消費財メーカー
履歴情報遡及システム調査研究報告 書
-医薬品・医療材料トレーサビリティ実現のために-
平成17年3月
(財) 流通システム開発センター
日本自転車振興会補助事業
消費財メーカー履歴情報遡及システム調査研究報告書平成十七年三月(財)流通システム開発センター
目 次
はじめに
巻頭言 「流通の改革こそが医療の改革」
医薬品・医療材料トレーサビリティ調査研究委員会 委員名簿
―――――本 編―――――
1.医療機関における医療安全とトレーサビリティ ···1
1-1 医療現場での物品管理 ···1
1-2 医療機関としての医療材料・医薬品のトレーサビリティ実現のための要件 ···4
1-3 病院内の物流と電子タグの利活用 ···13
2.医薬品・医療材料 製品流通及びトレーサビリティ・システム ···19
2-1 主 旨···19
2-2 業界団体・組織の解説 ···19
2-3 製品流通及びトレーサビリティ・システム図 ···22
3.SPD会社の現状と課題について ···30
4.SPDの将来展望 ···37
5.製品マスタサービス業務の現状と課題 ···38
6.MEDISデータベースの現状と課題について ···43
7.医薬品物流における“メーカー・卸”の取り組みについて ···49
8.医療機器販売業におけるコード管理の現状と課題 ···54
9.医療機器のトレーサビリティについて ···56
―――――参考資料編――――― 1.医療用具における情報化推進状況調査結果 ···65
2.システムベンダーによるトレーサビリティシステム概要紹介 ···68
2-1 富士通のヘルスケア産業に対するトレーサビリティへの取り組み 富士通 ···68
2-2 医薬品・医療材料のトレーサビリティに関するシステム 日本電気 ···74
2-3 生物由来製品管理を含む販売物流統合管理システムのご紹介 日立製作所 ···78
2-4 医療機器・材料トレーサビリティシステム MeBitsについて (社)日本自動認識システム協会 ···82
3.医薬品バーコードの標準化と米国医療業界の利用動向 ···89
4.医薬品・医療材料の最小単位への情報表示について ···110
5.米国FDA情報 ···124
は じ め に
消費者、利用者の製品・商品に対する安心・安全に関するニーズの高まりから、トレーサビ リティ(履歴・追跡管理)をシステムとして構築するための取り組みが、各業界、各企業で進め られている。
医療業界でも、平成 15 年 7 月施行された改正薬事法の中で、生物由来製品に対する安全性確 保が義務化され、(1)医療関係者による生物由来製品の安全性確保 (2)医療機関による医薬品 の副作用、医療材料の不具合、感染症例の厚労省への報告 (3)医療機関主体による治験実施 等への対応が求められている状況にあり、情報技術を活用したトレーサビリティ(履歴・追跡管 理)の構築が課題となっている。
医薬品・医療材料の品質、安全性の確保のためには、従来よりGMP医薬品の製造品質管理 規則)やGPMSP(医薬品市販後調査基準)等によって、製造工程から市販後までさまざまな安 全対策が実施されてきたが、改正薬事法では生物由来製品という新規枠を設け、その中でも特 別な配慮が必要な高い製品である特定生物由来製品については、安全対策が追加(上乗せ)規定 されている。
医薬品・医療材料メーカーでは、製造時の原材料の安全性確保、市販後の製品添付文書への 適切な表示、ドナー記録・販売記録の保管、感染症の定期報告が、また医療機関・薬局では、
特定生物由来製品の使用記録作成及び保存が義務付けられている。以上のように医療サプライ チェーン全体にわたる、企業の粋を超えた各拠点における製造、販売、使用記録の作成、保管、
記録等についてトレーサビリティの視点でのシステム構築が緊急課題となっている。
このような状況を踏まえ、本委員会ではメーカー・卸売業・医療機関/薬局三層における医薬 品・医療材料のトレーサビリティ構築の基盤整備のために、それぞれの企業のシステム化や標 準化の現状と課題について、また今後のあり方、取り組み方法等の研究を行い、本報告書にと りまとめた。本研究の成果が、今後の医薬品、医療材料業界の発展に資することを期待する。
平成 17 年 3 月
(財)流通システム開発センター
平成 16 年度
医薬品・医療材料トレーサビリティ調査研究委員会
(順不同・敬称略・平成17年3月現在)
委員長 国際医療福祉大学 副学長・大学院院長 開 原 成允 国立病院機構 大阪医療センター 副院長 楠 岡 英雄 浜松医科大学医学部付属病院 医療情報部 教授 木 村 通男
筑波大学附属病院 医療情報部 大 原 信
日本文化厚生農業協同組合連合会 情報システム部 部長 織 田 幹雄 東京医科歯科大学 歯学部付属病院 薬剤部長 土 屋 文人 国立国際医療センター 医療情報システム開発研究部長 秋 山 昌範
(社)日本薬剤師会 理事 原 明 宏
(財)医療情報システム開発センター 標準化推進室長 武 隈 良治
日本医療機器関係団体協議会 業務部長 松 本 民男
田辺製薬(株) ロジスティクスセンター計画部 部長 二 俣 勝俊 委 員
(株)メディ・ケア情報研究所 代表取締役 笠 原 庸介 (株)スズケン 営業企画部営業企画課統轄課長 大 橋 俊明 エドワーズライフサイエンス㈱ 営業開発部長 津 麦 政治
㈱日本エム・ディ・エム 企画管理室部長 原 山 秀一
㈱ホギメディカル 生産部部長 高 橋 一夫
(株)ムトウ 東京営業部取締役部長 加藤久仁彦
(株)日本ホスピタル サービス 法務・監査・コンプライアンスグループ 菊 地 公明
(株)ティエムシー システム部マネージャーIT コーディネータ 鈴 木 信吾 (社)日本自動認識システム協会 医療バーコード委員長 白 石 裕雄 (株)ウェルキャット ソリューション部長 瓜 生 統一 小林記録紙株式会社 医療事業部企画開発部主任 木 村 明雄 日本電気(株) 医療システム開発事業部シニアマネージャー 青 木 順 富士通(株) ヘルスケア産業統括営業部長 金 井 寛 株式会社 日立製作所 トータルソリューション事業部 伊 藤 順子
オブザーバ
(株)NTT データ ビジネスイノベーション本部 佐 藤 千晶
専務理事 坂 井 宏
研究開発部長 深 田 陸雄
研究開発部次長 宮 原 大和
事務局 (財)流通システム開発センター
研究開発部主任研究員 黒 沢 康雄
1.医療機関における医療安全とトレーサビリティ
1-1 医療現場での物品管理
浜松医科大学 医療情報部 木村通男
はじめに
本稿では、現在浜松医科大学附属病院で稼動している、バーコードによる物流管理システム を紹介し、流通系システムと病院内システムの接点について論じる。
1.浜松医科大学附属病院での物品管理システム
浜松医科大学附属病院では、まず発注の段階で個別の2次元バーコードを用意し、発注伝票 とともに業者に渡している。この段階ですでに、特定医療材料など、個々の医療材料が個別に 医事請求可能かどうか、◎、○、×で印刷表示されている。そのラベルは2段になっており、
上部は消費実績用に、下部は保険請求用に医事コードが、それぞれ印刷されている。
納品業者はこれに基づき、このバーコードラベルを、個々の医療材料に貼り付け、納品書と 共に納品する。納品先は、通常は材料部であるが、委託品の場合は直接各部署に納品される。
バーコード体系や医事請求フラッグは同じである。材料部ではこれを検品し、業者に対して各 部署に納品してもらう、あるいは倉庫に搬入される。各部署の在庫保管棚には、定数補充方式 で、使用分の補充がなされる。
各部署では、シール台紙が用意されており、すべての使用した材料のバーコードシールが貼 られ、消費実績として管理部門に回収される。一方、個別医事請求可能なものについては、処 置箋、手術箋などに貼り付けられ、これは医事課に向かう。医事課でも材料部でも、払い出し 後の作業は、台紙のシールを読み込むのみである。
2.流通システムと病院内システム
医療では今まで、材料部までの流通系の情報化は、JAN コードによって円滑に実施されてき たが、医療現場ではそれが個々の材料となるため、個装のバーコードがないため、院内での物 流システムは遅れたままであった。そこで昨今、医療材料、薬品の個装バーコードが、トレー サビリティの意識の高まりもあり、注目されてきている。
本院では、消費実績と医事請求用に2枚のバーコードを持ち、請求の可不可がすでにマーク されたラベルを渡し、個別に業者に貼ってもらっていた。
ここで流通系バーコードが個装化対応となり、トレース情報が付加されるならば、トレース 情報と院内個別バーコードとの対応は納品業者での読み込みによる対応付けとなるであろう。
我々が本院用に2枚のバーコードを必要とした理由は、医事請求の可否である。いくら個別 の、トレース情報を持つバーコード体系を用意しても、これから医事請求用コードへの関係情 報が必要となる。まだこれは全国で利用できるマスタの利用を期待できるが、請求可否につい ては、医療施設によって異なるため、やはり個別の対応にならざるを得ない。
今回この個別対応を、我々は2枚のバーコードで行ったわけであるが、院内各部署に2次元 バーコードリーダが配置されても、マスタの個別医療施設ごとの対応は避けられない。コード はそれだけでは万能のものでなく、付加的マスターや、個別更新を容易にするアプリケーショ ンなども必要と考える。
1-2 医療機関として医療材料・医薬品のトレーサビリティ実現のための要件
国立成育医療センター病院 医療情報室 大原 信
はじめに
医療材料・医薬品のトレーサビリティの実現とは、病院情報システムにおいては「オーダリ ングシステム(電子カルテ)」、「物流管理システム」、「薬剤部システム」、「医療安全システム」
の統合であると言える。
国立成育医療センタでは、「電子カルテ」システムを中核とする病院情報システムの構築にお いて「電子カルテ」と「物流管理システム」の統合、更に「電子カルテ」上で「医療安全シス テム」を運用することを目指した。今回、国立成育医療センタ病院の現状を紹介し、その上で 医療機関において医療材料・医薬品のトレーサビリティ実現のために何が必要かを考えてみた い。
1.国立成育医療センタ病院における、EAN-128 バーコードの活用と医療安全
国立成育医療センターは2002年3月に開院した、我が国5番目のナショナルセンターで ある。地上12階地下2F で病床数は500床、ICU10床、NICU15床、手術室9室を有する。
患者数は外来患者約900名/日、年間手術数約3000例/年、年間分娩数約1200例/
年で推移している。病院はいわゆる「電子カルテ」で運用され、全入院患者ベッドには、バー コードリーダーを装備したベッドサイド端末を設置している。(http://www.ncchd.go.jp)
(1) ベッドサイド端末の活用1)
ベッドサイド端末は11インチの液晶タッチパネルで患者と業務が共有できるように、アー ム型の可動式になっている。以下、3つの機能を持つ多機能端末である。(図1)
図1 ベッドサイド端末
12inch タッチパネル型液晶 すべてのベッドに 1 台装備 バーコードリーダ実装 USB4 口
① 患者アメニティ機能
院内情報、診療科案内、医師紹介等の広報機能、テレビ鑑賞、テレビ電話機能、VOD 機能を 持っている。また、「電子カルテ」と連動している部分では患者自身の温度板や与薬スケジュ ールを参照することが可能である。患者自身が自らの与薬スケジュールを把握することによ り、誤薬の可能性を軽減することができる。当院の 8 割は子どもの入院であるため親に対し て治療の経過や薬の説明をベッドサイドで行うことが可能となり、インフォームドコンセン トにも役立っている。
② 「電子カルテ」機能
ベッドサイド端末は標準ではタッチパネルとバーコードリーダーの入力が可能であるため、
主に「電子カルテ」参照と検索機能が中心であり、経過表・ケアシート・画像を含む検査結果 が参照できる。この機能により、医療者は患者情報をベッドサイドで患者と共有して、教育・
指導のツールとして使用できる。入力機能としてマスタ、数値等はテンキーをつけて設定さ れた観察項目やバイタルサインの入力とバーコードリーダーでは輸血・点滴、注射・処方の 実施入力ができる。
③ 医療安全(バーコード認証)機能
バーコードリーダーにより、医療者のネームカードに付帯しているバーコードを読み取り、
患者のリストバンドに付帯しているバーコードを読み取り、患者認証する。各患者の指示オ ーダの確認がベッドサイド端末の画面で確認後、実施入力する。実施入力は各業務の開始前 に必ずオーダの内容を確認することによりベッドサイド端末の画面に正しければ「○」間違 っていれば「×」がでる。実施されれば、電子カルテ上の診療記録に実施入力の内容と名前 が記載される。
(2) 医療安全へのバーコード認証システムの活用
当院のバーコード認証の対象はベッドサイドで確認が必要な業務を看護業務調査の結果をも とに最優先させシステムを構築した。バーコードはオーダ発生時より、HIS や各部門システム の中央でバーコードが打ち出されるため、バーコード発行によるリスクやトラブルは必要最小 限であり、バーコードラベルの搬送前と実施前にチエックできる体制が整備されている。
現在、日赤より供給される血液製剤パックを除き、院内流通のバーコード体系をすべて EAN-128 に統一して運用している。(図2)
① 患者リストバンドによる患者認証
外来手術及び輸血、化学療法をおこなう患者と入院時患者全員に対しリストバンドが医事 課窓口で渡される。このバンドにはバーコードとカタカナの患者名、切り離し部分には患者 の ID 番号が印刷されている。入院中患者認証はこのリストバンドが必須であり、レントゲン や超音波など病棟以外の検査はこのリストバンドの確認がないと開始できない。
② 職員のネームカードによる実施者の認証
全職員のネームカードには各々の職域に応じた権限が付帯したバーコードが印刷され、業 務の開始時は誰がいつ実施したかという実施責任者として電子カルテに記載される。オーダ リングシステムでは実現できなかった、実施入力情報が ID 番号を打ち込むよりも正確に短時
間で可能である。
図2 医療現場におけるバーコード認証
③ 薬袋・薬剤ラベル・注射ラベルによるオーダ確認認証
内服薬・水剤・外用薬・点滴ボトルにはオーダ番号、薬剤名用量、用法とバーコードが印刷 されている。これをベッドサイドのバーコードリーダーで入力すると、医師の指示内容がベ ッドサイド端末の画面からリアルタイムで確認できる。オーダ変更による対応はベッドサイ ド端末にてすぐに確認できる。
④ アレルギー食の食札による確認認証
食札には患者名と食事の種類、バーコードが印刷されている。アレルギー食やミルクは原 則的にベッドサイドで患者のリストバンドの認証をおこない、食札のバーコードを読み取り、
患者認証ができる。
⑤ 特定診療材料の実施認証
医療材料においては、可能な限り標準コード登録されEAN-128バーコード付個装レ ベルの実装品の採用を進めている。しかしながら、院内で用いられる全ての品目が、標準コ ード登録済み物品になることは、現実には困難である。それを補完する為のローカルコード ではあるが、特定診療材料にはバーコードの実施入力により、電子カルテの記載、医事会計、
特定診療材料の認証 点滴オーダの認証
入院患者 ID の認証 医療スタッフ ID の認証
SPDに実施情報が反映される。
(3) 物流管理システムにおける EAN-128 バーコードの活用
院内の全ての物品管理は診療を支える医療情報システム(電子カルテ)と有機的に統合し、
SPDシステム(Supply Processing Distribution)以下 SPD と略す)をセンタの基幹シス テムの一つとして整備してきた。院内の診療材料や医療消耗品、医薬品等の管理は「オーダカ ード」と「バーコード」を添付し情報システムと連動している。診療材料のオーダカードとバー コード運用を中心に SPD 全体のシステムを紹介する。
SPD 立ち上げについては病院組織を越えて横断的な検討を重ね、診療部・看護部・会計課・
薬剤部・検査部がそれぞれの業務内容を積み上げて構築してきた。
運用は、電子カルテシステムを主体とする医療情報システム・医事会計システム・物品請求 システムが連携し、物品の在庫・購買・消費、搬送等の管理を SPD 部門が24時間体制で運営して いる。処置システムや手術システムからのオーダ入力で、特定診療材料に添付されたバーコー ドによる実施入力の認証を行うことで、電子カルテへの記載、物品請求、医事請求に情報がリア ルタイムで連動される。また、物品請求オーダも電子カルテシステムと連動していることによ り、物品の正確、迅速な供給ができる。誰がどこから請求しているのか請求情報の確認も可能 となった。医療材料のコードは、MEDISに登録された標準コード、バーコード体系は EAN-128 で行うことが基本方針である。しかし、現実には、標準コード未取得品が存在し、ま た、輸入品もあり、ローカルコード併用して運用している。コード管理は、SPDマスタ管理 者を院内において管理運営する体制を構築した。これらのコードを利用して、バーコード管理 方式・オーダカードによる定数補充方式を併用している。全物品管理システムをバーコード認 証システムで稼動させるためには、理論上は、今後MEDIS標準コード登録が進み、EAN
-128コード体系によるバーコード表示が医療材料に個装レベルで実装されると可能となる が、医療現場において、実効性を持つかは疑問である。標準化とバーコードによる実施入力推 進のため、医療材料においては、可能な限り標準コード登録されEAN-128バーコード付 個装レベルの実装品の採用を引き続き進める予定である。しかしながら、院内で用いられる全 ての品目が、標準コード登録済み物品になることは、現実には困難である。それを補完する為、
ローカルコードはやはり必要で、本院では、そのローカルコードの関連医療施設との統一も視 野に入れている。
物品供給システムの実際
物品の供給・回収方法は看護業務と密接な関連があり、効率的な運用を目指す為には全体業務 の標準化と他部門との連携と理解が重要である。物品の供給方式は主に定数補充が採用されて いる。定数補充にはオーダカード管理方式とバーコード管理方式による実施入力の併用で運用 している。
① オーダカード管理方式
オーダカードには診療材料の種類・規格・物品コード・パック係数・メーカー名・定価等 の情報が記載されたカードである。 診療材料のなかでも、保険診療点数(特定診療材料)
以外のディスポ製品(注射器・針・吸引カテ等)・消毒液・検体容器が対象で、各部署で必要
な種類と数量を決め、物品の最小梱包単位にオーダカードを SPD スタッフが貼付し各部署の 定められた一定の場所に収納する。使用部署の職員は物品の使用開始時にオーダカードを回 収ボックスに入れる。SPD スタッフは毎日、定時にオーダカードを回収し、オーダカードが 提出された数量分を補充する。
② バーコード管理方式による実施入力
バーコードシールは診療材料の種類・規格・バーコードが記載されたシールである。診療 材料のなかでも、標準バーコード(EAN-128)が付いていない保険診療点数請求物品(特定診 療材料)に対して SPD スタッフが貼付している。各部署で必要な種類と数量を決め、定めら れた一定の場所に収納する。
使用部署の職員は物品の使用時にベッドサイド端末または処置室の端末からバーコードリ ーダーを使用して、バーコード認証による実施入力を行う。SPD スタッフは端末から実施入 力の情報に基づき、定数以上の使用情報によって供給、補充することが可能となった。(図3)
図3 SPDシステムにおけるバーコードの活用
以上述べてきたシステムの構築によって以下の点が改善できたと考えている。
1)医療安全管理について
適切な管理によってリスクを許容範囲まで減らすことができた。
オーダカード管理 バーコード管理
SPD スタッフの在庫チェック 処置室端末からのバーコード入力
医師の指示と実施入力
システムの導入により、医師の指示の確認は全てベッドサイドで行い、点滴・処置後ベッド サイドでのバーコードの実施入力により、カルテ記載、医事会計、物品請求が選択的に同時に 実施され、医療業務がベッドサイドで終結できことによりデータ-入力作業の省力化・高精度 な情報の蓄積が可能となった。点滴については、一定のルールに従いオーダすると、薬剤師が 清潔なクリーンベンチの環境で作成した安全な(中央混注された)点滴注射が搬送され、実施が できる。実施入力については前述したとおりであるが、点滴中の確認作業もベッドサイド端末 からチエックツールを使用し滴下・ルート・時間の確認をタッチ入力できた。厚生科学研究(川 村の報告)2)でも看護業務領域のうち与薬関連業務に関するヒヤリ・ハット事例が全体の 46.7%と最も多く、注射業務エラーの中では「患者の誤認」が 36.6%、「薬剤名」23.3% と 続いている。当院でのシステムを活用して約3年が経過しているがバーコード認証の対象にお いては、患者誤認は一例も発生していない。(図4)
図4 バーコード認証の対象オーダ数
2)物流管理について
病院における安全な医療の提供は、円滑な物流と適正な器材の選択によりはじめて可能とな る。電子カルテシステムとの連動した SPD システムの導入とバーコード認証の活用により、以 下のような効果があった。
病棟在庫量の削減
診療材料の定時物品供給が週 5 回~7 回の為、病棟での在庫が、最大 1.5 日分となり、各部 署での不要在庫の極小化、物品スペースの削減となり、各病棟の診療材料はキャビネット 1 つ で充分となった。また中央管理での一極集中化により院内総在庫量の圧縮実現のために毎月の 棚卸業務が可能となった。
看護業務の効率化
処置を実施した場合、従来は、看護記録、処置伝票の記載、中央材料室への請求伝票の記載 等煩雑な業務をほぼすべて看護師が行っていたが、システムの導入により、処置後ベッドサイ
ドでのバーコード実施入力により、カルテ記載、医事会計、物品請求が選択的に同時に実施さ れ、看護業務がベッドサイドで終結でき、直接看護に時間を活用できるようになった。
2.医療材料・医薬品のトレーサビリティについて(医療施設の立場から)
トレーサビリティとは、「対象の履歴、適用、または所在が追跡できること」であり、今回の 対象となる医療材料・医薬品においては、ゴールは患者である。現在のオーダリングシステム では、医師のオーダは記録されるが、該当オーダについての物品としての情報は殆どの場合、
物流管理システムや薬剤システムと言ったサブシステムの中に留まっている。また、実施情報 を記録するシステムでなければ、ゴールである患者に到達しているのかどうかが不明となって しまう。よって、トレーサビリティの確保のためには、①病院から発注され、検収された時点、
②病院内で、使用単位別に各部署の在庫量に合わせてセット組みされた時点、③SPD システム によって、使用部署に到達した時点、④オーダによって患者に使用された時点を押さえること が必要となる。そのためには、発注・検収のステップから、患者への使用まで同じ管理システ ムで運用できること、使用単位ごとの管理が可能なこと、オーダ情報のみでなく実施情報が取 得できることが必須である。
以上のことが実現しても、すべての医療材料・医薬品で運用することはかなり困難である。既 にトレーサビリティを運用している食品の中の「牛肉」を例に取ってみると、「牛肉」の場合、
対象が国産牛に限っていること、生産段階(牛)から登録されていること(牛肉の原材料であ る)、遺伝子チェックによって検証が可能なこと、「小間切れ肉」「挽肉」が除外されていること、
いわゆるブランド牛によりトレーサビリティの確保によって付加価値が上昇すること、などが 成功のカギであると思われる。(図5)
図5 牛肉のトレーサビリティ(読売新聞より、一部改変)
医療材料・医薬品の場合、標準コード化は既に方針が決定していると認識しているが、問題 は使用単位(unit dose)ごとの管理方法、トレーサビリティの検証方法など山積している。
(1) 基本的なこと
最も重要なことは、目的を明確することである。医療施設においては、患者の安全確保がそ の目的となる。さらに、病院内にトレーサビリティの重要性を理解している者が存在すること が重要である。現状の病院にとってトレーサビリティとは、厚生労働省からの指導以外の何者 でもなく、大変な労力を要するが利益を生まない非生産性の分野である。この状況下で実現す るには、ある意味カリスマ性を持ったメンターが必須である。これは医療安全システムと同じ で患者の安全確保の言う観点でもうまくいって当たり前、不具合が起こったときは責任を追求 される性質のシステムであり、使用者にとってインセンティブが働かない点を強力な指導力で 推進しなければならない。
(2) 技術的なこと
メーカーから使用部署まで、検証可能な同じコードが使用可能なこと。加えて情報識別のた めに、有効期限、ロット番号、シリアル番号のコード化が必要である。病院においてこれらの コードはそのままオーダリングシステムや医療安全システムに使われる。医療材料では、それ ぞれ単品ごとの管理が可能となるが、医薬品では不可能なものも多く、課題が残る。現在トレ ーサビリティが実施されている「牛肉」においても、中途で加工されしかもコストの安い「小 間切れ肉」「挽肉」は前述したようにその対象から除外されている。
また、記録の保存は、「電子カルテ」の3原則、真正性、保存性、見読性と同じレベルで行わな ければならない。つまり、トレーサビリティの確保は「電子カルテ」運用の病院情報システム を構築することとほぼ同様となる。加えて、記録の保存期間についても、カルテの保存期間は 医療法では5年間義務付けられているが、トレーサビリティ記録はおそらく更に長期間の保存 が必要となる。
(3) 運用について
トレーサビリティを確保するためには、運用体制の整備もほぼ「電子カルテ」と同様となる。
つまりマスタの管理運用が必須となり専門部署の設置が望ましい。国立成育医療センタ病院で は、「電子カルテ」の運用(各種マスタの整備、セキュリティの確保、「電子カルテ」3原則の 遵守など)を医療情報室が統括実施している。SPD についても従来の会計・医事・庶務の3課 体制では運用困難と考え、SPD を統括する委員会の設置と医療材料マスタの専任管理者を置き 何とか SPD システムを軌道に乗せることができた。トレーサビリティの確保のためには、発注・
検収からのより精度の高い管理が必要である。
(4) まとめ
医療材料・医薬品のトレーサビリティを医療施設において実現するためには、発注・検収か ら実施入力までの使用単位ごとのコード管理、保存記録の「電子カルテ」3原則の適応などが
必要であると考えられ、ハードルは高い。まず、標準且つ共通のコードで使用単位ごとの管理 が可能で、長期間人体に影響を及ぼす可能性のあるものに適応を絞り込み実施することが現実 的かつ実効性があるように思える。
文献
1)大原信:患者サービスの向上を目指すベッドサイド端末の構築.医療情報学 22;219-220,
2002
2)川村治子:医療のリスクマネージメントシステム構築に関する研究.平成 11 年度医療技術 評価総合研究事業総括報告書(厚生労働省).2000
1-3 病院内の物流と電子タグの利活用
~医療における安全とトレーサビリティ~
国立国際医療センター医療情報システム開発研究部長 秋山昌範
1.はじめに
21世紀になり、医療改革の波が押し寄せている。これまで閉鎖的であった医療情報も情報公 開が進み、患者サイドに医療情報を理解してもらう努力もなされなければならない。その努力の 中で、情報公開は重要であるが、情報をただ単に見せるだけでは不十分である。情報を標準化 することで、初めて医療情報の評価が可能になり、患者から見て医療の良悪の判断がつくよう になる。効率的医療が叫ばれる中で、費用圧縮のあまり、患者と直接接触することが減っては いけない。直接の処置や看護が増えるように、省力化を図る中で、直接向き合う時間を増やす 視点が重要である。一見矛盾するこの改革のトレードオフポイントを決めるために、ユビキタ ス時代の電子化が重要であり、電子タグなどを活用することによって、実際に行われた医療行 為のデータを解析することが重要である。ユビキタスネットワーク、グリッド、電子タグなど は手段であり、それを患者・利用者の視点から、如何に使うかが重要であり、手段が目的化して はいけない。
医療過誤の対策として、厚生労働省も医療安全対策会議を設置し、医療安全対策に重点を置 いてきた。1999年度の厚生科学研究班(主任研究者:川村治子)「医療のリスクマネジメント システム構築に関する研究」によると、収集総数11,148事例を、看護業務を患者の療養上の世 話と医師の診療の補助業務に大別した場合、前者は患者側要因の関与も大きいが、後者のエラ ーはほとんどが医療提供者側の要因によって発生していた。療養上の世話業務に関連する事例 が全体の約3割で、その半分が転倒転落事例であった。一方、医師の診療の補助業務に関連す る事例は全体の6割であった。うち内服と注射(点滴・IVHを含む)の与薬関連事例が合わせて その3/4を占めていた。特に注射事例は約3,500事例と全体の3割を占めており、その多くは与薬 業務に関する事例であったと報告されている。したがって、医療過誤対策の中心は、与薬業務 におくべきと考えられている。
2003年12月24日には「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」が発出され、その中で、医 薬品・医療機器等の「もの」に関する対策として、 二次元コードやICタグを使った医薬品の管 理や名称・外観の類似性評価のためのデータベースの整備、オーダリングシステムの活用や点 滴の集中管理、患者がバーコードリーダを所持して薬や検査時に自らが確認を行うなど、ITを 活用した安全対策の推進が盛り込まれている。
2.情報システムと業務フロー
医療のプロセスを考えた場合、与薬業務は全ての医療機関に共通した業務であり、特に注射 業務は医師の指示から実施まで複数の人間が関与し、薬剤・注射器・点滴ラインや輸液ポンプ などの多種のハードウェア、指示の情報伝達というソフトウェア、注射準備環境の諸要素がか らみ、最も複雑なサブシステムを形成している。したがって、一つの注射業務において、対象
患者、薬剤の内容、薬剤の量、投与方法、投与日時、投与速度、刺入部の安全性、投与後の漏 れの有無といった確認内容が多いので、事故が生じやすい原因となっている1)。また、抗癌剤 など薬剤によっては重大な結果を引き起こすので、注射エラーの防止は医療事故防止上、最優 先で取り組むべき対象であると考えられる。そこで、情報システムによりエラーの防止を行う のである。具体的には、注射業務プロセスの中で、徹底した発生源入力を実現し、医療版 POS(Point of Sales)といえる医療行為の発生時点管理(POAS: Point of Act System)に対応す ることで、事故対策に対応できるシステムを開発した2)。POASとは、従来の伝票管理を目的と したオーダリングシステムではなく、実施入力を基本に考えられたシステムである。
事故は予定された業務以外に、突発的に発生した業務もある。したがって、オーダリングシ ステムに入力されていない医療行為を実施後入力する必要がある。従来のオーダリングシステ ムでは、予定された医療行為の情報入力が不十分であり、実施入力は困難であった。POASでは これを可能にした。
3.検査・処置時のリスク管理
検査・処置時におけるプロセスは、検体採取、搬送、前処理、測定・処置、組織検体保存・
破棄といった段階で管理されるが、患者の取り違えは採取、搬送時が多く、特に早朝空腹時の 連続採血時などは患者、容器、時期、順序を考慮する必要があり、エラーを起こしやすい。検 体の前処置や後処置時も紛失や破損時にラベル記載漏れ、貼り違え、貼り損ない等が起こりや すい。
また、造影を伴う画像検査や処置を伴う検査時には血管確保されていることが多いので、患 者取り違え事故以外に、輸液ポンプ関連の事故も起こりやすい。その際ラインを区別すること が、医療過誤対策として重要である。輸液ポンプは、強心剤や、微量でも大きな薬効を持つ重 要薬剤に用いることが多いため、一つ間違うと重大な結果を招く。特に2つ以上の薬剤のライン が交錯して流量設定を誤ったために、重大な結果となった事例も報告されている。輸液ポンプ の操作と共にラインの管理には十分事故防止対策が必要となる。具体的な対策としては、薬剤 と輸液ポンプ(流量設定)を間違えないために、薬剤ボトル、ライン、輸液ポンプの三者に薬 剤名を表示し、別の色を用いて勘違いを防止することも有効な方法である。輸液やカテーテル の交換時におけるミスとして、多くの場合確認ミスの原因は他の患者のIVH閉塞アラームと医師 の到着に対する懸念による焦りである。したがって、日常的に効率化の見直しや作業者同士の チェックなど、職場の職員全員で安全意識を高めていく必要がある。
4.医療行為の発生時点管理システム(POAS: Point of Act System)
米国ではNCC-MERP(National Coordinating Council for Medication Error Reporting and Prevention)がIT(情報技術)による事故防止を推奨している。そこで、筆者らはITとバーコード を用いて」、注射等の業務プロセスの中で、徹底した発生源入力を実現し、医療行為のプロセ ス管理を行うため医療行為の発生時点でリアルタイムに管理を行い、事故対策に対応できるシ ステムを開発した。医療行為発生時点管理システム(POAS:Point of Act System)とは、従来の 伝票管理を目的としたオーダリングシステムではなく、リアルタイムな実施入力を基本に考え
られたシステムである。
POASでは、診療に関わる指示だけでなく、指示受け、実施を含む医療行為の経過や実績も記 録する。具体的には、オーダリングシステムや電子カルテシステム等において、医師による指 示の発行、内容の変更、指示の中止の記録以外に、看護師による医師指示の確認、診療や医療 行為の実施記録、薬局、検査部門などの診療部門における指示の確認、指示に基づく行為の実 施記録も行う。従来のオーダリングシステムは、いわば大型印刷機であり、病院内で迅速に伝 票が印刷できることを可能としてきた。そこで、伝票運搬、再利用、コピー等の手間は大幅に 省力化できた。しかし、このデータの単位は伝票単位であるため、「いつ(when)、どこで(where)、
だれが(who)、だれに(to whom)、どういうふうに(how)、どういう理由で(why)、何をしたか(what was done)」といった実施情報を正確に記録できない。例えば、IVHカテーテルを中心静脈に留 置する作業は、カテーテルや医療材料を発注、病棟に運搬、一時的に保管、他の消毒器具など と一緒に準備、医師の穿刺介助、後片付けというように、多くのスタッフの共同作業になって いる。つまり、医師を含めて少なくとも5~6人、場合によっては10人以上がかかわっている。
しかし、伝票に記載されている実施者は、指示を出した医師のみであることが多く、その行為 に関わったすべての人間の5W1H情報は記録されていない。事故防止の観点からは、すべての医 療従事者の実施記録のみでなく、実施直前にリアルタイムに注意を促す仕組みが重要である。
具体的には、例えば投薬や注射を行う場合、医師や看護婦等の医療スタッフの個人識別を行い、
処方内容のバーコード、薬剤や注射液の識別のためのバーコードを、バーコード対応携帯端末 で次々と読みとり、誰がいつの時点で何を処方し、誰がいつの時点で実際に患者に投与したか、
あるいは投与出来なかったという場合等も含め、すべての診療行為のデータ化を図るのである。
画像検査時は医師のオーダからの情報がオンラインで各種検査システムに情報伝達されるので、
放射線検査以外に内視鏡検査、心電図や呼吸機能などの生理機能検査もDICOM (Digital Imaging and Communications in Medicine )という規格でオンライン接続することで入力伝達ミスは防 止できるし、撮影部位、条件など実施時のミスもチェック可能になる。
5.リアルタイムな情報処理による対策の効果
実施入力時点でのリアルタイムなエラーチェックにより、わずか数秒前に指示変更した場合 のような事故も防止でき、血液製剤、輸血などのロット管理が電子的に行え、輸血記録などの 管理が容易になる。このシステムでは、従来のシステムで把握できなかったリアルタイムの指 示変更が、調剤時、処方監査時、混注時、投与時それぞれに最新データと照合する。したがっ て、オーダ後の指示変更や破損、破棄などの情報も正確かつリアルタイムに扱えるので、在庫 管理も正確になる。
情報システムは、すべての診療行為のデータ化を図り、実施入力される時点でのエラーチェ ックにより事故を防止できる観点から、医療過誤対策の切り札になることが期待される。しか し、現場ではITのみでなく、人による判断が第一であることは言うまでもない。それを支える ために、POASでは病院医療スタッフの専門能力発揮を妨げる作業と要因を可能な限り排除し、
本来の使命である患者の診療に専念できる環境づくりを実現した。効率的医療が叫ばれる中で、
費用圧縮のあまり、患者と直接接触することが減ってはいけない。直接の処置や看護が増える
ように、省力化を図る中で、直接向き合う時間を増やす視点が重要であろう。一見矛盾するこ の改革のトレードオフポイントを決めるために、IT化が重要であり、実際に行われた医療行為 のデータを解析することが重要である。事故が起こる前のチェックも重要であるが、起こった 事象を個々の視点だけでなく、組織・システムとしての視点から分析することが再発を防ぐこ とにつながる。このような有害事象からの経験を現場にフィードバックすることによって、事 故対策のみならず患者本位の医療改革へとつながっていくだろう。
6.薬事法改正
2003年度施行の改正薬事法には、新しい生物由来製品というカテゴリーが設けられ、それが 医薬品であれ医療機器であれ共通の規制に基づく枠組みが提供される。生物由来特性を踏まえ た安全対策の充実に関して、製造開始段階、製造中において生物由来の特性を踏まえていった 場合にドナーの選択だとか原材料の安全性確保という部分が普通の化学薬品以上に必要とされ る。製造中の汚染防止やトラッキング時のための記録保管も整備する必要がある。それ以上に、
市販後段階での適切な表示、情報提供、適正使用のほか、ドナー使用者の追跡、感染症定期報 告の必要があり、それらの記録を管理することが重要になった。すでに血漿分画製剤では、ロ ット番号を伝票記載することでトレーサビリティを担保していたが、その中でITを用いた仕組 みが重要である。複雑な収集、分配を繰り返す血液分画製剤では、単一ロットに含まれる製剤 の血液供給元である人は複数になる。それらが更に収集、分配を繰り返すので、採血した人か ら投与した患者まで一気通貫で管理するのはIT以外には困難である。更に、今回の薬事法改正 により血漿分画製剤以外の生物由来製品に関しても、トレーサビリティが必要となった。そこ で、徹底した発生源入力であるPOASを用いて、特定生物由来製品に対する管理可能な物流シス テムも開発した。この物流システムは、入荷時にUCC/EAN128規格のバーコードを用いて、JANコ ードでチェックし、梱包単位でバーコードに含まれるロット番号を納品書に記載している。本 システムは、WEBブラウザとCORBAによる分散オブジェクト技術により構築されており、病棟部 門の電子カルテ端末や消毒可能な無線対応PDAにおいても利用可能である。
7.バーコードや電子タグの活用
このような医療機関内のトラッキングを円滑に行うためには、製造段階でのソースマーキン グが必須であるが、現状では流通レベルでも半数程度であり、消費レベルでの対応はわずかで ある。しかし、FDAの制度変更を受け、ファイザー製薬やアボット、ノバルティスなど欧米の企 業ではUnit Dose(実施単位)レベルまで、バーコードを貼付しようとしている。現在わが国で は、院内で実施単位まで、バーコード貼付作業を行っているが、米国のFDAでは義務化が制度化 された。
現在、医療資材における商品への標準化された識別表示は、医療材料については、日本医療 機器関係団体協議会が1998年4月に、「商品コード体系は商品識別コード体系であるJANコード、
バーコード表示はソースマーキングを前提にした国際標準であるUCC/EAN-128」を業界決定し、
現在は普及活用の段階にある。しかしながら医薬品、医療機器、小物医療材料の個装への商品 識別のコードの標準化と表示が進んでいない状況である。国際コード管理機構である国際EAN協
会(2005年1月よりGS1と改称)本部によると、欧米では投薬調剤ミス、手術ミス、誤診等を巡 り、患者が医師や病院を相手取って起こす損害賠償、それに関する負担増大が大きな社会問題 となっている。GS1によると、医療現場で薬剤管理や、投薬調剤関連のミスが多数存在する事が 報告されている。英国では1万件の深刻な医療過誤があり1,100人の患者が死亡している。1999 年米国では77万件の医療過誤の被害が発生し、そのうち8万人が亡くなっている。医療過誤によ り訴訟等で年間1,777億ドル(約19兆円)のコストがかかっている。一日1,600万投薬のうち2
%のエラー率で計算すると1日当たり32万件の投薬エラーが発生している。これらのミスの原 因は、医療スタッフが組織的に業務を実施できていないことや、似かよった表記の薬剤が多い。
これらのミスを防ぐにはバーコード表示によるデータ管理が有効であり、このうち70%は避け られるミスであると指摘している。
医薬品メーカーもFDAの規制化を踏まえ、患者の安全対策として医療材料や医薬品など医療資 材へのバーコードやRSS合成シンボルなどの識別表示が急速に進んでいた。前述の通り、FDAは、
患者安全の観点から医薬品のトレーサビリティを持たせる為、2003年3月にバーコードの推奨規 則(Bar Code Label Requirement For Human Drug Products and Blood)を公表し、2004年2 月には規制化に踏み切った。そのため欧米の製薬企業では、規制化に向けて着々と対応が進ん でいる。
8.トレーサビリティに活用するバーコード、電子タグ
トレーサビリティの意味は単にバーコードを貼付することで解決するような問題ではなく、
生産過程から消費時点(患者に投与)まで、追跡できることである。そのためには、生産過程 で付けたバーコードが張り替えられることなく、患者に投与するまで追跡できる体系が必須で ある。しかし、現状は欧米も我が国も流通過程で、バーコードの張り替えが行われており、そ の時点でロット番号などは追跡不能になる場合が生じる。張り替えミスが必発だからである。
張り替えをしないことがいいことであることが理解できても普及しない理由は、生産・消費(投 与)段階と物流段階で情報管理レベルが異なるからである。生産段階と消費(投与)段階にお ける管理単位はUnit Dose(1本、1錠単位)であるが、流通単位では梱包単位であり、その単 位も10本入り中箱からそれを10箱集めた段ボール、それを10箱まとめた(100本入り)段ボール、
複数のロット、複数の薬剤をまとめて運ぶパレットなど、取り扱う品物の粒度(大きさ)が違 うが、それらを一元的に取り扱える仕組みがなかったからである。単なるバーコードをつけた だけでは、途中で何度か張り替える必要があり、生産過程、集配流通過程、倉庫管理、配送過 程、院内流通など目的別に別々のシステムやデータベースとなり、データ連携が不十分になる 恐れが大きい。これらを解消し一元管理を行うため、国際EAN協会では統一したシステムを提唱 している。
すなわち、インフラとしてはインターネットを用い、XML等で情報交換を行う。その上で、扱 う情報を移動させる器(Data Carrier)として、UCC/EAN-128やRSS、RFID(電子タグ)を用い る。その中で運ぶデータは、GTIN、SSCCなどを使用する。GTINやSSCCの中に梱包単位や商品名 が入っている。GTINは消費単位、SSCCは流通単位に向いているフォーマットで、相互に互換性 があるのである。したがって、この仕組みを用いれば、バーコードの貼り替えが不要で、トレ
ーサビリティが担保できる。つまり、このような仕組みにより始めて完全な一気通貫である SCM(Supply Chain Management)が実現できる。
一方、院内での棚から先のベッドサイドまで、追跡できる仕組みも重要であるが、今回調査 した限りでは、現在このような仕組みで行っているのは国立国際医療センターのみであった。
そ こ で 、 国 立 国 際 医 療 セ ン タ ー の 取 り 組 み は 、 国 際 EAN 協 会 (GS 1 ) の ホ ー ム ペ ー ジ (http://www.ean-int.org/) で紹介されている。今後、標準化されたシステムの病院内への普 及が求められるが、このような医薬品のトレーサビリティにはバーコードのみでなく電子タグ が有用と考えられる。バーコードでも電子タグでも、そこで用いるコードの標準化が重要であ るが、厚生労働省医薬食品局安全対策課において、コード表示標準化検討会が設置されており、
今年度中には通知が出る予定である。
9.おわりに
医療における情報公開は重要であるが、情報をただ単に見せるだけでは不十分である。情報 を標準化することで、初めて医療情報の評価が可能になり、患者から見て医療の良悪の判断が つくようになる。効率的医療が叫ばれる中で、費用圧縮のあまり、患者と直接接触することが 減ってはいけない。直接の処置や看護が増えるように、省力化を図る中で、直接向き合う時間 を増やす視点が重要である。一見矛盾するこの改革のトレードオフポイントを決めるために、
ユビキタス時代の電子化が重要であり、電子タグなどを活用することによって、実際に行われ た医療行為のデータを解析することが重要である。ユビキタスネットワーク、グリッド、電子 タグなどは手段であり、それを患者・利用者の視点から、如何に使うかが重要な点であり、手段 が目的化してはいけない。
事故防止システムなど、事故が起こる前のチェックも重要であるが、起こった事象を個々の 視点だけでなく、組織・システムとしての視点から分析することが再発を防ぐことにつながる。
このような有害事象からの経験を現場にフィードバックすることによって、より安心・安全な 医療が実現されるだろう。
文 献
1)川村治子、看護のヒヤリ・ハット事例の分析、平成11年度厚生科学研究「医療のリスクマ ネジメントシステム構築に関する研究」、2000.
2)秋山昌範, 医療行為発生時点情報管理によるリスクマネジメントシステム, 医療情報学 20 (Suppl. 2): 44-46, 2000
3)Brown D. A, New Prescription For Medical Errors: Hospital Touts Computer System That Alerts Doctors to Potential Mistakes Over Medication,
http://washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A19986-2001Mar17.html
4)秋山昌範:国立病院における医療材料の情報標準化について―POS(消費時点物流管理)
システムの病院物流管理への応用―,医工学治療,12巻4号,886-889,2000.
5)Akiyama M., Migration of the Japanese healthcare enterprise from a financial to integrated management: strategy and architecture, Medinfo.10(Pt 1):715-718,2001.
6)秋山昌範.ITで可能になる患者中心の医療(秋山昌範).日本医事新報社,ISBN4-7849-7278-1.
2003.
7)厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール, 厚生労働省, 2003.12.24.
2.医薬品・医療材料 製品流通及びトレーサビリティ・システム
2-1 主 旨
2-3に「製品流通及びトレーサビリティ・システム図」の概要を紹介 する。これらのネットワーク図については、医薬品と医療材料業界の幾多 の業界団体、メーカー、卸販売業、医療機関、システム開発会社等が相互 に関連、連携している。
システム図をご覧いただくにあたり、予めこれらの団体、組織について 以下「2-2 業界団体・組織の解説」文を一読いただき、その後「2-
3製品流通及びトレーサビリティ・システム図」をご覧いただきたい。
2-2 業界団体・組織の解説
(1) (財)医療情報システム開発センターとは
(財)医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)は、医療情報システムに関する基本的かつ総合 的な調査、研究、開発及び実験を行うとともに、これらの成果の普及および要員の教育研修等を行 うことにより、医学、医術の進展に即応した国民医療の確保に貢献し、国民福祉の向上と情報化社 会の形成に寄与することを目的として 1974 年7月に設立された、厚生労働省及び経済産業省の共管 の財団法人である。広汎な調査・研究・開発事業のうち、標準マスターについては、病名、手術処 置、検査、医薬品、医療材料、症状・所見の各データベースの開発、販売、これに伴う講演会開催 などの活動を行っている。www.medis.or.jp/参照。
(2) 製品マスターサービス業とは
製品がメーカーにより企画/製造/販売されることから製品に関する情報が発生する。市場 に出回る製品を固体識別するための製品情報と識別コードをセット化したものをここでは“製 品マスター”と呼ぶ。
例えば、医療材料の”製品マスター”の識別コードとしては、JANコードやメディエコー ドがあり、そのコードをキーとした”製品マスター”として、(財)医療情報システム開発セン ターの「標準医療材料マスター」や㈱ティエムシーの「メディエ」がある。
卸販売業、SPD 会社、医療機関等が“製品マスター”を活用することで、メーカーから流通 業を経て、医療の現場まで一貫した固体識別が可能となり、業界における業務全体の効率化、
コスト削減が期待できる。一方、”製品マスター”を維持するには、情報の収集、コードの発番、
データの登録業務とメンテナンス、市場への提供、マスター利用者の要望やクレームの対応な どの作業が必要となる。これらの作業を行って、市場に“製品マスター”を提供する会社が”
製品マスターサービス業”である。
(3) SPD 会社とは
医療材料を主とした物品の「流通」および「病院内の物品物流管理(SPD)」を担当する事 業体である。医療機器販売業、商社、医療事務、滅菌代行業、流通サービス業、メーカーなど の本体および子会社など 幅広い業種が参入している。
SPDサービス業務は、①病院内のSPD業務のみを行う ②院外からの物品供給とSPD 業務を行う等、2 つのパターンに大別され、物品供給の方式としては、①外箱、中箱から小箱・
個包装への分割としての供給があり ②外箱、中箱のままの供給がある。
取引形態については、通常売買、預託方式による消費後払いがあり、SPD会社が一括調達 業務を担当するケースもある。
(4) MeBiTSメ ビ ッ ツとは
「 生物 由来 製品 譲 渡報 告書 共同 整理 シス テム 」 のシ ステ ム名 称で あ り、 Medical Bio Traceability System を略して「MeBiTS」(発音メビッツ)と呼称している。
本システムは、改正薬事法により生物由来製品取扱いメーカー及び販売業者等に対して新た に設けられた譲渡情報の報告と記録及び保存の義務(平成 15 年 7 月 30 日施行)に対応するた め、医療機器・材料業界情報協議会(@MD-Net)が医機連(旧 日医機協)や(社)日本自動 認識システム協会及び生物由来製品取扱いメーカー5 社の協力のもとに構築したシステムで、
平成 16 年 10 月より運用が開始されている。
仕組みは、インターネットの Web を利用して、本システムが販売業者等から一括して参加メ ーカーへの譲渡報告を受け、全体で 100 万件近いといわれる譲渡情報の報告データを自動的に 各メーカー別に整理するというものである。これは、従来の各メーカーごとのバラバラの個別 報告方式と較べ、報告データの精度が飛躍的に改善するだけでなく、一括入力することで報告 者側である販売業者等の作業負担を軽減することにもなる。なお、本システムは、販売業者等 であれば登録することによって誰でも無償で利用することができる。
現時点で本システムに参加しているメーカーは、生物製品取扱いメーカー30 社の内、開発に 参画した 5 社のみであるが、5 社は出荷量において上位メーカーであることや、参加を検討中 のメーカーも複数あることから、今後さらに報告率の改善が期待されている。
詳しくは、 MeBiTS ホームページ(https://www.mebits.jp/)を参照のこと。
(5) J D - N E Tジェイデーネットとは
医薬品業界の商取引情報の EDI システムとして、1988 年からサービスを提供しており、医薬 品業界標準フォーマットを基本に制定され、9 桁の商品コードおよび 3 桁の企業コードが利用 されている。参加企業数、利用件数ともに特定分野の EDI としては、国内最大級の規模を誇り、
かつ医薬品業界のインフラネットワークとして重要なシステムとして位置付けられている。
2005 年 2 月末現在 卸会員は 158 社、メーカー会員は 255 社であり、2004 年度の月間平均利用 件数は 5,100 万件/月となっている。2004 年 8 月から第 4 次システムがスタートしている。事 務局は JD-NET 協議会である。
(6) J -M i cジェイミックとは
Japan Medical Instruments Information Center の略称で、正式名称は「日本医療機器・材 料情報センター」である。
J-MiC は日本医療機器販売業協会(医器販協)の情報部会の中に設置された、医器販協会員 のための医療材料データベースの構築および配信組織であり、当面、J-MiC の会員は医器販協 加入企業となっている。(編集部注: J-MiC のデータベースは会員制となっており、現状 医 器販協会員のみに提供され、いわゆる会員専用の利用となっている。)
医療材料業界に向けて、業界標準データベース実現のため、関連機関との協力および連携を行 い、医療材料データベースの精度アップ、登録件数の拡大・項目内容の充実を目的としている。
また、卸業者向けに卸業者のニーズを網羅した JAN コード未設定アイテムを含めた、より多く のデータベースの管理を行い、的確なメンテナンスと配信をしている。
尚、2 年毎、厚労省が行なっている特定保険医療材料価格調査用製品リスト作成について J-
MiC も参加している。http://host.jahid.jp/form-j-mic.html 参照。
医薬品・医療材料 医薬品・医療材料
製品流通及びトレーサビリティ 製品流通及びトレーサビリティ
システム図 システム図
2-3 製品流通及びトレーサビリティ・システム図
医薬品 製品流通フロー図 ( 現在の姿 )
医療機関 病院・薬局
製造業
・輸入元
出荷 検品
JANコード、ITFコード によるデータ読取
二次 卸販売業 物流センタ
・営業所 入荷
受入 出荷
検品
SPD会社 物流センタ
SPD会社 院内 物流
院内 物流 入荷
受入
入荷 受入
資材 業務 委託 製造業
・輸入元
出荷 検品
入荷 受入
医薬品DB
医薬品DB
医薬品DB
製品の流通
一次 卸販売業 物流センタ
・営業所
出荷 検品
卸販売業 維持 メンテ
直 送 直 送
業務システム 医薬品DB
医薬品 製品流通と生物由来製品トレーサビリティの関連図 ( 現在の姿 )
医療機関 病院・薬局
製造業
・輸入元
出荷 検品
二次 卸販売業 物流センタ
・営業所 入荷
受入 出荷
検品
SPD会社 物流センタ
・営業所
SPD会社 院内 物流
院内 物流 入荷
受入
資材 業務 委託 製造業
・輸入元
出荷 検品
入荷 受入
医薬品DB
医薬品DB
一次 卸販売業 物流センタ
・営業所 入荷
受入
出荷 検品 受領報告
受領報告 受領報告
納品受領書
納品受領書 受領報告
製品マスタ連絡
製品情報ダウンロード
製品マスタ連絡
製品マスタ連絡
製品受領報告(伝票)
JD-NET
製品の流通
卸販売業 維持メ
ンテ 製品 直納
出荷データ
(基幹EDI・Web-EDI) 業務システム
医薬品DB 業務システム
医薬品DB
出荷データ
(基幹EDI・Web-EDI) 出荷データ
(基幹EDI・Web-EDI) 直 送
標準医薬品マスター
( 財 ) 医療情報システム開発センター
業務システム 医薬品DB
医薬品 製品流通と生物由来製品トレーサビリティの関連図 ( あるべき姿 )
医療機関 病院・薬局
製造業
・輸入元
出荷 検品
二次 卸販売業 物流センタ
・営業所 入荷
受入 出荷
検品
SPD会社 物流センタ
・営業所
SPD会社 院内 物流 出荷
入荷 検品 受入
院内 物流 入荷
受入
資材 業務 委託 製造業
・輸入元
出荷 検品
入荷 受入
医薬品DB
一次 卸販売業 物流センタ
・営業所 入荷
受入
出荷 検品 受領報告
受領報告 受領報告
受領報告
受領報告 受領報告
製品マスタ連絡
製品情報ダウンロード
製品マスタ連絡
製品マスタ連絡
製品マスタ連絡
製品受領報告(伝票)
JD-NET
製品の流通
卸販売業 維持メ
ンテ 製品 直納
出荷データ
(基幹EDI・Web-EDI)
医薬品DB 業務システム
医薬品DB 業務システム
医薬品DB
出荷データ
(基幹EDI・Web-EDI) 出荷データ
(基幹EDI・Web-EDI)
(小分け・在庫管理
・払い出し) 業務システム
医薬品DB
標準医薬品マスター