1
セルオートマトン法によるバクテリアコロニーのモデリング The modeling of the bacteria colony by the cellular automata method
物理学専攻 飯島 徹也 Dept.Physics Tetsuya Iijima
研究の目的
Bacillus subtilis
というバクテリアを寒天培地上で培養する際、寒天培地内の栄養濃度
Cn[g/l]と寒天濃度Ca[g/l]を変えることで、fig1
のような5種類の特徴的なコロニーを観察することが出来る[1]。これらのコロニー
パターンの形成は、バクテリアの集団的な振る舞いと生活環境との関係によって生じる物理・化学的な条件に支 配されていると考えられる。本研究の目的は、栄養濃度
Cnと寒天濃度
Caに相当する二つのパラメーターを変化 させることで、5種類のコロニーパターンを定性的に再現できるモデルを作ることである。バクテリアは自分た ちの住んでいる近辺の環境の状態だけで増殖量と運動のしやすさが決まると考えられるので、計算方法はローカ ルなルールのみで時空間的な振る舞いを表現できるセルオートマトン法を用いる。また、モデルの妥当性を調べ るために定量解析を行う。
Fig1 Bacillus subtilis
のモルフォロジーダイヤグラム[1]
モデル
172×172
の格子点(セル)を持つ三角格子を考える。このセル上にはバクテリア量
Bと栄養量
Nが定義して
あり、B と
Nは以下の4つのルールに従って離散的な時間ステップで変化する。本論文では基本となる4つのル ールに従うモデル1とモデル1を改良したモデル2を紹介する。
ルール1 栄養の拡散
( )
∑
=− +
=
+
61
) ( ) ( )
( ) 1 (
k
i ik
N i
i
t N t D N t N t
N
2
ルール2 バクテリアの拡散
( ) ( ) ∑ ( ( ) ( ) ) ( ( ) ( ) ) ( ( ) ( ) )
=
−
⋅
⋅
⋅
− +
=
+
61
1
k
i ik
i ik i
ik B i
i
t B t D B t B t f B t B t g B t B t
B
( ) ( )
( 0 )
0 0
1
=
>
⎩ ⎨
= ⎧ x x x
f , ( ) ( ) ( x B
DD)
B x x
g ≤
>
⎩ ⎨
= ⎧ 0 1
ルール3 バクテリアの増殖
( ) t N ( ) t ( ) ( ) B t N
i+ 1 =
i− εα ϕ
i i( ) t B ( ) ( ) ( ) t B t B
i+ 1 =
i+ α ϕ
i ii i
i N
= B
ϕ ,
⎪⎩
⎪⎨
⎧
+ ≤
−
<
= (1 )
1
) 1 ( )
(
max 0 0
i i
i MAX
i
ϕ
α α ϕ
α ϕ
α ϕ
α
ルール4 バクテリアの拡散領域拡大
① i 番目のセルのバクテリア量が閾値 B
STARTより大きく、かつ、隣接するセルにバクテリアのいな いセルがあるとき、そのセルの中からランダムに一つ選び、バクテリアの拡散係数に従って拡散 する。
② ①の操作は β ステップにつき1回、全てのセルについてランダムな順番で行われる。
N
iは i 番目のセルの栄養量、 N
ikは i 番目のセルと隣接するセル
k上の栄養量、 D
Nは栄養の拡散係数、 B
iは i
番目のセルのバクテリア量、 B
ikは i 番目のセルと隣接するセル上のバクテリア量、
DBはバクテリアの拡散係数、
BD
は拡散量を制限する数、 α ( ) ϕ
iはバクテリアの増殖率、 ε は栄養摂取量と増殖量の関係を表す数、 α
MAXは増 殖率の最大値、 α
0は増殖率の値を制御する数、 B
STARTはバクテリアの拡散領域拡大を制限する数である。以上の ルールを適用するモデルをモデル1とする。モデル1からモデル2への変更点は二つある。一つ目は、ルール4 の①を「 i 番目のセルの隣接するセルにバクテリアのいないセルがあるとき、そのセルの中からランダムに一つ選 び、バクテリアの拡散係数に従って拡散する。」のように変更する。二つ目は、バクテリアのいる全てのセルのバ クテリアは
activeと
inactiveのどちらかの状態を持ち、active のバクテリアは拡散と拡散領域拡大を行うことが できるが、inactive のバクテリアは両方とも行えないとすることだ。セルのバクテリア量が B
STARTより多くなる
と、active な状態になり、セルのバクテリア量が B
STOPより小さくなると
inactiveな状態になる。このよう なモデルをモデル2とする。
結果
栄養濃度に相当するパラメーターは各セルに配置する初期栄養量
N( )
0である。また寒天濃度に対応するパラメ ーターを B
0とすると、モデル1では B
START= B
0、モデル2では、 B
START= B
0, B
STOP= B
0/ 3 , B
D= kB
0/ 50
とした。これより
fig2、fig3のダイヤグラムが得られた。
3
fig2 モデル1のダイヤグラム
fig3 モデル2のダイヤグラム 30
1000
1/400 1/200
1/800 1/100 1/50
100 200 400
1/600 50
1 B
0N (0)
A
領域
B領域
C
領域
D
領域
1 B
01/200 1/100 1/25 1/7
N(0)
200
150
50
5
A領域
B領域 D領域
E領域
4
モデル2で得たパターンの粗さ指数αと成長指数βは
fig4のようになった。
fig4 モデル2と実験の粗さ指数αと成長指数β
α β
モデル 実験 モデル 実験
Harder than B
領域 0.81±0.04 - 1.16±0.09 -
約
0.78[2]-
B
領域 0.73±0.06
約
0.81[3] 1.31±0.42約
0.69[3]C
領域(停止時) 0.78±0.05 - -
C領域(進行時) 0.60±0.05 -
0.95±0.22-
CD間領域 0.76±0.10 - - -
D領域 0.54±0.05 *約
0.50[1] 1.08±0.26-
結論
本研究でわかったことを以下にまとめる。
統一のモデルではないが、セルオートマトンモデルで
B.subtilisの5つのパターンと似たパターン を再現できた。
モデルで得られたモルフォロジーダイヤグラムの配置は実験と近いが、
B,
C領域の定性的性質が 異なる結果となった。
モデルで得られたパターンの粗さ指数αは実験と近い値となった。
モデルで得られたパターンの成長指数βは実験とはだいぶ異なる値となった。
バクテリアの増殖に関するルールを変更すれば5つのパターンを再現できる可能性がある。
[1]
脇田順一:1996 年度博士論文‘バクテリアコロニーの形成形態’
[2] T. Vicsek:‘fluctuations and scaling in biology’
[3]