Title
ハワイの農業
Author(s)
外間, 数男
Citation
沖縄農業, 34(1): 59-65
Issue Date
1999-12
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/1437
Rights
沖縄農業研究会
ハワイの農業
外間数男
(沖縄県病害虫防除所)
KazuoHokama:AgricultureinHawaii.
ハワイは自然条件や社会・経済的条件など沖縄県と 共通する点が多い.しかし農業の展開過程はかなり異 なる.ハワイ農業は1970年代以降大きな転換期を迎え, 1990年代にはハワイ農業の象徴であったサトウキビと パイナップルの栽培は大幅に縮小せざるをえなかっ た.プランテーション経営の隆盛期である1969年と終 焉に向かいつつある1998年に当地に滞在し,ハワイ農 業を見聞し農業関連資料を入手する機会があり,過去 と現在におけるハワイ農業の動向を探ってみた. ハワイ諸島に人々が住み着いたのは,紀元500年か ら800年頃にかけてマルケサス諸島から移動してきた ポリネシア人が最初であると考古学的に明らかにされ てきたその後,1,100年から1,300年頃にかけてソエ シテ諸島やタヒチ諸島の中央ポリネシア人が数度にわ たり上陸し,先住のマルケサス人を追いやりながら定 住地を拡大していったと考えられている.クックが来 航した頃に,約20万人がハワイ諸島に住み,ポリネシ アでは人口の多い地域であった5鋤. ハワイが歴史上の記録に登場するのは,1778年のイ ギリスの探検家ジェームス・クックがハワイ諸島に初 来航してからである.クックが来航した頃のハワイは, 強力な族長の下に身分制度の明確な社会組織を形づく っていた.族長の権限は強力で,人身供犠や平民の絶 対服従など,社会のシステムはトンガやタヒチとほぼ 類似したものであった.族長制度が強固であった頃の ハワイは,4局に本拠地をおく族長によって分割支配 されていたしかし1795年からハワイ島を本拠地とす るカメハメハが全島の統一に動き始め,1810年には全 島支配を確立し,ハワイ初の統一王朝が築かれたそ の後1840年には立憲君主制が成立した5.帥. 1.ハワイの自然と歴史 ハワイ州は北緯28度,西経178度から北緯19度,西 経154度の間の約2,575kmに伸びる海底山脈上に点在す る130の島じまから構成されている.人々が居住し経 済活動の中心は東南端にあるハワイ諸島である. ハワイ州の面積は16,641平方kmで,沖縄の2,266平方 kmに比べてほぼ7倍の大きさで,人口は約116万人 (1992)である.気候は年間を通じて温暖で,最も寒 い2月の平均気温は22.2℃,暑い8月と9月の平均気温 は23.8℃でほとんど差がない.また降水量は地域によ って異なり,ホノルルの平野部では年間584.4mにす ぎないが,山間部では4,699mにも達する.常時貿易 風が7.6m/s吹いているため涼しく,過ごしやすい. ハワイ諸島は太平洋盤状移動によって1年に5-8 cmづつ北西に移動しつつある.地質学的には極めて新 しく,中新世から洪積世の頃(200万年-2.500万年前) に現在の形になったと推測されている. 2.ハワイ農業の歴史的展開 1789年にはアメリカ船がハワイに初来航し,その後 次々と大陸からの渡来者が多くなるにつれて,ハワイ 王朝内部でも社会・経済的な変革に迫られていった. 古代のハワイには土地所有制度がなく,共同生活区域60 沖縄農業第34巻第1号(1999) 内での自給自足的な経済が営まれていたにすぎない. しかし1840年から1850年にかけての一連の土地制度改 革は土地私有制度の導入に道を開くものであった 1848年に制定された土地法(マヘレ法)は,ハワイの すべての土地が王と族長の間に分配され,さらに王領 地の大半がハワイ政府の官有地となった.最終的には 王領地が23.8%,宮領地が37%,族長領地の39.2%に 分割された.しかし1850年には一般庶民の土地私有化 (クレアナ法制定)と外国人の土地私有が認められる と,土地の大部分が外国人の手に渡り,1862年までに はハワイの75%が外国人の所有地となってしまった 5) 土地の私有制度の導入に伴い,外国人の土地取得力: 大規模になるにつれて,ハワイ人の生活基盤は失われ ていった.また対外債務を抱えていたハワイ政府は土 地の売却を通して歳入を補填したため,王領地や官有 地も大規模に売られていったここにプランテーショ ンの基盤が築かれることになった5). サトウキビは1825年にオアフ島で栽培され,1835年 にはカウワイ島に初の製糖工場が設立された.1850年 代には太平洋地域における捕鯨の衰退,南北戦争によ る砂糖の高騰などを契機として砂糖産業が本格化して いった.またパイナップルは1822年にジャマイカから 移植されて栽培が始まったが,サトウキビと競合する ことなく,ハワイ農業に融合されていった.1901年に はハワイアン・パイナップル社(ドール社)が設立さ れ,1903年に缶詰製造が開始され,パイナップル缶詰 の大量生産の基礎が築かれた.1910年代には砂糖に次 ぐ重要な産業として位置づけられた1930年代には世 界のパイナップル缶詰の大半をハワイ産で占めること になった5). しかし1960年代になると,賃金の高騰と経営規模の 拡大が必然的になると海外へ操業の拠点が移っていっ た.1980年代に入るとハワイのパイナップル産業は急 速に役割を失い,1982年にはデルモント社が缶詰工場 を閉鎖し,ドーノレ社も缶詰生産を縮小し,生果用に切 り替えていったい. 1974年には世界的な砂糖価格の高騰を受けて,35年 ぶりにハワイの砂糖産業は好景気を記録したが,これ を最後に砂糖価格は下降しつづけ,また供給の過剰と ともに「砂糖法」が失効したことで,サトウキビ産業 も衰退していった.1993年には109年の歴史を持つハ マクワ・シュガー社が倒産し,ハワイの中心的な役割 を果たした産業の終焉を象徴している5). 3.農業生産の現状 l)農産物の生産状況
ハワイと沖縄の人口および耕地面積を表'に示した.
ハワイの耕地面積は55,685haであるが,沖縄の 44,200haに比べて11,OOOhaほど多い.沖縄の1戸当た り耕地面積はL4haと全国平均よりやや少ないが,ハ ワイのl2haに比べると1/10にすぎない. 表1.ハワイ,沖縄の人ロ及び耕地面積. 項目 ハワイ 沖縄 人口(万人) 総面積(kmz) 耕地面積(ha) 耕地率(%) 農家数 116.9 16,641 55,685 3.3 4,600 128,7 2,266 44,200 19.5 23.730 農家数:ハワイは1,000ドル以上, 沖縄は50万円以上の販売農家.表2.ハワイ,沖縄の農産物の粗生産額(1996).
ロ ロロ 目 ハワイ 沖縄 サトウキビ パイナップル 野菜 果樹 花き類 工芸作物⑪ 畜産物 その他c) 合計 12,972a) 11,510 5,216 3,192 8,337 7,784 7,888 1,659 58,558 16,160 1,218 15,038 2,376 16,235 5,532 36,312 4,042 95,913 鋤百万円(1ドル120円換算). b庄芸作物:ハワイにコーヒー,マカデミア・ナッツ 沖縄に葉たばこ,茶含む. 。)その他:ハワイに飼料作物,豆,沖縄に水稲,甘藷. 麦、豆含む外間:ハワイの農業 61 畜産物を含めた全農産物の粗生産額(表2)をみる と,ハワイは586億円で,沖縄の959億円のほぼ60%程 度である.粗生産額の42%をサトウキビとパイナップ ルが占め,ハワイ農業の基幹作物としての地位は揺る ぎないものであるが,花き類とコーヒーやマカデミ ア・ナッツなどの工芸作物,畜産物が徐々に増加の傾 向を示している(図1).生産額はいずれも13%であ るが,サトウキビとパイナップルに匹敵する品目にな りつつある.これに対し沖縄は畜産物が38%近くを占 め,次いで花き類が17%,サトウキビと野菜類がそれ ぞれ16%となっている.沖縄では1986年に野菜と花き の生産額がサトウキビとパイナップルを上回った. の1/100に減少し,パイナップルも半分近くに減って いる.農家数からも,ハワイ農業がサトウキビとパイ ナップルから脱却しつつあることがわかる. 表3.主要作物別農家数. ロ叩 1971 1981 1996 サトウキビ メバイナップル 野菜・ロン 果樹。) コーヒー マカデミア・ナッッ タロイモ 花き類 合計 612 36 419 419 750 295 128 450 3,109 320 18 583 657 625 465 123 680 3,471 700000007 2%叫兄侃旧⑩、 ブ フ ー 4 。)パイナップルを除く. 3)地域別農業の特徴 ハワイの地域別農業の特徴を特化係数で表すと表4 の通りである.ハワイ島の粗生産額は14.2千万ドルで, その割合は花き類が24.5%,果樹が14.5%,野菜類が 11.3%,肉用牛が5.2%となっている.特化係数でみる と,果樹が2.69と最も高く,次いで肉用牛が2.18,コ ーヒー1.77の順となっている.カウアイ島の粗生産額 は6.6千万ドルで,サトウキビが58.8%を占め,次いで コーヒーが15.1%,穀類が14.3%となっている.特化 係数は穀類が5.21と最も高く,次いでタロイモの3.89, コーヒーの3.52の順となっている.マウイ島は12.4千 万ドルで,サトウキビが46.2%,パイナップルが 21.9%を占めている.特化係数はサトウキビが2.09と 高いが,その他の作物はいずれも低い.オアフ島は 15.7千万ドルで,パイナップルが43.9%,花き類が 16.1%,牛乳の12.2%の順になっている.特化係数は 鶏卵が2.34と高く,次いでパイナップルが2.24,牛乳 2.07の順となっている. ハワイ島は果樹,肉牛用,コーヒーを中心とした農 業であり,カウアイ島は穀類とタロイモ,コーヒー, マウイ島はサトウキビ,オアフ島は鶏卵とパイナップ ルが代表的な農産物であるということができる.
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30 25 n■エ 20 △「v{、、‐LⅢ 15 JLロー■ 10 少□匠 O:イブートウゴニこぎ □:’<イナーップノレ 。:そこDfuユ醒遇雇窒4幻 万80859095 年度 図1.サトウキビ、パイナップル、その他農作物の粗生産額の推移. 2)農家数 作物別の農家数を表3に示したが,野菜と果樹でほ ぼ半分近くを占め,マカデミア・ナッツと花き類がそ れぞれ17%を占めている.1971年に比べて農家数はほ ぼ1.3倍に増加しているが,増加分は野菜,果樹が占 めている.これに対しサトウキビ栽培農家数は1971年 4)主要作物の生産状況62 沖縄農業第34巻第1号(1999) ある.1971年の1.8億ドルに比べて2倍以上増加した. しかし1981年に比較すると生産額の伸びは緩慢で,15 年間5%増加したにすぎない.今後,品目の開発や移 出を含め国外出荷を考えなければ生産の拡大は望めな い. 5)サトウキビとパイナップルの生産状況 表6.主要作物の生産量. 表4.主要品目の地域別特化係数。). ロ叩 目ハワイカウアイマウイオアフ サトウキビ パイナップル 野菜・メロン 采樹b) コーヒー タロイモ 花き類 穀類 牛 鶏 牛乳 卵 6038291163 6 06582150 ●●●●●●●● 2 00330501 9233173973 0111074899 ●●●●●●B●●● 2110000000 0200 047100脚狙い”、弧3293 100022 005 0 1.37 2.69 1.77 0.81 1.72 0.02 218 0.25 1.21 0.80 品目 197119811996 サトウキビ(1,000t) パイナップル(1,000t) 野菜・メロン(t) 果樹・) (() コーヒー(t) マカデミアナッツ(t) タロイモ(t) 10,685 942 22,706 14,219 1,329 6,554 4,010 8,831 636 33,262 36,388 1,016 15,132 2,767 3,544 347 41,922 33,684 2,903 25,628 2,586 地域の品目別粗生産額/地域の農業粗生産額合計 o)特化係数= 州の品目別粗生産額/州の農業粗生産額合計 b)パイナップルを除く 表5.主要作物の栽培面積ha(1996). 。)パイナップルを除く. ロ叩 目 197119811996 表7.主要作物の生産額(千ドル). サトウキビ パイナップル 野菜・メロン 果樹`) コーヒー マカデミア・ナッツ 花き類 その他b) 合計 94,009 24,645 1,174 1,335 1,376 3,723 87,453 16,592 1,700 2,185 728 5,544 27,842 8,094 2,509 2,873 2,590 8,175 1,030 2,572 55,685 ロ叩 目 197118911996 サトウキビ パイナップル 野菜・メロン 采樹。リ コーヒー マカデミアナッツ タロイモ 穀物 花き類 合計 115,800 40,300 7,131 3,847 1,014 3,569 787 1,527 4,484 178,459 207,400 89,745 21,669 15,429 4,480 26,454 1,305 5,017 29,599 401,098 108,100 95,914 40,672 26,603 20,800 44,070 2,793 13,821 69,475 422,248 1,659 127,921 3,237 117,439 ゛)パイナップルを除く. n1971年,1981年に花き・その他作物含む. ハワイの主要作物の栽培面積は表5に示すように, 全耕地面積55.685haの50%をサトウキビで占め,パイ ナップルとマカデミア・ナッツがそれぞれ15%となっ ている.しかし1971年の12.7万haに比べると栽培面積 は43%に減少した.減少の殆どをサトウキビとパイナ ップルで占め,1971に比べて1/3に減少した.これに 対し,野菜や果樹,マカデミア・ナッツ,コーヒーな どは増加が著しく,ほぼ2倍に増加した. 生産量を表6に示した.1996年のサトウキビの生産 量は354万トン,パイナップルは35万トンであるが, いずれも1971年の30%にすぎない.これに対し,野菜 が4.2万トン,果樹3.4万トン,コーヒー3千万トンと ほぼ2倍に増加し,マカデミア・ナッツは2.5万トンと 4倍近くに増加した. 1996年の粗生産額は表7に示すように,4.2億ドルで 。)パイナップルを除く. サトウキビとパイナップルの生産状況を表8に示し たサトウキビはハワイの代表的作物であり,1995年 までは各島で栽培されていたが,現在,カウアイ島と マウイ島以外では栽培されていない.栽培面積は2.7 万haで生産量は354万トンとなっている.またパイナ ップルは現在,マウイ島とオアフ島以外では栽培面積 が少なく,面積は8.O94ha,生産量は35万トンとなっ ている. 1977年から1996年までのサトウキビとパイナップル の生産額の推移を図1に示した.サトウキビは1980年 をピークに減少傾向を示し,パイナップルも1983年以 降横ばいの傾向が続いている.これに対し,その他作 物は徐々に増加していることが分かる.
63 外間:ハワイの農業 表10.野菜の栽培面積と生産量・額,農家数(1996年) 表8.サトウキビおよびパイナップルの地鰯リ面積と生産量(1996). 栽培面積生産量生産額 hat(千ドル) パイナップル 種類 サトウキビ 地域 面積ha生産量千t而稲ha生産量千t サヤインゲン ハクサイ キャベツ セルリー スイートコーン キュウリ ダイコン ナス レタス タマネギ 葉タマネギ ピーマン ロマニエ イタリアカポチャ サツマイモ タロイモ トマト スイカ クレソン ショウガ その他野菜 合計 6362577007591846574888 m⑱羽匁⑩、⑬刃閖夘団n万別旧犯n万栢加⑱刃 I2374a4 o? ▽9 9 ▽979 36 21 1 4 4094041950683603020082 卯別切羽、叱叫叫刀沁訓刈価羽加刃刀、M防釧印 I2 9? 2 211 997 12321750 70799▽99 4 5692223835731235384179 6652661278797311101850 12 111 1213 25 9 2 ハワイ島 カウアイ島 マウイ島 オアフ島 計 00“犯叫 730 348 O O l95 152 347 81 1,353 1,702 408 3,544 0 10,724 17,118 0 27,842 表9.果樹の栽培面積と生産量・額,農家数(1996). 生産額農家数 (千ドル) 唯産量 (t) 栽培面積 (ha) 種類 バンジロー バパイヤ バナナ アポガド ライム マンゴー ランプータン レイシ その他・) 合計 2,331 17,054 5,200 214 124 143 239 327 971 26,603 140 281 170 90 52 65 45 55 142 1,040 2124802403 刀柘夘旧343277 28 1 2 7,394 18,961 5,897 ]81 134 84 27 85 911 33,684 、)その他:タンゼリン,チェリモア,スターフルーツなど. 表11.花き類の生産額(1996). 6)果樹類の生産状況 果樹類の生産状況については表9に示した栽培面 積は2,873haであるが,栽培面積の50%をパパイヤ. 17%をバナナが占めている.生産額は2.6千万ドルで あるが,64%はパパイヤ,20%近くをバナナが占め, 両品目で80%以上にも達し,果樹生産がパパイヤとバ ナナに偏重していることがわかる. 7)野菜の生産状況 野菜の生産状況を表10に示した.栽培面積は 2,509haであるが,最も面積の多いスイカで308ha,キ ャベツは259haと多品目生産がうかがわれる.生産額 は4千万ドルで,ショウガが7百万ドル,トマト3.7百 万ドル,スイカが2.8百万ドル,タロイモが2.7百万ド ルとなっている. 生産額(千ドル) 種類 アンスリウム ストレリチア カーネーション キク ジンシャー類 へリコニア プロテア ラン類 観葉植物 鉢もの その他 合計 7,060 554 560 479 1,072 476 1,233 20,695 16,864 16,812 3,670 69,475 花き類の80%近くを占めている. 地域別生産状況は表12に示すように,ハワイ島が 34千万ドルで花き生産総額の50%近くを占め,次い でオアフ島の2.5千万ドル36.4%となり,両地域で90% 近くの生産額を上げている. 8)花き類の生産状況 花き類の生産額は表11に示すように,6.9千万ドル であるが,30%近くをラン類が占め,次いで観葉植物 と鉢ものがそれぞれ24%を占めている.この3品目で
64 沖縄農業第34巻第1号(1999) 表12.花き類の地域別生産額と面積(1996年). 額を上回り,基地依存の体質が続いていた1959年に ハワイ州になると,公共施設や港湾,空港,道路など の社会資本の整備が急速に進むにつれて観光産業が伸 びてきた1967年には観光産業がサトウキビとパイナ ップルの生産額を上回り,1972年以降になるとハワイ 最大の産業となってきた5.町. 1971年頃から,日本の海外投資先としてハワイが注 目を集め,ホテルやゴルフ場の買収・建設が行われ, オフィスビルやショッピングピル,レストラン,マン ションなどの不動産投資に「ジャパン・マネー」が使 われた.しかし1980年代後半になるとバブル経済の崩 壊により,ハワイへの投資も縮小または撤退せざるを えなくなってきた.1991年頃には日本からの観光客数 も減少し,ハワイ経済の減速に拍車がかかってきた5). 観光産業の隆盛とともにリゾート開発が各地で計画 され,ゴルフ場やレジャー施設の開発に伴うトラブル が各地で出てきた1988年には業者がカウアイ郡の開 発計画委員会に農用地のゴルフ場転用を申請し,郡委 員会はそれを許可した.転用計画の反対を呼び掛けて いた地元民は許可の取り消しを求めて州地裁に提訴, 州最高裁に上告した.しかし最高裁は地元民の主張を 退けることとなった.州の農用地の保護を目的として 設けられた州土地規制法は農業外開発に道が開かれた ことによりその意義が半減し,州産業のウエイトを農 業から観光業に置き換える契機を与えることとなった い 地域生産額(千ドル)%栽培面稿ha% ハワイ カウアイ マウイ オアフ 合計 34,724 1,977 7,521 25,253 69,475 49.9 2.9 10.8 36.4 549 47 196 238 1,030 53.3 4.6 19.0 231 4.土地利用 ハワイ州憲法には,農用地の保護と多様な農業の促 進,農業の持久性を高め,有用農地の確保に努めるこ とが調われている.1963年に設立された土地利用委員 会(ⅢC)は土地利用の規制を目的としていた.土地利 用規制が強化されている背景には,過去のハワイにお ける土地所有制度の特殊性が挙げられる.ハワイの族 長統治時代には土地所有の概念がなく,王の支配する ものであったし,過去にサトウキビとパイナップルの 大規模農園が数名の地主に所有され,経済が支配され るという苦い経験をもっている4). 土地利用委員会は土地利用地域として市街化地域, 田園地域,農業地域及び保全地域に分け,その基本理 念として,すべての土地を最適用途に供することとし ている.州の面積は16,641平方kmであり,そのうち 47.7%は保全地域(森林等),47.7%が農業地域となり, 4.3%が市街地となっている.95.7%は農業地域および 保全地域となっており,その使途変更と開発には多大 な時間を浪費し,承認も厳しいものがある.そのため 市街化地域の再開発に力を注ぐ結果となっている7). 1980年代後半に州の土地評価及び用地評価委員は約 49万haは農業地域として重要でないとしている7).ま たサトウキビ跡地の一部は野菜やコーヒーなどの栽培 に利用されているが,殆どは今だ放置された状態とな っている.今後,跡地利用をいかに進めるかが課題と 思われる. 5.観光と農業 ハワイの産業としてサトウキビとパイナップルは重 要な地位を占めているが,1941年から1971年までは連 邦政府からの拠出金がサトウキビとパイナップル生産 6.ハワイ農業の将来 ハワイの個人所得は1995年に23,001ドルに達し,全 米平均より約9%多く,ランクは10位に位置する.全 米平均より所得の高い理由として観光業を含めた関連 産業が大きな役割を果たしていると指摘されている 27勘 サトウキビ産業'よ連邦政府からの補助や価格の高 騰,コスト削減と収穫増などの顕著な技術開発などが なければ生産は維持できないと言われる.オアフ島の サトウキビ栽培は工場閉鎖に伴い消滅し,パイナップ
65 外間:ハワイの農業 ルも青果用のみで生産の大幅増加は望めない.また野 菜,花き類の生産は増加の傾向にあるが,地元の市場 は小さく,移出を考えなければならない.地元の需要 を満たすに必要な栽培面積は約800haもあれば十分と 言われる7). サトウキビやパイナップルの跡地を農耕地として効 果的に利用するには移出を含めた海外市場向けの生産 を考える必要がある.マカデミア・ナッツやパパイヤ, コーヒー,花き類などはそのよい例であり,品目の開 発と競争力のある生産体制の整備が今後必要となる. 市場性と競争力のある農産物の生産が遅々と進まない のは土地不足が理由ではない.市場性と競争力のある 農産物が少ないことである7). ハワイの個人所得を全米平均以上に維持し,荒れ地 になっているサトウキビ跡地を有効に活用するために も農業生産の興隆が求められ,その果たす役割は大き いと思われる.また表13に示すように果樹と野菜の 州内市場における占有率は,果樹で46.4%,野菜は 31.9%と半分にも満たない.州内の自給率を高めるこ とも今後必要と思われる. 引用文献 1.BankofHawaiil969・Annualeconomlcrevlew, BankofHawaii,Hawaii, 2.合衆国商務省センサス局編・鳥居泰彦監訳1997. 現代アメリカデータ総覧1996.原書房. 3.Hawaiiagriculturalstatisticsservice1998. StatisticsofHawaiiagruculturel996. 4.丸田隆1995.ハワイ州におけるゴルフ場開発と 開発規制一マラマ・マハエルプ事件を中心に-. 甲南大学総合研究所「アメリカの社会と文化一移 民社会ハワイの構造分析」6腓81,甲南大学. 5.中嶋弓子1993.ハワイ・さまよえる楽園.東京書 籍. 6.沖縄県農林水産部1998.農業関係統計沖縄県 7.ロス,R・編,畑博行・紺谷浩司訳1995.ハワ イー楽園の代償一.有信堂. 8.島袋栄一1998.ハワイ経済概要L産業総合研究 調査報告書第6号:沖縄国際大学産業総合研究 所. 9.植木武・服部研二訳1989.ピーターベルウッド 「太平洋」法政大学出版局. 10.山中速人1997.ハワイ,岩波書店. 表13.市場におけるハワイ産業果樹及び野菜の占有率. 種類市場取扱量ハワイ産量占有率 果樹 野菜 39,111 33,623 46.4 31.9 84,335 105,308 最近「ハワイアン・ルネッサンス」先住民族の復興 が叫ばれ,ハワイアンの文化,芸術,宗教など広範囲 にわたり意識の覚醒が行われている.先住民族の生活 の基盤であった文化と農業を伝えるためにタロイモの 栽培が見直されてきたタロイモの栽培を通して先住 民の高度な農耕技術と神聖な食物としての文化的意義 を理解し,太平洋先住民社会における共通文化の認識 に役立っている.またタロイモ以外にも先住民の食料 は多岐にわたり,その価値を見直すことで,文化的独 自性が確立され,ハワイの農業振興と観光開発に寄与 することも可能と思われる'1).