方太平洋沖地震(M9.0)では,箱根火山のカルテラに位 置する芦ノ湖で,周期が3 ∼ 15 分のセイシュが励起さ れたことが原田ほか(2014)により報告されている。ま たノルウェーのフィヨルドでは,地震発生1.5 時間後に 地震波によって,67 ∼100秒周期のセイシュが励起され たとBondevik et al.(2013)により報告されている。 今回,我々は神奈川県温泉地学研究所(以下,温泉地 学研究所と呼ぶ)が真鶴港に設置している潮位計により 観測された2011 年東北地方太平洋沖地震直後のデータ を解析することにより,真鶴港及び相模湾のセイシュの 励起状態を分析した。相模湾のセイシュについては渡部 ほか(1997)により詳しく調査されている。彼らは精度 1.はじめに 湖や港湾での数分から数十分に及ぶ周期の副振動 (secondary undulation)はセイシュ(seiche)と呼ばれる。 セイシュを引き起こす原因には地震,津波,風,潮汐な どがある。また,中野(2016)は「ある港湾ではセイシュ の振動がはなはだ規則正しいのに,他の港湾でははなは だ不規則なことがある」という事実を指摘している。 セイシュが巨大地震によって励起されることはしばし ば観測されている。1964 年のアラスカ地震(M9.2)では, 地震波の衝撃によりハワイを含め,北アメリカの多くの 湖 や 港 湾 で5 ∼ 15 秒 周 期 の セ イ シ ュ が 励 起 さ れ た (McGarr and Vhorhis, 1968)。2011 年 3 月 11 日の東北地
Seiches excited by the 2011 Great East Japan Earthquake (M9.0) were observed at Manaduru-port in Sagami Bay, western Kanto district, Japan. The seiches were recorded by the tide-gauge operated by the Hot Springs Research Institute of Kanagawa Prefecture. The 1-Hz sampling digital data were analyzed to evaluate spectral peaks of the seiches for the purpose of revealing the main causes of the oscillations. The fast Fourier transform (FFT) and the wavelet transformation were applied to the data. The results show 5 groups of the spectral peaks, whose peak frequencies are 0.000244 Hz (F1), 0.0025∼0.0033 Hz (F2), 0.008 Hz (F3), 0.011∼0.013 Hz (F4) and 0.0245 Hz (F5). The peak frequencies of F3, F4 and F5 were explained as oscillations of Manaduru-port, by considering the shape and scales of the port, on the other hand, the F2 peak is explained as the characteristic oscillation of Sagami Bay. The lowest frequency, F1, can be explained as the tsunami waves. In order to understand the nature of the seiches in Sagami Bay, we also analyzed the water level data obtained at Ito tide-gauge station which is located at the western Sagami Bay. The dominant spectral peaks appear at frequencies around 0.005-0.007 Hz, which are different from the peak frequencies at Manaduru-port. This result is consistent with the previous study about the seiche in Sagami Bay.
Keywords: Seiche, Tohoku Earthquake, Spectral analysis, Wavelet analysis, Manaduru-port
2011年東北地方太平洋沖地震により励起された
真鶴港のセイシュについて
Yang LI
*, Kazuhiro ITADERA
**, Masatake HARADA
**and Motoo UKAWA
*** (Accepted November 11, 2016) * 日本大学大学院総合基礎科学研究科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40 ** 神奈川県温泉地学研究所: 〒250-0031 神奈川県小田原市入生田586 *** 日本大学文理学部地球科学科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40* Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University:
3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550, Japan
** Hot Springs Research Institute of Kanagawa Prefecture: 586, Iriuda,
Odawara, Kanagawa, 250-0031, Japan
*** Depar tment of Ear th and Environmental Sciences, College of
Humanities and Sciences, Nihon University:3-25-40, Sakurajousui, Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550, Japan
李 楊
*・板寺 一洋
**・原田 昌武
**・鵜川 元雄
***所)も解析した。また相模湾の振動特性を知るために相 模湾西岸(伊豆半島東岸)に位置する伊東験潮所の潮位 計のデータ(国土地理院)の解析も行った。 2.解析したデータ 本研究では温泉地学研究所が,芦ノ湖に設置している 水位計と真鶴港に設置している潮位計で観測されたデー タを用いた。観測点の場所を図1a に示す。また真鶴港 内の潮位計の位置は図1b に示した。水位計や潮位計の センサはどちらも圧力式である。観測データは1Hz サ の良い津波予測には,長周期波の湾内の挙動を知ること が必要であると述べている。我々の研究は実際の津波と 湾の副振動の関係を明らかにすることも目的とした。な お本研究で「地震前」あるいは「地震後」というときは, 2011 年東北地方太平洋沖地震の本震を基準にした前後 の期間を示している。 今回の解析では,従来のフーリエ変換に加えてウェー ブレット解析を適用してスペクトルを推定した。スペク トル推定手法の信頼性検討のために原田ほか(2014)に より解析された芦ノ湖の水位計のデータ(温泉地学研究 図1a 観測点の配置図 赤い三角は観測点の位置を示す. km
ル強度からは解析区間内の時間変化を知ることができな い。FFT で長周期と短周期の振動が混ざり合った振動 データを同時に分析するときは長周期の振動解析に必要 な時間幅を解析区間として選ぶことになり,振幅が時間 変動する短周期振動にとってその時間幅は広すぎること になる。それに対してウェーブレット解析は,アナライ ジングウェーブレットと呼ばれる波形を基本として,そ の波形を時間に関して縮小あるいは拡大して作られる ウェーブレットに解析対象の時系列を展開する手法であ る。ウェーブレット解析では特徴的な周波数に対応して 限られた時間幅で大きく振動するウェーブレットを時間 的に平行移動させるため,スペクトルの時間変動の情報 も得ることが可能である(例えば山田ほか,2016)。 本研究ではアナライジングウェーブレットとして下記 の 式 で 与 え ら れ るMorlet のウェーブレット(Farge, 1992)を採用した。
Ψ
���� = �
�����
�����
�����Ψ
�Η
�
��
�=
��
��� � �����
����� = ������� � � �
�
�=
��
����
��� = ������ � � �
ここでΨ0は周波数,η は無次元の時間パラメター,ω0 は無次元の周波数パラメターである。図2 に Morlet の ンプリングで温泉地学研究所に伝送され,保存されてい る。我々は最長48 時間のデータを解析した。解析にあ たっては4 時間以内のデータについては 1 Hz サンプリ ングの値(以後,秒値という)を用い,それより長いデー タについては毎分の0秒から59秒の平均値(以後,分値 という)を用いた。水位データは0.1 mm の単位まで記 録されている。 また国土地理院が伊東験潮所に設置している潮位計 (図1a)のデータも参考に解析した。デジタルデータは 国土地理院のweb サイト(http://tide.gsi.go.jp/furnish. html)よりダウンロートした。このデータは30秒サンプ リングで,データは1 mmの単位まで記録されている。 3.解析方法について 地震後の潮位変化の特徴を知るために,観測データの スペクトル解析を行った。スペクトル解析にあたっては, 高 速 フ ー リ エ 変 換(Fast Fourier Transform, FFT) と ウェーブレット解析を使用した。 FFTでは,一つの解析区間によって対象とするすべて の周波数のスペクトル強度を計算するが,そのスペクト 図1b 真鶴港の形と潮位計の位置 ■印は潮位計の位置を示している.国土地理院の基本基盤地図を基に加筆した.m
原田ほか(2014)で同定したピークとほぼ同じ周期の ピークが検出されたことがわかる。T1 と T2 の周期にほ ぼ 相 当 す る0.0638 cycle/min(約 15.6 分周期)と 0.155 cycle/min(約 6.4 分周期)のピークは地震前から明瞭に 現れている。後者は,地震直後に強度を増している。T3 に相当する0.23 cycle/min(約4.3分周期)のピークは地 震後に顕著であるが,原田ほか(2014)と同様に地震前 にも強くなる時間帯があることがわかる。T5 と T6 に相 当する0.304 cycle/min(約3.2分周期)と0.46 cycle/min (約2.1分周期)のピークは,地震前数時間から現れ,地 震によって強度が顕著に強くなっている。T4に相当する 0.26 cycle/min 付近にも地震直後に強度が強くなってい ることがわかるが,ピークの周波数上の分離が良くな い。振動の継続時間をみると,地震前に比較的振幅が小 さく,地震による励起の影響が大きいと考えられるT3 とT5に相当する0.23 cycle/minの成分と0.304 cycle/min の成分はそれぞれ約15 時間と約 20 時間,継続していた ことがわかる。 図3 のウェーブレット解析の結果と原田ほか(2014) によるランニングスペクトルの特徴を比較する。スペク トルピークの周波数は上述のようにほぼ一致している が,原田ほか(2014)のランニングスペクトルの方が鋭 いことがわかる。一方,スペクトルの現れる時間幅を見 るとウェーブレット解析ではスペクトルの強弱が明瞭に 表されているのに対し,ランニングスペクトルでは256 分の時間幅で解析しているため,この時間幅より短いス ウェーブレットを示した。計算の方法はTorrence and Compo(1998)に従った。 4.解析結果 解析方法の信頼性を検証するため,まず芦ノ湖のデー タを分析し,原田ほか(2014)の結果と比較する。次に 真鶴港のデータを分析する。 (1)芦ノ湖の解析結果(図3) 原田ほか(2014)は,2011年3月11日から12日にかけ ての芦ノ湖の水位データの分値を解析している。解析に あたっては,解析区間の時間幅を256 分とし,この解析 区間を2 分ずつ移動させながら FFT を用いてスペクトル 解析を行った。彼らは,地震前に15.16分(T1),6.58分 (T2),4.48分(T3)と3.13分(T5)の周期成分が観測され, T1は芦ノ湖の北西―南東方向の固有振動,またT2,T3, T5はその倍振動であること,T1の倍振動2.19分(T6)と 芦ノ湖の北東―南西方向の固有振動である3.88 分(T4) 周期の振動は観測されなかったことを示している。ま た,地震後はT1 と T2 の周期成分は平常時と同じ振幅で あったがT3とT5の周期成分が地震によって増幅されT5 は最大20 時間続いたこと,地震前に観測されなかった T4 と T6 が地震によって励起されたことなどを明らかに した(原田ほか,2014)。 我々は,原田ほか(2014)の結果と比較するため,彼 らと同じ時間のデータを対象にしてウェーブレット解析 を行った。図3 に示す解析結果によって,以下のように 図 2 Morletのアナライジングウェーブレット 赤の実線は実数部分,青の破線は虚数の部分,緑の実線は絶対値を示す.
めた。図4 に示す結果には 5 つのスペクトルピークが認 められる。そのピーク周波数は,0.000244 Hz(約4000秒 周期 (F1)),0.0025 Hz ∼0.0033 Hz(約300 ∼400秒周期 (F2)),0.008 Hz(約125秒周期(F3)),0.011 Hz ∼0.013 Hz(約76 ∼90秒周期(F4))と 0.0245 Hz(約40秒周期 (F5))である。なお,F1のピークは図4の上限を超えて いるが,数値上で確認している。図4 の潮位変化図から ペクトルの時間変化を見ることは難しい。スペクトルの 時間変化を見るためには,FFTとウェーブレット解析の 両方を用いることが必要だと考えられる。 (2) 真鶴港の結果 我々は2011 年 3 月 11 日 14 時 00 分から 3 時間分の秒値 データをFFT によりフーリエ変換し,スペクトルを求 図 3 芦ノ湖の水位変化のウェーブレット解析結果 (a)水位データの最大振幅を1に標準化した波形.(b)周波数0 ∼ 0.5 cycle/min の範囲のウェーブレット の結果を示す.(c) 周波数 0 ∼ 0.25 cycle/min の範囲のウェーブレットの結果を示す.黒い矢印は原田ほ か(2014)で観測された芦ノ湖のセイシュの周期成分を示す.赤い矢印は発震時を示す.
成分が卓越している。これらのピークは,それぞれFFT の結果でF2,F3,F4,F5と名付けたピークに相当してい ると考えられる。 スペクトルの時系列変化に注目すると,F5の成分が先 に励起されて約2800 秒から 4000 秒まで継続していた。 その後F3 の成分が約4000 秒から 5000 秒まで継続し,そ れに引き続き約4500 秒から 5000 秒まで F4 の成分のスペ クトル強度が強い状態が続いた。F2 の成分は F5 と同じ 時間に励起されて,2800 秒から 9000 秒まで継続し,一 旦振幅が小さくなった後,10500 秒からまたスペクトル 強度が強くなっている。 津波の周期は約4000秒(0.00025 Hz)であるので,F1 に 見られる強いスペクトル成分は津波と考えられる。渡部 ほか(1997)によると相模湾全体の振動の成分である A モードの周期は約1 時間半(0.000185 Hz)にあるが,今 回の周波数解析においても図4 の上限を超えているが, そのピークが数値上で認められた。 ウェーブレット解析結果を図5 に示す。図 5 の時間軸 は2011年3月11日14時00分00秒を起点にした秒値で表 示されている。ウェーブレット解析の結果では,地震波 の到着直後から(図5 上で約2400秒以降),0.002 ∼0.004 Hz,0.007 ∼0.009 Hz,0.01 ∼0.015 Hz,0.02 ∼0.037 Hzの 図 4 真鶴港の潮位変化のフーリエ変換結果 (a)潮位データの時間変化を示す.(b)FFTによるスペクトル強度を示す.黒い矢印は ピークの周波数を示す.時間軸は2011 年 3 月 11 日 14 時 00 分を起点(0 秒)とした秒値 を示す.
2011年東北地方太平洋沖地震により励起された真鶴港のセイシュについて
Ψ
�Η
�
��
�=
��
��� � �����
����� = ������� � � �
�
�=
��
����
��� = ������ � � �
湾が閉じている場合は,Ψ
���� = �
�
��
Ψ
�Η
�
��
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��
��� � �����
����� = ������� � � �
�
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��
����
��� = ������ � � �
である。ここで,Tnはセイシュの固有周期,nはセイシュ 5.真鶴港のスペクトル分析の結果について (1)真鶴港の形状と観測されたスペクトル 湾の形状を基にしたセイシュの固有周期はメリアン (Merian)の式で計算できる(原田ほか,2014)。メリア ンの式は湾の形が開いている場合は, 図 5 真鶴港の潮位変化のウェーブレット解析結果 (a)潮位データの最大振幅を1に標準化した波形.(b)周波数0 ∼0.05 Hzの範囲のウェーブレット解析結果を示す. (c)周波数0 ∼0.01 Hzの範囲のウェーブレット解析結果を示す.黒い矢印はFFTで検出されたピークの周波数を 示す.赤い矢印は発震時を示す.時間軸は2011年3月11日14時00分を起点 (0秒)とした秒値を示す.じ約4000 秒である。津波到着後に 0.007 Hz 付近の振動 は見られなくなり0.005 Hzを中心にした周波数の振動が 解析した時間,7000秒以上にわたって継続した。この周 波数の変化は,津波によって伊東験潮所で卓越するセイ シュの成分が変化したと考えられる。伊東験潮所の潮位 データのサンプリング周期が30 秒であることを考慮し て,周波数が0.01 Hzより低い(周期100秒より長い)振 動について,真鶴港と比較すると,津波本体の波形はほ ぼ同じ形状であるが,そのほかのセイシュと考えられる 振動は共通性がほとんどない。 伊東験潮所では真鶴港で観測されたF2の周波数(0.0025 ∼0.0033 Hz)付近にスペクトルピークは見られなかった ことから,F2の振動が相模湾全体で卓越しているわけで はないことが分かる。渡部ほか(1997)によれば真鶴港 の長周期波の主要3 成分は,0.0001 Hz(A モード,以下 も( )内の記号は渡部ほか(1997)によるもの),0.0025 Hz(MA5),0.0029 Hz(MA6)であり,伊東験潮所の主 要3成分は,0.0001 Hz(A),0.0011 Hz (I2),0.0014 Hz (I3)である。また伊東験潮所と真鶴港共通のスペクト ル成分はAモード(0.0001 Hz)のみであると指摘した。 今回の解析では,真鶴港と伊東験潮所のそれぞれの主 要3 成分の内,真鶴港の MA5 と MA6 である 0.0025 Hz と0.0029 Hz,伊東験潮所の I2 と I3 である 0.0011 Hz と 0.0014Hzが地震によって増幅した。なお,伊東験潮所で は渡部ほか(1997)によってI3との関連性が指摘された I18(0.007 Hz)成分も地震によって,励起された。渡部 ほか(1997)の結果を考慮すると地震によってそれぞれ の潮位計のある地点に特有の周期の相模湾の固有振動が 励起されたと考えられる。 6. 議論と考察 芦ノ湖の場合は,芦ノ湖の形状から計算される固有周 波数の振動で説明が可能である。一方,真鶴港の場合は, 真鶴港の形状によって引き起こされる固有周期の振動だ けでなく,相模湾の影響によると考えられる長周期の振 動も見られた。 津波到達以前に,今回の地震により励起された振動の 周期を見ると,真鶴港では約400 秒に相当する F2 より 短い周期の振動が励起され,伊東では図6 を見ると周期 約200 秒より短い振動が明瞭に励起されている。芦ノ湖 も地震により励起された最も長い周期の振動は周期約 400秒のT2である。このように 3 つの観測点で地震によ り励起された最も長い周期が200 ∼ 400 秒とほぼ共通し ている理由は,地震波に含まれる振動のスペクトルにあ り,これより長周期の振動のエネルギーはセイシュを励 のモードで,Lは港の代表的な形状の長さ,gは重力加速 度,Hは港の深さを意味している。 真鶴港の形状は図1b で示した通りであり,南東方面 に開き,残り三面が閉じる矩形と単純化することができ る。真鶴港の北西―南東方向の長さは約492m で,平均 深さは約20 mであるので,真鶴港の北西―南東方向の セイシュのモードは,上記の湾が開いている場合の式に この形状を代表する長さと深さを代入すると,n を 0 と した時,基本周期として約140秒(0.007 Hz)を得る。北 東―南西方向のセイシュモードでは,湾が閉じている場 合の式を使って,n を 1 として,北東―南西方向の湾の 幅が約179 mなので,セイシュの基本周期は約50秒(0.02 Hz)である。 FFT 解析で検出された F5 のスペクトルピークの周期 (約40 秒)は,真鶴港の北東―南西方向のセイシュの固 有振動にほぼ等しい。またF3 と F4 のスペクトルピーク の周期(それぞれ約125秒と約76 ∼90秒)は真鶴港の西 北―南東方向のセイシュの基本周期とその倍振動にほぼ 等しい。観測された周期と上記の式で計算した固有周期 が完全には一致しない理由は,計算された固有周期では 港の形状や深さを単純化したためと考えられる。 F5 の成分が F3 の成分より時間的に先に励起される理 由として,震源が真鶴港の北東方向にあるため,P 波的 な振動である北東―南西方向の振動がこの方向のセイ シュを先に励起し,その後,S 波的あるいはラブ波的な 進行方向に直交する振動により西北―南東方向のセイ シュが励起された可能性がある。今後,シミュレーショ ンなどで確認することが必要である。 (2)F2(0.0025 ∼0.0033 Hz)のセイシュについて 真鶴港の潮位データのFFT の解析では,約 0.0025 ∼ 0.0033 Hzの鋭いスペクトルピークが検出された(図 4 )。 また,ウェーブレット解析では0.002 ∼ 0.004 Hz の周波 数成分が地震波到着直後から卓越し,強弱の変化をしな がら継続している(図5 )。この長周期の振動の原因と しては,周期が真鶴港の固有振動の基本周期より長いこ とから真鶴港の規模では考えにくく,相模湾規模の振動 の可能性がある。そこで,我々は相模湾西岸の伊東験潮 所の潮位計データ(国土地理院)を分析した。潮位計の位 置を図1a に,また,そのウェーブレット解析結果を図 6 に示す。 図6 をみると,伊東験潮所では地震波到着直後から 0.007 Hz付近を中心にした0.005 ∼0.01 Hzの振動が強弱 を繰り返しながら津波本体が到着するまでの約3000 秒 間,継続している。津波本体の周期は,真鶴港とほぼ同
その原因は今後の課題として残された。 渡部ほか(1997)は津波の正確な予測には湾の固有振 動を考慮することが必要であると指摘している。今回, 解析対象とした2011 年東北地方太平洋沖地震による真 鶴港の津波波形(図5 )を見ると,津波本体の最大振幅 起するには十分でなかったためと推測できる。 伊東験潮所では周波数0.007 Hz付近を中心にした振動 が津波到着後に0.005 Hz を中心にした振動に変化した (図6)。この現象に関して,津波が到着後,伊東検潮所 で卓越するセイシュのモードが変化したと考えられる。 図 6 伊東験潮所の潮位変化のウェーブレット解析結果 (a)潮位データの最大振幅を 1 に標準化した波形.(b)周波数 0 ∼ 0.1 Hz の範囲のウェーブレット解析結果を 示す.(c)周波数0 ∼0.003 Hzの範囲のウェーブレット解析結果を示す.黒い矢印は渡部ほか(1997)の周波成 分を示す.赤い矢印は発震時を示す.時間軸は2011年3月11日00時00分を起点(0秒)とした秒値を示す.
Hz よ り 低 い 周 波 数 成 分(F1),0.0025 Hz ∼ 0.0033 Hz (F2),0.008 Hz (F3),0.011 Hz ∼0.013 Hz (F4),0.0245 Hz (F5)である。ウェーブレット解析により,F2,F3, F4,F5 に対応する振動は地震発生後に大きくなり,地 震により励起されたことが示された。またそれらのスペ クトル強度の時間変化を明らかにすることができた。 真鶴港のセイシュを説明するため,相模湾に面した伊 東験潮所の潮位データの解析も行った。真鶴港と伊東験 潮所では真鶴港で観測されたセイシュのうち,共通した 振動は津波本体のみであるが,真鶴港で観測されたF2 と伊東験潮所で観測された0.007 Hzを中心にした振動は 渡部ほか(1997)の相模湾のセイシュに関する研究から, 相模湾の起源とするセイシュであると考えられる。周期 が比較的短いF3,F4,F5 は真鶴港の固有振動で説明す ることができることが明らかになった。 謝辞 国土地理院が伊東験潮所に設置している潮位計のデータを 使用させていただきました。村瀬准教授には原稿について多 くのご助言をいただき,本論文の改善に大きく役立ちまし た。図の作成には Generic Mapping Tools (Wessel and Smith, 1995) を使用した。ここに記して感謝いたします。 は約2 m(最大と最小の差)であり,また周期は約 4000 秒である。津波到達前の地震波によるセイシュの最大振 幅は約0.4 m(最大と最小の差)で津波本体の約 5 分の 1 と小さいが,津波到達以前に地震波により海面が数十 cm 程度変動するので,沿岸防災にとっては無視できな い変動である。津波の周期に相模湾の固有周期が与えた 影響は,今後の課題として残った。 7.結 論 2011 年東北地方太平洋沖地震に伴って真鶴港に設置 された潮位計で観測されたセイシュの振動をFFT と ウェーブレット解析を用いてスペクトル解析を行った。 ウェーブレット解析を適用するにあたり,まず原田ほか (2014)により FFT を用いたスペクトル解析がなされた 芦ノ湖のセイシュをウェーブレット解析し,手法の精度 を確認した。それによりFFT はスペクトルの周波数分 解能が高いが,時間変動の分解能が低いこと,一方, ウェーブレット解析は時間分解能が高いが,周波数分解 能が低いことが確認でき,実際のスペクトル解析には2 つの手法を併用することが必要であることがわかった。 真鶴港の潮位データのFFT 解析の結果,5 つのスペク トルピークを識別した。それらのピーク周波数は,0.001
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