生命保険文化センターにおける
消費者啓発・学校教育活動の取り組み
高 地 貞 雄
■アブストラクト
生命保険文化センターは,昭和51年の設立以来,一貫して消費者啓発・学 校教育活動に取り組んでいる。活動の対象は,若年層から高齢者層までの一 般消費者(消費生活相談員を含む)と大学から中学校までの学生・生徒なら びに教師である。消費者や学生・生徒が実際の生活の場で,あるいは将来社 会人となって生命保険と向き合ったとき,適切な活用判断ができるよう実践 力を身に付けてもらうことを目的として,各対象層の特性に応じて,講習会,
冊子,ホームページ等により適切な生保知識の付与と理解の向上に向けた活 動を行っている。今後の取り組みとしては,①金融経済教育推進の動きに対 応した活動の展開,②金融諸団体との連携強化,③学校現場におけるICT
(情報通信技術)導入の動きへの対応,があげられる。
■キーワード
消費者啓発,金融経済教育,学校における生命保険教育
1.はじめに
生命保険文化センター(以下, 当センター と略す)が設立されたのは,
今から38年前,昭和51(1976)年1月のことである。 文化 の名を冠した当 センターは,設立以来,社会・環境情勢や人々の意識の変化などその時々に 応じて情報発信のあり方,活動項目の見直しを図ってきた。しかし,一般消
/平成25年10月1日原稿受領。
費者や学校を対象とする生命保険の啓発活動(情報提供活動を含む),教育 活動については,紆余曲折を経ながらも一貫して事業の柱として取り組んで きている。
当センターが行う消費者啓発・学校教育活動は,生命保険のニーズ喚起や 販売促進を目的としたものではない。その趣旨は,死亡・医療・老後・介護 などの保障ニーズに対して,生命保険を活用することが適切かどうか,活用 する場合にはどのような点に留意する必要があるか,などを十分に理解し,
適切な判断能力を身に付けてもらおうというところにある。それがひいては 生命保険制度の健全な発展につながり,また,国民の利益の増進に寄与する,
という公益財団法人としての当センターの活動目的に沿ったものであるとい える。
2.当センターの消費者啓発・学校教育活動の対象層と活動概要
当センターが現在取り組んでいる消費者啓発・学校教育活動の対象層と活 動概要は【図表1】のとおりである。一般消費者から中学生に至るまで,各 対象・年代層に応じて,FACE TO FACEで知識付与を行う活動や冊子・
ホームページ等のツールを介しての活動等さまざまである。さらに,それら の活動を組み合わせることにより,訴求効果の向上を図っている。
小学生以下の幼児・児童については,生活保障の必要性についてどのよう に理解してもらうのか,その手法が難しい等の理由により現段階では対象と していない。
→図表がはいらないため、アキを作成しています。注意
【図表1】対象別 消費者啓発(情報提供)・学校教育活動 の概要
対象層 内 容 活動の趣旨
一般消費者
(若年層から高齢 者層まで)
消費生活相談員
新成人,新社会人
大学生・専門学校 生・高校生
高校教師
地方自治体,企業等が主 催する学習会への講師派 遣
消費者向け出版物による 情報提供(有償頒布)
ホームページ,モバイル サイトによる情報提供 生命保険勉強会への講師 派遣,ホームページの専 用サイト設置
成人式や実業高校等に若 者向け小冊子を無償配布
授業への講師派遣。副教 材提供
夏季セミナーの開催,自 主勉強会への講師派遣。
教材提供。ホームページ による情報提供
生命保険を適切に活用できる消費 者の育成をめざし,消費者に生命 保険や生活保障等に関する情報提 供を行うもの。
生命保険関連分野について,より 最新の情報を平易に解説・情報提 供を行うもの。
同上
消費生活相談員に,生命保険に関 するより専門的な知識を身に付け てもらうことを目的として行うも の。
これから社会人となる若年層を対 象に,最低限身に付けてほしい生 命保険の基礎知識について情報提 供を行うもの。
学生・生徒層を対象に,将来社会 人となり生命保険と向き合ったと き,適切に生命保険の活用判断が できるよう実学的な観点から情報 提供を行うもの。
生徒を教える立場にある教師を対 象に,教科の内容に即して生活設 計や生命保険の役割などについて 情報提供を行うもの。
中学生に生命保険の役割などにつ いての理解を深めてもらうことを 目的に実施しているもの。
作文コンクールの実施 中学生
3.一般消費者を対象とする活動
世帯加入率が9割を超える生命保険であるが,人々の理解度は決して高く ないといわれる。商品性の複雑さ,保険用語や約款の難解さ等とともに,日 本人の契約意識の希薄さによるところも大きいように思われる。当センター では,一般消費者に対する適切な生保知識の付与と理解度の向上等を目的と して 消費者の視点に則り,より新しい情報を,より分かり易く をコンセ プトに,学習会や出版物,ホームページ等を通じた啓発(情報提供)活動に 取り組んでいる。
⑴ 生命保険学習会への講師派遣
生命保険学習会は,人々に直接,生命保険や生活保障等に関する知識を付 与するものであり,当センター設立当初より力点を置いて取り組んできた活 動の一つである。全国の自治体,消費者行政機関,消費者団体,企業,官公 庁等が主催する学習会に,要請に応じて無償で講師派遣を行っている。【平 成24(2012)年度 実施回数187回,受講者数6,857名】
講師はすべて当センターの職員が担当し,テーマは 生命保険の基礎知 識 , 医療保険と介護保険 , 公的年金と個人年金 , セカンドライフの経 済準備 などが多い。
本学習会の趣旨は,公的保障や企業保障の位置づけをしっかり認識したう えで,個人保障としての生命保険の活用について適切な判断ができる消費者 になってもらいたい,というものである。医療・介護,年金などをテーマに 講義を行う場合,7割程度を公的保障の話に費やすことも稀ではない。つま り,私的保障としての生命保険の活用を考えるにあたっては,生活保障の全 体像を把握すること,とりわけベースとなる公的保障でどこまでカバーされ るのかをしっかりと把握することが不可欠である,との認識に基づいている。
→タイトルのみなってしまうため、アキを作成しています。注意
⑵ 出版物,ホームページ等による情報提供
当センターの一般消費者向け小冊子は時代とともに統廃合を繰り返し,現 在は8種類の小冊子を発行している。生命保険の基礎,年金,医療・介護・
遺族保障,税金,生活設計などをテーマに,いずれの小冊子も消費者にとって 読みやすい文字で,できる限り平易に記述することを心がけて作成している。
また,最新の情報が提供できるよう,原則として年1回改訂を行っている。
紙面構成においても,ケーススタディやQ& Aを活用して理解しやすい 工夫を施したり,年金や介護などの小冊子では,紙面の約半分を公的保障の 記述に割き,補完機能としての生命保険を含め生活保障の考え方を示すなど,
消費者に公正な知識を付与するツールとして重要な役割を担っている。⑴で 紹介した 生命保険学習会 の講義の素材も,ほとんどこれらの小冊子に負 っている。
1冊あたり100円〜200円での有償頒布を原則としており,当センターに直 接申し込む方法以外に,近年では消費者が手軽に購入できるよう,一般書店 やインターネット書店での販売も行っている。
購入者は一般消費者に限らない。平成24(2012)年度の有償頒布部数約30万 6千部のうち,一般消費者からの申込みが約12万6千部,生命保険業界関係 者からの申込みが約18万部であった。業界関係では社員研修や顧客への贈呈 用として活用しているケースが多いようである。
出版物とともに当センターが近年,特に力を入れているのがホームページ による情報提供である。ホームページは,不特定多数の消費者に対する情報 提供ツールとして即時性・双方向性等に優れている。平成9(1997)年度の開 設以来,数回のリニューアルを経ながら質量あわせて充実に努め,平成24 (2012)年度の年間アクセス数は218万件超に至っている。現在のホームペー ジの主な内容は,生命保険の基礎情報や生活設計情報の掲載,当センターの 諸活動の紹介,消費生活相談員向けコンテンツの設置等をはじめとして,一 部の小冊子や副読本については電子ブックやPDF版の閲覧も可能となって いる。
平成13(2001)年度にはメールマガジンの配信を開始している。開始当時は,
小冊子の申込者のうちの希望者を対象とする限定的なものであった。配信時 期も不定期であり,小冊子の改訂情報や当センター主催のイベント情報の提 供ツールとしての活用にとどまっていた。その後,平成17(2005)年度のホー ムページ本体の全面リニューアルを機に,小冊子の改訂案内に加え,メール マガジンのオリジナル情報として 生命保険のミニ知識 や 公的保障制度 の改正情報 等を配信することとし,今日まで継続している。現在では,月 3〜4回の配信が定着し,平成24(2012)年度末の登録者数は22,902人に至っ ている。
また,平成23(2011)年1月には,モバイルサイト(携帯電話用のウェブサ イト)を開設した。これは,日ごろ生命保険と接する機会が少なく,かつ携 帯電話の利用率の高い若年層等の消費者を意識したもので,楽しみながら生 命保険について学べるコンテンツ GO!GO!ホケン検定 や 生命保険用 語解説 などを設けている。まだ月間3〜4千件程度のアクセス数であるが,
スマートフォンからのアクセスも可能としていることから,今後のアクセス 数の伸びを期待しているところである。
メールマガジンやモバイルサイトは,コンパクトな情報提供ツールである とともに小冊子の活用やホームページの閲覧への導線としての機能を持つ。
内容の充実とともに,利用者の一層の拡大が今後の課題となっている。
4.消費生活相談員を対象とする活動
全国の消費生活センターなどで相談業務に従事する消費生活相談員は,日 常の業務において一般消費者と深く接しており,いうならば消費者への情報 拡散のキーとなり得る存在である。当センターでは,無償で消費生活相談員 を対象とする生命保険の勉強会の実施を推進している。これは,相談員の生 命保険知識の向上を図り,日常の相談業務に生かしてもらうことを目的とし たものであるが,単に生命保険相談の適切な対応の支援にとどまらず,消費 者に対する情報提供の二次拡散を期待するものであるともいえる。
この活動を開始した平成7(1995)年度から平成12(2000)年度にかけては,
当センターが主催して連続講座形式で行っていたが,それ以降は相談員が自 主的に行う勉強会への講師派遣や,公益社団法人全国消費生活相談員協会,
公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会,一般財団法 人日本消費者協会等との共催による講習会が中心となっている。
講師は当センターのベテラン職員が担当し,テーマは受講者である相談員 の意向を汲み取りながら決めている。最近は,生命保険商品や販売チャネル の多様化,高齢者の加入に際してのトラブルの増加などを受け, 相談や問 合せの多い保険商品や制度 について取り上げてほしい,との依頼が増えて いる。
相談員への冊子による支援として,相談対応用の手引書 生命保険・相談 マニュアル の無償提供を行っている。同冊子は,昭和60(1985)年度の初版 作成以来ほぼ3年に1度の改訂を重ね,平成22(2010)年度の全面改訂を経て,
平成25(2013)年度に13回目の改訂を行っている。現行版の特色は,①発生頻 度の高い相談事例の掲載,②相談業務で必要とされる法律等の根拠の明示,
③帳票見本の充実 等である。同冊子は改訂の都度,全国の消費生活センタ ー等を通して相談員に提供するとともに,相談員対象の勉強会のテキストと しても活用している。
また,当センターホームページの 消費生活相談員向けコンテンツ には,
同冊子のPDF版をはじめ,最新情報や生命保険関連法規,監督指針,生命 保険協会の自主ガイドライン等を掲載し,相談員の生保相談等の用に供して いる。
5.新成人・新社会人を対象とする活動
後述するように,学校で生命保険を学ぶ機会は決して多いとはいえず,若 い人々が生命保険に関する知識を持たないまま,将来,保険の勧誘を受ける 事態も想定される。したがって,これから成人となり,社会人となる若年層 への生命保険の適切な知識付与は,きわめて重要であるといえる。
こうした状況を踏まえ,当センターでは,若年層向けに小冊子 ほけんの キホン for Beginners を作成し,無償頒布を推進している。本冊子は,若 い人々に最低限身に付けてほしい生命保険の基礎知識をコンパクトにまとめ たもので,平成21(2009)年度に作成して以来,全国の教育委員会を通して成 人式での頒布拡大を図っている。また,近年は実業高校の卒業式での頒布や 保健所・保健センターが行う 母親学級 での頒布も試みている。平成24 (2012)年度の総頒布部数は24万6千部におよぶ。将来,生命保険の加入を考 える際に, こんな資料があった と参考にしてもらえるならば最良と考え ている。
6.学校教育活動への取り組み
当センターの学校教育活動の目的は,学校教育の中で生活設計の必要性を 学んでもらい,生活保障意識を育て,さらに生活保障手段の一つである生命 保険の役割や機能について学び理解してもらうことにあるといえる。活動の 対象は,大学・短大生,専門学校生,高校生,中学生であるが,近年,教え る立場の教師を対象とした活動にも力を入れている。
中学校,高等学校の授業で生命保険が取り扱われるためには,学習指導要 領に記載されることが肝要である。最新の学習指導要領をみると,高等学校 家庭科の学習指導要領解説書において生活設計やリスク管理に関する学習の 充実が示され,保険についても触れることが言及されている。【121ページの 資料参照】しかしそれ以外は,商業科の ビジネス基礎 の解説書において,
ビジネスの担い手の一つとして 保険業 があげられているのみで,高等学 校公民科の 現代社会 政治・経済 ,中学校社会科の 公民的分野 では,
金融の仕組みや役割については触れられているものの保険についての記載は まったくない。学習指導要領に基づいて作られる最新の教科書を見ても,保 障手段として生命保険の役割を記載しているのは高等学校家庭科の教科書の みで,他の科目においては,せいぜい金融機関の種類を示す表中に生命保険 会社の記載がある程度である。
限られた授業時間の中で,しかも教科書の記述が乏しい生活保障や生命保 険を取り上げてもらうことは容易ではない。したがって現在は,活動の中心 を高等学校においては家庭科にシフトするとともに,中学校においては,作 文コンクールを通して生命保険の役割や仕組みへの理解を図る活動に注力し ている。
⑴ 大学生・専門学校生・高校生を対象とする活動
①生命保険実学講座の実施
大学・短大生,専門学校生,高校生を対象に,教員の協力を得て講義時間 の一コマを提供してもらい,当センター若手職員を講師として無償で 生命 保険実学講座 を実施している。本講座は,将来.学生や生徒たちが社会人 となって生命保険と向き合ったとき,適切な活用判断ができるよう,生活保 障の考え方,公的保障をはじめとする各保障手段の役割,保険と貯金の機能 の違いなど,最低限身に付けてもらいたい基本的な事柄について学んでもら うことを目的としたものである。 適切な活用判断 の中にはもちろん 生 命保険のみではなく,他の手段を活用する という選択肢も含まれる。
平成24(2012)年12月に 消費者教育の推進に関する法律 が施行され,現 在,推進にあたっての 基本的な方針 も閣議決定されている。その中で今 後消費者教育が育むべき力の一つとして 情報,メディアを批判的に吟味し て適切な行動をとるとともに,(以下,省略) という記載があり,批判的思 考力や実践力を養うことの重要性が示されている。本講座は 実学 の名の とおり,従来からこうした能力の養成に努めてきた。したがって,本講座は 生命保険教育の場というよりは,むしろ生命保険を素材とした消費者教育の 場ともいえる。
講師と受講生の年齢が近いため親近感が湧くのか,受講生の評判は良い。
毎回の講座終了後,受講生にアンケートへの回答を求めているが,大学生の アンケート結果をみると,9割以上の学生が 実学講座は将来暮らしの中で 役に立つ と答えている。さらに8割以上が 本講座を受講して生命保険に
ついての関心が高まった と答えており,本講座が教育現場で受け容れられ ている様子が伺える。【図表2参照】
近年,実施講座数・学校数ともに増加傾向にある(平成24年度の講座数は 340講座,学校数は大学73校,短大10校,専門学校36校,高校36校)。特に高 校生対象の講座が著しく増加しており,一つの学年の全クラスを対象に講座 の依頼を受けることも多くなっている。ほぼすべてが家庭科教師からの依頼 であることから,高校家庭科の新学習指導要領解説書にリスク管理の重要性 が示され教科書で取り上げられたため,教師の関心が高まったという作用も 大きいと思われる。
【図表2】「生命保険実学講座」(大学生対象)受講者アンケート結果 (平成24年度)
Q. 本講座は将来あなたの暮らしの中で役立つと思うか?(n=7,368)【受講後】
→タイトルのみなってしまうため、アキを作成しています。注意
【資料】 部科学省 高等学校学習指導要領解説 家庭編(平成22年1月) 記載事項
(抜粋)
<第1節 家庭基礎>
生涯の経済計画とリスク管理
生涯を見通した経済の計画を立てる場合には,事故や病気,失業などの不測の事 態や退職後の年金生活なども想定し,生涯賃金や働き方なども含め,リスクにどの ように対応したらよいのかについて考えさせる。
生涯の生活設計
生活には,様々な社会的条件が大きく影響することにも触れ,生活設計を通して 社会の動きを見つめ,不測の事態にも柔軟に対応する必要性や,広い視野をもって 生活を創造していくことの重要性について認識させる。
<第2節 家庭総合>
資金管理とリスク
家計管理の基本について理解させるとともに,生涯にわたる短期,長期の生活設 計を行う上で必要な病気や事故など不測の事態に備えたリスク管理の方法など,個 人の資金管理の基本的考え方を理解させる。その際,ローン,クレジットの利用に 加えて,貯蓄,保険,株式などの基本的な金融商品などにも触れる。
また,就職,結婚,こどもの誕生,高齢期の生活などを想定し,生涯賃金や働き 方などについて,具体的な数値を取り上げて扱い,年金や保険を含めた経済計画の 重要性を認識させる。
Q. 本講座を受講して生命保険についての関心は高まったか?(n=7,368)【受講後】
②学生・生徒向け副教材の配布
授業の中で生活設計や生命保険が取り上げられ,学生・生徒に正しく理解 してもらうための教育素材として,各種の副読本やDVD教材を配布してい る。大学生向けの副読本 生活とリスク管理 は,生活リスクへの対応手段 としての生命保険の役割や仕組みをイラストを交えて解説したもので,おも に大学生向けの 実学講座 のテキストとして活用している。高校生向け副 読本 生き生きTOMORROW は,高校生が直面する進路問題をはじめ将 来の社会・家庭生活をより豊かなものにするためにいま何を考えなければな らないのか,生活設計のポイントを学んでもらうためのワークブック形式の 副読本として作成したものである。そのほか,生命保険の生成の歴史を綴っ た副読本・DVD教材や中学生向けに生命保険の働きをマンガで解説した副 読本等を作成している。これらの副教材は学校の授業での活用の場合,副読 本は必要部数無償配布を,DVD教材は無償貸出を行っているが,ほとんど の副教材は,当センターのホームページにPDF版や動画を掲載しており,
自由に閲覧できるようになっている。
⑵ 高等学校教師を対象とする活動
学校における生命保険教育を推進するにあたっては,教える側の教師への 知識付与および教材支援が不可欠である。当センターでは,高等学校の家庭 科教師を対象として,夏季教師セミナーの開催,教師の自主研修会への講師 派遣,授業用パワーポイント教材の提供,ホームページによる授業実践事例 の紹介,等の活動に取り組んでいる。
①夏季教師セミナーの開催
毎年,高等学校のおもに家庭科教師を対象とした くらしとリスク管理 をテーマとする夏季教師セミナーを開催している。生活設計や保険について の知識と理解を深めてもらおうとの趣旨により,学識者による基調講演や高 校教師による授業実践報告,グループ形式による意見交換などを行っている。
家庭科教師は家庭経済領域を苦手としている という話を耳にすること
がある。 保険に対する理解促進を図る という本セミナーの趣旨もさるこ とながら,生活設計,リスク管理,保険などを取り扱う家庭経済領域の授業 実践事例の紹介や参加者同士の意見交換を通じて,教師間の情報の共有化が 図られ,実際の授業に生かされることが何よりも望まれるところである。
また,本セミナーは平成18(2006)年度の第1回開催以来,日本損害保険協 会と共催で行っているが,教育現場では 生保 損保 の区別なく 保険 と一括りで取り上げられることがほとんどであり,共催実施の意義は大きい と考えている。
②教師の自主研修会への講師派遣
県単位,地域単位,学校単位などで開催される教科ごとあるいは教科横断 的な教師の自主研修会において,生活設計や生命保険,リスク管理などをテ ーマに勉強会を開催する場合,要望に応じて無償で講師派遣を行っている。
かつて,当センターでは高等学校家庭科・社会科(公民科),商業科の県 単位の教育研究会に外部の有識者を講師として派遣した時期があった。テー マは生命保険に関するものではなく,各教科の教育内容に関するものがほと んどであった。当時は,生命保険教育の推進よりも,むしろ各地の教師との ネットワークの構築を図ることが優先されていたからであるが,今日では,
保険教育にダイレクトに結びつく活動に完全にシフトしている。テーマも 生活設計 生活保障 生命保険 に関するものがほとんどであり,講師 もすべて当センター職員が担当している。実施回数は年間8〜10回程度と決 して多くはないが,夏季教師セミナーとともに教師に対して直接情報提供を 行う貴重な機会となっている。
③高等学校家庭科教材キット 新しい 家庭経済 授業プラン の配布 高等学校家庭科のほとんどの教科書には, 家庭経済 領域の中で経済的 リスクへの対応手段として,あるいは金融商品の一つとして 保険 もしく は 生命保険 の記述がある。しかし,教える立場の教師に保険の知識がな ければ,たとえ教科書に載っていたとしても授業で取り上げられないことも ありえよう。こうした点を踏まえ, 家庭経済 領域の授業の教師用支援ツ
ールとして 教科書の流れに沿った 授業で使い易い 教材をめざし平成 20(2008)年度に作成したのが本教材キットである。
構成は,パワーポイント教材を収録した授業用CD−Rと 教師用手引 書 のセット形式で,おもな特徴点はつぎのとおりである。
・授業の自然の流れの中で,リスク管理や私的保障としての保険の仕組み 等について,無理なく触れてもらうことが可能。
・パワーポイントを活用することにより,家庭経済を視覚的にとらえて変 化に富んだ授業を展開することが可能。
・授業展開のガイドとしての 教師用手引書 , 授業用ワークシート , 参考データとしての 資料編 , 家庭経済クイズ を備えている。
本教材キットは,作成時に全国の高等学校(1000校),教育委員会,学校 教育団体等へ無償配布し,それ以降は希望する学校,教師や夏季教師セミナ ーの参加者に配布するなどして,これまでに約4,000セットを無償配布して いる。
④ホームページによる情報提供
講習会や教材の提供とともに,ホームページによる支援も行っている。前 述の教材キットは,当センターホームページからの閲覧,ダウンロードが可 能である。
また,教師向け情報サイト 教育の現場から を常設している。このサイ トは,消費者教育,経済教育,金融教育,生活設計教育(キャリア教育),
生命保険教育など,いわゆる 実学 的な授業に取り組んでいる高等学校・
中学校教師の授業実践事例を紹介するもので,毎月更新している。多様な授 業を展開するうえで参考に資するものと考えている。
⑶ 中学生を対象とする活動
中学校教育における生命保険の取り扱いは,社会科 公民的分野 の 金 融の働き で触れられることが考えられるが,先にも述べたように,実際の 教科書では金融機関の一つとして示されている程度で,ほとんど触れられて
いないのが実状である。そうした状況を踏まえ,当センターでは,社会科の 授業とは別に 作文コンクール という形式により中学生が生命保険の役割 や仕組みを理解する場を設けている。
中学生作文コンクール は,毎年,文部科学省,金融庁,全日本中学校 長会の後援,ならびに生命保険協会の協賛を得て実施しているもので,昭和 38(1963)年度の第1回以来,平成25(2013)年度で51回目を数えている。ちな みに,平成24(2012)年度の第50回コンクールは,全国の中学校1,116校から 27,538編の作品が寄せられた。全中学校の1割程度から応募があったことに なり,第1回からの累計応募数も807,500編に達している。
本コンクールの目的は,中学生に生命保険の役割や意義について考える機 会を提供することにあるが,毎年寄せられてくる作品には生命保険を素材に しつつ,親子の絆,愛情,思いやりといった人間らしい温かい気持ちを素直 に表現したものが多く,本コンクールが中学生の豊かな心を育むうえで多少 なりとも貢献しているのではないかと思っている。
また,その時々の社会事象や災害,事故を題材にした作品も多い。例えば,
昭和40年代中頃に話題となった公害問題や昭和60(1985)年の 日航機墜落事 故 ,平成23(2011)年の 東日本大震災 を題材にした作品は特に多く寄せ られた。
作文 のコンクールであることから担当教師は国語科がほとんどだが,
中学生が作文を書くにあたって参考となる生命保険の基礎知識の学習につい て,副読本 生命保険って何だろう? の提供を始め,学校や教師と連携を 図り当センターから講師を派遣するなど,本コンクールと生命保険の学習機 会をいかに結びつけるかが今後の課題といえる。
7.学術振興事業および調査活動
以上,当センターの消費者啓発活動・学校教育活動の取り組みについて概 説してきたが,これら以外に当センターの活動として, 学術振興事業 と 調査活動 がある。学術振興事業は文字どおり,保険学・保険法を中心と
する生命保険に関する学術の振興を目的とするものである。活動内容として は,①学識者,弁護士,生命保険業界実務家等をメンバーとする研究会,セ ミナーの開催 ②生命保険および関連分野の若手研究者への研究助成 ③ 生命保険論集 生命保険判例集 保険事例研究会レポート 等学術関係 出版物の編集・出版活動 等である。本事業は当センター設立以前から生命 保険協会ならびに財団法人生命保険文化研究所で取り組んでいた活動である。
当センター設立時に生命保険協会から事業の移管を受け,また平成13(2001) 年3月の生命保険文化研究所の解散に伴い,その事業の一部を当センターが 引き継いで今日に至っている。
調査活動は,当センター設立以来,生命保険に限定せず,日本人の生活価 値観の把握や社会経済環境の変化を深堀するための調査など幅広く展開して きた活動であるが,平成15(2003)年度以降は, 生命保険に関する全国実態 調査 <昭和40(1965)年〜>と 生活保障に関する調査 <昭和62(1987) 年〜>の2つの時系列調査を継続して実施している。前者は,一般家庭の生 命保険加入状況等の把握を,後者は,生活保障の準備状況や生活保障意識な どの把握を目的とした調査である。ともに3年に1回行っているもので,調 査データはすべて当センターホームページに公開し,自由に閲覧・活用でき るようにしている。
8.おわりに
啓発・教育活動の目的は,その内容が人々の意識の中に浸透し,実際の行 動に移されていくことにあるといえよう。その意味では非常に息の長い活動 であり,活動実績を単純に数字でとらえることは適切でないかもしれない。
社会・経済環境の変化や時代の流れに対応し,何を伝え,何を学んでもらい,
どのような知識・能力を身につけてもらいたいか,常に吟味し伝えるべき内 容の質的向上をはかっていくことが重要である。
以上の点を踏まえ,当センターの啓発・教育活動の今後について触れ,締 めくくりとしたい。
1点目は,金融経済教育の普及・推進という社会的な動きへの対応である。
現在,国として学校教育や社会教育の場で消費者教育とともに金融経済教育 を推進していこうという取り組みが進められている。金融庁が平成25(2013) 年4月に公表した 金融経済教育研究会報告書 (注)では,最低限身に付 けるべき金融リテラシーとして保険商品に関しては, 自分にとって保険で カバーすべき事象が何かの理解 , カバーすべき事象発現時の経済的保障の 必要額の理解 の2項目があげられている。さらに内容の具体化・体系化を はかるべく,現在,金融広報中央委員会に推進会議が設置されて 全年齢層 を通じて 及び 各年齢層に応じて 最低限習得すべきスタンダードの作成 作業が行われているところであり,当センターも参画している。
冒頭で示したように,現在当センターでは中学生から高齢者層に至るまで,
幅広い層を対象に活動を展開している。しかしながら,これまでは, いま の時代に即して各対象層に伝えたい内容等が必ずしも明確になっていなかっ た。当センターで行う啓発・教育活動は,実際の生活の場で役立ててもらう ための実践力の養成を主眼としている。そのため,どの段階でどこまでの知 識や技術を習得すべきか,上位の発達段階とどのように連携させていくのか,
スタンダードが明確になることによって,それを基軸とした活動が今後重要 性を増すものと思われる。
2点目は, 金融経済教育研究会報告書 にも示されていることであるが,
金融諸団体との連携強化である。特に,学校における保険教育の推進を図る ためには連携が重要である。前述のとおり,現在,日本損害保険協会と夏季 教師セミナーを共催で実施しているが,授業時間の確保が難しい状況にあっ ては,今後さらに,副教材の作成や実学講座,教師対象講習会の実施等にお いて金融広報中央委員会や金融諸団体と連携を図ることが重要であると認識 している。
3点目は,学校現場におけるICT(情報通信技術)導入の動きへの対応 である。現在,国家的な取り組みとして教育におけるICT活用の推進が図 られている。平成23(2011)年に文部科学省では 教育の情報化ビジョン〜21
世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して〜 を取りまとめ,2020年に 向けた教育の情報化に関する方策を示した。徐々にではあるが,教育現場に おいて,生徒用のタブレット端末や電子黒板,デジタル教科書等の活用が進 みつつある。このような動きに対し,当センターとして必要に応じて効果的 な手段を講じるべく,情報化の動きを常にキャッチ・アップしておくことが 重要であると考えている。
(筆者は公益財団法人生命保険文化センター勤務)
(注)金融経済教育研究会は,我が国における金融経済教育の今後のあり方につ いて検討を行うことを目的に平成24(2012)年11月,金融庁金融研究センタ ーに,有識者,関係省庁,金融関係団体をメンバーとして設置されたもの。
平成25(2013)年4月に報告書が公表されている。当センターも金融関係団 体の一員として参画した。