【学位論文審査の要旨】
提 出 され た 学位 論文 「Phase Unwrapping and Directional Filtering in Magnetic Resonance Elastography of Lumbar Muscles」(日本語名)「腰部背筋のMRエラストグラ フィにおける位相アンラッピングと方向フィルタリング」は硬さを定量的に評価する可能 性をもつMR Elastography (MRE)の精度を向上させる画像処理の開発を目的にしている。
MREでは1)MRI装置と正確に同期した振動を対象に加える、2)対象内部を伝わる振動波を
画像化する、3)画像化した振動波の波長や振幅量から硬さを求める、といった一連の作業・
画像処理が必要であり、本審査(研究)内容は主に2)と3)に関する研究成果である。
MREでは撮像対象に振動を加えたままMRIで撮像することによって、MR位相画像に、
対象内部を伝播する振動波(伝播波)を画像化する。伝播波の波長は対象の「せん断弾性率(硬 さ)」に応じて変化するので、伝播波が画像化されたMR位相画像から、伝播波の波長を読 み取ることで硬さを求める。MR位相画像の画素値は「位相値」であり、位相は0から360 度の周期関数となるので、位相値5度と位相値365度は互いに区別かつかない。そのため 位相ラッピングと呼ばれる急激な画素値の変化が生じ、MR位相画像上に鋸波状の縞模様を 形成する。位相ラッピングが生じている位相画像では、伝播波の波長読み取りが極めて困 難になるため、360度を超えた位相値を正しく認識するための位相アンラッピングによって 鋸波状の縞模様を取り除く。位相アンラッピングにはMinimum Discontinuity; MD法、
Laplacian-Based Estimate; LBE法、Region Growing; RG法、Dilate Erode; DE法など があり、申請者はMD法、LBE法、RG法、DE法をMREの位相アンラッピングに実装す ることで、それぞれの方法の特徴・特性を精密に分析した(Open Journal of Medical Imaging, 2018,8,111-25)。
位相アンラッピングによってMR位相画像に画像化された伝播波の視認性が向上するが、
これには対象内部で生じる反射や回析などの影響が混ざり込んでおり、見かけ上の波長が 実際の硬さを反映していない可能性がある。そこで申請者は特定の方向に伝播する伝播波 のみをフィルタリングするディレクショナル・フィルタを位相アンラップ後の MR 位相画 像に処理することで任意の方向に伝播する伝播波だけを画像化した。これにより反射や回 析などが原因で生じる、見かけ上の波長変化を取り除くことができる。申請者は均一な材 料で作成された均一ファントム、複雑な構造体が入っている果実入りのゼリー、および大 腰筋のMREにディレクショナル・フィルタを実装することで、その効果を検証した(Open Journal of Medical Imaging, 2020,10,1-16)。
ディレクショナル・フィルタによって反射や回析が取り除かれた伝播波画像は局所の波 長から硬さを算出するLocal Frequency Estimation; LFE、波動方程式を利用して硬さを算 出するAlgebraic Inversion of the Differential Equation ; AIDEなどによって硬さの画像 (弾性率画像)を作成する。申請者はディレクショナル・フィルタの有無がLFEおよびAIDE に及ぼす影響を緻密に分析した。これにより、ある一定方向にのみ伝播波が進行する場合、
ディレクショナル・フィルタがMREにおいて有効的であることが判明した。現在臨床で利
用されている肝臓MREの場合、肝臓内の伝播波は部位によって様々な方向に伝播するので、
ディレクショナル・フィルタは効果的ではなかった。一方、大腰筋MREの場合は大腰筋を 伝わる伝播波が一定方向になることがわかっている。腰椎の振動が左右に付着する大腰筋 を揺らすことで腰椎から「大きな波紋」のように振動が伝わることで、左右の大腰筋供に 内側から外側に向かって伝播波が進行する。よって、大腰筋MREではディレクショナル・
フィ ルタの併 用が効果的で あること を実証した(Open Journal of Medical Imaging, 2020,10,1-16)。
令和2年9月1日に行った最終試験での口述試験および口頭試問では、研究成果につい て明快なプレゼンテーションを行い、また質疑に対しては的確な応答を行った。
以上から、試験担当者は一致して、申請者; Surendra Maharjan君は東京都立大学大学 院 人間健康科学研究科放射線科学域 博士後期課程の論文審査および所定の最終試験に 合格したと判定し、博士(放射線学)の学位を授与することが適当であることを報告する。