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持続可能な社会と里山保全活動 : 地域の人びとを含む多様なステークホルダーの関与を通じて

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(1)持続可能な社会と里山保全活動 ──地域の人びとを含む多様なステークホルダーの関与を通じて──. 渡 耒 絢1). はじめに. 続可能性を構築することを明確にする.そして 里地・里山保全アプローチの海外への普及の可. 持続可能な社会の構築は,環境問題,経済・. 能性についての分析も試みる.国内の里地・里. 金融危機に伴う世界恐慌,先進国・途上国に見. 山保全活動の分析から,里地・里山保全にはそ. られるような格差から生じる社会問題等,現代. の地域の人びとの積極的な参加が不可欠であ. 社会が抱えている多様な問題を解決する世界共. ると同時に,保全・管理を継続的なものにする. 通のアプローチの 1 つである.経済・社会成長. ためには,さまざまなステークホルダーの関与. に伴う環境問題の悪化は,地球の生態系サイク. を促進させ,また保全に資する能力や技術育成. ルのバランス低下・崩壊に拍車をかけ,人間の. および情報提供が不可欠である点を述べる.さ. 生活環境にも悪影響を与える.農産物の収穫高. ら に 海外 に お け る 里地・里山保全活動 に 類似. の減少や医療品開発への障壁等,持続可能な社. する活動を挙げながら,日本が世界に提案し. 会の構築を不可能なものにする.豊かな既存資. た SATOYAMA イニシアティブの概念の世界. 源を保全・保護し,持続可能な形で活用しなが. への普及の可能性についても論じたい.海外で. ら,その活用技術を次世代に伝授するのは現代. も日本同様,多様なステークホルダーの参加を. 社会を生きる人びとにとっての使命である.. 促進し,持続可能な環境保全を実施するプロセ. 里地・里山は,人間社会と自然環境が調和し. スは,継続的な保全活動を実施する上で重要で. た自然共生社会として位置づけられている.自. あるとされている.持続可能な森林管理活動を. 然共生社会とは,森林保全や農用地等の土地の. 認定する森林管理協議会(Forest Stewardship. 持続可能な活用,生物多様性の保全等から構築. Council/FSC)は,認証制度を活用し,多様な. される社会である.この共生社会は CO2 排出. ステークホルダーの関与を可能にしている.多. 量の少ない低炭素社会や自然エネルギーの有効. 様なステークホルダーの関与は,結果的に関連. 活用,廃棄物排出量を削減する循環型社会をも. 情報や関与する人びとの理解促進を導き,さら. たらし,持続可能な社会を構築する.したがっ. なる普及・浸透を引き起こすことを示したい.. て里地・里山保全は,既存の自然資源を保全・ 保護するだけではなく,持続可能な社会の構築. 1.持続可能な社会とは. にも大きな役割を担っている.里地・里山保全. 人間が生活する社会は,元来,既存の自然環. は多角的な側面においてさまざまな恩恵をもた. 境の中に構築されてきた.人間社会は自然環境. らす.. の一部として,双方は共存してきた.しかし人. 本論文では,里地・里山保全が社会全体の持. 間 の 価値観 や 生活様式,地理的・地域的特徴,.

(2) 150 (346). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 2 号(2012 年 8 月). 文化・習慣等により,環境の中に構築される. 源が保全されるというわけではない.人口増加. 「人間社会」は異なる.環境と人間がより持続. も公害や資源枯渇のさらなる原因であると言及. 可能な形で共存できる社会を構築するために. している.途上国では,自然資源に依存した生. は, 「多層の空間レベルに応じた人間社会」と. 活様式が主流である.人口増加に伴い,食糧調. 「発展ないし『進化・適応』プロセス」を組み. 達のための無計画な土地開拓・開発や,農産物. 込むことが必要である(太田 2005:2) .つま. の収穫高を高めるための農薬の大量使用は,既. り,さまざまなアクターの関与と,人間社会が. 存の資源環境状況を悪化させ,生態系サイクル. 存在する環境に適応した形での社会の発展・進. の崩壊や土壌汚染等,多様な環境問題やさらな. 化が持続可能な社会構築の理想的な姿である.. る 貧困削減 を 引 き 起 こ す(西垣・下村・辻 . 持続可能性(sustainability)は,1987 年の国. 2009:264─265).経済発展と貧困削減に資する. 連の環境と開発に関する世界委員会(WCEED/. 社会的発展と,環境保全は双方ともに必要不可. ブルントラント委員会)の報告書で扱われたこ. 欠な要素であるが,経済的・社会的発展と環境. とで広く周知されるようになった.しかし持続. の調和による持続可能性の形成が必要となる. 可能性は 1987 年以前にも扱われていた.1972. (図1参照).この調和は 3 つの活動領域が重な. 年 の「国連人間環境会議(ス トック ホ ル ム 会. り合った部分において,可能な範囲で開発・発. 議) 」である.持続可能性は世界の環境問題に. 展し,「持続可能性」を発揮する.. ついての議論の中で扱われたことが起源である. 太田(2005)は,人間が構築する社会は環境. とされている.1992 年の「環境と開発に関す. という枠組みの中で活動するという点から,環. る 国連会議(地球 サ ミット) 」で は,持続可能. 境と共存する人間社会について述べている.持. な開発に関する情報を共有する国連 CSD(UN. 続可能な社会と環境共生社会を同義語としてと. Commission on Sustainable Development)が. らえ,人間社会の基盤を支える経済活動と社会. 国連内に設置された.また環境に対する国際的. 活動は,元来存在する環境システムの中で調和. 枠組みの基本方針として「環境と開発に関する. していくことが,人間社会と環境システムの共. リオデジャネイロ宣言」やこの具体的な行動. 存,つまり環境共生社会であると述べている(2. 計画である「アジェンダ 21」が合意されるな. ─4) .この点は,2002 年に開催されたヨハネス. ど,持続可能性に対する取り組みが世界で認. ブルク・サミットで言及されている内容に類似. 識され,同時に積極性を増していった(阿部. する.ヨハネスブルク・サミットでは,経済開. 2010:11─12,西垣・下村・辻 2009:263) .. 発,社会開発,環境保全の 3 点が持続可能性を. ブルントラント委員会で明確化された持続可. 導く要素であると述べている.環境保護・保全. 能性では,多角的な利害関係や多彩な思考を幅. という基盤と,経済開発,社会開発の 3 点が互. 広く取り扱うことができるという特質を備えて. いに依存し,相互的に補完しあうことで,持続. おり,開発や発展に向けて自然資源の利用配分. 可能な社会が構築される(矢口 2010:19) (図. を考慮することで,現在そして将来の環境状態. 2 参照).. に公平性をもたらすと言及されている.これは. 矢口(2010)は,持続可能な発展や持続可能. 「『環境と開発(経済)の両立』と『途上国にお. な社会の理念に対する理解・定義は,多種多様. ける貧困克服のための社会活動』 」の 2 つの点. であること,また関連研究も多方面において. を統合していることに起因する(矢口 2010:. 実施されていることを受け,⑴ 理念形成・実. 18) .西垣・下村・辻(2009)は,経済成長 に. 践初期(1970 年代初期から 92 年の地球サミッ. 向けた開発は公害や資源枯渇を引き起こす一原. ト) ,⑵ 理念定立・実践第 1 期(地球 サ ミット. 因ではあるものの,開発を進めなければ環境資. 2) か ら 2002 年 の ヨ ハ ネ ス ブ ル ク・サ ミット) ,.

(3) せ୙ྍḞ࡞せ⣲࡛࠶ࡿࡀࠊ⤒῭ⓗ࣭♫఍ⓗⓎᒎ࡜⎔ቃࡢㄪ࿴࡟ࡼࡿᣢ⥆ྍ⬟ᛶࡢᙧᡂࡀᚲ せ࡜࡞ࡿ㸦ᅗ㸯ཧ↷㸧ࠋࡇࡢㄪ࿴ࡣ 3 ࡘࡢάື㡿ᇦࡀ㔜࡞ࡾྜࡗࡓ㒊ศ࡟࠾࠸࡚ࠊྍ⬟࡞ ⠊ᅖ࡛㛤Ⓨ࣭Ⓨᒎࡋࠊࠕᣢ⥆ྍ⬟ᛶࠖࢆⓎ᥹ࡍࡿࠋ 持続可能な社会と里山保全活動(渡耒). (347) 151. [ᅗ㸯㸸3 ࡘࡢㄪ࿴࡟ࡼࡿᣢ⥆ྍ⬟ᛶࡢᯟ⤌ࡳᵓ⠏]. ⎔ቃಖ඲㡿ᇦ. ே㛫♫఍䛾 ⤒῭Ⓨᒎ㡿ᇦ. ⤒῭Ⓨᒎ. ᣢ⥆ྍ⬟ᛶ䛾 䛒䜛Ⓨᒎ㡿ᇦ. ⎔ቃⓗⓎᒎ. ♫఍ⓗⓎᒎ. ቃඹ⏕♫఍࡛࠶ࡿ࡜㏙࡭࡚࠸ࡿ㸦2–4㸧ࠋࡇࡢⅬࡣࠊ2002 ᖺ࡟㛤ദࡉࢀࡓࣚࣁࢿࢫࣈࣝࢡ࣭ ࢧ࣑ࢵࢺ࡛ゝཬࡉࢀ࡚࠸ࡿෆᐜ࡟㢮ఝࡍࡿࠋࣚࣁࢿࢫࣈࣝࢡ࣭ࢧ࣑ࢵࢺ࡛ࡣࠊ⤒῭㛤Ⓨࠊ ♫఍㛤Ⓨࠊ⎔ቃಖ඲ࡢ 3 Ⅼࡀᣢ⥆ྍ⬟ᛶࢆᑟࡃせ⣲࡛࠶ࡿ࡜㏙࡭࡚࠸ࡿࠋ⎔ቃಖㆤ࣭ಖ඲ ࡜࠸࠺ᇶ┙࡜ࠊ⤒῭㛤Ⓨࠊ♫఍㛤Ⓨࡢ 3 Ⅼࡀ஫࠸࡟౫Ꮡࡋࠊ┦஫ⓗ࡟⿵᏶ࡋ࠶࠺ࡇ࡜࡛ࠊ ᣢ⥆ྍ⬟࡞♫఍ࡀᵓ⠏ࡉࢀࡿ㸦▮ཱྀ 2010㸸19㸧㸦ᅗ㸰ཧ↷㸧 ࠋ [出典:太田 2005:3 を基盤に著者作成(一部加筆修正) ]. [ฟ඾㸸ኴ⏣ 2005:3㸦ⴭ⪅࡟ࡼࡿ୍㒊ຍ➹ಟṇ㸧] 図1 3 つの調和による持続可能性の枠組み構築. [ᅗ㸰㸸ᣢ⥆ྍ⬟࡞♫఍ࡢᯟ⤌ࡳᵓ⠏]. ኴ⏣㸦2005㸧ࡣࡇࡢⅬࢆ㋃ࡲ࠼ࠊே㛫ࡀᵓ⠏ࡍࡿ♫఍ࡣ⎔ቃ࡜࠸࠺ᯟ⤌ࡳࡢ୰࡛άືࡍ. ࡿ࡜࠸࠺Ⅼ࠿ࡽࠊ⎔ቃ࡜ඹᏑࡍࡿே㛫♫఍࡟ࡘ࠸࡚㏙࡭࡚࠸ࡿࠋᣢ⥆ྍ⬟࡞♫఍࡜⎔ቃඹ ⏕♫఍ࢆྠ⩏ㄒ࡜ࡋ࡚࡜ࡽ࠼ࠊே㛫♫఍ࡢᇶ┙ࢆᨭ࠼ࡿ⤒῭άື࡜♫఍άືࡣࠊඖ᮶Ꮡᅾ ⎔ቃάື㡿ᇦ䠄⎔ቃ䝅䝇䝔䝮䠅 ࡍࡿ⎔ቃࢩࢫࢸ࣒ࡢ୰࡛ㄪ࿴ࡋ࡚࠸ࡃࡇ࡜ࡀࠊே㛫♫఍࡜⎔ቃࢩࢫࢸ࣒ࡢඹᏑࠊࡘࡲࡾ⎔ 3. ♫఍άື㡿ᇦ. ⤒῭άື㡿ᇦ. ᣢ⥆ྍ⬟䛺♫఍ 䠄⎔ቃඹ⏕♫఍䠅 [出典:太田 2005:4 を基盤に著者作成(一部加筆修正)]. [ฟ඾㸸ኴ⏣ 2005:4㸦ⴭ⪅࡟ࡼࡿ୍㒊ຍ➹ಟṇ㸧]. 図 2 持続可能な社会の枠組み構築  ▮ཱྀ(2010)ࡣࠊᣢ⥆ྍ⬟࡞Ⓨᒎࡸᣢ⥆ྍ⬟࡞♫఍ࡢ⌮ᛕ࡟ᑐࡍࡿ⌮ゎ࣭ᐃ⩏ࡣࠊከ✀ከ ᵝ࡛࠶ࡿࡇ࡜ࠊࡲࡓ㛵㐃◊✲ࡶከ᪉㠃࡟࠾࠸࡚ᐇ᪋ࡉࢀ࡚࠸ࡿࡇ࡜ࢆཷࡅࠊ(1)⌮ᛕᙧᡂ࣭ ᐇ㊶ึᮇ㸦1970 ᖺ௦ึᮇ࠿ࡽ 92 ᖺࡢᆅ⌫ࢧ࣑ࢵࢺ㸧ࠊ(2)⌮ᛕᐃ❧࣭ᐇ㊶➨ 1 ᮇ㸦ᆅ⌫ࢧ ࣑ࢵࢺ࠿ࡽ 2002 ᖺࡢࣚࣁࢿࢫࣈࣝࢡ࣭ࢧ࣑ࢵࢺ㸧2ࠊ(3)⌮ᛕᡂ⇍࣭ᐇ㊶➨ 2 ᮇ㸦ࣚࣁࢿࢫ.

(4) 152 (348). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 2 号(2012 年 8 月). ⑶ 理念成熟・実践第 2 期(ヨハネスブルクサ. 実現を導く.また自然資源の有効活用は,持続. ミット以降)3)に区分し,持続可能性における. 可能な消費と生産の循環サイクルを構築し,循. 理念・概念と持続可能性の指標を明示している. 環型社会の実現を導く.しかしながら自然資源. (矢口 2010:16) .ヨ ハ ネ ス ブ ル ク・サ ミッ. の保全だけでは持続可能な社会の構築は不可能. ト 以降,国際的 に 認知 さ れ た 持続可能 な 発展. である.単に自然資源を保全するという行為だ. は, 「環境的持続可能性 を 前提 と し,経済的持. けではなく,現代社会の中で自然資源を持続的. 続可能性を一つの手段とし,社会的持続可能性. に保全・管理が可能となる仕組みも同時に必要. を最終目的・目標」 (矢口 2010:41)とする中. となる(武内 2010a:21─22).. で,環境・経済・社会の 3 つの側面からより均 等的な形で生活の質の向上を試みる.そして. 2.持続可能な社会構築―里地・里山保全を例に. 持続可能性 を 継続的 に 保持 し な が ら 社会的発. 2. 1.里地・里山とは. 展を図り,持続可能な社会を構築する.この観. 里山は一般的に「均質的な自然のまとまり」. 点は,武内(2010a)が言及する持続可能な社. を指す(武内 2010a:19).つまり人為的に手. 会を構築する上での 3 つの社会像とも合致す. を加えられていない自然環境空間である.里地. る.3 つの社会像とは,化石燃料の使用とエネ. も里山とともに表示される語彙である.里地. ルギー効率を高める低炭素社会の実現,持続可. は里山とは異なり, 「里山空間を含む「水田や. 能な消費と生産を考慮した循環型社会の実現,. 畑地,集落,ため池などを含んだもの」 」であ. そして生物多様性や生態系と人間社会が調和し. り,「異質的な自然の連なり」を指す(武内 . 4). た自然共生社会の実現である(17─18) .低炭. 2010a:19).ある特定環境の中で人間社会が円. 素社会の構築は,持続可能な経済発展,循環型. 滑に機能し,安定的な衣食住の生活を得る基盤. 社会の構築は持続可能な社会発展,自然共生社. 構築のために,人為的に手が加えられた空間で. 会の構築は持続可能な環境発展と言い換えるこ. ある.この人為的な空間の中で現代社会の最新. とができ,これらを統合した社会像が持続可能. 技術を活用しているわけではない.その土地を. な社会の構築に寄与する.その中でも,持続可. 有効活用・保全しながら,その地域の伝統的な. 能な社会構築に最も重要な社会は自然共生社会. 手法を基盤に,現代社会へ適応できる要素を加. である.地球に生息する生態系や生物多様性を. えることで里地の持続可能性を見出している.. 含む自然資源は,現代社会が抱えている気候変. 人為的な手が加えられていない空間と人為的に. 動や地球温暖化の悪影響を直接受ける(井村 . 手が加えられた空間の要素を組み合わせること. 2010:60) .不安定 で 予測不可能 な 気温,局地. で,自然環境と人間社会の調和を可能とする空. 的な降雨・洪水・干ばつ等,さまざまな環境問. 間,つまり日本が古くから有している里地・里. 題は,動植物の生息地の減少や絶滅の危機等を. 山が形成されていると示すことができる.. もたらす恐れがある.環境問題の多くは人間社. 武内(2010b)は,里地・里山保全 と 自然共. 会が生み出した経済活動の拡大に伴うものであ. 生社会の構築との関連性について,里地・里山. る.環境を配慮しない形での経済成長・社会成. 保全は「持続可能な社会全体の再構築につなが. 長は,生態系に今以上の悪影響を与え,環境の. る」と言及している⑸.森林保全や環境配慮型. 悪化だけではなく,自然資源から経済的・社会. の土地の有効活用,バイオ燃料創出等,里地・. 的恩恵を享受してきた人間社会の存続にも大き. 里山は低炭素社会および循環型社会の構築を可. な影響を生じさせる.自然共生社会を重視した. 能にする要素を備えているためである.持続可. 社会構築は,自然資源の有効活用やその保全,. 能な社会の構築を目指す上で,里地・里山の有. そ し て CO2 排出量削減 を 通 じ,低炭素社会 の. 効かつ円滑な保全は,ますます重要性を帯びて.

(5) 持続可能な社会と里山保全活動(渡耒). くるものと言える.. (349) 153. する政策・法律が制定された. 2006 年に策定された環境基本計画は,さま. 2. 2.里地・里山保全にむけた実施活動―日本 国内における関連政策・条例を中心に. ざまな人びとが関わり合いながら里地・里山 の総合的な保全に資する計画として位置づけ. 日本は国土の約 67% が森林で覆われている.. ら れ,総合的 な 視点 か ら の 活動実施 が 可能 と. その 3/4 は人工林である.この人工林の面積率. なった.この計画を基盤として策定されたのが,. は,歴史的な人間活動や社会・経済的変化等に. 2007 年の第 3 次生物多様性国家戦略である.こ. 伴う土地の利活用の変化に由来する.農地は経. の戦略では,里地・里山を「生物多様性からみ. 済成長に比例する形で,1970 年代ころより工. た国土のグランドデザイン」として位置づけて. 場や住宅地への利用転換が行われてきている. いる.里地・里山保全活動が日本における持続. (小野寺 2010:112─117) .都市部への人口流出. 可能な社会構築に資する 1 つのアプローチであ. は,郊外部の人口減少を引き起こしている.そ. ることを言及している.また同年,生物多様性. のため郊外の豊かな森林地域では,その保全管. 保全をより重視した農林水産省生物多様性戦略. 理が行き届かなくなり,自然の劣化・荒廃を引. も策定された.3 つの施策が掲げられ,そのう. き起こしている.人間活動による経済的・社会. ち 1 つは田圃,国地域,里地・里山の保全推進. 的変化は,日本国内の自然環境のバランスを不. である.環境保全型農業の推進や生物多様性に. 均衡にしている.このような危機的状況が日本. 配慮した生産基盤整備の推進等,農業と生物多. 国内の里地・里山で引き起こされている.. 様性保全の調和を目指した戦略施策である(環. 日本では 1990 年代ころを境に,自然環境保. 境省 2011:300─301).2008 年 に 策定 さ れ た. 全に資する関連政策や法律が制定されるよう. 生物多様性基本法では,里地・里山保全に関す. に なった.生物多様性保全条約 が 採択 さ れ た. るすべての活動は,生物多様性国家戦略を基本. 1992 年以降,その動きはますます活発なもの. とすることが定められた.これまで里地・里山. となった.生態系保全や里地・里山の重要性に. 保全に関連していたさまざまな側面からの政. 関する認識の高まりから,1995 年に生物多様. 策・法律が,包括性を備えた戦略へと 1 本化さ. 性国家戦略が初めて策定された.これ以降,環. れた.2009 年には,国が実施する保全活動施. 境保全等に資する関連政策や法律が誕生した.. 策を示しながら,多様なステークホルダーに対. しかしながらこの当時の政策の多くは,都市を. し,里地・里山の包括的な重要性や里地・里山. 中心とした開発計画や農地や森林活用に関する. の意義の理解促進,保全活用の実践を促す「里. もので,生物多様性や自然生態系を保護すると. 地里山保全活用行動計画~自然と共に生きるに. いうよりは,持続可能な土地利用,土地の改変. ぎわいの里づくり~」が策定された.この計画. 等に関連するものであった(及川 2010:97─. は 生物多様性国家戦略 2010 の 実行計画 に 位置. 98) .. づけられ,国土全体における市民運動としての. 生態系や生物多様性,里地・里山の保全に特. 展開を目的としている.そのため活動継続・促. 化した政策や法律の制定は,2002 年に制定さ. 進 の た め の 支援 や 土地所有者 と 地方公共団体. れた第 2 次生物多様性国家戦略に起因する.こ. との管理協定の締結,里地・里山という文化的. の戦略では,自然環境を保全するための有効的. 景観 の 保護推進事業 の 実施,里地・里山 の 多. かつさまざまな管理手法が不足することによ. 様な利用促進を実施している(環境省 2011:. り,日本がこれまで受け継いできた豊富な自然. 301).. 環境が減少する可能性について言及している.. 2000 年以降 の 国 レ ベ ル の 里地・里山保全活. これを機に,多様な側面から資源保全を可能と. 動に関する条例や法律の制定は,自治体レベル.

(6) 154 (350). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 2 号(2012 年 8 月). でも見られる5).例えば,上述した 2010 年の. している.神奈川県の大都市である横浜市およ. 生物多様性国家戦略では,各自治体での生物多. び川崎市に特化してみると,1965 年に所有し. 様性地域戦略の策定に反映させることを求めて. ていた 11,540ha の農地は,2000 年には 3,817ha. い る(環境省自然環境局 2010:5)よ う に,. にまで減少している.また 1990 年(平成 2 年). 自治体レベルの条例・法律の多くは,国レベル. 時点 に 所有 し て い た 6,008ha の 森林面積 は,. の法律を補完する保全管理・運営を目的とした. 2000 年には 4,686ha へと減少している(神奈川. 役割 を 担って い る(及川 2010:96─101) .包. 県環境農政部 2003:3─5) .. 括的・相互補完的な役割を担っている里地・里. このような環境状況の悪化の改善に向け,神. 山保全の活動基盤が整いつつある.しかしなが. 奈川県では自然資源の保全および再生を目指し. ら一方で,里地・里山の利用や管理の縮小は増. た 自然再生推進法 を 2000 年 1 月 に 施行 し た.. 大している傾向にある.生物多様性の損失も増. この自然再生推進法は,自然資源の保全・再生. 大傾向にある.今後の社会・経済成長に資する. を総合的な視点から実施することを目的として. さまざまな行動が環境に配慮しない形であれ. いるため,必然的に里地・里山も対象領域とし. ば,ますます自然資源の損失被害が大きくなる. て扱われている(神奈川県環境農政部 2003:. 可能性がある(環境省 2011:285─288) .直接. 6).里地・里山に特化した活動としては,神奈. 的な対応に加え,地域主体の取り組みや保全・. 川県の総合計画でもある「神奈川力構想」に組. 管理・運営等の能力構築等の保全活動に資する. み込まれている,都市と里山のみどりの保全と. 「間接的な要因も考慮した対応」も不可欠な対. 活用プロジェクトの実践から,里地・里山づく. 策となっている(環境省 2011:288). りの推進に取り組んでいる.2008 年 4 月には 神奈川県里地・里山の保全,再生及び活用の促. 2. 3.国内 に お け る 里地里山保全―神奈川県. 6). および横浜市7)を例に. 進に関する条例が施行され,里地・里山保全に 直接資する活動がますます可能となった.この. 神奈川県は日本国内における大都市の 1 つで. 条例は県内の里地・里山保全,再生及び活用を. ある.都市機能はもちろんのこと,産業機能,. 促進するために施行されたものである.かなが. 郊外機能,住宅機能等,多面的な都市機能を有. わ里地里山保全等推進指針は,この条例の総合. するという特徴を持つ.そのためさまざまな恩. 的かつ計画的な推進を促すために策定されてい. 恵の享受が可能である.. る(神奈川県環境農政部農地課 2009:1).神. 2. 3. 1.神奈川県における里地・里山保全. 奈川県では,「人々に豊かな恵みと潤いを与え. 神奈川県における里地・里山は,都市開発や. 未来に引き継がれる里地里山」を,目指す里地・. 産業地域の開発,都市部への人口流出,高齢化. 里山の姿として掲げている(神奈川県環境農政. 社会の到来等に伴い,総面積が年々減少傾向に. 部農地課 2009:6).この姿を達成する上で,. ある.神奈川県内における農地面積は 1965 年. 3 つの基本理念を中心に 3 つの実践を行ってい. (昭 和 40 年)時 点 で 50,900ha あった が,2000. る(表 1 参照).. 年(平成 12 年)時点では 21,700ha まで減少し. 3 つの実践の方向性は,神奈川県における里. て い る.100,385ha(1965 年時点)の 森林面積. 地・里山保全活動を円滑かつ有効に実践してい. は 2000 年時点 で 95,415ha ま で 減少 し て い る.. く上で重要な位置づけとなっている.「里の力」. 農地は荒廃状況もまた年々深刻さを増してい. では保全対象地域の選定促進および保全活動促. る.1995 年(平成 7 年)の 神奈川県内 に お け. 進を中心とした支援がなされている.研究会・. る 耕作放棄面積 は 1,214ha で あった の に 対 し,. ワークショップや,調査を通じた保全活動の意. 2000 年時点 で は そ の 面積 は 1,445ha へ と 増加. 義,活動実施に向けた財政支援および活動環境.

(7) 持続可能な社会と里山保全活動(渡耒). (351) 155. 表1 神奈川県における里地里山の保全等の促進に資する基本理念および実践の方向性 1.土地所有者等及び地域住民の主体制の尊重 基本理念. 2.土地所有者等,県民,県,市町村等の相互の連携及び協働 3.地域の農林業の営みを尊重した継続的な保全等 1.里の力──地域の人々に守られている里地里山. 実践の方向性. 2.まちの力──みんなに大切にされている里地里山 3.里の世話人──里地里山のコーディネート. [出典:神奈川県環境政策部農地課 2009:8 より著者一部加筆・修正]. の整備,人材育成の実践等,保全活動に主導的. ここでは挙げる.横浜市の都市化の発展に伴う. に関与する団体関係者が活動しやすい環境づく. 緑被率の減少やヒートアイランド現象の発生. りをハード面・ソフト面の双方から実践してい. 等,都市機能や人間社会に悪影響をもたらす環. る. 「まちの力」では,神奈川県民の里地・里. 境問題を抱えていた横浜市は 2009 年,5 ヶ年. 山保全に対する理解促進を中心とした支援がな. 事業として「横浜みどりアップ計画」を導入し. されている.里地・里山保全活動を広く伝播す. た(表 2 参照).横浜市内域における緑の減少. るためのシンポジム等の情報発信機会の提供や. 抑制や,緑被率の維持,樹林地や農地の保全等,. 子どもを対象とした自然とふれあうことのでき. 緑豊かな街を次世代に継承することを目的とし. る機会の提供等,多様な世代に応じ,彼らの知. た計画である.豊かな緑と人間社会が共生でき. 見を培う機会を提供している.これにより,県. る快適な社会空間を有した大都市の創造を目指. 民および都市市民による里地・里山保全活動へ. している.. の関心が高まり,自主的な活動参加の促進を可. 横浜みどりアップ計画では,3 つの事業に記. 能にしている. 「里の世話人」では,マルチス. 載されている具体的な行動指針によって実施さ. テークホルダー間の連携強化を中心とした活動. れている.保全・管理の実践や保全地域の有効. を実践している.主体となる活動団体間の保全. 活用等,人びとや自然にとってもより快適な空. に関するノウハウ共有,高等研究機関等の連携. 間の提供に寄与している.しかしこれらの事業. による保全に関する科学的検証等,実践的・学. を継続的に実施していくためには,安定的な財. 術的側面からの実施により,より有効的・効果. 源確保が必要となる.そこで横浜市では 2009. 的 な 里地・里山保全活動 の 実施 を 可能 に す る. 年度より横浜みどり税を導入した8).税収規模. (神奈川県環境政策部農地課 2009:13─18) .. は年平均で約 24 億円である.うち個人が 16 億. このようにマルチステークホルダー関与による. 円,法人 が 8 億円 と なって い る.2011 年度 は. 里地・里山保全活動実践の体制づくりを行って. 個人 16 億円,法人 5 億円 の 税収 が あ り,相当. いる. 神奈川県における里地・里山保全活動は,. 額がみどりアップ計画事業に充当されている. 主となる保全活動団体を支える行政側の関連活. (横浜市ウェブサイト).横浜は都市でありなが. 動のほか,都市に居住する住民を含む県民全員. ら生物多様性の宝庫である.里地・里山の地形. が,里地・里山保全活動に関心を持ち,自主的. や森には,生物多様性が数多く生息している.. に活動に参画しようとする姿勢を生み出す活動. そのためこのみどり税は,生物多様性横浜行動. も展開している.. 計画であるヨコハマ b プランにも活用されて. 2. 3. 2.横浜市における里地・里山保全. いる.その他,自然環境を市民全体の力で保護・. 神奈川県内の自治体の一例として,横浜市を. 育成させるため,子どもの体験学習の場となる.

(8) 156 (352). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 2 号(2012 年 8 月). 表 2 横浜みどりアップ計画 計画事業 事業概要. 樹林地保全. 農地保全. 緑の育成. 1.継続保有の促進 1.継続保有の促進 1.緑化推進 【緑地保全制度】 【生産緑地制度等の活用】 【地域緑のまちづくり】 ・緑地保全制度の拡充等 ・生産緑化制度の活用,農園付公園 ・さまざまな特徴を持つ地域に適し 【篤志の奨励制度】 整備,農業用施設用地 の 固定資産 た緑化を地域ぐるみでつくる,緑 ・公開協力土地所有者の厚意に謝意 税や都市計画税の軽減や農業経営 の専門家派遣,地域での計画づく を示す制度 の安定化および農地保全の推進 り支援 2.維持管理推進 2.農業振興 【公共施設緑化・民有地緑化助成 の 【安全・明るい森づくり】 【地産地消の促進】 拡充】 ・緑地再生・管理,緑地防災・安全 ・地産地消の推進,収穫体験施設の ・民有地緑化助成,公共施設の緑化 対策,市民協働による緑地維持管 開設支援等 および緑化管理,公共施設緑化管 理 【施設 の 省 エ ネ 化・生産用機械 の 理 【森の守り人育成】 リース導入】 【街路樹の維持・管理】 ・森づくりリーダー等の育成,樹林 ・農業生産に資する省エネ型設備・ ・都市の美観向上,樹木の健全・良 地管理団体活動への助成 機材の導入および農業機材リース 好な生育促進 3.利活用促進 の活用促進 【民有地緑化の誘導】 【森の楽しみづくり】 3.農地保全 ・民有地緑化の義務付け,緑化基準 ・景観・生物 の 生息地 づ く り(植 【田園景観や水田保全】 値を超える場合の固定資産税の軽 樹) ,木育 の 実践,収穫体験・里 ・集団的農地の維持管理,水田保全 減 山体験 の 実施,森林散策健康 ツ 契約 アーの実施,自然・生き物に関す 【生産基盤整備の拡充】 る情報発信の促進 ・生産基盤(例:潅漑施設)整備の 【森づくり市民提案制度】 拡充 ・市民提案に基づく市民協働による 【不法投棄対策・周辺環境配慮型生 樹林地の維持管理 産環境整備】 【森の資源循環促進】 ・不法投棄対策,環境配慮型施設整 ・間 伐材資源循環促進,間伐材活 備 用 を 目的 と し た ク ラ フ ト ワーク 4.担い手育成 ショップの開催 【機会作業受託組織の育成】 【ウェルカムセンター等の整備】 ・農業機械作業受託組織の育成 ・ボランティア活動活性化および市 【コーディネーターの活用】 民理解と参加促進事業の実施 ・市民協働による農作業促進に向け 【森林教室等の開講】 た 担 い 手 コーディネーター育成・ ・樹林地保全に関する教室の開催 派遣事業 4.確実な担保 【農業後継者・横浜型担い手育成】 【緑地保全制度 に よ る 地区指定拡 ・農業経営士による後継者育成,都 大・買取】 市農業経営支援(環境保全型農業 ・特別緑地保全地区指定の拡充 推進者を対象とした「横浜型担い 【よこはま協働の森基金制度の見直 手」認定 し】 【農地の貸し手への支援】 ・樹林地保全に関する全施策制度の ・長期間の農地貸付けの可能を目指 見直し等 した農地所有者誘導 【国への制度要望】 5.確実な担保 ・緑地保全等に関わる財政上の負担 【公的機関による買取・あっせん】 軽減措置の創設拡充等の国への要 ・幅広く市民が利用できる市民農園 望 の開設,規模拡大希望農家等の農 地取得支援に向けた農地流動化促 進 【国への制度要望】 ・農地拡大や貸付農地,市民農園等 に対する相続税評価の軽減等の国 への要望. [出典:横浜市ウェブサイトを参考に著者作成].

(9) 持続可能な社会と里山保全活動(渡耒). (353) 157. 機会の管理・運営および生物多様性に関する活. る.持続可能な保全を可能にするには,さまざ. 動に取り組む団体への助成制度等,新たな支援. まなステークホルダーが関与できるような枠組. 9). 制度づくりにも活用されている .. みづくりは重要である.先述したような各レベ. 国レベル,都道府県レベル,自治体レベル,. ルで策定されている法整備もそのような役割を. どのレベルをとっても,里地・里山保全に関心. 担っている.しかし持続可能な保全活動の基盤. を示している. 実質的な行動に移した背景には,. が整っていても,その基盤を動かすアプロー. 自然環境の状態をないがしろにした社会・経済. チ・ツールがなくては機能しない.そのような. 発展によって生み出された数々の諸問題に直面. 意味で,里地・里山の持続可能な管理・運営に. したことにある.郊外部の若者を中心とした人. 資するノウハウや能力構築・人材育成に関わる. 口流出問題や,人口流出によるマンパワー不足. システム,継続的に管理・運営できる資金の確. は,里地・里山の定期的な管理体制を崩し,荒. 保も重要である.. 廃区域を増大させる.生物多様性の生息地の減 少や生態系バランスの崩壊,それに伴う農産業. 2. 4.海外における里地・里山保全. の経済の低迷等,自然環境状態の悪化は生態系. ここでは海外における里地・里山保全に関す. のみならず,自然資源での恩恵を受けて生活し. る研究を整理し,また類似事例を列挙しながら. てきた人びとたちの生活の糧も脅かす.. 海外事例全体における傾向について,分析を試. 1990 年以降,国レベルにおいて各問題の対. みる.. 処に向けた法制度が制定された.2000 年度以. 2. 4. 1.海外における里地・里山に関する研究. 降,それらは相互に関連性を持つことができる. 海外における里地・里山に関する研究は,直. よう,総合的な側面から問題解決を可能にした. 接的な関連性を備えた研究はなされていない. 枠組みが構築された.さまざまな環境問題は,. が,間接的に関連する分野・領域からの研究や. 1 つの側面からの対応では解決を導くことがで. 関連事業が実施されている.生物多様性の分野. きないという点が,国内の共通認識となり,総. からは政策提言や条約・提唱が行われている.. 合的な枠組み構築に至ったと理解できる.都道. また農業分野では,土地利用による持続可能性. 府県レベル,自治体レベルにおける取り組み. との関連性から里地・里山保全にも関連する研. は,実施内容は異なるものの,国レベルの法令. 究が行われている.持続可能な土地管理の戦略. に沿った事業内容・活動を展開している.. に向けた複合的機能を分析し,適切な土地利用. 上記で述べた神奈川県は,自然環境保全とい. による社会・経済・環境機能の向上に資する研. う側面から里地・里山保全を実施している.地. 究10)や,現在 の 農業景観 が 経済市場 や 社会政. 元の人びとが主体となる活動やさまざまなス. 策等,社会・経済的変化によって形成されてい. テークホルダーの協力を仰ぐ活動は,包括的な. ることから,近代的な農業景観への阻止に資す. 側面からの保全活動を可能にしている.横浜市. る方法論の理解促進に努めた論理的・実践的政. では都市緑化を保全・促進するために,都市と. 策を提示する農業景観と持続可能性との関連性. してできることを中心に活動を展開している.. からの研究11),生態系システムの中で人間は生. 横浜みどり税はその 1 つと言える.持続的な保. かされているという生態系的側面からの研究12),. 全のための資金を安定的に確保している.都市. 環境の質に影響を与える行動の範囲を決定する. だからこそ継続的に実施できる里地・里山保全. ため,特定の政策を介入させることによる農業. にむけた新たなアプローチを確立している.. 改革(農業環境政策インパクトモデル)等の応. 国レベル,都道府県レベル,自治体レベルの. 用可能 な 政策決定 に 資 す る 研究13)等,複合的. 共通認識は,持続的な自然環境保全の実施であ. な視点から研究がなされている.持続可能な土.

(10) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 2 号(2012 年 8 月). 158 (354). 表 3 里地・里山活動として紹介されている海外事例 地 域 アフリカ. アメリカ. 国名(地域). 事業分野. 核となる事業概要. マラウイ(マラウイ). 森林,農地,陸水. 地域の人々の生活(福利)向上 ケニア(マサイ)草地, 農業 伝統的な生活の保全による生物保全. ケニア(マサイ). 草地,農業. 伝統的な生活の保全による生物保全. メキシコ(オアハマ). 森林. 地域の意思決定による保全活動. アメリカ(ルイジアナ). 農地. 環境配慮型における地域の生産性・生物多様性の向上. アルゼンチン (アルゼンチン東北部) ぺルー(クスコ). アジア. 地域の持続可能な経済便益に資する里地・里山特有の 森林,農地,陸水 モザイク状の土地景観.地域の人々の継続的な管理お よび周辺の人びとの管理に対する理解促進. 農業地の総合的保全における生物多様性保全.地域の 状態に適した農業と生物多様性の共存.. 農地. カンボジア(コンポンチャム) 森林,農地. 住民主体の環境配慮型行動による人間社会と自然の持 続可能な関係性の構築.. インド(ケララ州ワヤナド) 森林,農地. 公的・非公的組織間の協働活動.伝統的手法を用いた 農用地保全,森林保全.. タイ. 森林,農地. 住民による森林管理および持続可能な利用.. フィリピン(ルソン島). 森林,草地,農地. 先住民地区(世界遺産.里地・里山景観 に 類似)に 生 息する多様な資源の利用と管理. 伝統的手法による複合的な土地利用.持続可能な利用 と保全を促進.. インドネシア(中スラウェシ) 森林,農地 ヨーロッパ. オセアニア. ドイツ オーストラリア (ゴールドコースト) ソロモン諸島. EU の 環境政策 Natura 2000 ネット ワーク に 関連 し た 森林,草地,農地 活動.農家 の 多角的 な 経営促進 の た め の 保全,管理, 利用に資する活動. 森林,農地,陸水 多様な保全団体による地域の自然資源の確保. 森林,沿岸,農地. 里地・里山特有の土地景観および沿岸地域における環 境配慮型行動による生計手段支援.. [出典:SATOYAMA イニシアティブウェブサイトを参考に作成(日本の 3 事例は除く)]. 地活用については,人間と生態系双方にとって. 17 事例が掲載されている(表 3 参照.ただし. Win─Win な関係性を継続的に構築し,よりよ. 表 3 は,日本 の 3 事例(東京都町田市,石川県. い便益を互いに提供・享受することができると. 輪島市,京都府京丹後市)は除いたものである).. 海外の研究でも理解されている.この理論は,. 具体的な事例内容は,森林,草地,農地,沿岸,. 里山・里地保全の概念とも類似するものであ. 陸水の 5 つに区分されている.総合的に見る. り,海外においても里地・里山の概念が広く普. と森林保全,農地に関する事業を実践する事. 及しうる可能性を備えていると言える.. 例が多い.. 2. 4. 2.海外における里地・里山活動の類似事例. また上記に示した海外事例の多くは,地域住. 前述の通り,里地・里山保全活動に類似する. 民参加型のものが主流である.彼らの積極的な. 研究が海外でもなされていることが明らかと. 参加による森林地域および農用地における持続. なった.SATOYAMA イ ニ シ ア ティブ(詳細. 可能な保全や管理・運営は,その地域に生息す. は 2. 5 に記す)のウェブサイトには,海外の里. る生態系や生物多様性の保全に資する.また持. 地・里山活動事例として,アフリカ,アメリカ,. 続可能な保全や管理・運営を通じた有効的な自. アジア,ヨーロッパ,オセアニアの 5 地域,計. 然資源の活用は,彼らの生活向上,そして彼ら.

(11) 持続可能な社会と里山保全活動(渡耒). (355) 159. の伝統的文化や風習の保全・継承にも大きな貢. ての保全に資する.オセアニア地域では計 7 件. 献となる.. の事例が紹介20)されている.田畑や草地にお. 環境省関連 の 里 な び ウェブ サ イ ト14)で も,. ける地元集落での農林業活動が多く実践されて. 海外における保全・活用の取り組み事例を掲載. いる.またオーストラリアでは,沿岸域のサン. している.こちらのウェブサイトでは, アジア,. ゴ礁保全に資する活動が展開されるなど,海に. アフリカ,北アメリカ,ラテンアメリカ,ヨー. 囲まれた地域特有の保全活動も見受けられる.. ロッパ,オセアニアの 6 地域に区分し,各地域. 里なびウェブサイトの事例では,地元集落を. での実践概要を掲載している.アジア地域で. 中心にその地域に古くから継承されてきた自然. は計 22 件の事例が紹介15)されており,中でも. 環境の景観(田畑や農地を含む)の保全に資す. インドネシアでの事例が多い(4 件) .活動領. る活動が数多く紹介されている.自然環境に生. 域では,田畑や草地での農林業活動が多い.樹. 息する生態系の生息地保全に寄与するだけでは. 林地での活動はインドネシアやカンボジア,タ. なく,持続可能な消費と生産に関わる有効な自. イなどの比較的森林を幅広く所有している国に. 然資源の利活用を人々にもたらしている.. 見られる.ベトナムやカンボジア,スリランカ. 伝統的手法の活用や,既存の田畑や樹林地を. では溜池や湖沼,湿地の環境保全に資する活動. 含む伝統的景観の保全には,地元住民の積極的. も実践されている.全体的に地元集落での活動. な参加は不可欠である.同時に里地・里山保全. が中心であり,地域の人々の暮らしと自然環境. 活動と実施の重要性に対する理解も必要であ. との共生社会の構築に資する形で実践されてい. る.これらは実際に活動に参加することで理解. 16). る.アフリカ地域では計 11 件の事例が紹介. 促進を促すと言える.例えば里なびウェブサイ. されている.アフリカではケニアでの事例が. トの事例のいくつかは,環境教育の 1 つの場と. 多く紹介されている(3 件) .アフリカ地域で. して里地・里山保全活動を活用している21).保. は,全体的に樹林地での農林業活動の事例が多. 全活動を通じた啓発活動の実践は,多くの人び. く,アジア地域同様,地元集落での活動が中心. との保全活動への理解や自然環境に対する意識. となっている.自然資源の有効かつ持続可能な. 改革に資する 1 つのツールとなる.海外でも里. 活用による生活向上に資する実践である.ヨー. 地・里山に類似した自然環境の保全活動は積極. ロッパ地域では計 6 件の事例紹介17)がなされ. 的に実践され,自然環境と人間生活の共生を創. ている.ヨーロッパの事例で特徴的なのは,行. 出する役割を担っている.海外のより多くの地. 政の関与があるという点である.持続可能な. 域に対して,このような活動実践を促進させ. 利用に向け,農林業や動植物を対象とした活動. るため,日本は 2010 年,名古屋で開催された. が主流である.このような動きは,EU が策定. CBD COP10 にて SATOYAMA イニシアティ. した生物多様性政策との関連性によるものであ. ブ 構想 を 提唱 し た.次節 で は,SATOYAMA. る.北アメリカ地域では計 5 件の活動事例が紹. イニシアティブの海外への発信に対する役割,. 介18)されている.地元集落を中心とした自然. 日本への期待について記述する.. 循環社会の構築や持続的な資源活用に資する事 例が多い.ラテンアメリカでは計 9 件の事例が 19). 紹介. されている.地元集落における樹林地. 2. 5.里地・里山保全による持続可能な社会構 築の可能性. や田畑を中心とした農林業活動が多く見られ. 里地・里山保全による持続可能な社会の構築. る.ペルーやエクアドルでは,景観文化に資す. は可能である.しかしそのためにはいくつかの. る活動も展開されている.対象地域の伝統的文. 課題がある.1 つ目は里地・里山地域の持続可. 化・習慣の保全やエコツーリズム・観光地とし. 能な保全と管理・運営に資する能力や人材育.

(12) 160 (356). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 2 号(2012 年 8 月). 成,それらを次世代に継承していくための環境. れ て い る(World Agroforestry Centre)(図 3. 整備である.伝統的な手法を活用しながら保全. 参照).. されている里地・里山は多い.しかしそれら. SATOYAMA イニシアティブの提案と合わ. の手法を次世代に継承していかなければ,里. せ,情報共有や研究推進に向けた SATOYAMA. 地・里山の保全を継続的に行うことは困難にな. イ ニ シ ア ティブ 国際 パート ナーシップ(IPSI). る.多様なステークホルダーが保全活動に参加. も発足した.2011 年 7 月 25 日時点で国内外の. しやすい環境整備が必要である.2 つ目は多様. 政府機関,地方自治体,NGO,学術機関,企業. なステークホルダーの,持続可能な自然資源の. 等から合計 91 機関・団体が加盟している(環. 有効活用に関する重要性についての理解であ. 境省 2011:304) .. る.里地・里山の多くはその地域に居住する地. 豊かな人間社会は,自然資源の恩恵によって. 域市民が主体となり,その保全活動を実践して. 構築 さ れ て い る.人間 と 自然環境 の 共存社会. いる.市民の里地・里山に対する総合的な理解. は,自然資源から恩恵を安定的に享受すること. が最も重要である.これら 2 点の課題を考慮し. を可能にする環境である.少なからず IPSI の. ながら実践していくことで,里地・里山保全活. 加盟機関・団体は,自然資源と人間社会がうま. 動はより持続可能なものとなる.生物多様性の. く共存し合える持続可能な社会構築のためのア. 生息地保護はもちろんのこと,自然資源の恩恵. プローチの模索が必要であることを理解してい. を通じた経済社会の向上にも寄与し,里地・里. る.同時 に 里地・里山保全 が 持続可能 な ア プ. 山保全 が 目指 す 人間社会 と 自然環境 と の 共存. ローチとして適していることも理解している.. 社会の構築も可能となる.そういった意味で. IPSI メンバーの里地・里山に対するさらなる. SATOYAMA イ ニ シ ア ティブ は,里地・里山. 理解は,メンバー間の情報共有のみならず,相. 保全の概念や活動を海外に発信,そして普及さ. 互協力やメンバー以外のアクターに対する普. せる上で大きなアクションとなる.. 及・促進にも資すると言える.SATOYAMA. SATOYAMA イニシアティブは,2010 年に. イニシアティブは,海外においてもそのコンセ. 名古屋 で 開催 さ れ た CBD COP10 に て 日本 が. プトが普及する可能性が十分にある.. 提案したイニシアティブである.人間と自然環 境が調和を構築し,その枠組みの中では環境配 慮型の社会経済活動の管理および開発を促進す る.適切で持続可能な自然資源の活用や生物多. 3.里地・里山保全に資するアプローチ―森林 管理協議会(Forest Stewardship Council/ FSC)を例に23). 様性の管理は,人間社会に対し,自然資源の恩. ここでは持続可能な森林管理認証を行う国際. 恵を安定的に享受させる.SATOYAMA イニ. 組織,FSC(Forest Stewardship Council/森林. シアティブは,都市化や工業化,地域から都市. 管理協議会)を簡単に紹介する.FSC(Forest. 部への人口流出等,現代社会が抱えるさまざま. Stewardship Council/森林管理協議会)24)は 国. な問題の解決を可能にし,持続可能な社会を構. 際組織として 1993 年に設立された.既存の認. 築するとして,解決アプローチ 1 つとして世界. 証制度の透明性の明確化および類似する認証制. に発信された22).SATOYAMA イニシアティ. 度 の 混乱是正 を 目指 し,環境,社会,経済 の. ブでは「自然共生社会の実現」を長期目標とし. 観点 か ら の 適正 な 森林管理 の 実施 を 審査・認. て掲げ,3 つの行動指針から構成されている.. 証 し,適切 か つ 持続可能 な 森林管理 の 推進 に. そして「より持続可能な形で土地及び自然資源. 資する活動を行っている25).FSC の活動は里. の利用と管理が行われるランドスケープの維. 地・里山保全と直接的な関連性はない.しかし. 持・再構築」を目指し,5 つの視点から実践さ. 小規模森林業者を対象とした森林認証取得の拡.

(13) 持続可能な社会と里山保全活動(渡耒). (357) 161. 㛗ᮇ┠ᶆ � ⮬↛ඹ⏕♫఍䛾ᐇ⌧. ⾜ືᣦ㔪 ከᵝ䛺⏕ែ⣔䛾䝃䞊䝡䝇䛸౯್䛾☜ಖ䛾䛯䜑䛾▱ᜨ䛾⤖㞟 ఏ⤫ⓗ▱㆑䛸㏆௦⛉Ꮫ䛾⼥ྜ ᪂䛯䛺ඹྠ⟶⌮䛾䛒䜚᪉䛾᥈✲. ⎔ቃᐜ㔞䞉⮬↛᚟ඖ ຊ䛾⠊ᅖෆ䛷䛾 㻌 ฼⏝. ⮬↛㈨※䛾 ᚠ⎔฼⏝. ᆅᇦ䛾ఏ⤫䞉ᩥ໬䛾 ౯್䛸㔜せᛶ䛾 ㄆ㆑. ከᵝ䛺୺య䛾 ཧຍ䛸༠ാ. ♫఍䞉⤒῭䜈䛾 ㈉⊩. 5䛴䛾䜰䝥䝻䞊䝏᪉ἲ [出典:SATOYAMA イニシアティブウェブサイトより作成]. 図 3 SATOYAMA イニシアティブによる自然社会の実現にむけたアプローチ. 大に資する活動や責任ある森林管理ノウハウを. 証を受けることで,FSC プログラムに直接的・. 高 め る 活動,FSC 認証 マーク と フェア ト レー. 間接的に関与するすべてのステークホルダーに. ドの 2 重認証制度の実施等は,持続的な森林保. 対して FSC の便益を享受させることに成功し. 全という環境配慮型の行動・活動という枠を超. ている26).FSC は森林保全という活動を通じ,. え,いかにその業務に関わる人びとの生活を継. 人間社会と環境との共存社会を構築していると. 続的に豊かにすることができるかという点を考. 言える27).. 慮している.また管理業者の持続的な生活向上 に寄与するだけではなく,人びとの日常生活の. おわりに. 中で環境問題について考える機会の提供や,産. 以上,持続可能な社会構築と里地・里山保全. 業界に対する環境配慮型の活動参加を促す.加. 活動との関連性について,また SATOYAMA. えて FSC が実践するプログラムの一部は,他. イニシアティブの海外への普及の可能性につい. の団体・組織と共同実施しており,一定量の実. て み て き た.里地・里山 は 複合的 な 側面 を 含. 施資金も確保できている.これもまた持続的に. 有 し,多様 な 側面 に よ る 保全活動 か ら 自然共. 活動実施を可能にする要素となっている.FSC. 生社会 の 構築 を 目指 し て い る.里地・里山保. 認証を受けている国や地域は,土地利用や気. 全の実践による自然共生社会の構築は,循環型. 候,自然環境 の 保全状況 は 異 な る が,FSC 認. 社会や低炭素社会を構築する.これらは持続可.

(14) 162 (358). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 2 号(2012 年 8 月). 能な社会を構築する上で重要な社会である.そ. 活動にするためには,できるだけ多くのステー. ういった意味で里地・里山保全を通じた持続可. クホルダーに,多くの関連情報を提供し,いか. 能な 社会 の 構築 は 可能である.一方,海外に. に関与させることができるかによる.そのため. お い て は 直接的 な 里地・里山保全 は な い.し. より多くのステークホルダーを関与させるため. か し 森林保全 や 土地利用,農業 と 生物多様性. のツールを模索することも不可欠である.FSC. 保全に関する研究や類似事例は数多くある.こ. はそのアプローチの 1 つとして扱ったが,ス. のような視点は,里地・里山保全にも含まれて. テークホルダーを関与させるアプローチは数多. いるものであり,人間社会と自然環境との共生. くある.神奈川県や横浜市のように,より多く. 社会を目指しているものと言える.したがっ. の人びとが直接的・間接的に関与できるよう. て SATOYAMA イニシアティブが浸透・普及. に,みどり税や里山条例等,里地・里山保全に. しやすい基盤を海外はすでに備えていると言え. 関与する法的枠組みを整備するという点もアプ. る.. ローチの 1 つとしてとらえることも可能であ. 里地・里山保全を浸透・普及させるには,保. る.また持続可能な開発のための教育(ESD). 全活動を実施する地域の人びとの協力が必要で. や環境教育といった能力育成や環境の大切さを. ある.SATOYAMA イニシアティブや類似事. 学ぶ機会をアプローチとして活用することも可. 例で扱った海外の環境保全活動は,環境保全も. 能である.安定的な実施資金の確保や保全活動. さることながら,草の根レベルの地域の人びと. に関するノウハウや能力構築,里地・里山保全. の生活・経済向上に貢献することを目的とした. に関わる情報提供は,自然保護全体に対する意. ものである.地域の保全には,その地域特有の. 識を高め,日常的に環境配慮型行動を実践する. 伝統的文化や風習,気候,地域性等が少なから. 姿勢を促進させる.結果的に里地・里山保全の. ず関わってくる.そういった意味で地域の人び. 持続的な管理・運営にも資する.さまざまなス. との積極的な参加促進は,里地・里山保全を継. テークホルダーを関与させるための法的枠組み. 続的に実施していく上で重要な要素である.し. の構築や能力構築,情報提供等を含む総合的な. かしながら現代社会は特に里地・里山地域があ. アプローチの展開は,安心・安全な人間社会と. るよ う な 郊外地域において,高齢者人口の増. 自然環境との共存社会の構築,そして持続可能. 加問題や若者人口の都市部への流出等,保全に. な社会の実現にも資すると言える.. 必要なマンパワーの減少や保全活動に資する能 力や技術の継承が困難になりつつある.地域の 人びとだけでは保全活動にも限界がある.地域 の人びとの他,外部のさまざまなステークホル ダーを対象とした保全活動への理解および関心 を促す環境づくりも必要である. FSC は 持続可能 な 森林管理 を 促 し な が ら, 小規模の森林管理業者の社会・経済成長を支え る活動を実践している.里地・里山保全には直 接関連性はないが,FSC の活動は地域の人び との活動を中心に,FSC 認証商品を製造する 加工業者や商品を購入する消費者等,さまざま なステークホルダーに対して森林保全の理解 促進や情報提供等を行っている.継続的な保全. 参考文献. <参考論文・書籍> A.和書(あいうえお順) 阿部治(2010) 「1今なぜ「持続可能な社会」なの か」 ,国立国会図書館調査及び立法考査局『持 続可能な社会の構築─総合調査報告書─』 , 国立国会図書館,pp. 11─13 井村秀文(2010) 「グローバル・サステイナビリ ティと生物多様性」 ,井村秀文(編) 『資源と しての生物多様性』 ,国際書院,pp. 55─63 及川敬貴(2010) 『生物多様性 と い う ロ ジック─ 環境法の静かな革命』 ,頸草書房 大黒俊哉・武内和彦(2010) 「里地里山 の 生態系 ─生態系 サービ ス を 評価 す る」 ,小宮山宏・ 武内和彦・住明正・花木啓祐・三村信男 (編) 『サ.

(15) 持続可能な社会と里山保全活動(渡耒). ステイナビリティ学 4 生態系と自然共生社 会』,東京大学出版会,pp. 75─107 太田勝敏(2005) 「 1.環境共生社会へのアプロー チ」,東洋大学国際共生社会研究 セ ン ター編 『国際環境共生学』,朝倉書店,pp. 1─8 小野寺浩(2010) 「国土の生態系保全」,小宮山宏・ 武内和彦・住明正・花木啓祐・三村信男(編) 『サステイナビリティ学 4 生態系と自然共 生社会』,東京大学出版会,pp. 109─141 武内和彦(2010a)「人間・自然関係 の 再構築 と SATOYAMA イ ニ シ ア ティブ」,井村秀文 (編)『資源としての生物多様性』,国際書院, pp. 17─30 武内和彦(2010b)「自然共生社会 と は な に か ─ 生態系 の 視点 か ら」,小宮山宏・武内和彦・ 住明正・花木啓祐・三村信男(編)『サ ス テ イナビリティ学 4 生態系と自然共生社会』, 東京大学出版会,pp. 1─8 西 垣 昭・下 村 恭 民・辻 一 人(2009)「地 球 環 境 問題への取組み」 ,西垣昭・下村恭民・辻一人 (共著)『開発援助 の 経済学「共生 の 世界」 と日本の ODA(第 4 版) 』 ,有斐閣,pp. 262─ 280 矢口克也(2010)「 2「持続可能 な 発展」理念 の 実践課程 と 到達点」,国立国会図書館調査及 び立法考査局『持続可能な社会の構築─総合 調査報告書─』,国立国会図書館,pp. 15─49 御代川喜久夫・関啓子(2009)『環境教育 を 学 ぶ 人のために』,世界思想社 B.洋書(アルファベット順) Katharina Helming and Hubert Wiggering (eds.) (2010)“Sustainable Development of Multifunctional Landscapes,” Springer Jorgen Primdahl and Simon Swaffield(eds.) (2010) “Globalisation and Agricultural Landscapes–Change Patterns and Policy Trends in Developed Countries,” Cambridge University Press OECD.(2010)“Linkages between Agricultural Policies and Environmental Effects,” OECD <報告書・シンポジウム> A.和文(あいうえお順) 神奈川県環境農政部(2000)『かながわ里山づく り構想』 神奈川県環境農政部農地課(2009)『か な が わ 里 地里山保全等促進指針─人びとに豊かな恵み と潤いを与え未来に引き継がれる里地里山を めざして』 環境省自然環境局(2010)『里地里山保全活用行 動計画』 環境省(2011)『環境白書(平成 23 年度版)』. (359) 163. 国連大学・横浜国立大学・国連大学協力会(2011) 『持続可能性とリスクマネジメント 地球環 境・防災を融合したアプローチ』 (シンポジ ウム資料冊子) (シンポジウム開催日:2011 年 11 月 26 日,場所:横浜国立大学・教育文 化ホール) 小林正幸(横浜市環境創造局政策調整部長)によ る発表「横浜市のみどり税をみどりアップ計 画・生物多様性地域戦略」 (2011 年 11 月 26 日開催のシンポジウム資料:69─71) 横浜市環境創造局(2009) 『横浜 み ど り アップ 計 画(新規・拡充施策) 』 横浜市環境創造局(2010) 『横浜 み ど り アップ 計 画(新規・拡充施策)平成 21 年度事業報告書』 横浜市行政運営調整局税務支援課(2009) 『市民 税・県民税変更のご案内(広報よこはま特別 号/税務特別号) B.英文(アルファベット順) Clean Asia Initiative(CAI) .(2011)“Satoyama Initiative,”(Introduction Leaflet) , Ministry of Environment, Japan and IGES. FSC.(2010)“Fairtrade and FSC Joint Labeling– Bringing Fair Price & New Market Opportunities FSC Small-holder Forest Enterprises,”(Fact Sheet) FSC.(2011) . “Celebrating Success: Stories of FSC Certification.” <参考ウェブサイト> A.日本語(あいうえお順) 神 奈 川 県 ウ ェ ブ サ イ ト.<http://www.pref. kanagawa.jp>,ACCESS:2011/12/11 里 な び ウ ェ ブ サ イ ト.<http://www.satonavi. go.jp/>,ACCESS:2011/12/18 SATOYAMA イ ニ シ ア ティブ ウェブ サ イ ト. <http://satoyama-initiative.org/jp/>, ACCESS:2011/12/18 Forest Stewardship Certification Japan Website. <http://www.forsta.or.jp/fsc/modules/ pico/>,ACCESS:2011/06/07 横浜市ウェブサイト.<http://www.city.yokohama. lg.jp>,ACCESS:2011/12/18, 2012/07/14 B.英語(アルファベット順) Certification of Forest Contractors(CeFCo) Website. <http://www.cefcoproject.org/>, ACCESS:2012/01/15 Forest Stewardship Certification (FSC) Website. <http://www.fsc.org/about-fsc. html>, ACCESS: 2012/01/09.

(16) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 2 号(2012 年 8 月). 164 (360). 注 1)公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) プログラムマネジメントオフィス(PMO)特 任研究員(神奈川県三浦郡葉山町上山口 2108─ 11.watarai@iges.or.jp).な お 本稿 の 内容 は, 著者の見解であり,IGES の見解を述べたもの ではない. 2)理念定立・実践第 1 期 で は,環境・経済・社 会の 3 つの側面の認識が定着し,実質的でかつ 相互的な統合が見られ始めた.国際的な枠組み の構築や地方自治体による具体的な行動方針等 も確立され始め,また社会開発における具体的 な 目的 も 明示 さ れ 始 め た.持続可能発展 に 向 け,国家戦略の早急な策定が認知された(矢口 2010:24─31). 3)理論成熟・実践第 2 期からは,さまざまな目 的をもったステークホルダーによる具体的な取 り組み実践の時期となった.持続可能な発展の 実現 に 向 け,経済・環境・社会 の 各側面 に お ける具体的な課題の追求と環境を基盤とする 3 つの側面の理念的課題の追求の必要性を受け, バックキャスティング方式というアプローチが 採用された.この方式は「「地球は有限」とい う前提のもとで,安心した生活,あるべき社会 の姿」を想定し,想定を達成するための「目標 年次ごとに社会のあり方,社会的・経済的・生態 的条件の整備のあり方を考え」 ,改革・実践する 「現在 を 振 り 返 る」手法 で あ る(矢口 2010: 36).持続可能な発展における具体的な目標は, その達成に向け,既存の活動ステークホルダー に加え,NGO や企業による積極的な取り組み やセクター間を越えたパートナーシップの重要 性とその活動が強調され始めた(矢口 2010: 31─40). 4)そ の 他,武内 は 2011 年 11 月 26 日 に 開催 さ れた「持続可能性とリスクマネジメント地球 環境・防災を融合したアプローチ」において も言及している.シンポジウムでは柔軟に対 応できる共生社会 の 必要性 を 述 べ,自然共生 社会 と 震災復興・防災 と の 関連性強化 に つ い ての言及もあった.(横浜国立大学にて開催さ れ た 国連大学・横浜国立大学・国連大学協力 会共催シンポジウム). 5)2000 年以降策定された里地里山保全に関する 条例 は,全国 で 40 件 で あ る(環境省 2010: 39─42).うち約半分は森林保全に向けた税対策 である.残り半分は,自然や森林・緑化保全, 景観等に関する条例である.間接的な側面から 取り込むことで里地里山保全という目標達成を 目指す対策内容となっている. 6)下記関連資料およびウェブサイトを参照した.. 神奈川県環境農政部(2000) 「か な が わ 里山 づ くり構想」 ,神奈川県環境農政部(2000) 「かな がわ里山づくり構想」 ,神奈川県環境農政部農 地課(2009) 「か な が わ 里地里山保全等促進指 針―人びとに豊かな恵みと潤いを与え未来に引 き継がれる里地里山をめざして」 , 神奈川県ウェ ブ サ イ ト <http://www.pref.kanagawa.jp>, ACCESS:2011/12/11. 7)下記資料およびウェブサイトを参照した.横 浜市環境創造局(2009) 「横浜 み ど り アップ 計画(新規・拡充施策) 」 ,横浜市環境創造局 (2010) 「横浜 み ど り アップ 計画(新規・拡充 施策)平成 21 年度事業報告書」 ,横浜市 ウェ ブ サ イ ト <http://www.city.yokohama.lg.jp>, ACCESS:2011/12/18, 2012/07/14. 8)個人は 2009 年度から 2013 年度まで,法人は 2009 年 4 月から 2014 年 3 月までの事業年度分 が課税対象となっている(小林正幸(横浜市環 境創造局政策調整部長)に よ る 発表「横浜市 の み ど り 税 を み ど り アップ 計画・生物多様性 地域戦略」 (2011 年 11 月 26 日開催のシンポジ ウム) ) .また 2009 年度予算における各事業実 施計画では,最少額で約 1/8,最大で半分のみ どり税がみどりアップ計画に活用する計画と なっている(横浜市行政運営調整局税務支援課 (2009) 「市民税・県民税変更のご案内(広報よ こはま特別号/税務特別号」 ) . 9)小林正幸(横浜市環境創造局政策調整部長) による発表「横浜市のみどり税をみどりアップ 計画・生物多様性地域戦略」 (2011 年 11 月 26 日開催のシンポジウム資料:69─71) . 10)Katharina Helming and Hubert Wiggering ( e d s . ) “S u s t a i n a b l e D e v e l o p m e n t o f Multifunctional Landscapes,” Springer, 2010. 11)Jorgen Primdahl and Simon Swaffield(eds.) “Globalisation and Agricultural Landscapes – Change Patterns and Policy Trends in Developed Countries,” Cambridge University Press, 2010. 12) 「他の生物の固有の価値を尊重する」ために 「人間の生活や技術,生産のあり方を変える」 ことで「生物がそれぞれ固有の価値をもち,相 互に結びついて多様性を共生の中で繁栄する」 というディープ・エコロジー論などが挙げられ る(御代川・関 2009:38) . 13)OECD. “Linkages between Agricultural Policies and Environmental Effects,” OECD, 2010: 9. 14)里なびウェブサイトは,里地里山の地域の人 たちや活動団体,都市部のボランティア希望者 に有効的な情報を発信しているサイトである. 15)各国 の 事例件数 は 以下 の 通 り で あ る.韓国 2 件,中国 2 件,モ ン ゴ ル 1 件,フィリ ピ ン 1.

表 2 横浜みどりアップ計画 計画事業  樹林地保全  農地保全  緑の育成  事業概要  1.継続保有の促進  【緑地保全制度】 ・緑地保全制度の拡充等  【篤志の奨励制度】 ・ 公開協力土地所有者の厚意に謝意 を示す制度  2.維持管理推進  【安全・明るい森づくり】 ・ 緑地再生・管理,緑地防災・安全 対策,市民協働による緑地維持管 理  【森の守り人育成】 ・ 森づくりリーダー等の育成,樹林 地管理団体活動への助成 3.利活用促進  【森の楽しみづくり】 ・ 景観・生物 の 生息地 づ く り(植

参照

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