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附属幼稚園における母子支援の取り組み : コミュニティの醸成と予防 利用統計を見る

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附属幼稚園における母子支援の取り組み

-コミュニティの醸成と予防-

Maternal and child support in the kindergarten; Community development and prevention 川 本 静 香*

   荻 原 ひろみ**

  大 野   歩***

KAWAMOTO Shizuka  OGIHARA Hiromi   OHNO Ayumi

要約:本稿は,新たな子育て支援の取り組みとして附属幼稚園において実施した「い ちごぐみ」の活動について,コミュニティにおける支援が薄くなってしまう未就園児 とその保護者に対する支援の文脈から報告するとともに,そこから浮かび上がる今日 の子育て支援のあり方について考察を行うものである。今年度の「いちごぐみ」は全 4回実施されたが,そのうち3回に大学で幼児教育学と臨床心理学を専門とする教員 が参与観察し,親子の遊びのなかで立ち話的に育児に関する相談を受けた。そこで語 られた育児不安についてまとめた結果,「育児の負担感」「地域での居場所」「食事の不 安」「発達に対する誤った認識」「感情的な関わり」の5つのカテゴリが抽出された。「い ちごぐみ」は,支援のはざまに落ちてしまう危険のある未就園の時期の親子に対して, あらたな支援コミュニティに醸成されつつあることが示された。 キーワード:幼児期,母子支援,コミュニティ,予防

Ⅰ 問題と目的

1 問題の所在  少子高齢化,終身雇用制度の崩壊,女性の社会進出,グローバリゼーションなど社会の有り様が かつてなく変容している昨今,子育ての有り様もまた変容している。日本では,かねてより乳幼児 期の子育ては家族内で担うものとされ,とりわけ母親がその役割を中心的に担ってきた。今日でも そうした価値観が根強く残る一方で,社会は女性に対して働き手としての役割を期待するようにな り,今や女性は,子育てとキャリアの両立が理想であるという,二重の期待を負わされている。父 親の育児参加の必要性については,社会的にも認知されつつあるが,勤務時間等の関係で乳幼児期 の育児の主な担い手は母親とならざるを得ないことも多い。こうした背景から,母親の育児負担に 対する支援の必要性については,論を俟たない。  母親の育児負担を軽減するための取り組みは,保健所などの行政機関や病院,幼稚園,保育所等 で様々に展開されている。とりわけ保健所等による行政機関での支援は,母子保健の文脈により, 産後うつ予防,虐待防止のための活動が行われている。保健所による母子支援の文脈では家庭訪問 も可能であり,支援につながりにくいハイリスクな母子に対するケアを手厚く行うことができるの が特徴となっている(笠井・河原,008)。  他方で,上記のような保健所等による支援の機会は,子どもが1歳を過ぎると健診の回数が減少 するために,産前と同様の支援をコミュニティの中で受けることが難しくなる。加えてハイリスク * 幼小発達教育講座・教育学部附属教育実践総合センター ** 山梨大学教育学部附属幼稚園 *** 幼小発達教育講座

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ではない多くの母子については,本人が希望しない限り,保健師等の支援者が健診以外で積極的に 介入することも難しく,幼稚園・保育所に入園するまでの間に支援を受ける機会が,限られてしま うという課題がある。  しかし,入園する前の支援のはざまの時期にあるハイリスクではない母子が,何も問題も抱えて いないわけではない。1歳~6歳までの母親の育児感情を調査した山西・渡辺 (2017)は,「専業主 婦の母親では,幼児と一緒に過ごす時間が長いことや社会から離れていることの孤独感から,子育 てを負担に感じやすい傾向にある」と指摘している。また,同調査において,育児に対する否定的 感情が高い母親は,精神的健康度が低いことが明らかになっている(山西・渡辺,2017)。近年では, インターネット等で様々な育児情報が飛び交い,情報の取捨選択もまた難しくなっている。「理想の 子育て」に関する情報にふれる中で,自身の子育てに立ち返ったとき,そのギャップに落ち込み, 不安を感じることもあるだろう。したがって,支援のはざまに落ちやすい時期にある未就園前の母 子に対して,育児負担や不安感を軽減するために,育児等について気軽に相談できるような支援の 場は重要である。  このような子育て環境の現状に対する保育政策が動き始めたのは,平成6年 12 月に厚生省(現: 厚生労働省)や文部省(現:文部科学省)を加えた関係省庁による「今後の子育て支援のための施 策の基本的方向について(エンゼルプラン)」の提起からである。内容においては「家庭における子 育てを支えるため,国,地方公共団体,地域,企業,学校,社会教育施設,児童福祉施設,医療機 関などあらゆる社会の構成メンバーが協力していくシステムを構築する」ことが提言された。この 際,保育所は「地域子育て支援の中心的な機能を果たし,乳児保育,相談指導,子育てサークル支 援等の多様なニーズに対応できるよう」整備すべきであるとされ,保育者に対して子育て支援とい う新たな業務が求められるようになったことは,保育現場に波紋を呼んだ。  続く平成 11 年 12 月に提起された「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について(新 エンゼルプラン)」においては,保育所のみならず幼稚園も子育て支援の一翼を担う場であると明示 され,地域で子どもを育てる教育環境を整備するために地域の幼児教育センターとして機能するこ とが求められるようになった。連動して,平成 10 年告示の幼稚園教育要領には,「子育ての支援のた めに地域の人々に施設や機能を開放して,幼児教育に関する相談に応じるなど,地域の幼児教育の センターとしての役割を果たすよう努めること」とする文言が新たに書き加えられた。  さらに,2015 年4月からは「子ども・子育て支援新制度」が始動し,就学前のすべての子どもた ちを対象とした保育・幼児教育・子育て支援の実践が目指されることとなった。この「子ども・子 育て支新制度」では,「認定こども園」の普及や待機児童の解消とともに,地域における子育て支援 の充実が掲げられており,子育て支援はもはや保育・幼児教育における最重要課題となっている。  翻って,近年の世界的な幼児教育改革の動向においては,家庭との連携にかかわり,単純な子育 て支援の文脈にとどまらず,保育の質の向上のために保育者と家庭が共に子どもの育ちへ目を向け ようという動きが見られている。例えば,ニュージーランドにおいては,「子どもたちは,自分自身 の家族,それらをとりまく地域や社会資源,人的資源との相互作用によって醸成される経験や生活, 遊び,文化を通じて育成,発達していく」という社会文化的理論に基づき,保育者と子どもの家族 (保護者)が「有能な学び手である子ども」の視点に立って子どもを理解していくことが保育の質を 向上させると考えられている。このため,保育施設と家庭がともに子どもの育ちをナラティブな手 法でとらえ,共有していくような実践が行われている(七木田ら,2015)。これら昨今の保育・幼児 教育の動向を鑑みるに家庭との連携や子育て支援という側面からも,社会に開かれた幼稚園の在り 方を検討することが喫緊の課題であるといえよう。

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2 研究の目的  山梨大学教育学部附属教育実践総合センターと山梨大学教育学部附属幼稚園では,こうした課題 を鑑み,未就園児である2歳児とその保護者を対象とした子育て支援の機会(「いちごぐみ」)を新 たに設けた。幼稚園教育要領(平成 10 年 12 月告示)では,幼稚園は「子育ての支援のために地域の 人々に施設や機能を開放して,幼児教育に関する相談に応じるなど,地域の幼児教育のセンターと しての役割を果たすよう努めること」とされており,「いちごぐみ」もこの機能の一端を担うもので ある。  本稿では,新たな子育て支援の取り組みとして実施した活動について,コミュニティにおける支 援が薄くなってしまう未就園児とその保護者に対する支援の文脈から報告するとともに,そこから 浮かび上がる今日の育児不安と支援のあり方について考察を行う。

Ⅱ 方法

1 「いちごぐみ」の概要  「いちごぐみ」は,山梨大学教育学部附属幼稚園への入園希望者を募ることのみならず,未就園児 とその保護者の支援を目的とし,附属幼稚園の見学日という設定のもと実施された。園庭や保育室 で附属幼稚園の教員に加え,ボランティアの大学生,幼児教育学と臨床心理学を専門とする大学教 員2名が参加し,親子で遊びながら,気軽に子育ての相談を同じ立場の保護者同士や専門家に話し たりすることができるようになっている。これは,平成 29 年3月告示の新幼稚園教育要領の中で, 引き続き子育て支援の重要性が言及されると同時に「心理や保健の専門家,地域の子育て経験者等 と連携・協働しながら取り組むよう配慮するものとする」という一文が加わったことを受け,多様 な大人が未就園前の親子にかかわる体制を整備したことによる。 2 「いちごぐみ」の参加者  参加者は附属幼稚園のホームページによって行われた。毎回 35 組の親子を募集し,ほぼ満員での 開催となっている。今年度は全4回の「いちごぐみ」を実施し,139 組の親子が参加した。 3 「いちごぐみ」の日程とプログラム  本年度に開催された「いちごぐみ」の日程とプログラムについては表 1 のとおりである。遊びの内 容は,室内あそびから水遊びまで,毎回主な遊びを設定しつつ,各自が 「 好きな遊び 」 を楽しめるよ うな環境構成がなされた中で実施された。活動時間は1時間と少ないが,遊びにスムーズに入って いくための導入や,親子で遊ぶ時間,おやつ,紙芝居など,未就園児と保護者がリラックスして楽 しめる内容で構成された(表2)。 4 育児不安等に関する相談  幼児教育学と臨床心理学を専門とする教員は,今年度は第2回~4回に参加した。親子の遊びの 時間に参与観察しながら関わり,声掛けを行う中で,立ち話のような形で気軽に育児等に関する相 談をすることができるような関わりを行った。また,その中でじっくり話がしたいという場合には, 大学生のボランティアや附属幼稚園の教員に子どもの様子を見てもらえるような体制をとった。本 稿では,参与観察時に行った観察メモや後日のヒアリングの中から,「いちごぐみ」の中で立ち話的 に話された育児不安に関する相談内容をまとめる。

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表1 日程とプログラム 表2 プログラムの流れ

Ⅲ 結果

 第2回~4回において,幼児教育学と臨床心理学を専門とする教員2名が親子の遊びにまじりな がら,立ち話的に育児相談を受けた。その際のメモや後日のヒアリングから得られた相談内容の データをもとに,参与観察の中での立ち話の中で現れた育児不安についてカテゴリ化したものを表 3に示す。  「いちごぐみ」の中で語られた育児に関する相談内容について,実際に相談を行った教員2名で協 議をおこなった結果,「育児の負担感」「地域での居場所」「食事の不安」「発達に対する誤った認識」 「感情的な関わり」の5つにカテゴリ化することができた。「育児の負担感」については,子育てに よって母親の体力,精神力が削られる大変さが語られた。とりわけ多胎児の育児やイヤイヤ期の対 応の中で疲労感等を感じていることが語られた。「地域での居場所」については,他県からの転入に よって地域での人間関係が希薄な中,育児のことで相談できる居場所のなさが語られた。「食事の不 安」については,好き嫌いや食べ遊び等により子どもが用意したご飯を食べてくれないことに対す るいらだちと不安が語られた。「発達に対する誤った認識」では,2歳児に対して,「じっとしてい

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られない」や「友達と一緒に遊べない」など,本来その発達段階では難しいことを要求し,それが できない子どもについて,理想と現実のギャップによって不安感を抱いていることが示された。「感 情的な関わり」では,子どもが親の言う通りにしないときに,怒鳴ってしまいそうになるなど,感 情的な対応をしてしまいそうになることに対する不安感が語られた。

Ⅳ 考察

1 育児不安の内容  表3にまとめた育児不安の内容について概観すると,2つの側面に整理される。1つ目は,子育 てをする中で感じる疲労感やイライラ,2歳児の特性上生じる食事の問題に関する内容,地域での 居場所のなさ等,先行研究の中でも課題とされてきた幼児期の子育ての中で母親の負担となる内容 である。疲労感や居場所のなさ,幼児期の対応の難しさなどについては,支援者が母親に情緒的 な支持とコミュニケーションを行うことによって,エンパワメントすることが可能である(稲垣, 2018)。また,食事面などの具体的な不安感については,幼稚園の教員や大学教員からのアドバイス 等によって,子どもの育ちに応じた対応方法を提案することもできる。核家族化が進み家族内で子 育ての方法に関する伝達ができなくなったり,祖母世代と母親世代では子育ての方法や考え方が異 なるなかで,現場で日々子どもと向き合っている幼稚園教員や支援者が,母親に共感的に関わった り,方法論的なアドバイスを提供したりすることが,今後ますます求められるものと考えられる。  2つ目は,母親が描く理想の子ども像と現実の子どもの姿のギャップから生じる悩み,という側 面である。表3のカテゴリ内では,「発達に対する誤った認識」の中にまとめられるものである。内 容をみていくと,「じっとしていられない」や「友達と一緒に遊べない」など,個々の発達段階に応 じて獲得していくべきスキルを,画一化された姿として捉え,幼い頃からあるべき姿として求めて 表3 育児相談の概要

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いるために生じる悩みであると考えられる。子どもの育ちは個人差も大きく,何が正解というもの ではない。「発達に対する誤った認識」は,大量の情報に翻弄された母親が理想と現実とのギャップ の間で悩み,感じている育児不安であるように考えられる。こうした悩みに対しては,個別対応に よる支援も重要であるが,母親が子どもの育ちについて適切な情報に触れ,学びを深める機会が必 要であると考えられる。ただし,講義形式による一方的な知識伝達では,母親の価値観や認知を変 容させ,理想と現実のギャップを埋めることは難しい(中谷内,2012)。母親と幼稚園や大学の教員 等が,お互いに対等な立場で子どもついて対話を行うことにより適切な情報と多様な価値観の創出 が促進されるため,ワールドカフェ等の形式によるグループ活動による機会の提供が効果的である と考えられる(中谷内,2012)。 2 「いちごぐみ」におけるコミュニティの醸成と予防  本稿では,未就園児とその保護者を対象とした「いちごぐみ」の取り組みについて報告してきた。 「いちごぐみ」を体験したある母親は「「いちごぐみ」に参加した際に,「周りの子が元気に遊んでい る中,自分の子が ( 母親から ) 離れずにじっと固まってしまい遊べないことがショックだった。が, その時に保育者から 「 お友達のことをよく見ているのね 」 と声をかけられホッとした。」と語ってい る。母親は,その後,「 遊ばない子どもの姿 」 を 「 遊べない 」 のではなく 「 まわりの様子をじっと観察 している 」 と受け止めなおして一緒に過ごすうちに,子どもが自分から遊び始めたのである。母親は 「一生懸命周りを見ていたからこそ,やってみたいと思って初めて自分から動き出したと実感した。 子どもの一歩が本当にうれしかった。」とも語っている。専門性をもった大学教員や教員が,親子の 遊びの場で共に過ごし,子どもの姿を共有し,サポートすることは,保護者の安心につながり,親 子のかかわりをも変えていく。  このように,今年度の活動では,親子で一緒に遊ぶなかに幼稚園教員や大学教員が入ることによ り,自然な形で育児に関する不安や悩みを話すことができる場を醸成することができた。こうした コミュニティを維持していくことで,支援のはざまに落ちてしまう未就園の時期の親子に対して, 予防的な支援を提供することが可能になると考えられる。  現在は,年4回のペースでの実施となっているが,未就園児の親子のニーズ等に合わせて回数を 調整していくことで,地域に根付く支援コミュニティとなることが期待される。

ⅴ 引用文献

稲垣 馨 (2018).子育て支援に生かす「エンパワメント」の概念分析,常葉大学保育学部紀要,5, pp35-51. 笠井真紀・河原加代子 (2008).育児支援に関する研究の文献レビュー―保健師による育児支援にお ける現状と課題―,日本地域看護学会誌,10,pp14-19. 中谷内一也 (2012).リスクの社会心理学―人間の理解と信頼の構築に向けて―,有斐閣 七木田敦・ジュディス・ダンカン編著(2015). 子育て先進国ニュージーランドの保育,歴史と文化 が紡ぐ家族支援と幼児教育,福村出版. 山西加織・渡辺俊之 (2017).幼児の子育てをする母親の不定愁訴と育児感情の特徴―保育機関にお ける子育て支援のあり方―,女性心身医学,21,pp314-324.

参照

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