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法人所得税の不確実性概念 : US-GAAPとIFRSにおけるその認識と測定を中心に

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論文

法人所得税の不確実性概念

-US-GAAP と IFRS におけるその認識と測定を中心に-

佐藤 豊和

The Concept of Tax Uncertainty

Focusing on its Recognition and Measurement in US-GAAP and IFRS

SATO, Toyokazu

名古屋経済大学経営学部准教授

キーワード:法人所得税の不確実性、タックス・ポジション、偶発性税負担、FIN48、IFRIC23、US-GAAP、IFRS、税効果会計

1. はじめに

法人所得税の不確実性(Tax Uncertainty もしくは Tax Contingency)とは、税務上の取り扱いが不明瞭な項目、 または企業と関係する税務当局との間で未解決の係争中の事案があり、それらに起因して還付もしくは納付すべき税 額が発生すると見込まれる要因をいう。ここには見積もりの収入額もしくは支出額が介在する余地があるため、従来、 主に偶発性税負担(しばしば Cushion と称される)を用いた、企業による利益調整の一法としての存在を許してい た。そこで米国会計基準(US-GAAP)では、2007 年に米国財務会計基準審議会(FASB)解釈指針として FIN48 号 (FASB Interpretation No.48)が公表され、主に企業が取るタックス・ポジション、すなわち偶発性税負担の状態 を注記で開示することが要請された1。また国際会計基準(IFRS)でも、2017 年に公表された国際財務報告基準解釈 指針委員会解釈指針(IFRIC)23 号(International Financial Reporting Interpretations Committee 23)「法人所 得税務処理に関する不確実性」が、それまで明確に規定されていなかった法人所得税の不確実性についての会計処理 に対して一定の解釈指針を与えており、2019 年 1 月に開始する事業年度以降、IFRS 適用企業はこの会計基準を強制 適用することになっている(これより先に早期適用することも可能とされている)。いずれにせよ、現行の日本会計 基準(J-GAAP)には法人所得税の不確実性概念を規定する基準にあたるものがなく、証券市場のグローバル化、投 資家の投資対象市場の選択肢拡大がさらに進展しつつある現在では、財務諸表の比較可能性の確保の観点からも将来 のアドプションが見込まれる領域である。本稿では、現行のUS-GAAP と IFRS が要請している法人所得税の不確実 性に関する会計処理をその認識と測定を中心に考察する。それらを踏まえて J-GAAP への適用可能性についても言 及する。

2. 法人所得税の不確実性(Tax Uncertainty)の特徴と制度的背景

2–1 法人所得税の不確実性の特徴 法人所得税の不確実性の定義については、はじめにの冒頭で述べたとおりである。さらに換言するならば、企業が なんらかの事情あるいは意図をもってなした会計処理もしくは会計判断が、あらかじめ予測された税務会計上の処理 とは一致せず(この段階で会計上の利益と税務上の利益に差異が生じる)、税務当局側の否認、容認の判断の別によ っては還付もしくは納付すべき税額が生じる(すなわち更正もしくは修正申告が必要となる)可能性があるような要

1 FIN48 号は、2013 年に米国内の会計基準を体系化する Accounting Standards Codification(ASC)の作業により FASB 解釈

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因をいう。通常、会計上と税務上の差異(Book-Tax Difference、以下 BTD という)が生じ、税効果会計適用が必要 とされるような会計処理の場合では、会計上と税務上の取り扱いに違いがあることが明確で(例えば一種の引当金や 減価償却の適用会計処理方法の違いなど)、一時的なBTD(将来減算一時差異もしくは将来加算一時差異)は、一定 の期間をもって解消することが企業経営者の側からも財務諸表利用者の側からもある程度予測可能である。しかし、 この一種の予測可能性を意図的に逸脱してなされたような会計処理が想定され、この場合は課税当局の判断いかんに よって税負担の有無に不確実性を含むことから、繰延税金等の設定に企業経営者の恣意的判断が介在することとなる。 結果、税引後利益にも影響を与え、企業経営者による利益調整を可能とする2。たとえば、企業がある事業年度の税務 申告につき不確実なタックス・ポジション3をとったとき、税務当局がこの事業年度の法人税申告書を調査した後に、 企業はこのポジションに関連する事項が否認等された場合には、税金の支払いの要請に応じるべき可能性がある。し たがって、企業はこのタックス・ポジションが発生する年度の損益計算書上、可能性のある将来の税金費用の支払い に対して、法人所得税の不確実性として認識される負債項目を貸借対照表に引当計上する必要がある。これは将来支 払いが見込まれる税金(税務申告書で記載されている額にさらに加えて計算される金額)を前もって見積もる性質の ものである。企業は、いわば課税当局に容認されないことを認識しつつこのようなタックス・ポジションをとること によって支払う法人税等と利益の調整をはかる手段を取り得るのである。 2–2 法人所得税の不確実性の従前の問題点 法人所得税の不確実性が発生する際に問題とされるのは、そもそもその認識と計上に企業経営者の恣意性が介在す るという点である。以下のようなケースが考えられよう。 ① 課税当局との間に法人所得税の不確実性に関する会計処理が存在することそのものを隠蔽する。 ② 課税当局との間に法人所得税の不確実性に関する会計処理が存在することは認めるが、全く計上しないケース も含めて限定された範囲でのみしか引当金計上しない(引当金計上の額に恣意性が生じている)。 ③ 法人所得税の不確実性に対する課税当局の対応がない(つまりそのまま是認される)と見込まれるにもかかわら ず、意図的に計上の金額を多めに見積もり引当金設定する。 ④ 課税当局との間との係争の時期、期間等を任意に見積もり、企業にとって都合のよい事業年度で引当金の戻し入 れおよび繰延税金資産(負債)の取り崩しを行う。 このように企業の実情に応じて柔軟に認識、測定、計上、戻入れ(取り崩し)する余地のある法人所得税の不確実 性勘定は、米国では企業経営者にとって利益調整の方便となる貸借対照表上の「クッション(Cushion)」と称され てきた。これは企業経営者にとっては、利益調整を行う際の都合のよい調整弁として有用であり、一方で、投資家そ のほかの財務諸表利用者から見れば、税引後当期利益を企業の真の経営状態と結び付けられない要因となる緩衝帯の ようなものであった。実際に、FIN48 号が発効する 2007 年前では、法人所得税の不確実性勘定は貸借対照表上では 負債項目に含まれているにもかかわらず、独立した項目、あるいは内容が開示された項目として報告されることはあ まりなかった。つまり、研究者たちにとっては学術的な研究対象となることを避けているかのように、課税当局にと っては税務計算上ふさわしくないタックス・ポジションをとっている企業の調査を妨げるかのように、その他の財務 諸表利用者にとっては利益調整の可能性を拡大するかのようにその内容がほとんど目に触れないようになっていた。 しかし、2007 年からは、FASB の解釈指針である FIN48 号が、企業に法人所得税の不確実性の状態(つまりその企 業がとっているタックス・ポジション)を財務諸表の注記で開示することを要請することとなった(この解釈指針は、 若干の検討を経て後の2013 年に FASB 会計基準本体の Topic740「法人所得税(Income Tax)」の一部分として体 系化されている。これらの開示は、実質的に企業が法人所得税の費用計算をする過程で、企業内部で囲い込んでいた 法人所得税の不確実性の状況について、各種利害関係者の理解を助けることとなった。Topic740 については次章で 詳述する。 2 上場企業が主に投資家を意識して利益調整を行う動機としては、利益を多く調整する、少なく調整する、または前後の事業年 度(期間)と差が出ないように平準化する、アナリスト予測を外す(逆に合わせる)などその実情に応じて様々なパターンが考え られ、また実際に行われている。 3 タックス・ポジションとは、期中又は年次報告期間の当年度分又は繰延分の税金資産及び負債の測定において反映される、過去 に提出された税務申告書におけるポジション、又は将来の税務申告書において予想されるポジションをいう (topic740-10-30-7)。このうち税務上は容認され得ないと見込まれる引当金を計上するなど、いわば否認されるのを覚悟してなされた会計処理の 結果生じた企業の財務状態を「攻撃的タックス・ポジション(Aggressive Tax Position)」と称することがある。

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2-3 法人所得税の不確実性が発生する具体的ケース ここでは、減価償却資産の会計処理の相違により税法上と会計上の間に将来加算一時差異が生じ、繰延税金負債を 計上して税効果会計を適用するケースを考える4 備品 50,000 ドルを事業年度(1 年目)初日に購入し即日事業の用に供した。便宜上、各事業年度に計上される収益 は、200,000 ドル(納税申告書上の益金も同額)、費用(損金)に係る項目はこの備品の償却に関するもの以外はな いものとする。また税率は 30%とする。 財務会計上は、この備品の処理を耐用年数5年間の均等償却(残存価額 0)で行なう一方、税務会計上(納税申告 書上)の処理は、1 年目に一括償却した。 1 年目の納税申告書及び損益計算書の各項目及び貸借対照表上の繰延税金負債の金額は以下のようになる。 納税申告書 益金 損金 課税所得 当期法人税額 200,000 50,000 150,000 45,000 損益計算書 収益 費用 税引前利益 当期法人税費用 法人税等調整額 調整後法人税費用 200,000 10,000 190,000 45,000 12,000 57,000 ※貸借対照表上の繰延税金負債 12,000 また、税効果会計を適用した2〜5 年目の納税申告書及び損益計算書の各項目及び貸借対照表上の繰延税金負債は 以下のようになる。 納税申告書 益金 損金 課税所得 当期法人税額 200,000 0 200,000 60,000 損益計算書 収益 費用 税引前利益 当期法人税費用 法人税等調整額 調整後法人税費用 200,000 10,000 190,000 60,000 △3,000 57,000 ※貸借対照表上の繰延税金負債 2 年目9,000 →3 年目 6,000 →4 年目 3,000 →5 年目 0 1 年目、損金と費用の差額として一時差異が生じる(この場合は将来加算一時差異)。財務会計上、税効果会計 を適用して以下の仕訳をおこなう。 (借)法人税等調整額 12,000 (貸)繰延税金負債 12,000 そして、2 年目以降は差異が解消していくため、4年間にわたって次のような仕訳がなされる。 (借)繰延税金負債 3,000 (貸)法人税等調整額 3,000 4 2-3 に挙げた法人所得税の不確実性に関する会計処理の具体的ケースの設例は、内田(2013)529 頁に記載の設例フォーマット を参考にして作成した。

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この時、税務会計上、初年度に計上した損金50,000 は課税当局に認められることを前提として計上している。し かし、実際には、税務会計側の処理が課税当局に容認されるとは限らない。ここに企業側(経営者)の裁量が介入し、 税法等をアグレッシブに解釈することにより全額損金算入をしていたとも捉えられる。この場合は、課税当局側に否 認される可能性が高い。つまり、繰延税金負債に係る一時差異には、課税当局に当該会計処理が認められないかもし れないという不確実性が存在することになる。したがって、当初計上する繰延税金負債は、(初めから課税当局の認 否などわからないので)財務会計及び税務会計双方の処理がすでに確定しているとみなして計上しているにすぎない といえる。経営者が設例のようにアグレッシブな申告をして、これが運良く認容された場合には12,000 のタックス・ ベネフィット(Tax Benefit)が生じ、案の定否認されてしまった場合には、財務会計側に合わせた修正申告の必要が 生じ、また加算税、延滞税など納付する必要も出てくる。また経営者はこれを予測して納税充当金を多く見積もり計 上することも考えられる。いずれにせよ、このようなケースでは、2-2 で列挙したような税務上の会計処理の不確実 性に起因する、いくつかのパターンの利益調整が講じられてしまう可能性がある。

3. 米国における法人税の不確実性に関する会計基準

3–1 Topic740 の概要

米国における会計に影響する法人所得税の取り扱い(つまり税効果会計)の基準は、FASB Accounting Standards Codification、Topic 740 「法人所得税(Income Taxes)」によって定められている5。企業は、税務上と会計上の資 産及び負債との間に差異があり、将来これらの差異が当該資産の回収又は負債の解消により、税務上減算又は加算さ れる場合、これらの差異を将来減算一時差異(deductible temporary differences)又は将来加算一時差異(taxable temporary differences)という。そして、これらの一時差異について、それぞれ、繰延税金資産(deferred tax asset)、 繰延税金負債(deferred tax liabilities)を認識、測定することが要求されている。Topic 740 では、繰延税金資産及 び繰延税金負債の認識及び測定を次のようなプロセスで行うことを要求している(topic740-10-30-5)6 ① 存在する一時差異の種類と残高、繰越欠損金と繰越税額控除の性質と残高、及びこれらの繰越期限がいつまで かを特定する。 ② 適用される税率によって、将来加算一時差異について繰延税金負債の総額を計算する。 ③ 適用される税率によって、繰越欠損金及び将来減算一時差異について繰延税金資産の総額を計算する。 ④ 各繰延税額控除について、繰延税金資産を計算する。 ⑤ 利用できる証拠を比較考量し、一部又は全部の繰延税金資産について、回収されない可能性が高い(more likely than not → 50%超の可能性)場合に評価性引当金(valuation allowance)を計上し、減額を行う。評価性引当 金は回収されない可能性が高い部分について、十分に繰延税金資産が減額されるよう計上される。 このように、Topic740 では、繰延税金資産を認識してから回収されない可能性が高い資産に対して評価性引当金 を計上する方法を採用している。ここでの「回収されない可能性」は、企業の現在の財務状態や現在及び過去の経営 成績など、利用できるすべての情報を考量して検討される。このとき、これらの情報が外部に公表されている財務諸 表のものであったり客観的かつ情報の伝達性が誰から見ても公平なものであれば問題はないが、たとえば、一般的に は外部には公表されない税務調査中の案件であるとかもしくは財務情報には記載する必要のなかった司法係争中の 案件である場合には、企業経営者の恣意性に応じてこれらの情報を操作することができる。すなわち「回収されない 可能性」を意図的に操作することによって、主として繰延税金資産の計上の有無、または回収されない可能性の度合 5 US-GAAP では、2009 年より FASB はもとより米国公認会計士協会、米国証券取引委員会等を含む米国内の様々な会計ルール

を体系化する作業がFASB により行われている(Accounting Standards Codification, ASC)。この作業により US-GAAP の枠 組みは、ASC に含まれる権威のある会計基準とこれに付随するガイダンスの類に分類されている(たとえば、ここにおいてはIFRS の規定は「付随するガイダンス」に該当する)。法人所得税の不確実性についての規定はFIN48 号から若干の修正を経て ASC に含まれている。ASC の根拠になる規定は 2009 年 6 月に FASB より公表された FAS168 号「財務報告会計基準の体系化と一般 に公正妥当と認められた会計原則のヒエラルキー〜FAS162 号の代替〜(The FASB Accounting Standards Codification and the Hierarchy of Generally Accepted Accounting Principles – a replacement of FASB Statement No. 162)」である。

6 FASBASC 等、本稿における US-GAAP の規定引用の際には、原文参照のうえ、PwC あらた有限責任監査法人(2017)、長

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いによっては、評価性引当金の計上によって利益操作の余地があった(いわゆる「クッション」の活用))。この余 地を排除するために、課税当局との係争事案などを組み入れて繰延税金資産等の計上及び開示を要請したのが 2007 年のFIN48 号であった。なお、現行の規定では、法人所得税の不確実性の認識が中止された場合は、それは「回収 されない可能性」が高い状況にはあたらないと考えられ、評価性引当金を計上することは禁止されている(つまり「ク ッション」の活用はできなくなっている)。 3–2 法人所得税の不確実性に関する会計処理 法人所得税の不確実性の会計処理については、その対象となるタックス・ポジションの評価に①認識と②測定の段 階を経る2 段階法(two-step approach)を用いている。タックス・ポジションは、支払うべき法人所得税の永久的 な減額、本来であれば当年度に支払うべきであった法人所得税の将来年度への繰延べ、繰延税金資産の予想される実 現可能性の変動につながる可能性がある。タックス・ポジションには以下のようなケースが含まれる(ASC 用語集。 限定列挙ではない)。 ① 税務申告書を提出しないという決定 ② 複数の税管轄地での所得の配分又は移動 ③ 所得種類の決定又は税務申告書に計上される課税所得を除外するという決定 ④ 取引、事業体又は税務申告書におけるその他のポジションを非課税に区分するという決定 ⑤ パススルー事業体又は非課税の非営利企業としての地位を含む、事業体の地位 2段階法の1 つめのステップである「認識」とは、あるタックス・ポジションが、テクニカル面の判断基準に基づ き、税務調査時に是認される可能性がmore likely than not である場合、企業は、タックス・ポジションが財務諸表 に与える影響を当初認識することをさす。「more likely than not(可能性がどちらかといえば高い)」とは、発生す る可能性が50%を超えていることを意味している。また「調査される」と「調査時」という用語には、もしあれば関 連する不服申立て又は訴訟手続の解決も含まれる。例えば、企業が取得資産の原価が確実に全額損金算入可能である と判断した場合、「more likely than not(50%超の可能性)」という認識基準は満たされている。「50%超の可能性」 という認識基準は、企業がタックス・ポジションに関連する経済的便益を受ける資格があると考えているという積極 的主張である。タックス・ポジションが「50%超の可能性」という認識基準を満たしているか否かを判断するにあた っては、報告日時点で入手可能な事実、状況及び情報を考慮に入れる。タックス・ポジションのテクニカル面の判断 基準に関する企業の評価を裏付けるために必要かつ適切な論拠のレベルを決定するには、あらゆる入手可能な情報に 依拠した判断が必要とされる(topic740-10-25-6)。また、「50%超の可能性」という基準に関して要求される検討内 容については、以下の点が考慮されるべきである。 ① タックス・ポジションは、あらゆる関連情報を完全に把握している、関連する課税当局によって調査されると推 定すべきである。 ② タックス・ポジションのテクニカル面の判断基準は、税法における法源(立法及び制定法、立法趣旨、規則、通 達、判例法)及びその税務上のポジションに関する事実及び状況への適用可能性から導き出される。企業又は類 似の事業体への対応における課税当局の過去の行政慣行及び先例が財務諸表作成者、税務専門家及び監査人な どに広く理解されている場合には、それらの慣行及び先例も考慮に入れなければならない。 ③ タックス・ポジションはそれぞれ、他のポジションとの相殺又は合算の可能性は考慮せずに検討しなければなら ない(topic740-10-25-7)。 一方、2段階法の後段である「測定」については、「50%超の可能性」という認識基準を満たすタックス・ポジシ ョンについてのみ適用される。ここでは、あらゆる関連情報を完全に把握している課税当局との論争が解決した時に 50%超の可能性で実現するタックス・ベネフィットをその最大値として該当するタックス・ポジションにつき当初測 定及び事後測定される。「50%超の可能性」という認識基準を満たしているタックス・ポジションの測定においては、 報告日時点で入手可能な事実、状況及び情報を用いて、解決時に実現されうるシナリオの金額及び確率を考慮に入れ、 累積確率モデルで測定される(topic740-10-30-7)。

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3–3 法人所得税の不確実性の開示 前項で述べた法人税の不確実性の認識と測定の結果に基づき、企業には以下の開示が要求される(topic740-10-50-15・15A。なお topic740-10-55-217 に設例があり具体的開示例が示されている。)。 ① 以下を含む、期首から期末現在までの未認識のタックス・ベネフィットの総額の調整表 (ⅰ)前期採用したタックス・ポジションの結果としての未認識のタックス・ベネフィットの増加及び減少の総額 (ⅱ)当期採用したタックス・ポジションの結果としての未認識のタックス・ベネフィットの増加及び減少の総額 (ⅲ)課税当局との解決による未認識のタックス・ベネフィットの減少額 (ⅳ)時効による未認識のタックス・ベネフィットの減少額 ② 認識した場合に実効税率に影響するであろう未認識の税務上のベネフィットの総額 ③ 損益計算書中に認識されている利息及び罰金の金額と貸借対照表中に認識されている利息及び罰金の総額 ④ 報告日から 12 ヶ月以内に未認識のタックス・ベネフィットの総額に重要な増減が合理的に起こりうるタックス ・ポジションについては、以下の項目 (ⅰ)不確実性の性質 (ⅱ)12 ヶ月以内に変化を起こすとされる事象の性質 (ⅲ)合理的に起こりうる変動の幅の見積もり、またはその見積もりができないという表明 ⑤ 主要な税務管轄ごとの調査対象として残存している年数の記載

4. 法人所得税の不確実性に関する IFRS の対応

4–1 IAS 第 12 号の内容

IFRS では、IAS 第 12 号「法人所得税(Income Taxes)」が法人所得税に関する会計処理を規定しており、税効 果会計に関する規定はその中心をなすものである。税効果会計の基本的な考え方、一時差異の類型、繰延税金資産及 び繰延税金負債の認識、測定についてはUS-GAAP とほぼ同様の規定を設けている7 4–2 IFRIC 第 23 号「法人所得税の税務処理に関する不確実性」 (1)IFRIC 第 23 号の適用範囲及び使用される定義 IAS 第 12 号においては、法人所得税の不確実性に関する規定は存在していなかったが、2015 年 10 月に法人所得 税の不確実性の会計処理に関する指針の公開草案をパブリックコメントに付した後、国際会計基準委員会は2017 年

5月に解釈指針IFRIC第23号「法人所得税の税務処理に関する不確実性(Uncertainty over Income Tax Treatments)」 を公表し、2019 年 1 月1日以後に開始する事業年度に強制適用することを要請した(早期適用は認められる)。こ の解釈指針は、①不確実性のある法人所得税の処理を別個に検討すべきか、②課税当局による税務調査に関する仮定、 ③課税所得(損失)、課税標準、未使用の繰越欠損金、未使用の繰越税額控除及び税率の決定、④事実及び状況の変 化に関する考慮事項、などの事項からなっている(IFRIC23.5)。それぞれの項目に割り当てられている解釈指針は 次のとおりである。 ① 不確実性のある法人所得税の処理を別個に検討すべきか(会計単位の問題) 複数の法人所得税の処理の不確実性について、それぞれ別個に検討するか、集合的に検討するかについては、不確 実性の解消方法をより良く予測する方法に基づいて決定する(IFRIC23.6)8 7 本稿におけるIFRS の規定引用の際には、原文参照のうえ、IFRS 財団(2018)、アーンスト・アンド・ヤング LLP (2019)、古賀智敏(2011)及び桜井久勝(2018)の日本語訳を参考とした。 8 不確実な税務処理に適用される会計単位は多様である。実務では、すべての税務上の計算を対象とすることもあれば、個々の不 確実な処理ごと、又は関連する不確実な処理のグループ(特定の課税地域、その解釈につき類似の性質を持った税務処理ごとな ど)になることもある。この点につき、IFRIC 第 23 号は、企業はいずれのアプローチが不確実性の解消についてより適切な予 測を提供するのかに基づいて、税務処理上の不確実性を別個に考慮すべきか、それとも一体で考慮すべきかを判断しなければなら ないと定めている。これは予測される税務調査の際に課税当局がどのような単位をもって企業がその税務処理を行なったとみるか にも影響される。

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② 課税当局による税務調査に関する仮定(発見リスクの問題) 法人所得税の処理の不確実性が課税所得(損失)、課税標準、未使用の繰越欠損金、未使用の繰越税額控除及び税 率の決定に影響があるか、またどのように影響するかを評価するにあたり、以下の事項を仮定する。 (ⅰ)課税当局は、有する権限に基づき、報告された金額を調査する。 (ⅱ)調査にあたっては、関連するすべての情報についての十分な知識を有している(IFRIC23.8)9 ③ 課税所得(損失)、課税標準、未使用の繰越欠損金、未使用の繰越税額控除及び税率の決定 企業は、IAS 第 12 号に従い、不確実性のある単独または複数の税務処理が税務当局に容認される「可能性が高い (probable)」かどうかを検討する。 可能性が高いと結論づけた場合、課税所得(損失)、課税標準、未使用の繰越欠損金、未使用の繰越税額控除及び 税率は、税務申告において使用されたかまたは使用される予定の税務処理に整合するように決定する。 可能性が高くないと結論づけた場合、課税所得(損失)、課税標準、未使用の繰越欠損金、未使用の繰越税額控除 及び税率の決定において、以下のいずれかのうち、不確実性の解消方法をよりよく予想する方法により、不確実性の 影響を反映する。 (ⅰ)最頻値モデル(起こりうる結果の範囲内で最も可能性が高い1つの数値を選択する方法)。このモデル は、考えうる結果が二者択一であるかまたは単一の値に集中している場合に不確実性の解消方法をよりよく 予想する可能性がある。 (ⅱ)期待値モデル(起こりうる結果の範囲内の、確率による加重平均値を算定する方法)。このモデルは、考 えうる結果が二者択一ではなく、かつ、単一の値に集中していない場合に不確実性の解消方法をよりよく予 想する可能性がある。 なお、累積確率モデルは認められない。また不確実な税務処理が繰延税金と当期税金の両方に影響を与える場合に は、企業は両方について一貫した判断及び見積りを行う(IFRIC23.9−12)。 ④ 事実及び状況の変化に関する考慮事項 (ⅰ)企業は、本解釈指針で要求されている判断または見積りのもととなる事実や状況の変化、あるいは判断や見 積りに影響を与える新たな情報があった場合には、税務処理の容認可能性に関する企業の判断や不確実性の見積り、 又はその両方を見直さなければならない(IFRIC23.13)。 (ⅱ)そのような状況では、企業は、課税所得(税務上の欠損金)、税務基準額、税務上の繰越欠損金、繰越税額 控除及び税率の測定に、IAS 第 8 号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の要求基準に従って、その影響 を会計上の見積もりの変更として反映する。 (ⅲ)報告期間後に発生した変化が、修正を要する後発事象と修正を要しない後発事象のいずれかであるかの判断 にあたっては、IAS 第 10 号「後発事象」のガイダンスに従う。 (ⅳ)判断及び見積りのもととなる事実や状況の変化、あるいは判断や見積りに影響を与える新たな情報には、課 税当局による調査・行動、制度変更、再調査権限の期間満了等が含まれる。他方で、課税当局による同意・不同意 がないことそれ自体は、これに該当しない(IFRIC23.14)。 なお、IFRIC 第 23 号付録 A には、このような事実及び状況の変化が、企業が行なった判断又は見積もりの見直し となる以下のような事例が列挙されている。 ①税務当局の税務調査の結果又は行為、たとえば、 (ⅰ)企業が用いた税務処理又は類似の税務処理に対する課税当局の同意又は不同意。 (ⅱ)別の企業が用いた類似の税務処理に関し課税当局が同意した又は不同意としたという情報。 (ⅲ)類似の税務処理を決済するために受け取られたか又は支払われた金額に関する情報。 9 この項目の公開草案が公表された後のパブリックコメントに、税務調査が実施される確率を考慮すべきであること、また課税当 局の法人所得税申告書類を調査する権利に時効が設けられていない場合はそれが重要であることを内容とするものがあった。しか し解釈指針委員会は、これを規定中に取り入れない、つまり例外なく税務調査は行われると考えるべきであり、あくまでも課税当 局が法人所得税の不確実性を認容すべきか否かに照準を合わせるべきであるとの結論に至っている。

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②課税当局が定めた規則の変更。 ③税務処理に関する税務調査又は再調査を行う課税当局の権利の時効(IFRIC23.A2)。 4–3 IFRIC 第 23 号における開示要求 IFRIC 第 23 号では法人税の不確実性に関する新たな事項の開示要求はされていないが、その状況が従来の IAS が 要求していた以下の事項につき関連するかどうかを考慮しなければならないと定めている(IFRIC23A4(a))。 ①IAS 第 1 号第 122 項に従って、企業の会計方針を適用する過程で行なった判断を開示する。そうした判断には、 不確実な税務処理を別個に考慮すべきか、それとも一体で考慮すべきかの決定、税務当局が容認する可能性がたかい かどうかの判断、又は不確実性を反映するのに「最も可能性の高い金額」を用いるべきか、それとも「期待値」を用 いるべきかの決定も含まれる。 ②重要な見積りの不確実性の発生要因に関する第1 号第 125 から 129 項に従って、課税所得(税務上の欠損金)、 税務上の繰越欠損金、繰越税額控除及び税率を算定する際に行なった仮定及び見積りに関する情報を開示する。

5. US-GAAP と IFRS 基準との相違点

5–1 US-GAAP と IFRS の違いを示す具体的設例 設例)A 社には 5 つの研究開発プロジェクトがあり、当期の納税申告書でそれぞれのプロジェクトの研究開発費に つき200,000 ドルの税額控除を行なった(プロジェクトα、β、γ、δ、εの合計で 1,000,000 ドル)。このうちプ ロジェクトαからδの4 つについては各々「認識」の要件を満たし、プロジェクトεについては「認識」の要件を満 たさないと企業側が判断した。また A 社はこれら税額控除の合計金額をすべて控除可能とする課税所得を持ってい る10。なお、税法では研究開発支出の損金算入が認められているが、個々の特定の支出項目が税法における的確な研 究開発の定義を満たすか否かについて課税当局との間で意見の相違が生じうる可能性がある。税率は30%とする。 ①US-GAAP による場合 a) プロジェクトごとのタックス・ポジションを確認し、それぞれから得られるタックス・ベネフィットを計 算する。 プロジェクトα 200,000 ドル プロジェクトβ 200,000 ドル プロジェクトγ 200,000 ドル プロジェクトδ 200,000 ドル プロジェクトε 50,000 ドル ※金額はタックス・ベネフィットの最大値を表す

プロジェクトαからδについては、課税当局に是認される確率が50%超(more likely than not)であるが、プロ ジェクトεについてはこれを満たさず、すなわち法人所得税の不確実性が認識の時点で生じることとなる。したがっ て、A 社の損益計算書上で認識できるタックス・ベネフィットの最大額はプロジェクトαからδに関する部分の 800,000 ドルであり(これは認識ののちに行う測定の結果により可変する)、プロジェクトεに関する部分の50,000 ドルはまだ不確実なものとして認識の対象からは外れ、税効果会計の対象となる。プロジェクトεに関する部分のみ 法人税費用の繰延に係る以下の仕訳を行う(αからδについては仕訳不要)11 10 5-1 に挙げた設例は、内田(2013)534 頁に記載の US-GAAP による設例及び IFRIC23IE2-IE6、IFRIC23IE7-IE10 に記載 されているIFRS 適用時の設例を参考に、筆者が加工、拡張して作成した。 11 2007 年前、FIN48 号が規定される前はこの部分もタックス・ベネフィットとして考えられ費用および損金計上されていたと 考えられる。課税当局に否認される可能性の高いと企業があらかじめ予測する場合は、任意に納税充当金もしくは評価性引当金を 計上していた。

(9)

(借)法人税等調整額 15,000 (貸)繰延税金負債 15,000 b) 認識の対象となったプロジェクトαからδにおけるタックス・ベネフィットにつき累積確率モデルを用 いて測定する。 プロジェクトα 発生する可能性のある 見積額(ドル) 個々の発生可能性(%) 累積された発生可能性(%) 200,000 25 25 150,000 10 35 100,000 35 70 50,000 10 80 0 20 100 プロジェクトαについては、100,000 ドルが 50%を超える最大のタックス・ベネフィットの金額になるため、A 社 は100,000 ドルを損益計算書上に認識する。よって、A 社はプロジェクトαについては認識段階において 200,000 ド ルのタックス・ベネフィットを認めているため、残りの100,000 ドルに対応する法人税額 30,000 ドルが貸借対照表 上に税金負債として計上される。 プロジェクトβ 発生する可能性のある 見積額(ドル) 個々の発生可能性(%) 累積された発生可能性(%) 200,000 51 51 150,000 24 75 100,000 10 85 50,000 10 95 0 5 100 プロジェクトβについては、200,000 ドルが 50%を超える最大のタックス・ベネフィットの金額になるため、A 社 は満額の200,000 ドルを損益計算書上に認識する。貸借対照表上に税金負債として計上される金額はない。 プロジェクトγ 発生する可能性のある 見積額(ドル) 個々の発生可能性(%) 累積された発生可能性(%) 200,000 20 20 150,000 40 60 100,000 20 80 50,000 10 90 0 10 100

(10)

プロジェクトγについては、50,000 ドルが 50%を超える最大のタックス・ベネフィットの金額になるため、A 社 は50,000 ドルを損益計算書上に認識する。よって、A 社はプロジェクトγについては認識段階において 200,000 ド ルのタックス・ベネフィットを認めており、残りの150,000 ドルに対応する法人税額 45,000 ドルが貸借対照表上に 税金負債として計上される。 プロジェクトδ 発生する可能性のある 見積額(ドル) 個々の発生可能性(%) 累積された発生可能性(%) 200,000 80 80 150,000 5 85 100,000 5 90 50,000 5 95 0 5 100 プロジェクトδについては、200,000 ドルが 50%を超える最大のタックス・ベネフィットの金額になるため、A 社 は満額の200,000 ドルを損益計算書上に認識する。貸借対照表上に税金負債として計上される金額はない。なお、プ ロジェクトεについては、認識段階で測定の対象から外れており、損益計算書上に影響がない。したがって、A 社に これらのプロジェクト以外に法人所得税の不確実性に関連する取引がないとすると、全体では、法人税費用195,000 及び税金負債195,000 が財務諸表上に記載される。 ②IFRS(IFRIC 第 23 号)による場合 a) 法人所得税の不確実性の対象となる税務上の取り扱いが不明確な取引について、より不確実性の解消につ いて適切な予測が可能となるかに基づいて、集合的に考慮すべきか、個別に考慮すべきか決定する12 ⅰ)集合的に考慮すべきと判断された場合(プロジェクトα、β、γ、δ、εの集合体で認識する) プロジェクトALL 850,000 ドル ⅱ)個別的に考慮すべきと判断された場合(プロジェクトα、β、γ、δ、εを個別に認識する) プロジェクトα 200,000 ドル プロジェクトβ 200,000 ドル プロジェクトγ 200,000 ドル プロジェクトδ 200,000 ドル プロジェクトε 50,000 ドル ※なお、ⅰ)、ⅱ)ともに金額については各々のプロジェクトから生じるタックス・ベネフィットの最大値を暫 定的に記載している。 12 なお、IFRIC 第 23 号に規定する会計処理は、US-GAAP のように認識と測定を分けず、課税所得の状況、税務基準額、繰越 欠損金の状況、繰越税額控除、税率等を考慮した上で総合的に判断を行うこと、つまり認識と測定を一体と考えて行うことを要求 している。

(11)

b) 法人所得税の不確実性の対象となる取引が課税当局に是認される可能性が高い(probable)かどうかを 判断する。 ⅰ)(1)是認の可能性が高いと考えられる税務処理が集合的に考慮すべきと判断されている場合 プロジェクトALL 850,000 ドル 認識、測定される金額はタックス・ベネフィットの最大値(つまり法人所得税申告書に記載した金額)となる。 (2)是認の可能性が高いと考えられる税務処理が個別的に考慮すべきと判断されている場合 プロジェクトβ 200,000 ドル プロジェクトδ 200,000 ドル 是認の可能性が高いと判断されたプロジェクトβとδのみタックス・ベネフィットの最大値で認識、測定される。 是認の可能性が低い、つまり法人所得税の不確実性が存在すると判断されたプロジェクトα、γ、εは以下のように 最頻値モデルもしくは期待値モデルによる測定が行われる。なお、最頻値とは、すなわち最も可能性の高い金額を指 し、企業が想定することのできる結果の範囲における(ただひとつの)最も可能性が高い金額をいう。一方、期待値 とは、企業が想定することのできる結果の範囲における確率加重平均の合計額をいい、見積もられた金額とその結果 に対応する確率から計算される。 プロジェクトα 見積もられた追加金額 結果に対応する確率 見積もられた期待値 結果1 0 20% 0 結果2 50,000 10% 5,000 結果3 100,000 35% 35,000 結果4 150,000 10% 15,000 結果5 200,000 25% 50,000 100% 105,000 上記のように、プロジェクトαについては、期待値モデルによる測定金額は105,000 ドル、最頻値モデルによる測 定金額は100,000 ドルとなる(企業は想定される結果の分布等を考量して、より適切なモデルだと判断するほうを選 択する。プロジェクトγ、プロジェクトεについても同様の測定を行う。 5–2 US-GAAP と IFRS における会計処理の違いのまとめ 5-1 の設例で比較したとおり、US-GAAP と IFRS では、法人所得税の不確実性につき、その認識、測定、開示の プロセスにおいて以下のような相違点が見られる。 ①法人所得税の不確実性を認識する段階で、US-GAAP は認識とその後の測定を別の過程であると考えて、まず認 識を行い(会計単位の判定はさらにこの前段階で行う)、これを通過した会計単位のみを測定の対象とするアプロー チをとっている(2 段階法)。一方、IFRS では、4-2 に挙げたように、法人所得税の不確実性の対象となる会計単位 を集団的なものと取るか個別なものと取るかの判定から認識、測定に至るまでのプロセスが段階を経て行われるもの ではなく、企業の課税所得(損失)、課税標準、未使用の繰越欠損金、税率などの状況とこれらに対する課税当局の 対応を酌み取りながら包括的に行われる。

(12)

②法人所得税の不確実性の認識の基準(どのレベルを超えれば不確実性を認識するか)につき、US-GAAP では、 3-2 で挙げたように、「more likely than not(可能性がどちらかといえば高い)」という表現が規定中に見られ、こ れが実際に認識を行う際に 50%超という具体的数値を用いる根拠となっている(さらにこれが累積確率モデルにお ける測定基準50%超の根拠にもなっている)。一方、IFRS においては、IFRIC 第 23 号の規定中には、IAS 第 12 号にある「probable(可能性が高い)」に従うとの記述しかなく、具体的数値を裏付ける解釈の根拠となっていない。 ただし、IAS 第 37 号「引当金、偶発負債及び偶発資産」では偶発負債等の発生可能性を定義する規定の中で、「remote (可能性がほとんどない)」、「possible but not probable(発生しうるが可能性は高くない)」、「probable(可能 性が高い)」、「virtually certain(ほぼ確実である)」との段階の定義があり、これに照らし合わせると probable を50%超と解釈することも可能となると思われる。 ③ 法人所得税の不確実性の金額測定方法につき、US-GAAP は累積確率モデルを採用しているが、IFRS は最頻値 モデルと期待値モデルのいずれかのうち、より企業の状況を反映するものを採用することとしている(累積確率モデ ルは採用できない)。

6. むすびにかえて〜日本企業への影響〜

以上、法人所得税の不確実性についての会計基準を、2007 年より先駆けて規定している米国基準(US-GAAP)と 2017 年に設定され、2019 年から適用となっている国際会計基準(IFRS)についてその内容及び設例による比較検 討を行ってきた。わが国では、2020 年 1 月現在の上場企業 3,703 社のうち、その準拠すべき会計基準として US-GAAP を採用している企業は 12 社、IFRS を採用している企業は 221 社(採用予定の企業 16 社を含む)である13 残りの3,500 弱の企業は従来の J-GAAP 採用会社である。J-GAAP では、税効果会計については、会計基準第 28 号 「税効果会計に係る会計基準」の規定に従うが、法人(所得)税の不確実性、もしくは不確実な税ポジションについ ての具体的な取り扱いは示されていない(単に引当金の要件を満たす場合に、負債を計上する会計処理が行われてい ると思われる)。よって、大多数の日本の上場企業にとっては法人(所得)税の不確実性の会計処理は適用されない。 しかしUS-GAAAP 採用の 12 社はすでに法人所得税の不確実性の会計処理が適用されており、また IFRS 適用の会 社についても2019 年 12 月決算から財務諸表上に適用後の影響が見られると思われる。現在、証券市場のグローバ ル化により投資家の投資対象市場の選択肢拡大がさらに進展しつつある。これは会計基準のグローバル化(コンバー ジェンス、アドプションによる会計基準の統一化)に裏打ちされており、今後もその流れは変わらないと思われる。 この流れからすると、現行の J-GAAP には法人所得税の不確実性概念を規定する基準にあたるものがないが、国際 的な財務諸表の比較可能性の確保の観点からも何らかの調整が必要な部分だと思われる。しかし、ある程度の統一が 可能な(純粋な)会計基準と異なり、税法は各国の事情に根ざすものである(法令、判例等が国ごとに異なる)ため、 調整が困難な点もあるとも思われる。また、日本の課税当局との関係を考えると、米国ほど予測可能性が確実なもの であるとは限らず、法人所得税の不確実性そのものを認識、測定することが困難ではないかと思われる(あるいは他 社の動向などを見て開示することを回避する傾向が現れるのではないかとも思われる)。このあたりは強制適用とな るわが国のIFRS 適用会社の開示動向をまず観察し今後の研究課題としたい。

参考文献

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Graham,J.,Raedy,J.Shackelford,D.,2012,Research in accounting for income taxes , Journal of Accounting and 13 日本取引所グループホームページの上場会社情報より(https://www.jpx.co.jp/index.html)2020 年 2 月 13 日閲覧。

(13)

Economics 53,412-434.

Gupta,S.,Laux,R.,2008,Do Firms Use Tax Cushion Reversals to Meet Earnings Targets? Arizona State University Working Paper.

Mills,F.,Lilliam,Robinson,A.,Leslie,Sansing,C.,Richard,2010,FIN48 and Tax Compliance, The Accounting Review 85(5),1722-

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アーンスト・アンド・ヤングLLP(編)EY 新日本有限責任監査法人(監修・訳)2019『IFRS 国際会計の実務 International GAAP 2019【上巻】【中巻】【下巻】(第 6 版)』第一法規。 アーンスト・アンド・ヤング LLP(編)新日本有限責任監査法人(監修・訳)2012『USGAAP 税効果会計の実務』中 央経済社。 IFRS 財団(編)企業会計基準委員会・財務会計基準機構(監修・訳)2018『IFRS 基準(2018)』中央経済社。 内田浩徳 2013「FIN48 号適用前後にみる会計利益数値と課税所得への影響 – 繰延税金負債を中心として − 」『同志 社商学』第 64 巻第 5 号 527–541 頁。 古賀智敏(監修)鈴木一水・國部克彦・安井一浩・有限責任あずさ監査法人(編著)2011『国際会計基準と日本の会 計実務/比較分析/仕訳・計算例/決算処理(三訂補訂版)』同文館出版 桜井久勝(編著)2018『テキスト国際会計基準(新訂版)』白桃書房 鈴木一水 2017『税効果会計入門』同文館出版 長谷川茂男 2019『米国財務会計基準の実務(第 11 版)』中央経済社 PwC あらた有限責任監査法人(編著)2017『最新アメリカの会計原則(第2版)』東洋経済新報社

参照

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