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ミツバチのノゼマ病およびサックブルード様疾病混合感染例

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ミツバチ科学 27(3/4):119-122 HoneybeeScience(2006/2010)

ミツバチのノゼマ病および

サ ックブルー ド様疾病混合感染例

養蜂は数万年の昔から行われている畜産業で あ り,また現在でも,蜂場の特性から人の目に 触れることは少ないが,ハチミツやプロポリス などのほか,野菜や果樹の受粉など人間の生活 に様々な面で役立っている.また,養蜂は発展 途上国でもすべての必要な資材を現地調達で きるため,産業振興の技術援助の中でも有効 な手段の一つ として,着 目されている (Savile, 1998). 家畜伝染病予防法の改正に伴い, ミツバチ の監視伝染病に従来か らの法定伝染病である 腐姐病に加 えて,新たに届 出伝染病 として四 疾病が加わった. しか し,その一つであるノ ゼマ病は,国内における報告例が極めて少な く,その病態 もあまり知 られていない.今回, 蜂群の個体数の急激な減少を主徴 とするミツ バチの伝染性疾病に遭遇 し,ノゼマ病 とサ ッ クブルー ド様疾病の混合感染症 と診断 したの でその概要を報告する. 発生概要 1)発生農場 発生蜂場は周囲を急斜面の山林 とミカン畑

田中 ち ぐさ

に囲まれた風通 しの悪い,多湿な場所 に位置 している. この蜂場には常時セイ ヨウミツバ チ17群が飼育されてお り,蜂の新規導入や移 動は10年以上行っていない.また,隣接する ミカン畑で農薬な どの薬剤散布は行 っていな かった. 2)経過 飼養者である養蜂家よ り,平成10年 (1998 年)

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月上旬から一部の巣箱で蜂が急激に減少 しているとの連絡を受け,調査を行った.8月 27日 (初調査時)には,17群 中7群 に同様 の状況が認め られ 9月3日には12群,9月 8日には15群に症状が拡大 していた (図

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)

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3)症状 成蜂の激減 と同時に蜂児が死亡 しているのが 認められた.発症 した巣箱では巣門に数匹の死 んだ蜂児が捨てられているのが確認された.巣 箱内部では成蜂は少数 しか認められず,巣牌は 黒褐色に変色 し産卵圏が不整で蜂児数 も少な く,蜂児が巣房内で死亡 しているのが認められ た.死亡蜂児は前蛸から蛸の時期のものが中心 であった .有蓋の巣房はふたに穴が空いている ものもあ り,中の蜂児 も大半が死亡 していた.

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図1蜂場配置図 と発生過程

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120 なお,腐岨病,バロア病 (ミツバチへギイタダ ニ),およびチ ョー ク病の徴候は認められなか った.蜂が減少する自然要因となる分蜂や餓死 な どの形跡もなかった. 4)対策 調査段階では畜主が巣箱を管理する順番 と並 行 して症状が拡大 していたため,何 らかの感染 性疾患が疑われた. しかし原因が特定できなか ったため,汚染の拡大防止を主眼においた対策 を とった.具体的には重症羅患群の巣箱を焼却 し,管理順を逆にして健康な蜂群から世話をす るように指導 した.加えて,作業後の衣類の洗 浄,金属器具の火炎滅菌の徹底を指示 した結果, それ以降の発生は認められなかった.

材料と方法

農林水産省家畜衛生試験場 (編集部注 :覗 独立行政法人 農業 ・食品産業技術総合研究機 構 動物衛生研究所)の協力を得て,病性鑑定 を実施 した. 1)材料 羅患蜂群の蜂児,成蜂 (セイヨウミツバチ). 9月8日に重症羅患群巣箱の一つから採取 し た巣箱 内の成蜂15匹,蜂児約30匹 (巣牌1 枚分).なお,対照群 として同一畜主の所有す る他の健康な蜂場の一群より成蜂10匹を採取 した. 2)検査方法 (∋感染死蜂児 ・成蜂の肉眼検査 ②腸管内容物直接塗抹標本のギムザ染色 ノゼマ原虫の有無を検査するため,成蜂を解 、ヽ

■-●

t申` !.rJ vb・ ヽ .二七 iI.Sd'. fJ 岸 ' ′嘗 Lヂ 、 図2病群成蜂の中腸内容物 (ギムザ染色,×1,000) ノゼマ原虫の胞子が多数認められる 剖,中腸を摘出したのち,中腸の腸管壁粘膜面 を内容物 とともにスライ ドグラス上に直接塗抹 し,ギムザ染色後,鏡検 した. 3)病理組織学的検査 通常の脊椎動物の病理材料 と同様に10%リ ン酸緩衝ホルマリンにて固定,定法に従いパラ フィン包埋後,病理組織検査を実施 した. 4)ウイルス粒子の精製.確認 感染死蜂児乳剤を作成 し,ウイルス抽出処理 後,超遠心処理,次いでSeCl密度勾配遠心に よるウイルス粒子の精製を試み,ウイルス粒子 の集積 と思われるバンドを回収 した.その精製 回収 した試料をネガティブ染色 し,透過型電子 顕微鏡で観察 した. 検査成績 1)感染死蜂児 ・成蜂の肉眼所見 (1)蜂児 死亡蜂児は有蓋房の前桶,蛸が中心であった. 主に前蛸でサックブルー ド特有の外観 (内部に 液状物を貯めた袋状)を示 しているものが散見 された. (2)成蜂 他蜂場の健康群由来成蜂 と比較 した ところ, 特に外貌上の異常は認められなかったが,解剖 し,中腸を調べたところ,健康群の個体のもの と比べて軽度に膨化,白濁 し,脆弱感があった. 2)腸管内容物直接塗抹標本のギムザ染色 病群成蜂の中腸腸管壁および内容物の塗抹標 本をギムザ染色 し,観察 したところ

,7

検体中 3検体か ら形態的にノゼマ原虫の胞子 と確認で 図3病群成蜂中腸 (HE染色,×40) 上皮細胞内にノゼマ原虫の既成が多数認められる

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図4 病群峰児から精製したウイルス粒子 (ネガティブ染色EM,×50,000) サイズは文献上の28nmにほぼ一致している きる細胞が多数観察された (図 2). 3)病理組織学的所見 (1)蜂児 特筆すべき異常所見は認められなかった. (2)成蜂 病群成蜂の中腸にノゼマ病の病理所見 と一致 する病変,すなわちノゼマ原虫胞子が中腸上皮 細胞に多数等生 している像が認め られた (図 3). 前述の中腸塗抹からノゼマ原虫胞子が多数検 出されたことに合わせて本症例の成蜂はノゼマ 病 と診断された. 4)ウイルス粒子の確認 死亡蜂児乳剤から分離,精製 した試料をネガ ティブ染色 し,透過型電子顕微鏡で観察 したと ころ,サックブルー ドウイルスと形態,大きさ が一致するウイルス粒子が確認できた (図 4).

ノゼマ病の病原体 Nosemaapl'Sは成蜂の ミ ツバチの中腸上皮細胞 に寄生する微細な原虫 で微胞子虫類 に属す る (北岡,1979).経 口 にて中腸に到達 し感染するため中腸が白濁 し, 脆 くなる.排植物 とともに外界に出た病原体 は自然環境下で長期間にわた り生存可能であ

る (MorseandFlottum,1997;Shimanukiand Knox,1998).また,多湿,低温下で蔓延 しや すい (農文教,1983). サックブルー ドウイルスSacbroodvirusはピ コルナウイルスに近縁の未分類の小型

RNA

ウ 121 イルスで,感染すると前桶から桶の段階にある 蜂児の体内が液化 し,虫体が液体を入れた袋状 となる.熱に弱 く,セイヨウミツバチに対する 病原性は比較的低いが管理不良な弱小群では群 を全滅させることもある (MorseandFlottum, 1997;農文教,1983). 病性鑑定の結果 よ り,成蜂がノゼマ病に感 染 していた ことは明 らか とな った.さ らに, サックブルー ド特有の蜂児の症状 (Morseand Flottum,1997;農文教,1983;梁川 ら,1989) とともにサックブルー ドウイルスと形態的に一 致するウイルス粒子 (梁川 ら,1989)が確認さ れた. したがって本症例はノゼマ病 とサックブ ルー ドを疑 う疾病が混合感染 した事例 と考えら れた. 今回の事例では,ノゼマ病の外見的な特徴 と 言われる腹部の膨満などは一切認められなかっ たため,本病を疑 う場合には中腸を肉眼で確認 もしくは中腸壁の塗抹物を顕微鏡で確認すべき である. 通常ノゼマ病は感染 したまま越冬 した老齢の 働 き蜂がノゼマ原虫を含んだ便を排潤 し,そ の原虫を末感染の働 き蜂が巣を掃除する際に 摂取することにより感染が広がる (Morseand Flottum,1997;ShimanukiandKnox,1998). 掃除が行われる時期は女王蜂が巣房に卵を産み 付ける前である.そのうえノゼマ原虫の増殖に 適 した温度は 10- 35℃であるため,産卵の 盛んになる時期でもある春先の発生が多い. サックブルー ドは蜂児が働き蜂からローヤル ゼリーを給餌される際に働き蜂を介 して感染す るほか,感染死蜂児が巣から除去される際にウ イルスが巣中にまき散 らされたりすることによ り感染が広がる (MorseandFlottum,1997). また,このウイルスは高温に弱いため (Morse andFlottum,1997;農文教,1983), こち らも 春先の群の増勢期に蔓延 しやすい (Morseand Flottum,1997). この よ うに両疾病 ともに低温,多湿 を好 み,群 の増勢期 に広 が りやす いので (北 岡, 1979;MorseandFlottum,1997;農文教,1983; ShimanukiandKnox.1998;梁川 ら,1989),高

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122 温下 にさ らされ る夏期 には巣 が増勢期 にあ った と して も,発 生 しに くい はず で あ る. しか し, 今 回 は発 生年 の8月 の降 水 量 が平 年 の2倍 以 上 あ り, 日照 時 間が平 年 の約65%しか ない異 常 な気象条件 であ ったため, ノゼマ病 とサ ック ブルー ドの病原体 の葺延 しやすい環境 が作 り出 され,今 回の発生 につ なが った もの と思 われ る. なお ミツバチ の混合感染 につ いては,一般 的 に蜂群 は常 に多 くの病 害 に さ らされ て い るた め,疾 病 の認 め られ た群 に は複 数 の疾 病 が 同 時 に認 め られ る場 合 が 多 くあ る と言 われ て い る (MorseandFlottum,1997;Shimanukiand Knox,1998). また,畜主 の管理順 と並行 して汚染 が拡大 し た ことか ら,蜂場 内の伝播経路 として手指や使 用器具 を介 した伝播 も疑 われたため, これ らの 洗 浄,消毒 には十分注意 を払 う必要が ある. しか し蜂場 外部 か らの感 染 経 路 につ いて は, 蜂 の移動 お よび導入がない こ と,畜主が管理す る他 の蜂場 では感染 が認 め られ なか った こ と, 近 隣に蜂場 がない ことな どか ら,特定す る こと はで きなか った. なお,有効 な ノゼマ病治 療薬 と して欧米 では fumagillinとい う抗生物 質 が使用 されてい るが (北 岡,1979;MorseandFlottum,1997:農文教,

1983;ShlmanukiandKnox,1998), 日本 国内 での使用 は認可 され ていな い. また, この薬剤 を用 いて も,養蜂器具 が汚染 されていては効果 があ ま り上 が らない ため (MorseandFlottum,

1997;ShimanukiandKnox,1998),いずれ に しろ疾病 の防除 には管理器 具 の洗浄消毒 が重要 であ る. 最後 に,病性鑑定 を快 く引 き受 けていただ き, 適切 な ご指導 をいただいた農林水産省家畜衛生 試験場総合診 断研究部疫学研究室長演 岡隆文先 生 を は じめ,病理診 断研 究 室長 久保 正 法先 生, 細菌寄生 虫病研究部原 虫病研究室長神尾次彦先 坐,主任研究官寺 田裕先生 ,な らび にウイル ス 病研究部主任研究官今 田忠 夫先生 に深謝 します (所属 はいずれ も当時). 参 考文献 北岡茂男.1979.獣医臨床寄生虫学 (獣医臨床寄生 虫学編集委員会編).pp569-571

Morse,R・A・andK・Flottum,K・(eds)・1997Honey BeePests,Predetors,andDiseases(3rdEd.).A.I ・Root,Medil-a718pp・

農文協 (編).1983.畜産全書 ヤギ ・めん羊 ・ウサギ・ 家禽 ・実験動物 ・ミツバチ ・他 飼育の基礎 /実際 家の飼育技術.農山漁村文化協会,東京.627pp. 岡田一次.1975.ミツバチの科学.玉川大学出版部, 東京.182pp 佐 々木 正 己.1999.ニ ホンミツバチ :北 限 のApis cerana*#含 ## 191pp. Saville.N.M.1998.ミツバチ科学19(3):12ト128 Shimanuki.H.andD.A.Knox 1998ミツバチ科学

19(3):99-108. 吐山豊秋.1997.日獣会誌50:429-437 梁川良 ・笹原次郎 ・坂崎利一はか (編).1989新編獣 医微生物学 義男堂,東京.1340pp 著者注 この症例報告は現在か ら約10年前,獣医畜産新 報の2000年10月号掲載記事を転載 したものであ る.ノゼマ病は1958年に国内での報告例があった ちのの,その後の発生状況はあまり明確ではな く, 1997年に届出伝染病 となったため,このような確 定診断を行 うことができた.また,この後 も2001 年に岡山県,2002年に鳥取県,2004年に高知県で の発生の届出がなされている. (〒416-0906富士市本市場44ト1 静岡県東部家畜保健衛生所富士分室) 編集委員会注 本記事は,既報 (田中ち ぐさ.2000.ミツバチの ノゼマ病およびサ ックブルー ド様疾病混合感染例. 獣 医畜産新報53(10):822-825.)を,著者による加 筆および出版社の承諾を得て,再掲 したものである.

CHICUSATANAKAAcasereportofcombinedinfection orEuropeanhoneybeesbynosemosisandsacbrood viruslikesymptom・HoneybeeScl'ence(2006/2010) 27(3/4):119-122.ShizuokaPrefecturalTobuLive

-stockHygieneServiceCenter,441-1,Motoichiba,

Fuji-shi,Shizuoka,41610906Japan,

Thiscasehappenedin1998wasfirstreported bytheauthorin20001tisworthtoberepublished herebecauseoftheincreaslngOfincidenceofNose -mosisandtherecentnation-wideinvasionofsac -broodvirusinJapan,whichcanbeconsideredasa causeofcolonylossesofJapanesehoneybee,Apl's ceTanajaPOnl'ca・

図 4 病群峰児から精製したウイルス粒子 ( ネガティブ染色 EM , ×50, 000) サイズは文献上の 28 n m にほぼ一致している きる細胞が多数観察された ( 図 2)

参照

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