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Academic year: 2022

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厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)

分担研究報告書

革新的医薬品の開発環境整備に向けたレギュラトリーサイエンス研究 ナノDDS製剤

研究分担者  加藤くみ子  国立医薬品食品衛生研究所  薬品部  室長

研究要旨 

ブロック共重合体ミセルやリポソーム製剤のin vivoにおけるタンパク質,

細胞との相互作用に関する評価法について調査,考察し,「ブロック共重合 体ミセル医薬品の開発に関する厚生労働省/欧州医薬品庁の共同リフレク ションペーパー」の解説論文に反映した.さらに,評価手法の中でも,ナ ノDDS製剤と血中タンパク質との相互作用は,生体内安定性,有効成分の 放出性,輸注反応など,ナノDDS製剤の臨床上の有効性及び安全性に影響 する重要なファクターである.そこで,有効性と安全性確保の観点より,

その評価手法として,ナノDDS製剤の血液適合性試験,つまり補体系活性 化試験,赤血球との相互作用(溶血性試験),及び血漿成分への影響(血液 凝固試験)について,リポソーム製剤を対象に最適化し,確立した.

研究協力者 吉澤靖貴 桜井真理

A. 研究目的

標的指向性の向上により標的部位に医薬品を 選択的に送達することで,副作用の低減,有効性 の向上をコンセプトとした画期的医薬品の開発 が進展している.脂質,合成高分子等の自己組織 化を有効成分の内包,放出制御に利用する微細加 工技術(ナノテクノロジー)はその代表例である.

様々な素材を用いた原薬や製剤の開発は,高機能 化・複雑化しており,2010年以降,ナノテクノロ ジーに関連した規制の適応範囲や製品毎の評価 に関する規制文書が欧米規制当局を中心に発出 されている.我が国においてもナノテクノロジー を応用した高機能なナノ DDS 製剤開発が急速に 進展している状況下,規制の適応範囲や評価法の

妥当性を検証する,あるいは裏打ちするための研 究が必要である.

最先端のバイオテクノロジーやナノテクノロ ジーを用い,様々な素材を利用した複雑な構造を 有するナノ DDS 製剤においては,これらの新素 材が生体に投与された際に,血液成分や細胞など 生体を構成する要素に接触する.このようなタン パク質や細胞との相互作用は,細網内皮系による 取り込み,血中滞留性,ミセルの構造安定性(つ まり有効成分の放出性),標的細胞への取り込み など,ナノ DDS 製剤の有効性や安全性に影響し 得るため,in vitro, in vivoにおけるタンパク質 や細胞との相互作用評価は,重要品質特性の特定,

ナノ DDS 製剤の薬物動態や薬理作用,安全性を

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考察する上で重要である(図1).そこで本年度 は,ブロック共重合体ミセルやリポソーム製剤等 の静脈注射ナノDDS製剤についてin vivoにおけ るタンパク質,細胞との相互作用に関する評価法 について調査,考察した.

さらに,有効性と安全性確保の観点より,その 評価手法として欧米で議論が活発となっている,

ナノ DDS 製剤の血液適合性試験,つまり補体系 活性化試験,赤血球との相互作用(溶血性試験), 及び血漿成分への影響(血液凝固試験)に着目し,

リポソーム製剤を対象に最適化し,確立した.

B.研究方法

(1)ナノDDS製剤のin vivoにおけるタンパク 質,細胞との相互作用に関する評価法に関する調 査研究

  評価手法に関しては,科学的な論文を中心に調 査した.また,EMAやFDAから発出されている ガイドライン等を参考に,タンパク質,細胞との 相互作用が有効性や安全性に与える影響につい て考察した.

(2)ナノDDS製剤の血液適合性に関する研究 (2−1)  リポソームの調製

  実 験 で 用 い る 中 性 リ ポ ソ ー ム は , 1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine (DOPC)及 びCholesterol (Chol)を物質量比で1:1で混合し,

脂質薄膜法を用いて作製した.カチオン性リポソ ー ム は 1,2-dioleoyl-3-trimethylammonium-propane (DOTAP)及びCholを物質量比で1:1で混合し,脂 質薄膜法を用いて作製した.リポソームの粒子径 及びゼータ電位はZetasizer Nano(Malvern社製)で 測定した.

(2−2)補体活性化測定

  MicroVue iC3b ELISAkit, SC5b-9 ELISA kit, ヒ ト血清,HAGG(Heat Aggregated Gamma Goblin),

ZymosanAはQUIDEL社製を用いた.

ヒト血清と脂質濃度 10mg/mL に希釈したリポ ソームを1:1の割合(7L:7L)でヒト血清 と混合させ,37℃の湯浴に15minインキュベート した .インキュ ベート後の サンプルを 10mM EDTA を添加した ELISAキット付属の Specimen

Diluentで適宜希釈をし,生成した補体活性化産物

iC3bまたは,SC5-9の生成量をELISAメーカー提 供のプロトコールに従い測定した.プレートリー ダー(Abs450nmを使用)はBioRad社製を用いた.

(2-3) 溶血性試験法

ウサギ脱繊維血はコージンバイオ社製を,ヘモ

グロビンB-テストワコーは和光純薬社製を,ネガ

ティブコントロールのポリエチレングリコール

(平均分子量 8,000Da)はSigma 社製を用いた. 

  ウサギ脱繊維血にPBSを加え800×gで遠心分 離し赤血球を洗浄した.これを溶血が見られなく なるまで繰り返した後,上清をブランク用に回収 し,沈殿した赤血球はヘモグロビンB-テストワコ ーによりヘモグロビン量を定量した.モグロビン

量が10mg/mLになるようPBSで希釈し,回収し

た上清もPBSで同倍希釈した.各種コントロール 用 試 薬 お よ び リ ポ ソ ー ム サ ン プ ル を 2, 0.4, 0.08mg/mLの3濃度になるようにPBSで希釈し,

1.5mL チューブに希釈した各コントロール用試薬,

およびリポソームサンプルを 10Lずつ入れた.

この上から,ヘモグロビン量を調製した脱繊維血 および上清を各 90L 添加した.37℃の湯浴で 4 時間インキュベート後,サンプルを800×gで5min 遠心分離し,ヘモグロビンが流出した上清をPBS で適宜希釈し,吸光度をプレートリーダーにより 測定した(Abs570nm).

(2−4)血液凝固試験法

血液凝固試験用標準ヒト血漿,PT測定試薬「デ イドイノビン」,及びAPTT測定試薬「アクチン FSL」はシスメックス社製を用いた.

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血液凝固試験用標準ヒト血漿を超純水 1mL で 溶解した.希釈したヒト血漿を,リポソーム,ポ ジティブコントロールである抗凝固剤(EDTA/

PBS),及びコントロール(ベースライン)である PBSと,それぞれ162L:8Lの比率となるように

混合し37℃で30minインキュベートした.凝固時

間(PT時間及びAPTT時間)は凝固計CA-50(シ スメックス社製)の操作マニュアルに従って測定 した.  

(倫理面への配慮)

本研究で使用するヒト由来培養細胞は,研究用 の市販品,領布品であるため,倫理的に問題とな るような事項はないと考えられるが,常に倫理問 題を意識しながら研究を遂行し,将来必要が生じ た場合には速やかに当研究所研究倫理委員会に 申請して,その審査を受けるものとする.遺伝子 組み換え実験は「遺伝子組換え生物等の使用等の 規則による生物の多様性の確保に関する法律」

(平成15年法律第97号)及びこれに基づく当研 究所の規則に従い,研究内容につき各研究機関の 承認を得て遂行する.さらに動物実験に関しては,

「厚生労働省の所管する実施機関における動物 実験等の実施に関する基本指針」を遵守し,動物 実験委員会に研究計画を申請し,承認を得た後に 行うと共に,動物愛護の精神に則って,実験を遂 行する.

C. 研究結果

(1)  ナノDDS 製剤のin vivoにおけるタンパク 質,細胞との相互作用に関する評価法に関する調 査研究

  ナノ DDS 製剤の体内動態や薬効,及び安全性 に影響を及ぼす生体内のタンパク質や細胞との 相互作用は,多くの場合,ナノ DDS 製剤の表面 で起こる.重量当たりの表面積は粒子径が小さく なると急激に増大するため,バルク固体と比べ,

その相互作用の頻度も増大すると考えられる.し

たがって,ナノ医薬品を設計する際は,安定性に 優れ,生体内に投与後はより好ましい薬物動態特 性,薬効,及び安全性を示すよう,ナノ医薬品の 表面物性の制御が重要になる.具体的には,キャ リア組成を工夫する,PEGなど親水性ポリマーで 表面を被覆する,等の製剤設計により

① 血漿タンパク質との非特異的相互作用の制 御,細網内皮系による認識・クリアランスの 回避  ⇒  ナノ医薬品の血中滞留性の向上

②  血液適合性(溶血性,凝固系,補体系等への影 響)の向上,免疫原性の抑制

③ 標的細胞内への取り込み促進 等の効果が期待される.

本研究では,ナノ DDS 製剤の生体内タンパク 質,細胞との相互作用の具体的評価法を科学論文 より調査した.直接的な相互作用の評価手法と間 接的な相互作用の評価手法に便宜上分類し,以下 に調査結果を記す.ただし,これらは事例であり,

他にも適切な評価手法があるかもしれない.

① 直接,細胞やタンパク質との相互作用を測定 する手法

a) タンパク結合率,血球分配率(in vitro 試験):

低分子化学合成品では,薬物代謝評価のため に一般的に行われている試験である.ナノ DDS製剤またはそのキャリア成分と血液タン パク質との結合型,非結合型の分離(ゲル濾 過法や平衡透析法などによる)が困難である 場合や,キャリア成分の全血中濃度,血漿中 濃度測定が困難である場合も想定される.し かし,低分子化学合成品で汎用されている手 法等を利用し,ナノDDS製剤のタンパク質結 合率や血球分配率を求めることが可能であれ ば測定を行うことが好ましいと考える.

b) 血液適合性試験(in vitro):溶血性試験(赤 血球との相互作用)や,血液凝固(血漿成分 への影響),補体系への影響を調べる試験等 がある.

c) ゲル電気泳動と質量分析法(in vitro):ナノ DDS製剤と相互作用するタンパク質を同定す るための手法として有効である.

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② 間接的に,細胞やタンパク質との相互作用を 測定する手法

a) 動的光散乱(in vitro): タンパク質との相互作 用によるサイズの変化を追跡し,ナノDDS製 剤の構造安定性を知ることができる.ただし,

血液など多成分のタンパク質が混在する溶液 中では一般的に適さない.

b) 静的光散乱(in vitro): 散乱光の角度分布を測 定することによって,粒子の大きさ,分子量,

粒子の形状,粒子間相互作用などについて情 報を得ることが可能であるため,ナノDDS製 剤の構造安定性を知ることができる.

c) 蛍光色素標識化(in vitro, in vivo): キャリア成 分や有効成分を蛍光標識化し,消光現象や蛍 光共鳴エネルギー移動現象を利用することに より,タンパク質や細胞との相互作用による ナノ DDS 製剤の構造安定性を知ることがで きる.ただし,蛍光色素による標識の安定性 に留意する必要がある.

d) 同位体標識化(主として in vivo): キャリア成 分や有効成分を標識化し,その動態を追跡す ることにより,タンパク質や細胞との相互作 用による動態への影響を考察することが可能 となる.ただし,ナノDDS製剤の構造安定性 に関する情報を得る手法としては一般的には 適さない.

さらに,血中における遊離有効成分濃度と有効 成分の総濃度,また組織あるいは臓器中における 有効成分の総濃度に基づき,in vivoでのナノDDS 製剤の挙動を考察することも生体でのタンパク 質や細胞との相互作用を間接的に評価する上で 有効であると考えられる.in vitroにおける薬物放

出試験も in vivo の安定性を評価する上で重要な

情報を与える.血漿を用いるのが,最もin vivoを 反映した試験法と言えるが,血漿中で測定できな い場合は,アルブミンを含有した緩衝液など適切 な「関連媒体」を用いることが必要であろう.

ナノ DDS 製剤の細胞,タンパク質との相互作 用の重要性については,特に安全性の観点から欧

米規制当局の文書にも言及されている.例えば,

EMA のリポソーム製剤に関するリフレクション ペーパーでは,リポソーム製剤の補体活性化の測 定について言及されている1.すでに臨床応用さ れているリポソーム製剤 2)や鉄ナノ粒子製剤 3)で は,安全性に関わる課題として,インフュージョ ンリアクション(輸注反応)がしばしば問題とな ることがある.一般にインフュージョンリアクシ ョンとは,薬剤投与中又は投与開始後 24 時間以 内に発現する紅潮,息切れ,顔のむくみ,頭痛,

悪寒,血圧低下などの症状の総称である.24時間 以降,または2回目の投与以降に発現することも ある.インフュージョンリアクションが生じるメ カニズムについてはまだ十分に分かっていない が,リポソーム製剤においては,補体成分の活性 化が主要誘因であることが示唆されており 2),補 体活性化により生成した補体分解産物による肥 満細胞や好塩基球の脱顆粒や血管透過性の亢進,

平滑筋収縮などがアレルギー様症状を引き起こ し,補体活性化の程度が大きいほど偽アレルギー 反応のリスクが高まると考えられている.Szebeni ら は, これを ,C-activation-related pseudoallergy

(CARPA)と呼ばれる反応であるとしている 4).欧

州では,補体成分の活性化を誘起しやすいリポソ ーム製剤の物理的化学的特性に関する研究が進 んでいる.これまで報告されている要因を表1に まとめた.EMAのリフレクションペーパーには,

有害事象の可能性の程度を評価するために in vitroとin vivo の試験,例えば,補体(あるいは マクロファージや好塩基球)の活性化測定や,ブ タなど感度の高い動物モデルを用い投与後の肺 動脈圧の上昇をモニターする手法等を,必要に応 じて考慮すべきである,との記載がある.1)

一方,FDAのリポソームに関するドラフトガイ ドラインには,「リポソームと血清タンパク質及 びリポタンパク質の相互作用は,リポソーム製剤 に使用する脂質の種類に依存するため,原薬及び リポソーム製剤のタンパク結合率(リポタンパク

(5)

質を含む)の測定や主要結合タンパク質の同定を 行うこと」との記載がある5).ナノ医薬品のin vivo 安定性は,リポタンパク質をはじめ血中タンパク 質との相互作用により影響を受ける可能性があ る.リポソーム製剤などのキャリア型ナノ医薬品 から有効成分が早期放出された結果として投与 量が予定以上に放出された場合,そのような相互 作用は安全上の意味合いを有する.

このように,製剤設計の早期段階からナノ医薬 品の細胞やタンパク質との相互作用に関する情 報を得て,これをコントロールするための表面物 性の制御が重要な課題となる.

2013年にEMAより,ナノ医薬品の表面被覆に 関するリフレクションペーパーが発出された 6). 本文書は,非経口投与型のナノ医薬品の開発にあ たり,ナノ医薬品の表面被覆について留意すべき 点に焦点をあてた文書である.製剤の体内分布,

細胞内動態への影響から,

① ナノ医薬品表面へのPEG等による被覆の均 一性や被覆の安定性

②  受容体のリガンドや抗体などナノ医薬品 に標的性を付与するための表面修飾分子の配向 性が,有効性や安全性の観点から特に重要な特性 であるとしている.具体的な製剤特性評価におけ る留意点としては,上記①に関連して,組成を含 む被覆素材の解析,被覆素材を結合するリンカー 部分の化学の明確化,被覆の安定性(保存時の安 定性及び使用時の安定性)を指摘している.また,

上記②に関連して,ナノ医薬品の表面に存在する 表面修飾分子の配向性やコンフォーメーション に留意すべきことが記されている.本リフレクシ ョンペーパーは,表面被覆のみに焦点を当てた文 書であり,ナノ医薬品の開発において表面物性の 重要性が窺い知れる.

  本年発出された「ブロック共重合体ミセル医薬 品の開発に関する厚生労働省/欧州医薬品庁の 共同リフレクションペーパー」7にも,ブロック 共重合体ミセル製剤の薬物動態学的特性は,ブロ

ック共重合体ミセルと血漿,血清タンパク質又は 血液細胞との相互作用により変化し得ること,ま た,ナノ DDS 製剤の体内分布,安定性及び安全 性に影響する可能性があることが知られている ため,静脈内に投与したブロック共重合体ミセル のタンパク質及び細胞との相互作用について考 察することが重要であることが記載された.さら に,本研究で調査した具体的な相互作用に関する 評価手法を,本リフレクションペーパーの解説論 文に反映した8

(2)ナノDDS製剤の血液適合性に関する研究

本研究では,ナノDDS製剤の臨床上での安全 性において留意すべき事項として,血液適合性に 着目した.血液適合性(Hemocompatibility)試験は 医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンスに 掲載されており,製品に生体に接触する部分が存 在する場合,血中の細胞やタンパク質にさらされ ることにより生じる有害作用についての非臨床 試験の一つである9).血液適合性試験は,血栓形 成,血液凝固,血小板,血液学的項目,補体系の 5 つの試験項目に分類される.血液学的項目では 主に赤血球や白血球との相互作用を評価し,代表 的な標準評価項目として全血算と溶血が挙げら れている.また,補体系に関する標準的な試験項 目としては,可溶性の補体分解産物 (C3a,C5a,

SC5b-9など) の一つ又は複数を用いた補体活性

の評価が記載されている.

  本研究では,ナノ DDS 製剤で重要と思われる 以下の3つの項目について,リポソーム製剤を対 象として評価手法を確立した.

(2−1)  補体系活性化測定法

  リポソーム製剤を対象として,補体系活性化測 定法を検討した.図2に補体系活性化メカニズム を示す.補体の主な成分はC1〜C9 で表され,C1 は3 つのフラグメント (C1q, C1r,C1s),その他は 補体系が活性化される過程で2つ以上のフラグメ ントになるものがある(C3a,C3b など).補体

(6)

活性化の経路として,3 種類(古典経路,第2(副)

経路,レクチン経路)が知られており,いずれの 経路もC3 がC3a とC3b に分解される.更に,C3b はC5のC5a とC5b の分解に寄与し,最終的に C5b6789(C5b-9) が生成される.最終産物である

C5b-9 は膜傷害(溶血や細胞傷害)作用を有する

ことが知られている9.医療機器のガイドライン には「生理作用や検出が容易なことから,可溶性 のフラグメント (C3a,C5a,SC5b-9 など) の一 つ又は複数を用いて補体活性の評価が行われて いる」との記載がある9.そこで,医療機器の血 液適合性試験において測定例として例示されて いる補体活性化産物 (C3a,C5a)についてELISA法 で測定することとしたが,C3a及びよりC5aは不安 定であり,ヒト血清中濃度を測定することができ なかった.そこで,SC5b-9,及びより定量的な測 定が可能であるとの報告10)を参考にC3bの分解物 であるiC3bをELISA法で測定することとした.補 体活性化産物を測定するに当たり,検体であるリ ポソーム製剤と混合するヒト血漿は,できるだけ 新鮮であることが求められる10).しかし,製剤設 計の段階で本法を用いるためには,新鮮なヒト血 清を毎回得ることは難しい場合があることから,

市販の補体活性化産物測定用のコントロール血 清を用いることとした.また,ポジティブコント ロールとしては,HAGG(Heat Aggregated Gamma

Goblin),ZymosanAを用い,いずれの補体活性化

産物においてもコントロール血清との混合によ り,iC3b, SC5b-9の増加を検出することができ,

検量線は良好な直線性を得た.またpositive control

(HAGG)を用いたiC3bとSC5b-9測定の日内再現 性はそれぞれ,RSD=9.77, 3.73 %以下(n=3)であっ た.

 

(2−2)溶血性試験法

  血液溶血性試験には,第1法:溶血によるヘモ グロビンの吸収極大波長(540 or 576nm)にて定量 する方法,第2法:ヘモグロビンをシアンメトヘ モグロビンに変換しその吸光度から溶出率を算

出する方法の2法が報告されている9が,シアン 化合物の不必要な使用を避ける目的から,第I法 を用い,リポソーム製剤において最適化すること とした.

ポジティブコントロールとして,一般的に用い られているTriton-X(final conc 1%)を用い,この

溶血率を 100%とすることとした.カチオン性の

物質は溶血性を有することが知られているが,今 回いずれの濃度でも中性リポソームであるDOPC リポソームよりカチオン性リポソーム DOTAPで 溶血率が大きい結果となり,本法の妥当性を示し ている.その結果を,図3に示す.繰り返し再現 性はいずれのリポソームも 0.2mg/mL の際に,

0.94%以下と良好であった.測定濃度により溶血 率は異なるため,実際の投与量等を考慮し,複数 濃度で測定する必要があるであろう.また、イン キュベーション時間によっても溶血率は異なる ため、時間依存性を確認することも重要である。

1点でおこなう場合は4時間とした9

(2-3) 血液凝固試験法

  ナノ DDS 製剤が血液凝固因子と相互作用する ことにより血液凝固システムに影響を及ぼすこ とは安全性の面で懸念事項である.本血液凝固試 験法は,ナノ粒子製剤が血漿の凝集時間に与える 影響を評価する方法である.

  血液凝固,すなわち凝固反応は数多くの因子が 関与する複雑な過程を経るが,凝固には図4に示 すように主に3つの経路が関与している.つまり

①内因性のもの(接触活性化経路としても知られ ており,表面への損傷により活性化される),②外 因性のもの(組織因子経路としても知られている).

③最終共通経路:それぞれの経路はそれに特化し た方法によって評価する.活性化部分トロンボプ ラスチン時間(APTT)試験は内因性経路の評価に 用いる.プロトロンビン時間(PT)試験は外因性経 路の計測に用いる.トロンビン時間(TT)は最終共 通経路の機能性の指標となる.いずれの経路も多

(7)

くの凝固因子が関与し,いくつかは経路で共通し て機能している.血液凝固試験法の原理は,加温 下血漿に検体を加え凝固計により凝固時間を測 定し,主として凝固時間の延長を測定することで,

血漿成分中の凝固因子と検体との相互作用を調 べる手法である.本研究では,評価項目として汎

用されるAP,APTT時間を測定することとした.

凝固計による凝固時間測定前の試料調製法に ついては,米国 Nanotechnology Characterization Laboratory(NCL)より提案されている手法である

“Coagulation Assays”11), を参考にプロトコールを 作成した.PBSをコントロール(ベースライン), 凝固阻害剤として知られているEDTAをポジティ ブコントロールとし,凝固時間を測定し試験法の 妥 当 性 を 評 価 し た .AP 時 間 の PBS , EDTA(1mg/mL)のRSDは2.88, 0.38%(n=3)と 繰り返し再現性は良好であった.またAPTT時間 のPBS,EDTAのRSDは0.50, 0.32%(n=3)と 繰り返し再現性は良好であった.DOPCリポソー ム製剤では,コントロールであるPBSと同等の値 を示した.実際の投与量等を考慮し,実試料の凝 固時間を複数濃度で測定し,PBS及びEDTAの凝 固時間と比較し,血液凝固への影響を判断するこ ととした.

  D.考察 

DDS製剤の開発においては,最先端のバイオテ クノロジーやナノテクノロジーを用い,様々な素 材を利用した複雑な構造を有する医薬品の開発 が進められている.また,医療デバイスとの融合 製品の開発も活発である.これらの新素材が生体 に投与された際に,血液成分や細胞など生体を構 成する要素に直接接触して利用されるため,生体 反応,特に免疫学的反応に関わる評価が安全性の 観点からも重要であろう.静脈血中にナノ DDS 製剤が投与された際の赤血球や補体成分との相 互作用評価の必要性については受け入れられつ つあり,また製剤の特性によっては血液凝固への

影響についても懸念されている 12.これらを in

vitro で評価する試験について欧米での議論は進

んでいるが,我が国では十分とは言えない.そこ で,本研究では,補体系活性化試験,赤血球との 相互作用(溶血性試験),及び血漿成分への影響

(血液凝固試験)について,リポソーム製剤を対 象に最適化し,確立した.これらは,我が国にお ける医療機器の生物学的安全性試験法ガイダン スでは,血液適合性試験とよばれる試験に該当す るものである.本研究では,ポジティブコントロ ールや前処理法,サンプルであるリポソームの濃 度依存性等を検討し最適化した.安全性に関わる

in vitro試験開発の目的は,開発中のナノDDS製

剤を in vivo 投与した際に生じ得る急性の毒性反

応を迅速に評価することである.したがって,製 剤設計の早期段階からこれらの in vitro 評価を行 うことが可能なよう,市販のコントロール血清を 用いるなど,試験の利便性にも配慮し評価法を確 立した.

今後は,さらに,本試験法を用いて品質特性と の相関に関する知見を蓄積するとともに,in vitro 試験の結果と in vivo における安全性との相関性 についてさらに調査研究を進め知見を蓄積する 必要があると思われる.

E. 結論

ナノ DDS 製剤のタンパク質や細胞との相互作 用は,細網内皮系による取り込み,血中滞留性,

ナノDDS 製剤の構造安定性(つまり有効成分の 放出性),標的細胞への取り込みなど,有効性や 安全性に影響するため,in vitro, in vivoにおけ るタンパク質や細胞との相互作用評価は,重要品 質特性の特定,ナノ DDS 製剤の薬物動態や薬理 作用を考察する上で重要である.本研究では,直 接的,及び間接的なこれら相互作用の評価手法に ついてまとめた.

さらに,有効性と安全性確保の観点より,その 評価手法として,ナノDDS 製剤の血液適合性試

(8)

験,つまり補体系活性化試験,赤血球との相互作 用(溶血性試験),及び血漿成分への影響(血液 凝固試験)について,リポソーム製剤を対象に最 適化し,確立した.

謝辞

  厚生労働省及び国立医薬品食品衛生研究所が 事務局となり設置された検討会「ナノ医薬品に関 する勉強会」において,ブロック共重合体ミセル 医薬品評価に関し技術的な御助言を賜りました 勉強会委員の先生方に深謝致します.

参考文献

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8) 加藤くみ子,中西健,小崎雅人,松田嘉弘,

平野舞,花田博幸,久田茂,小野寺博志,西 山伸宏,原島秀吉,松村保広,片岡一則,奥 田晴宏,川西徹 ブロック共重合体ミセル医薬 品の評価 医薬品医療機器レギュラトリーサイ エンス  44 (12), 968-975 (2013)

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F. 研究発表 1. 論文発表

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Mol Pharm. 11, 560–567 (2014)

(3) Sakai-Kato, K., Un, K., Nanjo, K., Nishiyama.

N., Kusuhara, H., Kataoka, K., Kawanishi, T., Goda H., Okuda, H., “Elucidating the molecular mechanism for the intracellular trafficking and fate of block copolymer micelles and their components ” Biomaterials 35, 1347-1358 (2014)

(4) Sakai-Kato, K., Nanjo, K., Yamaguchi, T., Okuda, H., Kawanishi, T., “High performance liquid chromatography separation of monoclonal IgG2 isoforms on a column packed with nonporous particles.” Analytical Methods 5, 5899-5902, 2013.

(5) 加藤くみ子,中西健,小崎雅人,松田嘉弘,

平野舞,花田博幸,久田茂,小野寺博志,西 山伸宏,原島秀吉,松村保広,片岡一則,奥 田晴宏,川西徹 ブロック共重合体ミセル医 薬品の評価 医薬品医療機器レギュラトリーサ イエンス  44 (12), 968-975 (2013)

(6) 加藤くみ子  DDS製剤開発の活性化と実現 に向けた取り組みについて 薬剤学 73(3), 187 -188, 2013

2. 学会発表・講演 講演

(1) 加藤くみ子  「ブロック共重合体ミセル医薬

品に関する欧州医薬品庁(EMA)との共同文 書作成」第 10 回レギュラトリーサイエンス 学会シンポジウム  2014年1月16日(東京)

(2) 加藤くみ子「リポソーム製剤の評価手法につ

いて」ナノ製剤技術研究会  2013年 10月 4 日(京都)

(3) 加藤くみ子「DDS製剤キャリアの動態とトラ

ンスポーター」第29回日本DDS学会学術集 会  2013年7月5日(京都)

(4) 加藤 くみ子「ナノテクノロジーの医薬品開

発への応用」  第 50 回薬剤学懇談会研究討 論会  2013年6月28日(札幌)

(5) Kumiko Sakai-Kato   ”Current Initiatives relevant to Nanomedicines in Japan” The European Summit for clinical nanomedicines 2013 2013年6月25日(Basel)

学会発表

(1) 加藤くみ子,運敬太,川西徹,奥田晴宏,合 田幸広  リポソーム及び内包薬物の細胞内動 態に関する研究  第 22 回日本バイオイメー ジング学会学術集会,東京(2013.9.15)

(2) 運 敬太,加藤くみ子,奥田晴宏:リポソーム に内封されたドキソルビシンの細胞内動態に 及ぼすリポソーム構成脂質の影響,第29回日 本DDS学会,京都,2013年 7月

(3) 運 敬太,加藤くみ子,奥田晴宏:リポソーム 中のポリエチレングリコール(PEG)修飾リン 脂質の細胞内動態特性評価,日本薬剤学会第 28会,名古屋,2013年 5月

(4) 加藤くみ子,日高征幸,運敬太,川西徹,奥 田晴宏 シリカ粒子,酸化チタンの物理的化 学的特性とin vitro腸管吸収モデルによる細胞 透過性との関連性について 日本薬剤学会第 28年会 平成25年5月25日

G. 知的財産権の出願・登録状況 なし

 

(10)

   

図1  ナノ DDS製剤と細胞やタンパク質との相互作用に

関する概念図

図3  中性リポソーム及びカチオン性リ ポソームの溶血率 (%)

図4  血液凝固機構の模式図 図2  補体系活性化経路の模式

表1  リポソーム製剤の補体活性化のリス クを高めることが報告されている主な要因

参照

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