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<論説>不利益変更禁止原則について

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(1)不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて 典. 辻. =は. 本. 央. じあ に. ≡ 瀦 糊 範囲 四. 不 利 益(重 刑)該 当 性 の 判 断 基 準. 五. 最 高 裁 平 成18年2月27日. 六. お わ りに. 一. 決定の検討. は じめ に. 刑 訴 法402条 に よ る と,「 被 告 人 が 控 訴 を し,又 は被 告 人 の た め控 訴 を し た事 件 に つ い て は,原 判 決 の 刑 よ り重 い刑 を 言 い渡 す こ と はで き な い」。 この いわ ゆ る不 利 益 ・重 刑 変 更 禁 止(Verbotderreformatioinpeius)原 則 は,被 告 人(又 は弁 護 人 等 被 告 人 側 関 係 者)の み が提 起 した上 訴 審 で は, 仮 に原 判 決 よ り重 い刑 を 科 す べ き事 情 が 新 た に判 明 した と きで も(例 え ば, 原 判 決 が 傷 害 致 死 罪 と認 定 し た が,上 訴 審 で殺 意 が認 定 さ れ た よ うな 場 合)そ の 事 情 に応 じた刑 を 科 す こ とを 制 限 す る もの で あ り,上 訴 手 続 に際 し実 体 的 真 実 至 上 ・必 罰 主 義 で は な く,(一 一 定 程 度)被. 告人の保護 が優先. され るべ き こ とを 明 示 で 宣 言 す る もの で あ る。 それ ゆえ,本 原 則 は,上 訴 審 の 趣 旨 ・構 造 を 理 解 す る上 で 重 要 な 法 制 度 で あ る。 本 原 則 に関 して,① 適 用 範 囲,② 禁 止 され る重 刑 変 更 該 当 性 につ いて, 見 解 の 対 立 が 見 られ る。 本 稿 は,こ れ らの 問 題 点 を 検 討 し,近 時 の 最 高 裁 1.

(2) 近畿大学法学. 第56巻第4号. 判 例 を論 評 す る こ とを 目的 とす る。 その 際,本 原 則 の 趣 旨を 如 何 に理 解 す るべ きか が,右 検 討 に際 し重 要 で あ る。 それ ゆえ,検 討 に先 が けて,ま ず 本 原 則 の 背 景 ・趣 旨を 概 観 して お こ う。. 二. 本原則の概観. (1)本 原 則 の 歴 史 的 展 開 本 原 則 は,す で に19世 紀 に大 陸 法 域 で 広 ま り,現 在 で は英 米 法 域 や わ が 国 も含 めて 広 く普 及 して い る。 しか し,法 制 史 的 に見 る と,否 定 論 ・廃 止 論 も激 し く主 張 され て き た。 それ ゆえ,そ の 歴 史 的 展 開 を 詳 細 に トレー ス す る こ と は,本 制 度 の 趣 旨を 理 解 す る上 で 重 要 で あ る。 も っ と も,そ れ は 本 稿 の 中心 課 題 で は な く,ま た優 れ た先 行 研 究(1>も存 在 す る。 従 って,本 稿 の テ ー マ に関 して 必 要 最 小 限 度 に,先 行 研 究 を 参 照 す る に と ど め る。 本 原 則 の 起 源 は,必 ず しも詳 らか で はな い。 も っ と も,フ ラ ン スで は, 既 に1806年 参 事 院 告 示 に お いて(民 事 訴 訟 に関 して)本 原 則 が 示 され,そ れ が 判 例 に お いて 刑 事 事 件 に も拡 張 ・確 立 され た。 その 後 ドイ ツ に継 受 さ れ,各. ラ ン トで の 立 法 化 を 経 て,1877年. ラ イ ヒ刑 訴 法 に導 入 され た。 英 米. 法 域 に 目を 向 け る と,イ ギ リス で は,1966年. に成 文 化 され,ア メ リカ で は,. 二 重 の 危 険 禁 止 原 則 及 び適 正 手 続 保 障 の 法 原 則 を 介 して(被 告 人 の 法 的 救 済 を 図 る た め の 「新 公 判(newtrial)」. 制 度 の 合 理 的 解 釈 を通 じて)定 着. して い る。 ま た,本 原 則 が 誕 生 した理 由 も,や は り詳 らか で はな い。 一般 に は,次 の 二 つ の 事 情 が 挙 げ られ る。 第 一一に,被 告 人 の 地 位 安 定 ・権 利 擁 護 を 願 う. (1)高. 田卓 爾 「不 利 益 変 更 禁 止 の研 究 」刑 雑3巻2号46頁(1952年),横. 「不 利 益 変 更 の禁 止 」 熊 谷 他 編 『公 判 法 大 系IV上 訴 」87頁(1975年,日 社),高. 田昭 正 『刑 事 訴 訟 の 構 造 と救 済 」(1994年,成. 2. 文 堂)。. 山晃 一 郎 本評 論.

(3) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. 人 権 主 義 の 高 ま りで あ る。 この こ と は,フ ラ ン ス にお け る革 命 後 の 判 例 に お け る展 開 や,そ の 後 の 本 原 則 の 普 遍 的 な普 及 か ら明 らか で あ る。 第 二 に,本 原 則 は,被 告 人 の 上 訴 を 促 進 す る機 能 を もつ が,そ れ に よ り統 一 国 家 へ の 集 権 化 を 達 成 す る た め の 手 段 と して,権 力 側 か ら も奨 励 さ れ て い た。 この こ と は,近 代 国 家 が,封 建 的 な 諸 権 力 との 闘 争 の 過 程 を 経 て 発 展 して い っ た経 緯(刑 事 裁 判 に お け る領 主 裁 判 権 へ の 干 渉 を も含 む)を 見 る こ とで 理 解 で き よ う。 他 方,本 原 則 が 普 及 す る過 程 で,否 定 論 ・廃 止 論 も激 し く主 張 され て き た。 例 え ば,イ ギ リスで は,か つ て1907年 刑 事 控 訴 法 にお いて 一 般 的 に, 1948年 刑 事 裁 判 に お い て 簡 易 手 続 事 件 に 限 り,不 利 益 変 更 が許 され て い た。 ドイ ツで は,ナ チ ス時 代,1933年. 法 に よ り常 習 犯 に限 り,1935年 法 に. よ り一般 的 に,不 利 益 変 更 が 許 され て い た。 我 が 国 で も,大 正5年 刑 訴 法 改 正 案 で,控 訴 審 に お いて 本 原 則 の 適 用 が 削 除 され,学 説 上 も,本 原 則 は 履 審 た る べ き控 訴 審 の 構 造 と適 合 しな い(2>,濫 上 訴 が な され る 虞 が 大 き い(3)とい った,廃 止 論 が有 力 に主 張 され て い た。. (2)本 原 則 の 制 度 趣 旨 前 述 の と お り,本 原 則 は,法 制 史 的 に は否 定 論 ・廃 止 論 も見 られ るが, 現 在 は お よ そ一般 的 に承 認 され て い る。 それ は,次 の よ うな 本 原 則 の 制 度 趣 旨 に合 理 性 が 認 め られ る こ と に よ る。 本 原 則 の 制 度 趣 旨 と して,し. ば しば,被 告 人 が 安 心 して 上 訴 権 を 行 使 し. う る よ う に しよ う との 配 慮 に基 づ くいわ ば政 策 的 な 観 点 と,上 訴 制 度 に関. (2)小 野 清 一 郎 『刑 事 訴 訟 法 講 義(全 訂3版)」540頁(1933年,有 反 対 す る論 稿 と して,太. 斐 閣)。 これ に. 田金 次 郎 「 不 利 益 変 更 禁 止 の原 則 と法 の 適 用 に於 け る. 価 値 判 断 の 限 界 性(2)」法 律 新 聞3711号3頁(1934年)。 (3)田 中 耕 太 郎 「上 訴 権 の 濫 用 とそ の 対 策 」 曹 時6巻1号1,39頁(1954年)。. 3.

(4) 近畿大学法学. 第56巻第4号. す る法 理 論 的 観 点 が 挙 げ られ るω。 この よ うな 分 析 は,我 が 国 で は,小 野 清 一 郎 の 論 稿 に その 端 緒 が 見 られ る。 小 野 は,不 利 益 変 更 禁 止 の 根 拠 付 け (の可 能 性)と して,① 本 原 則 が な けれ ば被 告 人 の 上 訴 提 起 が 抑 制 され る虞 が あ る こ と,② 上 訴 審 は上 訴 人 が 原 判 決 の 変 更 を 求 め た範 囲 の み 審 査 す べ きで あ る こ と,③ 上 訴 人 に不 利 益 な 変 更 は 当事 者 救 済 と い う上 訴 制 度 の 趣 旨 に反 す る もの で あ る こ と を挙 げ て い る(5)。これ に加 え て,④ 検 察 官 に よ る上 訴 が な い と き原 判 決 の う ち被 告 人 に利 益 とな る部 分 につ き相 対 的 確 定 力 が 生 じる こ と も挙 げ られ よ う(6)。 ① が政 策 的 観 点,② ③ ④ が法 理 論 的 観 点 に分 類 され う る。 も っ と も,右 の よ うな 本 原 則 の 制 度 趣 旨論 につ いて,見 解 の 対 立 も見 ら れ る。 論 争 は,本 原 則 の 存 廃 論 に まで 通 じる もの で あ り,当 然 な が ら,本 原 則 の 具 体 的 解 釈 ・適 用 に も影 響 しう る。 まず,政 策 的 根 拠 ① の 点 につ いて,本 原 則 廃 止 論 者 で あ っ た小 野 は,本 原 則 は何 よ りも迅 速 ・適 正 な 裁 判 に反 す る もの で あ るが,こ れ を 廃 止 した とて 真 摯 に判 決 の 正 当性 を 争 う者 が 上 訴 を 控 え る こ と はな く,他 方 で 不 当 な 訴 訟 遅 延 を 目的 とす る上 訴 が 抑 止 され る利 点 も認 め られ る た め,政 策 的 観 点 か ら本 原 則 を 基 礎 付 け る こ とは で きな い と述 べ る(7>。これ に対 し,高 田卓 爾 は,全 て の 被 告 人 に不 利 益 を 覚 悟 した上 で 上 訴 す る と い う勇 気 を 求 め る こ と はで きな い と して,小 野 の 見 解 を 批 判 す る(8)。 他 方,法 理 論 的 根 拠 ② 乃 至 ④ につ いて,小 野 と高 田卓 爾 は,同 様 の 疑 問 を提 起 す る(9)。 ② 上 訴 審 は上 訴 人 が原 判 決 の 変 更 を 求 め た範 囲 に お い て の (4)鈴 木 茂 嗣 『刑 事 訴 訟 法(改 訂 版)」255頁(1990年,青 (5)小 野 清 一 郎 『法 学 評 論 ・上 巻 」320頁(1938年,弘. 林 書 院)。 文 堂 書 房 。 初 出 「審 級 制 度. と上 訴 の 限 界 」 法 協54巻2号(1936年))。 (6)高. 田卓 爾(前 掲 注(1))「不 利 益 変 更 禁 止 の 研 究 」55頁 。. (7)小 野(前 掲 注(5))『法 学 評 論 』321頁 。 (8)高. 田卓 爾(前 掲 注(1))「不 利 益 変 更 禁 止 の 研 究 」59頁 。. (9)小 野(前 掲 注(5))『法 学 評 論 」320頁,高. 4. 田卓 爾(前 掲 注(1))「不 利 益 変 更 禁 止/.

(5) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. み 審 査 す べ きで あ る と い う点 につ いて,小 野 は,覆 審 制 を 採 る 旧法 上 訴 制 度 を 前 提 に,控 訴 審 裁 判 所 は その 審 判 に際 し当事 者 の 主 張 に拘 束 され な い こ とを 挙 げ,高 田卓 爾 は,現 行 法 制 下 に お いて も,当 事 者 の 処 分 権 が 上 訴 審 で 認 め られ るべ きで はな い こ とを 挙 げ る。 ③ 上 訴 人 に不 利 益 な 変 更 を 行 う こ と は 当事 者 救 済 を 図 る上 訴 制 度 の 趣 旨 に反 す る もの で あ る こ と と い う 点 につ いて,小 野 は,民 事 訴 訟 と は異 な り刑 事 訴 訟 の 目的 は正 しい裁 判 の 発 見 に あ り,当 事 者 救 済 に尽 き る もの で はな い こ とを 挙 げ,高 田卓 爾 は, 上 訴 制 度 が 国 家 的 ・超 個 人 的 契 機 と個 人 的 ・自 由主 義 的 契 機 の 競 合 か ら成 り,当 事 者 救 済 にの み 傾 くもの で はな い こ とを 挙 げて い る。 ④ 検 察 官 に よ る上 訴 が な い と き原 判 決 の う ち被 告 人 に利 益 とな る部 分 につ き相 対 的 確 定 力 が 生 じる こ と と い う点 につ いて,高. 田卓 爾 は,相 対 的 確 定 力 は本 原 則 の. 帰 結 とな りえ て も その 根 拠 に はな らな い こ と,我 が 国 の 法 制 上 そ の よ うな 相 対 的 確 定 力 論 は妥 当 しな い こ とを 挙 げて い る。 小 野 と高 田卓 爾 は,本 原 則 の 制 度 趣 旨 と して 法 理 論 的 根 拠 を 否 定 す る点 で 一致 して い る(政 策 的 根 拠 の 採 否 の み が 両 者 の 存 廃 論 に関 す る結 論 を 分 け る)。 最 高裁 も,本 原 則 の制 度 趣 旨 と して,「 被 告 人 側 の 上 訴 権 の 行 使 を 躊 躇 せ しめ る お それ 」 を 防 止 す る こ とを 挙 げ(最 大 判 昭 和27年12月24日 刑 集6巻11号13頁),本. 原 則 が政 策 的 根 拠 に 基 づ く もの で あ る こ とを強 調 し. て い る。 しか し,本 原 則 の 根 拠 を も っぱ ら政 策 的 観 点 に求 め る考 え 方 に対 して, 批 判 も強 い。 か か る見 解 は,上 訴 審 を 職 権 主 義 的 ・履 審 的 な もの と位 置 づ け た うえ で,本 原 則 が 上 訴 提 起 に お け る被 告 人 へ の 圧 力 を 防 止 す る もの と 理 解 す る もの で あ る。 しか し,現 行 刑 訴 法 上,控 訴 審 を 職 権 主 義 的 ・覆 審 的 な 構 造 と理 解 す る こ と に は,強 い疑 問 が 向 け られ る。 上 訴 審 を 事 後 審 的 な もの と理 解 す るな らば,法 理 論 上 必 然 的 に,原 判 決 か らの 重 刑 変 更 が 禁 \ の 研 究 」55頁. 。. 5.

(6) 近畿大学法学. 第56巻第4号. 止 され る。 その 限 りで,当 事 者,と. りわ け国 家 機 関 で あ る検 察 官 に処 分 権. 限 が 認 め られ る。 そ うす る と,前 掲 ④ は と もか く,②. ・③ は,本 原 則 を 支. 持 す る根 拠 と理 解 す べ きで あ る(1① 。 そ の上 で,ナ チ ス時 代 に失 わ れ た 人 権 保 護 の 回 復 を 目的 と して 本 原 則 が 復 活 した ドイ ツの 立 法 例 に見 る よ う に, 基 本 的 人 権 の 尊 重 を 宣 言 す る我 が 国 の 憲 法 下 に お い て,被 告 人 の 地 位 安 定 ・手 続 的 権 利 の 不 当抑 制 の 禁 止 と い う観 点 か ら,政 策 的 に も,本 原 則 の 存 置 が 要 請 され て い る と い うべ きで あ る(ll)。. 三. 本原則の適用範囲. 本 原 則 の 適 用 範 囲 につ いて,① 不 利 益 変 更 が 禁 止 され るべ き刑 の 意 義, ② 対 象 とな る上 訴 の 意 義 が 問 題 とな る。. (1)刑 の 意 義 刑 訴 法402条 は,「 原 判 決 の 刑 よ り重 い刑 を 言 い渡 す こ と」 を 禁 止 す る。 この よ うな 不 利 益 変 更 が 禁 止 され る 「刑 」 と は,主 文 で 示 され る主 刑 及 び 付 加 刑 を 指 し,理 由 中で 示 され る罪 とな るべ き事 実 は これ に あ た らな い。 それ ゆえ,被 告 人 の み が 控 訴 した場 合,控 訴 審 が 原 判 決 よ り重 い罪 に あ た る事 実 を認 定 す る こ と も可 能 で あ り⑫,科 刑 の み 不 利 益 変 更 が禁 止 され る た め,認 定 事 実 に対 す る法 定 刑 にな い刑 を 言 い渡 す べ き事 態 が 生 じる こ と も あ る(最 判 昭和26年1月17日. ⑩. 刑 集5巻1号1頁. 斎 藤 朔 郎 「刑 事 訴 訟 論 集 』384頁(1965年,有. 参 照)。 ま た,後 述 す る と. 斐 閣。 初 出 「不 利 益 変 更 禁 止 の. 存 廃 につ い て 」 ジ ュ リ55号(1954年))。 (ll)横 山(前 掲 注(1))「不 利 益 変 更 の禁 止 」88頁,高. 田 昭正(前. 掲 注(1))『刑 事 訴. 訟 の 構 造 と救 済 』131頁 。 ⑫. 但 し,い わ ゆ る 「攻 防 対 象 論 」 に よ る制 限 に注 意(辻 本 典 央 「『攻 防 対 象 論 」 につ いて 」 近 法55巻3号33頁(2007年))。. 6.

(7) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. お り,不 利 益 性 は単 に主 刑 及 び付 加 刑 の み か ら形 式 的 に比 較 す るの で はな く,実 質 的 に判 断 す る と い うの が 支 配 的 見 解 で あ り,こ れ に よ る と,執 行 猶 予 ・保 護 観 察,未 決 勾 留 日数 算 入,労 役 場 留 置 換 算 率,公 民 権 停 止 措 置 な ど も,不 利 益 変 更 が 禁 止 され る。 も っ と も,判 例 実 務 は,主 文 記 載 事 項 の う ち,訴 訟 費 用 負 担(最 判 昭 和 26年3月8日. 刑 集5巻4号495頁,最. 判 昭和26年12月20日 刑 集5巻)及. 収 物 品 の 被 害 者 還 付(大 阪 高 判 昭 和60年11月8日. び押. 高 刑 集38巻3号199頁). は刑 に 当 た らず,本 原 則 の 適 用 はな い とす る。 これ に対 し,学 説 上,反 対 説 も有 力 で あ る。 訴 訟 費 用 負 担 につ い て,高. 田卓 爾 は,「 財 産 刑 と同 質 の 法 益 剥 奪」 で あ. る と述 べ,不 利 益 変 更 が 禁 止 さ れ る と主 張 す る⑱。 竹 内正 は,高. 田の 「法. 益 剥 奪 」 性 基 準 を 支 持 し,そ れ は 「公 判 に よ る刑 事 裁 判 の 不 法 効 果 と して 被 告 人 に科 せ られ る もの で あ って,し か も それ は,法 的 に も事 実 的 に も, ま た観 念 的 に も実 質 的 に も考 え 得 る被 告 人 の 地 位 の 低 下 」で あ り,「そ の 軽 重 はな ん らか の 法 律 的 基 準(刑 法 の 基 準 だ けを 意 味 しな い)に よ って 確 定 され るべ き もの」 と説 明 す るω。 被 告 人 が 蒙 る現 実 的 損 害 は優 に財 産 刑 に 匹 敵 す る と いわ ざ るを 得 ず,少 な くと も被 告 人 の 上 訴 権 の 自 由な 行 使 を 保 障 す る と い う意 味 で の 政 策 的 観 点 に よ る限 り,合 理 的 解 釈 で あ る と思 わ れ る⑮。 押 収 物 品 の 被 害 者 還 付 につ いて,高 田卓 爾 は,当 初,本 原 則 で い う 「刑 」 は 「終 局 的法 益 剥 奪 」 に 限 られ るが,「 押 収 物 の 還 付 は 終 局 的 な所 有 権 の 帰 属 決 定 を意 味 しな い」 と述 べ,適 用 否 定 説 を 主 張 した(1④ 。 しか し,高 田 ⑱. 高[H卓 爾 「刑 事 訴 訟 法(2訂. ω. 竹 内 正 「不 利 益 変 更 禁 止 の 原 則 」 日本 刑 法 学 会 編 「刑 事 訴 訟 法 講 座 ・第3巻 」 117,124頁(1964年,有. 版)」549頁(1984年,青. 林 書 院)。. 斐 閣)。. ⑮. 横 山(前 掲 注(1))「不 利 益 変 更 の 禁 止 」91頁 。. ㈹. 高 田卓 爾 「刑 事 訴 訟 法 第402条 の 解 釈(2)」法 雑1巻4号66,84頁(1954年)。. 7.

(8) 近畿大学法学. 第56巻第4号. は,そ の 後,「 占有 す る権 利 」 とい う利 益 が奪 わ れ る とい う意 味 で,「 一一 種 の 終 局 的法 益 剥 奪 」 に当 た る と述 べ,適 用 肯 定 説 に改 説 した⑰。 確 か に, 押 収 物 品 が 没 収 に よ り国 庫 に帰 属 され るか,又. は被 害 者 還 付 に よ り被 害 者. に 占有 が 移 転 され るか に よ り,高 田が 言 う 「占有 す る権 利 」 へ の 侵 害 性 に 差 異 はな い。 しか し,押 収 盗 品 の 被 害 者 還 付 は,本 来,没 収 と は異 な る法 的 性 質 を 持 つ もの で あ り,主 文 に お け る刑 と は 内容 的 関 連 性 を 持 つ もの で はな い。 その こ とか らす る と,少 な くと も押 収 物 品 が 盗 品 で あ る限 りで, 適 用 否 定 説 が 説 得 的 で あ る と思 わ れ る。. (2)上 訴 の 意 義 刑 訴 法402条 に よ る と,不 利 益 変 更 禁 止 原 則 は,「 被 告 人 が 控 訴 を し,又 は被 告 人 の た め控 訴 」され た事 件 に適 用 され る。 本 規定 は,刑 訴 法414条 に よ り上 告 審 に も準 用 され,ま た,抗 告 審 に も適 用 が あ る と解 され て い る(東 京 高 決 昭 和29年12月28日 高 刑 集7巻12号1822頁,東 年6月20日. 京 地 八 王 子 支 判 平 成7. 判 時1536号27頁)。 本 規 定 が 適 用 され るべ き上 訴 の 意 義 に つ い. て,次 の よ うな 問 題 点 が あ る。. ①. 差 戻 後 の 原 裁 判 所 に お け る判 決. 刑 訴 法402条 は,直 接 に は,控 訴 審 が,原 判 決 破 棄 ・自判 す る場 合 を 対 象 とす る。 も っ と も,前 述 した本 制 度 の 趣 旨 は,上 訴 審 が 原 判 決 破 棄 ・原 審 差 戻(又. は移 送)と す る場 合 に も妥 当す る。. この 問 題 につ いて,判 例 は,か つ て,「 法 理 上 當 然 ニ シ テ斯 ク ノ如 ク解 ス ル コ トハ 毫 モ刑 事 訴 訟 法 ノ精 神 二 反 スル モ ノニ 非 ズ」(大判 昭 和15年7月10 日大 刑 集19巻441頁)と ⑰. して,破 棄 差 戻 の場 合,差 戻 審 に お け る本 規 定 の. 高 田卓 爾 「不 利 益 変 更 禁 止 の原 則 」 『総 合判 例 研 究 叢 書 ⑰ 」327頁(1965年, 有 斐 閣)。. 8.

(9) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. 適 用 を 否 定 して い た。 しか し,そ の 後,最 大 判 昭 和27年12月24日 刑 集6巻11号1363頁. にお いて. 判 例 変 更 され,現 在 で は適 用 肯 定 説 に た って い る。 最 高 裁 大 法 廷 は,そ の 根 拠 と して,① 被 告 人 の 上 訴 権 行 使 保 護 の 要 請 は破 棄 自判 の 場 合 と 同様 で あ る こ と,② 破 棄 差 戻 の 場 合 も破 棄 前 の 原 判 決 を 基 準 に して 不 利 益 性 が 判 断 され るべ き こ とを 挙 げて い る。 ② の 点 は,破 棄 され た 以 上 原 判 決 は消 滅 し拘 束 力 を 持 ち得 な い とす る否 定 説(大 審 院 判 決 及 び斎 藤 反 対 意 見)の 論 拠 に答 え た もの で あ り,破 棄 自判 の 場 合 も破 棄 前 の 原 判 決 を 基 準 に不 利 益 変 更 が 禁 止 され るの で あ るか ら,妥 当 な 説 明 で あ る。 そ して,① の点 か ら, 差 戻 後 の 原 審 裁 判 所 で の 審 判 に お いて 本 条 の 適 用 が あ るべ き こ と につ いて は,も と よ り支 持 され るべ きで あ る。. ②. 検 察 官 が 上 訴 した事 件. 刑 訴 法402条 に よ る と,本 原 則 は,「 被 告 人 が 控 訴 を し,又 は被 告 人 の た め控 訴 を した事 件 」 に適 用 が あ る。 す な わ ち,典 型 的 に は,被 告 人 側 の み が上 訴 した場 合 を対 象 と し,検 察 官 の み又 は双 方 が 上訴 し,検 察 官 の上 訴 理 由(被 告 人 に不 利 な方 向 で の)が 認 め られ た場 合,本 原 則 は適 用 さ れ な い。 これ に対 し,双 方 が 上 訴 し,被 告 人 側 の上 訴 理 由 の み が認 め られ た場 合, 本 原 則 は適 用 され るか 。 最 大 判 昭 和26年8月1日. 刑 集5巻9号1715頁. は,. 具 体 的 事 例 に お いて 原 控 訴 審 判 決 を 破 棄 す る に あた り,直 接 に は判 決 主 文 と理 由の 齪 齪(控 訴 審 判 決 は,原 判 決 を 重 す ぎ る と理 由を 述 べ た に もか か わ らず,原 判 決 よ りも重 い刑 を 科 して い る)を 挙 げつ つ,実 質 的 に は適 用 肯 定 説 に た って い るq8)。 学 説 上 も,右 大 法 廷 判 決 を 支 持 し,不 利 益 変 更 禁 ㈹. 藤i永他 編[原. 田國 男]『 大 コ ン メ ン ター ル 刑 事 訴 訟 法 ・第6巻 」464頁(1996. 年,青 林 書 院)は,本. 大 法 廷 判 決 は不 利 益 変 更 禁 止 原則 に つ い て 判 示 した もの. で はな い と評 価 す るが,該. 当判 示 部 分 は不 利 益 変 更 禁止 違 反 を 主 張 す る上 告 趣. 意 に正 面 か ら答 え た もの で あ り,か か る評 価 は妥 当 で は な い 。. 9.

(10) 近畿大学法学. 第56巻第4号. 止 原 則 の適 用 を 認 め る見 解 が 多 数 で あ る⑲。 適 用 を 肯 定 す る結 論 自体 は支 持 され るべ きで あ るが,そ の 基 礎 付 け と して,被 告 人 の 上 訴 権 保 護 と い う 政 策 的 根 拠 を 挙 げ るだ けで は不 十 分 で あ る と思 わ れ る。 む しろ,検 察 官 の 主 張 が 却 下 され 被 告 人 側 の 主 張 の み 容 れ られ た と い う状 況 か ら,上 訴 審 に お け る 当事 者 主 義 的 要 素 が 強 く反 映 され た もの と理 解 され るべ きで あ る。 で は,被 告 人 の 上 訴 が な く,検 察 官 の み 被 告 人 に利 益 とな る理 由で 上 訴 した 場 合 は ど う か。 この 問題 に つ い て,判 例 は,一 一 貫 して 適 用 否 定 説 に た って い る(大 判 大 正13年11月21日 大 刑 集3巻828頁,大 日刑 集9巻245頁)。. 最 判 昭 和53年7月7日. 判 昭 和5年4月9. 刑 集32巻5号1011頁. も,出 資 法. 違 反 事 件(超 過 利 息 の 反 復 した契 約 ・ 受 領 行 為 の罪 数 が 問題 とな った事 例) に お いて,は. っ き りと適 用 否 定 説 を 支 持 して い る。 本 件 調 査 官 解 説[佐 藤. 文 哉]は,検. 察 官 上 訴 の 公 益 性 を論 拠 と して 挙 げ⑫ ①,学 説 上 も,こ の 結 論. を支 持 す る見 解 が 支 配 的 で あ る⑫1)。 確 か に,被 告 人 の 上 訴 権 保 護 とい う政 策 的 観 点 か らは,被 告 人 が 「不 利 益 変 更 を お それ て 控 訴 申立 を 躊 躇 す る こ と は あ り得 な い」 と もい い う るが⑳,「当事 者 主 義 の論 理 」 を 強 調 す るな ら ば,検 察 官 に よ る上 訴 の 趣 旨 は裁 判 所 を 拘 束 し,不 利 益 変 更 は禁 止 され る と解 す べ き あ る㈱。. ③. 略 式 命 令 に対 す る正 式 裁 判 の 申立. 略 式 命 令 が 発 付 され る と,受 命 令 者 又 は検 察 官 は,こ れ を 不 服 とす る と き は,そ の告 知 後14日 以 内 に正 式 裁判 を請 求 す る こ とが で き る(刑 訴 法465 ⑲. 高 田卓 爾(前 掲 注 ⑬)『 刑 事 訴 訟 法 」548頁,鈴. 木(前 掲 注(4))『刑 事 訴 訟 法 」. 257頁 な ど。 ⑳. 佐 藤 文 哉 ・最 判 解 刑 事 篇 昭 和53年 度289,293頁. ⑳. 団 藤 重 光 『新 刑 事 訴 訟 法 綱 要(7訂 『刑 事 訴 訟 法 」300頁(1958年,有. 。. 版)」547頁(1967年,創. 斐 閣)な. ど。. ⑳. 高 田卓 爾(前 掲 注 ⑬)『 刑 事 訴 訟 法 」548頁 。. ⑳. 横 山(前 掲 注(1))「不 利 益 変 更 の 禁 止 」95頁 。. 10. 文 社),平. 野 龍 一・.

(11) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. 条1項)。. この正 式 裁 判 の請 求 に 際 して,法 文 上 は,刑 訴 法402条 は準 用 さ. れ て いな いが(刑 訴 法467条 参 照),解. 釈 論 と して,本 原 則 の 適 用 が な いか. 問 題 とな る。 この 点 につ いて,判 例 は,一 一 貫 して 適 用 否 定 説 に立 って い る(大 判 昭 和 9年12月17日. 大 刑 集13巻1740頁)。 例 え ば,最 決 昭 和31年7月5日. 刑 集10. 巻7号1020頁. は,略 式 命 令 に対 す る正 式 裁 判 の 請 求 は上 訴 で はな く,そ の. 時 点 で 通 常 手 続 に復 帰 す る(略 式 命 令 は失 効 す る)に 過 ぎな い と判 示 して い る。 学 説 上 も,少 な くと も解 釈 論 と して は,適 用 否 定 説 が 支 配 的 で あ る。 例 え ば,高 田卓 爾 は,略 式 手 続 は本 来 の 意 味 で の 刑 事 手 続 で はな く,そ れ に 前 置 さ れ る一 種 の 試 み の 段 階 で あ る と説 明 す る⑳。 確 か に,右 昭 和31年 決 定 も指 摘 す る と お り,刑 訴 法468条2項,3項. の規 定 か らは,刑 訴 法 解 釈 と. して 本 原 則 の 適 用 を 認 め る こ と は困 難 で あ ろ う。 しか し,略 式 命 令 に対 す る正 式 裁 判 が 当事 者(特. に被 告 人)に. と って 事 実 上 は上 訴 と して 機 能 して. い る こ とを 考 え る と,単 純 に それ が 形 式 的 に は上 訴 で はな い と割 り切 って しま う こ と に は疑 問 が あ る。 受 命 令 者 の 正 式 裁 判 申立 権 行 使 を 不 当 に萎 縮 させ な い こ と,略 式 手 続 を 申 し立 て これ に不 服 を 述 べ な か った 検 察 官 の 訴 追 意 思 の 反 映 と い っ た本 原 則 の 趣 旨 は,こ の 場 面 で も妥 当 す る よ う に思 わ れ る。 例 え ば,福 島至 は,略 式 手 続 に関 す る詳 細 な 研 究 の 中で,略 式 手 続 の 合 憲 性 を 担 保 す る た め に は 「略 式 命 令 の 服 従 過 程 に 対 す る保 障」(ア ク セ ス権 の 保 障)が 必 要 で あ り,正 式 裁 判 請 求 につ いて 不 利 益 変 更 禁 止 の 原 則 が 認 め られ るべ き と主 張 す る㈱。 略式 手 続 に お け る受 命 令 者 の権 利 保 障 と い う観 点 は,通 常 手 続 と異 な る と こ ろ はな く,右 見 解 は,現 行 法 制 の 問 題 点 を 的 確 に指 摘 す る もの と して,支 持 され るべ きで あ る。 ⑳. 高[H卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」238頁 。. ⑳. 福 島 至 『略 式 手 続 の 研 究 」273頁(1992年,成. 11. 文 堂)。.

(12) 近畿大学法学 ④. 第56巻第4号. 少 年 審 判 に お け る抗 告. 少 年 法32条 に よ る と,保 護 処 分 決 定 に対 し所 定 の 理 由 で 不 服 が あ る場 合,少 年 は抗 告 を 提 起 す る こ とが で き る。 抗 告 審 は,抗 告 に理 由が あ る と き は決 定 を 以 て 原 決 定 を 取 り消 し,原 裁 判 所 へ 差 し戻 す か,又 裁 判 所 に 移 送 しな け れ ば な らな い(少 年 法33条2項)。 (又 は 移 送 審)は,原. は他 の 家 庭. こ の とき,差 戻 審. 決 定 よ り も重 い処 分 を 課 す こ と はで き る か。 さ ら に. は,原 保 護 処 分 に変 え て,検 察 官 へ 送 致 す る決 定 を 下 す こ と はで き るか 。 前 者 の 問 題 につ いて は,少 年 の 抗 告 権 保 障 は成 人 の 刑 事 手 続 と異 な る と こ ろ はな く,不 利 益 変 更 禁 止 が 妥 当す る と い う結 論 に異 論 はな い。 で は,後 者 の よ う に,家 庭 裁 判 所 が 終 局 的 に事 件 を 処 理 す るの で はな く,検 察 官 へ の 逆 送 と い う 中間 的 処 分 を 下 した場 合,こ れ は,原 決 定 を 不 利 益 に変 更 す る もの と して 禁 止 され るべ きか 。 この 問 題 が 正 面 か ら問 わ れ たの が,い わ ゆ る 「調 布 駅 前 事 件 」 で あ る。 本 件 の 経 緯 は,次 の と お りで あ る。 被 告 少 年 は傷 害 等 の 非 行 事 実 を 理 由 に東 京 家 裁 八 王 子 支 部 か ら中等 少 年 院 送 致 の 保 護 処 分 を 受 け たが,事 実 誤 認 を理 由 に抗 告 した と こ ろ,抗 告 審 は,非 行 事 実 の 認 定 に は疑 いが 残 る と の 理 由か ら原 決 定 を 取 り消 し,事 件 を 東 京 家 裁 八 王 子 支 部 に差 し戻 した。 差 戻 を受 け た東 京 家 裁 八 王 子 支 部 は,差 戻 審 で 新 た に行 わ れ た証 拠 調 等 の 結 果 か ら,今 度 は刑 事 処 分 が 相 当 と して,検 察 官 に送 致 す る 旨の 決 定 を 下 した。 これ を 受 けて,検 察 官 が 公 訴 提 起 した。 一一 審(東 京 地 八 王 子 支 判 平 成7年6月20日. 判 時1536号27頁)は,少. 年 事 件 に お け る保 護 処 分 決 定 に対. す る抗 告 に も不 利 益 変 更 禁 止 原 則 が 妥 当す る と した上 で,差 戻 審 に よ る検 察 官 送 致 決 定 は被 告 少 年 に不 利 益 な 変 更 に 当 た る,そ れ ゆえ 公 訴 手 続 に違 法 が あ る と して,公 訴 棄 却 の 判 決 を 下 した。 これ に対 し,控 訴 審(東 京 高 判 平 成8年7月5日. 高 刑 集49巻2号344頁)は,原. 判 決 は,少 年 審 判 手 続. に も不 利 益 変 更 禁 止 原 則 が 妥 当す る と した点 は妥 当で あ るが,本 件 手 続 は 12.

(13) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. 中間 的 処 分 に と ど ま り,そ の 段 階 で 原 決 定 との 比 較 にお け る不 利 益 性 を 認 め る こ と はで きな い と し,本 件 公 訴 手 続 に は違 法 な 点 はな い と判 示 して, 原 判 決 を 破 棄,差. し戻 した。 そ こで,被 告 人 側 が,不 利 益 変 更 禁 止 に対 す. る違 反 等 を 理 由 に上 告 した と こ ろ,最 高 裁(最 判 平 成9年9月18日 巻8号571頁)は,以. 刑 集51. 下 の よ うに判 示 し,原 判 決 を破 棄 した。. 「家 庭 裁 判 所 の した 保 護 処 分 決 定 に対 す る少 年 側 か らの 抗 告 に基 づ き,右 決 定 が 取 り消 され た 場 合 に は,当 該 事 件 を少 年 法20条 に よ り検 察 官 に 送 致 す る こ と は許 され な い も の と解 す る の が相 当 で あ る。 そ の理 由 は 以下 の とお りで あ る。 … … 少 年 法 の 趣 旨,目 的 及 び 構 造 に照 らす と,同 法 は,少 年 が 一 般 に未 成 熟 で, 可 塑 性 に富 む こ と にか んが み,少 年 の健 全 な育 成 の た め に は,現 在 及 び 将 来 に 様 々な 不 利 益 を も た らす 刑 罰 に よ って成 人 に対 す るの と同様 に そ の 責 任 を 追 及 す る よ りも,教 育 的 手 段 に よ って改 善,更 生 を 図 るべ き で あ る との 理 念 に基 づ くもの で あ って,少 年 に対 して は,保 護 処 分 そ の他 同法 の枠 内 に お け る処 遇 を 原 則 と し,刑 罰 に よ っ て そ の責 任 を追 及 す る の は,そ の 罪質 及 び 諸 般 の 情 状 に 照 ら し,こ の よ うな 教 育 的 手 段 に よ る こと が不 適 当 な場 合 に 限 定 し よ う とす る もの で あ り,刑 事 処 分 は,少 年 に と って,保 護 処 分 そ の他 同 法 の 枠 内 にお け る 処 遇 よ り も一・ 般 的,類 型 的 に不 利 益 な もの と して い る と 解 す る の が 相 当 で あ る。 … … そ の 法 制 の 当否 は と もか く,法 が少 年 側 に の み抗 告 権 を 認 あ た の は, 専 ら少 年 の 権 利 保 護 を 目的 とす る もの で あ る と解 され る。 した が って,少 年 側 が 抗 告 し,抗 告 審 に お い て,原 保 護 処 分 決 定 が取 り消 され た 場 合 には,差 戻 し を 受 け た家 庭 裁 判 所 に お い て,少 年 に対 し保 護 処 分 よ り も不 利 益 な 処 分 を す る こ と は許 され な い もの と解 す る の が相 当 で あ る。 け だ し,そ の よ うに 解 しな け れ ば,少 年 側 に のみ 抗 告 権 を認 め た抗 告 制 度 の趣 旨に反 し,そ の 抗 告 権 の 行 使 を 不 当 に制 限 す る こ と と な る か らで あ る。 … …以 上 の 点 を考 え 合 わ せ る と,家 庭 裁 判 所 が 少 年 を い っ たん 保 護 処 分 に付 した以 上,そ. 13. の 後少 年 側 の 抗 告 に よ っ.

(14) 近畿大学法学. 第56巻第4号. て 当 初 の 保 護 処 分 が 取 り消 さ れ た場 合 に は,家 庭 裁 判所 は,少 年 に 対 し保 護 処 分 そ の 他 少 年 法 の枠 内 に お け る処 遇 をす べ き もの で あ り,こ れ らの 処 遇 よ り不 利 益 な 刑 事 処 分 を相 当で あ る と して,少 年 法20条 に よ り事 件 を検 察 官 に送 致 す る こ と は も はや 許 され な い とい うべ きで あ る。」(下 線 辻 本). 以 上 の と お り,本 件 は,一 一 審 と控 訴 審 とで,少 年 保 護 手 続 に も不 利 益 変 更 禁 止 原 則 の 適 用 が あ る こ とを 前 提 に,そ の 適 用 範 囲 は終 局 処 分 だ けで な く検 察 官 送 致 と い う 中間 的 処 分 に も及 ぶ か と い う点 の 判 断 が 結 論 の 違 い に つ な が っ た。 最 高 裁 は,中 間 的 処 分 の 不 利 益 変 更 性 自体 は直 接 に判 断 せ ず,主. と して 少 年 法 の 趣 旨か ら,本 件 公 訴 手 続 を 違 法 で あ る と断 じた。 本. 件 調 査 官 解 説(池. 田修 ・中谷 雄 二 郎)は,控. 訴 審 判 示 の と お り,検 察 官 送. 致 決 定 は 中間 的 処 分 で あ り,こ れ に本 原 則 を 適 用 す る こ と は困 難 で あ る, 本 判 決 は,保 護 処 分 原 則 主 義 及 び抗 告 制 度 の 趣 旨か ら,本 件 事 情 に お いて 検 察 官 へ の 送 致 決 定 を 違 法 と した もの で あ る と説 明 して い る⑳。 本 件 一一 審 と最 高 裁(調 査 官 解 説)と で,結 論 は と もか く,そ の 基 礎 付 け に お いて 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 の 適 用 如 何 で 見 解 が 分 か れ た。 も っ と も,最 高 裁 も少 年 の 抗 告 申立 権 の 保 護 と い う観 点 を 挙 げて お り,不 利 益 変 更 禁 止 原 則 の 精 神 が 少 年 法 の 次 元 に反 映 され た結 果 と して,検 察 官 へ の 逆 送 が 否 定 され た と理 解 す べ きで あ る。. 四. 不利益(重 刑)該 当性の判断基準. (1)不 利 益 性 の 基 準 刑 訴 法402条 に よ り禁 止 さ れ る不 利 益(重 刑)変 更 は,具 体 的 に如 何 な る基 準 に よ って 判 断 す べ きか 。 この 点 につ いて,次 の よ うな 見 解 が 主 張 さ ⑳. 池 田修 ・中谷 雄 二 郎 ・最 判 解 刑 事 篇 平 成9年 度143,149頁. 14. 。.

(15) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. れ て き た。. ①. 形式的判断方法. ① 説 は,刑 の 軽 重 は も っぱ ら刑 法9条,10条. に基 づ いて 決 定 され るべ き. と主 張 す る。 か つ て の 判 例 の 見 解 で あ り,最 高 裁 も初 期 に は これ を 支 持 し て い た。 この 見 解 に よ る と,例 え ば,懲 役10月 の 実 刑 を 懲 役1年 の 執 行 猶 予(4年)付. 刑 に変 更 す る こ と は許 され な い(最 判 昭 和25年3月3日. 4巻3号305頁)が,他. 方,懲 役6月. の執 行 猶 予(3年)付. 刑 を 禁 鋼3月. の 実 刑 に変 更 す る こ と は許 され る(広 島高 岡 山支 判 昭 和29年9月1日 5巻9号1725頁. 刑集. 刑集. に掲 載=後 掲 最 大 判 昭 和26年 の 控 訴 審 判 決)。. 確 か に,① 説 は,も っぱ ら 「刑 」 の 軽 重 を 定 めた 刑 法9条,10条. を根拠. とす る こ とか ら,明 確 性 に優 れ て い る。 しか し,本 原 則 の 制 度 趣 旨を 考 え る と,例 え ば執 行 猶 予 が 付 され るか 否 か と い う点 は,被 告 人 の 上 訴 権 行 使 に重 要 な 影 響 を 与 え う る と共 に,検 察 官 の 量 刑 に対 す る訴 追 意 思 も十 分 反 映 され るべ き観 点 で あ る。 それ ゆえ,① 説 は,次 の 実 質 的 観 点 を 重 視 す る 見 解 か ら強 い批 判 を 受 け,現 在 で は,こ れ を は っき り主 張 す る者 は い な い。. ②. 実 質 的(具 体 的 総 合 的)判 断 方 法. ② 説 は,問 題 とな る刑 を 実 質 的 に比 較 考 察 す るべ き とす る見 解 で あ る。 この 見 解 は,前 述 の と お り,形 式 的 判 断 方 法 に対 す る批 判 か ら,現 在,判 例 ・学 説 に お いて 支 配 的 見 解 とな って い る。 最 高 裁 も,最 大 判 昭 和26年8 月1日 刑 集5巻9号17頁. に お いて,従 来 の ① 説 を 改 め,② 説 を 採 用 す る に. 至 っ た。 この 事 件 は,控 訴 審 が,被 告 人 の 量 刑 不 当 の 控 訴 理 由を 認 め,一 審(懲 役6月. ・執 行 猶 予3年)を. 破 棄 し,禁 鋼3月. の実 刑 に処 した と ころ,. 被 告 人 が この 判 断 は不 利 益 変 更 に あ た る と して 上 告 した もの で あ る。 確 か に,前 述 の と お り,① 説 か らは不 利 益 変 更 に は あた らな いが,最 高 裁 大 法 15.

(16) 近畿大学法学. 第56巻第4号. 廷 は,② 説 の 立 場 に たつ こ とを 宣 明 し,執 行 猶 予 の もつ 法 律 的 社 会 的 価 値 判 断 は高 く評 価 され るべ き もの で あ り,執 行 猶 予 の 有 無 は刑 の 軽 重 に と っ て 重 要 な 要 素 で あ る と して,控 訴 審 を 破 棄 した。 最 高 裁 は,さ. らに,一 一 審 で 科 され た追 徴 の 一一 部 を 控 訴 審 が 没 収 に変 更 す. る こ と は,形 式 的 にみ れ ば没 収 を新 た に科 す る もの で あ るが,「被 告 人 の 利 害 は実 質 上 異 な らな い」 と して 可 能 で あ る と され た例(最 判 昭 和30年4月 5日 刑 集9巻4号652頁)や,懲 や は り刑 法10条,9条. 役2年6月. を禁 鋼2年. に変 更 す る こ とは,. を形 式 的 に適 用 す るな らば 重 刑 変 更 に あ た り う る. が,「 実 質 上 被 告 人 に 不 利 益 」 とは い え な い と され た例(最 決 昭 和39年5 月7日 刑 集18巻4号136頁)に. み る とお り,② 説 の立 場 を維 持 して い る。. も っ と も,こ の 見 解 に よ る と,実 質 的 な 比 較 考 察 と い う性 質 上,不 利 益 変 更 性 が 個 々の 裁 判 官 の 裁 量 に ゆだ ね られ,ひ. いて は恣 意 的 な 判 断 に流 れ. る虞 が 生 じる。 それ ゆえ,② 説 は,結 論 の 具 体 的 妥 当性 を 図 りや す い との 利 点 を持 つ 反 面,そ の 判 断 結 果 の 一般 化 に困 難 を 伴 う短 所 を 併 せ 持 って い る。. ③. 一般 的 部 分 的 判 断 方 法. ③ 説 は,② 説 に対 す る批 判 か ら出発 し,判 断 基 準 の 明 確 化 ・一般 化 を 目 して主 張 さ れ て い る。 この 見 解 は,② 説 の 実 質 的 判 断 方 法 を基 礎 と しつ つ,刑 が 複 雑 とな っ た場 合 の 総 合 的 判 断 と い う点 に着 目 し,個 別 の 刑 が 分 析 可 能 で あ る限 り,各 々 の 部 分 に お い て 不 利 益 性 を検 討 す べ き と主 張 す る。 直 感 的 判 断 を 避 け明 確 性 を 追 求 す る た め に,被 告 人 に利 益 とな る部 分 が あ って も,他 に実 質 的 に不 利 益 な 部 分 が あれ ばな お不 利 益 変 更 に あ た る と い うわ けで あ る。 確 か に,本 原 則 の 趣 旨を 考 え る と,① 説 の 形 式 的 判 断 に批 判 を 加 え,実 質 的 判 断 の 必 要 性 を 指 摘 した点 で,② 説 の 基 本 的 視 座 は支 持 され るべ きで 16.

(17) 不利益変更禁止原則 につ いて あ る。 しか し,被 告 人 の 保 護 の み な らず,控 訴 審 の 構 造 や 当 事 者 主 義 の 反 映 と い っ た上 訴 理 論 を 加 味 して 考 慮 す るな らば,③ 説 か ら② 説 に向 け られ る批 判 は十 分 考 慮 され な けれ ばな らな い。 それ ゆえ,③ 説 が 支 持 され るべ きで あ る⑳。 な お こ こで,不 利 益 変 更 性 に関 して,被 告 人 の 主 観 的 事 情 ・意 思 を 考 慮 す べ きか が 問 題 とな る。 この 点 につ いて,③ 説 の 論 者 か ら,具 体 的 被 告 人 の 意 思 ・利 益 に反 して も貫 徹 され な けれ ばな らな いわ けで はな く,被 告 人 の 実 質 的 利 益 が 保 護 され るべ きで あ る と して,被 告 人 の 主 観 的 事 情 ・意 思 に よ る 「修 正 」は 可 能 で あ る との 主 張 が 見 られ る㈱。 確 か に,例 え ば,1,000 万 円の 罰 金 と1ケ 月 の 懲 役 刑 とで,一 般 的 に は前 者 の 方 が 軽 いが,個 別 の 資 産 状 況 等 に よ りその 逆 と い う場 合 も想 定 され う る。 しか し,そ の よ うな 意 味 で の 相 対 化 は,逆 に,③ 説 の② 説 に対 す る優 越 を失 わ せ る もの で あ る。 それ ゆえ,不 利 益 性 は,被 告 人 の 主 観 的 事 情 ・意 思 を 考 慮 す る こ とな く, 客 観 的 に決 定 され るべ きで あ る。. (2)具 体 例 上 述 の 検 討 を 前 提 に,最 高 裁 判 例 で 問 題 とな った 具 体 例 を 概 観 して お こ う。. ①. 刑 種 が 重 くな っ た が,刑. 量 が 減 っ た場 合. 例 え ば,一 一 審 が 禁 鋼2年6月. と し た 場 合,控. こ と は で き る か 。 ① 説 か ら は,刑 さ れ な い が,②. ⑳. 説 か ら は,こ. 法9条,10条. に よ り,重. の よ う な 変 更 は 許 さ れ る(最. 高[H卓 爾(前 掲 注 ⑰)「 総 合 判 例 研 究 叢 書 』262頁,横 変 更 の 禁 止 」91頁 。. ⑳. 訴 審 で 懲 役2年. 横 山 「不 利 益 変 更 の 禁 止 」(前 掲 注(1))95頁 。 17. に変 更 す る. 刑 変 更 と して 許 決 昭 和39年5月. 山(前 掲 注(1))「不 利 益.

(18) 近畿大学法学. 第56巻第4号. 7日 刑 集18巻4号136頁)。. 他 方,③ 説 の 論 者 は,刑 期 が 実 際 に どれ ほ ど短. 縮 され たな らば不 利 益 性 が 否 定 され るの か 不 明 確 で あ る と批 判 し,こ の よ う な 問題 点 を 一 掃 す る た め に は,「 刑 種 そ の もの を 重 くす る こ と じた い が 不 利 益 変 更 に な る」 と主 張 す る⑳。 ③ 説 の徹 底 とい う観 点 か らは傾 聴 す べ きで あ るが,か え って 刑 期 短 縮 が 抑 制 され る虞 も生 じる。 それ ゆえ,同. じ. 自 由刑 の 範 囲 内で の 禁 固 刑 か ら懲 役 刑 へ の 刑 種 変 更 は,刑 期 短 縮 を 伴 う こ と を前 提 に許 容 され る と い うべ きで あ ろ う。 この 限 りで,被 告 人 の 上 訴 萎 縮 の 防 止 お よ び検 察 官 の 当事 者 意 思 の 尊 重 と い う,本 原 則 の 趣 旨 も損 な わ れ る こ と はな い。. ②. 刑 種 は軽 くな っ たが,刑 量 が 増 え た場 合. まず,懲 役 刑 を 禁 固 刑 に変 更 した上 で,そ の 刑 期 が 増 加 す る場 合 は ど う か 。 ① 説 か らは,刑 法10条 に よ り,刑 期 が2倍 以 内で あれ ば許 容 され るの に対 し,② 説,③ 説 か らは許 され な い。 実 質 的 考 慮 と い う観 点 か らは,後 者 の 見 解 が 妥 当で あ る。 次 に,自 由刑 を 罰 金 刑 に変 更 し,罰 金 不 払 の 換 刑 日数 が 当初 の 自 由刑 の 刑 期 を 超 え る場 合 は ど う か。 大 審 院(大 判 昭 和7年9月29日 1404頁)は,①. 大 刑 集11巻. 説 の 立 場 か ら,許 され る と した。 これ に対 し,② 説 の 立 場. か ら明 示 で 判 断 した裁 判 例 は見 当 た らな いが,実 質 的 総 合 考 慮 に よ る と, 現 実 に身 柄 拘 束 を 免 れ る利 益 は大 き く,許 容 され る こ と にな るだ ろ う。 他 方,③ 説 の 論 者 か らは,顕 在 的 な 法 益 剥 奪 で あ る 自 由刑 と,罰 金 不 払 の と き に顕 在 化 す る に過 ぎな い労 役 場 留 置 とを 同視 で き るか は問 題 で あ る と し つ つ,結 論 に お い て,不 利 益 変 更 に 当 た る と主 張 さ れ て い るG① 。 そ もそ も, 罰 金 不 払 に際 して の 労 役 場 留 置 の 制 度 趣 旨如 何 は問 題 で あ るが,被 告 人 の ⑳. 高 田卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」262頁 。. G① 高 田卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」264頁 。. 18.

(19) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. 立 場 か らは,自 由刑 とで 本 質 的 に差 異 はな く,換 刑 日数 が 自 由刑 の 刑 期 を 超 え る場 合 は,も はや 重 刑 変 更 と い うべ きで あ ろ う。. ③. 刑 種 に変 更 が な く,付 随 処 分 に変 更 が あ る場 合. (i)自. 由刑. 一一 審 の 執 行 猶 予 付 刑 を ,刑 期 短 縮 の上 実 刑 に 変 更 す る こ とは 許 さ れ る か 。 大 審 院(大 判 大 正7年5月28日. 刑 録24輯13巻597頁)は,①. 説 の立 場. か ら,懲 役1年 の 執 行 猶 予 付 刑 を 懲 役6月 の 実 刑 に変 更 す る こ と も許 され る と した。 しか し,最 高 裁 は,大 法 廷(最 大 判 昭 和26年8月1日 9号1715頁)に. 刑 集5巻. お いて ② 説 に立 つ こ とを 明 言 し,こ の よ うな 変 更 は許 され. な い と した(本 件 は,刑 種 変 更 も伴 う事 例 で あ るが,便 宜,こ の 箇 所 で 言 及 す る)。 ③ 説 か ら も,こ の よ うな変 更 は許 さ れ な い。 かつ て は,執 行 猶 予 の 付 与 は お よ そ裁 判 所 の 裁 量 に ゆだ ね られ,刑 法9条,10条. で も言 及 され. て いな い こ とか ら,① 説 が 主 張 され て き たが,最 高 裁 大 法 廷 が 判 示 す る と お り,実 刑 に処 せ られ るか 否 か は被 告 人 に と って 切 実 な 問 題 で あ り,実 質 的 考 慮 に基 づ く変 更 不 許 容 説 が 妥 当で あ る。 逆 に,一 一 審 の 実 刑 を,刑 期 延 長 しつ つ,執 行 猶 予 付 刑 に変 更 す る こ と は 許 さ れ るか 。 最 高 裁(最 判 昭 和25年3月3日. 刑 集4巻3号305頁)は,か. つ て,① 説 の 立 場 か ら,懲 役10月 の 実 刑 を 懲 役1年 執 行 猶 予4年. に変 更 す. る こ と は許 され な い と して い た。 しか し,そ の 後 ② 説 に改 め,最 決 昭 和55 年12月4日 予3年. 刑 集34巻7号499頁. は,懲 役1年. の 実 刑 を懲 役1年6月. 執行 猶. に変 更 す る こ と は許 さ れ る と した。 これ に 対 し,③ 説 の 論 者 か ら. は,「刑 そ の もの の変 更 が か な り重 要 な法 益 剥 奪 の増 大 を意 味 す る場 合 」に は許 さ れ な い と主 張 され て い るGl)。 前 述 した 労 役 場 留 置 の換 刑 日数 の 問 題 とパ ラ レル に考 え る と,執 行 猶 予 付 の 刑 期 増 加 は重 刑 変 更 に当 た る と い う Gl)高. 田卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」292頁 。. 19.

(20) 近畿大学法学. 第56巻第4号. べ きで あ ろ う。 で は,執. 行 猶 予 付 自 由 刑 を,刑. 期 短 縮 し た 上 で,執. る 場 合 は ど う か 。 ① 説 か ら は,許 21巻1304頁),②. 説 か ら も,同. 刑 集7巻13号2749頁)。. 判 大 正4年9月13日. 様 に 解 さ れ て い る(最. 他 方,③. は 異 種 の 法 益 剥 奪 で あ り,許. 容 さ れ(大. 行猶予期間を増加す. 説 の 論 者 か ら は,自. 刑 録21輯. 判 昭 和28年12月25日 由刑 本 体 と執 行 猶 予 と. さ れ な い と 主 張 さ れ て い る 勧。 こ の 点 は,保. 護 観 察 付 与 等 の 条 件 に も よ る が,不. 許 容 説 が 妥 当で あ る。. (ii)罰 金 刑 ま ず,罰. 金 額 に 変 更 は な く,換. 許 さ れ る が,そ. 刑 日 数 だ け 増 加 す る こ と は,①. の 他 の 見 解 か ら は 許 さ れ な い(最. 説 か らは. 判 昭 和25年4月25日. 集刑. 17号363頁)。 で は,罰. 金 額 を 減 額 し た 上 で,換. 刑 日数 を 増 加 す る こ と は許 され るか 。. ① 説 か ら は 許 さ れ る こ と に な ろ う が,② る 。 最 決 昭 和28年3月26日 場 留 置 換 刑 率1日500円. 刑 集7巻3号636頁 を,罰. こ と は 許 さ れ る と し た が,最 罰 金2万7,000円. 説 の 立 場 か らは結 論 が 分 か れ て い は,罰. 金5万5,000円. ・換 刑 率1日300円. 判 昭 和33年9月30日. ・換 刑 率1日500円. を,罰. 金8万5,000円. 金2万. 和33年 判 決 の 最 高 裁 調 査 官 解 説(田. 年 判 決 の 事 例 で は,換. 算 後 の 日 数 が170日. に変 更 す る. 刑 集12巻13号3190頁. は,. 円 ・換 刑 率1日250円. 更 す る こ と は 許 さ れ な い と し た 。 一般 的 ・抽 象 的 に み れ ば,両 す る が,昭. ・労 役. 原 善 衛)に. に変. 判 決 は矛 盾. よ る と,昭. 和28. か ら183日 に 延 長 さ れ た に 過 ぎ な. い の に 対 し,昭 和33年 判 決 の 事 例 で は,54日. か ら80日(約1.5倍)に. 増加 さ. れ た も の で あ っ て 「両 者 は 事 案 を 異 に す る」,後 者 は 実 質 的 総 合 的 考 察 か ら も も は や 許 さ れ な い 場 合 に あ た る と説 明 さ れ て い る ㈱。 他 方,③ か ら は,ま. 説 の論者. さ に 右 裁 判 例 に 見 られ る よ う な 不 明 確 さ が 批 判 さ れ,留. 働. 高 田卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」298頁 。. ㈱. 田原 善 衛 ・最 判 解 刑 事 篇 昭 和33年 度637,640頁. 20. 。. 置 日数.

(21) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. につ い て も不 利 益 変 更 は許 さ れ な い と主 張 され て い る⑳。 や は り,潜 在 的 で は あれ,労 役 場 留 置 も被 告 人 に と って の 実 質 的 不 利 益 で あ る こ と に変 わ りはな く,③ 説 の 主 張 が 妥 当で あ る。 ω. 付 加 刑,そ の 他. 付 加 刑 で あ る没 収 ・追 徴 も,不 利 益 変 更 が禁 止 さ れ る 「刑 」に該 当 す る。 それ ゆえ,一 一 審 で 付 され て いな か っ た没 収 ・追 徴 を 二 審 で 新 た に付 す こ と 又 は増 加 す る こ と は,基 本 的 に許 され な い。 も っ と も,被 告 人 に新 た に没 収 ・追 徴 が 付 加 又 は増 加 され るが,主 刑 が 軽 く変 更 され る場 合 は ど うか 。 最 高 裁 は,か つ て ① 説 の 立 場 か らに この よ うな 変 更 は許 され る と し(最 判 昭 和23年10月14日 刑 集2巻11号1340頁),② て い る(最 決 昭 和37年6月18日. 説 に変 わ っ た後 も,同 様 に解 し. 刑 集16巻7号)。. 他 方,③ 説 の論 者 か ら も,. 付 加 刑 と して の 性 質 及 び労 役 場 留 置 が 伴 わ な い こ とか ら,自 由刑 の 刑 期 の 差 と追 徴 額 との 差 が 著 し く均 衡 を 失 しな い と判 断 され る と き に は,許 容 さ れ る と の見 解 が み られ る㈹。 しか し,こ の よ うな 両 処 分 間 で読 み替 え が で きな い場 合 の 総 合 考 慮 を 否 定 す る点 に,③ 説 の 重 点 が あ った はず で あ る。 それ ゆえ,変 更 は許 され な い と い うべ きで あ る鮒。 未 決 勾 留 日数 の 本 刑 算 入 も,「刑 」 に 当 た る。 一・ 審 が未 決 算 入 して い た が,こ れ を 算 入 無 し又 は期 間 短 縮 す る こ と は許 され るか 。 まず,本 刑 が 短 縮 され な い場 合 は許 され な い(最 判 昭 和27年1月22日. 集 刑59号317頁)。 で. は,本 刑 が 短 縮 され る場 合 は ど うか 。 最 高 裁 は,① 説 の 立 場 か ら これ を 認 めて い た(最 判 昭 和23年6月8日. 刑 集2巻7号651頁)。. ② 説 に変 更 され て. か らは,こ の 問 題 に取 り組 ん だ 裁 判 例 は見 当 た らな いが,許 容 され る こ と. 鋤. 高 田卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」268頁 。. ㈲. 高 田卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」307頁 。. ㈹. 横 山 「不 利 益 変 更 の禁 止 」(前 掲 注(1))94頁,竹 禁 止 の 原 則 」134頁 。. 21. 内(前 掲 注⑭)「 不 利 益 変 更.

(22) 近畿大学法学. 第56巻第4号. にな るだ ろ う。 他 方,③ 説 の 論 者 か らも,「 未 決 通 算 は 第二 次 的 な不 利 益 」 で あ り,「 本 刑 の点 で補 って い る 限 り未 決 通 算 の多 少 は 問 題 とす るに 足 り な い」 と して,許 容 され る と主 張 され る⑳。 未 決 通 算 は,自 由刑 を 補 完 ・ 修 正 す べ き もの で あ る こ とを 考 え る と,最 終 的 な 執 行 刑 に不 利 益 が な い限 り許 容 され て よ い。. ④. その 他. 少 年 刑 事 事 件 につ い て,一 一 審 の 不 定 期 刑 を二 審 で 定 期 刑 に 変 更 す る場 合,如 何 な る基 準 に よ るべ きか が 問 題 とな る。 最 高 裁(最 大 判 昭 和29年1 月20日 刑 集8巻1号41頁)は,い. わ ゆ る 中間 位 説 に立 ち,例 え ば,2年6. 月 以 上4年 以 下 の 不 定 期 刑 を 定 期 刑 に変 更 す る場 合 に は,3年3月. を基準. に不 利 益 性 が 決 定 され るべ き と した。 学 説 上,中 間 位説 に加 え て,長 期 説, 短 期 説,不 定 期 刑 維 持 説 が み られ る。 本 稿 の 中心 課 題 か ら外 れ るの で,問 題 点 の 指 摘 に と ど め る。. 五. 最 高 裁 平 成18年2月27日. 最 高 裁 は,近 時,久 (最 決 平 成18年2月27日. 決 定 の検討. 々 に不 利 益 変 更 禁 止 原 則 の 適 用 問 題 に取 り組 ん だ 刑 集60巻2号240頁)。. これ ま で の 検 討 を も と に,. 本 裁 判 例 を 検 討 す る。. (1)事 件 概 要 と最 高 裁 決 定 要 旨 本 件 公 訴 事 実 は,被 告 人 が 実 行 した と され る業 務 上 過 失 傷 害1件,道. 交. 法 違 反6件 で あ る。 道 交 法 違 反 の う ち1件 は,過 失 一一 方 通 行 違 反 で あ り, 罰 金 刑(10万 ⑳. 円以 下)の み が 法 定 され て い るが,そ の 他6件. 高 田卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」324頁 。. 22. は,い ず れ も.

(23) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. 懲 役 刑 と罰 金 刑 の 選 択 刑 が 法 定 され て い る。 一一 審(津 地 伊 勢 支 判 平 成17年 2月10日 刑 集60巻2号245頁 記 その 他6件. に掲 載)は,公. 訴 事 実 どお り有 罪 認 定 し,前. につ いて いず れ も懲 役 刑 を 選 択 し,こ れ と過 失 一 方 通 行 違 反. に対 す る罰 金 刑 を 刑 法48条1項. に基 づ いて 併 科 し,懲 役1年6月. 及 び罰 金. 7,000円(罰 金 刑 につ い て 酌量 減 刑)に 処 し,罰 金 が 完 納 され な い場 合 の 労 役 場 留 置 換 算 を1日. あ た り7,000円 と定 め た。 被 告 人 側 の み量 刑 不 当 を 理. 由 に控 訴 した と こ ろ,二 審(名 古 屋 高判 平 成17年7月4日 頁 に掲 載)は,一. 刑 集60巻2号249. 一 審 判 決 後 に被 告 人 が 業 務 上 過 失 傷 害 事 件 の 被 害 者 に30万. 円の 賠 償 を 行 っ た点 等 を 甚斗酌 し,一 一 審 判 決 を 破 棄 して,懲 役1年2月 罰 金1万. 円 に 処 し,罰 金 不 完 納 に 対 す る労 役 場 留 置 換 算 を1日. 及び あた り. 5,000円 と定 め た。 二 審 判 決 は,一 一 審 判 決 に比 して 懲 役 刑 こ そ軽 くな った が,罰 金 額 が 増 加 し,労 役 場 留 置 期 間 の 換 算 率 も被 告 人 に不 利 益 に変 更 され て い る。 そ れ ゆ え,被 告 人 側 が 上 告 し,二 審 判 決 は一一 審 判 決 を 不 利 益 に変 更 した もの で あ り刑 訴 法402条 に違 反 す る等 と主 張 した。 しか し,最 高 裁 は,要 旨以 下 の と お り判 示 し,上 告 を 棄 却 した。. 「第1審 判 決 と原 判 決 の 自判 部 分 は,い ず れ も懲 役 刑 と罰 金 刑 を刑 法48条1項 に よ って 併 科 した もの で あ るが,原 判 決 が刑 訴 法402条 に い う 『原 判 決 の 刑 よ り 重 い刑 」 を 言 い渡 した もの で あ る か ど うか を判 断 す る上 で は,各 判 決 の 主 文 を 全 体 と して 総 合 的 に考 慮 す る の が相 当 で あ る。 そ して,原 判 決 の 刑 は,第1審 判 決 の 刑 に比 較 し,罰 金 刑 の額 が3,000円 多 くされ た 上 労 役 場 留 置 期 間 の 換 算 方 法 も被 告 人 に不 利 に変 え られ,そ の結 果 労 役 場 留 置 期 間 が1日 長 くされ て い る が,他 方 で 懲 役 刑 の 刑 期 は4か 月 短 くさ れ て い る の で あ る か ら,こ れ らを 総 合 的 に考 慮 す れ ば,実 質 上 被 告 人 に不 利 益 と は い え ず,上 記 の 『原 判 決 の 刑 よ り 重 い刑 」 に当 た らな い こ と は明 らか とい うべ きで あ る。」. 23.

(24) 近畿大学法学. 第56巻第4号. (2)若 干 の 検 討 (i)問 題 の 所 在 本 件 は,前 述 の と お り,刑 法48条1項. に基 づ き懲 役 刑 と罰 金 刑 とが 併 科. され たが,二 審 の 量 刑 が 一審 の それ に比 して,懲 役 刑 こ そ減 軽 され て い る が,罰 金 刑 が 加 重 され,か つ,罰 金 不 完 納 に際 して の 労 役 場 留 置 換 算 率 も 被 告 人 に不 利 益 に変 更(1日. →2日. 裁 決 定 は,① 刑 法48条1項. と2倍!)さ. れ た事 例 で あ る。 本 最 高. に基 づ く懲 役 刑 と罰 金 刑 との 併 科 に際 し,懲 役. 刑 につ いて 一審 の 実 刑 を 維 持 した ま ま罰 金 額 を 増 加 した点,② 罰 金 刑 を 増 額 す る と と も に,罰 金 不 完 納 に際 して の 労 役 場 留 置 換 算 率 も不 利 に変 更 し た点 につ いて,最 高 裁 と して 初 めて 判 断 を 下 した。 それ ゆえ,本 原 則 に関 す る理 論 上 の 問 題 の み な らず,実 務 に お け る運 用 に と って も重 要 で あ る。 (ii)関 連 裁 判 例 ① の 点 に関 連 して,従 来,一 審 の 自 由刑(実 刑)を 削 除 又 は執 行 猶 予 と した上 で,罰 金 刑 を 増 額 した事 例 は あ っ た(前 者 につ いて,最 決 昭 和31年 10月9日. 刑 集10巻10号,最. 判 昭和48年3月20日. 刑 集27巻2号138頁,後. つ いて,最 判 昭 和26年11月27日 刑 集5巻13号2457頁,最 日刑 集19巻1号59頁)。. 者に. 決 昭 和40年2月26. 最 高裁 は,い ず れ も,総 合 的考 察 に基 づ い て,不 利. 益 変 更 に は あ た らな い と して い る。 も っ と も,刑 法48条1項. に基 づ く懲 役. 刑 と罰 金 刑 との 併 科 に関 して,す で に大 審 院 時 代 に 「常 二 先 ツ重 キ懲 役 刑 ノ軽 重 ヲ比 較 シ其 ノ軽 重 二 従 ヒ該 併 科 刑 ノ軽 重 ヲ定 ムヘ ク」 と判 示 され て い る(大 判 昭 和15年7月24日. 大 刑 集19巻507頁)。. これ を み る と,前 述 した. 不 利 益 変 更 性 の 基 準 に関 す る実 質 的 判 断 方 法(現 在 の 判 例 ・通 説)の 立 場 か らはな おの こ と,形 式 的 判 断 方 法(か つ て の 判 例)の 立 場 か らも,懲 役 刑 と罰 金 刑 との 間 で の 融 通 の 可 能 性 は認 め られ て い た。 これ に対 し,一 般 的 部 分 的 判 断 方 法 の 論 者 か らは,「あ らた に執 行 猶 予 が与 え られ て も,刑 そ の もの が 重 くされ れ ばや は り不 利 益 変 更 と見 るべ きで あ る」 との 主 張 が 見 24.

(25) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. られ,例 え ば,前 述 最 判 昭 和26年11月27日 の 事 例(一 審=懲 役3年 及 び罰 金30万 円(労 役 場 留 置 の 言 渡 を 遺 脱),二 審=懲 役3年 執 行 猶 予5年 及 び罰 金40万 円(労 役 場 留 置 換 算1日. あ た り1,000円))は,不. 利益変更 にあた る. と批 判 され て い る鮒。 他 方 ② の 点 に関 連 して,従 来,自. 由刑 及 び罰 金 刑 が 減 軽 され た 上 で,労. 役 場 留 置 換 算 率 の み が 加 重 され た事 例 は あ っ た。 まず,最 判 昭 和26年10月 16日 刑 集5巻11号2249頁. は,自 由刑 が 削 除,罰 金 も減 額 され た 上 で,換 刑. 率 の み が増 加 され た事 例 につ い て,「 労 役 場 留 置 の一一日の 換 算 率 だ け の み を 見 る と不 利 益 に変 更 した よ う に見 え て も,第 一一 審 判 決 の 言 渡 した 刑 と原 判 決 の 言 渡 した刑 とを その 全 体 に お いて 比 較 す れ ば」 不 利 益 変 更 に は あた らな い と判 示 して い る。 この 事 例 は,換 刑 率 が1日. あた り500円 か ら300円. に変 更 され たが,罰 金 刑 が10万 円か ら3万 円 に減 額 され た た め,換 刑 日数 にす る と200日 か ら100日 に減 軽 され た もの で あ り,こ の 結 論 につ いて 異 論 は見 られ な い。 他 方,罰 金 刑 が 減 額 され たが,換 刑 率 が 増 加 され た た め, 換 刑 日数 も増 加 した と い う事 例 につ いて,前 述(四(2)(ii))の とお り,二 例 (最決 昭和28年3月26日 巻13号3190頁)で. 刑 集7巻3号636頁. と最 判 昭 和33年9月30日. 刑 集12. 結 論 が 分 か れ て い る。 両 裁 判 例 を 統 一 的 に理 解 す るな ら. ば,換 刑 日数 に して,昭 和28年 決 定 は170日 か ら183日(13日 と ど ま るの に対 し,昭 和33年 判 決 は54日 か ら80日(26日. 間)の 増 加 に. 間=約1.5倍)に. 加 した もの で あ り,現 在 の 判 例 の 立 場(実 質 的 判 断 方 法)か. 増. ら この 中間 に. 限 界 点 が 認 め られ る こ と にな る。 他 方,一 般 的 部 分 的 判 断 方 法 の 論 者 は, ま さ に この よ うな 不 明 確 な 判 断 に対 す る批 判 か ら,罰 金 額 の み な らず 換 刑 日数 に お いて も不 利 益 変 更 は禁 止 され る と主 張 す る働。 この よ う に して,従 来 の 最 高 裁 判 例 を 概 観 す る と,実 質 的 判 断 方 法 に よ ㈱. 高[H卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」296頁 。. 働. 高 田卓 爾(前 掲 注 ⑰)『 総 合 判 例 研 究 叢 書 」269頁 。. 25.

(26) 近畿大学法学. 第56巻第4号. り一 審 と二 審 の 量 刑 を 総 合 して 検 討 す るな らば,本 件 の ご と く刑 法48条1 項 に基 づ く懲 役 刑 と罰 金 刑 との 併 科 に際 して も,罰 金 刑 に対 す る労 役 場 留 置 換 算 率(実 質 的 に は 換 算 日数)を 含 め て 考 慮 され るべ き こ と に な る。 も っ と も,懲 役 刑 と罰 金 刑 との 併 科 に お け る この よ うな 総 合 的 考 慮 につ い て,矛 盾 抵 触 す るか に見 え る裁 判 例 も あ る。 す な わ ち,最 判 昭 和35年5月 6日 刑 集14巻7号861頁. 及 び最 判 昭和43年10月15日 刑 集22巻10号940頁. 併 合 罪 関 係 に あ るA罪 につ いて 懲 役 刑,B罪 刑 法48条1項. は,. につ いて 罰 金 刑 が 選 択 され,. に よ り併 科 され た が,上 訴 審 で,B罪. につ い て の み免 訴 事 由. が あ る と認 め られ た と き は,原 判 決 の 併 合 科 刑 全 て で はな く,罰 金 刑 を 言 い渡 した部 分 の み 破 棄 し,懲 役 刑 につ いて は原 判 決 が 維 持 され るべ き と判 示 した。 す な わ ち,こ れ に よ る と,刑 法48条1項. に基 づ く懲 役 刑 と罰 金 刑. との 併 科 が 行 わ れ た場 合,両 刑 間 で の 総 合 的 考 慮,す な わ ち刑 の 融 通 が 否 定 され た もの と理 解 す べ きで はな いか が 問 題 とな る。 この 点 につ いて,本 決 定 に対 す る最 高 裁 調 査 官 解 説(芦 澤 政 治)は,一. 一 部 免 訴 等 に よ る判 決 破. 棄 の場 合 と,量 刑 を 理 由 とす る 判 決 破 棄 の 場 合 とで は 次 元 が 異 な る と し て,右 昭 和35年 判 決 及 び昭 和43年 判 決 は不 利 益 変 更 性 の 検 討 に お いて 本 決 定 の結 論 を妨 げ る もの で は な い と説 明 す るω。 確 か に,上 訴 審 が原 判 決 を 破 棄 す る場 合,「 論 理 上 」,量 刑 不 当の 審 査 の 前 に併 合 罪 関 係 の 一一 部 につ い て 破 棄 事 由が 明 らか にな っ た以 上,破 棄 され るべ き事 件 を 含 め た総 合 的 量 刑 をな しえ な い。 しか し,そ の こ とか ら直 ち に,原 判 決 が(お. そ ら く調 査. 官 解 説 も前 提 と して い る と思 わ れ る よ う に)懲 役 刑 と罰 金 刑 とで 総 合 的 に 量 刑 し,上 訴 審 で その 一一 部 の 罪 につ いて 免 訴 事 由が 認 め られ た と い う場 合 に お いて,は. も はや 原 判 決 の 総 合 的 量 刑 を 修 正 す る余 地 まで 否 定 され るわ. けで はな い。 す な わ ち,懲 役 刑 と罰 金 刑 との 総 合 的 な 量 刑 に よ り一一 方が他. ω. 芦 澤 政 治 ・曹 時60巻3号333,340頁. 。. 26.

(27) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. 方 の た め に融 通 され て い た よ うな 場 合(例 え ば,そ れ ぞ れ 単 独 で な ら懲 役 刑1年,罰. 金 刑100万 円 に処 す る べ き と ころ,併 科 を考 慮 して懲 役 刑8月,. 罰 金 刑200万 円 に処 せ られ た場 合),一 一 方 の 刑 を 破 棄 す るの み で 他 方 を そ の ま ま維 持 す るな ど と い う こ と はで きな い はず で あ る(前 述 例 で,罰 金 刑 が 免 訴 に よ り破 棄 され た場 合 に,懲 役 刑 を1年 更 に あ た り許 され な いが,逆. に変 更 す る こ と は,不 利 益 変. に懲 役 刑 につ いて 免 訴 と され た 場 合,罰 金 刑. 200万 円 が維 持 され る べ き で な い の は 自明 で あ る)。 そ れ ゆえ,昭 和35年 判 決 及 び43年 判 決 は,刑 法48条1項. に基 づ き懲 役 刑 と罰 金 刑 とが 併 科 され る. 場 合,両 罪 間 で の 総 合 的 量 刑 は許 され ず,各. 々単 独 で 量 刑 され た もの を 単. に併 科 す るべ き こ とを 前 提 と した判 断 で あ り,こ れ が 覆 され な い限 り,不 利 益 変 更 性 に つ い て も,各 々単 独 で 判 断 さ れ るべ き こ と に な る と思 わ れ る。 ω. 私. 見. 以 上 の 考 察 を 前 提 に,本 最 高 裁 決 定 は どの よ う に評 価 され るべ きか 。 本 決 定 につ いて,す で に い くつ か 評 釈 が 公 表 され て い る。 これ ら は,い ず れ も,本 件 一 審 に お け る 罰 金 刑 の 下 限 を さ らに情 状 酌 量 に よ り軽 減 す る と い っ た 「薬 剤 師 が 散 薬 を 天 秤 の 上 に乗 せ 小 匙 で あれ これ 加 減 す る よ うな や り方 」 に 対 す る 疑 問ω や,実 質 的 考 察 法 に お け る 限 界 点 を 確 立 す る必 要 性 働 を 提示 しつ つ も,実 質 的 総 合 的 判 断 に よ り不 利 益 変 更 性 を 否 定 す る結 論 自体 に は異 論 が な い よ うで あ る⑬。 しか し,本 決 定 の 結 論 は,そ も そ も一般 的 部 分 的 判 断 方 法 を 支 持 す る私 見 か らは,疑 問 が あ る。 前 述 昭 和28年 決 定 及 び昭 和33年 判 決 に対 して 向 け られ た判 断 の 不 明 確 さ に対 す る批 判 は,本 決 定 に も妥 当 す る。. qD高. 木 俊 夫 ・刑 事 法 ジ ャー ナ ル7号79頁(2007年)。. ω. 正 木 祐 史 ・法 セ ミ621号113頁(2006年)。. ⑬. 長 沼 範 良 「刑 事 訴 訟 法 判 例 の 動 き」 平 成18年 度 重 判184頁 。. 27.

(28) 近畿大学法学. 第56巻第4号. ま た,仮 に実 質 的 総 合 的 考 察 方 法 を 前 提 に して も,前 述 の と お り,昭 和 35年 判 決 及 び昭 和43年 判 決 を 前 提 とす る限 り,刑 法48条1項. に基 づ く懲 役. 刑 と罰 金 刑 との 併 科 に際 し両 刑 間 の 融 通 は禁 止 され て い る,そ れ ゆえ,融 通 の 可 能 性 を 前 提 と した総 合 的 考 慮 も否 定 され る と いわ ざ るを 得 な い。 も っ と も,こ の点 は,そ もそ も併 合 罪 一 般 の 問 題 と して,「 併 合 罪 を 構 成 す る各 罪 全 体 に対 す る統 一一 刑 を 処 断 刑 と して 形 成 し,修 正 され た法 定 刑 と も い うべ き この 処 断 刑 の 範 囲 内で,併 合 罪 を 構 成 す る各 罪 全 体 に対 す る具 体 的 な 刑 を 決 す る」(最 判 平 成15年7月10日. 刑 集57巻7号903頁)と. い う近. 時 の 裁 判 例 の 傾 向 か らは,も はや 昭 和35年 判 決 及 び昭 和43年 判 決 の 理 論 自 体 が 否 定 され た と も い い う る。 しか し,少 な くと も本 件 に関 して いえ ば, 一 審 は,罰 金 刑 の み 法 定 され る過 失 一一 方 通 行 違 反 を 除 いて,そ の 他6件. は. いず れ も あ え て 懲 役 刑 を選 択 し,そ れ ぞ れ に つ い て 量 刑 を した もの で あ り,懲 役 刑 と罰 金 刑 との 刑 罰 その もの と して の 意 義 及 び 目的 の 違 いを も考 慮 す るな らば,同 一一 刑 種 内で の 融 通 を 認 め る こ とか ら,直 ち に,異 な る刑 種 間 で の 融 通 まで 認 め られ る と い う こ と に はな らな い。 それ ゆえ,不 利 益 変 更 性 の 判 断 に際 して も,両 刑 種 間 で の 総 合 的 考 察 は否 定 され るべ きで あ る。. 六. お わ りに. 以 上,本 稿 は,上 訴 法 に お け る重 要 な ル ール の 一一 つ で あ る不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて,重 要 論 点 を 検 討 し,近 時 の 最 高 裁 判 例 に批 評 を 加 え た。 その 際,本 原 則 は,被 告 人 の 上 訴 権 保 護 と い う政 策 的 根 拠 に加 え て 上 訴 理 論 的 根 拠 も その 支 え とな って い る との 理 解 を 前 提 に,従 来 の 裁 判 例 及 び学 説 を検 討 し,特 に不 利 益 変 更 性 の 基 準 につ いて は,支 配 的 見 解 で あ る実 質 的 総 合 的 考 察 方 法 に対 す る批 判 を 提 起 した。 28.

(29) 不 利 益 変 更 禁 止 原 則 につ いて. も っ と も,近 時 の 最 高 裁 判 例 に見 られ る と お り,併 合 罪 処 理 に よ り懲 役 刑 と罰 金 刑 とが 併 科 され,そ れ に換 刑 処 分 等 の 付 随 的 処 分 や 付 加 刑 が 絡 ん で くる と い っ た事 例 で は,量 刑 その もの が 複 雑 か つ 難 解 にな って い る。 そ して,そ の 際 も,「手 づ か み で ザ ック リと さ らに盛 付 け る よ うな もの で あ る べ き」との主 張 に見 られ る よ うに幽,量 刑 が 大 雑 把 に行 わ れ る傾 向 に は注 意 が 必 要 で あ る。 本 稿 で 示 され た結 論 も,不 利 益 変 更 禁 止 原 則 に関 す る政 策 的 ・理 論 的 論 拠 か らの 論 証 と して は十 分 で あ る と思 わ れ るが,さ. ら に量 刑. 法 一般 の 検 討 に遡 り,実 務 を 含 め た総 合 的 な 考 察 が 要 請 され る。 今 後 の 課 題 と して お き た い。. *本 稿 は,刑 事 判 例 研 究 会(2008年7月)に. お け る報 告 に基 づ く もの で あ る。 研 究. 会 で 多 くの 有 益 な ご意 見 を 頂 戴 した こ と に,感 謝 申 し上 げ る。 (2008年12月. 幽. 高 木(前 掲 注ql))刑 事 法 ジ ャー ナ ル84頁 。. 29. 脱 稿).

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