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Feature Article

J. Aerosol Res.,19(2),128-133(2004) 特集「ACE-Asia における大気エアロゾルの船舶観測」

NOAA R/V Ronald H. Brown

における

ACE-Asia

大気エアロゾル観測

持田 陸宏

・河村 公隆

Atmospheric Aerosol Study on NOAA R/V Ronald H. Brown during

ACE-Asia Campaign

Michihiro MOCHIDA

and Kimitaka KAWAMURA

Received

18

March

2004

Accepted

20

April

2004

Abstract

− As part of Aerosol Characterization Experiment(ACE)-Asia campaign, a

comprehensive study was conducted from March to April

2001 on board NOAA R/V Ronald H.

Brown

over the North Pacific, the East China Sea and the Sea of Japan. More than

20 research

groups participated in this research cruise for the measurements of aerosol chemical, physical,

and optical properties, as well as the measurements of precursor gases, seawater, and radiant flux.

Authors’ research group conducted an aerosol study on the chemical speciation of organic

compounds, including a series of dicarboxylic acids, fatty acids, and levoglucosan. The spatial

distributions of oxygenated organic compounds over the western North Pacific clearly demonstrate

that Asian outflow regulates the concentrations of organic aerosols in the marine atmosphere.

Key Words:ACE-Asia, Carbonaceous Particles, Transport Process, Oxygenated Organic Compounds.

1.は じ め に 現在,東アジアおよび東南アジアの人口は世界の 3 分の 1 を占めており,この地域における人間活動の大 気環境に与える影響が注目を集めている。特に,近年 の急速な工業化や,土地利用,ライフスタイルの変化 は,アジア太平洋域における大気酸化能,エアロゾル 組成および濃度を大きく変えている可能性があり,そ の把握が緊急の課題となっている。また東アジア域で は,春季に中国内陸部やモンゴルで大量の黄砂粒子が 発生し北太平洋上へ輸送される現象が知られており, 人間活動が黄砂の発生源である砂漠に与える影響や, 輸送された黄砂粒子が気候や生態系に与える影響が議 論されている。 このような近年の東アジア域の大気環境変化に注目 が高まる中,2001 年春季に日本を含む欧米,アジアな ど の 研 究 グ ル ー プ に よ り Aerosol Characterization Experiment(ACE)- Asia 観測が行われた。この東アジ ア,北太平洋域をターゲットとした ACE-Asia 観測で は,航空機,船舶,衛星,地上において大気観測が実 施されたが,その中でアメリカ海洋大気局(NOAA) の観測船 Ronald H. Brown(以下 RHB)を利用した観 測航海が,2001 年 3 月から 4 月にかけて北西太平洋お よび東アジア沿岸海域で行われた。1999 年に北インド 洋で行われた INDOEX(Indian Ocean Experiment)実 験など,RHB を使用した大気観測はこれまで数多くの 実績があり,今回の ACE-Asia 観測においても多くの 新たな成果が報告されつつある。 著者らの研究グループは,2001 年春季の ACE-Asia 観測期間中,RHB 航海において北西太平洋および東ア ジア沿岸域上の大気エアロゾル採取を行い,その有機 組成解析を担当した1, 2)。本稿では,ACE-Asia におけ北海道大学低温科学研究所 (〒 060-0819 札幌市北区北 19 条西 8 丁目)

Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University N19, W8, Kita-ku, Sapporo 060-0819

(2)

る RHB 観測航海の概要と,著者らの研究グループの 有機成分分析によってこれまでに得られた研究成果を 紹介する。

2.NOAA R/V Ronald H. Brown 航海の概要 ACE-Asia RHB 航海については,ACE-Asia 観測の Overview論文3)にも記載されているので,詳細につ いてはそちらも参考にされたい。本航海には 20 以上 の欧米,アジアなどの観測グループが参加し,エアロ ゾルの物理,化学的および光学的測定,海水中化学成 分の分析,エアロゾル前駆体である気体成分の測定, 放射フラックス測定,ライダ観測などが行われた。日 本からは,北海道大学の持田に加えて,名古屋大学お よび東海大学のグループ(両者は海洋観測)のメン バーの計 3 名が乗船し,観測研究に参加した。Fig. 1 に,ACE-Asia 観測におけるハワイから横須賀までの RHBの航路を示す。当初の予定では中国の排他的経済 水域内(黄海)における大気海洋観測も予定されてい たが,観測期間までに中国当局から許可が下りなかっ たため,黄海における観測は中止となった。しかしな がら,エアマス解析によってエアロゾル飛来の経路を 推測し,衛星観測との比較のため雲量の低い場所を選 択するなど,現場での臨機応変な航路決定が行われた ことで,限られた期間ではあったが目的とした観測の 多くを実施することができた。 ACE-Asia RHB観測では,航海の大部分を通してア ジア大陸もしくは日本上空を通過した空気塊が到達し たことが,後方流跡線解析により確認されている。ハ ワイを出航後しばらくは,洋上の滞留時間が長く海洋 バックグラウンド大気と呼べる空気塊の観測が続い た。一方,アジア大陸に近づいてからは,硫酸塩濃度 が高く,アジア大陸性の特徴を持つ空気塊が観測され た。また,八丈島付近などにおいて,三宅島噴火の影 響を強く受けた空気塊がRHBに到達するイベントが あったと考えられる。日本海上においては,非常に強 く汚染の影響を受けた空気塊が観測されており,その 後,日本海上で高濃度の黄砂粒子の飛来が観測された。 日本の沿岸海域では,岩国,鹿児島を基地として観測 を行っていた航空機 C130,Twin Otter,King Air と同 地点,同時刻に観測し,データの相互比較も行われた。 ま た , 東 シ ナ 海 や 日 本 海 上 に お い て , 衛 星 観 測 (Terra/MISR)との比較実験も行われている。 エアロゾル観測用の測器は,その多くがブリッジ前 方のデッキ上に設置されたエアロゾルインレット付き のコンテナ(van)や,船首のタワー上に設置された (Fig. 2)。船の排煙の影響が少なく大気観測に適した ブリッジ前方に,測器を設置するための十分なスペー スが確保されていることが,RHB の特長の1 つといえ る。また,分析実験室はその用途に応じて,船内の実 験室に加えてブリッジ後方に設置された複数のコンテ ナ(Fig. 2)が利用された。 本航海では,エアロゾルの物理・化学特性の研究に

Cruise Track(15 March∼19 April, 2001)

110° 120° 120° 130° 130° 140° 140° 150° 150° 160° 160° 170° 170° 180° 180° 190° 190° 200° 200° 20° 20° 30° 30° 40° 40° 50° 110° 50° 81.0 120° 120° 125° 125° 130° 130° 135° 135° 140° 140° 145° 145° 30° 30° 35° 35° 40° 40° (a) (b) 85.1 89.2 93.3 105.3 97.3 101.3 109.3 78.7

Fig. 1 Cruise track of R/V Ronald H. Brown during the ACE-Asia campaign. The day of year is presented at the corresponding locations of the ship.

02 Level

FOCSLE DECK(01 Level)

Lidar and Pump Van

Aero1 Van Mast (Inlet) Aero2 Van IfT Van Ship Van SIO Van AI Van

PMEL Van Bow Tower

Fig. 2 Locations of vans and a tower on R/V Ronald H.

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比較的新しい方法を採用したグループもあり,いくつか 簡単に紹介したい。たとえば,California大学 Riverside 校のグループ(現在は同 San Diego 校に移動)は,自 ら開発した Aerosol Time-of-Flight Mass Spectrometry (ATOFMS)により,単一エアロゾル粒子の化学情報 の実時間測定を行った。粒子の混合状態に関する情報 は,これまでインパクタなどで捕集された試料を EDX (Energy Dispersive X-ray spectrometer)などで分析する 手法などで得られているが,ATOFMS の登場により, 粒子の混合状態に関して高時間分解能で詳細な情報が 得られることが期待される。また,ドイツ対流圏研究 所(IfT)のグループは,Tandem Differential Mobility Analyzer(TDMA)を用いた,エアロゾル粒子の吸湿 特性の測定を行った。TDMA は近年,大気エアロゾル の粒径の湿度依存性を実時間測定する手段として注目 を集めており,粒子の混合状態に関する情報を得るこ とができるという特長もある。Princeton 大学のグルー プは,テフロンフィルタ上にエアロゾル粒子を捕集し, FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用い て有機物中の極性官能基由来の吸収スペクトルを測定 することで,各極性官能基およびアルキル鎖の定量を 試みている。 著者ら北大低温研のグループは,石英フィルタを用 いたエアロゾル試料のバルク捕集に加えて,アニュー ラーデニューダーシステムを用いたカルボン酸のガス/ 粒子分別捕集,Micro-Orifice Uniform Deposit Impactor を用いた粒径別エアロゾル採取を行った(Fig. 2 IfT

van

上)。エアロゾル試料は研究室に持ち帰り,GC-FID(Gas Chromatography-Frame Ionization Detector), GC-MS(Gas Chromatography-Mass Spectrometry)など を用いて有機組成解析を行った。エアロゾル中有機成 分 に 関 し て は , 著 者 ら の グ ル ー プ の 他 に , 前 述 の California大学および Princeton 大学のグループ,さら に Rutgers 大学および NOAA のグループがそれぞれ 別々の手法でその測定を行っている。後者の 2 グルー プについては,それぞれ有機態/無機態炭素の連続測 定4)と,粒径別測定を行っている。 3.北西太平洋および東アジア沿岸海域における海洋 有機エアロゾルの空間分布 続いて,著者らの研究グループにより得られた結果 について,いくつか紹介する。当研究グループは,RHB 観測期間中に採取したエアロゾル試料に対して複数の 抽出,誘導体化法を適用することで,直鎖脂肪酸,直 鎖アルコール,ジカルボン酸,ヒドロキシカルボン酸, オキソカルボン酸,糖類などのポリオール類,直鎖お よび分岐アルカン,多環芳香族炭化水素,フタル酸エ ステルなどの定量を行った。Fig. 3 に,RHB 航海で捕 集し定量されたエアロゾル粒子中の有機態炭素,エア ロゾル質量への寄与の大きい有機成分(炭素数 2-10 の ジカルボン酸,炭素数16 以上の直鎖飽和脂肪酸,レボ グルコサン)の空間分布を示す。ジカルボン酸の発生 源としては,自動車の排気ガス5)やバイオマス燃焼6) また大気中での光化学反応による二次的な生成7, 8) 指摘されている。直鎖脂肪酸は,陸上植物9),土壌10) また海洋生物11)を発生源に持つ上,有機物の加熱,燃 焼を伴うさまざまな人間活動からも放出される12, 13) レボグルコサンは,セルロースの燃焼過程により生成 110° 120° 130° 140° 150° 160° 170° 180° 190° 200° 210°20° 30° 40° 50° 110° 120 ° 130 ° 140 ° 150 ° 160 ° 170 ° 180 ° 190 ° 200 ° 210 ° 20° 30° 40° 50° 110° 120 ° 130 ° 140 ° 150 ° 160 ° 170 ° 180 ° 190 ° 200 ° 210 ° 20° 30° 40° 50° (a)Organic Carbon

(b)Total Dicarboxylic Acids

(c)Total Fatty Acids

(d)Levoglucosan 51 0 1 5 Concentration ( g m − 3500 1000 1500 2000 Concentration ( ng m − 350 100 Concentration ( ng m − 3110° 120 ° 130 ° 140 ° 150 ° 160 ° 170 ° 180 ° 190 ° 200 ° 210 ° 20° 30° 40° 50° 50 100 Concentration ( ng m − 3

Fig. 3 Spatial distribution of organic carbon, total dicarboxylic acids, total fatty acids, and levoglucosan in aerosols over the western North Pacific, the East China Sea, and the Sea of Japan.

(4)

する無水糖類であり,森林火災,農業や燃料としての バイオマス燃焼が考えられる。 Fig. 3 に示したように,有機態炭素を含めいずれの 成分もアジア大陸沿岸部分で濃度が高く,アジア大陸 から東方に離れるほど濃度が減少する傾向が見られ た。エアロゾルを採取した北西太平洋上の多くの空気 塊は東アジア上空を経由していることから,Fig. 3 に 示される濃度分布は,いずれの成分も陸上もしくは沿 岸海域におもな発生源,生成源があり,外洋上へ輸送 されていることを示唆している。外洋における有機態 炭素のバックグラウンド濃度は,さまざまな海域で比 較的一様であるのに対して,今回定量した有機化合物 群には北西太平洋において強い濃度勾配が認められる ことから,東アジア域から流出する空気塊は粒子態の 有機物に富み,北西太平洋全域におけるエアロゾルの 濃度レベルを強く規定していると考えられる。 エアロゾル中有機物(OM)の濃度の指標として, 一般的には有機態炭素(OC)濃度が測定されている が,粒子態の有機成分の場合には,ヘテロ原子(おも に酸素)の有機物質量,体積に対する寄与が少なくな い。RHB 航海でバルク捕集したジカルボン酸,脂肪酸, レ ボ グ ル コ サ ン 中 の 炭 素 の 合 計 は , 平 均 で O C の 9.8 ± 2.3 % であった。一方,今回観測した全有機物に ついて,汚染大気中の OM/OC 比の代表的な推定値 1.6 を適用すると14),定量された含酸素有機化合物の OM に占める割合は 19.0 ± 4.8 % と推定され,前述の炭素 ベースの比較よりも大きくなる。これは,定量した多 くの含酸素有機化合物の OM/OC 比が,有機物全体に 対する推定値 1.6 よりも高い値を持つことに起因する。 また,定量されたすべての有機酸がアンモニウム塩と して存在すると仮定すると,全エアロゾル質量に対す る寄与は約 30 % 上昇することになる。このように,含 酸素有機物の炭素以外の元素や塩の形成は,エアロゾ ル質量やその体積に大きく寄与しており,今後の有機 組成分析などでその寄与を明らかにする必要性がある。 4.有機物の変質と輸送−低分子ジカルボン酸の場合 ジカルボン酸(DCA)は極性官能基であるカルボキ シル基(-COOH)を 1 分子内に 2 つ持ち,分子中の炭 素数が少ないものでも蒸気圧が低く,大気中で凝縮し て粒子になりやすい特徴を持っている。また,有機物 の中では非常に水溶性が高く,粒子の親水性や雲凝結 核能に関与している可能性が指摘されている15)。炭素 数の比較的短い DCA については,これまでの研究か ら都市,工業地域における一次放出/二次的生成と洋 上への輸送が,北西太平洋における主要な供給源であ ると推定されており16),今回の観測結果(Fig. 3)は この仮説と調和的である。 Fig. 4に,炭素数 3,4,5 のジカルボン酸であるマ ロン酸(C3DCA),コハク酸(C4DCA),グルタル酸 (C5 DCA)のシュウ酸(C2 DCA)に対する濃度比 [CnDCA]/[C2DCA](n = 3 , 4 , 5)を示す。この比はい くらかの変動幅を持つものの,外洋(シュウ酸が低濃 度)から東アジア沿岸域(シュウ酸が高濃度)まで, 明確なトレンドは現れていない。このような濃度比の 均一性は,DCA が分解を受けることなく大陸から洋 上へと輸送されていることを示唆している。一般に, 粒子態の有機物が大気中から除去される過程は,化学 的な分解と,乾性および湿性沈着とに分けられる。前 者は気相および粒子相の両方で進行すると考えられる が17),その反応速度は化学種により異なり濃度のフラ クショネーションを伴う。一方,後者の過程では,有 機物が粒径や吸湿性の類似した粒子に存在しているな らば,フラクショネーションは小さい。したがって, Fig.4 の結果は化学反応が除去過程として寄与が小さ いことを示唆している。 この点をより定量的に評価するために,化学的なフ ラクショネーションにより予測されるトレンドライン を計算した。その結果を Fig. 4 の右下に示す。各直線 は,一次の分解速度定数比 k(CnDCA)/k(C2DCA) が, 1,1.5,2.7,4 の時のものであり,この値は,C2-C5 DCA の OH ラジカルによる気相の分解速度定数比

(Kwok and Atkinson のモデルを使用した推定値18))に

対応する。実測された濃度比は,この計算により得ら れた k(CnDCA)/k(C2 DCA)のような大きな傾きを示 していない。したがって輸送に伴うジカルボン酸濃度 の減少に対する化学的分解の寄与は小さく,乾性/湿 性沈着および混合に伴う希釈が,外洋におけるこれら の化合物の濃度レベルを規定していると結論付けられ る。またこの結果は,ジカルボン酸が少なくとも外洋 においては比較的長寿命であることを示している。 C2-C5 DCAは,汚染大気中においておもに二次的に生 成する可能性が指摘されていることから,アジア大陸, 0.001 2 4 0.01 2 4 0.1 2 4 Relative Abundance 2 4 6 8 100 2 4 6 8 1000

Oxalic Acid Concentration(ng m−3

n=2 n=4 n=3 n=5 C3DCA/C2DCA k (CnDCA)/k(C2DCA) C4DCA/C2DCA C5DCA/C2DCA

Fig. 4 Relative abundances of C3-C5dicarboxylic acids to

oxalic acid for all aerosol samples collected during the cruise(Mochida et al., 2003)1)

(5)

日本などで放出された前駆体である有機物が,酸化反 応により速やかにジカルボン酸を形成し,それが酸化 過程の最終生成物として洋上に長距離輸送されている と考えられる。 5.脂肪酸およびレボグルコサンの濃度変動と発生源 Fig. 5(a)に,炭素数 16 および 18 の直鎖飽和脂肪酸 ( L F A ), お よ び 炭 素 数 2 0 以 上 の 直 鎖 飽 和 脂 肪 酸 (HFA)の濃度の変動を示す。これらの脂肪酸の炭素 数分布は,その発生源の情報を保持していると考えら れることから,環境試料中の有機物トレーサとして議 論されることが多い。その大気中の役割としては,脂 肪酸は代表的な界面活性剤であることから,エアロゾ ル粒子表面を覆うことで19)界面の物質移動に影響す る可能性や,粒子の表面張力を下げることで粒子の雲 凝結核能を高める働きが示唆されている20) 海洋生物起源の脂肪酸(海塩と共に大気中に放出) は,おもに LFA であるのに対して21),陸上起源の脂肪 酸(植物ワックスなど)は,HFA を比較的多く含んで いることから22),LFA/HFA 比(Fig. 5(b))は,脂肪 酸自身の陸上起源と海洋生物起源の相対的な寄与の指 標となることが知られている11)。今回の測定では,外 洋 ( 8 5 日 程 度 ま で ) に お い て は , 比 較 的 高 い LFA/HFA比が見られるのに対して,東アジア沿岸海 域では,その比率が 0.5 程度にまで低下している。こ れは,陸上起源の脂肪酸の寄与が,沿岸海域では主要 であることを示している。海洋起源の LFA の場合, 海洋の生物生産と連動して濃度が変動すると考えられ るが,海洋生物生産の指標と成りうるメタンスルホン 酸(MSA)濃度(Fig. 5(c))の上昇期には,それほど 顕著な濃度上昇が見られない。このことからも,東ア ジア沿岸海域における LFA はその多くが陸上起源で あると考えられる。LFA 濃度が上昇する 100 ∼ 105 日 については,黄砂粒子中の炭酸塩に由来する非海塩性 カルシウム(nss-Ca2+)濃度(Fig. 5(d))との相関が 比較的高い。炭素同位体比を用いたエアロゾル分析で は,土壌粒子が大気中脂肪酸のソースとして寄与して いる可能性が指摘されており23),今回の結果もその可 能性を示唆するものとなった。 Fig.5(e)に示したのは,大気中のさまざまな環境 における存在が近年明らかとなったレボグルコサンの 濃度変動である。木材の燃焼で放出されるエアロゾル 粒子の分析では有機物中の約 15 ∼ 30 % 程度がレボグ ルコサンで占められるとの報告があり24),レボグルコ サンはバイオマス燃焼由来の粒子の特性に強く関与し ている可能性がある。バイオマス燃焼のプルーム中に 含まれるエアロゾル粒子の化学分析では,レボグルコ サン濃度とジカルボン酸濃度が同程度で観測されてい る例もあるが,今回の観測では,その濃度は全ジカル ボン酸よりも 1 ∼ 2 桁低いものであった。レボグルコ サンは,大気中で酸化反応を受け変質する可能性も指 摘されていることから25),この結果は観測された粒子 態有機物のうちバイオマス燃焼起源のものが少ないこ とを意味するとは限らない。レボグルコサンはバイオ マス燃焼の大気トレーサになると提案されているが, 定量的な意味で役立つかどうかを評価するためには, その大気寿命についてより詳細な検討が必要であろう。 6.お わ り に 以上,欧米,アジアなどの多数の研究グループが参 加した ACE-Asia RHB 観測航海について,その概要と 著者らのグループにより得られた結果の一部について 述べた。本航海では,海洋性気塊/大陸性汚染気塊の 60 40 20 0 Fatty Acids ( ng m − 3100 90 80 Day of Year(UTC) 8 6 4 2 0 nss-Ca 2 + ( g m − 35 4 3 2 1 0 [LFAs]/[HFAs] 200 150 100 50 0 MSA ( ng m − 3100 80 60 40 20 0 Levoglucosan ( ng m − 3) (a)Fatty Acids (b) (c)MSA (d)nss-Ca2+ (e)Levoglucosan [LFAs]/[HFAs] LFAs HFAs

Fig. 5 Temporal variation of(a)LFAs and HFAs,(b) [LFA]/[HFA] ratios,(c)MSA,(d)nss-Ca2+, and(e)

levoglucosan in aerosols during the cruise(Mochida et

(6)

観測にとどまらず,黄砂の飛来や,三宅島噴火の影響 を受けた気塊など,バラエティに富んだ大気が観測さ れたこと,さまざまな最新の測定手法,分析手法が導 入されたことで,数多くの有用なデータが得られた。 また著者は,今回の RHB 航海に同乗し観測に携わる 中で,船舶を利用した大気質の観測が,NOAA の活動 において重要な位置付けにあることに強く印象付けら れた。日本の場合,海洋科学技術センターの観測船 「みらい」が ACE-Asia などの大気観測に活用されてい る実績があるものの,一般にはその利用の中心が海洋 観測であることから,大気質の研究に適した航海が限 られているという現状がある。今後,海洋大気の観測 研究を行っていく上で,観測船「みらい」を含め,日 本の海洋大気観測の研究プラットフォームがさらに充 実することを期待したい。 References

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