大学発ICTベンチャー:[エッセイ]8.ベンチャーに高揚感を求めて -知られざる大学発ベンチャー創業の効用と,研究活動との類似性-
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(2) れることは間違いないのだから.ところで,それが. 少し話を具体的にするならば,要は,「自分はまだ. どのような型であれ,ベンチャー企業を経営してい. 誰も見たことがないことを研究している(この事実. れば,良いことも悪いこともある.ただし,僕が認. を自分だけが知っている)」という高揚感と,「自分. 識している限りにおいて,感覚値としては,良い. はまだ誰も見たことがない社会を創っている(自分. ことが 99 %,悪いことが 1 %といった分散くらい. の製品やサービスを使えば,人々の生活が変わる)」. かなと思うのだ.これも物を見る角度によってだい. という高揚感は近いのだ.そして,ひとたびこの高. ぶ変わってくるのだが,たとえば,ベンチャー企業. 揚感を知ってしまったならば,大して差別化できな. では,製品やサービスを買ってくれる相手にとって. いと分かっていながら,お隣りの競争相手と似たよ. 望ましい価値を提供することができれば,学歴や職. うな製品やサービスを長時間かけて開発すること,. 歴なんて本当にまったく関係ない.つまり「俺は東. また,そんな製品やサービスを担いで競争相手との. 大を出てる」とか「俺はハーバードを出てる」とい. 消耗戦を繰り広げるために営業に出なければいけな. うことを万が一自慢に思って生きている人にとって. いようなサラリーマン生活を送り続けることは,も. は,ベンチャーの世界なんて辛いことばかりなのか. う不可能なのではないか.つまり,ものすごく極端. もしれない.だって誰もそんなこと褒めてくれない. な言い方をするならば,結果としてノーベル賞に繋. し,気にしていないからだ.あと,よくいわれるこ. がるような研究に研究者が没頭していくことで得ら. とに,自分の全財産をかけてとか,給料を削ってと. れる高揚感と,ベンチャーを創造することの高揚感. か,そういうガマン大会的なベンチャー創造論があ. は一致する.つまり,研究者はベンチャー向きであ. るが,これは現代においては正直ナンセンスといわ. るとさえいえるのではないだろうかということだ.. ざるを得ないだろう.日本もだいぶ変わってきたが,. 話が広がりすぎたのでそろそろまとめるが,要はま. ベンチャー企業というものは,アイディアや知性,. だ誰も見たことがないような新しい地平を切り拓く. 情熱といった無形のものを提供すること,すなわち. ために大学発ベンチャーを始めるためには,学歴や. 創業者が物理的な「お金ではない価値」を自らの会. 職歴をことさらに気にする必要もなければ,全財産. 社に提供することによって成り立ち,そこに対して,. を注ぎ込む必要もない.おまけに,研究者ほどの専. エンジェル投資家やベンチャーキャピタルといった,. 門性がなくとも,世の中に求められること,価値あ. 「お金はあるけどアイディアはない」人たちが資金. ることを追求する限りにおいて,得も言われぬ高揚. を提供することによって始まると考えたほうがよい. 感に包まれながら人生を歩むことができるというこ. のだから.ベンチャー企業,特にまだ世の中に存在. とだ.こういう話を聞いて,大学発ベンチャーの世. しないような製品を開発・販売することを目的に設. 界に飛び込まない人がいるだろうか.僕はそうは思. 立されるようなベンチャー企業(その多くは,高度. わない.. に技術的な要素を内包しているという意味で,ハイ. (2018 年 3 月 15 日受付). テク・ベンチャーと呼ばれる.そしてハイテク・ベ ンチャーの多くは,広い意味での大学発ベンチャー なのだ)に関して,先日うちの社員の人と話をして いてある類似点を見つけたので,ここで共有したい.. ■加藤 崇 [email protected]. それは,研究者として研究をしているときに感じる. 早稲田大学理工学部卒業後,東京三菱銀行を経て,オーストラリ ア国立大学にて MBA 取得.その後,東京大学の助教とヒト型ロボ ットベンチャー SCHAFT を立ち上げる.2013 年,同社を Google に 売却.2015 年,フラクタ設立.元スタンフォード大学客員研究員.. ある種の高揚感は,起業家がベンチャー企業を経営 していて感じる高揚感に近いということだ.もう. 8. ベンチャーに高揚感を求めて─知られざる大学発ベンチャー創業の効用と,研究活動との類似性─ 情報処理 Vol.59 No.6 June 2018. 537.
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