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中学校における世界遺産の指導の実践と生徒の認知

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中学校における世界遺産の指導の実践と生徒の認知

著者 神野 浩, 淡野 明彦

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 18

ページ 17‑22

発行年 2009‑03‑31

その他のタイトル Practice of studying and the student's

recognition of World Heritage in junior high school

URL http://hdl.handle.net/10105/1016

(2)

1.研究の課題と目的

 世界遺産への関心が高まり、国内の多くの地方自治 体が世界遺産への登録に積極的に動いており、また一 般客を相手に国内外の世界遺産の見学を特色にした旅 行商品が多く販売されている状況がみられる。しかし ながら、「富士山」の世界遺産への登録をめざす議論 の過程の実例にみられるように1)、世界遺産の登録の 本来的な意義についての理解は十分に浸透していると はいえず、観光客の急激な増加により世界遺産そのも のの存在に悪影響が生じている事態も報じられてい る2)

 淡野(2006、2007)は、世界遺産は単に観光対象と して矮小化されることなく、地球規模での環境の保護・

保全へ人々が知恵と努力を結集させる具体的表象であ るという認識が必要であるとして指摘し、このために は人々への一層の啓発教育が必要であり、ことに学校 における体系化された教育が重要であると考え、小学

校および中学校の社会科学習における世界遺産の教材 化を図った。

 本稿は上記の研究をさらに実践的なものとするため に、実際に学校現場で取り組まれている世界遺産につ いての指導の実践の方法を考察し、学習した生徒の世 界遺産についての認知の実態を明らかにすることを目 的とした。調査結果の省察において補論的に生徒の世 界遺産への認識を高める効果的な学習方法の改善につ いても考察した。なお、本稿は淡野が研究の企画の立 案を担い、神野が学校現場での実践と生徒への調査を 担い、調査結果の検討は両者で議論をした。

2.指導の実践の方法の考察

1.社会科学習における教材としての世界遺産の組み   込み

 神野が勤務する学校(以下、「本校」とする)は中 学校・高等学校併設の6ヵ年一貫教育を標榜している

中学校における世界遺産の指導の実践と生徒の認知

神野 浩

(大阪明星学園明星中・高等学校)

淡野明彦

(奈良教育大学社会科教育講座(地理学))

Practice of studying and the student's recognition of World Heritage in junior high school 

Hiroshi JINNO

(Osaka Meisei Junior&Senior High School)

Akihiko TANNO

(Department of Geography Nara University of Education)

要旨:世界遺産への関心が高まっているなかで、世界遺産への正しい理解が求められており、そのための手段として 学校教育での学習が重要である。中学校社会科地理的分野の学習における指導の実践の方法について考察した。筆者 の勤務する学校の教育方針および教育方法、学習指導要領との関連を考慮して、日本の世界遺産について授業で取り 扱う実践の方法を示した。その結果として、生徒が世界遺産の存在にどの程度の認知ができたのかについて調査した。

調査の結果をみれば、学習した内容は定着度が低いことがわかった。学習効果を維持するには何らかの反復する学習 が必要であることがわかった。ただ、生徒の学校以外の場所での学習の機会が(旅行、テレビ、インターネット等)、 世界遺産への認知を助長していることが捉えられ、学校での学習と生徒自らの学習の機会との体系的な指導の必要性 が求められることがわかった。

キーワード:中学校 Junior High School、社会科 Social Studies 、世界遺産 World Heritage、

      授業実践 Practice of Studying、認知 Recognition 

(3)

カトリック系ミッションスクールである。このうち、

中学校では第1学年および第2学年で地理的分野と歴 史的分野の学習を終了させ、第3学年で公民的分野を 履修する、いわゆる「パイ型」の形式を採用している。

時間割編成上も各3分野はそれぞれ独立したものとし て扱い、地理的分野については、現行、各学年週当た り2単位ずつの配当をしている。

 シラバスについても、6ヵ年一貫教育の特徴を生か す観点から、中学は、高校学習の準備段階と位置づけ て、発展的な学習項目を加味したものになっている。そ のため教科書の編成にとらわれることなく、学習順序 を適宜入れ替え、学習内容を増やして授業展開をして いる。

 例えば、第1学年では日本地理を、第2学年では世 界地理を、それぞれ学習の軸と定めて、シラバスを決 定している。これは、中学校入学試験の社会科地理的 分野では日本地理を主な出題範囲としており、これに 向けて学習してきた生徒にとっては、日本地理から学 習を開始したほうがスムーズに学習を進めていくこと ができると考えているからである。そのため,本校に おける学習の順序は,学習指導要領の項目の配列の順 序とは多少異なっている。

 また、学習指導要領でいう「内容の取り扱い」に関 しても「二つ又は三つの国」ないしは「二つ又は三つ の都道府県」を事例に挙げて学習するという学習指導 要領で明示された方法を本校では採っていない。これ も、発展的な学習項目を付加するための具体策の1つ である。事例学習について具体的に示すと、まず、第 1学年の日本地理では日本を九州,中国・四国、近畿、

中部、関東、東北、北海道の地方に分けて単元化し、

各単元においてすべての都道府県を扱う。次に第2学 年の世界地理では世界を東アジア、東南アジア、南ア ジア、西アジア、アフリカ、ヨーロッパ、ユーラシア 北部(ロシアとその周辺諸国)、アングロアメリカ、

ラテンアメリカ、オセアニア、両極の地域に分けて単 元化し、各単元においておよそすべての国を扱うよう にしている。

 以上のように設定した本校の地理教育の教育課程に おいて世界遺産を取り扱うのは、第1学年での都道府 県の事例学習、第2学年での世界の国々の事例学習に おいてである。しかし、日本以外の世界遺産を数多く 取り上げることは、実際上難しく、日本の近隣である 東アジア諸国にあるもの(例:万里の長城、ポタラ宮 殿など)と、本校のスクールアイデンティティーにも 関わる宗教教育とリンクさせたもの(例:バチカン、

アウシュビッツなど)、そして第2学年の12月上旬に実 施する海外研修旅行(オーストラリア)とリンクさせ たもの(例:グレートバリアリーフ、エアーズロック、

オペラハウスなど)あたりが扱えればよいと考えてい る程度で、それぞれ歴史的・文化的背景の紹介や自然

地理学的な成因紹介を行うことができれば、なお良い という程度に考えているに過ぎない。

 しかし、日本の世界遺産に関しては、できる限り取 り上げるようにしており、どれを取り上げるかについ ては、担当教員の裁量に任せている。つまり、世界遺 産については発展的な学習項目として扱っているのが 現状である。取り上げ方も、観光地のひとつとして紹 介する場合や、京都・奈良については、登録されてい るのはどの寺院であるかを調べさせるといった方法を とったりもしている。

 今回の調査の対象とした第2学年の生徒は、第1学 年では神野が授業を担当していない。そこで、第1学 年で地理的分野を担当した教員に世界遺産をどのよう に扱ったのかを確認したところ、全ての世界遺産を取 り扱ったのではなく、事例学習の中で出てきた観光地 で世界遺産に登録されているものがあれば紹介する、

という方法をとったことがわかった。扱ったものは全 体のおよそ8割程度であったという。

 担当教員のいかんを問わず、いずれの場合も、日本 の地方ごとの単元の中で取り扱うだけである。したがっ て世界遺産をひとつの単元として扱って、日本の世界 遺産をまとめて整理するという授業展開はしていない。

 神野は最近では2年前に第1学年の地理的分野の授 業を担当している。このときの授業方針では、世界遺 産については全てを授業で取り扱おうとした。この際、

いずれも登録の順番(年次)についてはあまり強調す ることはなく、「登録基準」を意識して、地図帳・資 料集などに掲載されている写真を使用して紹介してい る。ただし地理的分野の授業で扱う際には文化遺産よ りも自然遺産に関しての説明が手厚くなり、文化遺産 についても民俗学的説明に言及することがあっても、

歴史的説明については歴史的分野で学習した、ないし は学習することを確認する程度で、踏み込んだ説明が できていないのが実情である。

2. 学習指導要領と「世界遺産」の扱いについて  先述の通り本校では世界遺産を事例学習の中に組み 込んでいるが、中学校社会科において世界遺産をどの ように取り扱うかを、学習指導要領の記述に照らし合 わせて考えてみたい3)

 学習指導要領に世界遺産の言葉は出てこないし、直 接的には表現されていないことは周知の通りである。し かし、ここでは世界遺産をどの段階で、どのように取 り扱うことが可能であるかを探ることにする。

 その前提として、まず、中学校社会科において世界 遺産を取り扱うことが可能であることを説明しておく 必要がある。中学校学習指導要領の「第2節.社会」

の「第1.目標」に、その論拠を求めるとすれば、①

「広い視野に立って、社会に対する関心を高め」の箇 所と、②「我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を

(4)

深め」の箇所が相当する。

 ①の記述は、社会的事象のうちから世界遺産に焦点 を当て、これに対する興味・関心を機会にして、社会 全体への関心を高めるという手段で、教科目標の達成 が可能であることを示している。また、②の記述は、

世界遺産のうちの自然遺産が我が国の国土に対する理 解に、文化遺産が我が国の歴史に対する理解につなげ ることができる、と考える。

 以上は日本にある世界遺産の取り扱いの論拠となる が、諸外国にある世界遺産の取り扱いについては言及 できていない。これについては、学習指導要領では、

中学校では我が国の国土の認識に重点を置いているの に対して、現代世界の地理的認識に重点を置いている のは高等学校の地理Aや地理Bである。この点を考慮 すれば、中学校段階で諸外国の世界遺産を取り扱うこ とは時期尚早であると考えてよい。

 それでは、世界遺産の取り扱いについて検討する。

「第2.各分野の目標及び内容」の「地理的分野の目標」

の(2)には「地域の規模に応じて環境条件や人間の 営みなどと関連付けて考察し、地域的特徴や地域の課 題を捉えさせる」とある。これは世界遺産を単に地域 の産物とだけ捉え、その紹介に終始してはならない論 拠とできる。世の中では世界遺産すなわち観光資源と いう図式が成り立っていることも事実であるが、社会 科教育においては、この短絡的な図式だけで説明する ことは間違いであるし、逆にこのような短絡的な図式 を否定し、本来の世界遺産の意義を考察させることが できるようにすることも社会科教育に課せられた使命 の一つである。世界遺産の多くは単なる史跡・遺跡と して保護の対象になっているだけでなく、そこには人 間生活が存在し世界遺産には自然的及び社会的条件が 加味されたものであることを認識させることが大切で ある。

 そこで世界遺産の具体的な取り扱い方を検討するの に、筆者が適切な基準であると判断したのが、「世界 遺産の登録基準」である。これは2005年2月2日にそ れまでの基準を改めた新しい基準で、10項目からなる。

これらの10項目のうち、〜の6項目が文化遺産の 登録基準に、〜の4項目が自然遺産の登録基準で ある。この10項目を次のようにキーワードにしてまと めてみた。

)人類にとっての傑作 )文化への影響を示したもの )文化の特徴を示す稀な証拠 )歴史を例証する技術や景観の例 )人類と環境との相互作用の例 )現在に伝わる文化との直接的関連 )自然美を含むもの

)地球の歴史を示す顕著な例 )生態系の成り立ちを示す顕著な例

)生物多様性の保全に必要な環境

 日本の各々の世界遺産を中学校社会科で取り扱う際 には当然のことながら、それらの特徴を説明する必要 があり、その特徴を端的に示すには登録基準のどれを 満たしたかに意識を注ぐ必要がある。そこで、登録基 準10項目が学習指導要領上のどの箇所に照合できるか を検討し、あわせて、現在日本で登録されているそれ ぞれの世界遺産が、認定される根拠となった登録基準 と参照して、扱える世界遺産がどれに当たるのか明示 していく。

 まず、「第2.各分野の目標及び内容」の「地理的 分 野 の 内 容」の「(2)日 本 の 様々 な 地 域」の 項 目

「イ.世界と比べた日本の地域的特徴」に規定された 細目「(ア)自然環境」には「国内の地形や気候の特 色」を取り上げて「日本の自然環境に関する特色を大 観させる」とある。ここでは、あくまでも大観である ので世界遺産について細かなことを取り扱うことはで きないが、世界遺産の登録基準とについては、概 略として扱うことが可能であると判断した。

 次に、同項目「ウ.日本の諸地域」では、地域的特 色を捉えさせるための考察の仕方が列記されている。こ の中に世界遺産を取り扱うことのできる具体的な根拠 が散見できる。

 「(ア)自然環境を中核とした考察」の項では「自然 環境が地域の人々の生活や産業などと深い関係を持っ ていること…(中略)…などについて考える」とある。

これは登録基準のに相当する。これに該当する世界 遺産は白川郷・五箇山の合掌造り集落、および石見銀 山になる。

 「(イ)歴史的背景を中核とした考察」は旧来の学習 指導要領の地理的分野の内容にはなかった項目である が、この項目によって、世界遺産を取り扱うことがか なりできるようになったといっても良いであろう。こ の項の記述には「地域の産業、文化の歴史的背景や開 発の歴史に関する特色ある事柄を中核として、それを 国内外の他地域との結び付きや自然環境などと関連付 け、地域の地理的事象の形成や特色に歴史的背景がか かわっていることなどについて考える」とある。これ は世界遺産の登録基準〜に相当する。これに該当 する世界遺産は日光の寺社、白川郷・五箇山の合掌造 り集落、法隆寺地域の仏教建造物、姫路城、古都京都 の文化財、古都奈良の文化財、紀伊山地の霊場と参詣 道、原爆ドーム、厳島神社、石見銀山、および琉球王 国のグスク及び関連遺跡群になる。

 「(ウ)産業を中核とした考察」では「地域の農業や 工業などの産業に関する特色ある事象を中核として、

それを成立させている地理的諸条件と関連付け、地域 に果たす産業の役割やその動向は他の事象との関連で 変化するものであることなどについて考える」とある。

これは登録基準に相当し、とくに歴史の流れによっ

(5)

てその存続が危うくなっている世界遺産について取り 扱うことのできる根拠となる。

 「(エ)環境問題や環境保全を中核とした考察」では、

「地域の環境問題や環境保全の取組を中核として、そ れを産業や地域開発の動向、人々の生活などと関連付 け、持続可能な社会の構築のためには地域における環 境保全の取組が大切であることなどについて考える」

とある。これは登録基準〜に相当する。これに該 当する世界遺産は知床、白神山地、および屋久島にな る。

 「(オ)人口や都市・村落を中核とした考察」では直 接的に世界遺産と関連する内容の記述はないが、「村落 の立地や機能に関する特色ある事象を中核として、…

(中略)…、過疎・過密問題の解決が地域の課題となっ ていることなどについて考える」とあるので、登録基 準における存続が危うくなっている伝統的集落につ いてかかわりがあるとも考えられる。

 「(カ)生活・文化を中核とした考察」においては、

「地域の伝統的な生活・文化に関する特色ある事象を 中核として、それを自然環境や歴史的背景、他地域と の交流などと関連付け、近年の都市化や国際化によっ て地域の伝統的な生活・文化が変容していることなど について考える」とある。これは登録基準〜に相 当する。

 以上の点から、旧来の学習指導要領では、地理的分 野の学習で取り扱う根拠に乏しかった文化遺産に対し ても根拠が与えられていることがわかる。大胆にいえ ば世界遺産を軸にして社会科地理的分野の授業展開は 可能であるといえよう。

 しかし、注意が必要なのは学習指導要領の「地理的 分野の内容の取り扱い」の「ウ.日本の諸地域」で示 されている(ア)〜(キ)の考察の仕方については

「学習する地域ごとに一つ選択」して「ウの学習全体 を通してすべて取り扱うこと」としている点である。

つまり、個々の「世界遺産」について扱える根拠はあ るものの、すべての世界遺産をまとめて扱うことは、

学習指導要領では規定されていない、いわゆる「発展 的な学習」として扱わざるを得ないと判断できるとい うことになる。したがって、学習指導要領を文面どお り解釈すれば、授業者は、指導に当たって世界遺産を 扱うのに適当であると判断できる一地域を選び、その 中で世界遺産の一例をあげ、これ以外の世界遺産につ いて考察できる手法を学び取らせる、という方法をと ることになる。

 最後に、付記しておきたい点として、学習指導要領 の「地理的分野の内容」に規定されている「エ.身近 な地域の調査」を世界遺産を取り扱う根拠にすること が大いに考えられることがある。これは学校所在地に 依拠する点が多く、世界遺産が日本において散在して いることを考えると、地域調査の項目で扱える学校に

は数に限りがあり、一般的な手法とは言いがたい。し かし、学校所在地の近辺に「世界遺産」がある、ない しは所在地そのものが「世界遺産」であるような恵ま れた環境に授業者がいる場合は、大いに活用すべきで ある。

3.授業での世界遺産の学習の展開

 以上の見解にそって、神野が行った授業の実践につ いて展開の順に即して具体的に示すと、次のようにな る。

 ①「屋久島」

 九州地方の事例学習で扱う。亜熱帯気候下にあって 年降水量が多いこと、縄文杉に代表される巨大な屋久 杉が見られることを中心に説明する。

 ②「琉球王国のグスクおよび関連遺跡群」

 九州地方の事例学習で扱う。沖縄特有の文化(衣食 住)や沖縄の観光開発と関連して説明する。

 ③「原爆ドーム」

 中国・四国地方の事例学習で扱う。地方中枢都市で ある広島市の歴史と関連して説明する。

 ④「厳島神社」

 中国・四国地方の事例学習で扱う。広島県の観光、

瀬戸内海国立公園と関連して説明する。

 ⑤「石見銀山遺跡とその文化的景観」

 中国・四国地方の事例学習で扱う。過疎・村おこ し・たたら製鉄などの学習項目と絡めて、最近登録さ れた世界遺産であることを説明する。

 ⑥「古都京都の文化財」

 ⑦「古都奈良の文化財」

 ⑧「法隆寺地域の仏教建造物」

 ⑨「姫路城」

 近畿地方の事例学習で扱う。文化遺産の保存と開発 との協調、古都保存法、伝統文化、伝統工芸、国際観 光都市などと関連して説明する。

 ⑩「紀伊山地の霊場と参詣道」

 近畿地方の事例学習で扱う。和歌山県の自然保護の 項目で、天神崎のナショナルトラスト運動と並列して 説明する。

 ⑪「白川郷・五箇山の合掌造り集落」

 中部地方の事例学習で扱う。白川郷に関しては第1 学年の夏期休暇中に実施する林間学校が飛騨地方で行 われるので、これと関連付けるとともに、合掌造りの 建築構造、観光開発と地域住民の生活の協調などを中 心に説明する。

 ⑫「日光の寺社」

 関東地方の事例学習で扱う。栃木県の自然環境(火 山・湖沼や滝)と観光に関連させて説明する。

 ⑬「白神山地」

 東北地方の事例学習で扱う。秋田県の自然環境や林

(6)

業と関連して説明する。

 ⑭「知床」

 北海道地方の事例学習で扱う。北海道の自然環境

(火山・温泉・気候など)と関連して説明するが、併 設高等学校第2学年で実施する研修旅行が道東地区で あり、知床に訪れることにも触れる。

 以上の方法で世界遺産の学習を実践した。

4.生徒の世界遺産の認知

 学習の結果として、生徒の世界遺産についての認識 をみるために、第2学年の5クラスの生徒(総数227 名)を対象としてアンケート調査を実施した。調査の 内容は、生徒の発達段階および世界遺産について学習 した時間の少なさを考慮して、込み入った設問を避け、

単純なものとした。

 日本の世界遺産の認知の度合いをみるために、世界 遺産として登録されている物件の数を答えさせ、つぎ に生徒が知っている世界遺産の物件名を列挙させた。

表1、表2に示した結果をみると、日本で登録されて いる世界遺産の総数の回答が一様ではなく、誤回答の ものが多かった。調査を実施した2008年11月の時点で、

日本の世界遺産への登録物件数は14件であるのに「15 以上」と答えたものが66名もあり、調査サンプル数の 約1/4にもおよんでいた(表1)。これは「古都奈良の

文化財」にみられるように一つの物件にいくつかの社 寺等が包括されているにもかかわらず、社寺等を単独 の世界遺産とみなしていることによるものと考えられ る。世界遺産の多くはいくつかの建物等を総称して面 的に登録されているケースが多く、この点について留

意して指導しなければならないことを改めて気づいた。

 さらに具体的な物件名の認知(表2)については低 率で、最も高いものでも「古都京都の文化財」が80名 に留まっている。地域的な傾向として本校の所在する 大阪近辺から距離的に遠ざかるにつれて物件名の認知 は低くなっているのは当然といえるものの、「白神山 地」、「日光の社寺」、「屋久島」および「琉球王国のグ スク及び関連遺産群」においては一桁という驚く数で あった。第1学年で履修した世界遺産に関する知識が 第2学年になって十分定着した状態を維持していると は言いがたい結果が出た。これは、第1学年が終了し てしばらくたってからの調査であったことが最も大き な要因であると考えられ、生徒自身が各地域で学習し たそれぞれの世界遺産を、個別の地理用語、端的に言 えば暗記事項としか捉えていなかったという裏づけに なってしまっていると感じた。このような事態はこと に世界遺産の学習に限ったものではあると理解しがた いが、事例学習が終了した後に再び世界遺産に関する 単元を設定する必要性も感じた。

 興味深い結果として、物件名を挙げることができた 生徒の数と、それらの世界遺産を訪れた経験のある生 徒数の関連が極めて高く、学習の効果と実際に訪れた 経験とが相加的に作用していると推測できる。また、

生徒は観光地を主体に世界遺産を学習したこともあっ て、文化遺産についての認識のほうが高いという結果 が得られた。

 つぎに学校での学習以外の面で世界遺産とのかかわ 生徒数

日本での登録数

26 1 0 17 3 8 13 10 7 12 10 11 15 20 8 66 0

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14     15以上

表1 世界遺産の登録数の認知

サンプル数 227人

訪問したことがある 知っている

登録年 登録遺産の名称

10 11 80 57 67 13 53 73 39 11(4.9)

3(1.3)

5(2.2)

11(14.9)

80(35.2)

57(25.1)

67(29.5)

13(5.7)

53(23.4)

73(32.2)

39(17.2)

11(4.9)

1(0.4)

8(3.5)

2005 1993 1999 1995 1994 1998 1993 2004 1993 1996 1996 2007 1993 2000 知床

白神山地 日光の社寺

白川郷・五箇山の合掌造り集落 古都京都の文化財

古都奈良の文化財 法隆寺地域の仏教建造物 紀伊山地の霊場と参詣道 姫路城 

原爆ドーム 厳島神社

石見銀山遺跡とその文化的景観 屋久島

琉球王国のグスク及び関連遺産群

表2 世界遺産の物件名の認知

サンプル数 227人

Yesの数 項    目

203 70 21 113 7 テレビ番組の視聴

読書(図鑑や雑誌を含む)

DVDの鑑賞

書籍やインターネットでの調査 世界遺産の保護活動への参加

表3 世界遺産とのかかわり

サンプル数 227人 複数回答

(7)

り方についての調べると(表3)、大半の生徒がテレ ビ番組などで世界遺産を見たことがあり、書籍やイン ターネットなどを通じて世界遺産について調べたこと がある生徒が半数近いという結果が得られた。この結 果からすれば、生徒一人ひとりの興味関心は決して低 くないものであると判断でき、これらの方法を用いて 授業で取り扱った後に、生徒自らで調べる学習を通し て補完することで、興味関心を高めてより深い理解へ の方向付けが可能であることも分かった。限られた授 業時間で時間をかけて網羅的に教えることができない 状況において、生徒の自由に使える時間での学習との リンクを意図した体系的な指導を意図する必要性を強 く感じた。

 今回は、世界遺産の取り扱いを地理的分野に限定し て言及したが、歴史的分野や公民的分野との関連を 図った上での取り扱い方についても検討の余地がある。

また他教科との連携、たとえば理科の第2分野との連 携などについても考えていくことは、意義のあること と考える。今後さらに検討を要する点であると考える。

参考文献

淡野明彦(2006):小学校社会科学習における世界遺産 の教材化.奈良教育大学紀要.55−1(人文・社 会).101−111.

淡野明彦(2007):中学校社会科(地理的分野)学習に おける世界遺産の教材化.奈良教育大学紀要.56

−1(人文・社会).103−114.

文部科学省(2008):中学校学習指導要領(平成20年告 示版

1)富士山の世界文化遺産への登録を目指す動きにお いて、山梨県が富士五湖を登録地域に含めたいと地 元町村に示したところ、住民側から猛反発が起き、

観光ビジネスに差し障るのではないか」との不安が 広がり(朝日新聞電子版2006年11月20日付)、結果的 に暫定遺産への申請において山梨県は富士五湖を除 外した。世界遺産への登録に当っては、従来からの 国内法および条例で世界遺産を保護・保全するとい う前提が理解されていない実態が露呈した事例であ る。

2)多くの世界遺産では観光客の増加が管理上の大き な問題となっている。世界遺産リストに登録される と、注目度が高まり、さらに観光産業の急速な成長 も手伝って、多数の観光客が押し寄せる状況になっ ているという(ペダーセン,A.著.世界遺産年報 編集部訳(2008):「世界遺産と観光」.『世界遺産年

報』13.40−43.

3)ここでは現行の学習指導要領(平成10年告示)

で検討をすることも考えたが、これからの教育活動 の指針となるべき「新」学習指導要領(平成20年 告示)での検討のほうがより実益的であると考え、

後者を採用した。以下、断りなく学習指導要領と記 述した場合は平成20年告示の、いわゆる「新」学 習指導要領を指すこととする。

参照

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