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日本 管理会 計学 会 誌
管 理 会計学 1999年 第7巻 第1・2合 併号
論 文
公 益事 業の 負 荷 平 準 化 に よ る利益管 理
一 規 制 緩 和 後の 電 力 産 業へ の 非協力 ゲー ムの 適 用一
樫 尾 博 * 小 倉 昇 †
〈 論文要 旨〉
本論文で扱 う電力 ,ガ ス等の公 益事業の利 益 管 理は,他の 産業とい くつ かの点で異 な
る特徴を持つ .
1)サービス の価 格 (コ ス ト)と設 備 利 用 率 との関 係
需 要の平 準化に よ る 設備 利 用 率の 向上 が コ ス トの低減,利 益の 増 大,サービ ス価格の 低下 に結びつ く.
2)公 共サービス に対する利用者選択の硬直性
規制料金の ため ,柔軟な料金設 定が で きない .ま た,利用 者 側で もサ ービス を利 用 す
る ために初 期 投 資が必 要で,
一旦 選 択 すると簡 単
に は代 替 サービス に移 行で き ない .
3) 利 用 者のサ ービス購 入 価 格とサービス の社 会コ ス トの コ ン フリク ト関 係
一般的に既存サ ービス の 利用機器の 価格は,新サ ービス の 利用機 器の 価格を下回る. 一方,サービス の利 用 量 が 増 加 し,設 備 能力の上 限に達 する と,サービス提 供に機 会 原 価が 生 じるが, 公 共 料金では機 会 原 価を反 映し た価 格 設 定は難 しい .
本 論 文で は2 つ の代 替的 な 公益サ ービス (電 力とガス )の設備利 用率の ア ン バ ラン ス
に着目 し,需 要 を平 準 化 させ る た めの コ ン トロ ールの 手 段 として,利 用 者の 機 器 導 入 時
にお ける補 助 金 政 策 を 提 案 する.電 力 会 社 と ガス 会 社をそれぞれ プ レーヤーと み な し,
ビ ル空調 需要 家の 獲得を非協 力ゲーム と して定式 化 し,以下の 2ケース につ い て定 量 的
に分 析 し,負荷 平 準 化に よ る利 益 管理の提 案 を行 う.
1)現 状の規 制を前 提として , 電 力 会 社は電 気 蓄 熱 式に, ガス会 社は ガス空 調に対 し補 助 金を出 す.
2 )規 制緩和 を 前 提 として,電 力 会 社 がガス 会 社のガス 空 調に対 して も補 助 金 を 出 す. 東 京 電 力と東 京ガス につ い て数 値 例に適 用 してみ た とこ ろ, 現 実に は両 者が熾 烈な競
争を してい る事実に反 し,規制緩和さ れ る と電力会社が ラ イバル のガス 空 調に対し て も 機器導入時に利 用 者に補 助 金 を 出せ ば, よ り利益 を上 げるこ とが 可能 なことを 定 量 的に 示 すこ と が できた.
〈 キーワード〉
利 益管理,公共サービス
, 需 要コ ン トロ ール
, ゲーム理 論
, 価 格 政 策
1999年 1月受付 1999年 7月 受理
*筑 波 大 学 大 学 院 経営 ・政策 科 学 研 究 科 博士課 稈企業 科学 専 攻
†筑波 大 学大学院 経営・政策 科 学 研究科教 授
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管理会 計学 第7巻第1・2合 併 号
1. は じ めに
本論文で扱 う電力,ガ ス 等の 公 益事業の 利益 管理 は,他の 産業 とい くつ かの 点で異 な る 特 徴 を持つ .以 下 に い くつ か整 理 して み 翫
1 )サービス の価格 (コ ス ト)と設備利 用率との 関係
公 益事 業は ピーク需 要 に対 応 する だけの 設 備 を保有す る義務が あ る た め,サ ービス 需 要
の ピーク時以 外 には 生 産能力の余剰 (ア イ ドル キ ャ パ シ ティ)が生 じ てい る. 需要の 平準 化が コ ス トの 低 減, その 結 果 と して 利 益の増 大 ,価 格 低 下に結びつ く.
2 )サ ー ビス に対す る利用者 選択の硬直性
規 制 料金 (総 括 原 価 主 義〉の た め, 一部 季節別 料金制 度 等は ある もの の , 増 分 需 要 を直 接 コ ン トロ ール する よ う な料金 設定がで きない .
サー ビス を利 用 す る た めに利 用 者 も初 期 投資が必 要で ,利 用サービ ス を一旦 選 択 する と
簡単に は代 替サ ービス に移行で きない . し た が っ て, 代替サービス 問の 利用 者の 移行を 促 進する た め に初期 投資コ ス トへ の 補助 金 (以下 イニ シャ ル 補填と言 う)が行わ れ るこ と が ある .た と え ば, 消 費 者を囲い 込む ため , PHS の 通 信サービス業 者が た だ同 然 で 通 信 機 を販売し, 切 り替 えを促 進 して い るの はこ の 例で ある.
3)利 用 者のサ ー ビス 購入価 格 とサー ビス の社 会コ ス トの コ ンフ リク ト関係
社会全体か らみ てある サービス の 提供がボ トル ネッ ク になっ て い ない 状況で は, 最 も社 会 コ ス トの安い サ ービス の利 用が奨 励 され る. そのサー ビス の利用 量 が 増 加 し, 設備 能 力
の上 限 に達す る と,サ ービ ス 利 用に機 会 原 価が 生 じ る,よっ て ,サービス 提 供 コ ス トは, 社 会 的 に最 も経 済 的 な 選 択で はな くなる が, 公 共 料 金で は機 会 原 価 を 反 映 し た価 格設 定
は難 しい .
一方,利用者か ら み る と既存サ ー ビ ス につ い て は, これ まで の既存機 器の利 用, 既 存利 用 者の 機 器 取 替 需 要 等に よる規 模の経 済 性 に よっ て, 既 存 サービス の利 用 機 器の 初期導入
(購入)価 格は新サ ー ビス の そ れ を 下 回 る. し た が っ て , 既存サービス の利 用が社 会 的に 最適 な選択で ない に もか か わ らず,利用者の 既存サービス 需 要は増 加 し続 ける .
本 論 文で は以上 の ような 公益事 業の サ ー ビス の特 徴 を考 え ,2つ の 代 替 的な公 益 事 業
(電 力 と ガス )の 設 備 利 用 率の ア ンバ ラ ン ス に着 目 し, 需 要 を平 準 化 さ せ るため の コ ン ト
ロ ール 手段 と して , 利 用 者の機 器 導 入 時 にイニ シ ャ ル補填の 提 供に よ る導入促 進策を提 案 する.イニ シ ャ ル 補 填 を使 っ て 電 力 需 要の ピーク時 (夏 季)の利用 者をガ ス の 利 用ヘ シフ
トさせ る こ とに よ り, 電力会 社 とガ ス 会社の コ ス ト低 減 を図る.こ れ は, 一種の 価 格 政 策
で ある.こ の よ うな需 要 平準化政策の 実 現 性 につ い て ゲ ーム理 論 を適 用 し, 検 証 し た.
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公益事 業の負 荷平準 化に よ る利 益管理
2. 電 力 ・ ガス供給サー ビス へ の 適用
は じ め に, 電 力 産 業の 現 状 につ い て概 略 する . 日本の 電 力 料金 が欧 米各国に比べ 高い こ
と か ら, 現在, 政府の審議 会で, 供給側 に対 して は, 新規 発 電 設 備の 入札 制度 (今後電力 会社が必 要とす る新 規 の長 期 火 力 発 電設 備 に つ い て は, 電 力 会 杜の みで な く, 独立発 電事 業 者 も建 設 す る こ と がで き, 第三 者 機 関が 入 札に よ り決 定 す る仕 組み )や一部 小 売 り自 由 化 (2万ボル ト以 上 の 特 別 高圧 需 要 家 ,主 に工場 等 ,に 対 して電 力 会 社以外の独立発 電事 業 者が電 力 会 社の 送 電線を利用 し て, 自 由に電気 を販 売で きる仕組み)等の競 争促進 策が 検 討さ れ て い る (参 考文献 [4]). また, 需 要側に つ い て み ると, 電力 会 社の設 備投 資は 需要の ピークで ある 夏期の昼 間に合わせ て 行わ れる ため , ピークを押し 上 げる ビル の 冷房 需 要 の伸び は, 設 備 稼 働 率の 低下 につ な が り, 電 気 料金 の 高い 理由の 一つ と な
っ て い る.
その た め , 電気 蓄 熱 式 冷 房 (夜 間に蓄 熱 槽 に電 気 冷 凍 機によ り氷や冷 水 を貯め , 昼 間にそ
の冷熱 を利 用 す る冷 房 方式)や ガス 冷 房 (都 市 ガス に よ る冷 房)の さ ら な る普 及に よ る電 力 需 要の 平準化 も検討さ れ て い る (図 1).
電 力使 用量
0 6 12 18
図 1 蓄 熱 式 空調に よる負 荷 平 準化の し くみ
24 (時 刻 )
本 研究で は,電力需 要の ピーク が業務用 ビル の 空調利用 によ る夏 場の 昼 間で ある の に対
し (図 2), ガス 需 要の ピーク は家庭 の入 浴に よ る冬 場の 夜 間 (8 − 9時頃)であるこ と に 着 目 し (図3), 負 荷 平 準 化 に よる 電 力 会 社 と ガス 会 社の そ れ ぞ れの 利 益管理 を検討 し た. そ こ で , 電 力 会 社と ガス 会 社 をそれぞれ プ レーヤ ー とみ な し
, ビル 空調 需 要 家 獲 得競争を 非協力ゲーム とし て定式 化 し, 以下の 2 ケース につ い て 定 量 的に分 析 し, 負 荷 平 準 化の た
めの新た な価 格政策 につ い て提案を行 う.
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管理 会 計学 第7巻第 1・2合併号
1)現 状の 規制の枠 組み で , 電力会 社は電気蓄 熱式に, ガス 会杜は ガス 空 調 機 に対 しイニ シ ャ ル 補 填 を行 う場 合 .
2) 規制緩和を前提と して , 電力会社が ガス 空 調機に対 して もイニ シャ ル 補填 を行 う場 合 .
電 力 需 要
0 6 12 18
図2 電 力需 要パ ターン (夏 季 )
24 (時刻)
ガ ス 需要
0 6 12 18
図3 ガス需 要パ ターン (冬 季 )
24 (時 刻〉
従 来の 餅 究で は,高 橋 [9], Gately [5]の ように電 力 会 社 内の 負荷 平 準 化や ,浅 野 [2]
の よ うな発 電 部 門で の 競 争 を扱 っ た ものが ある. ま た, 西 川 等 [11]は, 季 節 別 時 刻 別 料 金の 導入 に よっ て負荷 平 準 化の 提 案を お こ な っ て い る が, これ らの 負荷平準 化策で は本 研 究の よ うな代 替 的なエ ネル ギーへ の積極的 な移 行 促 進 を実 現 する こ とは 難 しい .
ま た ,費用 に関 して 簡単な 理論 式を与えて分 析す るこ と が多い が ,本研 究で はKaplan
et. al.[3]の 活動 基準 原価計算の f法を参考に し, よ り現実的な費用 関数を作成 し た. 具 体的 に は各社の セ グメ ン ト別 財 務 デ ータ か ら原 価 をコ ス ト プール に ま と め
, そ れ ぞ れ費 用
NII-Electronic Library Service 公 溢 事 業の負 荷 平 準 化 によ る利 益 管 理.
発生要 因を設定 して , 回帰分 析 に より費用関数 を推定し た. さ らに推定し た費用 関 数 に基
づ き, イニ シ ャ ル補填に よ る負荷 平 準 化 策の効 果に つ い て実 証 研 究を行っ た.
営業の 第一線で は, 電 力 会 社 とガ ス 会社 は ビル の 空 調 機 器の 導入 をめ ぐっ て熾 烈 な競 争 を して い る . しか しな が ら, 本研 究の結 果は現 実に反 して , 電 力 会 社が当 面の ライバ ルで あ る ガス 空 調機器に対 して イニ シ ャル補 填 し, 移行促進 を行っ た方が, ガス 会 社の み なら ず 電 力 会 社に とっ て も利益 を 増大さ せ るこ と が わ か っ た.
3. モ デル の概 要
3.1 ゲ ー ム の しくみ
ビル の 空 調 機 器の 導入を め ぐっ て 電力会社 とガス 会 社が競 争を行 う状 況 を,非協力ゲー
ム と して モ デ ル化 する . 導 入 さ れ る空 調機 器は, 負 荷 平 準 化 を可 能 とする電 気 蓄 熱 式と ガ
ス 空調 , 負荷平準 化 に反す る従 来 型 電気の 3種類 である. もち ろ ん,そ れ ぞ れの 機器 に イ
ニ シ ャ ル補 填 する こ とは理 論上可 能で ある . し か し, 電 力負 荷の ピーク をさ らに押 し上げ
る従 来型電気に, 電 力会社が イニ シ ャ ル 補填して まで 導入 を促進するこ とは , 利益管理 と
い う点か ら あ り得ない .ま た, ガス 会 社が ガス 需 要の 負 荷 平 準 化に貢献 する夏 期の 空調 需
要を失 うこ と に な る 電気蓄 熱 式や従 来型電気に対 し て イニ シ ャ ル補 填す るこ と もあ り得な
い . し た が っ て , こ こ で は空 調 機 器 導 入 時に , 電 力 会 社が ビ ル オーナーに対 す る電 気 蓄 熱 式 とガ ス 空調へ の イニ シャ ル補填額をい く ら にする か と, ガス 会社が ガス 空調へ の イニ シ
ャ ル 補填額 をい くらにする か を, 各社の価 格政策 とする (図4).利 用 者の ラ ンニ ン グ費用
に あた る電 気 料 金やガ ス料 金は 規 制 を受 けて い る た め, 電 力 会 社, ガス 会 社 と もに戦 略 的 に は変 えら れ ない とす る. ま た, ビル の オーナーは,空調 機 器 に関す る イニ シ ャ ル 費 用 と
ランニ ン グ費 用の情 報だ け に基づ い て 空調 機 を選 択 する と仮 定 する .
電 力会社や ガス 会社は設備 産業の た め ,負荷 平準 化の 効果 は長 期的に現れて くる.そこ
で本 研 究で は各 企 業 は長期 的 な利 益 最 大を目指 して, 利 用 者へ の イニ シ ャ ル補 填 額を意 思 決 定する. こ こ で はあ る年に空 調機器 を導入す るビル群が競 争対象で ある.各社は,次の 機 器 更 新 時 まで に (機 器 更 新 年 数 を 20年 と仮 定して計 画期 間は20 年)ビル群か ら得 ら れ
る利益の 現在価値から, 初期年 (設備 導入年 )の イニ シ ャ ル 補 填額を減じ た累積利益 を最 大化 す る. こ こで は,各社が そ れ ぞ れ最 適な価 格政策 を と る ケース と
, 電 力 会 社を リーダ と しガス 会 杜 をフ ォ ロ ワ ー と して 最 適 化 する ケース の 2通 りを検 討 する . 後 者の ケース で は, リーダで ある電 力 会 社 は自分の 戦 略 (イニ シ ャ ル補 填 額)に対 する フ ォ ロ ワーで ある
ガス 会 社の戦 略 (イニ シ ャ ル 補填額)を予 想 して , 自分の 戦略を先 手で 決定す る. フ ォ ロ
ワ ーは後 手で (リーダの 戦略を知っ て か ら), 最 適 な 自分の 戦 略 (イニ シ ャ ル補填 額 ) を
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