• 検索結果がありません。

新しい時代に求められる授業方法の在り方 : 新たな授業評価アンケートの開発を手がかりに

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "新しい時代に求められる授業方法の在り方 : 新たな授業評価アンケートの開発を手がかりに"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

―新たな授業評価アンケートの開発を手がかりに― 高橋 勝也(法学部) 1 はじめに 今日の学校教育では教員が行う授業に対して,その授業を受けている児童・生徒・学生(以下, 子供たち)が評価する授業評価が一般的になっている。その授業評価は担当教員が授業内容や方法 などの有効性を分析・検討し,授業改善に資することを目的に行っている。平成 28 年 12 月の中央 教育審議会答申では,子供たちが予測困難な社会の変化に主体的に関わり,感性を豊かに働かせな がら,よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を身に付けられるようにするとして,学校教育 にその強みを発揮できるよう求めている。初等中等教育では主体的で対話的な深い学びを高めるこ とで,高等教育では大学における教育の質保証によって,それらの実現は図られていくのであろう。 しかし,教育の効果は一般的に目に見えにくいものといわれている。その中で,教育の効果を可視 化するツールの一つが数値化される授業評価である。本研究では,今日の学校で実施されている授 業評価を分析・検討して,課題を明らかにすることで,教育改革の推進に資する研究に努める。各 学校における授業評価は定着してきているものの,その評価分析が実際の授業改善にどのように活 かされていくべきかを明確にしていく。 具体的には,どのようにすれば子供たちの力を高める授業をすることができるか,これまでの授 業の在り方はどのように改善していくべきかを,筆者が新しく開発した授業評価アンケートを基に 展開していく。実際複数回にわたって子供たちに対して授業を行ない,それらの授業に対して授業 評価アンケートを実施し,分析・検討を行った。その結果,これまでの授業評価は説明や指示の聞 きやすさや分かりやすさ,子供たちの興味・関心を高める工夫,教える側の熱意など教員が子ども たちに対して一方向的にしていること,与えていること,できることが評価項目の中心となってお り,加えて,シラバスや年間授業計画などに沿って授業が進行されているなどの計画性ある授業進 行や ICT 機器などが活用されているかといった教育環境などが評価項目として並んでいる。しか し,本来であるならば,子供たちの学力や生きる力をしっかりと高めていることができているかな どの教育の本質部分を対象とするべきにもかかわらず,教員の取り組み姿勢ばかりを中心に評価し てしまっていることがわかった。よって,本研究では子供たちに多様な見方・考え方を提示する授 業方法が有効であることを明らかにした上で,主題や課題,テーマなどについて子供たち自身がも つ見方・考え方と他者の見方・考え方を共有していく授業方法が授業満足度を高め,どのように子 供たちを成長させていくべきかを明らかにしていく。新しい時代に対応できるように,これからの 学校における授業方法やスタイルの改善に結び付けることを目的とした研究である。 2 学校で実施している授業評価 学校教育法では小学校・中学校・高等学校はもちろんのこと,大学も 1 条校としての学校と位置 付けている。今日のこれらの学校では,すでに授業評価を実施しているので,典型的な授業評価ア ンケート項目の分析・検討から始める。表1,2が大学で行っている授業評価アンケートの項目で ある。表3,4は高等学校,表5は中等教育学校(高等部)で行っている同様のものである。本研 究では,ターゲットを高い発達段階にある子供たちに絞り込むことで,大学や高等学校における授

(2)

業改善に資する成果を目指していく。これらの授業アンケートの内容項目を見てみると,子供たち 自身の取り組み状況などを評価しているものもあるが,本稿では授業の在り方を追究していくた め,教員が行っている授業そのものを評価するアンケート項目に焦点を当てていく。表1~5に示 す(■・★・●・▲・◆等)は,筆者による項目別分類である。 表1 大学での授業評価アンケートの項目1 ■この授業はシラバスにそって行われたと思いますか。 ★授業内容は分かりやすかったと思いますか。 ・この授業を受けて新しいものの見方や考え方を得られたと思いますか。 ◆教員の教え方に熱意があったと思いますか。 ■授業の速さや進め方は適切だったと思いますか。 ▲板書やスクリーン・モニターなどは見やすく示されていたと思いますか。 ◆教員の声は聞き取りやすかったと思いますか。 ■一部の学生の私語など授業の妨げに対する教員の対応は,適切だったと思いますか。 ■教員は授業時間を守っていたと思いますか。 表2 大学での授業評価アンケートの項目2 ■授業は,シラバスに示された授業の到達目標や授業計画に沿っていましたか。 ・この授業全体を通して,アクティブ・ラーニングなどの能動的に学ぶ機会がありましたか。 ・授業で出された予習課題・宿題は,学生の学習を促進させる上で適切でしたか。 ・教員は学生の理解を確かめながら,授業を進めていましたか。 表3 高等学校での授業評価アンケートの項目3 ■この授業はよく準備され,よく工夫されていますか。 ★この授業は,わかりやすく教えてくれたり,考えさせてくれたりしていますか。 ●この授業は,もっと学習したくなるよう,興味や関心を持たせてくれたり,意欲をわかせてく れたりしていますか。 表4 高等学校での授業評価アンケートの項目4 ■この授業の進度はどうですか。 ・生徒の活動の時間があり,主体的な取り組みを促してくれる授業である。 ▲プロジェクターや PC などを活用した授業である。 ●先生の説明や指示は,授業への興味・関心を高めてくれる。 表5 中等教育学校(高等部)での授業評価アンケートの項目5  ◆先生の言葉は,いつもはっきりと聞き取ることができる。 ★プリントなど示される資料は見やすく整理され,後で見てもわかりやすい。 ★先生の説明はよくわかり,指示にとまどうこともない。 ★先生は,達成すべき目標やポイントをはっきりと示してくれる。 ・授業で習ったことを用いて,考えをまとめる機会が整っている。 ・授業を受けて,学力の向上や自分の進歩を実感できる。 各学校における授業評価アンケートは,各学校において作成されているため,内容が似通ったも のを見いだすことはできるが,同じ表現は見当たらない。各学校は生徒の実態に応じながら,授業 評価アンケートを作成して,それを基に授業評価を実施していることがわかる。おおむね,共通す るものを分類して,次のようにまとめた。 (■)は計画的な授業進行である。教員が行う一定期間内の授業に計画性があるか,また,その 授業時間内の運営がしっかりと計画的に進められているかが求められている。(★)は説明や指示

(3)

の活用などである。高度情報通信社会で生きる子供たちには情報活用能力が求められている。(◆) は教員自身の熱意である。情意や態度に関わる資質を高めることが求められている。(・)で示す 項目は,近年,求められるようになってきた主体的な学びに関すること,アクティブ・ラーニング に関するものがである。これらはいずれも授業満足度を高まるために必要な項目であり,私たち教 員全員が意識し,日々の授業改善に努めていることは否定できるものではない。 3 新たな授業評価アンケートの開発と実施 (1)新たな授業評価アンケートの開発 前章では各学校の既存の授業評価アンケートの分析について示した。(★)の説明や指示などの 聞きやすさや分かりやすさ,(●)の興味・関心を高める創意工夫などは,教員が子供たちにどれ だけ授業を理解させることができたかに焦点が当てられている。(◆)の教員自身の熱意は,子供 たちの心をどれだけ揺り動かすことができるかという測定でもあろうが,しっかりと自信をもって 声が出せているかなど話し方や問いかけ方などの教員のスキルも焦点になる。(■)の計画的な授 業進行は,しっかりとシラバスを作成しているか,授業時間をきちんと守れているかなど教員の基 本的な資質としての授業力が問われている。(▲)は ICT 機器などの視聴覚教材の活用は,設備等 といった外的な要素が強く,教師の力量だけでなく学校間格差によって,評価に差が生じるかもし れない項目でもある。以上をまとめると,子供たちが学んだことをどのように活かしているか,子 供たちは授業中にどのように成長しているか,子供たち同士は何をしているか,子供たちと教員は どのような関係になっているかなどを反映する評価項目が少ないことがわかった。 これまでの授業評価の分析結果と筆者が学校現場で授業実践を 20 年以上経験したことを踏ま え,新たな授業評価アンケートの開発を試みた。開発にあたっては子供たちによりよい社会と幸福 な人生の創り手となる力を身に付けることができ,子供たち自身が成長を感じられると考える要 因,あるいは視点(以下,授業満足度の要因)があると考えた。筆者が考えた授業満足度の要因は これからの教員が兼ね備えておくべき授業力のような要素であり,かつ,子供たちが授業を行う教 員に求める魅力的な要素でもあると考える。具体的には,①「多様な見方・考え方の提示」,②「学 びの共有の確保」,③「学習能力の的確な把握」,④「身近な教材を用いる発想」,⑤「強いメッセー ジ性」の 5 要因である。これらをアンケート開発の構成要因と仮定し,作成した授業評価アンケー トが表6である。この結果から授業満足度の要因との関係性について検討する。

(4)

表6 新たな授業評価アンケート

「新しいタイプの授業評価調査研究(調査)

☆現在、「教師の授業評価」について新しいアンケート開発を研究しています。この授業の学習評 価には一切関係ありませんのでご協力をお願いします。 〇本講座の受講を通じて、皆さんの気持ちや考えに近いものを1~4の中から選び、〇を記入下 さい。 あ)講師の授業は皆さんに身近な教材を提 供していましたか? い)講師の授業は皆さんに理解しやすい説 明をしていましたか? う)講師の授業は講師と皆さんとで内容を 共有しようとしていますか? え)講師の授業は教える情熱や皆さんの気 持ちを前向きにさせていますか? お)講師の授業は皆さんに新しい視点や考 え方を示していますか? か)講師の授業は皆さんの理解度を考えな がら進めていますか? き)講師の授業は皆さんのやる気を高める ようなメッセージが出ていますか? く)講師の授業は皆さんの興味・関心を高 めてくれる教材を扱っていますか? け)講師の授業は皆さんの考え方や意見を シェアしようとしていますか? こ)講師の授業は少数の意見やマイナーな 意見なども提示していますか? 講師の授業は総合的にみて満足できる ものですか?

ご協力ありがとうございました。

10 9 8 7 6 5 4 3 2 1

満足できる          満足できない 強く そう思う まあ そう思う あまり そう思わない

4

3

2

1

4

3

2

1

強く そう思わない

4

3

2

1

1

4

3

2

1

4

3

2

1

4

3

2

1

4

3

2

1

1

4

3

2

1

4

3

2

4

3

2

(5)

アンケート項目と授業満足度の要因の関係は 表7に示している。授業評価アンケートの回答 については多くの学校で4件法、5件法を採用 しているので本アンケート項目でも4件法を用 いた。しかし、授業の総合評価についての設問 では,本尺度の開発にあたって、総合評価をよ り詳細に分析する観点から 10 件法を採用した。 (2)新たな授業評価アンケートをするための授業内容とその実施 一般的に授業評価アンケートは,学期ごとを単位として実施することが多い。一回の授業のみを 対象として評価することはできるが,それでは偶然性を避けることが困難である。また,完成度の 高い年間計画に基づいた授業を評価・分析したほうが,本研究成果の汎用性がより高まるであろう。 よって,開発した授業評価アンケートは,筆者が実際に担当している大学での授業(教科教育法: 半期で 1 回 90 分の 15 回)における大学生を対象6 として実施することとした。しかし,教科教育 法の授業は,学生自身が取り組む模擬授業なども行わなければならず,そのすべてが授業者(筆者) の授業評価に該当する授業内容にはなっていない。よって,筆者が講師となり,自ら考案して実施 した授業(第 5 回~ 10 回分,計 6 回)を学生に受講してもらった後に表6に示した授業評価アンケー トを実施することとした。講師が実施して学生が受講した授業内容(主題や課題,テーマなど)と 授業満足度の要因との関係性(学習能力の的確な把握を除く)を示したものが表8である。 表8 授業評価の対象となる授業内容と授業満足度の要因との関係性 授業内容 多様な見方・ 考え方の提示 学びの共有 の確保 身近な教材を 用いる発想 強い メッセージ性 第 5回 政 治 と は 何 だ ろ う か? 人間社会における対 立を実感させ,対立 の調整の難しさを体 感する。 あえて,クラスメイ ト と 対 立 す る こ と で,協力する大切さ に気付く。 二 つ の 村 に 分 か れ て,仮想的に村民に なって,豊かな生活 をめざす。 人間(社会)は対立 す る 存 在 で あ る か ら,合意形成が大切 である。 第 6回 経 済 と は 何 だ ろ う か? 格差社会は良くない が,所得の再分配が できれば,社会全体 の幸せをもたらすこ とに気づく。 格差社会を容認する か,否かで両チーム に 分 か れ て, ミ ニ ディベート形式で意 見を交換する。 仮想的な資本主義国 と社会主義国のどち らの国民になるべき かを考える。 経済とは,経世済民 (みんなが救われて, ハ ッ ピ ー に な る こ と)でもある。 第 7回 国際貢献のあり方を 考えよう! 貧しい国や人々を助 けるには,さまざま な壁があり,一筋縄 ではいかないことに 気づく。 なぜ,善意で国際貢 献をしようとする人 の活動が普及しない かを,グループ議論 で考える。 青年海外協力隊員な どとして,発展途上 国に行って国際貢献 活動に携わることを 仮定する。 人間の私利私欲が, 国際貢献活動の弊害 になるため,真の国 際貢献とは何かを考 えたい。 第 8回 公平な税制度を考え よう! 税を公平に負担する こ と は 大 切 で あ る が,公平な負担が難 しいことに気づく。 どのようにしたら公 平な税負担を実現す る制度を創り上げる ことができるか,グ ル ー プ 議 論 で 考 え る。 一本の橋を作るため に,国民からどのよ うに税を徴収するべ きかを考える。 完全に公平な税制度 を確立することは難 しいが,多くの人々 が納得する制度は確 立できる。 表7 開発したアンケート項目と授業満足度の要因 アンケート項目 授業満足度の要因 ① 質問お・質問こ 多様な見方・考え方の提示 ② 質問う・質問け 学びの共有の確保 ③ 質問い・質問か 学習能力の的確な把握 ④ 質問あ・質問く 身近な教材を用いる発想 ⑤ 質問え・質問き 強いメッセージ性

(6)

第 9回 経済政策を提案しよ う! 経済学的な高い見識 がなくても,経済政 策を立てることがで きる。 どんな経済政策を立 て る こ と が で き る か,グループ議論で 考える。 行動経済学で用いら れる日常生活におけ る行動分析から考察 していく。 諸君が経済政策を立 て る こ と が で き れ ば,これからの社会 は,みんなが豊かに なれる。 第 10回 新たなルールを考え よう! 人間社会における対 立・紛争を解決する ためのルールは,誰 にでも考えることが できる。 どんなルールがあれ ば,人間社会におけ る対立・紛争を予防 することができるか をグループ議論で考 える。 景観権などをめぐる 身近な対立・紛争の 事例から考える。 人間社会を切り拓い ていくのは,諸君で あり,どんな社会を 築いていくのかは, 諸 君 に か か っ て い る。 本研究では授業方法について追究するため,その方法に大きく関係すると考えられる多様な見 方・考え方の提示と学びの共有の確保の 2 要因に焦点を当てて,分析・検討を続けていく。この二 つの要因と授業内容(主題や課題,テーマ)について,わかりやすく整理したものを表9として提 示する。 表9 授業内容における多様な見方・考え方の提示と学びの共有の確保の整理 授業内容 第 5回 【政治とは何だろうか?】 子供たちを二つの村に分け,対決的なゲームを行っていく。仮想的に村民になって,それぞれ村が豊かな 生活ができるようにめざしていく。しかし,二つの村はゲーム理論(囚人のジレンマ)を用いたルール設 定により,利己的に行動しようとするともう一方の村と対立してしまう構造になっている。人間社会にお ける対立を実感させ,対立の調整の難しさを体感する。あえて,クラスメイトと対立することで,協力す る大切さに気付く仕掛けがある。人間(社会)は対立する存在であるから,合意形成が必要なことを理解 する。 第 6回 【経済とは何だろうか?】 仮想的な経済的格差のある資本主義国と経済的平等が達成されている社会主義国の二国のうち,自分がど ちらの国民になるべきかを考える。自由な経済活動が保証されている格差社会(資本主義国)を容認するか, 否かで両チームに分かれて,ミニディベート形式で意見を交換する。格差社会は良くないと多くの子供た ちが考えて発表するが,所得の再分配がしっかりとできれば,社会全体の幸せをもたらすことができるか もしれないことを理解する。経済とは,経世済民(みんなが救われて,ハッピーになること)でもあるので, みんなが幸せになることを目指していくべきことを理解する。 第 7回 【国際貢献のあり方を考えよう!】 青年海外協力隊員などとして,発展途上国に行って国際貢献活動に携わることを仮定する。なぜ,善意で する安価な医薬品を貧しい人々に広める活動が普及しないかを,グループ議論で考える。高価な医薬品を 取り扱いたい医師などがその普及を妨げることを理解する。貧しい国や人々を助けるには,さまざまな壁 があり,一筋縄ではいかないことに気づく。人間の私利私欲が,国際貢献活動の弊害になるため,真の国 際貢献とは何かを理解する。 第 8回 【公平な税制度を考えよう!】 架空の一本の橋を作るために,国民からどのように税(建設費)を徴収するべきかを考える。どのように したら公平な税負担を実現する制度を創り上げることができるか,グループ議論で考える。国民の収入が 全員同額であれば問題ないが,収入に大きな格差があったときどのような割合で負担を求めればよいか, 一筋縄では決められない。税を公平に負担することは大切であるが,公平な負担が難しいことに気づく。 完全に公平な税制度を確立することは難しいが,多くの人々が納得する制度は確立できることを理解する。 第 9回 【経済政策を提案しよう!】 日常生活の行動分析に基づく行動経済学を用いたクイズに取り組む。これによって人間は直感を頼りに行 動していることを知り,この行動分析が経済政策に活用されていることを知る。具体例を参考に,行動経 済学を活かして自分たちでどんな経済政策を立てることができるか,グループ議論で考える。経済学的な 高い見識がなくても,経済政策を立てることができることを理解する。諸君が経済政策を立てることがで きれば,これからの社会は,みんなが豊かになれることを理解する。

(7)

第 10回 【新たなルールを考えよう!】 一枚の写真から私たちが幸せに暮らすマイホーム(マンション)が景観権を阻害し,地域住民と対立する ことを知る。身近な対立・紛争の事例からどんなルールがあれば,人間社会における対立・紛争を予防す ることができるかグループ議論で考える。公開空地や空中権のシステムが対立・紛争を予防しており,人 間社会における対立・紛争を解決するためのルールは,誰にでも考えることができることに気づく。人間 社会を切り拓いていくのは,諸君であり,どんな社会を築いていくのかは,諸君にかかっている。 (筆者註:多様な見方・考え方の提示を実線,学びの共有の確保を波線で示した。) 表9は各回の授業内容(主題や課題,テーマ)などをイメージしやすいように,授業の流れを簡 潔に記した。特に,子供たちに対して多様な見方・考え方の提示(実線)することと学びの共有の 確保(波線)できることという点で関連する部分を示した。授業の実際は本研究では教職志望の大 学生に受講してもらい,開発した授業評価アンケートに回答してもらった。 4 結論 (1)新たな授業評価アンケートの分析 実施した授業評価アンケート(標本数 26)について,要因どうしの関係性や各要因が総合評価 に与える影響について検討するため,重回帰 分析を用いて分析を行った。表 10 は重回帰 分析(ステップワイズ法)の結果である。表 10 より R 2乗の値が 0.637(p<.001) と強い 値を示した。付表1から調整済み R 2乗の値 も 0.606 であった。また,モデルの有意性は 付 表 2 か ら F(2,23)=20.196(p<.001) で あり,モデルの有意性は強いものとなった。 付表3から,標準偏回帰係数は「講師の授業は皆さんに新しい視点や考え方を示していますか」(以 下,「新しい視点を示している」)が p<.001,「講師の授業は講師と皆さんとで内容を共有しようと していますか」(以下,「共有しようとする」)が p<.05 と,いずれも有意差が認められた。このこ とから,講師の総合評価(授業満足度)については , 「新しい視点を示している」という項目と「共 有しようとする」という項目のいずれもが正の影響をもつという結果が得られた。しかし,付表4 からこれら2項目以外の 8 項目(変数)については有意差が認められなかった。なお,付表5に各 変数の記述統計量を示した。 (2)分析結果から得られたこれからのあるべき授業の方法 分析結果から、授業の総合評価(授業満足度)について,講師が授業で新しい視点や考え方を示 しているという(「新しい視点を示している」)項目と講師と子供たち,子供たち同士が授業内容を 共有しようとするという(「共有しようとする」)項目の二項目が正の影響を与えていることがわかっ た。これらのことから、授業を受けている子供たちが求める私たち教員の授業方法の在り方が見え てくる。第一に,新しい視点や多様なものの見方・考え方を示す授業の設定である。教員が授業の 内容を聞きやすくかつ分かりやすくする説明や指示をしたり,子供たちの興味・関心を高める工夫 をしたりすることは以前からも熱心に取り組まれているということを踏まえつつ,これからは子供 たちが授業において新しい視点や多様なものの見方・考え方を獲得できるかという点からの授業改 善が必要であることを示している。授業において聞きやすくかつ分かりやすく説明や指示をするこ とは当然視され,興味・関心を高める工夫の一つとして新しい視点や多様なものの見方・考え方を 示すことで子供たちの授業満足度が高まると考えられる。第二に,学びの共有を確保する授業の設 表 10 重回帰分析 講師の授業は総合的にみて満足できるものですか(β) 講師の授業は皆さんに新しい視点や 考え方を示していますか 0.650 *** 講師の授業は講師と皆さんで内容を 共有しようとしていますか 0.356 * R2乗 0.637*** *p<.05 ***p<.001

(8)

定である。これまでの教員自身の基本的な取り組みや努力だけでは,これからの子供たちの学びに 対する期待や社会の一員として必要な資質・能力の育成に応えられない可能性を示している。筆者 の行った授業を受けた子供たち(本研究では大学生)に多様な視点や見方・考え方を示した上で, 子供たち自身が思考・判断するという能動的な行為に働きかけることで思考力や判断力を高めてい くようにした。その思考力や判断力を活用して,仲間(クラスメイトや教員)と共に自らの考えを 交えながら議論したり,自ら考え抜いたことを発表したりすること,つまり,学びの共有を確保す ることが子供たちの授業満足度が高まり,すなわち高い授業評価につながっていることがわかっ た。このような学習指導のスタイルを現代の子供たちは求めている,欲していると考えられる。こ れは,家庭教師などによる個人指導では難しく,教室に仲間(クラスメイトや教員)がいるからこ そ実現できることである。現代社会はダイバーシティ教育により個人主義が尊重される時代になっ ているが,大人数で学ぶことのできる現在の学校教育の新しい魅力づくりに貢献する副次的な成果 も見いだすことができ,期待感が高まっている。 今日の学校教育では学習指導要領に沿い,初等中等教育において主体的・対話的で深い学びの実 現に向けた授業改善の推進が図られていくことになっている。小学校では児童が活き活きと活動す る授業が以前から取り組まれていたが,高等学校では一斉授業や知識注入型授業の形態が依然とし て見られる。しかし,学習指導要領の改訂7 によって,時間を要するであろうが授業の改善は見込 まれると考えられている。一方,高等教育においても大学教育の質的転換に向けて,知識の伝達や 注入を中心とした授業からの脱却が図られようとしている。しかし,大学教員が研究に時間を奪わ れる実態から授業改善が思うように進んでおらず,結果として授業への不満が学生の声として届く ことが少なくない。大学における授業は,数百名単位の大教室で行われることがあり,物理的に学 びの共有を確保することは難しくなっている現状もある。しかし, 教室の可動式机と椅子の導入な どの教育環境 , すなわちハード面の整備は一部の大学で始まりつつある。そして , 大学教員によ る学生への教育 , すなわちソフト面の充実を図っていく必要性はさらに高まりを見せ,アクティ ブ・ラーニングへの取り組みも始まっている。教育環境の整備は教員の仕事とは言えないであろう が,授業の充実は教員自身でしかできないことであり,特に学びの共有の確保に関連するような能 動的な学びをいかにして提供できるかにかかっている。特に大学教育の質保証という観点からは大 学教員のFD(ファカルティディベロップメント)が形骸化しないよう、学びの共有を確保してい くこと,高めていくという点で研修機会を必須とする,または増やしていくべきである。 5 おわりに 本研究の課題と今後の展望について述べる。課題は授業評価アンケートの分析から質問お(「講 師の授業は皆さんに新しい視点や考え方を示していますか」)・質問こ(「講師の授業は少数の意見 やマイナーな意見なども提示していますか」),質問う(「講師の授業は講師と皆さんとで内容を共 有してようとしていますか」)・質問け(「講師の授業は皆さんの考え方や意見をシェアしようとし ていますか」)というように , それぞれが似通った内容を聞いているにも関わらず , 有意差が見ら れたものと見られなかったものが存在したことである。また、他の質問項目においても教員に求め られる授業方法の観点から作成したにも関わらず有意差がみられなかった。これは授業評価アン ケートの精度という点では未だ課題があったと言わざるを得ない。仮説の検証のためには,統計学 的な視点からの研究も推進していかなければならない。

(9)

大学教員のFD研修内容を高めて高等教育の充実に資することになり , 教育方法における発展的な 研究推進が各学校の授業レベル,教育の質向上につながっていくであろう。 (付表2) 分散分析a モデル 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率 1 回帰 10.293 2 5.146 20.196 .000b 残差 5.861 23 0.255 合計 16.154 25 a. 従属変数 せ . 講師の授業は総合的にみて満足できるものですか b. 予測値 : ( 定数 ) お . 講師の授業は皆さんに新しい視点や考え 方を示していますか (付表1) モデルの要約 モデル R R2 乗 調整済み R2 乗 推定値の 標準誤差 1 .798b .637 .606 0.505 b. 予測値 : ( 定数 ) お . 講師の授業は皆さんに新しい 視点や考え方を示していますか (付表3) 係数a モデル 非標準化係数 標準化 係数 β t 値 有意確率 共線性の統計量 β 標準誤差 許容度 VIF 1 ( 定数 ) 2.735 1.179 2.319 .030 お . 講師の授業は皆さんに新しい視点 や考え方を示していますか .980 .193 .650 5.087 .000 .965 1.037 う . 講師の授業は講師と皆さんとで内 容を共有しようとしていますか .778 .279 .356 2.785 .011 .965 1.037 a. 従属変数 せ . 講師の授業は総合的にみて満足できるものですか (付表4) 除外された変数a モデル 投入された ときの標準 回帰係数 t 値 有意確率 偏相関 共線性の統計量 許容度 VIF 最小許容度 1 あ . 講師の授業は皆さんに身近な 教材を提供していましたか .-044 b -.331 .744 -.070 .917 1.090 .900 い . 講師の授業は皆さんに理解し やすい説明をしていましたか .-048 b -.331 .766 -.064 .704 1.421 .704 え . 講師の授業は教える情熱や皆 さんの気持ちを前向きにさせ ていますか .095b .715 .482 .151 .908 1.102 .905 か . 講師の授業は皆さんの理解度 を考えながら進めていますか .015 b .100 .921 .021 .776 1.288 .775 き . 講師の授業は皆さんのやる気 を高めるようなメッセージが 出ていますか .029b .170 .866 .036 .580 1.725 .580 く . 講師の授業は皆さんの興味関 心を高めてくれる教材を扱っ ていますか .-103b -.749 .462 -.158 .845 1.184 .826 け . 講師の授業は皆さんの考え方 や意見をシェアしようとして いますか .-088b -.679 .504 -.143 .969 1.032 .949 こ . 講師の授業は少数の意見やマ イナーな意見なども提示して いますか .062b .477 .638 .101 .971 1.030 .938 a. 従属変数 せ . 講師の授業は総合的にみて満足できるものですか b. モデルの予測値 : ( 定数 ) お . 講師の授業は皆さんに新しい視点や考え方を示していますか (付表5) 記述統計

(10)

平均値 標準偏差 度数 せ . 講師の授業は総合的にみて満足できるものですか 9.38 0.804 26 あ . 講師の授業は皆さんに身近な教材を提供していましたか 3.92 0.272 26 い . 講師の授業は皆さんに理解しやすい説明をしていましたか 3.88 0.326 26 う . 講師の授業は講師と皆さんとで内容を共有しようとしていますか 3.85 0.368 26 え . 講師の授業は教える情熱や皆さんの気持ちを前向きにさせていますか 3.88 0.326 26 お . 講師の授業は皆さんに新しい視点や考え方を示していますか 3.73 0.533 26 か . 講師の授業は皆さんの理解度を考えながら進めていますか 3.73 0.452 26 き . 講師の授業は皆さんのやる気を高めるようなメッセージが出ていますか 3.77 0.514 26 く . 講師の授業は皆さんの興味関心を高めてくれる教材を扱っていますか 3.85 0.368 26 け . 講師の授業は皆さんの考え方や意見をシェアしようとしていますか 3.92 0.272 26 こ . 講師の授業は少数の意見やマイナーな意見なども提示していますか 3.54 0.582 26 参考文献 ・向後千春・冨永敦子,『統計学がわかる―回帰分析・因子分析編―』,技術論評社,(2009) ・社会認識教育学会,『公民科教育』(2010) ・社会認識教育学会,『新社会科教育学ハンドブック』(2012) ・高橋勝也,『恋ではなく愛で学ぶ政治と経済』,清水書院,(2019) ・西村公孝・梅津正美・伊藤直之・井上奈穂,『社会科教育の未来 理論と実践の往還』(2019) ・文部科学省,『高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 公民編』(2019) ・文部科学省,『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 社会編』(2018) ・文部科学省,『中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 社会編』(2018) ___________________________________ 1  名古屋経済大学授業評価アンケートより,教員の授業を評価する項目のみを抜粋した。 2  創価大学授業評価アンケートより,教員の授業を評価する項目のみを抜粋した。 3  東京都立世田谷泉高等学校授業評価アンケートより,教員の授業を評価する項目のみを抜粋し た。 4 東京都立町田高等学校授業評価アンケートより,教員の授業を評価する項目のみを抜粋した。 5  東京都千代田区立九段中等教育学校(高等部)授業評価アンケートより,教員の授業を評価す る項目のみを抜粋した。 6  名古屋経済大学教職課程「公民科教育法」(8 名),創価大学教職課程「公民科教育法」(18 名)の 履修生(合計 26 名)である。 7  小学校,中学校は平成 29 年告示,高等学校は平成 30 年告示

参照

関連したドキュメント

ア詩が好きだから。イ表現のよさが 授業によってわかってくるから。ウ授

はじめに

ASTM E2500-07 ISPE は、2005 年初頭、FDA から奨励され、設備や施設が意図された使用に適しているこ

化管法、労安法など、事業者が自らリスク評価を行

○齋藤部会長 ありがとうございました。..

 

(コンセッション方式)の PFI/PPP での取り組 みを促している。農業分野では既に農業集落排水 施設(埼玉県加須市)に PFI 手法が採り入れら

(3)市街地再開発事業の施行区域は狭小であるため、にぎわいの拠点