社会学研究科年報 2016 №23
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修士(2015 年度)在日中国系企業家のトランスナショナルな活動に関する考察
――「浙商」出身者の事例を中心に――
何 栩菁 1.研究背景と研究目的
1980
年代以降,中国改革・開放政策の影響で、大量の中国人が海外へ移動した。その中 で隣国日本への人口移動は、日中国交正常化以降積極的に行われている。日本法務省の統 計によると、
2015年
6月まで、在日中国人は
65万人を超え、在日外国人全体の
3割以上 を占めて、日本における最大の外国人集団に発展してきた。その中で、在日中長期滞在者 において、
2015年
6月まで、投資・経営という在留資格を持っている中国人は外国人投資・
経営登録者全体の約半分を占める。在日中国系企業家の活動は積極的に行なわれているこ とが見られる。
しかし、在日中国人に関する先行研究は、特に日中国交正常化以降来日する「新華僑・
華人」と言われる在日中国人に関しては、就学生・留学生、国際結婚者、移民などの特定 的なグループを取り上げる研究が多く存在しているが、在日中国系企業家(華商)について の研究はまだ足りないと考える。
このような問題意識のもと、本論文は社会学のアプローチにおいて、日本にいる中国系 企業家に着目し、彼らのネットワークに注目するものである。日本における中国の浙江省 出身の商人を具体的な研究対象として、 「日本浙江総商会」という在日華僑・華人の商人組 織に関わる
5名の中国系企業家へのインタビューを実施した。そのインタビューを通して、
彼らの個人対個人、個人対組織のネットワークの現状を明確し、在日中国系企業家の中国 との繋がり及び日本との連結について考察した。
2.先行研究
本論文では、主にトランスナショナリズム論、社会関係資本論、華僑・華人ネットワー ク及び華商ネットワークに関する概念的なフレームを参照し、在日中国系企業家のネット ワークを分析した。ここでは、在日中国系企業家のネットワークの構成要素を分析する際 に用いる一つの理論を紹介する。
陳
(2001:68)は、 「虹のメタファー」を利用し華商ネットワークの構成要素を虹が形成され
る
7色に比喩し、7 つのカテゴリーに分けた。それは①居住国との繋がり;②「中華」文 化との繋がり;③出身地の繋がり;④「家族」の繋がり;⑤出身校の繋がり;⑥同業者の 繋がり;⑦信条,趣味そして余暇の繋がりである。
本論文は、 「下からのトランスナショナリズム」に着目し、上述した
7つのカテゴリーを 参照しながら、私的財とクラブ財の二つの側面から在日中国系企業家の個人対個人及び個 人対組織のネットワークを分析する。
3.調査と考察
在日中国系企業家のネットワークを考察するために、 「日本浙江総商会」に関わる
5名「浙
商」へのインタビューが行われた。インタビュー対象は以下のようになる。
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①林立さん。林立さんは
40代、主に靴に関わるビジネスを展開している。現在、日本浙 江総商会の会長を務めている。
2015年
9月
25日と
9月
29日、インタビューを
2回に実施 した。
②Sさん。Sさんも
40代、今はオンラインビジネスに関する会社を経営している。現在、
「日本浙江総商会」 の副会長を務めている。
2015年
10月
19日にインタビューを実施した。
③Hさん。Hさんは
30代、主に日本の商品を中国に輸出して販売するビジネスを展開し ている。Hさんへのインタビューは
2015年
10月
19日に行われた。
④Jさん。Jさんは
20代、創業中。2015 年
11月
12日にインタビューが実施された。
⑤Zさん。Zさんも
20代、主に楽天市場においてアパレル事業を展開している。J さん と同時にインタビューを行った。
上述したインタビューを通して、在日中国系企業家は主に「血縁」 、 「地縁」 、 「業縁」の 三縁関係によって、多重的複合的なネットワークを持っていることが明らかになった。各 ネットワークの特性が違い、構成要素も異なることがわかる。また、在日中国系企業家の ネットワークは変化し続け、人により中国との繋がり及び日本との連結の密接度が異なる ことも明確にした。
そして、 「日本浙江総商会」のような在日華僑・華人社団は業縁組織で地縁性の性格を兼 ねていて、日本の華僑・華人社会において、重要な役割を演じていると考えられる。さら に、在日中国系企業家の個人的なネットワークは商会の組織的なネットワークとお互いに 連結し、影響を与えるほか、インターネットの発達は在日中国系企業家のネットワークに も商会のネットワークにも影響を与えると考えられる。最後、在日中国系企業家にとって 一番重要な社会関係資本は「人脈」だと考えられる。
参考文献
陳天璽、2001、『華人ディアスポラー――華商のネットワークとアイデンティティ』 明石書店.
広田康生、2003、『エスニシティと都市 新版』株式会社有信堂高文社.
稲葉陽二、2011、『ソーシャル・キャビタル入門』中央公論新社.
Steven Vertovec, 2009, “Transnationalism”, London; New York: Routledge.(=2014,水上徹男・細萱伸 子・本田量久訳『トランスナショナリズム』日本評論社).