【原著・臨床】
高齢者慢性呼吸器疾患の二次感染に対する
gatifloxacin
とlevofloxacin
の7
日間投与の比較試験山本 善裕・栁原 克紀・栗原慎太郎・中村 茂樹 関 雅文・泉川 公一・掛屋 弘・河野 茂
Nagasaki Respiratory tract infection Treatment Society: NRTS
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系専攻感染免疫学講座先進感染制御学分野(第二内科)*
(平成19年8月10日受付・平成19年9月14日受理)
今回,65歳以上の慢性呼吸器疾患の二次感染に対するgatifloxacin(GFLX)1回100 mg,1日2回投 与の有用性を客観的に検証するため,同じニューキノロン系抗菌薬であるlevofloxacin(LVFX)を対照 薬として有用性を比較検討した。
2006年1月から2007年4月の間に,長崎大学第二内科および関連病院を受診した,65歳以上の慢性 呼吸器疾患の二次感染患者72例を対象とし,GFLX 1回100 mg,1日2回投与群,LVFX 1回200 mg,
1日2回投与群の2群に無作為に割付を行った。投与期間は7日間とした。
本試験の対象72例中,臨床効果解析対象60例(GFLX群;33例,LVFX群;27例)における有効率 は,GFLX群78.8%(26!33),LVFX群70.4%(19!27)であった。副作用については両群とも認められ ず,臨床検査値異常がGFLX群4例において認められたがいずれも重篤なものではなかった。
65歳以上の高齢者慢性呼吸器疾患の二次感染に対して,GFLXの1回100 mg,1日2回投与は,
LVFX 1回200 mg,1日2回投与と同等もしくは同等以上の有用性を示すことが示唆された。
Key words: gatifloxacin,levofloxacin,chronic respiratory tract infection,elderly
Gatifloxacin(GFLX)は,杏林製薬株式会社で開発された ニューキノロン系抗菌薬であり,肺炎球菌をはじめとするグ ラム陽性菌,グラム陰性菌,嫌気性菌,さらにクラミジア属,
マイコプラズマ属におよぶ広範な抗菌スペクトラムと強い抗 菌力を有し1〜4), 組織および喀痰中への高い移行性を示す5〜7)。 臨床で問題となっているペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin- resistantStreptococcus pneumoniae:PRSP)を含む肺炎球菌に 強い抗菌力を有することをはじめ8),呼吸器感染症の主要原因 菌に有用性を発揮することから,レスピラトリーキノロン9)に 分類されている。日本呼吸器学会より2003年に発刊の『「呼吸 器感染症に関するガイドライン」成人気道感染症診療の基本 的考え方』では,慢性気道感染症における経口抗菌薬の選択に おいて,第一選択としてレスピラトリーキノロンが推奨され ており,GFLXが記載されている10)。
GFLXを100 mg含有するガチフロ錠®は,2002年6月に杏 林製薬株式会社および大日本製薬株式会社から発売された。
発売後,低頻度ではあるがガチフロ錠®による血糖値異常の副 作用が報告され,2003年3月には緊急安全性情報11)が発出さ れ,糖尿病患者には投与禁忌となった。その後の血糖値異常発 現症例の分析により,GFLXによる血糖値異常のリスク要因 としては,「糖尿病」,「加齢」,「腎機能低下」が推測された12)。
特に高齢者では通常用量の400 mg!日(200 mg×2回!日)投 与では加齢に伴う腎機能低下のために過度に血中濃度が上昇 する可能性もあり,血糖値異常をまれに発現することもある と考えられ,血糖値異常を防ぐためには1回用量を調節する 必要があると予測された。
2004年11月から2005年3月の間に実施した慢性呼吸器 疾患の二次感染患者を対象とした臨床研究において,65歳以 上の高齢者に対するGFLXの1回100 mg,1日2回投与は 65歳未満への1回200 mg,1日2回投与と変わらぬ有用性 が認められることが示唆された13)。
そこで今回,65歳以上の高齢者慢性呼吸器疾患の二次感染
に対するGFLX 1回100 mg,1日2回投与の有用性を客観
的に検証するために,同じニューキノロン系抗菌薬である
Levofloxacin(LVFX)を対照薬として有用性を比較検討した。
I. 対 象 と 方 法 1.対象患者
2006年1月〜2007年4月までの期間に長崎大学およ び関連施設(Nagasaki Respiratory tract infection Treat- ment Society)(Table 1)を受診した慢性呼吸器疾患(慢 性気管支炎,肺気腫,びまん性汎細気管支炎,気管支拡 張症,肺線維症,気管支喘息等)の二次感染と診断され
*長崎県長崎市坂本1―7―1
Table 1. NagasakiRespiratoryTractInfection TreatmentSocietyInstitutions Physician Institution
TomoyukiKakugawa,JunjiTsurutani Kitakyushu MunicipalYahataHospital
ShigekiNakamura,Tomo Mihara NationalHospitalOrganization Ureshino MedicalCenter
Toyomitsu Sawai Sasebo MunicipalGeneralHopital
Osamu Sakito,YoujiFutsuki OmuraMunicipalHospital
EisukeSasaki NationalHospitalOrganization NagasakiMedicalCenter
YuichiInoue Health InsuranceIsahayaGeneralHospital
Hironobu Koga MiyazakiHospital
NobukiAoki Shinrakuen Hospital
MitsuhideOhmichi OmichiMedicalClinic
Yasuhito Higashiyama Hokushouchuou Hospital
Kazuhiko Ogawa Menoto Hospital
Takakazu Otsubo Okubo Hospital
YasumasaDoutsu NagasakiMunicipalHospital
ToyoshiMatsutake Senju Hospital
Nobuo Morikawa EkisaikaiNagasakiHospital
MasafumiHayashida HayashidaClinic
Akimitsu Tomonaga TomonagaClinic
YasunoriOnitsuka OnitsukaNaikaShoukakika
Table 2. Standardsfordeterminingtheseverityofsymptomsofinfectiousdiseases Severe (Mustsatisfyallcriteria) Moderate
Mild
(Mustsatisfyallcriteria)
≧39.0℃ Casesthatdo notmeet
criteriaforeither“mild” or“severe”
<37.5℃ Body
temperature
≧15,000/mm3
<10,000/mm3 WBC
≧10mg/dL
<5mg/dL CRP
Table 3. Studyparametersand schedule
After7daysor end oftreatment After3days
Beforeentry
● Medicalcharacteristicsofpatient
●
●
● Clinicalsymptoms
●
●
● WBC,CRP
●
● Clinicalefficacy
●
○
● Laboratoryfindings
●
● Bacteriologicaltest(with MIC)
● Finalclinicalefficacy
Adverseeffects Patientdiary
● :Implemented,○ :Implemented whereverpossible
▲▲
た患者のうち,下記の選択基準を満たし,同意の得られ た患者を対象とした。
選択基準として,①年齢が65歳以上(原則として85 歳未満),②次の基準に該当する慢性呼吸器疾患の二次感 染例:ⓐ咳嗽・喀痰の新たな出現あるいは喀痰量の増加 や膿性痰への悪化が認められたもの,ⓑ血液検査にて,
CRP増加(0.7 mg!dL以上,あるいは施設上限値をこえ るもの)を認めるもの。さらに,次の3項目は満たして いることが望ましい条件とした。 ⓒ37度を超える発熱,
ⓓ原因菌が分離できる可能性のある良質な喀痰が採取で
きるもの,ⓔ末梢白血球数増多(≧8,000!mm3,あるいは 施設上限値をこえるもの)③日本化学療法学会「呼吸器 感染症における新規抗微生物薬の臨床評価法」感染症重 症度判定基準に準拠して,軽症から中等症と判断された 患者。(Table 2の「呼吸器感染症における新規抗微生物 薬の臨床評価法」感染症重症度判定基準に従って判断し た。)
また次のいずれかに該当する症例は除外症例とした。
①糖尿病患者,②GFLXならびにLVFXに対し過敏症 の既往のある患者,③高度の心,肝機能障害のある患者,
Fig. 1. Casedistribution.
No. of patients included in statistical analysis
Clinical efficacy Gatifloxacin: 33 Levofloxacin: 27 Total 60 Side effects Gatifloxacin: 36 Levofloxacin: 34 Total 70 Total number
of patients Gatifloxacin: 37 Levofloxacin: 35 Total 72
Laboratory findings Gatifloxacin: 35 Levofloxacin: 30 Total 65 Last evaluation Gatifloxacin: 33 Levofloxacin: 27 Total 60
Table 4. Reasonsforexclusion from clinicalefficacy
Levofloxacin Gatifoxacin
1 Diseasesnotincluded in protocols
1 Ageviolation in protocols
1 Consentwith exclusion criterion
1 1
Unclearclinicalsymptomsofinfection
2 1
Judgmentitem deficit
1 No visitafterinitialconsultation
2 1
No visitaftersecond consultation (3days)
8 4
Total
Table 5. Clinicalefficacy
Clinicalefficacy rate(%) Total
Noteffective Effective
78.8 33
7 26
Gatifoxacin
70.4 27
8 19
Levofloxacin
Table 6. Casesin which causativeorganismsweredetected Detection (%) Detected cases
Cases
63.6 21
33 Gatifoxacin
70.4 19
27 Levofloxacin
④高度の腎機能障害のある患者(クレアチニンクリアラ ンスが30 mL!min以下の患者),⑤重篤な基礎疾患,合併 症を有し薬剤の薬効評価が困難な患者,⑥同一感染エピ ソードにおいてフルオロキノロン系抗菌薬が無効であっ た患者,⑦試験薬剤投与開始7日以内に他の抗菌薬が投 与され,すでに症状が改善しつつある患者,⑧他の抗菌 薬併用治療を必要とする患者(ただし,マクロライド系 抗菌薬の少量長期投与を除く)。なお,抗インフルエンザ 薬の併用は可とした。⑨経口ステロイド換算10 mg以上 のステロイドの併用を必要とする患者,⑩てんかん等の 痙攣性疾患の合併症,またはこれらの既往のある患者,
⑪妊娠,または妊娠している可能性のある患者,⑫その 他,担当医師により不適当と判断された患者。
次のいずれかに該当する症例は中止症例とすることと した。①重篤な有害事象が発現した場合,②合併症の増
悪,偶発症が発生した(不慮の事故含む)場合,③治療 方針の変更を必要とした場合,④原因菌の薬剤感受性が 判明し,ニューキノロン系抗菌薬耐性の場合,⑤その他,
担当医の判断により中止が必要とされた場合。
2.方法
1) 薬剤の割付方法,投与方法および投与期間 インターネットの専用ホームページにアクセスし,コ ンピュータの乱数管理されたプログラムにより無作為に GFLX群もしくはLVFX群に割付を行った。各薬剤群の 投与方法,投与期間は次のとおりとした。GFLX群;
GFLXとして1回100 mg(ガチフロ錠®100 mg 1錠)を 1日2回(朝・夕),7日間投与を原則とした(最低3日 間)。LVFX群;LVFXとして1回200 mg(クラビット 錠®100 mg 2錠)を1日2回(朝・夕),7日間投与を原 則とした(最低3日間)。
2) 観察・評価項目およびポイント
(1)観察項目
観察・評価項目およびポイントはTable 3に示した内 容で実施した。また,臨床症状は体温,咳嗽,喀痰量,
喀痰性状,呼吸困難を観察し,臨床検査はALT,AST,
ALP,γ―GTP,BUN,S―Cr,血糖(食前・食後を付記)
を評価した。
微生物学的検査の搬送方法は次のとおりとした。まず,
実施施設にて採取した喀痰を採痰容器に封入し,ラベル
(採取日など記載)を貼付した。その封入した容器を宅配 便送付用封筒に入れ,長崎県北松浦郡の北松中央病院宛 に送付した。その後,北松中央病院細菌検査室にて菌株 の分離同定を行い,主要原因菌についてCLSI法に準じ てMIC測定を実施した。
患者日誌には体温,咳嗽,喀痰性状,喀痰量,呼吸困 難について,投与期間中毎日記入した。なお,咳嗽,喀 痰量,喀痰性状および呼吸困難はアナログスケールで評 価した(平常時を0として0〜10で評価)。
Table 7. Clinicalefficacybycausativeorganism
Clinicalefficacy (%) Not
effective Effective
Total Organism
100 2
2 Haemophilusinfluenzae GFLX
100 5
5 LVFX
50.0 1
1 2
Streptococcuspneumoniae GFLX
66.7 1
2 3
LVFX
100 6
6 Moraxella catarrhalis GFLX
50 1
1 2
LVFX
0 3
3 Pseudomonasaeruginosa GFLX
75 1
3 4
LVFX
100 1
1 Staphylococcusaureus GFLX
― 0
LVFX
― 0
Corynebacterium pseudodiphtheriticum GFLX
0 1
1 LVFX
100 1
1 H.influenzae+M.catarrhalis GFLX
100 1
1 LVFX
100 1
1 H.influenzae+S.aureus GFLX
― 0
LVFX
100 2
2 H.influenzae+S.pneumoniae GFLX
0 LVFX
100 1
1 S.pneumoniae+M.catarrhalis GFLX
0 LVFX
― 0
S.pneumoniae+K.pneumoniae GFLX
100 1
1 LVFX
― 0
S.pneumoniae+P.aeruginosa GFLX
100 1
1 LVFX
100 1
1 P.aeruginosa+Eikenella corrodens GFLX
0 LVFX
― 0
H.influenzae+S.pneumoniae+S.aureus GFLX
0 1
1 LVFX
100 1
1 H.influenzae+S.aureus+Pasteurella multocida GFLX
― 0
LVFX
76.2 5
16 21
Total GFLX
73.7 5
14 19
LVFX GFLX:Gatifloxacin,LVFX:Levofloxacin
(2)評価項目 i)臨床効果
日本化学療法学会「呼吸器感染症における新規抗微生 物薬の臨床評価法」の臨床効果判定基準を参考に①有効,
②無効,③判定不能の3段階で判定した。
ii)原因菌別微生物学的効果
原因菌の判定は微生物学的検査結果のみをみて画一的 に行わず,臨床経過なども勘案して総合的に行った。原 因菌の消長は①消失(推定消失含む),②減少,③存続,
④判定不能の分類で行った。
iii)最終評価判定
投与終了時に臨床効果および微生物学的効果を基に最
終評価判定を①治癒,②治癒せず,③判定不能の3段階 で判定した。
II. 結 果
本試験にエントリーされた症例は72例であり,臨床効 果解析対象は60例,副作用解析対象は70例,臨床検査 値異常解析対象は65例,最終評価解析対象は60例で あった(Fig. 1)。臨床効果解析対象から除外された12 例の理由は,対象外疾患がGFLX群で1例,年齢基準違 反がLVFX群で1例,除外基準に該当症例がLVFX群 で1例,感染症状不明確が各群1例,投与終了時の判定 項目不足がGFLX群で1例,LVFX群で2例,初診時以 降来院なしがLVFX群で1例,3日後以降来院なしが
Table 8. Bacteriologicalefficacy
Bacteriological efficacyrate
(%) Persistent
Reduced Eradicated
Total Organism
83.3 1
5 6
Haemophilusinfluenzae GFLX
100 7
7 LVFX
100 5
5 Streptococcuspneumoniae GFLX
100 6
6 LVFX
100 7
7 Moraxella catarrhalis GFLX
100 3
3 LVFX
33.3 2
1 3
Pseudomonasaeruginosa GFLX
40 3
2 5
LVFX
100 3
3 Staphylococcusaureus GFLX
100 1
1 LVFX
― 0
Klebsiella pneumoniae GFLX
100 1
1 LVFX
100 1
1 Pasteurella multocida GFLX
― 0
LVFX
― 0
Corynebacterium pseudodiphtheriticum GFLX
0 1
1 LVFX
100 1
1 Eikenella corrodens GFLX
― 0
LVFX
88.5 3
23 26
Total GFLX
82.6 4
19 23
LVFX GFLX:Gatifloxacin,LVFX:Levofloxacin
Table 9. Finalclinicalefficacy
Cure(%) Total
Failure Cured
78.8 33
7 26
Gatifoxacin
70.4 27
8 19
Levofloxacin
GFLX群で1例,LVFX群で2例であった(Table 4)。
1.臨床効果
臨床効果解析対象60例における有効率は,GFLX群 78.8%,LVFX群70.4% であった(Table 5)。
2.原因菌別微生物学的効果
原 因 菌 の 検 出 率 はGFLX群 で63.6%,LVFX群 で 70.4% であり(Table 6),本試験で検出された菌について は,慢性呼吸器疾患の二次感染において検出率の高い菌 が 多 く 検 出 さ れ,Haemophilus influenzae,Streptococcus pneumoniae,Moraxella catarrhalis,続 い てPseudomonas
aeruginosaが多く検出された。また原因菌別臨床効果は
GFLX群76.2%,LVFX群73.7% であった(Table 7)。
原因菌別微生物学的効果はGFLX群で88.5%,LVFX
群で82.6% であり,臨床効果と相関していた。特に緑膿
菌については両群とも菌消失率は低かったが,それ以外 の主要原因菌では高い菌消失率がみられた(Table 8)。
3.最終評価判定
原因菌の消長を加味した最終評価判定における治癒率 はGFLX群78.8%,LVFX群70.4% であり,臨床効果と 同様であった(Table 9)。
4.原因菌のMIC
測定しえた原因菌のMICをTables 10,11に示した。
GFLX群のMICはP. aeruginosa2株以外の菌株につい て,LVFX群と同じ, もしくは高い抗菌力がみられた。
S. pneumoniaeについては,GFLX群のMICはいずれも
0.25 mg!mL以下で優れた抗菌力を示していた。また
LVFX群 のMICはP. aeruginosaの2株 お よ びCoryne- bacterium pseudodiphtheriticumの1株以外の菌株につい て,GFLX群と同程度の抗菌力がみられた。
5.副作用
副作用については両群とも認められなかった。
6.臨床検査値異常
試験期間中に認められた臨床検査値異常についてTa- ble 12に示す。GFLX群で4例認められた。GPT上昇1 例,γ―GTP上昇1例,GOT,GPT上昇1例,血糖値低下 1例であり,いずれも重篤なものではなかった。
III. 考 察
ガチフロ錠(GFLX)は,2002® 年6月に発売され,そ の後低頻度ではあったが血糖値異常の副作用が報告さ