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~大動脈瘤手術における

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(1)

第 3 章

臓器の位置・姿勢の定量化

~大動脈瘤手術における

ナビゲーションシステムの設計・開発~

3.1 本章の位置付け

3.2 大動脈瘤手術のためのナビゲーションシステムの開発 3.3 システムの基本性能

3.4 考察

3.5 本章のまとめ

(2)

3.1 本章の位置付け

第2章において,心臓血管外科領域の開胸を伴うような手術中に支援するナビゲー ションシステムの2つの手法について論じた.本章ではそのうちの一方である臓器の位 置と姿勢を定量化するシステムの設計と開発を行う.

大動脈瘤手術において,脊髄につながる重要な肋間動脈の位置・走行を正確に特定す ることが求められる.大動脈の内壁からは肋間動脈の開口部が観察されるが,壁の裏側 にひろがる肋間動脈の走行を確認することはできない.ここで,隣接する肋間動脈の間 隔が約20mm であることから,ターゲットの肋間動脈に対し,5mm 以内の精度で指し 示すことができるシステムが目標となる.肋間動脈が肋骨に沿って走行していることを 利用して,骨の特徴点の選択に基づくレジストレーションを行い,画像空間と計測空間 の一致を図る.

本章では,さらに,ナビゲーションシステムの動作確認,および検証を行う.とりわ け,臨床に応用する前に工学的な見地から事前に予期可能なナビゲーションシステムの 誤差についてファントムを利用して検証する.

(3)

3.2 大動脈瘤手術のためのナビゲーションシステムの開発

3.2.1 ナビゲーションシステムの開発目標

開胸を伴う手術のうち,術野を見たままではターゲットとなる対象の位置,向きの判 断が難しい.特に大動脈瘤手術の場合,大動脈の内側に左右12箇所ずつ存在する肋間 動脈の開口部を見ただけで,どの肋間動脈なのか,またどのような走行であるのかを判 断する.また,この手術は出血が多いために術者には短時間での判断が要求される.

そこで,大動脈瘤手術に対して,隣り合う肋間動脈の位置走行を即座に判断できるナ ビゲーションの形態を提案する.システムの実現にあたっては,対象と骨の動きがほぼ 小さいとみなせるとし,術具やポインタの位置を計測することで,対象との位置関係を 求めるものとする.

3.2.2 ナビゲーションシステム実現のための特殊制約条件

大動脈瘤手術を対象にしたナビゲーションシステムを構築するにあたり,従来の脳神 経外科,整形外科などの手術と比べ,異なる条件を下記に示す.

① 大動脈は拍動に伴って動く器官である

② 多量の出血を防ぐため,手術時間が限られている

③ 手術中に MRI 画像の撮像ができない(時間がかかる,血管など知りたい対象 が写らない)

④ 骨にマーカをうつことができない(開胸後に画像を写して確認できない)

⑤ 体中の深い位置にあるため,皮膚にマーカを付けたとしても血管の位置を示す ことができない

⑥ 肋間動脈は肋骨の下縁に沿って走行する.

これらの条件を考慮し,以下ではシステムの開発上の基本仕様の中に反映させる.

(4)

3.2.3 手術におけるシステム使用の位置付け

大動脈瘤手術は出血量を少なく抑えることが求められる.そのためには手術時間を短 く抑えることが有効である.Fig.3.1に手術の流れを示す.胸腹部大動脈瘤の手術時間は 全体で8時間程度かかる.そのうち,核心となるのは水色で示した体外循環を開始し,

大動脈を遮断,そして人工血管へ置換後に体外循環から離脱する,という作業である

Fig.3.1 Typical Surgical Process in Aortic Root Replacement

ナ ビ ゲ ー シ ョ ン の 動作タイミング

(5)

遮断開始後は即座の判断が求められるため,現段階でナビゲーションを行うことは好 ましくない.そこで,遮断が開始する前の段階で手術ナビゲーションシステムを用いて,

目標とする肋間動脈の領域をあらかじめ決定しておき,油性ペンによるマーキングまた

Fig.3.2のように手術用布を巻きつけることで目印をつけておく.

Fig.3.2 An Artery to be Reconstructed is Marked with a String

(6)

3.2.4 システムの構成

Fig3.3 System Configuration

本システムの構成をFig.3.3に示す.図中の①-④は以下の数字に対応する.

① ポインタ: 3つの反射球マーカを剛体として,取り付けた指示棒.実空間と画像 空間の位置合わせ(レジストレーション),および患部の指示器として使用する.体中 深い位置を指すため,指示棒の長さは270mmとした.

② 光学式 3 次元位置計測器(PolarisⓇ, Northern Digital Inc.): ポインタが指し示した 先端の位置,姿勢を計測する.

③ ナビゲーション用 PC: 3 次元位置計測器で取得する術具情報を受け取り,患者 CT画像空間での術具の位置を表示する.CT画像は3面図で表され,患部周辺の詳細な 情報を確認するために用いる.

④ 3 次元サーフェスモデル表示用 PC: 3次元再構築モデルの表示を行う.ナビゲー ション用PCからUDP通信で送られてくる術具情報をリアルタイムにアップデートし,

術具と患部周辺の立体的な位置関係を直感的に把握するために使用する(Fig.4.5).

(7)

3.2.5 システムの流れ

システムの流れは大きくわけて(i)術前における画像準備と(ii)術中のナビゲーショ ン作業に分かれる.ここで,実験における計測作業の流れを Fig.3.4a)に,計測後の 解析作業の流れをFig.3.4(b)に示す.図中の1-4の数字は下記の1-4の数字に対応 する.

(i)術前作業

① セグメンテーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3.2.6で詳述)

術前にCTの画像を取得し,骨,大動脈,肋間動脈といった関心領域を抽出し3次元 再構築モデルを構築する.実際の手術は半側臥位で行うが,画像撮影はルーチンの作業 に則って,仰臥位で行う.ターゲットとする肋間動脈を赤色の血管で示し,他の血管と の違いを明確にする.

② 症例検討会,解剖学的特徴点の設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3.3.7で詳述)

3次元サーフェスモデルをもとに,レジストレーションに用いるための解剖学的特徴 点を術前に選択する.

(ii)術中作業

③ レジストレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3.2.8で詳述)

3点の術野上の位置をポインティングして画像上の位置とのレジストレーションを行 う.大動脈上の特徴のある点をポインティングし,ナビゲーションの動作を確認する.

そして,術野上でポインタを走査しながら,3 次元再構築モデル上での位置を確認し,

術野上の重要な血管にテー1pu して印をつけておく.

④ ナビゲーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3.3で詳述)

大動脈遮断後に大動脈瘤を切開し,大動脈内部から見える肋間動脈の開口部の上でポ インタを走査し,ターゲットとする肋間動脈の位置を同定する.

(8)

Fig.3.4 Data Flow on Aortic Replacement

(9)

3.2.6 セグメンテーション

それぞれの部位の構造を立体的に表示するために,CT スライス画像から背骨や大動 脈・肋間動脈などの必要とされる部位の領域を抽出し,術者に必要な情報だけを表示す る.この領域抽出のことをセグメンテーションという.

セグメンテーションはAnalyze(Mayo Clinic)というバイオメディカルイメージング ソフトウェアを使用して行う.以下セグメンテーションの手順について人体模型を CT で撮像したデータをもとに説明する.次の数字はFig.3.4中の数字に対応する.

① CTスライス画像上から関心領域(Fig.3.5では大動脈)ここでは他の部位と区別す るために赤色で必要部位を色分けする.

② すべてのCTスライス画像の抽出を終えたら,そのスライス画像を重ねて3Dサー フィスモデルを作成する.

以上のことを骨,大動脈,肋間動脈1本ごとに行う.

bSegmentation (Axial: from Foot to Head) (a) A Slice of CT images

(Axial: from Foot to Head)

c3D reconstruction

Fig.3.5 3D Reconstruction with Segmented CT Images

① ②

(10)

3.2.7 特徴点の選定

大動脈瘤手術では術野にマーカを留置することが困難である.そこでマーキングポイ ントとしてマーカの代用となり得るものとして,患者の体内で判別しやすい解剖学的特 徴点を使用し,ポインタによって指し示す.Fig,3.6は医師がポインタを用いて特徴点を 選択している様子である.Fig.3.7 は第 11 肋骨の下縁を指し示している様子であり,

Fig.3.8 は身体の奥深くを指したときに反射球マーカが計測できるように指示棒を

270mmとして作製した.また,マーカの代用となり得る条件を以下に示す.

1)撮影した画像上での特定が容易 2)ポインタで指し示すことが可能

3)同定する肋間動脈との位置関係が常に一定

Fig.3.8 Pointer 270 mm

Fig.3.6 Positioning to an anatomically specific Point

(11)

3.2.8 レジストレーションアルゴリズム

解剖学的な特徴点として3点を選択する.この 3 点の位置関係は,画像座標系,計測座 標系で変わらない剛体であるという仮定をし,3 点がつくる座標系を一致させることでレ ジストレーションを行う.

具体的には,Fig.3.9に示すように,画像から特徴点を3点iP=(iP1iP2iP3),ポイ ンタを用いて実際に患者空間の特徴点を指し,計測した点を3点pP =( pP1,pP2,pP3) とする.このとき,それぞれ3つの点を用いて作成した座標系をそれぞれ画像座標系が

Σimage,計測座標系がΣpolarisとしておく.ここで,計測座標系から画像座標系への変換

行列をiTpとおき,計測点pPを画像座標系の点3点pP’ =( pP1’pP2’pP3’)に変換す ることを考える.Fig.3.10にレジストレーションの流れを①-③として示す.

P2

P1 P3

P2

P1 P3

i T p

Fig.3.9 Selection of anatomically specific points and construction of two coordinate system

(12)

Fig.3.10 Registration Algorithm

このとき,座標変換後の点pP’を座標変換前の pPと変換行列 iTpをもちいて表すなら ば,

pP1’=iTp pP1

pP2’= iTp pP2 ・・・・・・・・・・(3.1)

pP3’= iTppP3 という式が成り立つ.

このとき,∆r=iP - pP’ 間の距離∆rをレジストレーションの誤差とする.

ここで,特徴点一致の方法としては,

① それぞれの点の集合iP及びpP’の中から,ランダムにお互いのある 1 点を 選択する.

② たとえばiP1pP1’ を選んだ場合,それらの点を重ね合わせて新しい座標 系の原点として設定する.

(13)

③ 残り点のうち1点,たとえばiP2pP2’を x軸上に乗るように定義したと き,各マーカの距離L2, L3は

L2 = | iP2 - pP2’ | L3 = | iP2 - pP2’ |

L2 と L3の平均が最小となるような位置関係を求めることで,計測座標系Σpと画像 座標系Σiの変換行列を決定する.ある3点の組み合わせは,1点を固定したとき残りの 点の選び方は2通りあり,それぞれ3つの点に対して行うため,

3P2 = 3*2 = 6通り・・・・・・・・・(3.2)

レジストレーションのためのマーカが3個の場合,原点とするマーカ及びx軸上を通 るマーカの組み合わせは全部で6通り存在することになる.この6通りの中から最も誤 差の小さくなる場合をレジストレーション結果とする.

ここで,レジストレーションにおける結果として用いる,発生する全ての誤差におけ る,平均誤差と最大誤差の定義についてTable3.1に示す.

この方法の利点は,必ずしも点が3点のときに限ったものでなく,点を3点から4点,

5点...と増やしたときにも扱いやすいアルゴリズムであるということ,多点になった ときには,繰り返し計算を行うICPアルゴリズムなどに比べて複雑とならないため,計 算時間が少なくてすむ.

一方で,欠点は,1点の誤差を強制的に0にするため,全体的に同じ誤差がある場合 にも1点が0となり,他の点のズレの影響も強く受けることになる.

・・・・・・・・・・(3.2)

(14)

Table3.1 Accuracy definitions

Accuracy Measure Definitions Description

= N

k

k p k

iP P

ARE N1 '

Average residual error.

This represents the average difference in position between two sets of points.

(

k

)

p k i

k P P

MRE =max − '

Maximum residual error.

This represents the maximum difference in position between two sets of points.

(15)

3.3 システムの基本性能

3.3.1 ナビゲーション誤差の分類

実際に開発したシステムをFig.3.11に示すヒトの模型を対象に動作させ,システムの 基本性能を調べる.システムを臨床に応用する前に検討可能なナビゲーションの誤差を 次の3つに分類し,実験によって評価した.

(i) 特徴点の選択の仕方に依存しないシステムの精度・・・・・・・・・・・・・・・・・(3.3.2で詳述)

(ii) 特徴点の選択の仕方を考慮したナビゲーションの精度・・・・・・・・・・・・・(3.3.3で詳述)

(iii)体位の違いによるレジストレーション誤差・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3.3.4で詳述)

【対象】

人体ファントム

・骨部分:PVC(プラスチック)

既製品の人骨模型(ヒューマンボディ社)

金属部分を取り除いて,CT画像への アーチファクトを防ぐ.

・血管部:塩化ビニル 固定用箱

・材料:ダンボール素材,厚紙

・寸法:330mm×750mm×200mm

・緩衝材:ケース内の隙間にスポンジを敷詰 Fig.3.11 Human Phantom 330 mm

750 mm

(16)

3.3.2 特徴点の選択の仕方に依存しないシステムの精度

【条件】

① 体位の影響を取り除くために,手術中 の体位と同じ側臥位にファントムを固定する.

Fig.3.11にファントムの固定法を示す.

床面に対して45°の傾きをつけた台にファ ントム置き,スポンジを入れて固定する.

② 特徴点の選択方法による影響を取り除く ために,中に造影剤の入ったドーナツマーカ

を3個使用し,レジストレーションする(Fig.3.13).

【方法】

① ドーナツマーカの中心3点を計測空間上で

pP =( pP1pP2pP3)と選び,CT画像上でも 同様にiP =(iP1,iP2,iP3)と選択する.

② ドーナツマーカを基準として画像空間,

計測空間の座標系を一致させ,平均誤差と 最大誤差を算出する.

③ 10回行い,平均と標準偏差を算出する.

【結果】

平均誤差が0.8mm,標準偏差が0.3mmとなった.

システムの平均精度は1.1mmである(Table.3.2).

Ave. Error mm

Max Error mm

Average 0.8 1.9

Standard

deviation 0.3 0.7

Fig.3.12 Cross-section of case to fix phantom

330 mm

200 mm Phantom

45

Cushioning materials

Fixed case

Fig.3.13 Setting of Three Doughnut Markers

Doughnut Marker

Table3.2 Registration Errors

( case : using three doughnut markers )

(17)

3.3.3 特徴点の選択の仕方を考慮したシステムの精度

【条件】

① 解剖学的特徴として,突起があり,部分を用いる.

(a)椎骨横突起の先端部,(b)椎間関節の鋭角部,(c)椎間板と肋間動脈の交差部

② 特徴点は誰もが選択しやすい場所であり,選択するヒトによる誤差は無視する.

【方法】

Fig.3.14に示すように,赤の点線で囲まれた

血管の開口部がターゲットの血管であるときに,

(a)ターゲットを囲むような特徴点の設定

(b)ターゲットを囲まない特徴点の設定 という2種類を比較する.

【結果】

レジストレーション誤差は囲まない形の場合 の方が平均で0.7mm,最大で1.4mm小さい.

しかしターゲットの肋間動脈起始部のナビゲー ション誤差は囲む場合の方が1.7mmと囲まない 場合に比べ,12mm以上小さかった.

Registration Error mm Origin of a

preserved

intercostal artery Ave. Error Max Error

Average Navigation Error

mm (a)In the triangle 2.0 3.8 1.7

(b)Out of the

triangle 1.3 2.4 14.0

(b) Origin of preserved intercostal artery out of the triangle by three distinctive points

(a) Origin of a preserved intercostal artery placed in the triangle by three distinctive points

= Anatomically specific points

= Area around origin of a preserved intercostal artery

Table3.3 Registration Error and Average Navigation Error between real space and imaging space

Fig.3.14 Intercostal Artery and Anatomically Specific Points

(18)

実際に手術室で手術中の状況を再現し,システムを動作させた様子をFig.3.15に示す.

図中の数字はFig.3.3に対応する.術者はモニタ上に表示される3次元血管モデルと実 際の術野を見比べながら温存すべき肋間動脈を探索する.(b)でポインタは緑色,重要 な肋間動脈はピンク色で表示している.

(a) Layout of Navigation System in an Operation Room

(b)3D Surface Model (c)Operative Field Fig.3.15 Prototype of navigation system for the Aortic Root Replacement

Surgeon

Patient (Phantom)

Navigation

3D Viewer

3D Position Sensor

① Pointer

Important artery

Pointer

(19)

3.3.4 体位の違いによるシステム誤差

【実際の手術状況】

胸腹部大動脈瘤手術では,術前に撮影したCTデータをもとに手術を行っている.し かし実際の手術では,撮影時と手術時の体位が異なる.通常,CT・MRI 撮影を行う際 の体位は仰臥位である.一方で,胸腹部大動脈瘤の手術中はFig.3.16に示すように腹部 の左側を上に45°から60°捻った側臥位をとる.これは大動脈が身体の左側を走行し ているために,手術時に術者が十分な視野を得られるようにするためである.

【方法】

体位の差による解剖学的位置の選択誤差を調べた.計測は放射線被爆のない MRI を用 いた画像計測とする.撮影プロトコルをTable.3.4に示す.また,Fig.3.17に画像撮像時 の体位を示す.(a)が仰臥位,(b)が側臥位である.

Table.3.4 Scanning Protocol

Subject 23 Years old, male (Posture: supine, lateral)

Modality OpenMRI (AIRIS II,Hitachi Medical Corporation)

Image sequence T2 weighted image

Image matrix 256×256×24

Slice Thickness 9mm

Fig.3.16 General position of a patient for thoracoabdominal aortic replacement (a) View from head side (b) View from foot side

(20)

(a) Cross-sectional view

= Anatomically distinctive points

(b) Front view

Thoracic vertebrae

Lumbar vertebrae

取得した CT のスライス画像から特徴点を選択する.選択する解剖学的特徴点は第 10・11胸椎の椎骨表面中央部(①,②),第12腰椎の椎骨表面中央部(③),左右の肋 骨と椎骨の接合部(④,⑤,⑥,⑦)の7点である.Fig.3.18に解剖学的特徴点の位置 を示す.

【結果】仰臥位と側臥位の座標変換を行い,比較した際の平均・最大変位をTable3.5に 示す.AからCの3人が画像から点を選択し,それぞれ平均化した値を用いた.

また特徴点位置をFig.3.19に示す.図中の①~⑦の番号はFig.3.18(b)の①~⑦に対応.

(b) Lateral position

45 °

Fig.3.17 The position of the patient for MRI

(a) Supine position

(21)

Table3.5 Displacement between supine position and lateral position

特徴点位置に関して,側臥位は仰臥位 に比べ,左側を頭方向に伸ばす体位なの で,左側の肋骨と椎骨の接合部の特徴点 は頭側に変位し,右側の接合部は足側に 変位する傾向がある.Fig.3.19 では④⑥ が足側に変位し,⑤⑦が頭側に変位する.

特に第 12 胸椎の左右の特徴点⑥⑦にお いて,大きな変位が生じた.

Displacement mm Selector

Average Maximum A 3.0 6.5 B 4.1 6.8 C 2.3 5.1

Fig.3.19 Position of anatomically distinctive points

= Points of supine position

= Points of lateral position

(b) Case B

(c) Case C

(a) Case A

(22)

3.4 考察

臨床に応用する前段階として,工学的見地から3つの要因のシステム精度への影響に ついてレジストレーションにおける平均誤差をもとに調べた.以上をまとめると下記よ うになる.

(i) 特徴点の選択の仕方に依存しないシステムの精度・・・・・・・・・・・・・・・・平均精度 1.1mm

(ii) 特徴点の選択の仕方を考慮したときのナビゲーション精度・・・・・・・・・・・範囲内: 1.7mm 範囲外:14.0mm

(iii) 体位の違いによる誤差・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平均誤差 2.3mm から 4.1mm

結果(i)からは,特徴点同士を剛体として合わせるシステムそのものの誤差がわかる.これに は,画像上のピクセル選択,ドーナツマーカの穴をポインティングする精度も含まれる.これら は手作業によるため,平均 1.1mm 程度の誤差は計測上存在すると考えられる.

次に結果(ii)からは,特徴点の選択の仕方によって異なるレジストレーション誤差とその結 果を用いてナビゲーションした結果の誤差がわかる.画像撮像時,特徴点計測時ともに体位 は固定であることから,これには特徴点の選びやすさが関係すると考えられるが,(i)の計測 誤差そのものに対して(ii)のレジストレーション誤差には大きく差が出ているわけではなく,今 回の場合,あまり影響はないと考えられる.

それよりは,ターゲットとなる肋間動脈に対して,どのような特徴点を選択するのかということ については,ナビゲーション誤差に与える影響が大きかった.ターゲットの血管を囲むような配 置で特徴点を選択した場合が1.7mmであったのに対し,ターゲットの血管から離れ,血管を囲 まない配置の場合には 10mm 以上の誤差があった.この場合,肋間動脈の開口部に対して,

大動脈壁の手前側から奥側に向かっての誤差が大きかった.つまり,(a)の選び方の場合はタ ーゲットの肋間動脈の起始部近傍で 3 点の三角形がつくる平面が構成されているのに対し,

(b)の選び方の場合は,ターゲットの肋間動脈の起始部に対して,奥深い骨の特徴点での三

(23)

角形平面であったために,奥行き方向の誤差も影響したと考えられる.従って,このことは奥行 き方向にズレが生じたとしても,3 点の特徴点の選び方が患者の頭足方向,左右方向に広が る配置であるのであれば,それらの方向にはあまり誤差がないと示唆される.

そして結果(iii)からは,体位変化によって平均で 3.0mm から 4.1mm の変位,最大で

6.8mmの変位が生じることが判明した.しかし,この差を算出するための MRI画像の

スライス厚が 9.0mm であることを考えるとこの差は比較するのに十分な画像取得がで きていないといえる.今回の画像は健常者のボランティアによるもので,被爆の影響の あるCTでの撮影は行わなかった.

ここで,座標変換を行わず,それぞれの特徴点間の距離を調べた結果は Table.3.6 の ようになる.つまり,これによりそれぞれの画像中で同じ長さをもつ部位が同じ長さと して計測されているかどうかがわかる.選択者 A による②-③間の距離の誤差以外は すべて1スライス分の厚である9.0mmから大きくずれている場所はなかった.しかし,

同じ区間においても選択者による誤差も大きい場合は5.2mmずれていることもあった.

従って,この結果だけから体位のずれの影響についての結論を示すのは難しい.

Table3.6 Residual on Distance between Two Points

Selector A B C Average

Distance between Supine and

Lateral

SA-LA [mm]

SB-LB [mm]

SC-LC [mm]

SAverage-LAverage [mm]

①-② 9.53 6.35 6.09 7.32

②-③ -10.78 -5.54 -6.89 -7.74

①-④ -2.37 -0.96 -2.02 -1.78

①-⑤ 2.18 1.41 1.99 1.86

②-⑥ -0.07 -4.50 4.80 0.08

②-⑦ 2.63 2.46 4.31 3.13

④-⑥ 9.11 5.88 4.75 6.58

⑤-⑦ 9.29 5.98 5.96 7.08

(24)

そこで,文献をもとに椎骨,肋骨の動きによる影響について論じる.椎骨は,ヒトの 体幹の構造上の中心に位置し,体軸となる主要な骨格である脊椎の一部である.胸腹部 大動脈瘤手術においてアプローチする胸腹部では,12 個の椎骨と,その椎骨から左右 に内臓を取り囲む形で12対の肋骨が存在する.また,身体を柔軟に動かすために,椎 骨の間には円状の線椎軟骨である椎間板が存在し,クッションの役割を果たしている.

椎骨および肋骨は硬い骨組織であることから,椎骨の形状自身に大きな変化は発生し ないが,弾性のある椎間板の存在により,体位が変化すると,脊椎を構成する椎骨の位 置関係に影響する.しかし,体位の変化による椎骨の位置関係の変化を調査したDeed E.

Harrisonらの実験によると,大腿骨を基準とした最大の胸郭変形の範囲を,12番椎骨を

水平運動し調査した結果の最大の変化は,1番から12番椎骨間で26度であるが,隣り 合う椎骨の変化の平均は 1.35 度と非常に小さいと報告されている.肋骨は椎骨を離れ れば離れるほど,開胸による変形は大きくなるが,大動脈瘤手術の中における対象とし ての肋骨起始部は,椎骨に繋がっていることから,術中に大きな変化はないと示唆され る.

(25)

3.5 本章のまとめ

心臓血管外科領域の1つ目の手術情報支援の形態として,脊髄につながる重要な肋間 動脈の正確な位置・姿勢の定量化という観点から,大動脈瘤置換術に対応する手術ナビ ゲーションシステムの設計・開発について論じた.以下の2つの設計方針にもとづきシ ステムを構築した.

1)瘤を切開しても大動脈内側からは肉眼で見ることのできない,血管壁の裏側に広 がる肋間動脈の走行状態を,手術中に立体的に把握可能とする表示を行うこと

2)温存すべき肋間動脈の起始部を頭足方向に最大でも5.0mmの範囲で特定可能にす

ること

工学的見地からシステムの動作検証を行うために,ファントムを用いた実験をした.

これより以下のことがわかった.

1) 特徴点の選択の仕方に依存しないシステムの精度・・・・・・・・・平均精度1.1mm

2) 特徴点の選択の仕方を考慮したときのナビゲーション精度・・・・・範囲内: 1.7mm 範囲外:14.0mm 3) 体位の違いによる誤差・・・・・・・・・・文献より,肋骨の起始部は影響が小さい

以上を通して,ナビゲーションの誤差は奥行き方向に大きく,頭足方向には±5.0mm以 内であった.これを受け,次章は本ナビゲーションシステムの臨床応用について論じる.

参照

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