日本研究教育年報 第24号 Japanese Studies: Research and Education
2020(令和2)年3月 Annual Report Vol. 24
75-89頁 March 2020, pp. 75-89
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〈論 文〉
遠隔外国語学習における第二言語不安
―台湾の仮想教室型授業を対象に―
海野 多枝、邱 顯峻†
(東京外国語大学大学院国際日本学研究院)
(ジョンソンエンドジョンソン株式会社)
Second language anxiety in online foreign language education:
A study of online language education in Taiwan
Tae Umino, QIU Xianjun
(Institute of Japan Studies, Tokyo University of Foreign Studies) (Johnson & Johnson K.K.)
キーワード:遠隔教育、第二言語不安、第二言語習得、台湾
Keywords: online education, second language anxiety, second language acquisition, Taiwan
要旨:本稿では、教室学習と遠隔学習という2つの外国語学習環境で学習者が感じる第二言語 不安の度合いに差があるか否かを検討する。台湾のオンライン外国語教室における学習者を対象 に実施した不安測定尺度によるアンケート調査の分析結果から、両環境における不安の度合いの 差異、及びその原因となる要因に考察を加える。
Abstract: In this paper we consider whether the second language anxiety that learners feel is different in the classroom and in online educational settings. We administered a web-based questionnaire using the second language anxiety scale to learners at an online language school in Taiwan. Based on the results, we examine the differences in anxiety between the two settings as well as factors affecting the difference.
原稿受理日(2019-10-01)
査読後掲載決定日(2020-01-09)
日本研究教育年報. 2020, Vol. 24, pp. 75-89. ISSN 2433-8923
† 本稿の著作権は著者が保持し,クリエイティブ・コモンズ表示4.0国際ライセンス (CC BY) 下に提 供します。https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
遠隔外国語学習における第二言語不安
―台湾の仮想教室型授業を対象に―
- 76 - 1.はじめに
「オンライン授業は自宅で受けられて居心地がよい。」「他の学生と顔を合わせなくてす むので気楽だ。」「教室の授業よりも不安にならずに勉強に集中できる。」これは、オンライ ン授業で日本語を学ぶ台湾出身の学習者の言葉である。近年、オンラインによる遠隔外国語 教育が急激に普及しつつある原因の1つに、通学や留学を困難にする時間的、距離的、経済 的な制約を超えて、外国語学習が可能となるとの利点があることはいうまでもない。一方で、
こうした遠隔教育の一般的特性とは別に、オンラインによる授業は授業形態の面でも教室 学習とは異なる様相を呈する。上述の学習者の参加するオンライン授業では、学習者はウエ ブカメラを通じて配信される教師のライブ映像を見ながら授業を受けるが、学習者側の映 像は表示されない。つまり、自分の顔を教師や他の学習者に見せることなく、ある種の匿名 性を保ったまま授業に参加できる。このような授業形態の特性は、学習者の情意面、特に第 二言語不安(second language anxiety)にどのように影響するのだろうか。上述の学習者の 言葉にあるように、遠隔学習は教室学習に比べて第二言語不安の少ない環境といえるのだ ろうか。本稿では、台湾の仮想教室型オンライン授業で学ぶ学習者への質問紙調査を通じて、
この問題に考察を加える。
2. 先行研究
2.1 遠隔外国語教育とは
遠隔教育(distance education)という概念の意味するところは幅広く、時代や状況により 異なる概念を指すことがある。鈴木(1999)は、遠隔教育を「自立学習型遠隔教育」と「仮 想教室型遠隔教室」に分け、両者の違いを以下のように説明している。
「遠隔教育」と呼ばれるものには2つの種類がある。1つは、従来の通信教育
(correspondence education)から漸進的に発展した遠隔教育であり、もう1つは、通信 教育を主自とせず、メディアを利用してフェイス・トゥー・フェイスの環境をできるだけ 忠実に再現しようとする遠隔教育である。この二つの遠隔教育の根本的な違いは、前者 が、教育には対面教育と遠隔教育の二つの種類があって遠隔教育は対面教育とは異なる独 自の教育形態であると考えるのに対して、後者は、教育は一つであって、遠隔教育はそれ がたまたま離れて行われるだけで、独自の教育形態ではないと主張している点にある。前 者を「自立学習型遠隔教育」、後者を「仮想教室型遠隔教室」と名付けることができる。
(鈴木1999:1)
自立学習型遠隔教育は、学習者の自立学習として利用できる視聴覚教材やマルチメディ ア教材を利用した教育形態を指す。共時的インタラクションがないことから、教師や教育 機関からの制約が低く、学習者の能動性が求められる。一方で、仮想教室型遠隔教室は、
異なる場所にいる教師と学習者がテレビ会議システムやSNSアプリケーション等を用い
遠隔外国語学習における第二言語不安
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て双方向的に授業に参加する教育形態を指す。教師と学習者は同一の場所にいないもの の、互いのフェイスを共有できる。本稿の調査協力機関で行われる外国語教育は後者の一 例となる。鈴木(1999)の考察によれば、前者は個別学習を重視し、後者はグループ学習 を重視する。本研究では、後者の「仮想教室型遠隔教室」に属する、テレビ会議システム を用いた外国語教育に焦点を当て、このような教育形態を「遠隔外国語教育」と呼び、従 来の教室学習との違いを第二言語不安の観点から探ることとする。
2.2 第二言語不安とは
Spielberger(1972:482)は、不安(anxiety)を「自律神経の活性化によって起こる主観 的緊張、不安、心配などの感情で特徴づけられる、不愉快な情緒的状態や認知(筆者訳)」 と定義している。たとえば、「明日の英語の試験が心配だ」、「健康診断の結果が不安だ」と いうような不安は、誰でも日常的に経験することがあるだろう。王(2013)は不安を「習性 不安(trait anxiety)」、「状態不安(state anxiety)」、「状況特定不安(situational-specific
anxiety)」の3つに分類する。習性不安とは、様々な状況において神経質になるといった固
定化した性質をもつものであり、常に深く/全体的(deepest / global)なレベルの不安にさ らされている状態を指す。状態不安とは、瞬時の不安の経験によるものであり、情緒の緊張 状態が時間を通じて変動し強度が変動するといった一過性のものである。例えば、「テスト を受ける」、「大勢の前でスピーチをする」といった場合が挙げられる。状況特定不安とは特 定の場面のみに現れる不安のことである。ある与えられた状況におかれた場合にのみ現れ る不安である。例としては、舞台上での不安、外国語の教室における不安などが挙げられ、
本稿で取り上げる第二言語不安もこれに該当する。以上の考察をふまえ、本稿では、元田
(2005)に基づき、第二言語不安を、第二言語学習や使用、習得に特定的に関わる不安や心 配と、それによって引き起こされる緊張や焦りと捉える。
第二言語不安は従来、第二言語習得の成否に影響を及ぼしうる要因として議論されてき た (Bailey 1983; Cheng, Horwitz, Schallert 1999; Clément et. al 1994; Ely 1986;
Gregersen & Horwitz 2002; Krashen 1982; MacIntyre & Gardner 1991,1994; Samimy &
Tabuse 1992; Saito & Samimy 1996; Steinberg & Horwitz 1986; Woodrow 2006など)。 これらの研究の多くは、不安を第二言語習得に負の影響を及ぼすものと捉えている。
Bailey(1983)は、教室学習にまつわる対人的不安を取り上げ、他の学習者との競争からくる 不安が学習の促進に繋がる可能性もあるものの、乗り越えられない不安の場合には学習を 阻害する可能性がある点を指摘する。また、特に東アジア圏の教室では、教室における対人 的不安から学習者による教室内での沈黙 (reticence)がしばしば観察されることも報告され ている(Tsui 1996, Harumi 2011)。
元田(2000)は、第二言語不安を教室内(授業中に起こる)不安と、教室外(目標言語環 境で起こる)不安に分類し、両者において学習者が経験する不安の領域に差異があることを
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指摘する。教室学習にまつわる不安のみを扱う研究が多い中、教室外学習に伴う不安領域に も目を向けている点は注目に値する。しかし近年では、遠隔教育のように、教室内・教室外 の区分に当てはめるのが困難な多様な学習形態も数多く存在しており(Benson 2007)、そ れらの学習形態における言語不安の問題は未解決のままである。本稿で扱う遠隔外国語教 育は、第二言語授業でありながら物理的な場所としての教室で行うものではく、また、学習 者のライブ映像が配信されない形態では、対面によるインタラクションを伴わない。こうし た遠隔授業と従来の教室授業における言語不安の問題を扱った研究は管見の限り見られな い。以上の考察をふまえ、以下では、教室学習と遠隔学習の両者を経験した学習者への調査 を通じて、この問題に検討を加えたい。
3. 調査の概要 3.1 調査のねらい
本研究のねらいは、学習者の第二言語不安が、教室学習と遠隔学習という性質の異なる2 つの学習環境によって異なるか否かを明らかにすることにある。この問いに答えるために、
以下のより具体的な研究設問を設定する。
(1)教室学習と遠隔学習のどちらの学習環境で学習者はより強く不安を感じるか。
(2)教室学習と遠隔学習とで、学習者の感じる第二言語不安の領域に差異があるか。
筆者らは、学習者の感じる第二言語不安は 2 つの学習環境によって異なると仮定し、両 者の学習経験を有する学習者への質問紙調査を通じて、2つの環境における言語不安を比較 するという手法を用いた。元田(2005)は、教室内と教室外の言語不安を比較する調査におい て、「発話活動における緊張」、「理解の不確かさに対する不安」、「低い外国語能力に対する 心配」の3つの領域を設けている。本研究ではこの分類を援用し、2つの学習環境における 3領域の不安の度合いを数値化し、比較分析を試みる。
3.2 調査協力機関と調査対象者
調査を実施した教育機関は、台湾における民間の語学オンラインスクールである1。IT 系企業に属していることから、そのIT基盤を利用し、設立わずか5年でおよそ14万人の 登録学生数(2017年12月現在)を有する、台湾国内最大級のオンライン教育機関である
(詳細は表1を参照)。外国語の会話能力を育てることを軸とし、テレビ会議システムを 通じて学生のニーズに合わせたコース・カリキュラムを提供している。
表 1調査協力機関プロフィール 科目 英語、日本語、スペイン語、韓国語
在籍講師数 英語1,500人、日本語900人、スペイン語300人、韓国語110人
1 第二著者の邱は、当機関での日本語オンライン授業に教師として関わっていた。
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登録学生数 英語115,130人、日本語21,540人、スペイン語4,500人、韓国語500人 クラス人数 教師1人対学生1~6人
使用ソフト ZOOM、Cisco WebEx
教材 オンライン授業向けに設計されたテキスト
サポート 語学レベルの測定、履修カウンセリング、授業の通信環境支援(随時)
その他 学習者はカメラ映像をオフにして授業参加ができる
調査対象は、当該機関で外国語を学ぶ学習者であり、機関の協力を得て57名分の回答を 回収した。この他、教師の側から見た学習者の不安についても調査し、52 名分の回答を得 たが、紙幅の都合により、本稿では学習者の回答のみに焦点を当てることとする。学習者の 年齢は、12歳から60歳と幅広いが、23歳から40歳までが56%を占めている(図1)。台 湾の大学卒業年齢は約21~22歳であり、社会人が半数を超えるといえる。企業が社員の語 学力向上のために団体で受講を申し込むこともしばしばあるという。学習言語(複数回答含 む)は、英語が57名と最も多く、日本語が14名、スペイン語が3名であった(図2)。遠隔 教育の経験は、1年未満の学習者が34名と半数以上を占め、1~3年の学習者が21名であ った(図3)。
3.3 質問紙調査
質問紙は、2つのセクションから成り、回答者の基本情報、学習言語、学習歴を尋ねる部 分(セクション1)と、第二言語不安について尋ねる部分(セクション2)から成る。いず れも学習者の母語である中国語2により作成した。
図 1学習者の年齢割合
2 台湾で用いられる繁体字を用いた。
12~1 7歳 10%18~2
2歳 23~3 9%
0歳 31~4 33%
0歳 23%
41~5 0歳 23%
51~6 0歳
2%
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- 80 - 図 2学習言語(複数可能)
図 3遠隔教育における学習歴
第二言語不安の尺度としては、元田(2005)の日本語不安尺度(Japanese Language
Anxiety Scale)の質問項目(3領域23項目)を援用した(質問で言及する「日本語」を「外
国語」と改編)。質問は全23項目あり、内訳は「発話活動における緊張」9項目、「理解の 不確かさに対する不安」8項目、「低い日本語能力に対する心配」6項目となる。各質問に対 して教室学習とオンライン学習の 2 つの教育環境を想定し、それぞれの場合の不安の強さ について、1点(全く当てはまらない)から6点(非常によくあてはまる)までの尺度に基 づき回答してもらった(図4参照)。
図 4質問の一例
先述の通り、当機関のオンライン授業は、教室に通わずに自宅で受講する形態を取るため、
学習者を一か所に集めた調査実施は現実的でない。そのため、調査はインターネットを介し 0
3 14
57
韓国語 スペイン語 日本語 英語
人数
34
21
2 0
1年未満 1~3年 3年~5年 5年以上
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たウエブアンケート3により行った。アンケートにアクセスできるリンクを当機関経由で協 力者のメールアドレスに送付した。収集したデータは、質問項目ごとに平均値と標準偏差を 集計し、教室学習と遠隔学習の間に有意差が見られるかを見るためにt検定を実施した。
3.4 当該教育機関のオンライン授業
ここでは、当機関のオンライン授業の特性に触れておきたい。図 5 は授業画面の一例で ある。図の①の部分は教材であり、オンライン授業用に当機関が独自に開発した教材を用い ている。ボタンをクリックすると音声が流れる、絵が文字に変換されるなどの機能がある。
② の基礎機能として、「選択」、「入力」、「囲む」、「描く」、「消す」の機能がある。教師 はこれらの機能を用いてテキストに文字を書き込んだり、線を引いたりすることがで きる。
③ の部分では、教師のライブ映像が表示される。講師の映像の表示は授業の必須条件で ある。
④ では、授業(テレビ会議)の参加者一覧が表示される。ここに音声コントロール機能 も付いており、各学習者の音声をオンあるいはオフにできる。例えば、学習者側から 背後の雑音が入る場合、教師側からその音声をミュートにすることもできる。
⑤ のチャット画面では、文字チャット機能があり、授業内の会話を参加者全員で共有で きる。また、他の学習者に質問内容などを知られたくない場合には、非公開でメッセ ージを送ることもできるようになっている。
⑥ の録画コントロールは、授業の録画に使われる。当機関のオンライン授業はすべて録 画されている。録画された授業は、学生の復習用や欠席者への補習用、また宣伝用な どに用いられる。
3Google社のGoogle Formsを用いた。
<https://www.google.com/intl/ja_jp/forms/about/>
2017
年12
月11
日アクセス.遠隔外国語学習における第二言語不安
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図 5授業画面の一例
4. 調査結果 4.1 結果の概要
質問紙調査の分析の結果、第二言語不安の3領域(発話活動における不安、理解の不確か さへの不安、目標言語能力への不安)、計23項目の全てにおいて、2つの教育環境の間に有 意差が見られた(項目と結果の詳細は表2、表3、表4をそれぞれ参照)(有意水準は5%と し、全ての値の小数点第3位を四捨五入して提示)。以下の節では、各領域ごとに結果の詳 細を見ていく。
4.2 発話活動における不安
この領域は9つの質問項目からなる(表2)。ここでいう「発話活動」とは、学習者が授 業で目標言語を使って発表したり質問に答えたりする場面を意味する。
表3、図6によると、全ての項目において遠隔環境での不安は教室環境よりも有意に低い との結果となった。また、教室環境における不安は平均4以上の値の項目が7つあり、全体 的に高かったのにし、遠隔環境では4以上のものは1つのみであった。このことから、学習 者は発話活動での不安については遠隔環境のほうが低いと感じている可能性が示唆された。
その原因として、学習者の映像が配信されず教師やクラスメイトの視線を浴びることがな いこと、教師と直接視線を合わせなくて済むこと、自宅学習のためクラスで人前に立つこと がないこと、「間違える」ことの不安については、匿名性が高いこと、クラスサイズが小さ く少人数であることなどが考えられよう。
②
④
⑤
⑥
① ③
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表 2 2つの環境における「発話活動における緊張」に関する差 番号と質問文 検定統計量t 差
1.教室で外国語を話すとき、ふだん緊張します。 t(56)=4.27,*** 0.73
2.指名されそうだとわかると、不安になります。 t(56)=5.22,*** 0.87
3.教室で外国語をまちがえないか心配します。 t(56)=4.36,*** 0.78
4.教室で緊張すると、ふだんは知っている外国語が思い出
せません。 t(56)=3.73,*** 0.44
5.教室で、声に出して外国語を読むとき、緊張します。 t(56)=4.23,*** 0.58
8.教室で、外国語を使って口頭発表するとき、緊張しま
す。 t(56)=4.48,*** 0.65
17.他の学生の前で、外国語のロールプレイをするとき、
緊張します。 t(56)=4.49,*** 0.63
19.急に先生に質問されたとき、緊張します。 t(56)=4.49,*** 0.63
21.教室で、外国語を使ってディスカッションをすると
き、緊張します。 t(56)=3.98,*** 0.51
平均 0.65
**p<.01, ***p<.001
図 6「発話活動における緊張」の教育環境の比較
4.2. 理解の不確かさに対する不安
ここでいう「理解の不確かさ」とは、主に外国語の授業において、教師や教材によって与 えられる目標言語インプットに対する理解の不足から生じる不安を指す。この領域でも、全 ての項目において遠隔学習のほうが不安が有意に低いとの結果となった(表 3、図7)。但 し、インプットの理解度、それに対する教師・学習者の対応に関わる領域であるため、両環 境の違いが反映されにくく、両者の差(平均値差0.43)は3領域の中で最も小さい。
4.19 4.26 4.32 4.67
3.95 4.37
3.86 4.19 4 3.46 3.39 3.54
4.23
3.37 3.72
3.23 3.56 3.49 3
3.5 4 4.5 5
質問1 質問2 質問3 質問4 質問5 質問8 質問17質問19質問21
教室 遠隔
遠隔外国語学習における第二言語不安
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表 3 2つの環境における「理解の不確かさに対する不安」に関する差 番号と質問文 検定統計量t 差 6. 外国語の授業の速さについていけないとき、不安になりま
す 。
t(56)=3.24** 0.53
7. テープやビデオの外国語がわからないとき、不安になりま す。
t(56)=3.1** 0.37
10. 外国語の授業で、たくさんのことを勉強しなければなら ないとき、あせります。
t(56)=3.44** 0.44
12. 先生の質問の答えがわからないとき、あせります。 t(56)=4.18*** 0.54 13. 外国語の授業の内容が難しくてわからないとき、不安に
なります。
t(56)=2.81** 0.32
14. 先生が早口で外国語を話すと、不安になります。 t(56)=3.68*** 0.43 22. 先生が私の外国語を分からないとき、あせります。 t(56)=3.18** 0.42 23. テープやビデオの外国語の速さについていけないとき、
不安になります。
t(56)=3.38** 0.38
平均 0.43
**p<.01, ***p<.001
図 7教室と遠隔における「理解の不確かさに対する不安」の比較
4.3. 目標言語能力に対する不安
「目標言語能力に対する不安」とは、外国語の授業において、学習者が自分自身の目標言 語能力が不十分である、あるいは他の学習者のそれよりも低いと感じることから生じる不 安を指す。
4.28 3.88 4.07 4.35 4.11 4.18 4.05 3.75 3.51 3.63 3.81 3.79 3.75 3.63 3.7
3.32 3.534
4.55
質問6 質問7 質問10 質問12 質問13 質問14 質問22 質問23
教室 遠隔
遠隔外国語学習における第二言語不安
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表 4 2つの環境における「低い外国語能力に対する心配」に関する差 番号と質問文 検定統計量t 差 9. 私の外国語のレベルは、他の学生よりも低いのだろうか、心
配になります。
t(56)=3.7*** 0.48
11. 他の学生の前で外国語をまちがえたとき、恥ずかしいです。 t(56)=5.07*** 0.79 15. 他の学生が、私の外国語を下手だと思わないか心配です。 t(56)=5.16*** 0.73 16. 外国語をまちがえたとき、先生にしかられないか心配です。 t(56)=3.6*** 0.3 18. 教室で、私には外国語の学習能力がないのだろうか、と心配
になります。
t(56)=3.65*** 0.34
20. 外国語を話すとき、他の学生に笑われないか心配になりま す。
t(56)=4.44*** 0.59
平均 0.54
**p<.01, ***p<.001
図 8 教室と遠隔での「目標言語能力に対する不安」の比較
ここでも全ての項目で遠隔環境での不安が有意に低いとの結果となった(表4、図8)。 両者の平均の差が最も大きい項目は【11. 他の学生の前で外国語をまちがえたとき、恥ずか しいです】の0.79であり、次に【15. 他の学生が、私の外国語を下手だと思わないか心配 です】の0.73 である。【11.】に関しては、当スクールの授業では学習者がカメラをオフに しておけば、「他人にみられる」、「ステージに立つ」という対人的不安の構成要素のない状 態になることから、遠隔場面での不安が低く感じられると考えられる。また、先述のように、
学習者はお互いの顔も本名も知らないことから、授業中に間違えることへの恥ずかしさが 軽減されている。また、最も両環境の差の小さい【16. 外国語をまちがえたとき、先生にし かられないか心配です】は、この領域の中で最も低い値を示していた。このことから、学習 者は教師からの評価よりも、他の学習者の言語能力との比較を通じて不安を感じる傾向が あることが見て取れる。
5. 結論
5.1 結論と考察
4.18 4.23 3.98
2.98
4.04 3.61
3.7 3.44 3.25
2.68
3.7
3.02 2.53
3.54 4.5
質問9 質問11 質問15 質問16 質問18 質問20
教室 遠隔
遠隔外国語学習における第二言語不安
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本調査の結果から、2 つの環境での学習経験を持つ学習者は、「発話活動」、「理解の不確 かさ」、「目標言語能力の低さ」のいずれの領域においても、教室学習においてより強く不安 を感じており、遠隔学習では教室学習よりも不安が低いと感じていることが示唆された。特 に顕著な差が見られるのは「発話活動」での不安であり、教室での口頭発表にまつわる不安 が遠隔環境では軽減される可能性が示唆された。「目標言語能力の低さ」については、教室 環境では対教師よりも他の学習者との比較を通じて不安を感じており、これが遠隔環境で は軽減されることが示唆された。
以上の点は、2つの学習環境における他者との関係性の違いと関連づけて解釈すること ができる。王(2013:168)は第二言語不安と対人的不安との間に正の相関関係を見出し、両 者は同質であると指摘する。王によれば、第二言語不安を生む主な要因に「発言」、「予期し ないこと」、「他者との比較」の3つがあるが、このうち「発言」と「他者との比較」は「他 者」の存在、「予期しないこと」は「想像上の他者」の存在によってそれぞれ生じ、いずれ も他者との関係性に起因すると結論づける。
教室環境と遠隔環境では、まさに他者との関係性の点で顕著な違いが見られる。特に今回 の授業形態で影響しうる特徴として、他者の視線の有無、アイデンティティーの構築、人間 関係の構築の3点が挙げられる(表5)。当機関のオンライン授業では、学習者のカメラ映 像は表示されず、学習者は他者の視線を浴びることなく授業に参加できる。また、顔を見せ ず、実名も明かさず、匿名性を保ったまま、いわば仮想的なアイデンティティーを構築しつ つ授業に参加している。授業で一緒に学んでいても「顔見知り」になることはなく、授業外 での人間関係の構築もしにくい。このように、当機関のオンライン授業では他者との関係性 が希薄であるため、結果として王(2013)の指摘する対人的不安の軽減につながったとの解釈 ができるのではないだろうか。
表 5 「他者との関係性」という観点からの遠隔授業と教室授業の比較 一般の教室授業 当機関のオンライン授業 他 者 の 視 線
の有無
教師と学習者、学習者間で視線 やジェスチャーが交換できる。
カメラ映像を通じて教師の視線は共 有されるが、学習者同士の視線の共有 はなく、他者の視線を受けない。
ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー の 構築
授業内外の対面的インタラクシ ョンを通じて社会的アイデンテ ィティーが構築される。
顔や実名を出さず、オンラインインタ ラクションを通じて仮想的アイデン ティティーが構築される。
人 間 関 係 の 構築
対面的、協働的活動を通じて、人 間関係が構築される。
オンラインの仮想空間でのインタラ クションに留まり、それ以上の人間関 係が構築されにくい。
先述のように、従来の第二言語不安の先行研究では、対人的不安から生じる不安が阻害的
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に働く場合は習得に負の影響があるため、不安を軽減し情意フィルター(affective filter)
(Krashen 1982)を下げることが推奨されてきた。この観点では、遠隔授業環境はそもそ も対人的不安が少なく、情意フィルターの低い環境であり、対人的不安を感じやすい学習者 にとっては推奨されるべき学習環境といえる。遠隔授業の利点として、「時空の制約を超え て授業を受けられる」といった物理的側面や「授業の録画を繰り返し視聴できる」などのメ ディアの特性が焦点化されがちであるが、本研究を通じて、対人的不安が少ないという情意 面での利点もあることが明らかになった。特に対人的不安から教室で沈黙しインタラクシ ョンに従事できない学習者(Harumi, 2011)には、対人的不安が少なく安心して学べる環 境として積極的に遠隔授業を捉えていくことを提案できよう。
もちろん、対人的不安が少ないという一点のみで、遠隔環境のほうが教室環境よりも優れ ているということはできない。対人的不安は阻害的な働きだけでなく、適度な緊張感を与え る促進的な働きをも含みうることも指摘されている(Bailey, 1983)。また、他者との関係性 の希薄さは、裏を返せば、近年叫ばれている多様な協働的活動に支障をきたしかねないとの 問題点もはらんでいる。こうした限界をふまえつつも、遠隔環境の物理的な特性、メディア の特性、情意・社会的特性をふまえた上で、単純な教室内・教室外の区分を超えた学習形態 の1つとして、遠隔学習を積極的に位置づけていく必要があるだろう。
5.2 今後の課題
本稿では、教室学習における不安が遠隔環境でも感じられるか否かを中心に据え、主に対 人的不安を中心に考察した。しかし、質問紙の自由回答には、少数ではあるが、「インター ネットの接続状況」、「イヤホンやマイク」、「ソフトウェアの使用」などへの不安を示唆する 回答も見られ、ネットワークや機材に対するオンライン特有の不安もありうる可能性も示 唆された。今後は、オンライン授業に伴う対人的不安以外の不安要因にも考察を加えていき たい。また、仮想的アイデンティティーを持つオンライン授業の学習者は、授業外で連絡を 取ったり対面で調査したりすることが難しく、ウエブアンケートの形を取らざるをえなか ったことは既に述べた。本調査結果は、あくまで 2 つの環境を想定した学習者の不安の認 識を比較したにすぎず、具体的なオンライン授業の中での不安を測定したわけではない。オ ンライン授業のより正確な実情の把握には、従来の教室研究 (classroom research)と同様 に、オンライン授業を対象とした授業観察、学習者と教師への聞き取り調査、質問紙調査な どのトライアンギュレーションを通じた地道な実証研究の蓄積が必要となることはいうま でもない。
参考文献
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