114 日本不動産学会誌/Vol.33No.4・2020.3
<私法>
概況 判例時報2409号~2423号、判例タイムズ1463号~1465 号に登載された注目すべき判例の中から、ここでは、土 地改良区が河川法23条の許可に基づいて取水した水が流 れる水路への第三者の排水により当該水路の流水につい ての当該土地改良区の排他的管理権が侵害されたとした 原審の判断に違法があるとされた事例を紹介する。 最一判令和元年 7 月18日(使用料請求事件)、破棄自判、判タ1465 号52頁 【事案】 土地改良法に基づき設立された土地改良区(法人)で あるXは、徳島県から、河川法23条に基づき、水利使用 の許可を受け、地区内の農業用の用排水路(以下「本件 水路」)を所有権又はこれに準ずる排他的管理権に基づ いて維持管理しており、Xの組合員が農業用の用排水路 として使用している。なお、本件水路は、いわゆる法定 外公共物と解されるもので、国から徳島市に譲与された が、実際の維持管理はXが行ってきたという経緯がある。 Xは、その定款等において、本件水路へXに無断で汚水 を放流することを禁じており、本件水路等を使用しよう とする者はXと契約を締結してX所定の使用料を支払わ なければならない旨を定めている。 他方、本件水路の周辺に土地建物を所有等するYらは、 同地に公共の下水道が整備されていないこと等から、X に断りなく本件水路に浄化槽の排水を放流していた。そ こでXは、Yらに対し、不当利得返還請求権に基づき、 本件水路使用料相当額の金員の支払を求めた。 1 審は、Yらに利得があるとしても、Xに損失がある とは認められないとして、Xの請求を棄却した。原審は、 河川法23条の許可に基づく流水占用権は排他的に流水を 占用する物権的な権利であるから、Xは同条の許可を受 けて取水した水が流れる本件水路の流水について排他的 管理権を有し、Yらによる本件水路への排水によりXの 上記排他的管理権が侵害され、Yらに不当利得が生じた 等と判示した。Yらが上告受理申立て。破棄自判。 【判旨】 Xは、本件水路にXが河川法23条の許可に基づいてか んがいの目的で取水した水が流れていることから、その 水について当該目的を満たすために必要な限度で排他的 に使用する権利を有するとはいえるものの、直ちに第三 者に対し本件水路への排水を禁止することができるとは いえない。原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違 法がある。 【コメント】 河川法23条は、河川の流水を占用しようとする者は、 河川管理者の許可を得なければならない旨を定めている。 流水のうち一定量を取水して使用することができる権利 は、実務上「水利権」と呼ばれており、同条の許可を受 けた取水利益は「許可水利権」と呼ばれる。水利権の法 的性質については諸説あるものの、物権的性格を有し、 許可された流水の占用が第三者により妨害された場合又 は妨害されるおそれがある場合には、その妨害を排除し、 予防し又は回復することができると解されている。もっ とも、その内容は、流水に対する全面的な支配権ではな く、流水を許可された範囲内で私的に使用する権利であ り、許可に係る使用目的を満たすために必要な限度の流 水を使用しうる権利と解され(最三判昭和37年 4 月10 日)、自己の必要な範囲を超えて第三者の流水の使用を 排斥したり、第三者にこれを使用させたりする権能まで 有するものではないと解されている。本件は、流水の使 用や取水ではなく「排水の放流」が許可水利権を侵害す るかが争われた。そして、本件水路はいわゆる法定外公 共物と解され、国から市町村に譲与されたにもかかわら ず、本件水路は土地改良区であるXが農業用の用排水路 として事実上の維持管理を継続しており、その法的関係 が明確でなかった点に特徴のある事件への判決である。 昨今、農業者と非農業者との混住化が進み、従来は一 致していた用排水の利用者と費用負担者が一致しなく なった。これにより、非農業者からの排水路の使用料で 収益を確保する土地改良区がある一方で、ごみ処理で大 きな負担がかかる土地改良区も多いとされる。この点、 小池裕裁判官が補足意見で述べるように、本件水路では、 公的財産である法定外公共物として法令等に基づいて管 理されるべきものであるところ、国から本件水路の譲与 を受け、その管理権限を有する徳島市と、本件水路を使 用し、その維持管理を行ってきたXとの法的関係が明確 でなかったことが、紛争発生の一因となったといえる。 水路の慣習的な維持管理の意義や蓄積をどう見るか。 水路の維持管理やその費用負担の在り方については、自 治体やその多様な利害関係者と旧来の土地改良区のあり 方について、法的関係のみならず、互いの役割を再確認 したうえで整理・検討する必要があるだろう。 (長 友昭 拓殖大学政経学部准教授) ●最近の不動産関係判例の動き
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