CCTでの水素存在状態と脆化評価方法
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(2) CCT での水素存在状態と脆化評価方法. 62. 繰り返しにより水素が侵入する。この脆化を評価. たピーク分離で得られた値 16)を基にし,試行錯誤. するため,実体締付ボルトを大気中に暴露し破断. 的に決定した。対象の TDA 曲線は,多くの研究. 5). 状況が調査 される。長期間かつ多数の実験が必. 機関により分担実施されたものであるが,鋼種毎. 要である。人工的な乾湿繰返しにより腐食を促進. に統一的なパラメータとすることができた 11)。. し,曝露後の試験片を用いた脆化試験や侵入水素 6). 上記の手法で分離した各トラップ水素は,. 量の測定 が行われる場合も多い。しかし,水素. Fermi-Dirac 統計 17)により格子間サイトの水素と関. 量や水素脆化破壊を再現できない場合が多く,破. 連付けられる。すなわち,格子間サイトでの水素. 7) -9). 壊の再現には工夫が必要である. の占有率を θL とすると,i 番目のトラップサイト. 。. 各種環境からの水素侵入量の測定についての共. でのトラップ水素量を Hi とすると,. 10). 同研究が日本鉄鋼協会にて実施され報告 されて いる。共通素材を用いて多数の研究機関がそれぞ れの得意とする試験技術や試験装置を用い,昇温. 𝐻𝑖 = 𝛼𝑁𝑖. 𝜃𝐿 βi exp(𝐸𝑏,𝑖 ⁄𝑅𝑇) 1 + 𝜃𝐿 βi exp(𝐸𝑏,𝑖 ⁄𝑅𝑇). ⑴. 脱離分析(TDA)が行われている。各種の試料(無. で与えられる 11)。ここで,Eb,i は結合エネルギーで. ひずみ/予ひずみの SCM435 鋼,無ひずみの V 添. あり,既報11)において,トラップサイト毎に決定. 加鋼)を,複数の研究機関で各種方法により水素. している。R は気体定数,T は絶対温度である。. 添加し,TDA 測定により水素量を測定した。. ⑴式では,トラップによるエントロピー変化を考. この結果を用い,ガウス分布によりトラップサ. 慮しており,1/βi を前指数因子として導入した。. イト毎に分離し,水素の存在状態を定量的に評価. また,Ni はトラップサイトの数密度(1/m3) ,α は. している11)。また,水素の進入挙動について解析を. トラップされた水素原子の数密度(1/m3)をト. 12). 行っている 。. ラップ水素量(ppm)に換算する数値であり,2.13. 本報では,V 炭化物により多量の水素を強くト ラップできる V 添加鋼を用い,CCT(Cyclic Corrosion Test)曝露での水素侵入挙動を詳しく調査した。 そして,CCT 曝露での各種トラップ水素量の飽和 値から格子間サイトでの飽和水素濃度,すなわち 固溶水素量を求めた。さらに,この固溶水素量か ら CCT 曝露の代替え環境について検討した。. 2.TDA 曲線を用いた水素存在状態の 解析 11). 本報での解析には,既報 の水素存在状態の解 析結果を用いている。. ×10-25 とした。⑴式は,Eb,i が大きくないトラップ サイトについて, 𝐸𝑏,𝑖 𝐻𝑖 = 𝛼𝑁𝑖 𝜃𝐿 𝛽𝑖 exp ( ) 𝑅𝑇. ⑵. により近似される。 ⑴式あるいは ⑵用いて,各トラップ水素量 Hi と全トラップ水素量(∑Hi )が θL を介して関係 付けられる。この関係が,ピーク分離での結果と フィットするように,パラメータ Ni と βi を定め た。Fig. 1 と Fig. 2 に SCM435 鋼無ひずみ材と V 鋼(無ひずみ材)での結果を示す。ここで,トラッ. 共同研究での TDA で得られた水素放出曲線 (TDA 曲線)にガウス分布を適用してサイト毎の 11). プサイト A0(セメンタイト) ,A1(転位)および A2(粒界)について,⑵式を用い,βi=1 とした。. トラップ水素量を分離定量した 。 このようなピー. さらに,SCM435 鋼無ひずみ材でのトラップサイ. ク分離において,ピーク温度とピーク幅(標準偏. ト A1 および A2 のトラップサイト密度 N1 および. 差)はトラップサイト毎に一定値であるとし,実. N2 については,別報 15)での McNabb-Foster による. 測の TDA 曲線を異なるトラップサイトからの放. 放出曲線の再現の際の値を用い,整合性を与えた。. 出曲線の重ね書きで再現した 13)-15)。. なお,V1 および V2 は V 添加鋼での V 炭化物に. ピーク分離のためのパラメータは,以前に行っ 12. よる二種類のトラップサイトを指す。 圧力技術. 第59 巻第 2 号.
(3) 圧. 力. 術. 63. Table 1. 2 A0. Peak temp. (PT) and peak width (PW) for fitting TDA curves. (V steel, CCT). U nstra ined. A1. A1. A2. A0. A0 27 20. PT PW. A2. 1. A1 98 25. A2 134 24. V1 161 32. V2 212 45. FermiDira c 2.1. Hydrogen for open symbols (ppm). Trapped hydrogen (ppm). 技. 0. 0. 1. 2. 3. 4. 5. Total hydrogen (ppm). Fig. 1 Correlation between the amount of trapped hydrogen and total hydrogen. (Unstrained SCM435 steel). 1.8. A1. A2. V1. V2. V2. 1.5 1.2. 0.9 V1 0.6. A1. 0.3 A2. 0. Trapped hydrogen (ppm). 0. 4. A0. A1. V1. V2. Fig. 3. V1. 2. A1 A0 A2. 0 3. 6. 9. 12. 3. 4. Extrapolation of trapped hydrogen by error function and comparisonn with the estimated amounts of trapped hydrogen. (V containing steel). CCT 曝露が長いと増加する。しかし,どこまでも 増加し続ける訳でなく,水素侵入環境に応じた一. Total hydrogen (ppm). Fig. 2. 2. Duration of exposure (week). A2. V2. 0. 1. Correlation between the amount of trapped hydrogen and total hydrogen. (Unstrained V steel). 定値に収束する筈である。そこで,各トラップ水 素量 Hi を誤差関数 erf で近似することを試みた 12)。 Hi=a i erf(bt). ⑶. 3.V 添加鋼の CCT 曝露での水素存在 状態. ここで,ai はトラップサイト毎の定数であり,t は. V 添加鋼の無ひずみ材から直径 8mm の試験片を. い定数としている。CCT 期間 t が 0 の時に Hi=0. 機械加工し,CCT 曝露を行った。JASO M609-91. であり,トラップサイト毎に 2 点の測定値がある. の規定に従い,塩水噴霧(35℃,5 %NaCl)2 h,乾. ため, ほぼ一意的に係数 ai および b を決定できる。. 燥(60℃,RH20~30%)4 h,湿潤(50℃,RH95%. 得られた曲線を Fig. 3 中に破線で示す。各トラッ. 以上)2 h を 1 サイクルとし,1 あるいは 2 週間(21. プ水素量は 3.5 週間曝露で飽和すると考えられる。. あるいは 42 サイクル)の CCT 曝露を実施した。. 2 週間の曝露でも飽和値に近い。なお,A2 水素量. TDA 曲線は,ガスクロマトグラフ(GC)で測定さ. はトラップ量が少ないためか,1 週間曝露と 2 週. れた。. 間曝露で差異が少なく,⑶式での近似からずれて 11). これらの TDA 曲線について,別報 でのピー. CCT 期間である。b をトラップサイト種によらな. いる。. ク温度(PT)およびピーク幅(PW)を参照して. 平井ら 18) は,V 添加鋼と推定される引張強さ. ピーク分離した。参照元の PT と PW の値を. 1440 MPa の高力ボルトを用い,3.5% NaCl 水溶液. Table 1 にまとめている。A0 水素は脱離してし. への 10 分浸漬と 50 分の乾燥を繰り返す江頭式観. まっており,ピーク分離されなかった。. 覧車による腐食加速試験で実体締付ボルトを 150. Fig. 3 に 示 す よ う に ,各トラップ水素量は JHPI Vol. 59 No. 2 2021. 週間と十分長い期間曝露し,1.75 ppm 程度の吸蔵 13.
(4) 64. CCT での水素存在状態と脆化評価方法 1E-3. 素量と V2 水素量の合計と考えると,Fermi-Dirac. 1E-4. 統計から V1 および V2 水素量は 0.34 および 1.41. 1E-5. (a ). Cathodic 1mA/cm2. U nstra ined Stra ined V steel. qL. 水素量を測定している。この吸蔵水素量が V1 水. ppm である。この値を Fig. 3 中に*印で示す。今. 1E-6. 回の 2 週間曝露,あるいは飽和値よりも少ない。. 1E-7. CCT による曝露は水素侵入への促進効果が大きい. 1E-8 A0. A1. といえる。. A2 B / V1 Tra p site. C / V2. 1E -3. 4.各種環境と平衡する格子間水素量. FIP. (b). 1E -5 1E -6. 子間サイトでの水素濃度,すなわち水素の占有率. 1E -7. θL が重要である。そこで,前述の共同研究 10) で測. 1E -8. 定された陰極電解,FIP 浴浸漬および CCT 暴露で. A0. の θL を試算をした。陰極電解は,3 g/ℓ の NH4SCN. A1. A2 B / V1 Tra p site. 1E -4. CCT. (c). 2. 3 %NaCl 水溶液中で,常温,電流密度 1 mA/cm の. 1E -6 1E -7. 3 章の方法によった。供試材は,共同研究での. 1E -8 A0. SCM435 鋼無ひずみ材(Unstrained)および予ひず これらの TDA 曲線をピーク分離し,得られた各 トラップサイトでの水素量に対し,2 章の⑴式あ るいは⑵式を適用し,θL を逆算した。勿論,式中. U nstra ined Stra ined V steel. qL. 1E -5. 水溶液(FIP 浴 19))への浸漬であり,CCT 曝露は,. み材(Strained) ,そして V 添加鋼(V steel)である。. C / V2. 1E -3. (チオシアン酸アンモニウム)を加えた 条件であった。FIP 浸漬は,50℃の 20%NH4SCN. U nstra ined Stra ined V steel. qL. 環境から鋼材に侵入する水素を考える際に,格. 1E -4. Fig. 4. A1. A2 B / V1 Tra p site. C / V2. Hydrogen occupancy at lattice site in the case of ⒜ cathodic charging (1mA/cm2), ⒝ soaking in FIP solution and ⒞ CCT exposure.. のパラメータ(Ni,βi,Eb,i)は 2 章で記したように, 既報 11)で得られた値を用いた。. 一定値であり,環境の水素侵入能の尺度となって. 得られた θL をトラップサイト毎に,Fig. 4 にプ. いる。なお,FIP 浸漬では,A0 サイトでの占有率. ロットしている。三種の供試材に共通のトラップ. θL が低下している。これは,A0 サイトと水素の結. サイト A0(セメンタイト) ,A1(転位)および A2. 合エネルギーが小さく,測定までに放出されやす. (粒界)のほか,予ひずみ材ではトラップサイト. かったことを示している。. B(空孔)および C(空孔クラスター) ,V 添加鋼. Fig. 4⒞の CCT 曝露の場合は,鋼材により様相. では V 炭化物の二種類のトラップサイト V1 およ. が異なっている。結合エネルギーが大きいトラッ. び V2 と水素との結合エネルギーの大きさの順に. プサイト V1 や V2 を有する V 添加鋼では,Fig. 4. 示している。. ⒜や Fig. 4⒝の場合と同様に占有率 θL がほぼ一定. Fig. 4⒜や Fig. 4⒝が示すように,陰極電解や FIP. 値となっている。予ひずみを加えた SCM435 鋼で. 浴浸漬で,鋼材の種類や予ひずみの有無によらず. は,結合エネルギーが大きい C トラップでは,占. θL が一定値となっている。水素侵入量が多かった. 有率 θL が V 添加鋼のレベルに近い。水素との結. Fig. 4⒜の陰極電解が,Fig. 4⒝の FIP 浴浸漬より占. 合エネルギーが B,A2,A1 と減少すると,占有率. 有率 θL が大きい。このように,格子間サイトでの. θL が低下する。SCM435 鋼無ひずみ材では,B や. 水素占有率 θL は,鋼材の成分や予ひずみによらず. C などの強いトラップサイトを含んでおらず,. 14. 圧力技術. 第59 巻第 2 号.
(5) 圧. 力. A0,A1,A2 水素量から求めた占有率 θL は予ひず. 技. 術. 65. となる 20)。 つぎに,試料中の水素が格子間水素 C とトラッ. み材より小さい値にとどまっている。 CCT 曝露では水素の侵入と放出が繰返される。. プ水素 CT である場合を考える。C と CT とが局所. 水素侵入する場合,格子間サイトとトラップサイ. 平衡 CT=kC にあるとすると,拡散係数は D0/(1. トは局所平衡が保持される。しかし,放出過程は. +k),水素供給側の境界条件は (1+k)C0 であり,. トラップサイトからの離脱に律速され,侵入過程. ⑷式は. より遅くなる。このため,侵入放出の繰返しにと もない,トラップ水素量は増加していく。トラップ. 𝐽∞ =. 𝐷0 1 𝐷0 𝐶0 ∙ (1 + 𝑘)𝐶0 ∙ = (1 + 𝑘) 𝑙 𝑙. ⑸. サイトの結合エネルギーが大きいほど,トラップ 水素量が増加し,飽和に達しやすい。V 鋼での θL. となる。測定される J∞は,⑷式と同じものとな. がトラップ種によらず高い値で安定していたこと. る。水素がトラップサイトと局所平衡にあれば,. から,この θL が CCT 曝露環境との飽和値,すなわ. 定常透過速度はトラップサイトがない場合と同じ. ち平衡値を示すものと考えられる。Fig. 4⒞の V 添. である。定常状態では,水素はトラップサイトと関. 加鋼の占有率の平均から,4×10-7 が CCT 曝露で. 係なく拡散移動しているとみなすことができる20)。. の格子間サイトでの θL であると考えられる。. 同一の材料を異なる環境に曝し,J∞の違いによ. Fig. 4⒞で V 添加鋼での θL が一定値で安定して. り環境の厳しさを評価することができる。⑸式で. いる。CCT 曝露環境と平衡する格子間サイトの水. D0 は同一の材料のため,侵入環境によらない。. 素量,すなわち CCT 環境の逃散能を安定して評価. l を同一にすることにより,測定される J∞は C0 だ. するのに,V 添加鋼が適していることを示すもの. けと比例する。J∞は環境から侵入する水素量の多. であり,水素脆化への影響を示すものでない。こ. 寡を評価できる。. れまでの調査研究. 16). によれば,水素脆化感受性に. 次に,環境が同じで材料が異なる場合について. 影響が大きいのは粒界トラップ(A2)水素であ. 考える。炭素鋼や CrMo 鋼だけでなく,V 炭化物. る。格子間サイトとの A2 サイト平衡関係が水素. 析出が多量に存在する V 添加鋼においても,J∞が. 脆化に重要であるといえる。. 同一の環境に対して一定値となることが報告され ている 21)。この場合, D0 も鋼材によらないと仮定. 5.水素透過試験との対比. すると,C0 が一定であることになる。. 環境から鋼材に侵入する水素の挙動を見積もる. Fig. 4⒜と Fig. 4⒝において,格子間サイトの占. のに,水素透過試験を用いることがある。薄板試. 有率 θL が,予ひずみの有無だけでなく V 添加鋼に. 験片の片面より水素を添加し,他面より水素を引. おいても同等になっている。C0 は,θL と格子間サ. き抜き,電気化学的方法で水素透過速度を定量す. イトの数密度の積として与えられるため, C0 が鋼. ることが多い。. 材の種類に依存しないことが示される。これは,. 水素添加開始前の初期水素濃度を 0 とし,境界. 上記の D0 が鋼材に依存しないとの仮定が正しいこ. 条件として水素供給面で C=C0,引き抜き面で C. とを意味する。すなわち,定常透過速度 J∞の測定. =0 となるよう測定を行う。この時,水素の透過速. から,TDA 曲線の解析と同様に,侵入する水素量. 度は,試験時間とともに増加していき,一定値 J∞. の多寡を評価することができる。. に収束する。拡散係数を D0,試験片厚さを l とす. 水素の侵入環境によっては,上述のような定常 透過速度 J∞が得られない場合がある。CCT 曝露. ると,. のように侵入と放出を繰返しなら水素量が増して 𝐽∞ = 𝐷0 𝐶0 /𝑙. ⑷. いく場合がこれに当たる。4 章の TDA を用いる方 法では,V 炭化物のような強い水素トラップサイ. JHPI Vol. 59 No. 2 2021. 15.
(6) CCT での水素存在状態と脆化評価方法. 66. トを含む鋼材を用いると,環境の水素侵入能,す. 0.03 Desorption rate (ppm/min). なわち逃散能を求めることができる。これに対し, 水素透過試験では J∞が定まらず水素侵入能を決め られない。しかし,腐食の進行に伴う水素侵入を 刻々にモニターできる特徴を有している 22), 23)。. SCM435 Unstabilzined. 20% 5% 1% 0.1% 0.01%. 0.02. 0.01. 6.NH4SCN 水溶液での水素侵入. 0 0. 19). NH4SCN は前述の FIP 浴 の成分であり,鋼材 の水素脆化評価では広く使用されている化学物質 である。また,NH4SCN の濃度により水素添加量. 100. 200. 300. Temperature (℃). Fig. 5. TDA curves of specimens soaked in ammonium thiocyanate aqueous solution.. を調整する実験結果が報告されている 24)。 前記の研究会 10)では,この NH4SCN 水溶液の濃. Table 2. Parameters for fitting (℃) A0 A1 A2 PT 56 96 135 PW 24 24 24. 度を系統的に変化させた水素添加実験を行い, TDA 測 定 が 実 施 さ れて い る 。 共 通 試 験片 の SCM435 鋼無ひずみ材を直径 8mm 長さ 30mm の試 験片に加工し,50℃の NH4SCN 水溶液(20%,5%, 添加後の試験片をエメリー紙で研磨し,TDA によ り水素分析を行った。100℃/h の昇温速度で 600℃ まで測定している。 測定された TDA 曲線を Fig. 5 に示す。これらの 曲線を,ガウス分布を用いてピーク分離し,ト. 0.03 Desorption rate (ppm/min). 1%, 0.1%, 0.01%)に 48h 浸漬し,水素添加した。. 0.02. 0.01. 0. ラップサイト毎の水素量に分離した。ピーク温度. 0. 50. (PT)およびピーク幅(PW)は,別報 11)での結果 を参考に Table 2 に示す値である。ピーク分離の状. Fig. 6. プ水素量と全水素量の関係を Fig. 7 に示す。直線. られたθ L と溶液濃度(%NH4SCN)との間には Fig. 8 のような両対数グラフ上の関係が認められ. 200. 250. 300. 0.9 Trapped hydrogen (ppm). この時のパラメータを Table 3 にまとめている。得. 150. Example of peak separation by Gaussian distribution function.. 関係にある。 θL と Fermi-Dirac 統計による⑵式で関係付けられる。. 100. Temperature (℃). 況を Fig. 6 に例示する。分離で得られた各トラッ. 各トラップ水素量 Hi は格子間サイトでの占有率. 1% A0 A1 A2 Syn. 1% NH 4 SCN. A0. A1. A2. 0.6. A1 A2. 0.3. A0. 0. る。log (%NH4SCN)>-1 の範囲では. 0. 0.3. 0.6. 0.9. 1.2. 1.5. 1.8. 2.1. Total hyrogen (ppm). log(θL)=0.29×log(%NH4 SCN)-6.3. ⑹. Fig. 7. Relation between the amounts of trapped and total hydrogen.. が得られる。log(%NH4SCN)<-1 での垂れ下がり. される。NH4SCN は,酸として侵入水素の平衡水. は,TDA 測定開始までに試料から放出された水素. 素濃度を高め,触媒として侵入速度を上昇する。. の比率が全水素量に対して大きかったためと推察. log(%NH4SCN)が-1 より小さくなと,触媒効果. 16. 圧力技術. 第59 巻第 2 号.
(7) 圧. Table 3. 力. Parameters for fitting TDA curves scm435 steel specimens soaked in ammonium thiocyanate aqueous solution. Trap A0. 𝐸𝑏,𝑖 𝑁𝑖 (kJ/mol) (m-3) 17 1.25×1027. βi 1. A1. 23. 2×1026. 1. A2. 34. 2×1024. 1. 技. 術. 67. Table 4. hydrogen concentration at lattice site θL and amounts of tapped hydrogen in SCM435. θL NH4SCN A0 A1 A2 A1+A2 4×10-7 0.46 % 0.10 0.18 0.16 0.34 (4.1×10-7) 0.5% 0.10 0.19 0.16 0.35 A0, A1, A2:ppm. る 25)。Zn めっきを施して水素の脱離を防止し,低 ひずみ速度引張試験(SSRT)を行った。破断後に. -5. TDA により測定した吸蔵水素量が 0.35%を境に増 加すると,擬へき開破面に粒界破面が混在するよ. log (qL ). -6. うになり,破断強度が急激に低下し脆化していた。 なお,この遷移での応力は,切欠き引張強さの 0.9. -7. Y = 0.29・X - 6.3. 倍程度であった。前段で求めた 0.35 ppm の水素予 -8. -3. -2. -1. 0. 1. 2. log (% NH 4 SCN). Fig. 8. Double logarithmic relation between concentration of NH 4SCN aqueous solution and hydrogen concentration at lattice site θL.. 添加は過剰に水素脆化を生じるものでなく,水素 脆化感受性を適切に評価する水素量であると考え られる。. 7.大気曝露代替えの水素脆化評価 水素脆化感受性の評価において,水素を予添加. の急減する可能性も考えられる。. し,低速引張試験(SSRT)により破断強度を決定. Fig. 4⒞で CCT 曝露環境と平衡する θL を 4×. することが多い。破断までには時間を要するた. 10-7 とした。⑹式から,0.46% NH4SCN 水溶液で. め,水素の放出が生じやすく,配慮が必要である。. の平衡値にあたる。また,⑵式と Table 3 のパラ. Zn めっきなどによる脱離防止が考えられる。し. メータから,トラップサイト毎の水素量が計算され. かし,めっき施工中の水素脱離が免れない。脱離. る。これらを Table 4 にまとめている。%NH4SCN. を考慮して余分に水素量を添加することや,破断. を 0.5%とした場合についても併記している。両者. 試験後の水素分析が望まれる。. はほぼ同等の数値となっており,A1 水素量と A2 水素量の和(A1+A2)もほぼ 0.35ppm である。 6). Akiyama ら は乾湿繰返し材を 30℃,RH=90% の湿潤環境に 24 時間保持して水素吸蔵を再現し,. SSRT での水素脱離を防ぐのに,浸漬を継続す ることが考えらえる。水素脆化は高温で生じにく く,0℃近くで生じやすいことを念頭に置くと,試 験温度の管理が重要である。. TDA 測定により最大で 0.2 ppm 近くになる結果を. 6 章での Fermi-Dirac 統計の関係を用い,A0,. 得ている。A0 水素は CCT や湿潤処理では TDA. A1 および A2 トラップの分配への保持温度の影響. で測定されにくいと考えられ,この水素量は A1. を試算した。Fig. 9 に結果を示している。50℃の. 水素量と A2 水素量の和とみなせる。Table 4 が示. 0.5% NH4SCN 水溶液への浸漬後に-10℃~50℃. すように,0.5% NH4SCN 水溶液での A1 サイトと. に保持した時について,A0,A1 および A2 のト. A2 サイトの水素量の合計は 0.35 ppm であり,湿. ラップ水素量の合計が 0.45%の条件で計算した。. 潤処理での水素侵入を再現できている。. 温度が-10℃に向かって低下すると,A0 および. 前述の研究会では,本報と同じ共通試験片を用. A1 水素量が減少するが,A2 水素量は 0.12%から. い,各種の水素脆化感受性評価試験を行ってい. 0.23%と約 2 倍に増加している。粒界破壊による. JHPI Vol. 59 No. 2 2021. 17.
(8) CCT での水素存在状態と脆化評価方法. 68. Trapped hydrogen (ppm). 0.5 0.4. うな非定常な侵入環境には適していない。反 面,曝露に伴う水素侵入を刻々にモニターでき. 0.3 A2. る特徴を有する。. A1. 0.2. ⑷ 各種環境と平衡する鋼中の格子サイトの占有. 0.1. 率は,環境に依存するが,鋼材の種類や予ひず. A0. 0 -20. Fig. 9. は水素透過試験で求められるが,CCT 曝露のよ. A0 A1 A2. 0. 20 40 Temperature (℃). 60. Temperature dependence of trapped hydrogen, which is calculated with FermiDirac statistics, using the parameters obtained the method shown in section 2.. みに依存しない。上記⑵の占有率は V 鋼だけで なく,各種鋼材に共通である。 ⑸ チオシアン酸アンモニウム(NH4SCN)水溶液 濃度と鋼材での格子間サイトの占有率の間に, 両対数で直線となる関係があった。上記の占有 率は 0.5% NH4SCN 水溶液浸漬で得られる。. 破断強度低下が A2 水素量と関連付けられる 16), 26). ⑹ CCT 曝露材の水素脆化強度は,0.5% NH4SCN. ことを考えると,水素脆化試験の温度を少なくて. 水溶液浸漬で水素予添加し,低ひずみ速度引張. も常温程度に低く管理する必要性を示すものとい. 試験(SSRT)で評価できる。試験中の脱水素防. える。. 止や試験温度の管理が必要である。. 別の試験方法として,予ひずみ後に,水素添加 することが考えられる。Fig. 4⒞で示されたよう. 謝辞. に,水素の脱離が抑制できる。予ひずみ量として. 本報の解析に用いた成果は,日本鉄鋼協会にお. は,塑性域締付を想定して,切欠き引張強さの. ける研究会「水素脆化研究の基盤構築」で取得され. 0.9 倍程度を想定している。このような予ひずみ材. たものであり,本報の解析にあたり種々ご教示を. では水素添加中に水素の存在状態が変化し,水素. いただきました。また,本報のとりまとめについ. 脆化感受性を高める効果 27)も想定される。. ても多くの御厚情をいただきました。下記の元上. 8.まとめ 大気曝露での鋼材の水素脆化は重要な課題であ り,CCT(Cyclic Corrosion Test)のような乾湿繰返. 智大学鈴木啓史氏,日本精工㈱山田紘樹氏,NTN ㈱三輪則暁氏,愛知製鋼㈱渡邊義典氏,JFE ス チール㈱岩本隆氏,神戸製鋼㈱漆原亘氏の諸氏に 感謝申し上げます。. し環境からの水素侵入での破壊評価がなされてい る。本報では,多量の水素を強くトラップできる. 参考文献. V 添加鋼を用い,CCT 曝露材の飽和水素量の予 測,環境と平衡する格子サイトの水素占有率の解 析により,CCT 曝露に替わる水素脆化評価方法を 検討した。 ⑴ V 添加鋼は CCT 曝露で水素がトラップサイト に 蓄 積 さ れ や すく,2 週間の曝露で飽和値に 近い値となる。 ⑵ 上記のトラップ水素量から逆算される格子間 サイトの占有率は,CCT 曝露と平衡する値であ り,4×10-7 と推定される。 ⑶ 定常的な水素侵入での格子間サイトの占有率 18. 1)松山晋作; “遅れ破壊” ,日刊工業新聞社,(1989). 2)山崎真吾,久保田学,樽井敏三; “遅れ破壊特性評価 方法と耐遅れ破壊高強度鋼の開発” ,新日鉄技報,第 370 号,pp.51-58, (1999) 3)高井健一,関純一,崎田栄一,高山康一; “高強度鋼 の遅れ破壊特性に及ぼす Si, Ca の複合添加の影響” , 鉄と鋼,第 79 巻,第 6 号, pp.685-691, (1993) 4)早川正夫,水野浩行,鈴木 健,杉本 淳,本庄 稔, 大石裕之,榊原和利,伊藤秀和,近藤 覚,松山晋作, “引張強度 2GPa 級のバナジウム添加ばね鋼の水素割 れ感受性の評価” ,鉄と鋼,第 101 巻,第1号, pp.3339,(2015). 5)日本鋼構造協会: “高力ボルトの遅れ破壊特性評価ガ 圧力技術. 第59 巻第 2 号.
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