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脳塞栓と脳血栓の発症に関する生気象学的検討

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(1)DOI: 10.11227/seikisho.57.127 (Jpn. J. Biometeor. 57(4) : 127–133,2021). 〔日生気誌 57(4) : 127–133,2021〕 〔日生気誌.  . (Jpn. J. Biometeor. 00(0) : 00-00, 0000). 00(0) : 00-00, 0000〕. 脳塞栓と脳血栓の発症に関する生気象学的検討 Biometeorological study on the onset of cerebral embolism and thrombosis 福永. 篤志,小山. 英樹,布施 孝久,原口. 安佐美. Atsushi Fukunaga, Hideki Koyama, Takahisa Fuse, Asami Haraguchi 公立福生病院脳神経外科 Department of Neurosurgery, Fussa Hospital. (受付. 2020 年 8 月 26 日/受理 2020 年 11 月 9 日). 脳梗塞の発症メカニズムは明らかでなく予防法も確立されていない.今回,rt-PA 療法が施行された比較的重症 な脳梗塞初発例を対象に脳塞栓(A 群)と脳血栓(B 群)に分類し,発症時刻と月,当日の気圧配置パターンを調 査し,両群の発症の違いを統計学的に分析した.平均気温が最も高かった 7~9 月は,B 群が有意に多かった (p=0.0248,フィッシャーの直接確率法.以下同じ) .時間帯は,午前 6~7 時は B 群が有意に多く(p=0.0357) , 午後 2~7 時と午後 11~午前 5 時は A 群が有意に多かった(p=0.007,p=0.0467) .気圧配置パターンは,その他高 気圧型 (移動性高気圧型, 帯状高気圧型のどちらにも分類できない高気圧型) がB 群に有意に多かった (p=0.0166) . 脳梗塞の主な原因は動脈硬化と不整脈であるが,気象変化や生活リズムなどの体外環境の影響で脱水状態等となり 突然血栓・塞栓が形成されてしまう可能性がある.脱水予防のため適時適度な飲水補給等の指導が必要だろう.予 防法の確立に向け,さらなる調査に期待される. キーワード:脳梗塞,脳血栓,脳塞栓,好発時期,気圧配置. The onset mechanism of cerebral infarction is not clear and no preventive method has been established. This time, we classified the first severe cases of cerebral infarction that received rt-PA therapy into embolic (group A) and thrombotic (group B), and investigated the time and the atmospheric pressure distribution pattern of the onset. Then, the difference in the onset between the two groups was statistically analyzed. Between July and September, when the average temperature was highest, the number of the group B was significantly higher (p=0.0248, Fisher's exact probability test, the same hereafter). In the time zone, the group B was significantly more abundant between 6 a.m. and 7 a.m. (p=0.0357), and the group A was significantly more abundant between 2 p.m. and 7 p.m. and between 11 p.m. and 5 a.m. (p=0.007, p=0.0467). As for the atmospheric pressure distribution pattern, the other high-pressure type except for anticyclone belt type and migratory anticyclone type was significantly more common in the group B (p=0.0166). The main causes of cerebral infarction are arteriosclerosis and arrhythmia, but there is a possibility that thrombosis/embolism may be suddenly formed due to dehydration and so on by the influence of external environment such as weather change and life rhythm. Guidance such as timely and appropriate drinking water supply will be necessary to prevent dehydration. It is expected to be further investigated to establish preventive measures. Key words: cerebral infarction, thrombosis, embolism, time of onset, atmospheric pressure distribution pattern.

(2) ( 128 ). 福永篤志,ほか. 1. 背景 要介護 4~5 の最重度要介護者のうち,介護が必. 脈解離による血栓症などの特殊な血栓塞栓症は対 象から除外した.本調査は,公立福生病院倫理審査 委員会の承認(承認番号 10 番)を得た.. 要となった主な原因の第 1 位が「脳血管疾患(脳卒 中)」であり(厚生労働省,2020),脳梗塞はその過. 2.2. 方法. 半数を占めると考えられる.また,脳梗塞による死. 発症日時の直近の気圧配置を気象庁ホームペー. 亡者数は 60,365 人(2018 年)で,脳内出血(33,047. ジ「日々の天気図」(気象庁,2020)で調査し,山. 人,同年)やくも膜下出血(11,996 人,同年)とい. 上らの分類方法(山上ほか,2005)を参考に,さら. った他の脳卒中よりも多い(厚生労働省,2020).. に南岸低気圧型を加えて,最も類似する気圧配置パ. 近 年 , rt-PA ( recombinant tissue-type plasminogen. ターンにあてはめた.具体的には,西高東低型(W),. activator)療法が確立され,重症脳梗塞患者でも救. 南高北低型(S),移動性高気圧型(Ht),帯状高気圧. 命される症例が増加しているが,それでもなお年間. 型(Hb),その他高気圧型(H),停滞前線北方型(Fn),. 6 万人以上の死亡が発生しているのであり,脳梗塞,. 停滞前線南方型(Fs),台風及び温帯低気圧型(T),. とくに重症例の発症メカニズムの解明と予防法の. 気圧の谷型(Lt),南岸低気圧型(Ls),その他低気圧. 確立は極めて重大な課題の 1 つである.. 型(L)に分類した.気圧配置パターンは日本周辺お. 脳梗塞の発症時期について,近年では, 季節. よびアジア太平洋域の天気図をもとに分類された. (Takizawa et al., 2013; Toyoda et al., 2018)や季節と. ものだが,当院の医療圏への気圧配置の影響を考慮. 月(豊田,2011)に着目した報告があり,気温や気. したうえで適切なパターンを選択した.また,発症. 圧,湿度,日照時間といった気象要素に踏み込んで. 月および季節,時間帯に着目して A 群と B 群の発. 研究した報告は少ない.同じ血栓性疾患である心筋. 症数を比較検討した.季節の判断には気象庁ホーム. 梗塞については, 気温と気圧に加え天気図型との関. ページ「過去の気象データ検索」(気象庁,2020). 連を調査した報告がある(松村ら,2004).. で調査した東京都青梅市にある青梅観測所(当院か. そこで,今回 rt-PA 療法が施行された比較的重症. ら約 5km,北緯 35 度 47.3 分,東経 139 度 18.7 分). な脳梗塞初発症例を対象として,脳塞栓と脳血栓に. の過去の平均気温を参考にした.統計処理は. 分類し,その発症時期の季節性と気圧配置パターン. StatView 5.0 で行い,p<0.05 で有意とした.. の違いについて統計学的に分析したので報告する.. 2. 対象と方法 2.1. 対象. 3. 結果 3.1. A 群と B 群の比較 A 群と B 群の人数,平均年齢,性別,高血圧(収. 2008 年 10 月から 2019 年 9 月までの過去 11 年間. 縮期血圧 140mmHg 以上または拡張期血圧 90mmHg. に当院で rt-PA 療法を実施した脳梗塞初発患者のう. 以上)の既往,糖尿病(空腹時血糖値≧126mg/dl. ち,心原性(非弁膜症)脳塞栓と診断した 90 例(A. または 75g 糖負荷試験 2 時間値≧200mg/dl,あるい. 群)と脳血栓(アテローム型およびラクナ型)60. は随時血糖値≧200mg/dl)の既往,心房細動の既往,. 例(B 群)の合計 150 例を対象とした.rt-PA 療法. 脂質異常症(LDL コレステロール≧140mg/dl,HDL. を実施するにあたっては,日本脳卒中学会が発行す. コレステロール<40mg/dl,トリグリセライド≧. る「rt-PA 静注療法適正治療指針」の当時の最新版. 150mg/dl ま た は non-HDL コ レ ス テ ロ ー ル ≧. (2005 年,2012 年第二版,2019 年第三版のいずれ. 170mg/dl)の既往についての内訳は Table 1 に整理. か)を遵守した.発症時刻の確認は,患者の家族等. した.A 群は B 群よりも統計学的に有意に年齢が. から聴取し「〇時〇分頃」と特定するようにした.. 高く(p<0.0001, 対応のない t 検定),心房細動の. 心原性(塞栓性)と血栓性の鑑別は,心房細動(発. 既往が多かったが(p<0.0001,同検定),性別,高. 作性も含む)の有無,心臓超音波検査所見,脳梗塞. 血圧,糖尿病,脂質異常症の既往については有意な. 巣の数・場所・大きさなどから総合的に判断し,動. 違いを認めなかった..

(3) ( 129 ). 脳塞栓と脳血栓の発症に関する生気象学的検討. p=0.0362,フィッシャーの直接確率法,以下同じ). 一方,11 月は A 群のほうが B 群よりも有意に多か った(p=0.0396).. (cases) 16. *. 14. Number of cases. Table 1. Characteristics of cerebral embolism (Group A) and thrombosis (Group B) p value Group A Group B (unpaired t-test) Number 90 60 NA4) Mean age±SD 78.9±8.3 70.7±14.1 <0.0001 Men 46 37 Sex 0.2053 Women 44 23 Hypertension1) 62 39 0.6216 Diabetes 15 16 0.1403 Mellitus2) Atrial 81 1 <0.0001 fibrillation Dyslipidemia3) 16 12 0.7343 1)systolic blood pressure ≧ 140mmHg or diastolic blood pressure≧90mmHg 2)fasting blood sugar≧126mg/dl, 75g oral glucose tolerance test (2-hour values)≧200mg/dl or casual blood glucose≧ 200mg/dl 3) LDL-cholesterol ≧ 140mg/dl, HDL-cholesterol<40mg/dl, triglyceride≧150mg/dl or non-HDL-cholesterol≧170mg/dl 4)not available. 12 10. Group A. *. 8. Group B. 6. *. * p<0.05. 4 2. 0 Month. Fig.1. Number of cases in cerebral embolism (Group A) and thrombosis (Group B) by months. 季節は,平均気温の最も高い 3 ヶ月を「夏季」, 最も低い 3 ヶ月を「冬季」と定義すると,2008 年. 3.2. 発症月・季節・時間帯について. 10 月~2019 年 9 月の青梅観測所のデータ(Table 2). 発症月別にみると,Fig. 1 のようになる.A 群で. によれば,7~9 月が「夏季」,12~2 月が「冬季」. は 11 月,1 月,12 月の順に多く,8 月,9 月,5 月. となる.夏季では A 群 13 例,B 群 18 例と B 群が. に少ない傾向がみられ,B 群は 9 月に最も多く,6. 有意に多く(p=0.0248) ,冬季では A 群 30 例,B 群. 月,11 月,12 月に少ない傾向が見られた.両者を. 16 例と A 群が多い傾向があったが,有意な違いは. 比較すると,8 月と 9 月はそれぞれ B 群のほうが A. なかった(p=0.4705) .. 群よりも統計学的に有意に多かった(p=0.0379, Table 2. Monthly mean temperature measured at Ome Observatory between Oct. 2008 and Sep. 2019. Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec. 2008. 17.1 10.4 6.7. 2009 4 5.4 7.9 13.7 18.5 21.1 24.6 24.9 21.1 16.3 11 6.4. 2010 3.6 4.2 7.2 10.9 17.3 22.2 26.3 28 23.5 17 10.7 6.8. 2011 2.2 4.8 6 12.6 16.8 21.6 25.9 25.7 22.9 17 11.9 4.5. 2012 1.8 3 6.7 12.5 17.5 20 25.3 27.2 23.8 17 9.5 4.2. 2013 2.6 3.6 9.9 12.7 18.1 21.4 25.8 27.2 22.7 17.8 9.9 5. 2014 3 3.1 8.1 12.9 18.6 21.6 25.1 26 21.2 16.6 11.4 4.2. 2015 3.6 4.2 8.6 13.5 20 21.1 25.5 25.5 21.3 16.7 12.4 7.3. 2016 3.8 5.1 8.7 14.2 19.2 21.4 24.4 26 23.3 17.2 10 6.7. 2017 3.8 5.1 6.9 13.5 19.1 21.1 26.6 25.4 21.7 15.8 9.7 4.3. 2018 2.5 3.3 10 15.5 18.9 21.8 27.9 27.3 21.7 17.5 12.2 6.4. 2019 3.3 5.3 8.7 12.4 18.9 20.8 23.4 27.3 23.8. Mean 3.1 4.3 8.1 13.1 18.4 21.3 25.5 26.4 22.3 16.9 10.8 5.7. Unit: ℃ Referenced to Japan Meteorological Agency (URL: http://www.jma.go.jp/jma/). 時間帯は,1 時間ごとの発症数をグラフにすると. りも有意に多く(p=0.0357),午後 2~7 時と午後. Fig.2 のようになる.午前 6~7 時は B 群が A 群よ. 11~午前 5 時はそれぞれ A 群が B 群よりも有意に.

(4) ( 130 ). 福永篤志,ほか. 4.1. 脳梗塞の分類. 多かった(p=0.007,p=0.0467).. 脳梗塞はアテローム型,ラクナ型,心原性の 3 (cases). *. 型に大別され,前 2 者が血栓性,後1者が塞栓性に. *. *. 分類される.血栓性脳梗塞(脳血栓)は,通常,動 脈硬化を主原因として比較的細い動脈が閉塞する. Number of cases. 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0. Group A. ことによって起こるが,塞栓性(脳塞栓)は,主に. Group B. 心房細動による不整脈を原因として心房内で血液. * p<0.05. が澱むことで凝血塊が発生し血流にのって脳内へ. 0 am~ 1 am~ 2 am~ 3 am~ 4 am~ 5 am~ 6 am~ 7 am~ 8 am~ 9 am~ 10 am~ 11 am~ 0 pm~ 1 pm~ 2 pm~ 3 pm~ 4 pm~ 5 pm~ 6 pm~ 7 pm~ 8 pm~ 9 pm~ 10 pm~ 11 pm~. と運ばれ比較的太い動脈が突然閉塞することで発. Time zone. 症する.すなわち,脳血栓の原因は動脈血栓,脳塞 栓の原因は静脈血栓とも表現され(北川ら, 2009), 両者の発生機序は異なる.. Fig.2. Number of cases in cerebral embolism (Group A) and thrombosis (Group B) hour by hour. 4.2. rt-PA 療法について 脳梗塞の治療は発症後速やかに開始することが. 3.3. 気圧配置パターンについて 各気圧配置パターン別に A 群と B 群の発症数を 比較すると Fig.3 のようになる.両群とも,移動性 高気圧型(Ht),その他低気圧型(L),西高東低型 (W)の 3 つのパターンが多かったが,その他高気圧 型(H)は B 群のほうが A 群よりも有意に多かった (p=0.0166).. 望ましい.超急性期の治療薬である rt-PA(一般名: アルテプラーゼ)は,2005 年から 2012 年までは発 症後 3 時間以内に使用が限定されていたが,2012 年以降は適応時間が延長され発症後 4 時間半以内 であれば静脈内に注入して投与することができる ようになった.rt-PA の薬理作用により血栓塞栓が 溶解し閉塞した血管が再開通することで手足の麻 痺,失語,意識障害などの比較的重い症状が劇的に. (cases) 20. 回復する可能性がある.rt-PA 療法は,全 3 型の脳. Number of cases. 18. 梗塞に適応はあるが軽症例は除外され,禁忌事項や. 16 14. Group A. *. 12. Group B. 10 8. * p<0.05. 6. は日本脳卒中学会発行の「rt-PA 静注療法適正治療 指針」に則り本人または家族への説明と同意を得て 行われる.すなわち,rt-PA 療法が実施された症例. 4. は比較的重症で,かつ発症時刻が判明しているとい. 2 0. 慎重投与などの詳細が定められており,投与の際に. Fn. Fs. H. Hb. Ht. L. Ls. Lt. S. T. W. Atmospheric pressure pattern. Fig.3. Number of cases in cerebral embolism (Group A) and thrombosis (Group B) by types of atmospheric pressure pattern Fn: stationary front (north type), Fs: stationary front (south type), H: other high-pressure type, Hb: anticyclone belt type, Ht: migratory anticyclone type, L: low pressure type, Ls: low pressure along the south coast type, Lt: pressure trough type, S: southern high pressure and northern low pressure type, T: typhoon and extratropical cyclone type, W: high pressure to the west and low pressure to the east type. 4. 考察. う特徴がある.本調査の対象も,すべて救急搬送さ れた比較的重症例であり,家族の強い希望で行った 2 例を除き,発症時刻がほぼ特定されていた. 4.3. 脳梗塞の季節性 脳梗塞の発症には季節性があると考えられてい る.全国労災病院における脳卒中患者 46,000 例の 調査によれば,ラクナおよびアテローム血栓性梗塞 では夏に急増し1月に再増加という 2 峰性がみら れ,心原性脳塞栓では冬場のみ多発したという(豊 田,2011).また,我が国 10 年間の脳卒中登録デー タベース 35,631 例の分析によれば,非心原性脳梗 塞は冬よりも夏に有意に多く,一方,心原性脳梗塞.

(5) 脳塞栓と脳血栓の発症に関する生気象学的検討. ( 131 ). は夏よりも冬に有意に多かった(Takizawa et al.,. 度程度低く冬は数度低いという寒暖差に特徴があ. 2013).単一医療機関における 5 年間の調査でも,. る.今回,11 月という季節の変わり目に脳塞栓が. 心原性脳梗塞は冬に有意に多かったが,非心原性脳. 有意に多かったのは,気温差その他気象因子の影響. 梗塞は,夏に弱いピークが見られたものの統計学的. が考えられ,今後の研究課題である.. に有意な違いは認めなかった(Toyoda et al., 2018). 夏に脳血栓(非心原性脳梗塞)が多い理由としては,. 4.4. 脳梗塞の発症時刻. 血小板凝集機能が増強されることや血液過粘調が. ラクナ梗塞と心原性脳塞栓は,午後活動時(0~6. 考えられており(Takizawa et al., 2013),豊田も,. 時)に有意に多く,ラクナ梗塞では,午後活動時発. 猛暑で熱中症が多発する状況下では同時に脳血栓. 症群に次いで早朝(午前 0~6 時)発症群が多かっ. が多発しても矛盾しないと述べ(豊田,2011), 「夏. たという報告がある(馬渕ら,2000).午後活動時. 血栓」が警告されている.冬に脳塞栓が多発する理. に多い理由としては,活動性の上昇により交感神経. 由としては,冬の寒さで高血圧と心房細動が発生し. 系が優位となり血圧が上昇することや,夏には発汗. やすいことに加え,とくに高齢者では冬に感染症を. 多量により脱水状態に陥りやすいことなどから,血. 患い凝固系が亢進し心臓内血栓を促進するのでは. 栓あるいは塞栓が形成された可能性が考えられる.. ないかと考察されている(Takizawa et al., 2013).. また,早朝発症群が比較的多い理由としては,血圧. もっとも,地球温暖化が注目され始めた 1980 年. の日内変動と脳灌流圧の低下の影響が,ラクナ梗塞. 代以降とくに冬季の平均気温が上昇傾向にあり,日. を起こすような,より末梢の灌流域において大きい. 本の四季の境界が不明瞭となりつつある.上記 3. 可能性が考えられている(馬渕ら,2000).. つの報告は,いずれも春(3~5 月) ,夏(6~8 月),. 本調査では,午前 6 時台という起床時間帯には脳. 秋(9~11 月),冬(12~2 月)と四季を形式的に定. 血栓が多く,午後 2~7 時という活動時間帯と午後. 義しているが,そもそも季節は 3 ヶ月ごとに 4 等分. 11~午前 5 時という就寝時間帯には脳塞栓が多か. すべきなのか,北海道と九州・沖縄では気候が全く. った.起床時間帯に脳血栓,活動時間帯に脳塞栓が. 異なるのに全国一律に同じ季節分類でよいのかと. 多かったことは上記報告と合致している.就寝時間. いった疑問が残る.. 帯に脳塞栓が多かった理由としては,睡眠中は血圧. 本調査は,単一医療機関における 11 年間に及ぶ. が下がり,かつ体動が少ないので血流が停滞しやす. 脳梗塞症例の検討であって,しかも救急搬送され. いこと,寝汗をかく一方水分補給ができないので脱. rt-PA 療法が実施された比較的重症な症例を対象と. 水状態に陥りやすいことなどが考えられる.. して行った研究である.単一医療機関であることか ら,脳梗塞の発症時刻における医療圏内の気象状況 を調査しやすく,脳梗塞の発症について生気象学的. 4.5. 脳梗塞と気圧配置パターンとの関係 ヒトの体調は,気温だけでなく気圧の影響も受け. 検討を行いやすいという特徴がある.四季について,. ている.天気が崩れ気圧が下がると関節痛等の慢性. 当院に最も近い青梅観測所における過去 11 年間の. の痛みが増強することは日常的によく知られてお. 平均気温を基準に「夏季」と「冬季」を定義したと. り,気圧変化による痛みの増強には内耳の気圧感受. ころ,夏季は 7~9 月,冬季は 12~2 月となり,夏. メカニズムが関与すると指摘されている(Funakubo. 季は脳血栓のほうが脳塞栓よりも有意に多かった.. et al., 2010; Sato et al., 2019).気圧が低下すると尿. 理由の 1 つとして,高温による脱水で血液粘調度が. 管結石による疝痛の発現頻度が増加するという報. 上昇し血栓が形成されやすくなったものと推察で. 告もある(Fujita, 1988).また,寒冷前線の通過時. きる.脳塞栓は冬季に発症することが多かったが,. には,寒冷前線のない他の天気図型と比較して,1. これは上記 3 つの報告と同様の結果であり, 理由と. 日 2 件以上の心筋梗塞が発生する確率が最も高か. してはやはり低温による血圧上昇や不整脈の増発. ったという報告がある(松村ら,2004).心筋梗塞. 等が考えられる.当院およびその周辺は,武蔵野台. は血栓性疾患であって動脈硬化が主たる原因であ. 地の西端に位置し,関東山地東端の奥多摩の入り口. るという点は脳梗塞(脳血栓)と共通している.し. にあたることから,東京都心と比べ,気温が夏は 1. かし,気圧配置パターンと脳梗塞発生との相関性に.

(6) ( 132 ). 福永篤志,ほか. ついて調査した報告は,われわれが調べた限り見当. の発症予防及び症状進行を抑えることに繋がると. たらなかった.気圧配置パターンにより気温,気圧,. 指摘されている(丸岡ら,2019).もっとも,心臓. 湿度,風速,日照時間などさまざまな気象要素が変. 病や腎臓病などで飲水制限を課されている場合や,. 化するので,気圧配置パターンがヒトへの体調に影. 過度の飲水により水利尿をきたし夜間頻尿となる. 響を及ぼしているのは間違いないであろう.. 場合もあるので,適切な飲水量は患者ごとに指導す. 本調査では, その他高気圧型の気圧配置パターン. る必要がある.また,水ではなくお茶のみを好んで. の際に脳血栓が脳塞栓よりも有意に多く発生した.. 飲む患者もみられるが,お茶には利尿効果を持つも. 高気圧の大気状態がヒトに対し塞栓よりも血栓の. のや,尿路結石の原因となるシュウ酸を含有するも. 形成に何らかの影響を及ぼしている可能性が考え. のもある(宮澤ら,2004).利尿効果の強いカフェ. られる.もっとも,移動性高気圧型と帯状高気圧型. インを含有するお茶を飲みすぎると, むしろ脱水と. の配置の際も含めて高気圧型全体の配置パターン. なってしまう可能性がある.また,シュウ酸含有量. で比較すると両者脳梗塞の発生数に有意な違いは. の多いお茶を飲みすぎると尿路結石症の原因とな. 認められないことから,単純に高気圧だと脳血栓が. るおそれがある.そのようなお茶のみを脳梗塞予防. 起こりやすいと断言することはできない.ただ,そ. に摂取することは推奨できない.. の他高気圧型の場合,移動性高気圧型や帯状高気圧. なお,本調査は,一施設における臨床データに基. 型よりも周期が比較的短いため,短期間の気圧変動. づく調査研究であり,結果の解釈は全国共通という. が関係している可能性がある.今後症例数を増やし,. わけにはいかないかもしれない.また,rt-PA 療法. 各気象要素にも着目した研究が必要だろう.. が施行された患者に限定したデータであるから,ご く軽度の脳梗塞の症例も含めると結果が多少異な. 4.6. 脳梗塞の発症メカニズムと予防法. る可能性がある.. 脳血栓と脳塞栓は 4.1 で述べたように発生機序が. 5. 結語. 異なるので,年齢や既往歴に相違があることは既知 のとおりである.動脈硬化や不整脈が脳梗塞の主た. 脳血栓と脳塞栓は,好発季節・月・時間帯,およ. る原因であって,脳梗塞予防には,これらの病態・. び気圧配置パターンに統計学的に有意な違いを認. 疾患の進行を抑制しコントロールすることが重要. めた.これは,動脈硬化や不整脈の有無といった体. であることはいうまでもない.ただし,動脈硬化や. 内環境だけが脳梗塞の発症に関与しているのでは. 不整脈があれば必ず脳梗塞を発症するというわけ. なく,体外環境である気温や気圧,湿度,日照時間. ではなく,動脈硬化が軽度あるいは不整脈がなくて. などといった気象要素やヒトの生活リズムが脳梗. も脳梗塞を発症してしまうことがある.今回,好発. 塞の発症に影響を及ぼす可能性があることを示唆. 季節・月・時間帯,そして気圧配置パターンにも有. している.脳梗塞の原因となる基礎疾患(動脈硬化,. 意な違いがみられたことは,ヒトの生活パターンや. 心房細動など)を有する患者に対し,日常生活にお. 気象変化が脳梗塞の発症に影響を及ぼしているこ. ける脳梗塞の予防法の 1 つとして脱水予防が有効. とを示唆するものといえ非常に興味深い.脳梗塞の. と考えられる.われわれ医師は,基礎疾患の管理に. 発症に関与する因子として,高温や発汗多量等によ. 加え,とくに好発季節・月・時間帯には脱水を避け. る脱水のほか, 様々なストレスによる血圧上昇や血. るように適度な飲水補給等の指導を行う必要があ. 管攣縮(動脈が収縮して内腔が一過性に細くなる現. るだろう.予防法の確立に向け,さらなる調査に期. 象)等が考えられる.脳梗塞の発症メカニズムが解. 待される.. 明されれば,年間約 6 万人の死者を生む脳梗塞に対 し効果的な予防策を講じることができ,社会的な貢 献度は極めて大きい. 脳梗塞の発症には,血栓性,塞栓性のいずれのタ イプであっても脱水による血液粘度の上昇が関与 していると考えられ,飲水による脱水予防は脳梗塞. 引. 用. 文. 献. Fujita, K. (1988): Influence of the weather on ureteral stone colic. Nihon Jinzo Gakkai Shi, 30(3): 59-66. Funakubo, M., Sato, J., Honda, T., and Mizumura, K. (2010): The inner ear is involved in the aggravation of.

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Table 2. Monthly mean temperature measured at Ome Observatory between Oct. 2008 and Sep

参照

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