[原著論文]
東日本大震災における在京避難者団体の変遷と治癒的効果
金田一賢顕
*・原田眞理
*・鶴田信子
**・新井 雅
*** 要 約 2011年3月11日,東日本大震災が発災し,地震や津波,東京電力第一原子力発電所の爆発 による被害が生じ,被災者は全国各地へ避難生活を強いられた。避難先では当事者団体を中心 に自然発生的にコミュニティが形成されたものの,避難生活の長期化に伴い問題の複雑化が指 摘されている。本調査研究では,当事者団体の代表7名に対して半構造化面接を行い,修正版 グラウンデット・セオリー・アプローチ(M―GTA)を分析方法として採用し,当事者団体の 形成プロセスにおける,その問題と治癒的効果を明らかにした。本稿では,まず当事者団体が もつ心理臨床学的な意義を考察し,時期ごとに求められる心理職の役割を検討した。その結果, 避難者の心境も時系列に沿っての変遷があり,時期毎に問題が生じる一方で団体において「普 遍的体験」「共有体験」「自助への目覚め」等の治癒的な効果が認められた。心理職は,移り変 わる心境の変遷に沿いながら個別と集団の両方を見立てながら対応することで,対処および治 癒的効果の促進が可能となると考察した。 キーワード:在京避難者,当事者団体,心理的支援,心理職,アウトリーチ活動Ⅰ 問題と目的
1)東日本大震災と長期避難の問題 2011年3月11日,東日本大震災が発災し,甚大な津波被害,東京電力第一原子力発電所の 事故による被害が生じた。2019年1月29日時点で,全国の避難者等の数は53,000人,東京都 では4,685人であった(復興庁,2019)。避難者数に関して,ことに1995年1月に発災した阪神 淡路大震災においては,7 ヶ月後には0人,2004年10月に発災した中越地震では2 ヶ月後には 0人となっており(復興庁,2011),これらの震災と比べると,東日本大震災の避難者は長期 化と多様化した避難生活が特徴である。 所属:*教育学部教育学科 **公益社団法人被害者支援都民センター ***跡見学園女子大学心理学部臨床心理学科 受理日 2019年2月15日2)原発事故による避難者への影響 避難生活における長期化の主な要因として,原発事故による放射線問題が挙げられる。発災 当初,国は線量に従い「警戒区域」「緊急避難準備区域」「計画的避難区域」と県内を3つの区 域に指定し避難指示を出した。また,上記3つ以外の地域住民の中にも,被爆を恐れて自主的 に避難する人もいた。その結果,避難者は政府から強制的に避難を指示され,自宅に帰りたく ても帰ることができない「強制避難者」と,国が定めた規定上では住み続けることは可能だが, 自主的に避難を選んだ「自主避難者」に二分された。 3)避難者の心理 避難直後,避難者は指定された避難先に入居し,仮設や借り上げ住宅・環境の不便さ,先行 き不透明さからストレスが生じていた(本谷,2013)。このストレスについて,山下(2015) はPauline Bossの「あいまいな喪失」という概念から「原発事故による避難者は,故郷に渡り 帰還の見通しが不明瞭である,自宅は存在するが以前のように住むことができない,家族や友 人は存在するが離散しているなど,喪失自体がはっきりしない」と述べている。 4)求められた当事者団体 混乱と見通しが立たない避難生活において,避難者の孤立化が問題となり,新しいコミュニ ティが形成されるようになった。避難者によるコミュニティの特徴として,被災者自身が避難 者支援団体の代表となり避難者への支援を行う団体も多く,これを「当事者団体」という。当 然のことながら代表者や運営を担うスタッフも被災体験があり,トラウマを負っている場合も 少なくない。そして,当事者団体は,原発事故や,災害(地震・津波),及び双方の避難者が 複雑に混在しているのが特徴である。 5)心理職の取り組み 東京臨床心理士会では,当事者団体によって運営される交流会の支援(アウトリーチ活動) を試みてきた。そこで,心理職がアウトリーチという形態で当事者団体をサポートしてきたと いう経験は,今後災害による支援活動での心理職の専門性を発揮する上で有用な視点となる。 本稿では,心理臨床学的な意義を検討する理論的な指針として,時系列に伴う災害後に起こ りうる心理的な状態をRaphael(1986),また,その中で団体の内部で生じる心理的な様態を 集団精神療法的な観点からI.Yalom(1995)の理論を用いて考察した(表1)。
Ⅱ 方法
執筆者らが参加していた4つの当事者団体の代表7名(50∼60代の男性5名,女性2名)と した。団体規模は参加者が7名から30名程で構成され,心理職の他,弁護士等の専門家が定期 的に参加した(表2)。 表1 I. Yalomの11の治療的因子の概要 1.希望をもたらすこと 今後に向けて希望が持てるような場が提供される。集団内のメンバーが成し遂げた回復や成長して いく姿を確認することで,励まされ,自らの将来の希望に繋がっていく体験。 2.普遍性 色々な人間と接して「自分だけではない」と他人との世界のつながりを感じ安心感に繋がっていく 体験。 3.情報の伝達 直接的な助言,また集団の中での間接的な助言を含む,生活を営む方法や,病気のことなど,多く の人から役に立つ情報を得ることで,将来の生活に向けた知識が増えていくという体験。 4.愛他主義 与えるという行為そのものの本質を通じて何かを生じ得る。すなわち,誰かの役に立てることで「自 分は必要な人間なんだ」と自尊心の回復に繋がっていく体験。 5.初期家族関係の修正的な繰り返し 幼少期における家族の葛藤が,単に再体験されるのみではなく,修正的に再体験されるという体験。 6.社会適応技術(ソーシャルスキル)の発達 集団の中で人との距離感や生活技能などを人と共に生活する中で学んでいく体験。 7.模倣行動 メンバーの行動を模倣して,新しい行動の獲得に繋がる。他者のいろいろな面を,いわば「試着し てみて」合わなければ脱ぎ捨てるようなものである。その行動が次第に適応的な行動へと繋がるも のとなる。 8.対人学習 社会の縮図としてある集団の中で,他者との交流を通して,自己理解を深め,自らの問題が明らか になる。そして,その中での修正感情体験や対人関係の実践を試み,対人関係を学習する。 9.グループの凝集性 集団が成長してくると,グループの凝集性が高まり,心にゆとりが生まれ,お互いを自然に受容し, 支え合うなど,意味のある関係を形成することができる。その中で,メンバーは葛藤を明らかにす るなど,より自己を表現することができる。 10.カタルシス メンバーによって共感され,強く深い感情を誰かに受け入れられることで,それまで抑え込まれて いた感情から解放され,安堵感を得て,少しずつ薄らいでいくという体験。 11.実在的体験 死や別れ,孤独,空虚さ,苦しみなどに直面し,自分たちの力だけでは避けて通ることができない 現実をメンバーと共に体験することで,次第にあるがままを現実的に受け入れていくことが可能と なる。 I.Yalom (1995)より筆者がまとめた。性別 年齢 K6 WCCLコーピングスケール 得点 高群(平均) 低群(平均) A 男 60代 4 1.7 1.3 B 男 50代 7 2.4 1 C 女 50代 9 2.2 1.2 D 女 60代 1 1.3 0.3 E 男 60代 7 2.3 1.4 F 男 60代 7 2.1 1.2 G 男 70歳以上 2 1.9 1.3 表2 対象および心理検査の結果 方法 半構造化面接を用いて「各団体の成り立ち」や「団体の変遷(活動の展開)」「団体の現在の 様子(参加者の様子)」「活動中に生じた問題とその対処」「他の専門職からの援助・サポート の実際」等を尋ね逐語記録におこした(質問に関連して自由に語ってもらった内容等も含まれ 質問項目 Ⅰ.団体の成り立ちについてお話ください。 (ア)どのようなニーズで立ち上げましたか? (イ)行政など,どのようなところに関わりを持っているかお話ください。 (ウ)団体の長になったのはどのような経緯であったかお話ください。 Ⅱ.団体の変遷についてお話ください。 (ア)どのような活動をしてきたかお話ください。 (イ)利用している人のどのように役立ってきたかと思うかお話ください。 (ウ)長としての工夫したことをお話ください。いくつかお話ください。 (エ)運営する中で困ったことはどのようなことですか? いくつかお話ください。 (オ)その際の解決方法はどのようでしたか? (カ)活動費用はどのように捻出してきたかお話ください。 (キ)利用している人にどのように役立ってきたと思うかお話ください。 Ⅲ.団体の現在の様子をお話ください。 (ア)現在の会の活動の様子をお話ください。 (イ)現在の活動で,利用している人にどのように役に立っているかをお話ください。 (ウ)現在の活動で,どのようなことで困っているかをお話ください。 Ⅳ.いままで,どんな専門職の参加がありましたか? Ⅴ.心理を依頼した意図をお話ください。 (ア)心理士が入って良かったことはどのようなことかお話ください。 (イ)心理士に期待していたことはどのようなことかお話ください。 (ウ)心理士が入ってよくなかったこととはどのようなことかお話ください。 (エ)あればよかったと思う心理的支援は何があると思いますか? (オ)他にあったら良かったと思った専門職がありますか? 表3 インタビューガイド
る(表3)。本研究では,修正版グラウンデット・セオリー・アプローチ(M―GTA)を分析方 法として採用した(木下,2007)。分析テーマは「当事者団体が形成され,団体機能が成熟し, 転換を迎えるプロセスにおける,その治癒的効果と問題を明示する」とした。 1)分析テーマ・分析焦点者の設定 M―GTAを用いるにあたり,まず分析テーマの設定を行った。分析テーマは「当事者団体が 形成され,運営が続けられ,収束していくプロセスにおける,その治癒的効果と問題を明示す る」とした。分析焦点者は「避難後から自然発生的に形成された運営を担ってきた当事者団体 の代表者」である。代表者に焦点をおくことで,形成から運営を担った震災後における団体形 成のプロセスの他に,それぞれの時系列の中で各段階における集団がもつ治癒的効果,および 問題が見えてくる。そして,この治癒効果を促進,及び問題に対する対処といった心理職の役 割が見えてくると考えたためである。 2)分析手続き まず,面接の逐語録を発話データとし,木下(2007)に従って以下のように分析した。分析 焦点者の形成プロセスの時系列に注目して,それぞれでどのような問題,また,治癒的効果が 生じているかに焦点を当て類似した記述を解釈して分析ワークシートに記入し,プロトコル全 体に定義としてまとめ概念名をつけた。概念についてこれらを継続的に進めた。気づいたこと, 考察したこと,疑問に思ったこと等はワークシートのメモ欄に記入し,分析に活用した。ある 程度概念が生成された段階で,生成された概念の関係を個々に検討し,概念間の関係から団体 のプロセスが明らかになっているか注意を払い複数の概念からなるカテゴリを作成した。そし て,カテゴリ同士を比較しながら全体の中心となる概念あるいはカテゴリを見いだした。以上 を多重同時並行の分析作業を行い,概要をストーリーラインとして文章化した。最後に,抽出 されたカテゴリから全体のプロセスを考察する上でRaphael(1986)の被災者の心の回復過程 を参照した。また,プロセスの中で生じる治癒的要因に関して,I.Yalom(1995)の集団療法 における治癒的因子の理論に準拠しながら考察した。得られた内容が離れたものになっていな いかをデータに立ち戻って繰り返し確認すると共に,執筆者4名にて定期的な検討を重ねた。 倫理的配慮 本研究は玉川大学「人を対象とする研究に関する倫理規程」に基づき研究倫理審査を受けて いる。また,調査対象者に対しても同意を書面と口頭にて確認した。また,対象者が被災者で もあるため,面接開始直前にK6(Furukawa,.et al., 2008),WCCL Stress Coping Scale(中野,
1991)を施行し,その場で心理尺度を中心に調査協力者の精神健康状態と面接終了後にはスト レス対処の手がかりを紹介し,心理的な健康の増進に努めた。
Ⅲ 結果と考察
インタビューから見えてきた団体の変遷 M―GTAによる分析の結果,44の概念,11のサブカテゴリ,9のカテゴリが生成された。こ れらを比較検討して,結果図(図1)とストーリーラインを生成した。また,カテゴリは時系 列に沿って分類し,被災して避難してきた直後を「避難直後」,避難後に団体の形成が求めら れた時期を「団体形成期」,参加者の関係も深まり団体としての役割が成熟した時期を「団体 機能成熟期」,参加者の方向性が個々に異なりを見せ始め団体に求められる役割が転換してき た時期を「団体機能転換期」とした。 以下,考察において全体のストーリーラインを示す。各カテゴリについて,サブカテゴリを 使ったストーリーラインを示し,さらにデータを抜粋しながら概念を説明する。概念を〈 〉 (図1では 内),カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》で表記した。 1)避難直後 ①【被災後,東京へ避難した直後の問題】2011年の東日本大震災直後〈被災後,東京へ避難 した直後の問題〉が生じた。避難者は指定された避難先に入居し,仮設や借り上げ住宅・環境 の不便さ,情報の混乱からストレスが生じていた。また,強制避難者・自主避難者共に〈家族・ 同郷の離散〉した生活が余儀なくされ,生活・精神的にも不安定さが生じた。さらに,避難先 では都内の複雑な交通手段など〈慣れない土地で生活することの難しさ〉に加えて〈避難元・ 避難先の情報不足〉と知らない土地での生活,サポート資源,また元の居住地についての情報 不足も加わり不安定さがさらに高まっていた。その上,避難先に「受け入れてもらっている」 という申し訳なさから〈避難してきていることの負い目〉を感じ,避難先地域からの苦情に敏 感になり〈避難先での孤立化〉が勢いづけられた。 避難した直後,避難者は指定された避難先に入居し,仮設や借り上げ住宅・環境の不便さ, 先行きの不透明さからストレスが生じていた。山下(2015)は「あいまいな喪失」という概念 を用いて「原発事故による避難者は,故郷に渡り帰還の見通しが不明瞭である,自宅は存在す るが以前のように住むことができない,家族や友人は存在するが離散しているなど,喪失自体 がはっきりしない」と述べている。このように,避難者にとって「あいまいな喪失」に加えて, 情報不足の中で不安と混乱が生じ,それでも日常の生活を必死に整えようとする時期において, 避難先での批判を憂虞しながらの生活は,ますます避難者の孤立を勢いづけるものであった。2)団体形成期 ②【求められる人と人との繋がり】孤立化問題が生じた避難者の間で,自然と〈求められる人 ①【被災後、東京へ避難した直後の問題】 ②【求められる人と人との繋がり】 ③【現実として生じる問題】 ⑨[団体によるトラブル対処への工夫] ⑤【関係が深まることによって生じる問題】 ⑥【地域への定着】 ⑧【個別対応・相談での問題】 ⑦【問題の複雑化】 ④【関係の深まることによって得られる居場所】 避難直後 団体形成期 団体機能成熟期 団体機能転換期 家族・同郷の離散 避難先での孤立化 避難してきてることの負い目 ≪情報・土地の喪失≫ 避難元・避難先の情報不足 慣れない土地で生活することの難しさ 同郷の避難者との 再会による安心感 ≪情報・専門家との繋がり≫ 専門家への窓口 情報収集・共有の場 団体内における 同郷以外の避難者との 関係構築の困難 避難先の土地の人との 関係構築の困難 支援団体・支援者と当事 者団体の意識のズレ ≪外部との関係構築の困難≫ ≪運営上の実際的な困難≫ どのように広報を行うか 助成金の申請・運用の困難 専門家に繋がる窓口の●● 参加しない人への配慮 団体内での不信感の増加 既存の団体との協力・連携 避難先の住民・自治会 との積極的な交流 ≪運営に関する工夫≫ ≪団体をまとめるための工夫≫ イベントを通してまとまる 他団体との積極的な交流 メンバーの個性を活かした運営 ニーズに合わせた運営 役割や居場所ができる 話をしてストレスの解消 ≪運営に関する困難≫ ≪地域との関係維持の困難≫ 避難先地域住民との 関係構築の難しさ 交流会と地域自治会の 関係構築の難しさ 団体内のトラブルと 対応の困難 行政・他団体・支援団体との 連携の困難 団体が まとまることの難しさ ≪心理的な困難≫ ≪団体の運営・維持の問題≫ ≪定住・帰還に関する不安≫ 定住か帰還かの迷いの表面化 メンタルヘルス問題の訴え 個別相談への対応のあり方の難しさ 相談の場と守秘の問題 帰還問題と 見えない団体の方向性 賠償金 借り上げ住宅の期限の不安 メンバーの個性を どう活かしていくか 誹謗・中傷が広まる 悪いうわさが広まる不安 参加者が減少する 求められる個別的対応・相談 役割の継続と交代の困難 多様なニーズに対する コーディネートの困難 地域に根付いて 団体も必要とされなくなる 交流会の維持 (人・場所・時間・費用)の問題 概念 サブカテゴリ 作用の方向 変化の方向 対立する関係 カテゴリ(治癒的要素) カテゴリ(問題要素) ≪ ≫ 【 】 [ ] 図1 結果図―変遷から観る団体の治癒的要素と問題要素 注 本文中の概念は〈 〉で示す。
と人との繋がり〉が生じ,当事者団体が形成された。団体は避難者の居場所となり〈同郷の避 難者との再会による安心感〉が生まれ,同時に錯綜した〈情報収集・共有〉の場となり,特に, 弁護士や心理職,ソーシャルワーカー等を呼ぶことで,原子力損害賠償,震災に関する住居, 健康に関する相談を容易に行える〈専門家への窓口〉の機能を果たした。 ③【現実として生じてくる問題】《運営上の実際的な問題》では,代表者は交流会をはじめと する団体の運営費として,助成金を得るために申請手続きの膨大な書類と煩雑な申請のため苦 労した。さらに,申請において,代表者らは役職等を明示した名簿登録から,団体内での役割 決定が求められ,責任所在の問題も加わり〈助成金の申請・運用の困難〉が生じた。 また,避難者の抱える問題が複数の専門領域に跨がるために,特定の専門職種では対応困難 である〈専門家に繋がる窓口の狭さ〉が生じていた。加えて,原子力災害というこれまで弁護 士すら対応したことのない問題に対して,制度や保障の不備により,要望と提供される情報や 対応に隔たりが生じ〈求めるが応えてもらえない/応えられない〉という不満が生じた。そし て,団体の情報を直接避難者に対して〈どのように広報を行うか〉という難しさや,積極的に 交流会に参加する避難者に比べ,様々な背景・事情により参加しない(できない)避難者への 支援のあり方(〈参加しない人への配慮〉)も代表者の間で問題となった。 交流会では,岩手,宮城,福島など様々な県や地域からの避難者が参加し,特に福島と他県 では被災状況も異なり,共有できる話題もあるが,「話せる/話せない話題」など,かえって 出身の差が強調される形となった。この差は,被災状況や困難状況の比較に繋がり,同じ避難 者でも状況が異なるため,例えば「賠償金をもらえていない」という話題から避難者間での隔 たりが膨らむ〈関係構築の困難〉が生じた。 《外部との関係構築の困難》では,例えば,避難先地域住民からみて,助成金や賠償金を受け, あたかも「特別視」されるような避難者への待遇格差等,避難者間だけでなく地域住民の間で も確執が生じる〈避難先の土地の人との関係構築の困難〉という問題もあった。あるいは,交 流会を通して外部から様々な支援団体が介在してきたが,刻一刻と変わる団体側のニーズに合 わない支援や当事者団体任せの支援など〈支援団体・支援者と当事者団体の意識のズレ〉とい う問題が生じていた。その他にも,避難者にとって生活上のストレスに加え,見知らぬ者同士 が交流する環境において,不安のはけ口として避難者同士の誹謗中傷が頻発して〈団体内での 不信感の増加〉もあった。 Raphael(1986)によると,災害直後の茫然自失の時期を経るとハネムーン期を迎えること が指摘されている。この時期は,住み慣れた土地から離れ「劇的な災害の体験を共有し,くぐ り抜けてきたことで,被災者同士が強い連帯感」で結ばれる。避難者の間で生じていた「孤立 感」は,同時に「繋がり」への渇欲を生じさせる原動力となり,互いに避難者であること,特 に同郷であることによる強い連帯感に対して差し響いた。岡(1999)は当事者同士におけるセ ルフヘルプグループの機能の観点から,この渇欲は「慰め合い」ではなく「わかちあい」によ る孤立感の緩和であると指摘している。
さらに,この治癒的な観点はI.Yalom(1995)の集団精神療法による理論からも補填できる。 I.Yalomによると,当事者同士の「わかちあい」は避難者にとって「情報の伝達」のみでなく, 自分だけではないという「普遍的体験」,また,もう一度やっていけそうな気がするという「希 望」という感覚が安心感に結びつき,これらが団体での治癒的な要因として活きていたことが 予想される。すなわち,生活を整えることに必死であったため,緊張感の中で感情を伏せてい た避難者にとって「わかちあい」は緊張感を緩和させ,現実へ向かい合うための視野を広げて くれる。その結果,避難者が自身の労苦に気づき,自らを語り,受け入れ,自助の心の芽生え, そして,必要な情報,専門家へのサポートへの要望が生じたと考えられる。 3)団体機能成熟期 この時期は,助成金を活用しながら交流会やイベントを通して,避難者同士の関係が深まる ようになってきた時期である。交流会やイベントに比較的安定した状態にある避難者が集まっ ている一方で,参加しない避難者との差が明確になった。 ④【関係が深まることによって得られる居場所】団体が形成・維持されることによって避難者 同士の関係が深まり,避難者はつながりだけなく,地元から離れた場所でも〈役割や居場所が できる〉こととなり,土地・役職・家族等,喪失したアイデンティティの回復が期待された。 そして,避難者同士の関係が深まることで,団体が〈話をしてストレスの解消〉の場となり, 避難者はプライベートな内容も次第に分かち合うことも可能となった。 ⑤【関係が深まることによって生じる問題】《運営に関する困難》として,継続した運営を行なっ ていくための人員・場所の確保,資金の確保といった〈交流会の維持(人・場所・費用)の問 題〉が生じた。避難者による要望も個別化してきたため,行政,支援団体,また他の団体によ り提供されるものとの間に齟齬が生じ〈行政・他団体・支援団体との連携の困難〉も生まれた。 《心理的な困難》として,関係が深まることにより団体内の連帯感が深まる一方で,人間関係 が複雑化し〈誹謗中傷が広まる〉という問題が生じた。このような事態になると,避難者の間 では不信感が蔓延し,〈悪い噂が広まる不安〉を抱き易くなった。また,《地域との関係維持の 困難》において,避難先の地域住民との関係が悪化する団体もあり〈避難先地域住民・自治会 との関係の難しさ〉も散見された。そのため,〈交流会と自治会との関係構築の難しさ〉もあり, 地域とつながる工夫が求められた。 以上の要因を背景に,団体内の人間関係が深化することにより〈団体内のトラブルと対応の 困難〉という問題が持ち上がってきた。そして,当初は共通していた避難者の要望も多様とな り,団体内のこじれも加わり〈団体でまとまることの難しさ〉が広がっていった。 I.Yalom(1995)は,凝集性のもつ作用に関して,優れた受容性と同時に「強い敵意や葛藤 の増幅」を指摘している。つまり,高い凝集性は,団体内における他の小グループとの差異化 が明確になり敵意を表出させやすくなるという。上述の団体内においても同様の問題が生じて
いたと捉えることができ,例えば,「運営者」「参加者」という間でも,それぞれの凝集性から 双方への不満も生じ,団体を継続させるための現実的な問題に(例えば,交流会の維持等)ス トレスフルになりやすい状況であった。また,団体の中で「仲の良い」間柄において小グルー プ化が起き凝集性と同時に差異化が生じ,葛藤のはけ口として他小グループへの敵意が表出さ れ,結果として誹謗中傷や噂を通して不信感が蔓延しやすくなったと,と考えられる。 4)団体機能転換期 上述のように,交流会やイベントを継続的に開催することにより,その利点や問題点が生じ た。また,当初は孤立化から「つながり」が強調されていたが,時期を経るにつれて,表出す る問題や課題は個別化していく傾向が見受けられた。 ⑥【地域への定着】団体が変遷を経るにつれて〈参加者の減少〉が目立つようになった。これ は帰還した(または帰還せざるを得なかった)避難者の影響もあるが,定住を選択した避難者 の団体に対する要望もおさまり〈地域に根付いて団体も必要とされなくなる〉と,避難者が避 難先地域での自立的な生活を歩み始めた肯定的側面とも考えられる。 ⑦【問題の複雑化】代表者らもまた被災を経験しており,避難生活の長期化に伴い役割も長期 化し,自身の問題解決も行いつつ長期的役割を全うすることが負担となり団体を継続すること が難しくなる上,帰還する人が増え,人材の不足から,引き継ぎに困難が生じた(〈役割の継 続と交代の困難〉)。また,避難者による団体へのニーズは個別化・多様化するようになり,代 表とはいえ,専門家ではないために,求められるニーズに対応することは困難であり〈多様な ニーズに対するコーディネートの困難〉が生じていた。 また,定住・帰還に関する不安において,国家による避難解除が広がる中,避難者の間では 〈定住か帰還かの迷いの表面化〉が生じた。さらに,〈賠償金・住宅供給の無償化期限の不安〉 によって先行きが不明瞭となり不安を助長した。このような中,避難者にとって定住するか帰 還するかという重要な意思決定を半ば強制的に迫られ,団体そのものの方向性も定め難くなる 〈帰還問題と見えない団体の方向性〉というストレスが生じた。このような多重のストレスを 背景に,避難者の中でも〈メンタルヘルスの訴え〉が発現するようになってきた。 ⑧【個別対応・相談での問題】この時期には全体というより個人の問題が発現する機会が多く なり〈求められる個別対応・相談〉の需要が増えてきた。しかし,交流会など集団の活動の場 では面接室のような枠組みがないため〈個別相談への対応のあり方の難しさ〉が生じた。そし て,交流会の場で話したいが,集団の中で,場所や守秘の確保の難しさ等,安心できる枠組み を作ることの難しさに関する〈相談の場と守秘の問題〉が生じた。 ⑨【団体によるトラブル対処への工夫】問題が生じる中,団体形成期から団体機能転換期にか けて〈既存の団体との協力・連携〉により,情報交換など様々な恩恵を受けた。例えば,形成 期には既存の団体がモデルとなり形成や運営のヒントとなった。また,避難先地域との関係構
築のために〈避難先住民・自治会との積極的な交流〉が有効で,地域との良好な関係構築を促 すことができた。《運営する工夫》として,被災以前の職種や趣味,技能や性格を活かした〈メ ンバーの個性を活かした運営〉やニーズに柔軟に対応する〈ニーズに合わせた運営〉が認めら れた。《団体がまとまるための工夫》として,催しやイベントを通して避難者同士が〈イベン トを通してまとまる〉ことや,〈他の団体との積極的な交流〉を実施し,共同の催しを通して, 代表者同士の情報交換も行われ問題の工夫を考案された。
Ⅳ 総合考察
本稿では,団体変遷を概観し,団体における集団性がもつ治癒的要素を抽出した。そして, 団体の変遷を検討したことで,今後災害が発生した際に心理職がいつどのような介入をすべき かが明確になり,効率的な介入が可能となるであろう。最後に,「在京避難者団体の変遷とそ の治癒的効果」から求められる「心理職の役割」を考察する(表4)。 1)団体形成期に求められる心理職の役割 被災直後の心理状態は,土地・家族・故郷の喪失感,また見知らぬ土地での避難生活により 「孤立化」が差し迫った問題となった。被災直後は地元の心理職の迅速な対応が期待される。 この段階は衣食住の現実的な問題の沈静化が最優先であり,そのための情報収集なども手伝う ことが必要である。その際に心理職はサイコロジカルファーストエイド(2006)を念頭に関わ ることが大切であろう。そして,団体を「形成」するということは,避難者にとって「繋がり」 が明確となり連帯感が生まれる。そして,この連帯感の中で「わかちあう」ことにより,様々 な情報伝達はもとより「自分は被災当事者ではあるが独りではない」という「普遍的体験」, そして,これからやっていくことができるかもしれないという「希望」に繋がる。 I.Yalom(1995)によると,この集団性による治癒的要素を引き出すためには「規範の設定」 が必要であるという。これを団体支援に活かして考察してみると,例えば「規範の設定」に役 に立ったのは,形成期における既存の団体との交流であった。つまり,団体としての形も不明 瞭な中,モデルとなる団体と交流することで,自然と団体運営の規範を取り入れることができ た。この規範を設定する段階で,さらに「枠」,すなわち心理的な「守り」を意識したものを 提案することができれば,安心して「わかちあい」を促すことができ治癒的要素を引き出すこ とができた。そのためには,無知識で関わりをもつのではなく,災害に関する知識や情報(被 災地や避難先の情報,形成される団体,既存の団体の情報)を事前に収集しておくことも重要 である。そのためには,避難直後のファーストエイド段階から継続的に介入して,避難者と共 に団体を形成することが有用であると考えられる。 また,形成された団体に介入する際は「規範の設定」を構築していくために,団体代表者らとの関係作りが重要であろう。既にある程度の規範が決まっている団体に心理職から「枠組み」 を提案するためには,団体代表のニーズを十分に加味する必要があるからである。そのために は,事前に団体の情報や可能であれば構成員の情報を収集しておくことや,同じ心理職が継続 的に参加することにより,専門家というだけではなくメンバーの一員として認められるように なることで円滑に代表とやりとりができると思われる。また,提案が難しい場合でも,複数の 心理職で参加する場合は心理職間で決めておくことも可能である。そのためには,心理職同士 の事前の打ち合わせ,また終了後の振り返りは有用であろう。たとえ心理職が独りで参加する 場合でも,避難者との関わりの中で「枠」を設定して,さりげなく避難者を「守る」ことがで き,避難者の「わかちあい」を促すことが可能であると考えられる。 2)団体維持期に求められる心理職の役割 団体の中で関係が深まることで,グループ内の凝集性が生じ,その治癒的要素が考察された。 この凝集性は,交流会などの活動を共に過ごすことで生じる「共有体験」により育まれ,そし て活動の中で役割を担い,また誰かの役に立つという「愛他的体験」をもたらしてくれる。そ して,このような親密感の中で語られる自己は,「カタルシス」だけでなく,自分自身を見つめ, 語ることで過去や現在を少しずつ受け入れていくという「現実検討」をもたらすと思われる。 I.Yalom(1995)によると,凝集性は参加者にとって「私たち」という仲間/連帯感に近い感 覚を育む上で重要であり,この点を促すことが心理職の役割の一つとして提案できる。つまり, 「私たち」の育みには,交流会への出席を促し交流を持ってもらうことも重要な意味をなして くる。そのためには,参加者のニーズを把握し,以前の職種や趣味,技能や性格を活かした企 画・準備や,交流会でのグループ分け(同質性への配慮)を通して連帯感を持ち易いような配 慮をすること,同時に,参加者の欠席,脱落者に注視することも大切である。 一方で,凝集性が深まることで団体内においてもサブグループが生じ,治癒的要素が転じて グループ間の差別化や不信,敵意が生じやすくなる。これは時に代表を含む当事者でもある運 営者側にも向くこともあり,そのような場合は批評批判,誹謗中傷が蔓延して,団体そのもの のまとまりがなくなってしまう。I.Yalom(1995)によると,この対処として,小グループ化 してしまった凝集性をより大きなグループとして再認識させることが有効であることを指摘し ている。それには,他の団体との積極的な交流や共同企画などを通して,そもそも自身の団体 への意識が再認されるきっかけとなる可能性がある。さらに,このような攻撃性の要因は,個 人の自己評価が低い時の防衛機制として,他者や他グループを価値下げすることから生じるこ とが指摘されており,このようにグループが優劣に傾いた場合は,心理職として,参加者が自 分自身や他の団体の存在も認めながら,自身の所属する団体・交流会での自己治癒や支え合い に力点を置ける関わりが持てるよう促進することも有効であろう。
3)団体成熟期に求められる心理職の役割 団体が成熟することによって,次第に避難者にとって避難先地域との関係の構築が課題とな る。これは避難当初から変遷過程において,どれだけ地域との関わりを意識して取り組んでき たかによって,地域への定着が異なると思われる。例えば地域に開かれた自治会主体の交流会 であると,地域との交流が生まれ易く,子育て,教育,就職等も円滑になることが予想される。 この点で求められる心理職の役割を考える上で,小林(2013)の臨床心理的地域援助という 観点が参考になる。これは,当事者自身による自己介入が基本となり,「自らを語り,自分の 弱さ(困っていること)を観て,自分で対策を立て決断をする」という「自助」の考え方に基 づく。この「自助」の考え方があると,被災当事者ではあるが自分自身を客観的に観て,それ に対する対策や必要なサポートを選択し決断ができるようになる。そうすれば,地域への依存 的な定着というより,自分をよく知りそれに必要なサポート支援を求めるという,主体的な地 域への定着を促すことができる,と考えられる。心理職はこの自助を促すために,避難者自身 が自分を語る振り返りを促したり,個別相談もまた有効であると考えられる。 時期 団体に参加する避難者の心理 当事者団体のもつ治癒的要素 求められる臨床心理士の役割 被災直後 喪失感 現実的問題への援助周囲の専門家との連携 団体形成期 孤立感 「わかちあい」による「普遍的体験」「情報の伝達」「希望が 持てる」 避難者と共に規範を構築 継続して参加することで信頼関係 を構築する 団体機能成熟期 凝集性 「共有体験」「愛他的体験」「カタルシス」「現実検討」 交流を促す 団体内の集団力動を理解し臨機応 変に対応する 運営陣の相談にのる 団体機能転換期 団体からの自立 自助への目覚め 自身を振り返るサポート個別相談 表4 団体の変遷における治癒的要素と求められる心理職の役割
Ⅴ 今後の課題
災害時の団体支援において,心理職によるアウトリーチ活動が必須であることは本稿によっ て明らかになった。次稿は,団体活動において団体長が求めた心理職の役割,また,実際に活 動を経験した心理職が実施した役割を双方向から検討し,心理職の活動を明確にする。付記 大変な避難生活の中,インタビューにご協力いただいた避難者の方々に感謝申し上げます。本研究 は日本心理臨床学会平成26年助成金(2014.(iii)―3)を得て行われました。本稿に関して申告すべき 利益相反はなし。調査の段階で成澤知美氏に協力を得た。 引用文献 復興庁(2019).全国の避難者等の数(所在都道府県・所在施設別の数)http://www.reconstruction. go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-1/20190129_hinansha.pdf(2019年2月1日取得) 復 興 庁(2017). 長 期 避 難 者 等 の 生 活 拠 点 に お け る コ ミ ュ ニ テ ィ 交 流 支 援 等 http://www. reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/chouki_com.html(2017年 6月20日取得) 復興庁(2011).避難所生活者・避難所の推移(東日本大震災,阪神・淡路大震災及び中越地震の比較) http://reconstruction.go.jp/topics/hikaku2.pdf(2017年6月20日取得)
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The Transition and Healing Effects on Community
Consisting of Evacuees at Tokyo of the
Great East Japan Earthquake
Yoshiaki KINDAICHI, Mari HARADA, Nobuko TSURUTA, Masaru ARAI
Abstract
The 2011.3.11 earthquake off the Grate East Japan earthquake caused nuclear accidents in the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant complex, and the associated evacuation zones affecting hundreds of thousands of residents. The purpose of this study was to examine problems and healing effects on community consisting of evacuees at Tokyo, and define the roles of clinical psy-chologist in this psychological support. Semi-structural interviews were conducted on 7 leaders of community of residents. The date was analyzed by using Modified Grounded Theory Ap-proach. Result indicated that community has shifted from aftermath evacuation and the period of formation, maintenance to the period of settling. Certainly, the community has many experience of difficulties, but of healing effects some of “Universal experience” “Common experience”, “awareness towards self-help” and so on. In order to promote coping problems and promote heal-ing effects, clinical psychologist was needed to assess not only an individual person, but also group totally.