群馬県前橋市における地域認識と地域への愛着(1)
−定量的データの分析−
奥田 雄一郎・呉 宣児・大森 昭生
キーワード 前橋市 地域愛着 定量的分析 性差 地域での活動による差 要旨 本研究においては,前橋市の住民に対して,アンケート形式の質問紙調査を行った.研 究協力者は,前橋市の710 名(男性 428 名,女性 226 名,不明 16 名)であった.1)居住地区, 2)地区での活動,3)参加したことのある地区の行事,4)地区の良い点,5)地区の良くな い点,6)地区の生活環境,7)イベントのニーズ,8)行政への期待,9)地域愛着に関す る項目1(鈴木・藤井,2008),10)地域愛着に関する項目 2(引地ら,2009),11)地方 と食に関する項目,12)地域の情報,13)市の良い点,14)市の問題点,15)未来の前橋 市,16)地域でのやってみたい活動,17)フェイスシート項目などであった.本論文は上 記の質問項目のうち,数量的なデータの結果をまとめたものである. 性差と地域活動の程度,という2つの側面から地域愛着を検討結果,性差を独立変数と したt検定においては,「地域選好」,「地域愛着」,「社会的環境評価」,「地域への愛着」の 因子において,男性の方が女性に比べて有意に得点が高かった.また,地域での活動の程 度を独立変数とした一元配置の分散分析においては,すべての因子において,「地域と関わ る役職も持ってないし,行事等に参加することもない」協力者らに比べ,「地域の組織の役 職を持っており,地域の活動もかなりしている」協力者の方が有意に各因子の得点が高か った. 1.問題と目的 本研究は,共愛学園前橋国際大学「地(知)の拠点整備事業」地域志向教育研究として,前 橋市の市民の方々の地域愛着について検討したものである. 地域愛着については,心理学をはじめとする様々な領域においてこれまで研究がなされ てきた(園田,2002).しかしながら,地域愛着研究の困難さとして,それぞれの地域には それぞれの特異性があることが挙げられる.そのため,本研究においては,今後の研究の ために,前橋市という地域の特異性を探索的に検討することを目的とする.2.方法 前橋市の710 名(男性 430 名,女性 264 名,不明 16 名)に対して,2015 年 12 月から 2016 年1 月にかけて以下の項目・尺度から成る質問紙調査を行った. 1)居住地区 前橋市は24 の地区から成る.その 24 の地区の中で研究協力者がどの地区に居住してい るのかを選択してもらった.その際,自分がどの地区に居住しているかわからないという 研究協力者のために,「もし,住んでいる地区名が分からない場合は自宅に一番近い小学 校・中学校名を書いてください」という自由記述項目を設けた. 2)地区での活動 「あなたは,「地区」の組織に所属し,「地区」の活動等(職業としてではなく,住民と して)に携わっていますか」と教示し,1. 地域と関わる役職も持ってないし,行事等に参 加することもない,2. 直接地域の活動を手伝ったりすることはないが,行事などに参加者 として参加することはある,3. 地域で責任を持つ担当はしてないが,呼びかけがあれば, 地域の活動に参加することがある,4. 地域の組織の役職を持っており,地域の活動もかな りしている,5.その他(自由記述)の中から選択してもらった. 3)参加したことのある地区の行事 「これまでに参加したことのある「地区」の行事があれば,以下の欄に記入してくださ い」と教示し,自由記述で回答してもらった. 4)地区の良い点 「あなたがこの地区について良いと思う点(地区の活動や,環境,など)について以下 欄に自由にお書きください」と教示し,自由記述で回答してもらった. 5)地区の良くない点 「あなたがこの地区について良くないと思う点(地区の活動や,環境,など)について 以下の欄に自由にお書きください」と教示し,自由記述で回答してもらった. 6)地区の生活環境 「あなたが現在住んでいる生活圏には,以下に書いてある項目はどれくらいあると思い ますか.あてはまる番号に○をつけてください」と教示し,1.公園,2.コンビニ,3.ス ーパーマーケット,4.川や池,5.寺社仏閣,6.田んぼや畑,7.古くから残る街並み,8. 森や林,9.観光地,10.ファミリーレストラン,11.ゲームセンターやパチンコ店,12. 公民館,13.商店街,14.鉄道の駅,15.大型ショッピングセンター,16.病院・医院, の中から選択してもらった.
7)イベントのニーズ 「地域で,どんな行事・イベントがあれば楽しい・参加したいと思いますか?」と教示 し,自由記述で回答してもらった. 8)行政への期待 「地域のために,行政にどんなことをして欲しいですか?」と教示し,自由記述で回答 してもらった. 9)地域愛着に関する項目1(鈴木・藤井,2008) 19 項目:5 段階評定であり,鳥や虫の鳴き声を聞くことが多い,屋外の空気に触れるこ とが多い,地域の人々とあいさつをする機会が多い,地域の人々と話をする機会が多い, 道ばたに作花や土などに接する機会が多い,自然のにおいをかぐことが多いといった【風 土接触度】,この地域は住みやすいと思う,この地域にお気に入りの場所がある,この地域 を歩くのは気持ちよい,この地域の雰囲気や土地柄が気に入っている,この地域が好きだ, この地域ではリラックスできるといった【地域選好】,この地域は大切だと思う,この地域 に愛着を感じる,この地域に自分の居場所がある気がする,この地域は自分のまちだとい う感じがする,この地域にずっと住み続けたいといった【地域愛着】,この地域にいつまで も変わってほしくないものがある,この地域になくなってしまうと悲しいものがあるとい った【地域持続願望】の4 つの下位因子から構成されている. 10)地域愛着に関する項目 2(引地ら,2009) 14 項目:5 段階評定であり, この地域の町並みや自然はきれいだと思う,この地域の町 並みから歴史が感じられる,大きな山や建造物など,地域の人がみんな知っている,地域 のシンボルがある,この地域の医療施設は充実していると思う,この地域の名産品は,ほ かの地域の人に勧められるといった【物理的環境評価】,日頃,地域の人々と交流を持つこ とが多い,毎年,この地域で行われる祭やイベントを楽しみにしている,この地域の人々 は親切だと思う,この地域の治安は良いといった【社会的環境評価】,この地域に,今後も 住み続けたいと思う,自分は,自分が住んでいる地域社会の一員だと強く思う,自分にと って,この土地はなくてはならない場所である,地域の人々は自分にとって大切な存在で ある,この土地は自分にとって住みよい場所であるといった【地域への愛着】の 3 つの下 位因子から構成されている. 11)地域と食に関する項目 3 項目:5 段階評定であり,食材はできるだけ地元のものを選ぶようにしている,外食す るよりも自炊の方が多い,買い物はできるだけ地元でするようにしているの3項目からな る.
12)地域の情報 「あなたは地域に関する情報は,何で得ていますか?」と教示し,自由記述で回答して もらった. 13)市の良い点 「前橋市全体の良いと思う点」と教示し,自由記述で回答してもらった. 14)市の問題点 「前橋市全体の問題だと思う点」と教示し,自由記述で回答してもらった. 15)未来の前橋市 「10 年後,20 年後の前橋市はどうなっていて欲しいですか?」と教示し,自由記述で回 答してもらった. 16)地域でのやってみたい活動 「その他,あなたが地域でやってみたいことや地区に対するコメントがあれば,以下の 欄にご記入ください」と教示し,自由記述で回答してもらった. 17)フェイスシート項目 フェイスシート項目として,①性別,②生年月,③前橋市全体と現在の地区での居住歴, ④国籍,⑤世帯全員の人数,⑥世帯主との続柄,⑦配偶の関係,⑧住居の種類,⑨仕事の 種類,⑩生活の主な交通手段を,回答してもらった. 3.結果 3-1.フェイスシート項目 ①性別 Figure 1 研究協力者の性別 男性, 428, 62% 女性, 266, 38% 男性 女性
②年齢構成 Figure 2 研究協力者の年齢構成 ③前橋市全体・現在の地区への居住歴 Figure 3 前橋市への居住歴 Figure 4 現在の地区への居住歴 ④国籍 ⑤世帯全員の人数 Figure 5 国籍 Figure 6 世帯における総人数 1 27 48 111 106 182 147 31 2 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代 90代 22 17 35 11 33 27 41 45 63 51 112 116 78 0 20 40 60 80 100 120 140 51 26 49 36 48 37 53 46 56 47 60 75 41 0 10 20 30 40 50 60 70 80 日本, 675 海外, 3 日本 海外 47 243 164 131 56 21 9 3 1 2 0 50 100 150 200 250 300 1名 2名 3名 4名 5名 6名 7名 8名 9名 10人以上
⑥世帯主との続柄 ⑦配偶の関係 Figure 7 世帯主との続柄 Figure 8 配偶の関係 ⑧住居の種類 ⑨仕事の種類 Figure 9 住居の種類 Figure 10 仕事の種類 ⑩生活の主な交通手段 Figure 11 生活の主な交通手段 本研究の研究協力者は,男性が約6割を 占め,60 代から 70 代の年齢で,前橋市へ の居住歴も60〜70 年以上住んでおり,配偶 者と2 名で暮らし,持ち家に住んでおり, 正規の職に就き,自家用車で移動している 方々が多い.そうした意味では,市民の全 体を代表したサンプルというよりも,年齢 や居住歴からも,前橋市という地域に精通 した人々のサンプルであると言えよう.ま た,ほとんどの方々が持ち家に住み,自家 用車で移動している点は,前橋市という地 域の特徴を表していると言えよう. 415 194 41 4 9 2 1 4 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 70 554 25 21 0 100 200 300 400 500 600 未婚 配偶者あり 死別 離別 627 7 54 3 1 1 2 0 100 200 300 400 500 600 700 270 88 64 60 7 191 0 50 100 150 200 250 300 23 5 7 494 2 62 1 0 100 200 300 400 500 600 徒歩 電車 バス 自家用車 オートバイ 自転車 その他
3-2.居住地区 Figure 12 研究協力者の居住地区 居住地区としては,居住地区の人口規模によって回答数のばらつきはあるものの,前橋 市の 24 のすべての地区から解答してもらった. 3-3.地区での活動 Figure 13 地区での活動 研究協力者の地区での活動としては,1. 地域と関わる役職も持ってないし,行事等に参 加することもない協力者が89 名(12.99%),2. 直接地域の活動を手伝ったりすることは ないが,行事などに参加者として参加することはある協力者が105 名(15.33%),3. 地 域で責任を持つ担当はしてないが,呼びかけがあれば,地域の活動に参加することがある 協力者が153 名(22.34%)であり,4. 地域の組織の役職を持っており,地域の活動もか なりしている協力者が338 名(49.34%)と最も多かった. 7 23 26 16 37 22 43 26 18 63 25 30 40 36 21 25 20 27 33 39 21 25 28 40 0 10 20 30 40 50 60 70 城東地区 中川地区 若宮地区 桃井地区 元総社地区 宮城地区 富士見地区 芳賀地区 南部地区 南橘地区 中央地区 総社地区 城南地区 下川淵地区 敷島地区 清里地区 上川淵地区 粕川地区 桂萱地区 大胡地区 永明地区 岩神地区 天川地区 東地区
3-4.地区の生活環境 Figure 14 地区の生活環境 地区の生活環境としては,協力者らが十分にあると感じているものとしては,コンビニ, 田んぼや畑,公民館,公園,スーパーマーケットなどは「十分にあると思う」と感じてお り,逆に観光地,商店街,古くからある街並み,鉄道の駅などについては自らが暮らす地 区の環境の中には「まったくないと思う」と感じている協力者らが多かった. また,「全くないと思う」と感じている上位5つ以外にも,ゲームセンターやパチンコ店, ファミリーレストラン,森や林,大型ショッピングセンターなどにおいても,「十分にある と思う」と感じている協力者らは20%以下であり,協力者らにとって,地区の生活環境は 様々な環境が十分にあるとは感じてはいないことが明らかとなった. 3-5.地域愛着 地域愛着に関する項目1(鈴木・藤井,2008)19 項目,地域愛着に関する項目 2(引地 ら,2009)14 項目を合わせた全項目に対する協力者らの回答分布を「とてもそう思う」の 回答が多い順にソートし,Figure 15 に示した.その結果,「とてもそう思う」と研究協力 者が回答した項目としては,「この地域が好きだ」,「屋外の空気に触れることが多い」,「こ の地域は大切だと思う」,「この地域に愛着を感じる」,「この地域に,今後も住み続けたい と思う」などの項目に対する回答が多く見られた. 424 343 257 360 257 263 310 346 44 43 43 110 44 24 138 45 214 269 349 241 342 336 247 204 391 378 372 286 332 338 190 282 42 69 69 88 88 88 126 135 254 266 270 290 311 325 352 362 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 観光地 商店街 古くから残る街並み 鉄道の駅 ゲームセンターやパチンコ店 ファミリーレストラン 森や林 大型ショッピングセンター 病院医院 寺社仏閣 川や池 スーパーマーケット 公園 公民館 田んぼや畑 コンビニ まったくないと思う 少しあると思う 十分あると思う
Figure 15 地域愛着各項目の人数分布
鈴木(2008),引地(2009)のそれぞれの項目から「風土接触度」,「地域選好」「地域愛 着」,「地域持続願望」,「物理的環境評価」,「社会的環境評価」,「地域への愛着」因子の合 成得点を算出し,性差を独立変数としたt検定を行った(Figure 16).
Figure 16 性差による地域愛着各因子の得点 Figure 17 地域での活動による地域愛着各因子の得点 3.79 4.01 4.09 3.71 3.17 3.74 3.98 3.80 3.88 3.91 3.66 3.28 3.50 3.70 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 風土接触度 地域選好 地域愛着 地域持続願望 物理的環境評価 社会的環境評価 地域への愛着 男性(428名) 女性(266名)
「地域と関わる役職も持ってないし,行事等に参加することもない」89 名(12.99%), 「直接地域の活動を手伝ったりすることはないが,行事などに参加者として参加すること はある」105 名(15.33%),「地域で責任を持つ担当はしてないが,呼びかけがあれば,地 域の活動に参加することがある」153 名(22.34%),「地域の組織の役職を持っており,地 域の活動もかなりしている」338 名(49.34%)という地域での活動の程度 4 群を独立変数 とし,地域愛着に関する「風土接触度」,「地域選好」「地域愛着」,「地域持続願望」,「物理 的環境評価」,「社会的環境評価」,「地域への愛着」7因子の合成得点を従属変数とした一 元配置の分散分析を行った(Figure 17). その結果,性差を独立変数としたt検定においては「地域選好」(t(665)=2.15, p<.05), 「地域愛着」(t(676)=2.58, p<.05),「社会的環境評価」(t(667)=3.39, p<.01),「地域への愛 着」(t(675)=3.80, p<.001)の因子において,女性に比べて男性の方が有意に得点が高かっ た. また,地域での活動の程度を独立変数とした一元配置の分散分析においては,すべての因 子において,「地域と関わる役職も持ってないし,行事等に参加することもない」協力者ら に比べ,「地域の組織の役職を持っており,地域の活動もかなりしている」協力者の方が有 意に各因子の得点が高かった(Table1). Table1 地域での活動による地域愛着各因子の得点(多重比較:Tukey 法) 呉(2015)は,人と地域のかかわり方を3つに分類している.第一に,その地域に住み ながらも平日は仕事,休日もレジャーなどでほとんどその地域に関わっていないタイプ, 第二に所の人々と挨拶をしたり地域の行事などに参加したりすることで,ある程度は自分 の住んでいる地域を意識しかかわるタイプ,そして第三に常に地域のことを意識し,積極 的に住民としてボランティアにかかわるなど,「私はこの地域の人である」ことを意識しな がら地域と関わっているタイプ.本研究の研究協力者らは,上記の分類で言えばタイプ3 の人々が多かったと言えよう.今後の課題として,タイプ1・タイプ2の人々への調査に よる結果の比較なども必要であろう. 注 1:本研究は「共愛学園前橋国際大学 「地(知)の拠点整備事業」地域志向教育研究経費」の 助成を受けた.
謝辞 本研究におけるアンケート調査は,前橋市地域づくり連絡会議,前橋市市民部生活課地 域づくり係,前橋市若者会の協力で,返信用封筒と一緒に各地区の住民の方へ配布が行わ れました.アンケートの配布と返信に協力してくださった皆様に感謝申し上げます. 引用文献 呉宣児 2015 家に住んでいて地域に住んでいない?原風景・地域への愛着・地域に住む ことを考える,日本環境心理学会第 8 回大会シンポジウム「居住環境に関する環境心 理学的研究の試み」での口頭発表要旨. 引地博之・青木俊明・大渕憲一 2009 地域に対する愛着の形成機構―物理的環境と社会的 環境の影響―,土木学会論文集,65,101-110. 園田美保 2002 住区への愛着に関する文献研究,九州大学心理学研究,3, 187-196. 鈴木春菜,藤井聡 2008 地域愛着が地域への協力行動に及ぼす影響に関する研究,土木 計画学研究・論文集,25,357-362.