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特集にあたって (特集 災害と図書館)

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(1)

特集にあたって (特集 災害と図書館)

著者

二階 宏之

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

210

ページ

2-4

発行年

2013-03

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003742

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●はじめに

  二〇一一年三月に起きた東日本 大震災は東北地方を中心に甚大な 被害を及ぼした。図書館もその例 外ではない。図書館の建物や資料 は大きな損失を被り、さらに図書 館職員の命までも奪った。地域社 会が喪失するとともに図書館のコ ミュニティ機能も失った。震源地 から遠く離れた千葉市に位置する アジア経済研究所でも震度五強の 揺れに見舞われ、図書館の蔵書資 料はほとんど落下し行く手をふさ い だ( 写 真 ① )。 そ の 日 は あ ら ゆ る交通手段が遮断され帰宅難民と して研究所で一夜を過ごした。余 震におびえながら食料調達のため に外に出てみると街中は一変して いた。液状化現象により道路や歩 道には砂や水があふれ、いたると ころで歩道の隆起(写真②)や亀 裂が目に飛び込んできた。   東日本大震災発生から半年過ぎ た頃、タイで大洪水が発生し、日 系企業が相次ぎ操業停止に追い込 まれた。タマサート大学ランシッ ト校図書館の所蔵資料の八〇%が 流出した。洪水直後にタイに出張 に行ったアジア経済研究所図書館 職員が、タマサート大学図書館の 被 災 後 の 現 場 を ま の あ た り に し、 被害の大きさに驚愕した。これを きっかけに、開発途上国図書館と 災害の状況をまとめてみようとい う着想が生まれ、今回の「災害と 図書館」特集を組むに至った。

●災害による被害状況

  一般に開発途上国で巨大災害が 発生した場合、先進国での発生に 比べ、被害額は少ないものの、非 常 に 多 く の 人 命 が 失 わ れ、 復 旧・ 復興により多くの時間を要し、被 災者の生活再建に多くの困難をと もなう傾向にある(参考文献①) 。   二〇〇四年一二月に発生したス マトラ沖地震津波による大津波で イ ン ド ネ シ ア を 始 め ス リ ラ ン カ、 インド、タイで大きな被害を受け た。この地震・津波による被災者 は約二〇六万人、死者・行方不明 者は約二三万人、被害総額は六八 億 ド ル を 超 え た( 参 考 文 献 ② )。 インドネシアでは人的被害や建物 の 損 壊 が 大 き く、 浸 水 に よ り ア チェの近現代史の基礎的文献など が 被 害 を 受 け て い る( 西 論 文 )。 この津波による苦難を乗り越える ため、インドネシア国家開発企画 庁は、被災地域における図書館や ド キ ュ メ ン ト セ ン タ ー を 含 む 保 健・ 教 育・ 社 会 福 祉 分 野 の 復 興・ 再建計画をたてた(参考文献③) 。 スリランカでは、全国学校図書館 九七九〇校のうち一八二校が被災 し、また、全国公共図書館九五〇 館のうち六二館が被災し二八館が 全壊した。そのほか仏教寺院付属 の図書館六八館も被害を受けてい る(東川論文) 。   二〇〇八年五月に発生した四川 大地震では、死者約六万九〇〇〇 人、 行 方 不 明 者 一 万 八 〇 〇 〇 人、 経済被害は約八四五〇億元と伝え られている。四川省公共図書館一 一九館のうち四館が全壊、五四館 が被災し、約百八二万冊の資料と 約一万三〇〇〇台の機器が使用で き な く な っ た( 狩 野 論 文 )。 四 川 ①地震直後のアジア経済研究所図書 館の書架 ②海浜幕張周辺の隆起した歩道

特 集

災 害 と 図 書 館

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大地震の直前にはミャンマーに巨 大 な サ イ ク ロ ン が 直 撃 し、 死 者・ 行 方 不 明 者 は 約 一 四 万 に 上 っ た。 一〇〇〇を超える図書館にも被害 を も た ら し て い る( 小 林 論 文 )。 さらに、二〇一〇年一月にはハイ チで大地震が発生し、死者は約三 一万六〇〇〇人、被害額約七八億 ドルの被害をもたらした(参考文 献④) 。この地震で、 首都ポルトー プランスにある大学図書館の半数 以上が壊滅的ダメージを受け、無 数の書籍が破壊され、 学校、 大学、 地域の図書館が閉鎖を余儀なくさ れた(ブクエ・キストマーカー論 文 )。 東 日 本 大 震 災 に お い て は、 二 五 一 の 図 書 館 が 建 物 被 害 を 受 け、そのうち公立図書館七館が全 壊し、図書館職員の死者・行方不 明者一〇人が報告されている(参 考文献⑤) 。   災 害 に は「 自 然 災 害 」 の ほ か、 科学技術の発展にともなって生じ る「 技 術 災 害 」、 戦 争 や 暴 動 な ど による「社会災害」を含めて捉え る こ と が あ る( 参 考 文 献 ② )。 イ ラクでは、二〇〇三年のイラク戦 争開始の際にイラクの図書館では 多 く の 蔵 書 が 略 奪 さ れ た。 紛 争・ 戦争という人為的災害の状況下で は美術品や文化財の略奪が絶えな い。略奪・放火の目的は、金銭目 当ての強盗と、 政治的な資料廃棄 ・ 略奪とに大別されると考えられる (小林論文) 。

●図書館の復旧・復興

  以上のことから、大災害が発生 した場合、地理的・政治的要因に よって図書館は大きな損害を被る ことになる。次に、被災図書館の 復旧に向けての取り組みをみてみ よう。   東北大学図書館では東日本大震 災の際、書籍の落下や書架の倒壊 のほか、天井や壁、床などの建物 被害や漏水が発生した。本格的な 災害復旧工事は二〇一二年二月か らであった。良好な図書館サービ スを実現していくため、復旧に当 たってはこれらの図書館ファシリ ティ(施設とその環境)に重点を おいた。さらに、復旧から復興に 向 け て の 一 歩 と し て ラ ー ニ ン グ・ コモンズ(学習するための共有ス ペース) の新設を実現している (米 澤論文) 。   イ ン ド ネ シ アの ア チ ェ 州 で は ス マ ト ラ 沖 地 震 津 波 発 生前は 武 力 紛 争 下 で あ っ た た め 、 ア チ ェ に 関 わ る 文 書 の デ ジ タ ル 化 や カ タ ロ グ 作 成 は ア チ ェ 州 外 で 進 め ら れ て い た 。 災 害 後 、 復 興 に 向 け て ア チ ェ ・ ニ ア ス 復 興 再 建 庁 では 、 関 係 各 省 庁 を 横 断し て地 域 の 資 料 の 共 有 化 を は か っ た 。現 在 に お い て も ア チ ェ 州 で は 図 書 館 機 能 を 強 化 する 動 き が 活 発 に み ら れ 、 外 国 か ら の 支 援 に よ り 資 料 の デ ジ タ ル 化 や カ タ ロ グ 作 成 を 実 施 し て い る ( 西 論 文 )。   タイのタマサート大学図書館で は、大洪水のあと図書館の復旧計 画立案委員会を組織し、緊急の復 旧活動として資料の修復や建物の 改築、蔵書の移動を実施した。ま た、長期的な復旧計画としてタマ サート大学図書館や研究機関にお いて資料のデジタル化を検討して いる(チューマン ・ ティラキット、 シーチャン・チャンチーワ論文) 。 スリランカでも被災後の早い時期 に国家レベルの復旧委員会を組織 し、学校図書館の再建を最優先で 実施している(東川論文) 。

●支援活動

  確かに国家の非常事態として図 書館の復旧や復興計画を行ってい くことは第一なのだが、実際に被 災者と直接向きあうところの本を 提 供 す る ま で に は 困 難 が と も な う。図書館が損壊し、資料が流出 してしまった場合などは、ほとん どゼロからの立ち上げと同様であ る。被災した図書館においては図 書 館 職 員 も 被 災 者 で あ り、 ま た、 再建するノウハウを持ち合わせて い る こ と も 多 く な い。 そ の た め、 外部の人的協力が必須となる。そ こで、大きな役割を期待されるの が、 草 の 根 的 に 活 動 し て い る Li -braries Without Borders (以下 LWB)やシャンティ国際ボラン ティア会などの支援団体の協力で ある。   災害や紛争時においては多くの 危機管理機関は緊急的な人命救助 を優先し、社会的および文化的な 救援活動は後回しになる。緊急的 な支援が落ち着いたころから、被 災地の社会構造や制度にも目を向 けた長期的な視野に基づく救援ア プローチが求められてくる。LW Bでは、 図書館の建設や司書研修、 書籍の提供、 地域出版社への支援、 図書館ネットワークの拡充などを 行い、被災地関係者の主導による 被 災 地 支 援 活 動 を 実 施 し て い る。 ハイチ再建では、被災者ニーズを 特定するための調査活動や被災者 が本を利用できるような活動に取 り組んでいる。また、被災者たち の精神的なダメージを克服するた めに「読む楽しさ」を発見するた

特集にあたって

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めの文化的、教育的な活動を通し て、読み書きの支援を行っている (ブクエ・キストマーカー論文) 。   シャンティ国際ボランティア会 は、東日本大震災後、二〇一一年 七月より、岩手県沿岸部の四市町 約三〇の仮設団地において移動図 書館活動を実施している。もとも とは、一九八〇年にカンボジア難 民キャンプで子どもたちに絵本を 届けることから活動を開始し、現 在では、タイ、ラオス、カンボジ ア、ミャンマー、アフガニスタン で図書館活動や学校建設の活動を 行っている。   ミャンマーでは、サイクロン被 災を機に発足したNPO「ナルギ ス ・ ライブラリー ・ リカバリー」 が、 寄 贈 図 書 の 分 配、 図 書 館 の 再 建、 ワ ー ク シ ョ ッ プ の 開 催 の 活 動 を 行っている。海外からの寄贈図書 は国内の図書館に分配されるとと もに、一部を販売してその収益で ミャンマー語図書などを新たに購 入している。また、倒壊した図書 館をコミュニティ図書館として再 建するなど活動範囲は広い(小林 論文) 。

●記録と保存

  一九三四年三月、内務省は当時 としてはめずらしい航空写真も入 れた『三陸津浪に因る被害町村の 復興計画報告』を作成した。しか し、この報告書の存在を東日本大 震災の発生時に、あらかじめ知っ ていた専門家、行政関係者、マス コ ミ は 非 常 に 少 な か っ た。 復 旧・ 復興の記録と経験というものは薄 れやすく、忘れ去られてしまうも のである(参考文献⑥) 。   東日本大震災復興対策本部が二 〇 一 一 年 七 月 二 九 日 に 決 定 し た 「 東 日 本 大 震 災 か ら の 復 興 の 基 本 方針」を受けて、国立国会図書館 で は「 東 日 本 大 震 災 ア ー カ イ ブ 」 のプロジェクトをたちあげた。国 全体として蓄積した記録等が、被 災 地 の 復 興 事 業 や、 今 後 の 防 災、 減災対策等へ活用されることを想 定 し て い る( 河 合 論 文 )。 イ ン ド やタイ、 インドネシアにおいても、 震災後に図書館としての資料を守 る必要性を感じて貴重な資料をデ ジタル化する活動を始めている。   こ の よ う に 現 在 の 情 報 化 社 会 の な か で 、 世 界 各 国 で 震 災 の 記 録 を 残 し た り 資 料 を デ ジ タ ル 化 し た り す る な ど の 活 動 が 実 施 さ れ 、 今 後 震 災 が 起 き た 際 の 被 害 を 食 い 止 め よ う と 努 力 し て い る 。 ぜ ひ 、 こ れ ら の 活 動 が非 常 時 の 図 書 館 活 動 と し て 生 か さ れ て い く こ と を 期 待 す る 。

●おわりに

  地震をはじめとする大災害は世 界のどこでも起こりうるものであ り、いままでみてきたように図書 館にも大きな被害をもたらしてい る。いざ大災害が起きた時の備え として、防災計画を立てておくと ともに、非常時に適切な行動がと れるような仕組みを整備しておく ことが必要である。災害が発生し ないケニアの図書館ではほとんど 防災対策に関して関心が薄く、火 災 に 対 す る 最 低 限 の 設 備 に と ど まっている。日本でも地震に対す るマニュアルなどを整備している 図書館は少ないだろう。二〇一二 年五月に日本図書館協会から『み ん な で 考 え る 図 書 館 の 地 震 対 策: 減災へつなぐ』とうマニュアル作 成ガイドが出版された。東日本大 震災の記録が薄れていく前に、早 いうちに各図書館においてマニュ アルを準備しておきたい。東日本 大 震 災 の 復 旧 が 進 ん で い く な か で、多くの支援や情報があるにも かかわらず、被災者と支援者をつ なぐパイプが不足し、かえって被 災者の負担を増加してしまったと い う 意 見 が あ る( 参 考 文 献 ⑦ )。 また、世界各地の図書館の復旧過 程から見えてきたひとつに、被災 者の心のケアが大変重要であると いうことがわかった。このように 震災時における図書館の役割は非 常に大切である。図書館の新たな 役 割 と 使 命 を 十 分 自 覚 し、 ま た、 被災の経験や記録を風化させるこ とのないよう保存、提供していく ことを、国際的な枠組みのなかで 考えていきたい。 ( に か い   ひ ろ ゆ き / ア ジ ア 経 済 研 究所   図書館) 《参考文献》 ① 林 勲 男 編 著[ 二 〇 一 〇 ]『 自 然 災 害と復興支援』   明石書店。 ② 「総 特 集: 災 害 と 地 域 研 究 」『 地 域 研 究 』  一 一 巻 二 号 二 〇 一 一 年 三 月   地域研究コンソーシアム。 ③ 国立国会図書館関西館 [二〇〇六] 『 ス マ ト ラ 沖 地 震・ 津 波 に よ る 文 書 遺 産 の 被 災 と 復 興 支 援 ― 平 成 一 七 年 度 国 立 国 会 図 書 館 公 開 セ ミ ナ ー 記 録 集 』( 図 書 館 研 究 シ リ ー ズ三九号) 。 ④ 外 務 省[ 二 〇 一 二 ]『 我 が 国 の ハ イチ復旧・復興支援概要』 。 ⑤ 国立国会図書館関西館 [二〇一二] 『 東 日 本 大 震 災 と 図 書 館 』( 図 書 館 調査研究リポート一三号) 。 ⑥ 越 澤 明 著[ 二 〇 一 二 ]『 大 災 害 と 復旧・復興計画』   岩波書店。 ⑦ 「特 集 : 東 日 本 大 震 災 か ら 一 年 を 経 て 」『 情 報 管 理 』  五 二 巻 一 二 号 二 〇 一 二 年 三 月   科 学 技 術 振 興 機 構 。

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