奈良教育大学学術リポジトリNEAR
EDX による火山灰の同定 −可能性の検討−
著者 西田 史朗
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 32
号 2
ページ 63‑70
発行年 1983‑11‑25
その他のタイトル A preliminary report of volcanic glass identification by means of an energy dispersive x‑ray microanalyzer
URL http://hdl.handle.net/10105/2275
奈良教育大学紀要 第32巻 第2号(自然)昭和58年 Bull. Nara Univ. Educ, Vol. 32, No. 2 (Nat.) 1983
EDXに よ る 火山灰の 同定
‑可能性の検討‑
西 田 史 朗 (奈良教育大学地学教室) (昭和58年4月30日受理)
A preliminary report of volcanic glass identification by means of an energy dispersive x‑ray microanalyzer
Shiro NishlDA
(Department of Earth Sciences, Nara University of Education) (Received April 30, 1983)
Abstract
In tephrochronological description major element composition of volcanic glass shard is the most basic characteristics same as its refractive index and color. Up to the present time many tephrochronologists intended volcanic ash correlation with the aid of ordinary chemical analysis. But many of them had got dissatisfaction on their original aim. Their failures are attributed to adoption of bulk analysis. In volcanic glass analysis this method is imperfect because of imposibility of elimination of contaminants.
The present author attempted volcanic glass identi丘cation and analyzed its major element composition with an energy dispersive x‑ray microanalytical technique. Over丘fty EDX spectra were acquired with the grain by grain method. In this time quantitative results on Na, Mg, Al, Si, K, Ca, Ti and Fe were obtained andshowed as oxide in chemical formula with normalization.
The present analytical results tell us statistical and methodological e氏ciencies for volcanic glass identi丘cation.
は じ め に
層位学的に地質年代を認定する基準はいろいろあるが,時代が新しくなるほど要求される精 度が細かくなり,多くの場合に有力な手段となっている生層序学的手法の分解能を越えてくる.
理想的には汎健界的に同時に生起した現象を把えることができればいいわけであるが,佳意の 試料について放射年代の測定や他の方法で照合できる古地磁気データが得られるとは限らない.
ましてや海成層と陸成層を対比しようとする場合,共通の基準が得られることが少なく対比に 問題を残してきた.
火山灰層の層位学的意義については今さら書くまでもないが,その同定と対比については言
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サ! ffi 田 史 朗
葉で言うほど簡単ではなく,ある種の微化石の同定についても瞥見されるところのように, A 氏の○○種とかB氏の××タフという具合に,それにはかなりの熟練を要し,誰もが適確に火
山灰の同定ができると言うものではない.
火山灰同定の方法として,野外での層位・層相の観察を主とした層位学的方法と室内での岩 石記載学的方法があり,多くの場合これらの組合せで論じられてきた.記載学的方法はさらに 岩石レベルの発泡様式,斑晶/ガラス比,鉱物組成比,重・軽鉱物比,仝岩化学組成などと鉱 物レベルでの晶癖,火山ガラスの形態・色調,火山ガラス・輝石・角閃石・斜長石の屈折率, 強磁性鉱物の熟磁気特性,火山ガラスの化学組成,チタンなどの特定元素の量比などの測定が
なされてきた.
これらのうち,化学組成と屈折率の測定は重要な項目であるにも拘らず,技術的な煩わしさ からか多くの報告では省略されがちであった.それでも比較的せまい地域,あるいは単一の堆 積盆の中ではそれなりの結果を得てきたが,広域対比あるいは海底堆積物の対比には必ずしも 充分でない.また堆積の場における分級・分別作用の影響を直視していない嫌いがあるが,こ の点については稿を改めて検討を加える.
層位学的には, 「同じ」か「違う」かを判り易く示せば良く,そのためには判断の基準がそ の物質の本質的なものであり,結果が安定しているものを選択する必要があり,その項目が多 いほど内在的にクロスチェックが行なわれ信頼性が増すことになる.小論では,エネルギー分 散型マイクロアナライザー(EDX)による最上部更新銃と完新統の火山ガラスの分析例を報告
し,この方法の層位学的有効性を考察する.
本研究に要した費用の一部は,文部省科学研究費・特定研究「古文化財」の「古代人の生活 と環境」 (代表・大阪市立大学・粉川昭平教授)より支出された.
試料について
今回の分析に供した試料は,室生山地と 奈良盆地の完新銃と最上部更新銃から‑ン ドオーガーの掘削で得た.試料の採取地点 を第1図と第1表に,また地質柱状図を第 2図に示す.さらに関連して測定された 14C年代値を第2表に示した.放射年代の 測定は日本アイソトープ協会に依頼した.
室生山地の78‑6試料は, 14c年代から みてはぼ完新世を被う.花粉分析では,柱 状試料の基底から300cm までは冷温帯落 葉広葉樹種, 300‑240cm では温帯針葉樹 種, 320cm以浅では照葉樹種が優勢になる (松岡ほか, 1983).火山灰層は粒度構成, ガラスの形状,重鉱物組成から 230‑
240cm 層はアカホヤ火山灰に同定され, 第1図 A 試料採取地点の概略位置
EDXによる火山灰の同定
5 10さTrL
第1回 B 試料採集位置
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26cm層準の薄い火山灰層はAD940 年の自灰と想定されている(松岡ほ か, 1983).
奈良盆地の最上部更新・完新銃は, 松岡・西田(1980)によると上部の 砂がちの堆積物から成る斑鳩層と下 部の泥炭層を挟む泥がちの山の辺層 からなる.斑鳩層ははば完新銃とし て,山の辺層は泥炭の14C年代から 少なくとも20,000y.B.P.より古く, 両者の間に約10,000y.の堆積間隙 が存在するとしている.山の辺層の 荘粉分析では寒冷期を示す花粉が多 く検出され,最終氷期の堆積物と考 えられている(西田はか, 1983).
挟在する火山灰層のうちN78‑4TF, N80‑6TF と N80‑7TFについては, 粒度構成・ガラスの形状・重鉱物組 成が測定され, N80‑6TF について は姶良(AT)火山灰と同定されて いるが,他の2試料については異なった火山灰の可能性が示唆されていた(西田はか, 1981).
地 点 番 号 位 置 標 高 火 山灰 層 の 深 度
N 78 ‑ 6 T F
N 76 ‑ 7 T F
三 重県 一 志 郡 美 杉 村 中 太 郎 生
奈 良 県 磯 城 郡 三 宅 町 三 河
600 m
4 3 1花
220 ‑ 2 30 cm
270 1 280 cm N 78 ‑ 4 T F 天 理 市 酉 井戸 堂 町 52 m 2 75 ー 290 cm N 80 ー 6 T F 天 理 市 九 条 町 横広 54 771 330 ‑ 340 cm N 80 ‑ 7T F 天 理 市 九 条 町 横広 54 771 440 ‑ 4 60 cm
N 8 1 ‑ 1T F 奈 良 市 池 田 町 59 75 ‑
N 81 ‑ 2 T F 天 理 市 永 原 町 59 m 497 ‑ 500 cm N 82 ‑ 1 T F 大 和郡 山 市 出屋 敷 5 1 m ca.200 ‑ 210 cm
第1表 火山灰層の確認地点
西 田 史 朗
78‑6 78‑4 80‑6 80‑7 81‑ 1 81‑2
巳≡≡コ1 [二コ・ [:三3 ' 二二二] '‑ C二二コ・L3 m 2 Eコ 5 E三三∃ a │‑]11 に≡コ14 E::コ 3 E:≡≡:∃ 5 [≡三ヨ 9 [=コ12 ⊂=コ‑15
第2図 地質柱状図
1.表土 2.礁 3.粗砂 4.細砂 5.シルト 6.粘土 7.泥炭 8・火山灰 9.基盤岩10.凍混り11.砂混り12.シルト混り13.粘土混り 14・泥炭湿り15. "C年代とその試料採取層準
地 点 番 号 層 位 14C 年 代 (y.R P 測 定 番 号
78 ‑ 6
78 ‑ 4
80 ‑ 6
‑ 7
8 1 ‑ 2
火 山 灰 層 の 直 上 5,630 ‑± 70 78 ‑ 6 A (N ‑ 3347) 直 下 6,68 0 ± 85 78 ‑ 6 B (N ー3348) 山 上 24,600 ± 520 78 ‑ 4 ‑ 18 CN 一3311) 直 下 28,4 00 ± 820 78 ー 4 ‑ 19 (N ‑ 3312) 直 上 23,100 ± 340 )‑ 6 ‑ 2 3 (N ‑ 400 2) 直 下 26,600 二±550 80 ー 6 ー2 5 (N ‑ 4003) 直 上 20,9 00 ± 300 80 ‑ 7 ‑ 26 (N ‑ 4 00 6) 直 下 26,400 ± 540 80 ‑ 7 ‑ 28 (N ‑ 4007 ) 火 山灰 層 の上 位 20cm 2 5,900 ± 635 5 ‑ 8 1 ‑ 2 (N ‑ 4 310 ) 直 下 24,800 ± 450 6 ー8 1 ‑ 2 (N ‑ 4 311)
第2表 火山灰層上下の14C年代
EDXによる火山灰の同定
測定について
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第1表に示した8点の火山灰について,エネルギー分散型マイクロアナライザー(EDX)荏 用いて・,主要構成物である火山ガラス片50‑100個について主要元素組成を求めた.分析の方 法は以下の通りである.
試料の前処理‑試料約1gを超音波で分散させ,さらに超音波節分装置で100‑25,umに 揃える.同時に純水で25/zm以下のフラクションをできるだけ完全に洗い流し,火山ガラス以 外の混入を防ぐ.イオンエッチングを施したガラス板に拡げ,加熱乾燥させる.充分乾いた後, 両面テープを貼付けた試料台に転写し,不安定な付着をしたガラス片をブロワーで吹き飛ばす.
次いでカーボン蒸着を行ない分析試料とする.使用する両面テープは,蒸着に際し加熱される のでガラス片が埋没することがあり,また分析に際しガスを発生したりして,分析条件を低下 させたり鏡体を汚染することがあるので,充分に吟味する必要がある.
測定‑使用した機器は, HITACHI X‑650 SEM+Kevex ,uX7000Q エネルギー分散型 マイクロアナライザーで,測定条件は加速電圧20kV,照射電流200/i〟A,倍率5,000倍で点分 析,測定カウント数500KI/全チャンネルである.定量計算は Na, Mg, Al, Si, K, Ca, Ti, Feの8元素について第3表の標準物質を用い ZAF補正を行ない酸化物の重量パーセント
として示した. Feについては, totalFeをFeO として示した.
元 素名 標 準 物 質 当 該 酸 化 物 の
重 量 パ ーセ ン ト
N a A S A M A 7 1803 4.54
M g J B ‑ 2 4.76
A L J A ‑ 1 15.50
S i B rasil qu artz 100.00
K J G ‑ 1 3.95
C a J A ‑ 1 5.89
T i 和 光 . 試 薬 1 級 98.50
F e J A ‑ 1 5.08
第3表 EDX定量計算の標準物質
Ⅹ線の取込みほ走査電子顕微鏡(SEM) 下で,火山ガラス片であることを形態的に 確認し,汚染が無く新鮮に見え, Ⅹ線発生 効率の良い個所を選んで,多くの場合5,000 倍で点分析した.同一試料については,
N82‑1TF以外はガラス片100個について 測定した.同じガラス片中での偏析の少な いことと表面形態の影響については予備実 験で確かめてある.
ガラスの分析に当っては二次的な変質が 問題となるが,今回の試料では二次電子像 として強い溶食痕も認められず,反射電子 像でも顕著な差異は認められていない.読 成作用に伴う水和層の形成は,同じ堆積盆 内の同層準の火山灰層では環境要因よりも 化学組成により大きく支配され,相対的な 影響は少なく層位学的な論議に支障はない.しかし,環境要因の著しく異なる広域対比やテフ
ラを放出した火山の一連のマグマ活動を考える場合には,結合水の測定を行ない定量計算を補 正する必要があろう.
結果について
分析結果のまとめを第3表に Na20/Si02, MgO/Si02, Al203/Si02, K2O/Si02, CaO!Si02,
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ロ山
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西 田 史 朗
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SI02 第3回 アカホヤ・姶良火山灰の分析例
EDXによる火山灰の同定 69
TiO/Si02, FeO/Si02とFeO+MgO/Si02, Na20+K2O/Si02, MgO/K20, CaO/K20の関 係を第3図に示した.第3図左列はアカホヤ火山灰,第3区l右列は姶良火山灰の一例を示す.
以上の分析結果でみるように, N78‑6TFすなわち松岡はか(1983)がアカホヤ火山灰とした ものと, N78‑4TFで代表される姶良火山灰層に画然と分れる.先にN78‑4TFと N80‑7TF について姶良火山灰とは別のものとする可能性を示唆したが(西田はか, 1981),今回のEDX 分析の結果はひじょうに良い一致を示し,同一の火山灰層と認定せざるを得ない.
考 察
アカホヤ火山灰一一室生山地のN78‑6TFは Si02‑76.13%で姶良火山灰にくらベTi02 とFeOに富む・第4表に示したN78‑6TFの結果は,他地域のアカホヤ火山灰,音地火Ell灰
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第4表 EDX分析値 N82‑1TFのみ50個の分析,他は100個の分析に基づく.
70 ft 田 史 朗
とされたものと全く同一視できるものである(西田, 1983).上下の泥炭層14Cの年代測定値 ならびに粒度構成,ガラスの形状,重鉱物組成からもアカホヤ火山灰と同定でき,上下層の花 粉化石による森林植生も完新世照葉樹林の特徴を示し調和する(松岡ほか, 1983).
姶良火山灰‑奈良盆地で姶良火山灰としたガラスは, Si02‑80.0‑80.5%でTi02とFeO が小さい特徴をもち,各元素についてrange, mean, varianceとも良い一致を示し,同一の火 山灰として認定できる.他地域で他の方法によって姶良火山灰とされた試料のEDX分析値と も全く矛盾しない.
EDX による火山灰同定の有効性‑第4表に示した如く,奈良盆地で姶良火山灰とした7 点のEDX火山ガラスの分析値はひじょうに良い一致を示す.第3図のプロットに各試料の分 析値を重ねると,その分布は見事に一致する.このような傾向は熊野灘から得た海底堆積物39 点中のアカホヤ火山灰についてもみられる(西田, 1983).一回の火山活動で放出される火山 灰の化学組成は,特定の値を示すものとみられ(Czamanske and Porter, 1965),今回の7点 の火山灰も同一起源・同一時期の放出物と考えることができる.今回はアカホヤ火山灰と姶良 火山灰の2点について示したにすぎないが grain by grain法による EDX分析値の安定性 から,火山ガラスの同定にとって本法は大きく貢献できる見通しを得た.層位学的な適用に限 れば,本法による同定の先行が研究効率の向上となり,本法による同定の困難な試料について のみ在来の方法を併用してゆけばよいのではなかろうか.
姶良火山灰の降下時期‑姶良火山灰の降下時期についてさまざまな見解があり,層準につ いても複数説すら云々されている.今回の奈良盆地の試料については全く同一で,同層準であ ると見なすことができる.それらの」二下層の14C if代値の分布から,その降下年代として 14,600‑14,800y.B.P.が得られる.この値は従来一般的に言われてきたものよりも古くなっ ているが,最近大場(1983)が日本海のピストンコアの姶良火山灰の年代として示している 28,000y.B.P.よりは新しい.
引 用 文 献
Czamanske, G.K., and Porter, S.C., (1965) Titanium dioxide in pyroclastic layers from volcanoes in the Cascade Range. Science, 150, 1022‑1025.
校間数克・西田史朗(1980)奈良盆地の最上部更新‑完新統.長崎大教養紀要.,自然科学籍, 21‑1, 35‑47.
・ ・金原正明・竹村恵二(1983)紀伊半島室生山地の完新銃の花粉分析.第四紀研究, 22
‑1.1‑10.
西田史朗(1983)熊野灘のアカホヤ火山灰.月利地球(投稿準備中).
・渡辺正巳・松岡数充・竹村恵二(1981)奈良盆地の最終寒冷期火山灰層.日本地質学会関西支 部報 *. 9‑10.
・松間数充・金原正明・鴫倉巳三郎(1983) 先史時代奈良盆地とその周辺の自然環境.古文化財 に関する保存科学と人文・自然科学,文部省特定研究「古文化財」昭和57年度年次報告書 492‑495.
大場忠通(1983)最終氷期以期の日本海の古環境.月刊地球, 5‑1, 37‑46.