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<研究ノート>

ペルーの景気循環

一メキシコ、チリと比較して-

横浜商科大学尾関惨

目次: ●●●● ◆1234◆ はじめに ペルーの債務危機、対外債務と対内憤務 ペルーの景気循環、投資水準と輸入輸出比率 チリにおける4循環図式のペルーへの適用 経済成長率の推移で見たペルーの景気変動 おわりに ◆はじめに 近年、複雑系を解析するフラクタル(自己相似図形)の概念が注目されている が、シュンペーターが景気循環論において採用した3循環図式は、サイン・カー ブの組み合わせが自己相似性を示すことを応用して、現実の景気循環に出来るだ け近い曲線を描き出そうとしている点で、先見性のあるアイデアであったことは 明らかである。筆者は、ラテンアメリカの景気循環について、投資水準(総固定 資本形成/GDP)と輸入輸出比率(輸入/輸出)を中期循環だけでなく長期波 動の指標としても採用し、シュンペーターの3循環図式を改鰯したモデルで歴史 的変動を理解しようとしてきた。3循環図式をラテンアメリカの景気循環に直接 応用する試みは他にないので、はじめに、筆者の最近の研究を若干紹介するとと もに、この10年来発表してきたものを随時注に示しておきたい。 イノベーションを核としたシュンペーターの景気循環論は、70年代後半に復活 したが、80年代の債務危機が資本逃避による景気低下の要因となり、90年代の 地域統合は資本流入による景気回復の要因となったことを付け加える必要がある。 -41-

(2)

このため、資本流入と資本逃避が激しく交錯したNAFTA成立とメキシコの通 貨危機を取り上げ、対外対内の債務危機を総合収支/外貨率備と財政収支/財政 収入で指標化し、メキシコにおける景気循環モデルを再検討して経済成長の長期 見通しを行った(1)。このメキシコの分析は.石油開発や地域統合によるバブルの 発生を3循環図式から外れる要因として位圏づけ、短期循環(在庫投資循環)を 省略し中期循環(設備投資循環)、長期循環(建設投資循環)、長期波動(インフ ラ投資循環)を組み合わせた3循環図式を維持することによって成り立っている (追記参照)。メキシコの通貨危機は、この図式から上方に外れた形で続いていた メキシコの経済成長率を急低下させ、図式の傾向に回帰させるものであった。 また一方で、日本の景気循環を検討して90年代を長期波動の低下過程と位圃づ け、これを転換するイノベーションの枠組みとして、ラテンアメリカを含めた環 太平洋経済の開かれた地域主義を分析してきた(2)。APECには、メキシコとチ リが参加しているが、パナマやペルーも参加を希望している。以前から存在する アンデス地域統合(ペルー、チリ(1976年に脱退)、ボリビア、コロンビア、エ クアドル、ペネズエラ)は、MERCOSURに倣った共同市場を目指してアン デス共同体を発足させた(3)。資源に恵まれ人口規模で1億人以上あるアンデス地 域は、ASEANのように統合していく可能性があり、地理的に見てもアジアに 偏重する日本の投資がラテンアメリカに戻っていく上で重要な地域である。ペル ーやチリは、アンデス地域に属しており、短期的には共同歩調をとることが難し くとも、長期的には地域統合の中心になっていくことは間違いない(4)。 ペルーは歴史的には、キューバ、メキシコと同様スペインのラテンアメリカ支 配の拠点であった。植民地支配の影響の強かったペルーは、フジモリ大統領の下 に国全体のリエンジニアリングを断行し、チリに倣って経済を自由化して輸出主 導型の発展を目指している。しかし、ペルーは、チリと競争して第1次産業を中 心とした国際的な比較優位を獲得することは必ずしも容易ではない。また、韓国 製の自動車や電気電子製品の輸入が急増しているので現地生産を要求しているが、 メキシュプラジルなどと競争して第2次産業を中心とした雁行形態型の産業政 策をとることも容易ではない。観光資源の豊かなペルーにとって有利な観光を中 心とした第3次産業に活路を求めることも、治安問題が払拭されていないため容 易ではない。フジモリ政権のペルー開発戦略は、これらの容易でない3つの方向 を同時に追求するものとなっている(5)。そこで、APECの重要な環となり得る -42-

(3)

アンデス地域に位歴するペルーの景気循環を、地域統合では先発しているメキシ コ、輸出主導で成功しているチリと比較しながら検討することを本稿の課題とし たい。 1.ペルーの債務危機、対外債務と対内債務 貿易収支の悪化で、メキシコのようにペルーでも通貨危機が発生するのではな いかと危倶されるので、債務危機を示す指標によって景気の転換点を見出すこと から始めたい。ペルーの対外債務総額の残高は、265億ドル(95年末)でGDP の50%に達する。これが債務危機を示すかどうかは、中長期債務の返済額/輸出 額で表わされる債務サービス比率や貿易収支との関係だけで判断できるものでは なく、短期債務の資本逃避を考慮した国際収支全体の中で見なければならない。 このため、対外債務の危機を示す指標としては、総合収支/外貨準備が有効であ る(6)。また、通貨危機は、対外債務の危機だけではなく、対内債務の危機とも密 接に結びついているのであり、財政赤字が引き金になる。対内債務の危機を示す 指標としては、財政収支/財政収入が有効である(7). 図1は、総合収支/外貨準備の推移を比較したものである。ペルーの植民地的 社会構造は戦後も根強いものがあり、ようやく63年に成立したペラウンデ政権に よって社会改革が始まり、68年のベラスコ将軍によるペルー革命によって加速さ れたが成功しなかった。75年に登場したモラレス将軍の政権の時には他国に先駆 けて対外債務の危機に陥り、IMFの経済再建策を受け入れた経済自由化政策に よってようやく回復を示した。80年に民政に復帰した第2次ペラウンデ政権も経 済自由化政策を進めたが、輸入の増大のため82年のメキシコの債務危機に先立っ てIMFの支援を仰ぐ結果となった。ベラウンデ政権は財政危機に陥り引き締め に転じたため不人気となり、大統領選挙で敗退した。85年に新たに登場したアプ ラ党(アメリカ人民革命党)のガルシア政権は、国際金融界にショックを与えた 債務返済制限によって返って87,88年には大きな債務危機に陥った(8)。90年の 大統領選挙で登場したフジモリ政権によるIMFとの関係修復と経済自由化によ って、90年代に入ってようやく回復を示しているのである。 チリは75年と83年に債務危機を示したが、以後は債務危機を免れている。チリ の対外債務総額の残高は209億ドル(1995年末)で、GDPの40%であるからぺ -43-

(4)

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(5)

ルーよりも負担が少ない。チリは、為替レートの下落でドルペースのGDPが減 少し、86年には対外債務総額の残高のGDP比は106%に達したことを考えれば、 夢のような改善ぶりである。これに対してメキシコは、76年、82年、88年、95 年に債務危機に陥っている。メキシコの対外憤務総額の残高は、1,527億ドル(1 995年末)であり、GDPの42%である。しかし、メキシコは、規模においてペ ルーの6倍近い対外債務を抱えているだけでなく、証券投資や短期債務の比重が 大きく資本逃避を生みやすく、通貨危機を発生させる原因となったと言うべきで ある。図1から見ると、ペルー、メキシコは75年以降に大きな債務危機が発生し ており、景気を下降させる要因となった。 次に、対内債務の面からも見てみよう。図2は、財政収支/財政収入の推移を 比較したものである。ペルーは、第1次ペラウンデ政権の時に早くも財政危機に 陥っている。ペラスコ軍事政権によるペルー革命によって財政危機は悪化し、モ ラレス軍事政権の経済自由化政策によって財政再建が行われた。第2次ペラウン デ政権の経済自由化政策は不徹底で再び財政危機に陥り、総需要抑制策によって 建て直しを計ったため、先にも述べたように大統領選挙では大敗し、アプラ党の ガルシア政櫓が登場することになった。しかし、内需拡大を優先するボピュリス ト政策によって財政危機は深まった。90年代に入ってからのフジモリ政権による 財政再建は成功を収め、財政危機は克服されつつある。これによって、90年には 7,000%を越えたハイパーインフレも収束し、95年のインフレは10%台となった。 経済自由化政策の一環として、石油公社ペトロペルーの民営化を進めているが、 労働者の反対も強く、財政緊縮を継続することは必ずしも容易ではない(9)。 これに対しチリは、アジェンデの社会主義政横が成立した70年より財政危機が 発生し、73年の軍事クーデターに発展した.17年間続いたピノチエト軍事政櫓の 時代は、徹底した経済自由化政策をとっため、財政危機を免れてきた。これによ って対外債務の危機を克服してきたのである。89年に大統領選によりエイルウイ ン政梅が登場し民政に移行し、93年末の大統領選で「自由のもとでの革命」を政 治理念としたプレイ大統領(1964~70年)の息子エドアルド・プレイが当選し経 済自由化政策を継続しており、財政危機の恐れは今のところない。一方メキシコ は、PRI(制度的革命党)による混合経済の伝統が続いたため、70年代80年代 と慢性的な財政危機を生んできた。とくに82年、86年、87年には大きな財政危機 に見舞われた。いずれも外国からの資金を導入することによって切り抜けてきた -45-

(6)

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(7)

のである。NAFTAの発足した94年は、財政支出の拡大と景気の低迷で財政危 機に陥り、通貨危機へと発展したことは記憶に新しい。図2から見ると、ペルー はメキシコの跡を追っているようにも見える。 以上、対外対内の債務危機の年を検出してきたが、債務危機は、景気循環とり わけ長期波動を下降低下させる現象であることを、ブラジル、メキシコなどの例 で見てきた。そこで、ペルーの景気循環とりわけ長期波動の様相を検討して見る ことにしたい。 2.ペルーの景気循琿、投資水準と輸入輸出比率 中長期の景気循環の指標としてこれまで、総固定資本形成のGDP比で見た投 資水準だけではなく、NIESにおいては輸入輸出比率が有効であること夢論証 してきた('0)。好況においては輸出よりも輸入が増大し、不況においては輸入が減 少し輸出にドライブがかかることがNIESの特徴である。シュンペーターの理 論からみれば、いずれの場合も、短中長期の景気循環が重なり合って山や谷を形 成していると見なければならない。 始めに、図3によって、総固定資本形成/GDPの推移を比較して見る。ペル ーの投資水準は、P・プラド/M・プラド政橘(54~62年)において経済自由化 と工業化の政策がとられたことによって大きく上昇し、57,62年に山を示してい る。しかし、62年の大統領選挙でアプラ党の創設者アヤ・デ・ラ・トーレが当選 すると軍が介入し、63年の大統領選挙で人民行動党のペラウンデが登場した。ペ ラウンデは経済自由化政策をとったが、投資水準は回復しないまま68年のペラス コのクーデターに至った。ペラスコ政櫓のペルー革命は、農地改革と産業国有化 を進める社会主義的なもので投資水準を低迷させることになり、改革の進んだ75 年になってようやく投資水率は大きく上昇したものの対外債務の危機に直面した。 そして、経済危機とモラレスのクーデターによってペラスコ政椛は倒れた。モラ レス政横は経済再建のため緊縮政策を実施したため投資水準は低下したが、民政 移管を進める78年の制憲鍛会の成立以後は上昇した。 80年の民政移管によって第2次ペラウンデ政権が誕生し、経済自由化と民営化 政策を推進すると、投資水準はさらに上昇して82年には大きな山を示した。この 山は、81年のメキシコやチリの投資水準の山を遙に上回るもので、総固定資本形 -47-

(8)

成のGDP比は30%に達している。しかし、82年後半から83年にかけて異常気象 による経済的打撃により、経済成長率がマイナス12%に落ち込んだこともあって、 投資水準は下降した。85年に登場したガルシア政権は、対外債務の支払いを輸出 の10%以内に制限し内需拡大に努めたが、87年末に銀行の国有化法案を公布した ため外国銀行が撤退し、投資水準は下降した。90年にフジモリ政権が誕生して以 降は、投資水準の回復は著しい。これは、フジモリ政術の経済自由化政策が浸透 した結果と考えることができる。 チリのGDPに占める総固定資本形成の比率は、60年代70年代の投資水準はペ ルーと同程度であるが、80年代前半はペルーが大きく上回っていた。80年代後半 からチリの投資水寧は上昇を示し、メキシコ、ペルーを大きく引き離している。 これはチリの輸出がGDPの30%を越えるという発展を示したことによってい

ることは既に指摘したい')。メキシコの総固定資本形成のGDP比率は、50年代後

半にペルーほどではないが上昇をみせている。60年代後半よりペルーを上回る上 昇を見せ70年代も比較的順調に20%前後を維持している。80年代に入ると、81 年のピークの後に急下降した。80年代の後半から回復を示し、92年には山を示し たが.再び下降している。81年のピークは石油開発ブームによるバブルであり82 年の債務危機で弾けた。92年の山はNAFTAによるブームであったがバブルに 発展し、94年の通貨危機によって弾けたと考えられると先に指摘した(12)。 81年は、チリ、メキシコがピークを示しているが、メキシコは石油開発ブーム によるバブルと判断したのに対して、ペルーの82年のピークは何を示すものであ ろうか。ペラウンデ政横は、鉱山開発および石油開発への投資に対し税制上の優 遇措圃を与えるだけでなく、外資との共同開発を促進した。すなわち、80年12月 に原油採掘関連法を公布し、外資系石油企業がペルー石油公社(ペトロペルー) と石油開発を行う場合に免税措霞を与えることを定めた。製造業においても、輸 入自由化、輸入関税率の引き下げなどを行って外資導入に努めたため、81.82年 の外資流入は急増したのである。このことから考えると、第2次ペラウンデ政権 の経済自由化政策を見込んだ投資ブームが起こったと考えるべきである。ペルー はメキシコに比べると遙に小国であるため、外資の流入に基づく投資ブームが、 GDP比で見ると大きなものになったと考えられるのである。これは、50年代後 半のピークについてもいえることであろう。従って、ペルーの投資水準の山は中 期循環を示しているが、その見掛け上の高さに態わされてはいけないのではない -48-

(9)

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(11)

かと考えられる。反対に60年代後半から70年代前半の投資水準の低迷は、社会手 義的な軍事政樒の存在を考慮しなければならないのであり、80年代後半の低迷は アプラ党の政権による国有化政策が資本逃避に繋がったと考えなければならない。 経済自由化政策が投資水準を高めることに大きく影響し、国有化や国営化政策が 反対の要因となったというのが、戦後のペルーの経済史であるということができ る。 次に、NIESの特徴を示すのに有効な輸入輸出比率によって景気循環を検討 してみよう。図4が輸入輸出比率の推移の比較である。ペルーの輸入輸出比率は、 チリの水準とほぼ同じだがピークが違っている。ペルーは75年であり、チリは81 年である。メキシコの輸入輸出比率は、60年代70年代はペルーより高かったが、 80年代においてはペルーとそれほど変わらない。メキシコのピークはペルーと同 じ75年である。75年は両国とも石油ショックの影響下にあったが、メキシコでは 石油輸出が増加したのに対し、ペルーでは石油輸入が増加した。この年は、ペル ーは大きな対外債務の危機に見舞われた。輸入輸出比率が90年代に入って上昇し ている点では、ペルーとメキシコは同様である。 メキシコでは、50年代後半に立ち上がった長期波動が75年にピークを示し、 90年代のバブルを経て低下しているとみることができたが、ペルーの場合はどう であろうか。図3の投資水準の推移からみると、ペルーにおいても50年代の後半 に長期波動が立ち上がったと見ることは無理がないが、これより低い75年をピー クとし82年の投資ブームをバブルとみるべきかどうかは決めかねるところであ る。また、フジモリ政権による90年代の回復はバブルとは考えにくいところであ る。しかし、図4の輸入輸出比率によって、ペルーの長期波動は75年にピークが あり、チリとは遮って81年や82年ではないと仮定することにする。また、ペルー の景気循環は、長期波動によってピークが形成される位相においてはメキシコに 近いが、輸入輸出比率の推移で示される景気循環のパターンにおいてはチリに近 いものがあるため、チリの景気循環を検討した時に見出した4循環図式の条件を そのままペルーに適用してみることにしたい。ペルーとメキシコの長期波動が75 年をピークとして同じパターンを描いているとすれば、90年代のペルーの投資水 準の回復は、メキシコと同様にバブルという説明になり、IMFの危倶するとこ ろと一致することになってしまう。この点も検討する必要がある。 -51-

(12)

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(13)

3.チリにおける4循環図式のペルーへの適用 よく観察すると、輸入輸出比率で見たチリとペルーの景気循環のパターンには 相似性が認められるが、これは自己相似性の概念によって景気循環を解析しよう という試みの基礎になる。チリの輸入輸出比率の長期的推移は、ブラジルやメキ シコの景気循環モデルとして作られた3循環図式のパターンとかなり違っている ため、ブラジルやメキシコと違った振幅の正弦曲線を組み合わせることを考え、 また、輸出の比率が極めて大きく短期循環の影響が大きいチリの条件を考慮して 在庫循環を加えた4循環図式を工夫した結果、高い相似性を見出したことは先に 見た通りである(13)。この4循環図式をペルーに適用してみるため、図5において は、以前に示したチリの景気循環モデルとチリの輸入輸出比率を対照させたもの と、チリの4循環図式の条件を変えずに6年だけ後にずらし、ペルーの輸入輸出 比率のピークと一致させて実綱とモデルを対照したものとが同時に描かれている。 図5の注に示したチリの景気循環モデルと、ブラジルやメキシコの景気循環モ デルとの違いは、①在庫循環を付け加えたこと、②振幅の起点を1964年に調整し たこと、③振幅を在庫循環:設備循環:建設循環:長期波動=1:3:3:3と したことである。ブラジルとメキシコの3循環図式は、シュンペーターに倣って 標準的周期の比を振幅の比とし、設備循環:建設循環:長期波動=10:20:60 =1:2:6としたが、チリの場合は修正した理由は、チリの輸入輸出比率で見 る景気循環の山が、61年、72年、81年にあり、設備循環の影響が大きいことを示 していること、山の高低がブラジルやメキシコと比べて大きくないため長期波動 の影響が小さいことを示していること、建設循環の影響は明らかでないが山の周 期から20年周期も無視出来ないことによる。このため、設備循環、建設循環、長 期波動の振幅に差をつけることを止めたのである。しかし、在庫循環の振幅は周 期に比例して設備循環の3分の1とし、振幅の比の合計を10として、1:3:3: 3と仮定した('4)。ただし、在庫循環の標寧的周期40カ月は、チリの年間経済成長 率の変動に見られる短期循環を考慮して4年と調整した。 標準的周期を組み合わせる点はシュンペーターに倣い、振幅を周期に比例させ るという点は修正することによって、この景気循環モデルは得られたのである。 結果としては図のように非常に良好な相似性を示しているので、有効な仮定であ るといえる('5)。輸入輸出比率の推移のグラフに、Y軸の単位が異なる4循環図式 -53-

(14)

を重ねて描くため、全体を10で割り1を加えている。このようなパターンを崩さ

ない調整を細かく行えば、相似性はさらに高まる。注目すべきことは、この単純

な4循環図式の山と谷が、輸入輸出比率で見た景気循環の山と谷とほぼ一致して いることである。チリの場合、丁度20年の差がある61年、81年の大きな山は、建

設循環の周期を示している。81年の商い山は、4循環図式の仮定から長期波動の

ピークと一致していると見ることができる。 ペルーの場合、景気循環の位相がメキシコに近いため、図5に見るようにチリ

の4循環図式を条件を変えずに6年だけ後にずらして、ペルーの輸入輸出比率の

ピークである75年と一致させて対照した。これを見ると、67年、75年、87年の

山は一致している。これは中期循環を示す。95年の輸入輸出比率が山を示すとす

れば、75年と95年は建設循環を示していることになる。モデルの谷と実績は、6

0年と61年、69年と70年は1年のずれがあり、79年と81年は2年のずれがある。

89年だけが一致している。この4循環図式は4つの景気循環を標準的周期によっ

て組み合わせたものだが、総じて良好な相似性が見られるのは驚きである。建設 循環と長期波動のピークを一致させたこと、設備循環の起点を長期波動の起点の 5年前に持っていったこともチリの4循環図式を踏襲しているが、これ以上ペル ーの山と谷を考慰して調整する必要はとくにない。このことから見て、ペルーと チリの景気循環が高い相似性を示していることは明らかである。 チリの4循環図式が、経済構造の近いペルーにも当てはまることから考えると、 経済櫛造の違いを振幅の比などに反映させれば、シュンペーターの3循環図式(在 庫循環、設備循環、長期波動)と、筆者が改編した3循環図式(設繍循環、建設 循環、長期波動)を包含した4循環図式を、チリに限らない一般的なモデルとし て他の国に適用していくことも可能になると考えられる。先の鎗文で見たように チリの場合は、4循環図式の変化率を実質経済成長率と対照させて良好な相似性 を見出した。実質経済成長率の変化で示される景気変動は、在庫投資を含めた投 資水準で示される景気循環の変化率と対応していると考えられる。在庫循環を捨 象した3循環図式の変化率では、在庫循環に左右される経済成長率の変化と対応 しないことはいうまでもない。在庫循環を含む4循環図式は、実質経済成長率の 変動をシュンペーターの景気循環モデルの中に位圃づける道を開くものである。 この点をさらに検討してみる。 -54-

(15)

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(16)

4.経済成長率の推移で見たペルーの景気変動 図6は、ペルーの実質経済成長率でみた景気変動を、チリ、メキシコと比較し ている。ペルーの実質経済成長率の振幅は大きく、メキシコよりもチリに似てい る。チリの経済成長率はlo%台を示すこともあり、「チリの奇跡」という評価の 背景となっている。しかし、75年や82年には大変な落ち込みを示し、マイナス1 0%台を示したこともある。景気変動の振幅が極めて大きいのである。ペルーも8 3,89年にはマイナス10%台を示したが、62,74,86,94年の経済成長率は、 9から10%台を示している。これは、ペルーもチリもいずれも小国であり、一次 産品の輸出の比重が高いため、好不況に影響されやすいという経済樹造が背景に あることは間違いない。その山と谷の周期は、3~5年周期の短期循環を示して いるといってよい。この点もメキシコよりもはっきり出ている。しかし、ペルー とチリの山と谷はかなりずれている。どちらかといえば、ペルーとメキシコの方 が山と谷の推移が一致していることがわかる。これは先にも示したように、ペル ーの景気循環の位相がチリよりもメキシコに近いことを示している。この点をは っきりさせるため、ペルーの場合もチリの場合に示したように4循環図式の変化 率と経済成長率を直接に対照させて見ることにする。 図7は、ペルーの実質経済成長率の推移で見た景気変動と、ペルーの4循環図 式の変化率で表した景気変動モデルを比較したものである。ただし、この変化率 は通常と違って、経済成長率と同様に前年対比の変化率で表してある。図7の注 に示したように、チリについて行ったのと同様に、在庫循環:設備循環:建設循 環:長期波動=1:3:3:3で組み合わせた4循環図式の変化率の全体を一律 に4倍して、景気変動のパターンを崩すことなく、Y軸の単位の異なる実質経済 成長率の推移のグラフと重ね合わせて相似性を追求している。このような目の子 計算による調整の割には、景気変動の山と谷がモデルと驚くほど一致している。 また、標準的周期による単純なモデルの割には相似性は高いというべきだろう。 シュンペーターは、このような素描を不可欠のものと考えていた。これによれば、 ペルーの90年代の経済成長率の好調はバブルではなく、景気循環によって説明で きる景気変動(成長率循環)の回復であったのである。 従来の計量経済モデルでは、チリやペルーのような経済成長率の振幅の大きな 景気変動をフォローできるモデルを樹築することは困難であったが、正弦曲線を -56-

(17)

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(18)

組み合わせた4循環図式の変化率を描くことによって良好な相似性を見出すこと ができたのである。このことは反対に、図5に示したチリやペルーの景気循環モ デルである4循環図式の妥当性を傍証していることになる。これらのアイデアは シュンペーターの3循環図式の導函数のグラフによっていることはいうまでもな い('6)。これらの循環図式と導函数は、時系列的な自己相似性を示すので、長期の 予測に役立てることができるのである。 在庫循環を含む4循環図式では、3~5年の周期で変化率の山が見られること になる。ペルーの経済成長率の実綱は2~6年の短期循環を示しているため、在 庫循環の標準的周期を40カ月ではなく4年と調整したモデルと一致することが 多く見られることになったのである。83年、89年に見られる実質経済成長率の大 きな落ち込みについては、83年は異常気象の影響という外部要因があったためモ デルとは正反対の動きであったが、89年はハイパーインフレという内部要因の影 響でありモデルと一致した動きであったと考えられる。70年代後半は、モデルで は変化率は落ち込んでいる。実績では大きな落ち込みを示していないが、山と谷 の動きは一致している。82年の実綱の動きが、モデルとは反対になっているのは、 やはり異常気象の影響で説明するのが適当であろう。 90年以降の経済成長率の回復は早く、投資水準も回復している。この動きは、 この景気変動モデルと良く符合している。95年はモデルでは大きく落ち込むこと になっていたが、実綬では大きな落ち込みは避けられた。96年はIMFとの交渉 過程において緊縮政策を強いられ落ち込んだため、モデルにそった回復は97年に 持ち越された。96年は、ペルーの貿易収支が悪化し、ここ数年の高成長が続くな らばインフレの再燃が懸念されていた('7)。この年、フジモリ大統領は国際金駿機 関との交渉を終えて、年間の経済成長率5~6%を維持できると述べたのである が('8)、2000年までの任期においては、この目標は充分達成可能な範囲であること が、このモデルからは予測できる。 以上のことから、景気循環の4循環図式の導函数による景気変動モデルは、実 質経済成長率でみた景気変動とよく符合しているというべきである。これは、4 循環図式がチリのような特殊な国だけではなく一般的に適用できるのではないか という仮説から導き出された結果である。在庫循環を中心とした短期的な景気循 環に焦点を当てた分析とは異なり、長期波動を含めた中長期的な景気循環に焦点 を当てた分析においては、精度を上げることは重要ではないが、歴史的変動と一 -58-

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致させるためには、周期や振幅、循環の起点の仮定を調整していく必要があるだ ろう。その場合、シュンペーターの景気循環論を、フラクタル(自己相似図形) の概念で発展させていくことが必要なことは間違いない。 ◆おわりに これまで見てきたように、ハイパーインフレに見舞われ混乱したペルーの景気 循環と景気変動が、経済成長を示してきたチリと同型の4循環図式によって解析 されたことは、ペルーとチリの歴史的変動に共通性があることを示している。そ れは、外資導入による経済自由化政策と民族主義的社会主義政策とのせめぎ合い であり、1次産品とその加工製品の輸出を中心とした経済発展と輸入代替型の工 業化政策のせめぎ合いであると考えることができる。ペルーが、輸出主導型の経 済政策で成功を収めているチリと同様に、APECに活路を求めているのは偶然 の一致ではない。アルゼンチンとブラジルを比較した時に明らかとなったように、 地域統合は直接投資によって結びつきを深めることになり、イノベーションを促 す枠組みとして有効だからである('9)。外資流入によって投資水準を回復してきた ペルーにとって、各国の輸出圧力に対抗して競争力をつけていくためには、アル ゼンチンやブラジルにとってのMERCOSURのような地域統合による貿易の 枠組みの拡大が不可欠である。ペルーが、アンデス地域に止まらずアジアを意識 してApECへの参加を求めるのは必然的な成り行きである(20)。しかし、地域統 合は、メキシコの場合に見られるように輸入圧力となって現れる面も大きく、95 年は21億ドルもの貿易赤字を記録したので、従来の1次産業中心の産業櫛造の早 急な改革を迫られており、鉱業、漁業の民営化に加えて、製造業、観光業にも力 を入れていくことが緊急課題になっている。 90年代の後半に入り、日本ばかりでなくアジアのNIESは、ラテンアメリカ を含めた環太平洋経済に市場と資源を求めていく必要が増している。鉱業、漁業、 農業の資源に恵まれたアンデス地域が、1次産品とその加工製品を供給する地域 としてだけでなく、雁行形態型の工業化を果たすためには、インフラ投資の拡大 がますます重要になってくるだろう。この投資が長期波動の回復に役立ち、景気 を回復させていくのである。 -59-

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【注】 (1)尾関修「メキシコの通貨危機と経済成長の長期見通し」景気とサイクル(景 気循環学会機関誌)第22号(1996年11月刊)。95年のメキシコは、経済成 長率はマイナス6.9%を示したが、78億ドルの貿易黒字を出した。NAF TAは輸入増加によって債務危機を作り出したが、輸出拡大により景気回 復にも役立った。長期波動は物価循環だけでなく、投資・技術革新、債務 危機を属性とすることが認められているが、地域統合による資本移動も関 連があると考えられる。篠原三代平「戦後50年の景気循環」1994年、日経 新聞社、209~248頁参照。 (2)尾関修「ラテンアメリカと環太平洋経済の発展」横浜商大論集第27巻第2 号(1994年3月刊)第52回国際経済学会の共通論題であった「環太平洋経 済」におけるラテンアメリカの役割を強調するため、上記の論題を提出し た。 (3)IntemationalPr巳88“CbnelActadeTrujUonacelaComunidadAndina” l7demarzodel996,ペルーのトルヒーリヨ市が、アンデス地域統合を アンデス共同体に発展させる会議の場所として選ばれた。しかし、フジモ リ大統領は、日本大使公邸占拠事件の最中に、チリに倣ってアンデス共同 体からの脱退を宣言した。 (4)尾関修「NIESの優等生チリの景気循環」横浜商大論築第28巻第1号 (1994年10月刊)。チリに続いてペルーもAPECへの加盟を希望したの は94年の春のことである。フジモリ政権は、再選を睨んだぺルーの経済戦 略としてチリに見習った経済自由化政策を意識していたことは間違いない。 (5)“ABieselPeruP,primemedid6nintermtional,set、1993Aiio,1 No.1.この雑誌は、新しいペルーの国際的PRを目指している。冒頭で、 ペルーのゲリラ活動が鎮圧され治安が回復しており、ペルーの再建がスタ ートしたことが宣言されている。そして第1に、ペルーの水産資源/鉱物 資源/森林資源が豊富なことが強調されている。第2に、経済自由化政策 と農業/工業への投資の自由化が強調されている。第3に、ペルーの歴史 的遺産と観光資源の豊富なことが強調されている。ペルーに限らずチリに おいても、以上の3点が強調されているが、輸出主導型の発展においては、 -60-

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チリの輸出主導の発展は、世界銀行の構造調整プログラムの模範となった。

(12)前出、尾関修「メキシコの通貨危機と経済成長の長期見通し」参照。

1992年の山がバブルであることは、メキシコの通貨危機が発生して始めて

確定したことである。3循環図式が確立していれば、事前に判断できたは

ずである。

(13)チリの条件を充たすモデルの仮定は、試行錯誤によって収散したものであ

る。前出、尾関修「NIESの優等生チリの景気循環」参照。

(14)モデルの振幅の合計を10としたのは、振幅を仮定するための都合以外の何

ものでもない。投資水準や輸入輸出比率のパターンと相似性を持つように

振幅を調整した。標準的周期は、シュンペーターの短期循環*3=中期循

環、中期循環*6=長期波動という洞察に従って、短期循環*6=長期循 環、長期循環*3-長期波動を想定し、40カ月、10年、20年、60年と仮 定したが、短期循環については、経済成長率の変動に見られる短期循環を 考慮して4年と調整した。前出、尾関修「長期波動と債務問題の研究:ブ ラジルメキシコ、チリを例として」参照。 (15)ブラジルの3循環図式も、投資水準のパターンと良好な相似性が認識でき たため有効と考えた。尾関修「再論・ブラジルの長期波動と経済成長」横 浜商大論集第26巻第1号(1992年11月刊)参照。しかし、振幅の比は標 準的周期の比とは必ずしも関係なく、それぞれの国によって在庫循環、設 備循環、建設循環、インフラ投資循環のウエイトは違うと仮定できる。ウ エイトを読み取るのは洞察(パターン認識)の役割が大きい。フラクタル (自己相似図形)の認識におけるパターン認識の役割と数式化の方法につ いては、NHK「未来潮流:フラクタルが新しい世界をひらく~複雑系を 解く考え方~」(1996年10月5日放送)を参照。 (16)シュンペーターは、短期循環38ケ月(在庫投資循環)、中期循環9年半(設 備投資循環)、長期波動57年(インフラ投資循環)の3循環を1:3:18 の比の振幅で合成したモデルを提示しているが、実際に特定の国のケース に明示的に適用していない。また、その変化率のモデルを実質経済成長率 の推移などと比較することもしていない。シュンペーターは理念型として モデルを提示するに止まった。J、ASmumpeter,“BuBineBBCydes’'’ 1939,PorcupinepreBs,p,137.金融経済研究所訳「景気循環論V」(有 -62-

参照

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