるものも含める。以下も同様。

3 「前置き」の後件が省略されたものである。坪根(2002)、坪根(2004)では「終助詞」としてい たが、他とそろえて機能分類を表す語に変更した。

4 この中には「ではないのか」や関西方言の「んと違うんですか」も入れた。

5 文末の「の」は「のだ」の「だ」が落ちて終助詞化したものであるが、「山田さんが来ないわねえ。

きっと用事があるんだ/??あるの」のように対事的「のだ」は「の」の形をとりにくい(野田

1997)ように、「のだ」と全く同一の用法であるとはいえない。また、「んです」は使えても、「の」

の使用になると不自然な学習者をしばしば見ること、KYコーパスの中のロールプレイでも相手 によって「の」が使用できるかどうかの違いが出ていることからも、「の」を「のだ」と分けて 考察する必要があると考える。

6 非用に関しては、文法上必要あるいは文脈上許容し難いものに関しては、誤用として入れた。ま た、各レベルの中のサブレベルの内訳は、3つの話者グループで若干異なる。

7 『みんなの日本語』では50課中38課、『げんき』では23課中8課、『JAPANESE FOR COLLEGE STUDENTS』では30課中7課で提出されている。

8 韓国語話者、英語話者のレベル分けは、正用状況をより詳しく見るために、レベル内で使用が大 きく伸びている境界部分でさらに細分化してある。

参考文献

大場理恵子(1995)「『のだ』『のか』の習得上の困難点について」『日本言語文化学研究会』9、

229-245頁

小柳かおる(2004)『日本語教師のための新しい言語習得理論』スリーエーネットワーク 杉村博文(1980)「『の』『のだ』と『的』『是…的』」大阪外国語大学編『大阪外国語大学学報』49 杉村博文(1982)「『是…的』―中国語の『のだ』の文―」森岡健二・宮地裕・寺村秀夫・川端善明編

『講座日本語学12 外国語との対照3』明治書院

趙萍(2008)「中国人日本語学習者における『のだ』『のか』の習得―使用条件と非使用条件をめぐっ て」『日本語教育』137、11-20頁

坪根由香里(1997)「『ものだ』『ことだ』『のだ』の理解難易度調査」『第二言語としての日本語の習 得研究』1、凡人社、137-156頁

坪根由香里(2002)「OPIにおける韓国語話者の『の』の使用と習得」『小出記念日本語教育研究会論 文集』10、小出記念日本語教育研究会、55-70頁

坪根由香里(2004)「OPIにおける英語話者の『の』の使用と習得」『ICU日本語教育研究センター紀 要』13、国際基督教大学日本語教育研究センター、93-106頁

坪根由香里(2005)「OPIにおける中国語話者の『もの』『こと』の使用とその正用順序」『ICU日本 語教育研究』1、国際基督教大学日本語教育研究センター、5-20頁

野田春美(1997)『「の(だ)」の機能』くろしお出版

花城可武(2000)「『のだ』文の習得―縦断的調査と横断的調査の結果を通して―」『南山日本語教育』

7、南山大学大学院外国語学研究科、32-47頁

村松恵子(1995)「中国語話者の誤用例から見た日本語の『のだ』の表現」『名城大学人文紀要』30、

名城大学一般教育人文研究会、27-40頁

吉田茂晃(1988)「ノダ形式の構造と表現効果」『国文論叢』15、神戸大学文学部国語国文学会、

46-55頁

表 3-1 レベル別正用状況(中国語話者) レベル 正用者 60%以上の用法 正用者 30%以上 60%未満の用法 初級 (正用者なし) 中級 の代用語 のだ説明告白 上級 の名詞化 のだ説明告白、説明教示 のか説明求め のだが前置き、言いさし、逆接 のだ強調、意思・主張、確認というの一般化 のではないか推測、意思・主張 超級 のだ意思・主張 というの一般化 のではないか推測、意思・主張 のだ感嘆 というのは理由・根拠のではないか非難 表 3-2 レベル別正用状況(韓国語話者)(坪根 2002 より)レベル

参照

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