キーワード 原波形復元,差分フィルタ,変形積分器,10m弦正矢法
連絡先 〒485-08014 愛知県小牧市大山1545番33 東海旅客鉄道(株) 技術開発部 TEL 0568-47-5380
変形積分器を用いた原波形復元の試み
東海旅客鉄道株式会社 正会員 ○永沼 泰州
1. はじめに
10m 弦正矢データ等から地上の実形状を逆計算する試みは国内外で古くから行われており,国内では累計 法,平均法,積分近似法,復元逆フィルタによる方法などが,国外でもHallade method,デコンボリューシ ョン法,Factor methodなどが提案されている.1987年に考案された「復元逆フィルタ」は安定かつ高精度 であるため,近年多くの鉄道事業者において軌道整備等に活用されているが,出力された原波形はその先頭と 末尾に所定の復元精度を満足しない数百メートルの「過渡応答」が存在する.軌道検測データを一括処理する 場合,この過渡応答は始終端の駅中に納まるので実用上の問題はない.しかし小型軌道検測装置やMTTで測 定したデータから原波形を計算したい場合,例えばわずか50mの原波形を計算したい場合でも過渡応答を考 慮して約1kmの測定が必要となる.この過渡応答を小さくするための手法はいくつか考えられるが,本稿で は変形積分器を用いる方法について検討した.
2. 10m弦正矢法の特性と差分フィルタ
10m弦正矢法の伝達関数はz変換を用いて式-1で表さ れる.ここで,データ間隔は1.0m,出力遅れは 5mであ る.
( )
5 1010 z
2 z 1 2 z 1
H =− + − − − (1)
式-1を変形すると,
( ) ( 5 10) (
5)(
5)
10 1 z 1 z
2 z 1
z 2 2 1 z 1
H =− − − + − =− − − − − (2)
式-2は,10m弦正矢法の特性が,2つの差分フィルタ と1つの乗算器で構成されることを示している.10m弦 正矢法のブロック図を図-1に示す.
3. 変形積分器による原波形復元
式-2から10m弦正矢法の逆特性は次式で与えられる.
( ) ( 5)(
5)
10 1 z
1 z 1 2 1 z H
1
−
− −
− −
= (3)
式-3 中の 1/(1−zN) は「変形積分器」と呼ばれる再 帰型フィルタで,利得が無限大になる周波数を複数持つ ため通常不安定である.このため,再帰ループに1より 小さい係数を持つ乗算器を配置して安定化が行われる.
安定化した 10m 弦逆特性のブロック図は図-2 となる.
2つの変形積分器の係数をそれぞれα,βとし,これを 変更した場合の周波数応答の変化を図-3 に示す.係数 を小さくすれば出力は安定するが,その代償として復元 精度が低下する.
Z-5
+
Z-5
-
+
-2
−1
地上の
軌道形状 10m弦正矢
差分フィルタ 差分フィルタ
Z-5
+
Z-5
-
+
-2
−1
地上の
軌道形状 10m弦正矢
差分フィルタ 差分フィルタ
図1 10m弦正矢法のブロック図
Z-5
+
Z-5
+
−2 軌道形状地上の10m弦正矢
変形積分器 変形積分器
α β
Z-5
+
Z-5
+
−2 軌道形状地上の10m弦正矢
変形積分器 変形積分器
α β
図2 10m弦逆特性のブロック図
0.1 1 10 100
0.001 0.01 0.1 1
α=β=1.0 (完全な逆特性)
α=β=0.6 α=β=0.8
振幅利得
空間周波数 (1/m)
0.1 1 10 100
0.001 0.01 0.1 1
α=β=1.0 (完全な逆特性)
α=β=0.6 α=β=0.8
振幅利得
空間周波数 (1/m)
図3 係数による10m弦逆特性の変化
4-033 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)
-65-
4. 実データを用いた復元精度の検証
東海道新幹線で実際に測定された10m弦 高低データを用いて,図-2 の処理により算 出した原波形を図-4 に示す.比較のため逆 フィルタによる復元原波形(波長 6m~
100m)を併記した.α = β = 1.0の場合は直 ちに発散するが,係数を 1 未満にすること で安定した結果が得られる.
変形積分器の過渡応答は5mと短いが,
その出力は無限大の波長まで含んでいる.
従って,軌道整正データとして利用するに はハイパスフィルタでこれら長波長成分を 除去しなければならない.しかし,高次の ハイパスフィルタを使えば,今度はその過 渡応答が問題となる.そこで,遮断特性は 劣るものの,過渡応答の短い移動平均フィ ルタを併用することにした.α = 0.8, β = 0.98 として原波形を演算した後,4m~
64m の移動平均バンドパスフィルタによ って軌道狂い成分を抽出した結果を図-5に 示す.過渡応答の長さは計38m(変形積分
で5m,移動平均で 33m)と短く,その出
力波形も逆フィルタによる方法と比較して 許容できるレベルの差異となっている.本 手法の周波数応答は図-6のとおりである.
5. おわりに
本稿では,原波形復元時の過渡応答を小 さくする試みとして変形積分器を用いた.
その結果,移動平均と併用すれば,実用に 耐える精度で過渡応答を短くできることが わかった.しかし,係数α,βの値をどのよ
うに決定するか,計算開始地点をどのように選ぶかなど,まだ解決すべき課題が残されている.本手法を含め,
今後もあらゆるアプローチで過渡応答の短い原波形復元手法の開発に取り組みたい.
参考文献
1) 金子慶尚:正矢と曲線の整正,pp21-34
2) 穴見徹広,菊池由佳:長波長軌道整備は仕上がり状態確認システムで合格率アップを,新線路,平成 14年2月
3) BRITISH RAILWAY TRACK 6th EDITION, pp410-412
4) Patrice AKNIN, Hugues CHOLLET: A new approach for the modeling of track geometry recording vehicles and the deconvolition of versine measurements, Proceedings of 16th IAVSD Symposium, 1999.
-15 -10 -5 0 5 10 15
100,000 100,200 100,400 100,600 100,800 101,000
(mm)
キロ程(m)
復元原波形
(6m~100m)
α=β=0.9
α=β=0.8
α=β=1.0
(完全復元)
-15 -10 -5 0 5 10 15
100,000 100,200 100,400 100,600 100,800 101,000
(mm)
キロ程(m)
復元原波形
(6m~100m)
α=β=0.9
α=β=0.8
α=β=1.0
(完全復元)
図4 変形積分器による原波形復元結果(α=β=1.0, 0.9, 0.8)
図5 移動平均を併用した変形積分器による原波形復元
(α=0.8,β=0.98,4~64m移動平均フィルタ)
-15 -10 -5 0 5 10 15
100,000 100,200 100,400 100,600 100,800 101,000
α=0.8,β=0.98
復元原波形
(6m~100m)
α=0.8,β=0.98 4~64m移動平均BPF (mm)
キロ程(m) -15
-10 -5 0 5 10 15
100,000 100,200 100,400 100,600 100,800 101,000
α=0.8,β=0.98
復元原波形
(6m~100m)
α=0.8,β=0.98 4~64m移動平均BPF (mm)
キロ程(m)
0.1 1 10 100
0.001 0.01 0.1 1
振幅利得
空間周波数 (1/m)
復元原波形
(6m~100m)
α=0.8,β=0.98 4~64m移動平均BPF
0.1 1 10 100
0.001 0.01 0.1 1
振幅利得
空間周波数 (1/m)
復元原波形
(6m~100m)
α=0.8,β=0.98 4~64m移動平均BPF
図6
4-033 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)
-66-