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『学生による授業アンケート』結果の効果的利用に ついて

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『学生による授業アンケート』結果の効果的利用に ついて

著者 三浦 真琴

雑誌名 静岡大学教育研究

1

ページ 16‑30

発行年 2005‑07

出版者 静岡大学大学教育センター

URL http://doi.org/10.14945/00008244

(2)

『学生による授業アンケー 卜』結果の効果的利用について

1.は じめ に

『 学生による授業評価 (も しくは授業アンケー )』 (以下、静岡大学の事例を除いて 「授業評価」

と表記)は、今や我が国の8割以上の大学におい て実施 されている。平成4年度の時点では 「授業 評価」を実施す る大学は僅かに 38校、全大学の 7.3%にすぎなかつたか ら、数値で見る限 り、授業 評価 は大学において 日常的な営みになつた感があ る。10年前には 「授業評価普遍化の時代に入 りつ つある状況」1)と描写 されたが、まさに 「授業評 価」は普遍化の方向に動いているといつてよい。

しか し「授業評価」を授業改善に役立てている 大学は、平成13年度には182校 (授業評価 を実施 している大学の35.5%)、 14年度では194校(同 33.8%)で、授業評価実施校の3分1程度の規模 にす ぎない (数値はいずれ も文部科学省高等教育 局調べ)。

学生による授業評価は、授業改善のために必要 な情報源の一つ となるゆえ、FD活動の範疇で捉 え

られ るべきものである。 F大学の自己点検・評価、

及び大学教育改善の一方策 としてのファカルテ ィ・ ディベ ロップメン トとい う文脈において、授 業評価 がいわば当然 に登場すべ きテーマであつ た」 (示村、1992)と指摘 されたとお りである。

あるいはFDと運動 しない授業評価は無意味であ ると主張 されているとお りである (扇谷、1987)。

しか し、実際には上のデータに示 され るように、

授業評価は必ず しも授業改善を旨とするD活 とは結びついていない。

その原因はい くつか考えられるが、ここではt

三 浦  真 琴

それを大学における『FD活動観』の差異に求めた い。つま り、授業評価をFD活動の地平で捉 えて いない大学が一定の規模で存在 しているとい うこ とである。 この『 授業評価』観 と『FD活動』観 との畑断を見るために、平成14年度の数値をもと に試算 してみた。その際、全686校の大学は少な くとも授業評価 とFD活動のいずれかを実施 して いると仮定す る。 この仮定の下では、授業評価 と

FD活動の双方を実施 している大学 (A∩ B)は

346校となるが、先のデータに基づけば、この う 152校FD活動・授業評価の双方を実施 しな

がらも、両者を有機的に結びつけていないことに なる (図 1)。

授業評価とFD活動実施校数のずれ

実施校(574校)  FD活 動実施校(458校)

授業評価を FD活動と 認識して いない大学 228校

授業評価と FD活動双方を

実施する大学 346校

うち有機的連関 9薇)

※図中、「有機的連関」 とは授業評価を授業改善に結びつけている 大学を指す。

同様に、この仮定の下では「授業評価は実施 し ているがそれをFD活動の一環 として位置づけて

‑16‑

(3)

いない大学 (A∩ B)」 228校、「FD活動は実 施 しているが、その活動の中に授業評価が含 まれ ていない大学(A∩ B)」112校あることになる。

授業評価は実施 しているがそれをFD活動の一 環 として位置づけていない大学(A∩B)の数は、

この仮定 (図 1)の下で最大、B⊂Aの時に最小 となるか ら、授業評価 を実施 しながらもそれをFD

活動の一環 として位置づけていない大学が授業評 価実施校の2割か ら4割程度存在すると推測する

ことができる2)。

10年前には、学外の第三者に対 して授業評価を 実施 していることを示すためだけに体裁 を整えて いる大学や、授業改善ではな く授業評価 を実施す ること自体が 目的となって しまっている大学の存 在が指摘 されたが3)、 上の試算によれば、現時点 でも授業評価が形式化、形骸化 している大学は皆 無ではないと考えられる。

2。 授業評価におけるデザインの問題

このようにFD活動の地平上で「授業評価」を捉 えていない大学が一定規模で存在 しているのであ れば、授業改善に結びつ くようなデザインが施さ れていない授業評価が実施されていることは十分 に想定される。 ここにいう「デザインの問題」と は、質問文そのものの不備、評価結果の分析が不 十分であることな どの問題を含むが、要するに質 問文の作成・提示か ら結果の分析・公開に至るま で、授業改善のための情報が得 られる設計にはな つていないということである。授業評価 を研究す ることの必要性が指摘されてか らlo年以上が経過 しているが4)、 この分野における蓄積が十分であ るとは言い難い。

2000年 か ら2003年 において実施された大学の授 業評価 をもとに行われたサ ンプル調査 (サンプル 114校)では、4分1の大学でダブル・ クェ

スチ ョネアの質問文が、5分1の大学で同意反 復の質問文のあることが報告されている5)。 これ らは初歩的な誤 りであるが、それ以外にも、 「質 問項 目が授業 を構成する要素を部分的にしか捉え ていないJ、 「授業改善に必要な知見 に結びつ く とは考え られない項 目が設けられている」などの 事例が散見されること、な らびに評価結果 に関 し ては、 「項 目別の評価値平均が示されるだけのも のが多 く、重点的に改善すべき箇所や側面につい ての示唆が得 られることが極めて少ないJこ とも

併せて報告されている6)。    

授業評価は、 しかるべき分析を経て 自分の授業 の改善すべき点が明 らかにされるものでなければ、

実施する意味はない。その場合、最 も望 ましいの は、教員が自らの担当する科目の特性や、その期

,に試みた新 しい取 り組み等を鑑みて、独自に授業 評価をデザインすることである。実際に、全学共 通の授業評価を導入する前に、そのような授業評 価を試みていた教員は、規模は大きくないものの、

どの本学においても確実に存在している。とはい え、大学全体 として授業改善に取 り組んでいるこ とを「説明責任 (accOuntability)Jの立場か ら示 す必要があること、授業に関する諸種の情報を教 員間で共有 した上で「組織」としての教育力を向 上させる必要があることを勘案すると、基本的な 項 目については共通のフォーマ ッ トを用いるのが、

現時点では妥当だと考えられる つ。

3.静岡大学 における質 問項 目等の修正 静岡大学では、平成 14年 度の9月に初めての授 業アンケー トが実施された。これは翌年度からの 本格的実施に向けてのパイロット・サーヴェィで ある。以後、今年度に至るまで各期の最終アンケ ー トについては三度の改訂が加えられてきたが、

今年度の後期より新しいフォーマットによる授業

‑17‑―

(4)

アンケー トを実施することになった め。

新 しいフォーマッ トを作成するにあたっては、 ダブル・ クエスチ ョネアや同意反復な どの初歩的 なミスを犯さないように留意するだけでな く、評 価者である学生の意見を質問文や項 目に反映させ ることが必要だ と考え、学生座談会を開催するな どして学生たちの意見を吸い上げることにした 助。

従来の質問項 目の中で、多 くの学生が疑間を投 じたのが、学生の受講態度や出席状況 を尋ねる設 間の意義である。

この点に関 しては、「単に教師の授業の進め方を 評価 させるだけではな く、 自分の学習についても 点検・評価させることが必要である」(示村、1992、

p.16)という考え方が根強 くみ られ、多 くの大学 では授業評価 において学生の受講態度や出席状況、

あるいは自主的な学習の有無あるいはその時間を 確認する質問が設けられている1の 。とはいえ、そ れ らの結果 と教員の授業パフォーマンスに対する 評価結果 とをクロスさせた分析はほとん どなされ ていない。 したがって学生の受講態度 と教員の授 業に対する評価 との間に、 どのような因果関係や 相関関係があるのかは明 らかにされていないが、

受講態度の好 ましくない学生がいるために自らの 授業パフォーマンスに対す る評価が低 くなって し まうと考えるよ りは、教員のパフォーマンスの間 題が学生の受講態度 に投影 されたと考える方が因 果関係のとらえ方 としては自然である。 しか し、

多 くの場合、 これ らの質問はそのような考え方に 基づいて設けられているとはいえない。

大学における授業は教員が一方的に提供するこ とによって成 り立つ ものではな く、それを受ける 学生の主体的、積極的な参加があつて成立するも のであるとの考えに基づけば、上の示村氏の指摘 は間違ってはいない。 しか しなが ら、授業評価 を 実施するに当たって、学生の受講態度な どを併せ

て間うのでなければ授業評価 に協力しない姿勢を 示す教員が一定の規模で存在 したため、やむな く この項 目を授業評価 に採 り入れた大学があること も事実である 11)。 「日本の大学では、授業に対す る学生の意見 を正式に汲み取った り、教授の授業 のや り方を評価するといった考え方は驚 くべき異 質な こととされたままである」(Mbrgan、 1996) との指摘は、現在 もなお該当する。その背景には

「学徒 として発展途上にある学生が教員の職務を 評価することの妥当性についての疑間の声」(三浦、

2003b)が、いまだに根強 くあると考えられる121。

しか し、「学生が教員を評価できるのか」という 疑間に対 しては「(学生による評価は)科学的には リライアブルであるという結論が一般的になって いる」という判断131と、授業改善のためには、ま ず教員が提供 した授業そのものの質が問われるベ きであるという考えに基づき、新 しいフォーマ ッ トにおいては学生の受講態度などを尋ねる項 目を 評価対象か らはずす ことにした10。

他方、評価尺度については、従来の4段階では 評価者が選択 に困る場合が多々あることが報告さ れ、企業社会で常識 となっている トリブルA、 ま り9段階評価が望 ましいという意見が出された。

確かに4段階評価では、評価者が評価値の選択に 困惑することもあ り得るし、また、結果 を読み と る際に問題がないとはいえない。論者の前任校に おける経験 も併せて9段階評価 を採用することに

した。

学生の意見や要望は多岐に亘るものだったが、

その中か ら一部の授業科 目にしか該当しないと判 断されるものを除いて多 くの授業にあてはまるも のを質問項 目として設け、また評価者が複数の解 釈 に迷 うことがないように質問文の表現に配慮 し た。

‑18‑―

(5)

4.平 16年度 後 期 に実施 した 「授 業 ア ン ケ ー ト」結 果 の検 証

もちろん、上に述べたような配慮や工夫を施 し た としても、学生による授業評価が授業改善のた めの万能で唯一無比の方法ではないことを忘れて はな らない。

大山 (2001)が指摘するように、授業評価 にお ける「評価」 とは客観的な測定 (measurement) ではな く、大いに主観の入る値踏み (evahatiOn) の側面があるため、その信頼性 と妥当性が十分で あるとはいえない。 とはいえ、肝要なのは授業評 価 を授業改善のために用いるという視点を見失わ ないことである。 この「形成的評価」 としての側 面を重視することに留意 し、単純平均だけを算出 するような情報縮約をしなければ決 して有効性が ないわけではない (大山、2003).

「形成的評価」 としての側面を重要視 した授業 評価 を実施するためには、その質問項 目の設定と、

得 られた結果の分析方法を十分に練る必要がある。

静岡大学では、質問の設定に関 しては前述 した ように学生の意見 を摂取するなどの工夫を試みた。

さらに多 くの授業の実態に即すると考えられる 15 の質問を①授業に関する基本的なこと、②教員の 授業 に関する姿勢、③授業内容、④授業 に対する 満足度の四つの項 目に分けて示 した。ランダムに 質問が並んだ授業評価 に比べると、 こち らの方が 学生は評価が しやす いと考えたか らである。さら に教員が改善すべき箇所を捉えるための準拠枠に もなるだろうと考えた。

授業改善に資する分析方法については後述する ことにして、 ここでは、先ず、学生の意見を摂取 して作成 した質問等のデザインが妥当なものであ つたか否かを検証 したい。

上に述べた4分類のうち①か ら③ は授業の諸相 についての評価 を求めるものであり、④は全体的

な評価 を求めるものである。 したがって④ に該当 する設間が①か ら③ に該当する設間との線形結合 で うまく説明できれば、今回のデザイ ンは妥当で あったと考えられる。  

以下に、講義科 目を対象に各設間を被説明変数、

他の 13の 設間を説明変数とした重回帰分析の結果 を示す (表1及び表2)。 設問14及15は総合的 な評価 を尋ねるものとして設定 したが、今回は設 14を分析対象とした。なお、表中の数値は修正 済決定係数である。

各設問間の重回帰分析結果 (講義科日)

設 問 Q2 Q3 Q4

0.6346 0.6399 0,7464 0.8254

Q5 Q8 Q9

0.4093 0.8058 0.7966 0.6:90 0.7722

0.5648 0。7943 0.8:09 0.3892 0。9435

※分析対象 :設1(Ql)〜設問14(Q14)、 N=762

R2=coemcient ofmultipb determination(≦ 1)

※表 中、「設問1」「設問2」 は、それぞれ 「Ql」Q2」

と略記 してある。

各設問間の重回帰分析結果 (外国語科 日)

設 問 Q2 Q3 Q4

0.618: 0.5509 0.8021 0.5094

Q5 Q6 Q7 Q8 Q9

0.2321 0.7791 0。7970 0,7141 0.8:10

0.6158 0.7425 0.7784 0.8347 0.9:75

※分析対象 :設 問 1(Ql)〜 設問14(Q14)、 N=227

これ よ り、「講義科 目」「外国語科 目」のいずれ

‑19‑

(6)

においても総合的な評価を尋ねる設問(Q14)と の他の設問 (Ql〜Q13)との間にきわめて高い相

関のあることが分かる。表 に示 したように、総合 満足度 と他の授業の諸相に対する評価 との決定係 数は0。9435(重相関係数は0:9713)と、非常に高 い数値 となつている。 これは授業をいくつかの項 目に分類 して尋ねた評価結果 と授業全体 に対する 評価 との間に矛盾がほとんどなかった ことを意味 している。さらに学生が真摯 に評価 に取 り組んだ ことも物語つている。

但 し、「外国語科 目」においては、設問2、 4、

5、 9、 10、 11の 6項目においてP値が 0.05を

上回つている。したがつて、以下の各項 目の重要

度に関する分析では7項目のみを分析の対象とす

ぎるをえない。今後も統計的手法によって重要度 を測定するのであるな らば、質問項 目のデザイン を若千見直す必要があると判断される。

また 「健康体育科 目」においては、例えば設問 14と設問1か13との重相関係数は 0.8783と 比較的高い数値だつたが、ほとんどの項 目におい P値0。05を上回つていた。したがつて この科 目を対象 とした授業評価についても各項 目の重要 を測定する必要があるとの判断に基づ くのな ら、

質問項 目などのデザインを根本か ら見直す ことが 必要である。今後の課題 としたい。

5。 授 業 改 善 の た め の ヒン ト

上に述べたように 「講義科 目」及び 「外国語科 目」においては、授業に関する小項 目と授業に対 する全体的な評価項 目との間に極めて強い相関が 見 られた。 したがつて、全体的な評価値 に対 して 各項 目が どの程度寄与 しているのかを測定すれば、

授業 を実施す る際に留意すべきファクターが具体 的に抽出され、その優先順位 もある程度明 らかに されることになる。この測定にあたつては、「講義

科 目」「外国語科 目Jそれぞれにおける重回帰分析 の結果、P値0。05を上回る項 目をはず した上で、

再度、重回帰分析をおこなった。また、「標準偏回 帰係数」 と「単相関係数」の正負の符号が異なる 項 目も重要度 を解釈する際に矛盾が生 じるので こ れも省 くことにした1め 。その結果、講義科 目にお いては設問5、 8、 10、 11を、外国語科 目におい ては設問2、 4、 5、 9、 10、 11を分析の対象か

ら取 り除 くことになった。

5‑1  重回帰分析の結果か ら得 られる示唆=講

義科 日と外国語科 目における重要な項 目

講義科 目における各項 目の重要度

新しい知臓や考え方 授彙内容の難島魔 主□・テーマの明確さ

授彙遭虞 教材の使い方 学生の反応の確認 質問や相饉への対応 声の聞き取りやすさ 根書等の見やすき

0.700     0,750     0.800     0.850     0.000     0,950

※巻末の附録に「新しい知識や考え方Jを 目的変数と捉えた場合の 重回帰分析の結果を掲載してある。

上記の修正を加えた上で講義科 日 (N=762)を

対象 としてお こなった重回帰分析の結果を図2に 示す。 これよ り講義科 目においては、学生が新 し

い知識や考え方、技術を身につけることができる ように、そのコンテンツに十分な注意を払うこと が群を抜いて重要であることがわかる。その際に、

難易度にも留意 し、毎回の授業の主題やテーマを 明らかにするよう心がける必要がある。学生が消 化不良を起こさない速度で授業を進め、授業内容

'こ

即した教材を用意するなど、期を通じた授業計

‑20‑

(7)

画を立てることも、同様に重要である。加えて毎 回の授業 において学生が理解できているか、興味 を示 しているかなど、その反応を確認することも 求め られる。

3には外国語科 目(N=227)を対象 とした重 回帰分析の結果 を示 した。 これよ り外国語科 目に おいても重要度が0。8を超える項 目は「主題・テー マの明確さ」を除いて、ほぼ同じである。

外国語科目における各項 目の重要度

0.050   0.700   0,750   0.800   0.850   0.900   0.950

※図2、 3と もに重要度を示すに当たっては単相関係数を用いた。

以上、重回帰分析の結果か ら、授業 を進めるに あたつて十分 に注意 を払 う必要がある重要な項 目 が明 らかにされたが、講義科 日、外国語科 目のい ずれ にお いて も最優 先すべ き事項 が THow tO Teach"ではな く what tO Teach"に関するもの であつた ことを看過 してはな らない。 このことは 学生が大学の授業を通 じて、その分野 に対する関 心が深 まること、新 しい知識や考え方、技術 を身 につけることを願つているということを意味する。

したがって授業を構築するにあたっては:当然の ことであるとはいえ、教授技術以前に教えるべき 内容の精選に心 を配 り、その内容 に即 した教材を 選び、もしくは作成することが肝要である。

とはいえ、授業内容の厳選、よ りよい教材の選 定・作成を心がけるだけで「新 しい知識や考え方、

技術」を学生が身につけられるとは限 らない。学

生が授業内容 に関心 を持つ ことを目指すのか、学 生が理解することを重視するのか、あるいは学生 に考えさせることをね らいとするのかは教員によ つて異なる。 しか し、教員のね らいや 目的が学生 に伝わ らなければ教育の効果は望めない。授業内 容 もさることなが ら、教員のそのような願いが学 生に伝わるようにするためには、教員 と学生との

「相互行為」が不可欠である (溝上、2002)。 学生 との相互行為は授業中に限 られるものではないが、

授業後に質問をしにくる学生を待ち、その質問に 応えるといった明示的な行為だけが 「相互行為」

なのではない。授業中に学生の表情や姿勢か らそ の時の学生の気持ちを汲み取 り、必要に応 じてそ れ に答えた り、あるいは引き出した り、望ましい 方向へ と導いた りすることも「相互行為」である。

設問7で尋ね られている「学生の反応 を確かめな が ら授業をする」 とはそ ういうことである。

この項 目の重要度が比較的高いということは、

すなわち、学生が授業内容 を理解 しているか どう かを教員 に把握 してほしいと願つていることであ り、教員のね らいを自らが正 しく把握 しているか どうかも確認 してほしいと思っているということ である。黒板や教科書、あるいはスライ ドが映し 出されるスクリーンばか りを見て、学生の顔や 日、

表情を見 ることがなければそれを知ることはでき ない10。

5‑2  総合的教育力の高い授業を参考 にする 次に講義科 目を対象に主成分分析をお こなう。

主成分分析 とは、変数群の情報をできるだけ多 く 説明する成分 を大きい方か ら順に取 り出そうとす る統計手法である。同時に、分析対象 となった授 業科 目を一元的な指標ではな く、複数の指標で捉 えることもできる。今回、 この分析をお こなった のは、総合的な教育力の高い授業科 目を発見する

‑21‑―

(8)

ための一つの方法を例示するためである。

授業アンケー トの設問1から13を 対象に行った 主成分分析の結果、得 られた2つの主成分の変量 プロットを図4に示す1つ

講義科 目における主成分変量プロッ ト

│・20

時 間

主成分2

講義科 目における第1主成分の固有ベク トル

主日・ テ ーマ の 明示 シラバ ス との晏 合 性 新 しい知 口 等 の修 得 薇 材 の使 い方 授 諄 の 遭魔 学 生の 反 応 薔 ロ 侵 菫 内容 の饉 易 魔 質 問 や 相隣 への 対 応 声 の 日 ●取 りや す さ 糧 ● 等の 見 や す き 学 生 に公 平 に捜 す る 敏 童の 秩 序保 持 開 始腱 了時 刻

このうち第1主成分は各変量 ともプラスに評価 されていることがわかる (図 5)。 つまり第1主 分は 「総合評価」の視点を提供 していると考えて よい。 したがって、以後は これを「総合教育力」

と表現することにする。

他方、第2主成分に関しては、「開始・ 終了時刻 の遵守」 と「学生の反応の確認」が対極の位置に ある (図 6)。 このことか ら第2主成分は「形式性」

を評価 している視点を与えていると考え られる。

この第2主成分 に関 して負の固有ベク トルを持つ

項 目に注 目すれば、「学生の反応の確認」の他 に、

「声の聞き取 りやす さ」や 「質問や相談に応 じる 姿勢」の絶対値が大きいことがわかる (併せて図 6も参照)。 これ らの項 目は学生とのコミュニケー ションに必要なファクターを示唆 していると考え られる。つま り原点軸よ り左側に大きく離れて位 置する項 目は、先ほどの「形式性」に対 して、「相 互行為に関す る柔軟性」を示す ものと考えること

もできる。

この二種類の主成分をもとに得点の分布図を作 成 して、総合教育力の高低や、授業時における学 生への働きかけの強弱などを見ることにする。 し か し762科目すべてをプロットすると図が煩雑に なるので、以下、すべての図において同じスケー ルを用いなが ら、主 として学部な どの区分別 にそ の様子を見ていく19J。

講義科目における第2主成分の固有ベク トル

日 綸姜 了時 目 学 生 に公 平 に螢 す る     観■ のEE

シ ラバ ス との 整合 性 主 ■・ テ ーマ の 明示 攪 彙 内害 の 日,魔

颯材 の 使 い方 曖童 の 秩 序 保 持 楓 書 等 の 見 や す さ 新 しい知 ■ 等 の修 得

■日や相腋への対応 声の日●取 りやすさ 学生の反応菫目

主成分得点の分布図 (共通科 日)

﹁ ¨﹃二

︲忙

﹁ 一︲¨

一卜

¨工 判 難

◆文化と社会 ◇ 自然と科学 0総合科目 △情報系科 目

‑22‑―

(9)

7は共通科 目における主成分得点の分布図で ある。第2主成分の符号が正である科 目よ りも、

負である科 目の方が総合教育力にばらつきがみ ら れるものの、おおよその傾向としては緩やかな左 上が り、つまり、学生とのコミュニケーションに 留意 している科 目 (柔軟性の高い科 日)の方が総 合的教育力を高 く評価 されていることが読み とれ る。ちなみに第2主成分の符号別に第1主成分(総 合教育力)の平均値 を求めると、第2主成分が負

である科 日では平均値が0。1605(N=42)、 正の場 合は一o。4369(N=75)で、両者の間にo.6ポ ン トもの開きがある (表3)。 総合的教育力め高い 科 目の授業を自らの授業作 りのための参考 にする 場合 には、少な くともその科 目が学生 とのコミュ ニケーションに留意 しているものか、それ以外の ことを重視 しているものなのかを踏まえてお く必 要がある。

2主成分の符号別総合教育力の平均値

  形式性志向 柔軟性志向

講義科 目全体

‑0.0263 0.0333

386 426

共通科 目

‑0。4369 0.1605 42

農学部 0.1346 0.6993

情報学部・研究科 0.2496 0.7945 40

教育学部 1.2988 1.4676

人文学部 0.5801 0.4094

工学部

‑0.5210 ‑0.6058

理学部

‑0.85881 24 1

‑0.7696

34

専門(基)

‑1.9583 ‑1.7341

34 42

※表中、各区分とも上段が総合教育力の平均値、下段が科 目数

3には第2主成分の符号別に求めた第1主 分の平均値を学部な どの区分別に示 した。 この平 均値 には重要な意味はないが、便宜的な 目安 とし て算出した。 これよ り農学部、情報学部 (情報学 研究科を含む)においては、共通科 目と同様 に学 生とのコミュニケーションに留意 している科 目の 総合教育力が、時間厳守な どの形式的な項 目に留 意 している科 目に比べてかな り高 くなっているこ

とがわかる。また、いずれの学部においても第1 主成分の平均値は0を上回っているので、総 じて 教育力が高いといえる (図8、 9も参照)。

主成分得点の分布図 (農学部)

――――│―――‑1‑.)――卜°131

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主成分得点の分布図 (情報学部・研究科)

形式性

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1

▲情報学部 ▲情報学研究科

学部全体 として最 も総合的教育力の高いのが教 育学部である。教育学部においても学生との相互

‑23‑―

(10)

行為 に留意 している授業科 日の方が基本的なルー ルを尊重 している授業科 目に比べて総合的教育力 の平均値が若千高 くなっているが、後者 における 総合的教育力もかな り高いと判断 してよい。つま り教育学部においてはいずれのパター ンの授業に おいても、多 くの教員が工夫や努力を積み重ねて いると考えられる (図 10)。

10 主成分得点の分布図 (教育学部)

レ吾EL―

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人文学部において も授業パターン の別 による総 合的教育力の差は、平均値で見る限 りさほど大き くないが、主成分得点の分布図か らは左上が りの 傾向を読みとることができる (図 11)。

図 ‖ 主成分得点の分布図 (人文学部)

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柔軟性        形式佳

工学部の専門科 日では、第2主成分の符号の違 いによる総合教育力の差異は平均値の上ではほと

んど見 られないが、グラフか らは学生との相互行 為 を心がけていても、それが総合的な授業力に反 映されていない傾向が僅かに見 られることがわか (図 12)。

12 主成分得点の分布図 (工学部)

柔軟性

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理学部 も人文学部 と同様に、平均値には授業特 性 による総合的教育力の差は現れず、またグラフ を見ても全体 にフラッ トな分布 になっていること がわかる (図 13)。

13 主成分得点の分布図 (理学部)

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カー3●

彙軟性

専門 (基)科目は、前掲の表3に示 したよう に、学生 との相互行為 を重視する科 日、時間厳守 な どに心がけている科 目の別 を問わず、科 目全体 として見た場合、その他の学部専門科 目に比べる と総合的教育力が低 く評価 されている。また、学

‑24‑―

(11)

生とのコミュニケーションを図つていて も、それ が総合的教育力にほとんど反映されていない。学 生の基礎学力、あるいは高等学校 における学習履 歴 を勘案することも必要であるが、基礎学力と学 生による総合評価 との間にはほとんど相関がない という報告 もされている (安岡他、1996)。 そのこ とを踏まえた上で、専門 (基)科目においては、

学生 との相互行為を図ることが必要なのか否か、

必要な らばどのように相互行為を構築することが 望まれるのか、それぞれの科 目の特性 に鑑みなが ら、総合教育力の高い他学部の専門科 目の授業を 参考 に授業構築 を考えることが必要であるか もし れない。

14 主成分得点の分布図 (専[基D

0・0 ‑20 警‐4.0 ̲0.

彙軟性

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静式性

ここまで主成分分析の結果に基づき、「総合的教 育力」について簡単な描写をしてきた。 しか し、

以上の事柄は実際の授業を観察 した結果ではな く、

あくまで数値の解釈 にしたがったものである。ま た、分析 に用いたのは各項 目の平均値であり、そ れぞれの項 目における評価値の度数分布は考慮 し ていない。 したがって個別の授業の実態にそ ぐわ ない側面 もあるにちがいない。 とはいえ、おそ ら く「よい授業」はどのような指標を用いても総合 的教育力が高 く評価 されるだろうか ら、それぞれ の科 目分野あるいは学部において総合的な教育力

の高い授業科 目を参考にす ることには意味がある と考えてよいだろう18J。 場合によっては、専門分 野や学部の別 を問わずに異分野の授業科 目を観察 することも参考になるだろう。

5‑3  個々の教員の授業カルテを作成する 現時点では、総合的教育力の高い授業科 目の観 察 に基づいた分析の蓄積がないため、以上に述べ てきたこと一総合的教育力の高い授業を参考 にす ること―は提案である。 したがって、 これまでの 分析は総合的教育力の高い授業科 目を見つけ出す ための作業の一つとして位置づけている。

ここでは、さらにもう一つの提案をしたい。そ れは得 られた授業アンケー トの結果 に基づいて、

個々の教員の授業カルテを作成することである20p.

その作成に当たっては「Cs分析」(顧客満足度、

Customer Satisfaction)分 析の手法を用いる。

以下に、CS分析に必要な作業を簡単に述べる。

まず、この分析に必要なのは、総合評価 と各評価 項 目との単相関係数 と、それぞれの評価項 目にお ける満足率の二種類である。ここにいう「満足率」

とは「良い」 という評価の占める比率である。今 回の授業アンケー トに関 しては9段階尺度のうち

7以上をマークした度数の比率がそれに該当する。

そ して単相関係数を「重要度」、満足率を「満足度」

と名付け、それぞれの偏差値を求めた上で、y軸

に満足度、x軸に重要度をとって、各項 目の得点 をプロッ トする。 このプロッ ト図に表示される下 限値・上限値はx軸y軸ともに (20,80)で ある。

この図における原点か ら各プロッ トの位置までの 距離を測定 し、原点 と点 (80,20)を 結ぶ直線 と各 プロッ ト位置を通る直線 との角度 を求める。次に 修正指数 (r)を[r=(90‑角)/901の式に基 づいて求め、先に求めた距離 と修正指数 (r)を

乗 じて 「要改善度」を求める。 この値の大きい項

‑25‑―

(12)

目の改善を目指すのである。なお、この値が負で ある項 目は改善不要と判断 してよい。

授業カルテには、上の作業によって得 られた重 要度な らびに満足度の偏差値のプロッ ト図と、評 価項 目ごとの満足率な らびに相関係数、そ して要 改善度を示 した表を掲載する。図15にその例を示 す。

15 授業カメレテの例 (1)

50.0

05 1

0。0  0021◆ 01

‑―― ― ― ― ― ― ― ― ― ―‑OmV

002  1  ° 00

010    1◆07

菫甕慶偏羞値

段 問 評 価 項 目 満 足率 相 関係 数 要改善度 備 考

07 09 06 011 010 013 02 01 04 03 012 08 05

学生の反応の確認

学生の質問や相談に応じる姿勢 授業進度の適切さ

"パス等の内容の反映

教室の雰囲気・秩序保全 新しい知識や考え方が身に付く 板書等の見やすさ

声の聞き取りやすさ 主題・テーマの明確性 教材の使い方 授案内容の難易度 学生への公平性 授業の開始・終了時刻の連守

23.8 39,7 730 ̲5 25.4 03.5 38.1 55.6 77.0 71.4 65,1 03.5 810

0.5005 Q5404 Q6959 Q6290 03702 05303 Q3874 0.4020 Q5654 Q5074 Q4375 Q3157 0.4224

9.67 9.13 5.20 4.76 246 019 Qll

91

‑1.76

‑291

‑6.40

‑1005

‑11.65

※ :改 善を要する項 目、△ :そ の次に改善が必要 と思われる項 目、

○ :改 善の必要のない項 目

上の例では、 この科 目を担当する教員の声は聞 き取 りやす く、主題やテーマも明確 に示 され、教 材の使い方 も適切であ り、授業内容の難易度 も考 慮 されてお り、受講生には公平に接 しているし、

授業の開始な らびに終了時刻 も守 られている、と いうことが分かる。 これ らの項 目については今後 も同じ姿勢を保てばよい。 これに対 して改善すべ

きは 「学生の反応 を確認す る こと」 と「学生の相 談や質問 に応 じる姿勢 を持つ こと」で ある。 とい うように、13の広 きに亘る項 目の中で、特 に何 に 注意 をすれ ばよいかが分かるのが、 この手法の利 点である。

:6 授業カルテの例 (2)

EI魔饉羞億

殷 問 評価 項 目 満 足率 相関係数 要改善度 備 考

01 012' 02 08 013 03 05 Q7 04 09 010 01 00

シラ′`ス等の内容の反映 授案内容の難易度 板書等の見やすさ 学生への公平性

新しい知識や考え方が身に付く 教材の使い方

授業の開始・終了時刻の連守 学生の反応の確認 主題・テーマの明確性 学生の質問や相談に応じる姿勢 教室の雰囲気・秩序保全 声の聞き取りやすさ 授業進度の適切さ

̲2 81.8 66.1 81.0 80.3 74.4 802 86.3 81.3 86.0 91.7 93.4 86.3

0 28 0J014 0.1721

¨

¨

¨

¨¨

¨

11.42

8.45 6.20 3.29 2.04 0.89

‑0.04

‑0.18

.02

‑3.55

‑5.83

‑9"

‑13.09

※ :改善を要する項目、△ :そ の次に改善が必要と思われる項目、

○ :改 善の必要のない項目

また、図16のように、多 くの項 目において満足 度が高い科 目であつても改善すべき箇所があるこ とを教えて くれるのも、この手法の利点である。

以上、我が国における 「授業評価」を概観 した 上で、静岡大学で実施された授業アンケー トの結 果 を授業改善につなげるための方法をいくつか提 案 した。

今後は、重回帰分析の結果 をもとに質問項 目の

‑26‑―

図 7は 共通科 目における主成分得点の分布図で ある。第 2主 成分の符号が正である科 目よ りも、 負である科 目の方が総合教育力にばらつきがみ ら れるものの、おおよその傾向としては緩やかな左 上が り、つまり、学生とのコミュニケーションに 留意 している科 目 (柔 軟性の高い科 日 )の 方が総 合的教育力を高 く評価 されていることが読み とれ る。ちなみに第 2主 成分の符号別に第 1主 成分 (総 合教育力 )の 平均値 を求めると、第 2主 成分が負 である科 日では平均値が 0。 160

参照

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