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北大構内のニセアカシアにおける ベッコウタケの発生状況と 根返り耐力への影響 北海道大学農学部 森林科学科木材工学研究室 生駒勇二

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北大構内のニセアカシアにおける

ベッコウタケの発生状況と

根返り耐力への影響

北海道大学 農学部

森林科学科 木材工学研究室

生駒 勇二

(2)

2

目次

第1章 序論………..3 第2章 方法………..4 2.1 ニセアカシアの同定……….4 2.2 子実体調査……….4 2.3 引き倒し試験……….5 2.3.1 供試木………..5 2.3.2 引き倒し試験………..6 2.3.3 樹幹傾斜角および根元モーメントの算出………..8 第3章 結果と考察………..9 3.1 北大構内のニセアカシアにおけるベッコウタケの発生状況………...9 3.1.1 ニセアカシアの分布………..9 3.1.2 ベッコウタケ菌害木の個体数と割合および分布………....11 3.1.3 子実体乾燥重量………14 3.1.4 子実体最高発生高さ………15 3.1.5 子実体最高発生方位………16 3.2 ベッコウタケがニセアカシアの根返り耐力に与える影響………...17 3.2.1 根返り時の樹幹傾斜角………17 3.2.2 根返りモーメントと胸高直径の関係………20 3.2.3 根返り耐力比………21 3.2.4 連年菌害木根返りモーメントの推定式の決定………22 3.2.5 根返り限界風速の試算………23 第4章 結論……….25 第5章 謝辞………...……….26 第6章 引用文献……….26

(3)

3 第 1 章 序論 近年、ベッコウタケによる緑化樹の倒伏被害が各地で発生しており、深刻な問題となっ ている(福田 2011)。北海道大学構内においても、ニセアカシアおよびハリギリでベッ コウタケの発生が確認されており、ニセアカシアについては2009 年 12 月の強風および 2015 年 9 月の台風で数本が倒伏するにいたった。幸いにして北大構内においてはこれま で人的被害は発生していないものの、非常に危険な状態であることは間違いなく、早急な 対策が求められている。 ニセアカシアは我が国の重要な緑化樹種であり、札幌市の街路樹としてはナナカマド、 イチョウ、カエデ類に次いで4 番目に多く、約 2 万本が植栽されている(札幌市 2016)。また、ニセアカシアは典型的な強光利用型の先駆樹種であるため成長力が旺盛 で、野生化して分布を拡大しているため、道路沿いなど植栽されていない場所にも非常に 多く見られるようになっている。したがって、ベッコウタケが発生したニセアカシアの倒 伏の危険度を正確に診断することは非常に重要だと考えられる。 ベッコウタケによる腐朽病害の診断方法としては、子実体の発生有無の調査による方 法、γ線樹木腐朽診断機を用いた方法、およびレジストグラフを用いた方法などがある (国土交通省 2012)。γ線樹木腐朽診断機およびレジストグラフを用いた方法は、樹幹 内部の腐朽率(空洞率)を非破壊的に測定することで腐朽病害を診断するものであり、樹 幹内部の腐朽が十分に進行している樹木には有効であるが、腐朽病害の感染初期を診断す ることはできない(福田 2011)。また、これらの方法は根系の腐朽状況を直接観測する ものではないため、根系の腐朽に起因する樹木の倒伏の危険度を正確に診断できない可能 性があると考えられる。子実体の発生有無の調査による方法は、特定の器具を必要とせ ず、比較的容易に行うことができるという利点があるものの、子実体の発生状況と樹木の 倒伏の危険度との関係は定量的には明らかにされていない。 樹木の倒伏の破壊形態には大きく分けて根返りと幹折れがあるが、ベッコウタケは根株 腐朽菌であることから、ベッコウタケの腐朽病害として引き起こされるのは主として根返 りである。 本研究では、北大構内のニセアカシアにおけるベッコウタケ子実体の発生状況を明らか にし、さらに、ベッコウタケが発生したニセアカシアの根返り耐力を定量的に評価し推定 することを目的とした。

(4)

4 第 2 章 方法 2.1 ニセアカシアの同定 北海道大学構内(札幌市北区)におけるニセアカシア(Robinia pseudoacacia)の分布 を把握するために、北大構内全域を踏査しニセアカシアの同定を行った。ニセアカシアと 同定されたもののうち胸高直径が10cm 以上の個体について、樹幹にナンバーテープを張 り付け、胸高直径(DB)および樹高(H)を記録し、さらに位置をGPS(GARMIN 製、 eTrex Legend HCx)で記録した。 2.2 子実体調査 2.1 で記録した胸高直径 10cm 以上のニセアカシアを対象に、6 月から 7 月にかけてベッ コウタケ(Perenniporia fraxinea)子実体の有無を調査した。なお、ベッコウタケの子実 体は一年生であるが、去年以前に発生した子実体も残存していたため、今年新たに発生し ている子実体を「当年発生子実体」、残存している去年以前の子実体を「過年発生子実 体」として区別し、それぞれについて有無を記録した。図1 に調査時の当年発生子実体と 過年発生子実体を示す。当年発生子実体は淡い黄色あるいはオレンジ色を呈し外縁部が丸 みを帯びているのに対して、過年発生子実体は風化によって白っぽく変色しており外縁部 は薄くなっている。これらのことから当年発生子実体と過年発生子実体は容易に識別する ことができる。なお、ベッコウタケ子実体の同定は目視のみによって行った。 調査結果に基づいて、ニセアカシア個体を以下の4 種類に分類した。 連年菌害木:当年発生子実体、過年発生子実体の両方が発生している個体 新規菌害木:当年発生子実体のみが発生している個体 消失菌害木:過年発生子実体のみが発生している個体 健全木:当年発生子実体、過年発生子実体のいずれも発生していない個体 さらに、新規菌害木および連年菌害木について、当年発生子実体の発生の程度を定量化 することを目的として以下の調査を行った。まず、各個体で最も高い位置にある当年発生 子実体の地際からの高さ(子実体最高発生高さ(Hmax-F))とその方位(子実体最高発生方 位)を測定した。その後、子実体の成長がおおむね停止していることを確認し、9 月から 10 月にかけてすべての当年発生子実体を採集した。採集した子実体を送風機付き乾燥機に よって60℃で恒量に達するまで乾燥し、子実体乾燥重量(WF)を記録した。乾燥させた 子実体はサンプルとして保存しており、今後顕微鏡観察およびDNA 解析を行う予定であ る。なお、過年発生子実体については風化や剥離の程度が個体によって大きく異なったた め、発生の程度を正確に評価することが困難であると考えてこれらの調査を行わなかっ た。

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5 以上の調査で得られた結果から、北大構内に生育する胸高直径10cm 以上のニセアカシ アについて、胸高直径、樹高、過年発生子実体・当年発生子実体の有無、子実体乾燥重 量、子実体最高発生高さ、および子実体最高発生方位の情報を持つGIS データを整理し た。データの整理にはQGIS 2.14.3 を用いた。 図1 ベッコウタケ当年発生子実体と過年発生子実体 2.3 引き倒し試験 2.3.1 供試木 調査の結果に基づき、連年菌害木・健全木それぞれから引き倒し試験の供試木を選定し た(表1)。供試木数は連年菌害木 10 個体、健全木 11 個体とした。供試木の選定にあたっ ては、根返り耐力とDBとの関係を考察するために、DBができるだけばらつくよう考慮し た。また、連年菌害木については、DBに加えて

W

Fおよび

H

max-Fもできるだけばらつく ように供試木を選定した。これらの供試木について、2.1 および 2.2 で測定した項目に加 えて、樹冠幅(BC)および枝下高(HC)を測定した。ただし、4 本の供試木(K-4、R-5、R-7、および R-9)については、作業の都合上、引き倒し試験を行う前に樹冠を切り払 っていたため、BCおよびHCのデータを記録することができなかった。なお、新規菌害木 および消失菌害木については、個体数が十分に多くなかったため引き倒し試験を行わなか った。 過年発生子実体 当年発生子実体

(6)

6 表1 引き倒し試験供試木の概要 分類 番号

D

B

H

B

C

H

C

W

F

H

max-F

H

D

H

L

θ

L (cm) (m) (m) (m) (g) (cm) (m) (m) (rad) 連年 菌害木 R-1 19.5 14.4 4.6 5.0 31.7 9.0 1.0 3.9 0.25 R-2 27.4 28.3 7.1 6.1 105.2 23.0 1.2 4.3 0.28 R-3 29.9 27.6 2.8 7.8 50.0 15.0 1.2 5.0 0.36 R-4 32.5 28.2 5.9 13.4 292.3 50.0 1.2 4.5 0.21 R-5 35.4 23.7 - - 272.1 82.0 1.2 4.9 0.27 R-6 35.4 25.2 7.4 9.5 390.9 72.0 1.2 4.4 0.24 R-7 37.5 22.5 - - 36.0 7.0 1.2 5.1 0.28 R-8 38.1 27.4 12.9 8.2 432.2 58.0 1.2 5.1 0.41 R-9 40.3 20.6 - - 546.1 36.0 1.2 5.9 0.47 R-10 40.5 29.2 10.0 7.9 385.8 59.0 1.2 5.3 0.25 健全木 K-1 10.7 10.4 6.4 2.7 - - 1.0 1.8 0.23 K-2 11.5 12.9 4.2 3.7 - - 1.0 2.4 0.21 K-3 13.0 6.2 7.4 1.9 - - 1.0 2.0 0.11 K-4 18.3 10.1 - - - - 1.0 4.0 0.24 K-5 19.3 20.6 3.4 8.0 - - 1.0 3.9 0.23 K-6 19.6 25.7 2.9 8.3 - - 1.0 3.5 0.14 K-7 23.0 22.0 6.6 3.4 - - 1.0 3.2 0.20 K-8 24.1 22.1 5.7 6.9 - - 1.2 4.0 0.26 K-9 25.5 19.0 11.1 3.8 - - 1.2 3.8 0.16 K-10 30.7 13.1 7.9 7.8 - - 1.2 4.8 0.28 K-11 33.0 15.0 8.3 7.8 - - 1.2 5.2 0.36

D

B:胸高直径

H

:樹高

B

C:樹冠幅

H

C:枝下高

W

F:子実体乾燥重量

H

max-F:子実体最高発生高さ

H

D:変位計高さ

H

L:加力点高さ

θ

L:加力角度 2.3.2 引き倒し試験 供試木の樹幹に荷役用スリングを巻き付け、スリングに連結したワイヤーを手動ウィン チ(能力30kN)で巻き上げることにより供試木に引張荷重を加えた。スリングとワイヤー の間に連結したロードセル(50kN 容量)で荷重(P)を検出し、樹幹の地上高1m 付近に 設置した巻き取り式変位計(共和電業製、DTP-D-500S)で樹幹の水平変位(δ)を測定し た(図2)。荷重および変位は 0.2 秒間隔でデータロガー(共和電業製、EDX-10A)に記録 した。データロガーはタブレットに接続し、荷重と変位をタブレットで随時確認しながら最 大荷重を超えるまで加力した。引き倒し試験の概略を図3 に、引き倒し試験の様子を図 4 に 示す。なお、変位計高さ(HD)、加力角度(θL)、および加力点高さ(HL)は加力を行う前

(7)

7 に測定した。また、加力方向については作業の都合から決定し、子実体の発生方位は考慮し なかった。引き倒し終了後、樹幹を地上高約30cm のところで玉切りし、年輪数から樹齢を 求めた。 図2 巻き取り式変位計 図3 引き倒し試験の概略図

(8)

8 図4 引き倒し試験の様子 2.3.3 樹幹傾斜角および根元モーメントの算出 引き倒し試験で測定した数値から、以下の式によって樹幹傾斜角(θS)および根元モー メント(MR)を算出した。 θS = atan𝛿 𝐻𝐷 (1)

MR = P cosθL HLcosθS + P sinθL HLsinθS (2)

ここで、δ:水平変位(mm) HD:変位計高さ(mm) P:荷重(kN) θL:加力角度(rad)

HL:加力点高さ(m)。

ただし、樹幹の回転中心は地際にあるものと仮定した。また、樹幹の曲げ変形成分は無 視した。さらに、樹幹の傾斜に伴って重心が移動することによる付加モーメントの影響は 無視した。

(9)

9 第 3 章 結果と考察 3.1 北大構内のニセアカシアにおけるベッコウタケの発生状況 3.1.1 ニセアカシアの分布 同定されたDB10cm 以上のニセアカシアは 837 個体であった(図 5)。ニセアカシアは北 大構内の全域にわたって群生して分布していたが、特にサクシュコトニ川沿いに集中して いるようであった。北24 条通り沿いの数十本は植栽されたものであったが、それ以外の個 体はすべて天然更新したものであると考えられる。本研究では調査対象としなかったがDB 10cm 未満の個体も非常に多く、今後継続して調査すればニセアカシアの個体数や分布域の 変化を明らかにできるだろう。 径級別に個体数をみると、DB 10~20cm で最も多く、径級が大きくなるにしたがって個 体数が少なくなる傾向が見られた(図6)。DBの最大値は108.5cm であった。 図5 北大構内におけるニセアカシアの分布

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10 図6 ニセアカシアの径級分布 0 50 100 150 200 250 10 ~ 20 20 ~ 30 30 ~ 40 40 ~ 50 50 ~ 60 60 ~ 70 70 ~ 80 80 ~ 90 90 ~ 個体数 (本 ) 胸高直径(cm)

(11)

11 3.1.2. ベッコウタケ菌害木の個体数と割合および分布 各分類のニセアカシアの個体数とその割合を表2 に示す。837 個体のうち、菌害木(連年 菌害木、新規菌害木、および消失菌害木)の個体数は80 個体であり、菌害木率(菌害木個 体数が調査数に占める割合)は9.6%であった。消失菌害木が 1 個体のみであったことから、 一度子実体が発生した個体ではほとんどの場合連続して子実体が発生し続けていることが 示唆された。なお、ベッコウタケ以外の根株腐朽菌としては、3 個体でサルノコシカケ目の 未同定種(Polyporales spp.)発生していたのみであった。このことから、北大構内のニセ アカシアにおける根株腐朽菌としてはベッコウタケが圧倒的に優占しているといえる。 表3にサクラにおけるベッコウタケ当年発生子実体の発生有無の調査結果(福田 2011) と本研究の調査結果との比較を示す。樹種が異なること、および福田の調査対象が街路樹で あることを考慮すると単純な比較はできないが、北大構内のニセアカシアにおける当年発 生子実体発生率はいずみ野、角館に次いで高いことがわかる。なお、ニセアカシアにおける ベッコウタケ子実体の発生有無の研究はみられず、今後データを蓄積する必要があると考 えられる。 表2 各分類のニセアカシアの個体数および割合 健全木 菌害木 合計 連年 新規 消失 計 個体数(本) 757 62 17 1 80 837 割合(%) 90.4 7.4 2.0 0.1 9.6 100.0 表3 当年発生子実体発生個体数とその割合の既往研究との比較 樹種 調査地 調査数 (本) 当年発生子実体 発生個体数 (本) 当年発生子実体 発生率 (%) 本研究 ニセアカシア 北大構内 837 79 9.4 福田 2011 サクラ 角館 409 40 9.8 日光街道 854 62 7.3 小金井公園 584 49 8.4 小金井並木 651 13 2.0 富士森公園 373 19 5.1 いずみ野 150 18 12.0

(12)

12 各分類のニセアカシアの分布を図 7 に示す。菌害木は空間的に集中して分布しており、 ベッコウタケが胞子あるいは菌糸によって近接するニセアカシアに感染していることが示 唆された。ただし、それらのニセアカシアは根萌芽によって発生した同一個体である可能性 もあり、これを明らかにするには更なる調査が必要である。 図7 北大構内における各分類のニセアカシアの分布

(13)

13 各分類のニセアカシアの径級別の個体数とベッコウタケの菌害木率を図8 に示す。菌害 木はすべての径級で存在しており、菌害木のDBの最小値は11.5cm、最大値は 108.5cm で あった。新規菌害木はDB 70~80cm を除くすべての径級で見られた。その結果、DB 50cm 以下の範囲においては、DBが大きいほど菌害木率が高い傾向が見られた。一方、DB >50cm の範囲では、新規菌害木が存在するにもかかわらず菌害木率が減少していた。こ のことは、DB >50cm の範囲で新規菌害木の個体数より菌害木の減少数のほうが大きいこ とを意味している。北大構内においては菌害木の伐採は行われていないため、菌害木が減 少する要因としては菌害木の倒伏あるいは枯死が考えられる。すなわち、DB >50cm の範 囲では、倒伏あるいは枯死する菌害木の個体数が新規菌害木の個体数を上回っていること が示された。 図8 各分類の径級別の個体数と菌害木率 0 5 10 15 20 25 30 35 0 50 100 150 200 250 10 ~ 20 20 ~ 30 30 ~ 40 40 ~ 50 50 ~ 60 60 ~ 70 70 ~ 80 80 ~ 90 90 ~ 菌 害 木率 ( % ) 個体数 (本 ) DB(cm) 新規 連年 消失 健全木 菌害木率

(14)

14 3.1.3. 子実体乾燥重量 子実体乾燥重量(WF)と胸高直径(DB)との関係を図9 に示す。新規菌害木ではDBに かかわらずWFがおよそ200g 以下にとどまっており、新規菌害木のWFの平均値は57.4g であった。一方、連年菌害木ではWFの平均値が256.1g と、新規菌害木と比較して有意に 大きい結果となった。また、連年菌害木ではDB 60cm までの範囲においては大径木ほどWF が大きい傾向が見られた。これらのことから、子実体が新規に発生する年には発生量は少な く、子実体が連続して発生するにしたがって発生量が多くなることが示唆された。なお、大 径木ほどWFが大きい傾向がDB 60cm 以上の範囲において見られない原因としては、3.1.2 で述べたことと同様、DB が 60cm 以上でWFが大きい連年菌害木が倒伏・枯死しているこ とが考えられる。 図9 子実体乾燥重量(WF)と胸高直径(DB)の関係 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 0 20 40 60 80 100 120 WF ( g) DB(cm) 新規 連年

(15)

15 3.1.4 子実体最高発生高さ 子実体最高発生高さ(Hmax-F)と胸高直径(DB)の関係を図10 に示す。新規菌害木のH max-Fの平均値は15.7cm、連年菌害木のHmax-Fの平均値は41.1cmであり、子実体乾燥重量(WF) と同様、新規菌害木が連年菌害木に比べて有意に低い結果となった。また、連年菌害木につ いて径級が大きいほどHmax-Fが高い傾向が見られたことも WFと同様である。これらのこ とから、子実体が連続して発生するにしたがってHmax-Fが高くなることが示唆された。 図10 子実体最高発生高さ(Hmax-F)と胸高直径(DB)の関係 0 20 40 60 80 100 120 0 20 40 60 80 100 120 Hmax -F ( cm ) DB(cm) 新規 連年

(16)

16 3.1.5 子実体最高発生方位 子実体最高発生方位(4 方位)ごとの菌害木個体数に有意差はなかった(図 11)。本研究 で調査対象とした菌害木のほとんどは密集した藪の中に位置しており、林床に光が届きに くい環境であることから、方位による温度環境や水分環境の差異が少なかったことが影響 している可能性がある。 図11 子実体最高発生方位ごとの菌害木個体数 ただし、図中の縦線は標準誤差を示す。 0 5 10 15 20 25 30

西

個体数(本)

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17 3.2 ベッコウタケがニセアカシアの根返り耐力に与える影響 3.2.1 根返り時の樹幹傾斜角 代表的な供試木の根元モーメント(MR)と樹幹傾斜角(θS)の関係を図12 に示す。根 元モーメントの最大値を根返りモーメント(Mup)とし、根返り耐力の指標として評価す る。引き倒し試験の結果、小径の健全木2 本(K-1、K-2)は幹折れで破壊し、その他の供 試木はすべて根返りで破壊した(表4)。根返り時の樹幹傾斜角は 3°~27°であり、平均 値は9.3°であった。健全木に着目すると、DBが大きい供試木ほど根返り時の樹幹傾斜角 が小さい傾向にあった(図13)。この傾向はスギおよびカラマツにおける既往の引き倒し 試験結果と一致している(鳥田 2009 ; 森岡ら 1987)。一方、連年菌害木では明確な傾 向はみられなかった。 図12 代表的な供試木の根元モーメント(MR)と樹幹傾斜角(θS)の関係 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 2 4 6 8 10 12 14 16 MR ( k N m ) θS(°) S-11 根返りモーメント (

M

up) 根返り時の樹幹傾斜角

(18)

18 表4 引き倒し試験の結果 分類 番号 破壊形態 根返りモーメント 根返り時の 樹幹傾斜角 樹齢 (kNm) (°) (年) 連年 菌害木 R-1 根返り 32.8 7.4 34 R-2 根返り 52.9 5.8 27 R-3 根返り 110.0 9.1 34 R-4 根返り 99.2 3.7 34 R-5 根返り 139.2 5.5 34 R-6 根返り 100.0 3.3 32 R-7 根返り 152.4 7.0 33 R-8 根返り 120.9 5.7 31 R-9 根返り 124.4 13.7 31 R-10 根返り 85.6 6.0 29 健全木 K-1 幹折れ 9.4 27.4 13 K-2 幹折れ 14.7 16.4 9 K-3 根返り 9.6 5.5 18 K-4 根返り 26.0 6.7 25 K-5 根返り 40.2 8.7 27 K-6 根返り 60.9 13.8 29 K-7 根返り 56.1 16.4 14 K-8 根返り 70.7 7.6 24 K-9 根返り 75.1 13.5 12 K-10 根返り 120.5 7.1 32 K-11 根返り 136.6 5.9 29

(19)

19 図13 根返りモーメント時の樹幹傾斜角と胸高直径(DB)の関係 0 5 10 15 20 25 30 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 根返 り モー メン ト時 の樹 幹傾 斜角 ( ° ) DB(cm) 連年菌害木 健全木

(20)

20 3.2.2 根返りモーメントと胸高直径の関係 図14 に全供試木の根返りモーメント(Mup)と胸高直径(DB)の関係を示す。一般に樹 木のMupはDBのべき乗に比例することが知られているが、健全木の根返りモーメント(M up-K)についてはその傾向によく当てはまる結果となり、DBの約2.8 乗に比例した。Mup-Kと DBの回帰式は式(3)で表される。 Mup-K = 0.0103 DB 2.7555 (3) ここで、Mup-K : 健全木の根返りモーメント(kNm) DB: 胸高直径(cm)。 なお、本研究で引き倒し試験を行った健全木のDBは10.7~33.0cm の範囲であったが、 DB 33.0cm 以上の範囲においてもMup-KとDBの回帰式(式(3))が当てはまると仮定して以 下の考察を進める。 図14 根返りモーメント(Mup)と胸高直径(DB)の関係 図15 に、ニセアカシアにおける既往の引き倒し試験結果と本研究の引き倒し試験結果を 重ねて示す。既往の試験結果は、山林(兵庫県)のニセアカシア(大野ら 2014)、街路樹 (札幌市)のニセアカシア(小泉ら 2007)およびベッコウタケが複数年発生した北大構 内のニセアカシア(関矢ら 2009)である。健全木は山林のニセアカシアとほぼ同等の根 返り耐力を示す結果となった。一方、健全木と街路樹のニセアカシアを比較すると、小径で はほぼ同等の根返り耐力を有するものの、大径になると街路樹の根返り耐力が健全木のそ れに対して小さくなることがわかる。これは、街路樹の植栽ますの影響であると考えられる。 y = 0.0103x2.7555 R² = 0.9316 0 50 100 150 200 250 0 10 20 30 40 50 Mup ( kN m ) DB(cm) 連年菌害木 健全木 健全木(幹折れ) 健全木回帰曲線

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21 すなわち、街路樹は径級が小さいうちは植栽ますによる根張りの伸長の制約を受けること はないため山林の樹木と同等の根返り耐力を示すが、大径になると植栽ますによって根張 りの伸長を制約されるために根返り耐力が山林の樹木より低くなるのである。また、本研究 で引き倒し試験を行った連年菌害木と関矢ら(2009)の結果を比較すると、ほぼ同様の傾 向を示していることがわかる。なお、関矢らが引き倒し試験を行ったニセアカシアについて は、連年菌害木であったことはわかっているものの、子実体乾燥重量や子実体最高発生高さ の測定は行われていない。 図15 既往の引き倒し試験結果との比較 3.2.3 根返り耐力比 連年菌害木の根返りモーメント(Mup-R)と、健全木の根返りモーメント(Mup-K)の回帰 曲線(式(3))との比(根返り耐力比(Mup-R /Mup-K))を算出した。根返り耐力比は0.31~ 0.92 の値をとり、平均値は 0.62 であった。すなわち、連年菌害木の根返りモーメントは健 全木の根返りモーメントと比較して約4 割小さい結果となった。 次にMup-R /Mup-Kと子実体乾燥重量(WF)との関係をみると、有意な負の相関が認めら れた(有意水準1.1%)(図 16)。Mup-R/Mup-KとWFの回帰式は式(4)で表される。 Mup-R/Mup-K = -0.0008 WF + 0.8185 (4) ここで、Mup-R/Mup-K : 根返り耐力比 WF : 子実体乾燥重量(g)。 0 50 100 150 200 0 10 20 30 40 50 Mup ( kN m ) DB(cm) 連年菌害木 街路樹(小泉ら 2007) ベッコウタケ菌害木(関矢ら 2009) 式(3) 山林(大野ら 2014)

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図16 根返り耐力比(Mup-R/Mup-K)と子実体乾燥重量(WF)の関係

一方、Mup-R/Mup-Kと子実体最高発生高さ(Hmax-F)との間には有意な相関は認められな

かった。 3.2.4 連年菌害木根返りモーメントの推定式の決定 以上の考察で得られた式(3)、式(4)より、菌害木根返りモーメント(Mup-R)の推定式(5)を 決定した。 Mup-R= (-8.24•10-6 WF+ 8.43•10-3) DB2.7555 (5) 式(5)は、胸高直径および子実体乾燥重量をパラメーターとして連年菌害木の根返りモー メントの推定するものである。ニセアカシアにおいてベッコウタケ子実体が発見された場 合、胸高直径を測定するとともに、子実体を採集して乾燥重量を測定することで根返りモー メントを推定することができると考えられる。 y = -0.0008x + 0.8185 R² = 0.5719 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 100 200 300 400 500 600 Mup -R /M up -K WF(g)

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23 3.2.5. 根返り限界風速の試算 風を受ける樹木の根元モーメント(MR)は以下の式で表される。 MR = 1 2 CD ρv 2 AC HW (6) ここで、CD :樹冠の抗力係数 ρ:空気密度(1.20kg/m3) v :風速(m/s) AC : 樹冠面積(m2) HW:風心高(m)。 樹木が根返りを起こす限界風速(vU)は、式(6)を変形することにより式(7)で表される。 vU= √ 2𝑀𝑢𝑝 𝐶𝐷 𝜌 𝐴𝑐 𝐻𝑤 (7) ここで、Mup:根返りモーメント(Nm)。 式(7)中の樹冠面積(AC)および風心高(HW)は、樹冠形状をひし形と仮定すると以下 の式で表される。 AC = BC ( H - HC ) / 2 (8) HW = ( H + HC ) / 2 (9) ここで、BC:樹冠幅(m) H :樹高(m) HC :枝下高(m)。 式(7)、式(8)、および式(9)より、 vU= 2√ 2𝑀𝑢𝑝 𝐶𝐷 𝜌 𝐵𝑐 (𝐻−𝐻𝑐)(𝐻+𝐻𝑐) (10) 式(10)に各供試木のBC、H、HCと引き倒し試験で求めたMupを代入することにより、根 返りを起こす限界風速を試算した(図17)。なお、幹折れで破壊した 2 個体の供試木につ いても、破壊が根元付近で生じたために同様に扱った。樹冠の抗力係数(CD)には中谷 (未発表)による値0.214 を用いた。ただし、中谷は詳細な画像解析から樹幹投影面積を 算出することによりニセアカシアのCDを求めているのに対し、本研究では樹冠形状をひ し形と仮定することでBC、H、およびHCから樹幹投影面積を算出している。そのため算 出された限界風速には誤差が予想されるが、少なくとも胸高直径30cm 以上では連年菌害 木が健全木に対して相対的に限界風速が小さいことが示された。

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24 図17 根返り限界風速(vU)と胸高直径(DB)の関係 0 10 20 30 40 50 60 70 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 vU ( m/s ) DB(cm) 連年菌害木 健全木

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25 第 4 章 結論 北大構内に生育する胸高直径10cm 以上のニセアカシア 837 個体について調査を行った。 菌害木(連年菌害木、新規菌害木、および消失菌害木)の個体数は80 個体であり、菌害木 率は9.6%であった。消失菌害木が 1 個体のみであったことから、一度子実体が発生した個 体ではほとんどの場合連続して子実体が発生し続けていることが示唆された。菌害木は空 間的に集中して分布しており、ベッコウタケが胞子あるいは菌糸によって近接するニセア カシアに感染していることが示唆された。菌害木はすべての径級で存在しており、新規菌害 木は胸高直径 70~80cm を除くすべての径級で見られた。胸高直径 50cm 以下の範囲では 胸高直径が大きいほど菌害木率が高い傾向が見られた。一方、胸高直径が50cm より大きい 範囲では、新規菌害木が存在するものの、倒伏あるいは枯死する菌害木の個体数が新規菌害 木の個体数を上回っているために菌害木率が低下していることが示された。また、当年発生 子実体の子実体乾燥重量および子実体最高発生高さのいずれについても、新規菌害木の平 均値が連年菌害木の平均値に対して有意に小さい結果となった。このことから、子実体乾燥 重量および子実体最高発生高さは子実体が新規に発生する年には小さく、連続して子実体 が発生するにしたがって大きくなることが示唆された。 引き倒し試験で得られた根元モーメントの最大値を根返りモーメントとし、根返り耐力 の指標として評価した。健全木の根返りモーメントは胸高直径の約2.8 乗に比例する結果と なり、山林のニセアカシアにおける既往の引き倒し試験結果とほぼ同等の根返りモーメン トを示した。連年菌害木の根返りモーメントと健全木の根返りモーメントの回帰曲線との 比(根返り耐力比)を算出したところ、根返り耐力比は0.31~0.92 の値をとり、平均値は 0.62 であった。すなわち、連年菌害木の根返り耐力は健全木の耐力と比較して約 4 割小さ い結果となった。根返り耐力比と子実体乾燥重量との間には有意な負の相関が認められた (有意水準1.1%)。一方、根返り耐力比と子実体最高発生高さとの間には有意な相関は認め られなかった。以上から、胸高直径および子実体乾燥重量をパラメーターとした菌害木根返 りモーメントの推定式を決定した。ニセアカシアにおいてベッコウタケ子実体が発見され た場合、胸高直径を測定するとともに、子実体を採集して乾燥重量を測定することで根返り モーメントを推定することができると考えられる。 今後、継続してベッコウタケの子実体調査を行い、ニセアカシアにおける子実体の発生 変動を明らかにする必要がある。さらに、調査結果に基づいて引き倒し試験を実施し、デ ータ数を増加させることが望まれる。特に、本研究で引き倒し試験を実施しなかった新規 菌害木、消失菌害木、および、大径の健全木について試験を行う必要がある。

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26 第 5 章 謝辞 本研究の遂行にあたりすべてにわたってご指導をいただいた小泉章夫教授、多くの助言 をいただいた澤田圭講師、ベッコウタケに関してご教示をいただいた宮本敏澄講師、引き 倒し試験にご協力いただいた佐々木義久技官、ならびに木材工学研究室の学生諸氏に深く 感謝する。 第 6 章 引用文献 福田健二(2011)多摩川流域に植栽されたサクラ類の新たな腐朽病害対策の確立に関する 研究. 2009-2010 年度とうきゅう環境浄化財団助成研究 第 2009-14 号研究成果報 告書 札幌市(2016)札幌市街路樹樹種別一覧. http://www.city.sapporo.jp/ryokuka/midori/ machi/hanamidori/gairojyu/documents/100.png(参照 2017-1-31) 国土交通省国土技術政策総合研究所(2012)街路樹の倒伏対策の手引き. 国土技術政策総 合研究所資料669 鳥田宏行(2009)カラマツの風害に関する力学的評価. 日本森林学会誌 91:120-124 森岡昇・北川勝弘(1987)スギ小径木の引き倒し試験の結果. 名古屋大学農学部演習林報 告9:1-5 田村圭司・日野健・大野亮一・榎本雅一・西川静一・藤堂千景(2014)ニセアカシアの衰 退と立木の引き倒し抵抗力. 第63回平成26年度砂防学会研究発表会、新潟市、平成26 年5月28日~5月30日 小泉章夫・平井卓郎・笠康三郎・中原亮・新谷克教・清水英征(2007)ニセアカシア街路 樹の耐風性. 北海道大学演習林研究報告 64(2):105-112 関矢陽・石原亘・小泉章夫・平井卓郎・佐々木義久・橋本俊市・宮本敏澄(2009)ニセア カシアの根返りモーメントの評価試験. 日本木材学会北海道支部講演集 41:31-34 中谷一枝(未発表)

図 16  根返り耐力比( M up-R / M up-K )と子実体乾燥重量( W F )の関係

参照

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