氏 名 深野 千陽 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医科学 ) 学 位 記 番 号 医工農博甲 第 46 号 学 位 授 与 年 月 日 令和 2 年 12 月 17 日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 人間環境医工学専攻
学 位 論 文 題 名 Mechanism of Action Analysis of Allergy Immunotherapy for Japanese Cedar Pollinosis Patients: Evaluation of Blocking Activity for the Allergen-IgE Binding using Cell Free Biomarker Assay
(スギ花粉症患者に対するアレルゲン免疫療法の作用機序解析: バイオマーカーアッセイを用いたアレルゲン-IgE 結合に対するブ ロッキング能の評価) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 川村 龍吉 委 員 准教授 姚 建 委 員 准教授 佐々木 知幸
学位論文内容の要旨
【研究の目的】スギ花粉症は、日本特有の季節性I 型アレルギーである。近年では、年齢・性別問わ ず患者が増加し、日本に在住の約45%が罹患する国民病であると報告されている。花粉症は、スギ花 粉飛散時期に鼻炎があること、及び血中にスギ花粉特異的IgE を有することで確定診断される。標準 化スギ花粉エキスが開発され、スギ花粉症治療の選択肢の1 つとして、皮下及び舌下を投与部位とす るアレルゲン免疫療法(AIT)が導入された。AIT は、アレルギー原因物質であるアレルゲンを徐々に 体内に取り込み、アレルゲンに対する免疫応答を減弱させる治療法である。AIT はアレルギーを根治 する唯一の治療方法であり、その有効性が確認されているものの、作用機序については未だ不明な点 が多い。しかし近年ではAIT により増加した IgG や IgA などの免疫グロブリン(特に IgG4)がアレル ギー反応を誘発するIgE に対してブロッキングファクター(IgE に対する阻害因子)として作用する ことで、Ⅰ型アレルギー応答を抑制している可能性が報告されている。作用の1つとしては、マスト細 胞や好塩基球上に発現している高親和性IgE 受容体へのアレルゲン-IgE の結合をブロッキングファク ターが阻害することで脱顆粒を抑制することが考えられる。また、IgE はアレルゲンと複合体を形成 してB 細胞上の低親和性 IgE 受容体(CD23)と結合し、断片化されたアレルゲンが MHCII 分子を介 してCD4 陽性 T 細胞に抗原提示される(Th2 応答)が、AIT で増加したブロッキングファクターはこ の抗原提示を抑制することでT 細胞応答を抑制すると考えられている。しかし、スギ花粉症患者を対 象としたブロッキングファクターに注目した作用機序解析の研究は充分に行われていない。ブロッキ ングファクター解析を含め、AIT による治療モニタリングのバイオマーカーを確立することは、3 年 以上の治療を必要とするAIT において、患者が治療を継続するモチベーションツールとなりうると予 想する。本研究では、スギ花粉症患者に対するAIT に関し、AIT によって増加した抗体等によるアレ ルゲン-IgE 結合に対するブロッキング能を評価することを目的とする。バイオマーカーアッセイの1つで、B 細胞の抗原提示能を模倣する in vitro の試験系である Enzyme-linked immunosorbent Facilitated antigen binding(ELIFAB)アッセイをスギ花粉をアレルゲンとして新規に構築し、AIT によって誘導 される変化につきAIT 実施患者の検体を用いて検証する。 【方法】スギ花粉溶液をアレルゲンとして用いたELIFAB アッセイの試験条件の最適化を行い、試験 系を構築した。固相化CD23 及びアレルゲンの至適濃度を検討するために、5–50 g/mL の CD23 をプ レートに固相化し、1 g/mL のアレルゲンと陽性血清を用いて CD23 濃度を決定した。決定した濃度 の固相化CD23 をプレートに固相化し、0.001–100 g/mL のアレルゲンと陽性血清を用いてアレルゲン 濃度を検討した。試験系の特異性(CD23 及び IgE 依存性)を確認するため、段階希釈した抗 CD23 抗体を固相化CD23 プレートに添加後、アレルゲンと陽性血清を加えてアレルゲン–IgE 複合体と CD23 の結合を検出した。また、熱処理で変性させた陽性血清を用いて測定を行い、IgE 依存性につき確認 した。 構築した ELIFAB アッセイを用いて、未治療のスギ花粉症患者とアレルゲン皮下免疫療法(SCIT) 及びアレルゲン舌下免疫療法(SLIT)実施患者の評価を行った。 【結果】試験条件検討では、固相化CD23 濃度は、20 g/mL で反応がプラトーに到達した。アレルゲ ン濃度は0.3 g/mL で最大のアレルゲン–IgE 複合体と CD23 の結合を示した。抗 CD23 抗体を用いた 試験において抗CD23 抗体の希釈濃度に応じてアレルゲン–IgE 複合体と CD23 の結合が抑制され、熱 処理した陽性血清を用いた試験ではアレルゲン–IgE 複合体と CD23 の結合が検出されなかったことか ら、構築した試験系がCD23 及び IgE 依存的な試験であることが確認された。患者血清を用いた ELIFAB アッセイにより、アレルゲン-IgE 複合体と CD23 の結合は SCIT 群では未治療群(各 n=11)に比べて 有意に阻害された(51.5%、p<0.01)。しかし、ELIFAB アッセイの結果はブロッキングファクターの 1 つである血清中のスギ花粉特異的IgG4 値と相関しなかった。SLIT 群を用いた ELIFAB アッセイでは プラセボ群(各n=20)と比べて有意差は認められなかった。
【考察】ELIFAB アッセイにおいて、SCIT 群と SLIT 群で同様の結果が得られなかった。このことは、 治療期間の差、治療経路により増加する抗体量の差違、あるいは検討に用いた検体数が限られていた ことが推察される。ELIFAB アッセイの結果と IgG4 値の相関が認められなかったが、治療前に存在す るアレルゲン特異的IgG4 や IgG4 以外の因子が影響している可能性が考えられる。 【結論】スギ花粉症患者に対するAIT により、増加したブロッキングファクターが B 細胞抗原提示の 際、IgE とアレルゲンの結合阻害を誘導していることが示唆された。また、この作用が AIT による花 粉症抑制の一端となっている可能性が考えられた。
論文審査結果の要旨
本 論 文(Development of Japanese Cedar Pollen Droplet for Sublingual Immunotherapy and Mechanism of Allergy Immunotherapy: スギ花粉症に対するアレルゲン舌下免疫療法液剤の開発 とアレルゲン免疫療法の作用機序)では、主に1)標準化スギ花粉エキスに含まれるタンパク質及び
アレルゲン性の測定、2)スギ花粉症患者(233名)のスギおよび各コンポーネント特異的IgE及びIgG 4の抗体価測定、3)ELIFABアッセイ法を用いた標準化スギ花粉エキス治療(皮下治療群と舌下治療 群)患者におけるAIT誘導IgG4によるアレルゲン-IgE複合体とCD23の結合阻害効果の検討の3つの研 究テーマについて検討されている。 本論文の問題点として、①申請者自身が実際に行った実験と検体(血清)を入手した基礎となる大 規模臨床研究(あるいは鳥居薬品の治験)との位置付けが不明確であること、②既存の先行論文との 関係も不明瞭であるためデータの解釈が難しいこと、③患者検体を用いた臨床研究を申請者が主導で 行ったのであればより詳細な臨床試験プロトコール、患者の同意書、IRBの承認なども必須となること (そうでない場合は、臨床研究のどのような部分を分担担当したのかについて明確に記載する必要が ある)、④提出された博士論文はChapter I~VIIの小項目に分けられていて論文の体をなしていない ことなどが挙げられ、大幅な書き直しが求められた。 その後、上記の①~④の指摘に対して論文の大幅な改正がなされ、再度再提出論文の審査が行われ た結果、問題点は概ね解決されたと判断された。 <1. 学位論文研究テーマの学術的意義> 本論文では、スギ花粉をアレルゲンとしたELIFAB アッセイを構築し、この試験系が CD23 及び IgE 依存的であることが確認された。この試験系において、アレルゲン-IgE 複合体と CD23 の結合が SCIT 群で有意に阻害されことから、AIT による花粉症抑制メカニズムとして AIT により増加したブロッキ ングファクターがIgE とアレルゲンの結合阻害を誘導していることが示唆された。本論文は、新規ア ッセイシステムを構築し、AIT が花粉症患者に効くメカニズムの一端を解明した点で学術的意義があ ると考える。 <2. 学位論文及び研究の争点,問題点,疑問点,新しい視点等> 標 準 化 スギ花 粉 エキス治 療 (皮 下 治 療 と舌 下 治療 )による治 療 効 果 発現にはスギ花 粉 特 異 的IgG4 誘 導 以 外 にも多 くの説 が唱 えられており、それらを文 献 的 に十 分 に考 察 したうえで今 後 検 討 する必 要 があり、そのうえで本 研 究の臨 床 的意 義 ・位 置 付けをさ ら に 検討 す る必要 があ る。 <3. 実験及びデータの信頼性> 概ね適当と考える。 <4. 学位論文の改善点、等々> 改善点や追加すべきデータ、論文に訂正・追記すべき点の詳細は、最終試験結果の要旨(課程:様 式8)に記すが、要点を下記に列挙する。 ・ELIFAB アッセイに関して高い抗原濃度ほど測定結果が低くなる傾向があるが、その理由は? ・ELIFAB アッセイの結果は、IgG4 との相関性がないがその理由は? ・ELIFAB アッセイは、いろんな要素の影響を受けるため、結果検証のために他の測定系も必要である か? ・鳥居薬品の治験データが混じっているのではないか? ・本研究のサンプルの入手経路は? ・どこまでが共同研究で、どこまでがオリジナルな研究かはっきり分けてデータを提示してほしい。
・ELIFAB アッセイの被験サンプルを得た患者情報を詳細に示すべき。加えて、SCIT あるいは SLIT に よる responder と non-responder で ELIFAB アッセイ結果に差が出るのか?
・論文内容と一致した論文題目に変更が必要 ・不適切に使用された(それを疑わせる)治験データがあり、削除するか深野氏が携わった項目につ いての詳細な説明が必要 ・他論文に掲載されているデータは削除し,適切に引用すべき ・修正案として,深野氏が筆頭著者である2019年のJ Pharmacol Sciを基礎とし,さらに明確に深野氏 自身が行ったと説明可能なデータを加え,考察し,学術雑誌に投稿可能な体裁で学位論文を書き直す べき ・学位論文の内容と別紙で提出された要旨の記述が一致していまいないため、学位論文の大幅な修正 が必要