第
75巻 第
4号
2003年
3月
141‑166ドイツの建設労働市場と外国人労働者
佐 藤 忍
は じ め に
建設業は,非貿易財生産部門である。完成品の貿易は不可能である。完成品 は,それが必要とされる場所で生産され,その場で消費される。生産諸要素は 建設現場に集められ,そこで合体し,そして解散する。それゆえ労働市場の流動 性は建設業にとって不可欠の構成要素である。建設業が外国人労働者の参入経 路のいわば入り口に位置しているのは,こうした事情からすれば理解しやすい。
しかしながら建設労働市場の流動性は必ずしも不安定性と同義ではない。ド イツにおける建設労働市場は流動性を確保しつつ不安定性を除去する仕組みを 構築してきたからである。本稿はドイツにおける建設労働市場のこうした特質 を踏まえたうえでそこに参入する外国人労働者の位置づけについて考察する。
とりわけ
90年代以降における変容のプロセスとその方向性を確認したいと思
゜ ︑
つ
まず最初に,従来の建設労働市場を内部化戦略に立脚した構造として描く。
60
年代における外国人労働者の導入はこの枠組みの中にあったことを指摘す る。つづいて
90年代以降における労働力輸入の新たな展開を概観したのち,
そこから内部化戦略の縮小をとおした構造の転換が進行しつつあることを展望 する。
*本稿は,平成
14年度科学研究費基盤研究
(CX2)お よ び 平 成
14年 度 香 川 大 学 経 済 学 部 経 済 学
科プロジェクト費による研究成果の一部である。記して謝意を表したい。
‑]42‑
香川大学経済論叢
990ー.
構 造
1. 社 会 基 金
ドイツの建設業は建設労働の変動性が労働者の所得と生活の不安定性に直結 しないように産業独自の保険機構を作り上げている。社会基金 (Sozialkasse) がそれである。 1920年代まで遡ることができるが,今日の土台を築いたのは 戦後の 1950年代のことである。社会基金は「休暇・賃金補償基金」 (Urlaubs‑ und Lohnausgleichskasse) と「付加給付基金」 (Zusatzversorgungskasse)
とから構成されている。社会基金は建設業の労使によって構想され,労働協約 として実行に移されている。労働協約の経営者側の当事者は,「ドイツ建設工 業中央連盟」 (Hauptverbandder Deutschen Bauindustrie)および「ドイツ 建設業中央同盟」 (Zentralverbanddes Deutschen Baugewerbes)である。
前者は工業,後者は手工業の経営を代表して労働協約の締結にあたる。労働者
(2)
側の当事者は,建設産業労働組合 (IG‑Bau)である。経営者側の組織率は約
(3)
60%, 労働側のそれは約40%であるが,社会基金の設立・運営を取り決めた 労働協約は,一般拘束力宣言にもとづいて,未加入の企業,労働者にも強制適 用されることになっている。未組織の企業・労働者による不公正な競争を防止す ることが最大の目的である。社会基金はその目的に照らして一般拘束力宣言が なされている。したがってドイツの建設業で働く者は原則として社会基金の適 用を受ける。
(1) V gl. Bernt Schlitt, Versicherungsagentur oder Kampforganisation? Die Industriegewerkschaft Bau‑Stein‑Erden in den 50 er und 60 er Jahten, Arno Klonne, Olaf Bartels (hrsg.), Hand in Hand: Bauarbeit und Gewerkschaften. eine Sozialgeschichte, Bund‑Verlag 1989, S. 296‑323.
(2)
建設労組は,
1996年に園芸・農林労組と合併し,その正式名称を「建設・農林・環 境労組」
(IndustriegewerkschaftBauen‑Agrar‑Umwelt)と改称した。
(3) Gerhard Bosch, Klaus Zuhlke‑Robinet, Der Bauarbeitsmarkt. Soziologie und Okonomie einer Branche, Campus 2000, S. 111, 114.
日本における労働組合紺織率
は ,
19% (1997年)であるが,労働協約を締結しうる主体ではない。日本の建設業にお ける産業秩序は,「労働組合排除型」であると指摘されている(建設労働協約研究会編
『建設現場に労働協約を』大月書店,
1998年 ,
32頁 ) 。
991
社会基金はすべての企業から掛け金を徴収し,プールして,種々の給付を行 う。「休暇・賃金補償基金」は休暇手当のコストおよび訓練手当のコストを当 該の企業に補償し,また悪天候等から発生する賃金欠落を労働者にたいして補 償する。「付加給付基金」は,公的年金への上乗せを労働者に支給する。こう
(4)
した社会基金のための掛け金は税込み賃金総額のおよそ
20%弱にもなる。訓 練手当については次節で触れる。ここでは労働者の生活にかかわる休暇手当,
賃金補償,付加年金についてその仕組みをみておこう。
(1)
休 暇 手 当
建設労働者の有給休暇取得の手続きは以下のごとくである。
まず雇用日数の確認から有給休暇の付与日数が計算される。付与日数は原則 として暦年単位で計算される。
12月
1日から有給休暇を取ろうと考えている A さんの今年の就労履歴はたとえば次のようになっている。
雇用開始日:
1月
15日 事故発生:
4月
2日 報酬継続: 4 月 3 日 ~s 月 14 日 就労再開:
9月
2日
無断欠席および連続して
14日以上の無給休暇以外,たとえば建設事故に伴 う治療期間あるいは悪天候による労働欠落期間は,雇用日数に数えることに なっている。雇用日数
12日あたり
1日の有給休暇を付与する決まりであるか ら,雇用日数が多いほど労働者には有利である。
Aさんの雇用日数は,
2月か ら
11月まで
10ヶ月,ひと月
30日として
30*10の
300日に
1月の
17日を加 えた
317日である。
317日
/12=26.42であるから,有給休暇にたいする権利 を
26日もっていることになる。
ついで休暇一日あたりの手当額を計算しなければならない。そのためには雇 用日数に対応する報酬総額を計算する。実際の雇用日数は
1月
15日から
5月
14日まで,および
9月
2日から
11月
30日までの期間である。それぞれの賃
(4) Ibid., S. 138‑139.
(5) V gl. SOKA‑BAU, Urlaubsanspriiche gewerblicher Arbeitnehmer in der Bauwirtschaft, S. 10‑16. (http : /lwww.zvk.de/)
‑]44‑
香川大学経済論叢
992金総額は
8,487.45ユーロおよび
6,365.58ユーロである。合計額の
14.82%が 年休手当である。すなわち,
2,201.22ユーロである。報酬継続期間が切れた 後の治療期間は無報酬であるが,これをそのままとすると年休手当は少なく なってしまう。そこで労働欠落時間にたいする補償額が定められている。
5月
14日から
8月
31日までの欠落時間は
610.65時間である。
1時間あたりの補償 額は
1.66ユーロであるから,補償額は
1,013.68ユーロとなる。年休手当総額 に補償額を加えた額
(3,214.90ユーロ)を付与日数
(26.42日)で割れば,休 暇一日あたりの手当が決まる。
121.68ユーロである。
Aさんは
10日の有給休 暇を申請し,残りを次年度に繰り越そうと考えている。
10日の休暇にたいす る手当は,
1,216.80ユーロである。
(2)
賃 金 補 償
建設業は自然環境の影響を受けやすく,それゆえ労働者の生活は不安定にな りやすい。そこで労働欠落による賃金低下を補償する措置がとられている。労 働者本人の責めに帰すことができない事由,たとえばうえに見た疾病にもとづ
<賃金欠落が補償対象である。補償額は,年休取得時に年休手当に加算して支 給される。
悪天候期間 (11 月 1 日 ~3 月 31 日)の作業不能にもとづく賃金欠落も補償 の対象である。ただし,この場合には仕掛けがある。
30時間までの労働欠落 は,労働者がみずからエ面することになっている。超過勤務から蓄えた時間貯 蓄の取り崩し,年休権の一部返上による相殺がそれである。時間貯蓄も年休権 も底をついている場合には,賃金の前借り
(Lohnvorschu.B)という形で後か ら超過勤務で弁済する。
31時間から
120時間までは時間あたり
1.66ユーロの
(6) V gl. SO KA‑BAU, Der Lohnausgleich.
(http : l/www.zvk.de/content/leistungen‑lohnausgleich‑einleitung.html).
悪天候による不稼働リスクに対する賃金補償の制度は日本の工事業者においても期待
されてはいるが,現実には現場労働者へのしわ寄せによって対処されている。(建設業
振興基金『平成 5年度 悪天候による不稼働日の所得補償システムに関する調査一調査
結果報告書ー」平成
5年
9月,参照)。
9 9 3 ドイツの建設労働市場と外国人労働者
「冬季欠落手当」
(Winterausfallgeld)という補償が支給される。
以上は労働欠落が発生した場合の補償である。労働欠落が実際に発生しない
場合にも補償しなければならない期間が定められている。 12 月 24 日 ~26 日,
12
月
31日,そして
1月
1日がそれである。この
5日間は仕事があろうとなか ろうと賃金補償をしなければならない。期間直前
4週間の平均時給に冬季の所 定週労働時間である
37.5時間をかけた額が補償額である。この期間に仕事が あった場合には補償額に賃金を加えて支給される。この期間に労働者が年休を 取る場合には,年休手当が別途支給される。仕事が途絶えることの多いこの期 間における生活と所得の安定性を確保しようとする措置である。この賃金補償 の受給に必要な条件は,期間以前において
13週以上の雇用日数があることで ある。この期間に失業している場合にも,
13週以上の雇用日数があれば,「つ なぎ手当」
(Dbergangsbeihilfe)という一時金が支給される。
( 3 ) 付 加 年 金
ドイツの公的年金は,労働者一人ひとりの報酬点数がものをいう。これに基 準単価を掛けて年金額が計算される。報酬点数を決定するのは,現役労働者の 平均賃金にたいする本人の賃金水準の相対値と雇用期間である。雇用の中断は
(8)
報酬点数を必然的に低下させる。建設労働者の扉用パターンは引退後の年金額 に不利に作用する。建設業は,そこで働く者に降りかかるこの不利益を軽減す るために,産業独自の付加年金を労働協約で取り決めている。付加年金には
2種類ある。ひとつは「年金扶助」
(Rentenbeihilfe)である。この支給額は,
公 的 年 金 の 受 給 開 始 年 齢 に よ っ て
6段階に分けられている。
60歳以下,
61歳 ,
62歳 ,
63歳 ,
64歳 ,
65歳である。
62歳の場合には,
36.30ユーロ(月額)
が公的年金に付加される。いまひとつは「追加扶助」
(Erg釘
nzungs beihilfe)である。これは雇用月数によって
4段階に設定されている。
220月 ,
240月 ,
(7) Vgl. SOKA‑BAU, Die Voraussetzungen fiir den Bezug von Rentenbeihilfen undHinterbliebenengeldern. S. 10‑12.
(8)
たとえば佐藤 忍「年金給付の日独比較」『香川大学経済論叢』第
74巻第
3号 ,
2001年 ,
204‑205頁をみよ。
‑]46‑
香川大学経済論叢
994330
月 ,
440月である。
240月
(20年)の場合の「追加扶助」は
36.30ユーロ
(月額)である。したがって,
240月の雇用月数をもつ労働者が
62歳から公 的年金を受給しはじめるときには,公的年金とともに
72.60ユーロ(月額)の 付加年金を受け取ることができる。
2.
内 部 化
こうした生活保障の社会的な仕組みを前提として,建設労働に内在的な変動 性を主体的に引き受ける労働者の養成が追求されてきた。
建設労働は,二重の意味で変動にさらされている。ひとつは,建設市場に内 在した変動性である。製品市場は,基本的に,買い手市場である。買い手の注 文を受けてから作業に取りかかることができる。需要を予測し生産することは きわめて困難である。製品に画一性はなく,個別的な注文に柔軟に対処しなけ ればならない。個別対応の受注生産であるから,製品を引き渡してしまえば,
それで完了である。次の製品は新たな注文を待たなければならない。いまひと つは,作業工程の変動性である。注文生産への対応が要求する変動性だけでは なく,建設業はとりわけ自然環境の変化に大きく制約されている。地理,地質,
天候などの諸条件に柔軟に対処しつつ生産を着実に遂行しなければならない。
作業工程のマニュアル化は難しい。状況に応じた作業編成が求められる。
建設労働に不可避的な変動性への対処のしかたは一義的ではない。大きく分 ければ,
2つの対処があり得る。ひとつは企業間,事業所間の分業によって変 動性に対処する方法である。日本において典型的に展開されている,いわゆる 重層的な下請け構造がそれである。変動性は下請けによって吸収されることに なる。建設労働の不安定性と魅力の欠如とがその帰結となる。これを外部化戦 略と呼ぶことにしよう。いまひとつは,変動性を外部化するのではなく,変動 性というリスクを産業全体として公平に分担する仕組みを構築し,建設労働に 誇りを取り戻し,魅力を高めるよう働きかけるものである。ドイツの建設業が 追求してきた戦略はこれである。外部化にたいして内部化と呼ぼう。内部化戦
(9)
略は, したがって変動性を主体的に引き受けうる労働者の養成を展開する。
995
従業員規模
人件費
20 49人
43.3 50 99人
42.0 100 199人
39.9 200499人
37.1 500999人
34.4 1,000人以上
36.0計
39.2ドイツの建設労働市場と外国人労働者 第 1 表 外 注 比 率
1975
年
諸購入経費
人件費 賃加工費
総 額
36.1 5 42.8 37.9 6.2 39.4 41. 8 10.6 35.6 45.3 15.4 32.4 50 17.8 30.4 50.6 23.9 25.3 43.1 13.0 34.1
(西ドイツ)
1996
年
諸購入経費 総 額 賃加工費
51. 9 13.5 54.4 19.1 57.5 25. 7 62.1 33.2 66.8 35.4 71. 8 46.6 61 29.5
注 1 ) 人件費:税込み賃金・給与総額プラス社会費用(法定社会費用およびその他任意の
社会費用)
賃加工費:下請け企業の労働にかかわる費用
諸購入経費:原材料費,賃加工費,諸サービス費,賃貸料,その他雑費
(出典)
Gerhard Bosch, Klaus Zuhlke‑Robinet, Der Bauarbeitsmarkt. Soziologie und Okonomie einer Branche, Campus 2000, S. 63.外部化戦略の程度を測るひとつの指標として外注比率をみよう。完成工事原 価
(Bruttoproduktionswert)に占める外注費の割合を外注比率とすれば,そ れは日本の建設業の場合には,資本金
200万円未満の極小経営でも
40%に達 している。経営規模が大きくなれば大きくなるほど,外注比率は増加し,資本
(10)
金
10億円以上では
60%強である。ドイツの建設業では,受注企業が下請けに 再発注する場合,それにかかる経費は「賃加工」
(Lohnarbeiten)として費用 計上されている。それゆえ「賃加工」の完成工事原価に占める割合を外注比率 とみなすことができる。
1975年のデータをみると,すべての建設企業の平均 は
13.0%である。従業員規模によって最低
5% (20人以上
50人未満)から
(9) Gerd Syben, Arbeit ohne Integration? Formen und folgen systemischer Rationalisierung in der westdeutschen Bauwirtschaft, in: Soziale Welt 42 (3), 1991. S. 371‑386.
(10)
「労働生産性の悪化に悩む建設業界」『ニッセイ基礎研
REPORT』
1998年
6月号,
5頁 。
‑148‑
香 川 大 学 経 済 論 叢
996最高
23.9% (1,000人以上)の幅がある。外部化戦略の程度は低いといってよ い。近年では後述するように外注比率の確実な上昇傾向が認められるが,それ でも日本の水準には遠く及ばない。受注に自前の労働力で対処するのがドイツ 建設業の基本である。
労 働 力 の 中 核 に な る の は , 職 業 教 育 を 修 了 し た 専 門 エ
(Facharbeiter)で ある。技術的には半熟練工,不熟練工で十分こなせるような作業,たとえばコ
ンクリートを詰めたバケツをクレーンに取り付ける作業,あるいはバイブレー
(II)
ターでコンクリートを固める作業にも専門エが充当されている。専門エから構 成される作業組織に受注工事を請け負わせる。それによって各作業工程を効率 化するとともに,各種の変動性にたいしても専門工の創意工夫によって対処さ せ,生産性を上げることが狙いである。建設業就労者の労働力構成をみると,
第
2表 労 働 力 構 成
( % )
1952 1964 1973 19981) 19982)自営業主
7 5 5 5 5職 員
6 10 13 22 20事 務 系
4 61 1
10技 術 系
3 4 8 7現 場 監 督
2 3 3 3 3工 事 主 任 , 班 長
4 4 6 7 7専 門 エ
37 44 49 43 44専 門 作 業 員 見 作 業 員
4) 37 34 25 17 17訓 練 生 , 3 2 6 7
計
5) 1,063 1,716 1,588 817 1,177注 1 ) 西 ド イ ツ に か か わ る 数 値 2 ) 全 ド イ ツ に か か わ る 数 値 3 ) 半 熟 練 工 の 呼 称
4 ) 不 熟 練 工 の 呼 称 5 ) 単位: 千 人
(出典)
Gerd Syben, Die Baustelle der Bauwirtschaft. Unternehmens entwicklung und Arbeitskraftepolitik auf dem Weg ins 21. Jahrhundert, edition sigma 1999, S. 107.( 1 1 )
Gerd Syben, op. cit., S. 376.997
工業部門
原料•生産財工業 投資財工業 消費財工業
食料品・嗜好品工業 建設業
注*男性のみ
第
3表 外 国 人 労 働 者 * の 熟 練 度 専 門 エ 半熟練工 外国人 全労働者 外国人 全労働者
,
37 54 49 25 57 51 32 19 49 49 37 17 54 45 26 35 59 31 25(%) 不熟練工
外国人 全労働者
37 14 241 1
32 14 38 20 34 16(出典)
Friedrich Heckmann, Die Bundesrepublik: Ein Einwanderungsland? Zur Soziologie der Gastarbeiterbevolkerung als Einwandererminoritat, Klett‑Cotta 1981, S. 158.専門工は
1952年の
37%から
1998年には
43%に上昇している。逆に半熟練・
不熟練労働者の割合は,
37%から
17%にまで減少した。就労者総数は
1964年に
170万人でピークを迎えたあと,
80万人にまで縮小しているが,縮小の 大部分は半熟練・不熟練労働者であった。専門エと半・不熟練労働者の比はこ のあいだ
l対
lから
3対
1に変化した。専門エ主体の作業組織を編成すること はドイツの建設業の基本的なやり方であり,それは戦後一貰して追求されてき た方向性であったといってよい。
1960
年代における外国人労働者(ガストアルバイター)の導入は,労働力不 足からやむを得ずとられた手段であったが,その場合にも専門エ志向という方 向性は確認できる。第
3表は
1970年代初頭の労働力構成を産業部門別にみた ものである。基礎素材•生産財工業では外国人労働者の 91% が半熟練・不熟練 労働者である。投資財興業,消費財工業,食品工業ではそれぞれ
75%, 81 %, 83%である。建設業の専門エ比率の高さが際立っている。建設業に従事する 外国人労働者の
3分の
1以上が専門工である。ガストアルバイター雇用は建設 業の内部化戦略を補完するものであったと考えてよい。
このようにみてくるとき,自前の専門エ養成はドイツ建設業の生命線であ
ることがわかる。訓練生の就労者総数に占める割合(訓練比率)は
1970年に
‑150‑
香川大学経済論叢
998(12)
1.8%
と最低を記録している。建設業は将来の職業選択において訓練生に背を 向かれたのである。訓練生にアピールできるだけの魅力を回復するために,
建設業の労使は専門エ養成の改革を産業独自で行った。
1975年の職業教育改 革がそれである。
3年間の訓錬期間を段階的訓練
(Stufenausbildung)として 再構成した。建設業に共通した基礎知識の習得を初年度に実施し,職業に特化 した訓練を
2年目以降に配置した。小経営には建設技術の近代化に対応しうる 訓練が困難であるため,「経営を超えた訓練所」
(liberbetrieblichen Aus‑bildungsst
五
tten)を新設した。これらの改革は建設業によって先鞭をつけら れ,その後金属産業等にも拡がっていったものである。とりわけ画期的であっ たのは,訓練に要する費用を産業全体で負担する賦課方式
(Umlagesystem)の構想である。専門工を養成しない企業はそのコストを負担しなければならな いということを合意したのである。専門工の主たる養成は手工業によってなさ れているから,賦課方式は工業から手工業への補助金と同義であった。賃金総 額の
0.5%が建設業のすべての企業に一般拘束力宣言にもとづいて適用され
(13)
た。この料率はその後改訂され,
1998年には
2.8%になっている。掛け金は 社会基金に組み入れられる。訓練企業が訓練生に支給する訓練手当も改革に よって大幅に引き上げられ,他の産業を上回る水準に設定された。訓練企業の 訓練手当に要するコストは社会基金によって補償される。訓練生を建設現場に 労働力として投入できない初年度には訓練手当の
10ヶ月分が社会基金によっ て補償される。
2年目にはそれが
6ヶ月分となり,最終年度の
3年目は
1ヶ月
(14)
分だけである。このようにして訓練比率は再び上昇し,
1985年には専門工を
(15)
再生産しうる水準 ( 6 .3%) まで回復した。
生活保障と内部化という建設業独自の社会的な仕組みは,建設業の魅力を高
(12) Klaus Ziihlke‑Robinet, Berufsausbildung im Bauhauptgewerbe. Geht die Erfolgsgeschichte zu Ende?, in: Institut Arbeit und Technik Jahrbuch 1998/99, Gelsenkirchen, S. 8.
(13) Ibid., S. 6.
(14) SO KA‑BAU, Berufsausbildung in der Bauwirtschaft. S. 19. (http: llwww.zvk.de/) (15) Klaus Zuhlke‑Robinet, op.cit., S. 6.
999
(16)
め,専門工の雇用保蔵に寄与している。建設業の雇用最が縮小した
80年代に おいて,減少したのは半熟練・不熟練工であり,専門工は増加した。専門工の 入職率は
1984/5年を除いてつねに離職率を上回っている。入職者の過半数以 上は,過去に建設業で働いた経験をもつ労働者である。建設業からいったん他 の産業に身を寄せていたか,もしくは失業状態にあった者が,再び復帰ないし 呼び戻されている。前者の復帰転職者
(Branchenriickkehrer)は入職者の
3分の
1から
2分の
1を占めている。後者の入職者に占める割合(リコール率)
は
5分の
1から
3分の
1である。
1984年 の デ ー タ で み れ ば , 両 者 を あ わ せ る と
7割強にも達する(第
4表)。建設業は不況のなかにあっても専門工を部門 外に保蔵しつつ太いパイプを維持し続けているといってよい。
復 帰 転 職 率
1)リコール率
2)第
4表 復 帰 入 職 率
I I
建 設 業
42.8 30.7(1984
年,%)
工作機械工業
23.6 10.5注 1 ) 建 設 業 入 職 者 の う ち , か つ て 建 設 業 に 従 事 し た 経 験 を 持 ち , 直 前 の 状 態 は 他 産 業 の 就 労者であった者の割合。
2 ) 建設業人職者のうち,かつて建設業に従事した経験を持ち,直前の状態が失業者であっ た者の割合。
(出典)
Marcel Erlinghagen, Klaus Zuhlke‑Robinet. Branchenwechsel im Bauhauptge‑werbe. Eine Analyse der IAB‑Beschaftigtenstichprobe fur die Jahre 1980 bis 1995, in : Mitteilungen aus der Arbeitsmarkt‑ und Berufsforschung 2/2001, S. 178, Tabelle 4.
II .
労働力輸入
1 . 「留保付き禁止」
1991
年には
90年代の労働力輸入を規定する
2つの法規が施行された。ひと つは新外国人法であり,いまひとつは「募集停止例外規則」
(Anwer bestopp‑(16) Marcel Erlinghagen, Klaus Zuhlke‑Robinet, Branchenwechsel im Bauhauptge‑
werbe. Eine Analyse der IAB‑Beschaftigtenstichprobe fur die Jahre 1980 bis 1995, in : Mitteilungen zur Arbeitsmarkt‑und Berufsforschung 2/2001, S. 165‑181.