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障害の有無による絵画の好意性の差異

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Academic year: 2021

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(1)Title. 障害の有無による絵画の好意性の差異. Author(s). 松倉, 泰介; 李, 知恩. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 68(1): 253-259. Issue Date. 2017-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9560. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第₁号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68, No.1. 平 成 29 年 ₈ 月 August, 2017. 障害の有無による絵画の好意性の差異 松倉 泰介・李 知恩* 北海道教育大学大学院教育学研究科 *. 北海道教育大学札幌校デザイン研究室. Difference in Likeability of Works Based on Perception of Artists’ Disability MATSUKURA Taisuke and LEE Jieun* Graduate School of Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education *. Department of Art Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本稿は「障害者が描いた絵画」について,人々はどのような評価をするのかという障害者に 対する健常(健全)者の態度の研究である。先行文献から,従来の障害者に対する態度の構造 と比較,検討をするため「障害者が描いた絵画」という情報を伝えていない群(Ⅰ群)と伝え た群(Ⅱ群)に分け,調査を行った。その結果,調査1では作者の推定年齢について,Ⅱ群で 顕在的な社会性といわれる「良い」態度が生起され,それを要因とする矛盾した予測が明らか となった。 栗田・楠見(2012)によれば,障害者に対する「能力が低い」と「人柄があたたかい」とい うステレオタイプが,潜在的にも顕在的にも保持されるとの主張がある。これについて,調査 2では,Ⅱ群で障害者に対するポジティブな人柄ステレオタイプである「暖かい」が確認され ている。また,6点の絵画の評価についても「障害者が描いた絵画」という情報に対し,技術 的にも能力的にも好意的な評価をしている。以上のことから「障害者が描いた絵画」という情 報に対し,人々は作品をそのまま評価するのではなく,従来の障害者に対する態度と同様の「能 力が低い」というネガティブな態度により,基準を下げて評価をする傾向があるものと言える。. 1.はじめに. 的配慮」にあるとし「社会のなかで,障害のない 人も障害のある人も,誰もが排除されずに平等に. 2006年12月「障害者の権利に関する条約」が国. 参加できるように,障害者の状況に応じて,社会. 連で採択された。これを受け,わが国でも国内法. の仕組みをつくることである」と述べている。. の整備を経て2014年1月,同条約に批准している。. しかし,誰もが排除されない社会の仕組みをつ. 保坂(2016)は,条約の最大のポイントを「合理. くることは,容易ではない。なぜなら,社会及び. 253.

(3) 松倉 泰介・李 知恩. 健常(健全)者(以下,健常者)がその仕組みを. 18点を用意した。そこから,A大学美術教育分野. 自ら選択し,構築へ向けた主体的な行動を一人一. に在籍する学生4名(男子2名,女子2名,平均. 人に求めるからである。. 年齢21.7歳,標準偏差0.95)により調査で用いる. 川間(1996)は,障害のある人々に対する態度. 絵画の精選を行った。その際,選択の条件として. または態度に影響する諸要因について,複数の研. 「1生徒=1作品とすること」「抽象的な作品よ. 究を概観する中で「障害をもつ人との接触経験が. り具象的な作品を優先すること」とした。抽象的. ある人の方がその態度が好意的になるとの結論を. な作品を避けた理由としては,抽象的なイメージ. 得ている研究が圧倒的に多い」としている。一方. が曖昧な評価になりやすいと判断したためである。. で,表向きの態度(言語化された態度)は好意的. しかし,実際には作品の多様性という観点から1. であり障害のある人々のことを理解しているよう. 点を採用することにした。さらに,アメリカの美. でも,感情的な部分(非言語の態度)もまた内在. 術教育学者ローウェンフェルド(V.Lowenfeld). しており「社会の一人一人がこの矛盾に気づき,. 等の研究に基づく,子どもの描画にもある「なぐ. 両者が一致することが障害をもつ人に対する望ま. りがき(スクリブル)」の特徴に類似する作品を. しい態度である」としている。. 除いている。理由は,抽象的な作品の判断と同様. 障害のある人に対する態度の研究は,他にも生. である。. 川・梅谷・前川(2006)や栗田・楠見(2012)等. 最終的に,以下の6点の絵画を調査に用いる作. に詳しい。しかし,障害のある人の表現(本稿で. 品として採用するに至った(図1)。. は,描かれた絵画)についての鑑賞者の態度(評 価)も,同じように捉えることができるのだろう か。 加茂川・有川(2015)は「特別支援学校に在籍 する生徒の作品」という作者の情報を,提示した 群と提示しなかった群とに分け評価に与える影響 を「作品の魅力」「色彩」「非好印象さ」の尺度で. 作品A. 作品B. 作品C. 作品D. 作品E. 作品F. 検証している。その結果,「作品の魅力」と「非 好印象さ」に有意差があり「特別支援学校に在籍 する生徒の作品」という事前の情報を提示された 群が, 情報を提示されない群より「魅力的」で「好 印象」だと評価していた。 そこで本稿は, 「障害者が描いた絵画」という. 図1.調査に用いた絵画. 情報が鑑賞者の態度(評価)に差異を生起させる ものか明らかにしたい。また,評価の好意性に焦 点を当て,調査結果と先行文献とを比較し態度の 構造について検討をする。. 3.質問紙の作成 作品の評価については,絵画鑑賞における様々 な感情を形容詞によって表すSemantic Differential. 2.調査に用いる作品. 法(以下SD法)を用いた。その際,市原(1968) の指摘にある「評定される対象が異なれば,抽出. 2016年5月,A大学附属特別支援学校高等部に. される因子は必ずしも一定ではない」に従い絵画. 在籍する(一部,同年4月に卒業)生徒9名が描. 鑑賞に伴う感情の因子を探るべく,先行文献を基. いた作品を,保護者及び本人の同意のもと借用し. にした形容詞対の抽出から始めた。. 254.

(4) 障害の有無による絵画の好意性の差異. 前述のように,調査に用いられる絵画は具象的. 採択された7本の文献から,用いられる形容詞. な作品と抽象的な作品が混在している。背景に模. 対が重複している頻度,回数の多いものを順に選. 様のような色面のある作品や形が崩れているよう. ぶことにした。次に,同じ形容詞対でも対となる. に見える作品,偶然に表出されたような作品等,. 形容詞が異なるものについてその整理をした。さ. 様々である。そこで,先行文献にはSD法を用い. らに,好意性の具体を把握するため「好き-嫌い」. て絵画作品を評価したものに限らず,色彩や配色,. だけではなく「色が好き-色が嫌い」「線が好き. 工業デザインや児童画といった多分野に及ぶ印象. -線が嫌い」を加えることにし,まず72の形容詞. 評価も含め14本の文献から選ぶことにした。さら. 対を抽出し,これらを用いた両極尺度による7件. に,それらの先行文献から評定尺度として用いら. 法の質問紙を作成した。. れた形容詞対について,その形容詞を採用するに. ここで,絵画を選んだA大学美術教育分野に在. 至る出典及び経緯が明示されていることを条件と. 籍する学生4名により,A~Fの6点の絵画を用. し最終的に7本の文献の形容詞対を用いることに. いた予備調査を行った。そして,調査後の反応か. した(表1) 。. ら「どちらでもない」という回答が20%を超えて いる20項目の形容詞対について,これらを採用し. 表1.採択された論文と使用された形容詞 論文タイトル. 絵画鑑賞の 心理学的分析Ⅰ. 形容詞 ・明るい・古い・かたい・単純な・たのしい ・感情的・不健康な・男性的・つまらない ・美しい・するどい・静的・強い・ゆるんだ ・陰気な・地味な・子供的・興奮的・表面的 ・神経質な・安定した・重い・好き・冷たい ・まとまった・平凡な・色が好き・線が好き ・題材が好き・作者が好き. ・良い・好きな・美しい・潤いのある・自然な ・広がりのある・安全な・安定した・澄んだ 絵画鑑賞における ・暖かい・騒がしい・動的な・派手な・強い 芸術性評価要素に関 ・荒い・くどい・軽い・明るい・陽気な する心理学的分析 ・新しい・ゆるんだ・鋭い・ぼんやりした ・柔らかい セ マ ン テ ィ ッ ク・ ディファレンシャル 法を用いた共感覚性 の研究 ―因子構造と 因子得点の比較―. ・個性的・男性的・動的・明るい・暖かい ・派手な・深みのある・まとまった・重い ・感情的・力強い・鮮やかな・安定・複雑な ・やわらかい・大胆な・にぎやかな・鋭い ・好き・むずかしい・おもしろい・美しい ・芸術的. ないことにした。次に「やや〜」という回答が 語数. れを採用しないことにし46からなる形容詞対を評 30. 採用しなかった形容詞(26) 24. 23. 20. ・感じが良い・好き・粋な・調和・きれいな 色彩感情の ・さっぱりした・融け合った・明るい・陽気な 分析的研究 ・派手な・強い・柔らかい・暖かい・軽い ―2色配色の場合― ・若々しい・鋭い・はっきりした・澄んだ ・動的な. 20. ・新鮮・単純・温かい・重量感・なめらか ・ほっそり・がっしり・直線的・尖った ・美しい・好き・上品・豪華・清けつ・調和 ・安定・親しみ易い・安全・握り易い ・使い易い. ・おもしろい・黒っぽい・さびしい 円をユニットとする ・白が模様にみえる・流れを感じる パターンの印象 ・まとまった・目がちかちかする ・正円にみえる・しま模様の (第1報) ・白地に対し黒円がおさまっている. 定尺度とした質問紙を作成した(表2)。 表2.採用しなかった形容詞と採用した形容詞対. ・明るい・鮮やかな・暖かい・鋭い・軽快な 児童の描画に対する ・硬い・力強い・安心な・活気のある・動的な 評価の観点について ・単調な・開放的な・落ち着きのある の研究Ⅰ ・意図的な・感情的な・曖昧な・わかりやすい ・好きな・良い・面白い. デザインに対する 感情反応の SD法による分析. 70%を超えている6項目の形容詞対について,こ. ・鋭い(するどい)・重い(重厚な)・硬い(かたい)・古い・調和 ・安全な・神経質な・くどい・自然な・豪華・清けつ・上品・粋な ・若々しい・黒っぽい・重量感・開放的な・作者が好き ・握り易い・使いやすい・題材が好き・縞模様の・流れを感じる ・正円にみえる・白い模様に見える ・白地に対し黒円がおさまっている 質問紙に採用した形容詞対(46) 好き-嫌い,暖かい-冷たい,明るい-暗い,美しい-みにくい, 動的-静的,強い(力強い)-弱い(弱々しい),複雑な-単純な(単調な), 安定した-不安定な,おもしろい-つまらない,たのしい-さびしい, 感情的-理知的,良い(感じが良い)-悪い,陽気な-陰気な, まとまった(融け合った)-ばらばらな,男性的-女性的,ゆるんだ-緊張した, 深みのある-表面的,鮮やかな-地味な,個性的-平凡な,澄んだ-濁った, はっきりした-ぼんやりした,わかりやすい-むずかしい,健康な-不健康な, 子供的-大人的,大胆な-慎重な,やわらかい-かたい,興奮的-鎮静的, がっしり-しなやか,繊細な-荒い,潤いのある-カサカサした, 広がりのある-広がりのない,曲線的-直線的,ふっくら-ほっそり, 丸み-尖った,こってりした-さっぱりした,騒がしい-静かな, 芸術的-芸術的でない,安心な-不安な,明快な-曖昧な, 活気のある-活気のない,落ち着きのある-落ち着きのない, 意図的な-偶発的な,親しみ易い-気のはる,色が好き-色が嫌い, 線が好き-線が嫌い,目がちかちかする-目がちかちかしない. 20. 4.調査方法 10. 調査は2016年7月,A大学の学生を対象に実施 をした。まず,前述のA大学附属特別支援学校の. 255.

(5) 松倉 泰介・李 知恩. 生徒(男性6名,平均年齢16.67歳,標準偏差1.21). 群よりもⅡ群で年齢を高く予想していることが分. が描いた絵画A 〜 Fの6点(図1参照)を準備。. かった(F(1.845)=26.04, p<.01)。. 障害者が描いた絵画であることを事前に伝えな い,そのことを知らない群91名(男性39名,女性 52名,平均年齢19.64歳,標準偏差1.10)と76名(男 性30名, 女性46名,平均年齢19.99歳,標準偏差2.47) をI群,障害者が描いた作品であることを事前に 伝え,彼らの障害特性について15分程度の教示を し た 群84名( 男 性35名, 女 性49名, 平 均 年 齢 19.99歳,標準偏差2.36)と85名(男性32名,女性 53名,平均年齢19.61歳,標準偏差1.15)をⅡ群と した2つの群に対して行った。. 図2.作者の推定年齢の比較(全体). 5.2.調査2(絵画作品の好意性の比較). 5.調査結果. 調査2では,A〜Fの絵画に対する好意性につ. 5. 1.調査1(作者の推定年齢の比較). いて,形容詞を用いた両極尺度によるSD法を実. 調査1はⅠ群とⅡ群について,絵画作品A~F. 施している。記述後の得点には「どちらでもない」. を鑑賞した後,その作者の推定年齢を予想すると. に4点,「非常に嫌い」から「非常に好き」まで. いうものである。推定年齢の平均値に対し,Ⅰ群. 順に1〜7点を与え,算出することにした。この. とⅡ群とで統計的有意差が見られるか1要因参加. 得点を基に,Ⅰ群とⅡ群の平均値を1要因参加者. 者間分散分析を行うことにした(表3)。. 間分散分析した(表4)。 表4.作品の好意性の比較(作品別). 表3.作者の推定年齢の比較 A. B. C. D. E. F. I群. 10.0. 11.8. 12.2. 22.2. 11.8. 15.9. Ⅱ群. 13.3. 15.5. 12.5. 11.7. 13.4. 15.4. A. B. C. D. E. F. I群. 4.34. 4.38. 5.15. 3.87. 5.01. 5.40. Ⅱ群. 4.68. 4.57. 5.47. 4.19. 5.59. 5.94. 結果,作品A(F(1.173)=14.02, p<.01),作品B. その結果,作品A(F(1.173)=4.13, p<.05),作. (F(1.173)=107.01, p<.01),作品E(F(1.159)=5.14,. 品E(F(1.159)=11.88, p<.01),作品F(F(1.159)=. p<.05)の作者について,Ⅰ群よりもⅡ群の推定. 10.02, p<.01)の3つの絵画の評価について,Ⅰ. 年 齢 が 有 意 に 高 か っ た。 そ れ に 対 し, 作 品 D. 群よりⅡ群の得点が有意に高く好意性が増してい. (F(1.159)=33.01, p<.01)についてはⅠ群の推定. る結果であった。また,作品D(F(1.159)=3.11, p. 年齢が有意に高い結果であった。作品Cと作品F. <.10)についてもⅠ群よりⅡ群の得点が有意傾. は,推定年齢に差が見られなかった。. 向であった。作品Bと作品Cの評価には差が見ら. 次に,全ての作品の推定年齢を合わせI群とⅡ. れなかった。. 群での比較をした。その際,作品Dについては天 井効果(平均値に標準偏差を加えた値が,就学年. 5.3.調査2(性差による好意性の比較). 齢の最高値18歳を上回る)が見られることから,. 生川,梅谷,前川(2006)は,知的障害者に対. 作品Dを除いた作者の推定年齢について1要因参. する態度についての文献を概観し「性」 「接触経験」. 加者間分散分析を行った(図2)。その結果,I. 「その他」に分け,各々が態度次元に及ぼしてい. 256.

(6) 障害の有無による絵画の好意性の差異. る影響について論考をしている。その中で, 「性」. 結果,「好き」「暖かい」「美しい」「安定した」. の違いについて書かれた8編の文献から「概して,. 「良い(感じが良い)」 「繊細な」 「落ち着きのある」. 女性の方が男性よりも知的障害者に対して好意的. 「色が好き」 「線が好き」の10の形容詞について,. であるといえるものであった」と述べている。. Ⅰ群よりⅡ群で鑑賞者の評価が高いことが分かっ. そこで,調査2の結果を男子と女子に分け,Ⅰ. た。. 群とⅡ群を1要因参加者間分散分析した(表5)。. では,A〜Fの絵画に対する好意性について, 鑑賞者は何に着目して評価をしていたのだろう. 表5.作品の好意性の比較(男女別). か。Ⅰ~Ⅱ群を含め,高く評価されている形容詞. 全体. 男子. 女子. を分析することで,彼らの作品の好意性からその. I群. 4.69. 4.68. 4.69. 魅力へと迫れるものと考えた。そこで,Ⅰ〜Ⅱ群. Ⅱ群. 5.06. 5.09. 5.06. ともに評価が4.9点以上あった形容詞を以下にま とめる(表7)。. その結果, 全体の評価(F(1.1006)=21.39, p<.01), 男子の評価(F(1.405)=9.19, p<.01),女子の評価. 表7.作品A~Fで評価の高かった形容詞. (F(1.599)=12.17, p<.01)ともに,Ⅰ群よりⅡ群. 尺度. Ⅰ群. Ⅱ群. で有意な差が見られ,好意的に評価している結果. 明るい-暗い. 4.95. 5.19. であったが,男子や女子といった性別による評価. おもしろい-つまらない. 5.06. 5.21. の違いは,本調査では見られなかった。. 良い(感じが良い)-悪い. 5.02. 5.27. 鮮やかな-地味な. 4.99. 5.14. 5. 4.調査2 (形容詞の別に見る好意性の比較). 個性的-平凡な. 5.07. 5.09. 本稿の目的は, 「障害者が描いた絵画」という. 活気のある-活気のない. 4.96. 5.03. 親しみ易い-気のはる. 4.90. 5.04. 情報が鑑賞者の評価に差異を生起させるかを明ら かにすることにある。そこで,調査2の結果から Ⅰ群よりⅡ群で絵画の好意性が有意に高く,0.3. 分析の結果, 「明るい」「おもしろい」「良い(感. 点以上,評価の高かった形容詞を以下にまとめる. じが良い)」「鮮やかな」「個性的」「活気のある」. (表6) 。. 「親しみ易い」の7の形容詞について高く評価さ れ,A〜Fの絵画における鑑賞者の印象として把. 表6.Ⅰ群よりⅡ群で評価が高かった形容詞 尺度. 握をすることができた。. Ⅰ群. Ⅱ群. F値. 好き-嫌い. 4.69. 5.08. 21.39**. 暖かい-冷たい. 4.65. 4.98. 14.26**. 美しい-みにくい. 4.25. 4.65. 21.35**. 調査1の結果では,作者の推定年齢をⅠ群より. 安定した-不安定な. 3.92. 4.28. 13.76**. Ⅱ群で高く予想している。また,調査2ではA〜. 良い(感じが良い)-悪い. 5.02. 5.27. 8.98**. 3.73. 4.15. 19.37**. Fの絵画のうち3点でⅠ群よりⅡ群の評価が高い. 繊細な-荒い 安心な-不安な. 4.07. 4.44. 16.33**. 落ち着きのある-落ち着きのない. 3.80. 4.17. 15.26**. 色が好き-色が嫌い. 4.61. 5.06. 20.60**. 線が好き-線が嫌い. 4.31. 4.70. 21.04**. 6.考 察. 結果であった。一般的に,年齢の上昇と絵画技法 の巧緻性や表現力の伸長は比例するものと考え る。これに倣えば,Ⅰ群よりⅡ群で年齢が高いの だから,鑑賞者の審美眼も年齢に応じて厳しくな るはずである。しかし,鑑賞後の評価は下がらず 逆に上がっている。. 257.

(7) 松倉 泰介・李 知恩. 栗田・楠見(2012)は,障害者に対する態度は. らかにした。また,従来の障害者に対する態度研. 両面価値的であるとし「言語によって明示的に表. 究と同様,調査2では「暖かい」というポジティ. 明される態度」を顕在的態度, 「隠したり気づい. ブな人柄ステレオタイプを確認することができ. ていない態度」を潜在的態度としている。また,. た。そして,能力的ステレオタイプとして「能力. 障害者に対する評価について「顕在的には良い-. が低い」というネガティブな態度により,基準を. 悪いの評価に偏りはないが,潜在的には悪いと評. 下げて評価をする傾向が明らかとなった。. 価される」と述べている。調査1ではⅡ群におい. 本稿の調査は質問紙を活用している以上,従来. て「障害者が描いた絵画」という情報により,顕. の態度研究と同様,顕在的な態度のリスクを包括. 在的態度における正の評価が生起されたものと考. していることは否めない。顕在的なアプローチで. えられる。すなわち,障害者に対する社会的な「良. は,社会的規範意識や自覚可能な態度に対する正. い」態度の表明がなされ,推定年齢が上がり,本. 当性が常に指摘されるであろう。その点からも,. 来は下がるはずの絵画の評価も上がってしまう矛. 今後は鑑賞者の潜在的指標による態度(評価)に. 盾した結果が生じたものと考える。. 迫る必要があるものと考える。. また,栗田・楠見(2012)によれば,障害者に. 栗田・楠見(2012)は,障害者に対する両面価. 対して「能力が低い」と「人柄があたたかい」と. 値的態度から今日の障害者に対する諸問題に触れ. いうステレオタイプが,潜在的レベルにも顕在的. 「複雑化し,曖昧でわかりにくい形態となってい. レベルにも保持されていると主張している。この. るため,それらの様相をとらえ,問題を明確にす. ことについて,調査2の結果から評価された形容. る必要がある」と言及している。潜在的アプロー. 詞に着目をした。まず「人柄があたたかい」とい. チによる研究は,健常者の「隠したり気づいてい. うステレオタイプについて,表6ではⅠ群よりⅡ. ない態度」を明らかにすることから,私たちの側. 群で「暖かい」 「安心な」といった形容詞で評価. から障害者を捉え直すことが可能であるものと考. が高かった。また,表7の形容詞には「明るい」. える。そのことは,「障害者の描いた絵画」とい. 「親しみやすい」といった語が抽出されている。. う情報が評価を左右するのではなく,障害者の表. これらは,本調査における人柄ステレオタイプの. 現を鑑賞者として純粋に楽しめる健常者として,. 根拠となるものと判断される。. より直接的に互いの良好な関係性を享受できるの. 次に, 「能力が低い」というステレオタイプに. ではないかと考える。それこそが,誰もが排除さ. ついてであるが,表6の「美しい」「繊細な」「色. れない社会の構築へ向けた主体的な行動につなが. が好き」 「線が好き」や表7の「鮮やか」「おもし. るものであると考える。. ろい」等は技能面や能力面を評価した形容詞であ るものと判断したい。その上で,前述の調査1の. 文 献. 結果を踏まえれば,これらの評価が高い理由は「障 害者が描いた絵画」に対する鑑賞者の「能力が低 い」というネガティブな態度により,評価基準を 下げた結果であるものと考える。. 保坂展人(2016)『相模原事件とヘイトクライム』岩波書 店 神作順子(1963)「色彩感情の分析的研究―2色配分の場 合―」心理学研究,34,1-10. 出原栄一・小関利紀也・中田隆夫(1966) 「デザインに対. 7.まとめと課題 以上のことから「障害者が描いた絵画」という 情報は,調査1で顕在的な社会性による「良い」 態度を生起させる一方,そのことによる矛盾を明. 258. する感情反応のS.D.法による分析」産業工芸試験所報 告,45,58-74. 天野孝雄・海老原元子・飯田健夫・市原洋右(1967) 「円 をユニットとするパターンの印象(第1報)」デザイン 学研究,6,43-44. 市 原 洋 右(1968)「 絵 画 鑑 賞 の 心 理 学 的 分 析( Ⅰ ) ―.

(8) 障害の有無による絵画の好意性の差異. Semantic Differencial尺度に関する考察」東京都立大学 人文学報,62,113-137. 岡田守弘・井上純(1991)「絵画鑑賞における芸術性評価 要素に関する心理学的研究」横浜国立大学教育紀要, 31,45-66. 大山正・瀧本誓・岩澤秀紀(1993) 「セマンティック・ディ ファレンシャル法を用いた共感覚性の研究―因子構造 と因子得点の比較―」行動計量学,20-2,55-64. 有原穂波・萩生田伸子・小澤基人(2014)「児童の描画に 対する評価の観点についての研究Ⅰ―教員養成系大学 美術専修学生による評価の分析―」埼玉大学紀要, 63-1,31-46. 全日本特殊教育研究連盟(1962)「精神薄弱者に対する意 識」精神薄弱児研究,41,2-28. 伊藤隆二・田川元康(1967)「心身障害児に対する社会人 の態度(偏見)に関する研究」特殊教育学研究,5-1, 1-12. 川間健之介(1996)「障害をもつ人に対する態度―研究の 現状と課題」特殊教育学研究,34-2,59-68. 生川善雄(1998)「わが国における知的障害児(者)に対 する態度研究の現状と課題」特殊教育学研究,35-4, 67-72. 生川善雄・梅谷忠勇・前川久男(2006)「知的障害者に対 する態度に関する文献研究―態度の多次元的研究に焦 点をあてて」千葉大学教育学部研究紀要,54,15-23. 栗田季佳・楠見孝(2012)「障害者に対する両面価値的態 度の構造―能力・人柄に関する潜在的-顕在的ステレオ タイプ」特殊教育学研究,49-5,481-492. 加茂川文・有川宏幸(2015)「障害者アートに対する大学 生の意識について―作者の所属情報の有無が評価に与 える影響―」新潟大学教育学部研究紀要,8,51-58.. (松倉 泰介 札幌校 大学院生) (李 知恩 札幌校 准教授) . 259.

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