日本人のみた外国 執事のいる社長室 (カルチャー
・ショック)
著者
星野 妙子
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
155
ページ
59-59
発行年
2008-08
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004954
5 ―アジ研ワールド・トレンド No.55(2008. 8) 生 ま れ て 初 め て 本 物 の 執 事 を 見 た の は 、 メ キ シ コ の 産 業 都 市 モ ン テ レ イ の 大 企 業 グ ル ー プ 、 ビ ト ロ の 社 長 室 だ っ た 。 場 所 は 工 場 敷 地 内 に 付 設 す る 事 務 所 ビ ル の 最 上 階 。 エ レ ベ ー タ を 降 り る と 風 景 は 、 殺 風 景 な 工 場 事 務 所 か ら 美 術 館 風 の 回 廊 へ と 一 変 し て い た 。 ま ず は そ の 落 差 の 大 き さ に 驚 き 、 続 い て 、 回 廊 つ き あ た り の 社 長 室 の 重 い 扉 を 開 け て く れ た の が 、 映 画 で よ く 見 る 蝶 ネ ク タ イ に 黒 い 上 着 姿 の 執 事 で あ る の を 見 て 再 度 驚 い た 。 メ キ シ コ の 企 業 文 化 の 一 端 を 垣 間 見 た 気 が し た 。 今 か ら 二 三 年 前 の 話 で あ る 。 メ キ シ コ の 大 企 業 グ ル ー プ の 多 く は フ ァ ミ リ ー 企 業 で あ る 。 フ ァ ミ リ ー 企 業 で は フ ァ ミ リ ー の 嗜 好 が 企 業 文 化 に 反 映 さ れ や す い 。 そ の 最 た る も の が 社 長 室 と み た 。 一 介 の 研 究 者 が 社 長 室 を の ぞ け る 機 会 は そ れ ほ ど 多 く な い が 、 当 時 は 現 政 権 与 党 の P A N の 台 頭 期 で 、 同 党 を 支 持 す る 財 界 は 世 論 対 策 に 積 極 的 だ っ た 。 そ ん な 雰 囲 気 も あ っ て か 、 予 想 に 反 し 聞 き 取 り 調 査 に 応 じ て く れ る 大 企 業 グ ル ー プ の 社 長 は 多 か っ た 。 ビ ト ロ は 一 〇 〇 年 以 上 の 歴 史 を も つ モ ン テ レ イ 財 閥 が 枝 分 か れ し て で き た 企 業 グ ル ー プ だ が 、 同 じ モ ン テ レ イ 財 閥 か ら 枝 分 か れ し た 企 業 グ ル ー プ に シ ド サ が あ る 。 シ ド サ の 本 社 社 屋 は モ ン テ レ イ 市 郊 外 に あ る 、 ま だ 建 っ て 新 し い 壮 大 な 低 層 近 代 建 築 だ っ た 。 不 在 の 社 長 に 代 わ り 重 役 が 応 対 し て く れ た が 、 そ の 重 役 の 秘 書 の 執 務 室 で す ら 、 当 時 市 谷 に あ っ た ア ジ ア 経 済 研 究 所 の 所 長 室 よ り 立 派 だ っ た こ と に は 、 少 な か ら ぬ 衝 撃 を 受 け た 。 ビ ト ロ 、 シ ド サ と は 対 照 的 に 質 素 だ っ た の が 中 堅 企 業 グ ル ー プ の イ ム サ の 社 長 室 だ 。 モ ン テ レ イ 市 内 の 工 場 敷 地 内 に 併 設 さ れ 、 こ ち ら は 社 長 室 も 工 場 の 風 景 の 中 に 溶 け 込 ん で い た 。 ヒ ア リ ン グ に 応 じ て く れ た の は 、 若 く 長 身 で ハ ン サ ム な フ ァ ミ リ ー の 二 代 目 社 長 で 、 落 ち 着 い た 語 り 口 が と て も 魅 力 的 な 人 物 だ っ た 。 イ ム サ の 社 長 室 に は 一 〇 年 後 に 再 度 訪 れ る 機 会 が あ っ た 。 当 時 メ キ シ コ の 多 く の 大 企 業 グ ル ー プ が 累 積 債 務 問 題 に 苦 し み 、 事 業 を 縮 小 さ せ て い た の に 対 し 、 債 務 問 題 と 無 縁 で あ っ た イ ム サ は 、 そ の 一 〇 年 の 間 に 民 営 化 へ の 参 加 、 M & A に よ り 事 業 を 拡 大 さ せ 、 大 企 業 グ ル ー プ の 仲 間 入 り を 果 た し て い た 。 そ し て 本 社 は 工 場 敷 地 内 か ら 、 モ ン テ レ イ 市 郊 外 に 近 年 建 設 さ れ た 超 高 層 オ フ ィ ス ビ ル の 中 に 移 転 し て い た 。 社 長 室 は そ の 超 高 層 オ フ ィ ス ビ ル の 豪 華 な 調 度 品 で 飾 ら れ た フ ロ ア ー に あ っ た 。 社 長 室 の 様 変 わ り に 驚 い た が 、 も っ と 驚 い た の は 社 長 の 変 貌 ぶ り だ っ た 。 登 場 し た の は 中 年 の 恰 幅 の い い 饒 舌 な 脂 ぎ っ た 紳 士 。 一 〇 年 の 重 み を 、 社 長 室 と 社 長 の 変 貌 に 見 た 思 い が し た 。 ビ ト ロ に も さ ら に そ の 数 年 後 に 訪 れ て い る 。 ビ ト ロ も そ の 後 、 本 社 社 屋 を モ ン テ レ イ 市 郊 外 に 新 築 し た 。 新 し い 社 屋 は 白 亜 の 殿 堂 と い え る よ う な コ ロ ニ ア ル 調 の 壮 大 な 建 物 で あ る 。 た だ し 訪 問 時 に 社 長 室 は 見 て い な い 。 十 有 余 年 の 間 に メ キ シ コ の 企 業 も 国 際 化 し 、 広 報 窓 口 を 整 備 し 、 研 究 者 の 依 頼 に も 、 広 報 担 当 が メ ー ル で 対 応 す る よ う に 変 わ っ て い た 。 ア ポ と り は 少 し 楽 に な っ た が 、 そ の か わ り に 社 長 室 か ら は ぐ ん と 遠 の い た 。 あ の 白 亜 の 殿 堂 の 社 長 室 に 執 事 は い る の だ ろ う か 。 本 社 内 の も っ た い ぶ っ た 雰 囲 気 か ら み て 、 私 は ま だ い る と 見 て い る 。 ビ ト ロ は ガ ラ ス に 特 化 す る 企 業 グ ル ー プ で 工 場 敷 地 内 に あ る 創 業 当 時 の 建 物 を 生 か し ガ ラ ス 博 物 館 を 開 設 し て い る 。 そ の 傍 ら に 社 長 室 の あ っ た 事 務 所 ビ ル は 今 も 残 っ て い る 。 本 当 に あ の ビ ル に 美 術 館 風 の 回 廊 が あ り 執 事 が い た の だ ろ う か 。 殺 風 景 な 外 観 か ら は 想 像 も で き な い 話 で あ る 。 ( ほ し の た え こ / ア ジ ア 経 済 研 究 所 地 域 研 究 セ ン タ ー )