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大学における戦略的経営

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(1)

一その高等教育サービス産業としての基本的概念枠組み

澤 田 利 夫

はじめに       大学の基本的特質の明確化に基づいた内外の環境 昨今の学術研究の高度化,技術革新・情報化・  変化と内部資源の分析による適切な対応を機軸と 国際化による人材需要のソフィステケイト化,進  する戦略的経営の視点が重要である。

学率の増大,学生の多様化,18歳人ロの減少及び   本稿は,この点から,大学を高等教育サービス 高齢化に伴う生涯学習ニーズと大学に対する社会  を供給するサービス産業ととらえ,その特質に基 的期待の増大等の環境変化に伴い,我が国の大学  つく戦略的経営の視点からその基本的概念枠組み においても,さまざまな改革が進められている。  を明らかにすることをねらいとする。即ち,研究・

文教行政においては,平成元年に,大学院につ  教育は,本質的に,活動自体である点で,物財で いて,博士課程の目的の改定,昼夜開講制・夜間  はなくサービスであり,その供給者である組織体 大学院の実施,修士課程の修業年限の弾力化,大   は,産業分類上もサービス産業に位置付けられ,

学院教員資格の改定,修士課程における研究指導  大学もまたその例外ではない。その研究・教育サー 委託,独立大学院の組織編成及び施設・設備にか   ビスコンセプトの生産・供給のプロセスには,サー かわる基準,大学院入学資格の弾力化,学位制度   ビスの特質に基づく特有の問題があり,それが大 の改定がなされた。また,平成3年には,大学教  学の戦略的経営のありかたを条件づけるのである。

育について,大学設置基準等の諸基準が改定され,   上の視点から,本稿では,まず,サービスに共 授業科目区分の廃止,単位の計算方法・授業期間  通の特質について,その非触知性,不可分性,異 等の弾力化,昼夜開講制の実施,大学以外の教育  質性,消滅性,所有権の欠如を,さらに,サービ 施設等の学習成果の単位認定,科目等履修制度の  ス産業における経営システムの特質について,そ 導入がなされ,さらに,短期大学等の短期高等教   の基本的特質としてパーソナリティ集約性,社会 育についても改定が行われた(1)。         的ダイナミックス,オープンシステム,自律的シ

大学設置基準等の諸基準の改定の趣旨は,「個々  ステム,シンボル操作による抽象的システムを,

の大学等が,その教育理念・目的に基づき,学術  次いで,その構造を,サービスコンセプト,市場 の進展や社会の要請に適切に対応しつつ,特色あ  区分,サービス供給システム,イメージ,使命の る教育研究を展開し得るよう,基準の大綱化によ  5要素について検討する。

り制度の弾力化を図るとともに,生涯学習の振興   次に,これらのサービス及びサービス産業の基 の観点から,大学における学習機会の多様化を図  本的特質構造に関する理解を踏まえて,まず,教 り,併せて,大学の水準の維持向上のための自己  育サービス産業を知的サービス供給者として位置 点検・評価の実施を求めること」にあるとされ  付け,その特に重要と考えられる特質を,サービ る(2)。       ス産業の一般的経営特質の中で,特に,パーソナ

こうした改革に当たっては,その前提として,  リティ集約性とシンボル操作による抽象的システ

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ムとしての知的サービスの生産・供給にあるとし,  そのマーケティング戦略に影響を及ぼす。

その構造・役割を検討する。       さらに,サービスの生産・供給はその全部また 最後に,以上の一般的検討を基に,高等教育サー  は一部の消費と同時に行われる。これに対して物 ビス産業としての大学の特質から,その戦略的経  財は生産され,販売され,そして消費される。一 営のプロセスに関し,全体的戦略として内外の環  方,サービスは,販売され,次いで生産・消費が 境分析,使命の確立,戦略的マーケティングを主  同時になされるのである。

とするポートフォリオ分析による戦略策定,促進   この場合,サービス自体は消滅し,蓄えられる 戦略の基本的概念枠組みについて考察する。    ことができない。例えば,ッアーのための航空便 の空席,ホテルの空室は,その時点でのサービス 1 サービス産業の経営特質       供給が永久に失われたことを表している。

経済における生産活動は,物財と非物財の生産   上述の同時性・消滅性のために,サービスは,

活動から成る。これらの生産主体の全てに共通す  その産出結果を,標準化し同一の品質を維持する る経営の使命は,人々のニーズを充足する便益を  ことが困難である。標準化システムを用いた場合 生産・供給することにあるが,その対象・過程・  においても,サービスのそれぞれの単位は他の単 産出結果は必ずしも同一ではない。後者の活動は,  位とは異なる場合がある。したがって,購買者か 人間の他の人間に対する便益供給活動であり,そ  らすれば,購買前にその品質を判断することが困 の産業は第3次産業,あるいは,その生産過程及  難である。

び結果をサービスとする観点からサービス産業   また,購買者は,サービスを購買する場合,そ

(広義)と称される。この意味で,教育はサービ  れに伴う物財である施設・設備に対しては所有せ スであり,その遂行主体である組織体は,サービ  ず利用するだけである。購買者が対価を支払うの ス産業にほかならない。      は,それらを所有することに対してでなく,利用

サービスを,個人または組織体が,便益を供給  することに対してである。

するために,他の個人または組織体に対して,直   上述のサービスの特質を踏まえて,サービス産 接にまたは物財を介して行う活動と理解すれば,  業の経営には,物財生産産業とは異なったいくつ サービスには物財に比して,無定形的な非触知性  かの特質がみられる。まず,サービス産業の経営

(intangibility)・同時性・異質性・消滅性・所   では,実際上,その生産過程,供給過程,産出結 有権の欠如の特質が認められる。         果の間を明確に区別することが困難な場合が多い。

サービスは活動自体であるので,購買者が購買  このことは,サービス産業の経営は,その本質的 前にサービスを五感でとらえることが困難である。  な性格として,サービスの経営システムが一体と 購買者が,サービスを象徴する何らかの有形物を  なって顧客の経験の一部を形成するように行われ 与えられる場合においても,サービスの購買は,  るものであることを意味している。この点で,サー 究極的には無定形の非触知的なものの購買である。  ビス産業の経営の焦点は,特に,そのサービスを この非触知性の概念は物財とサービスを区別する  後述の内外の環境要因に適応してシステム化する 重要な特質であり,これには身体的な非触知性だ  能力のいかんにある。

けでなく,サービスを心理的にとらえることが困   この場合,特に,顧客とサービス供給者との相 難であるという心理的非触知性(mental inta一  互作用のあり方が問題となる。顧客とサービス供 ngibility)をも含んでいる。      給者との相互作用は,人的及び設備・通信等によ

この触知性のカテゴリーにも,非触知性の大小  る非人的の双方においてなされる。いずれの場合 を両端とするコンチナムが考えられる。教育サー  においても,サー一ビス経営システムの運用に当たっ ビスは,非触知性が大きく,この特質が,特に,  て重要なことは,その相互作用の過程での顧客の

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参加(participation)を通じて,顧客を新しい社  人間と人間とを新しい関係に結合することによっ 会関係に組み込むオープンシステム,顧客を直接  て,従前の社会関係を新しい脈絡に基づいて組み の目標とし共同の生産者として自律的に変動する  替え,あるいは全く新しい社会関係を作り出すと システムということである。サービス産業の経営  いう社会的ダイナミックスをもたらす。

においては,サービスの供給に関し,顧客を,受   またサービス産業の経営には,その供給するサー 動的で何も生産しないものと考えることはできな  ビスコンセプトとして,例えば,数学・言語・芸 いのである。      術のように,記号をある法則に基づいて組み合わ この点に関連して,パーソナリティ集約性  せた抽象的システムがある。この場合,数学・言

(personality intensity)の概念枠組みがある。  語のように法則による支配性の程度が高いものと,

これは,顧客に供給されるサービスの品質は,た  芸術のように表象性の高いものとがある。いずれ とえそれが大量の資本や設備によって支援される  にしても,これらのシステムの要素は人間や物財 場合でも,最終的には,ある特定の状況の下で人  のように現実的な実体ではなく,人間の知的要素 間が何をどのように行うかによって決まるという  が生み出したシンボル操作のユニットであるとこ ことを意味する。サービス産業の経営においては,  うに特徴がある。後述するように,教育サービス その顧客をサービス経営システムにおける共同の  コンセプトの一つの中核的要素がここにある。

作業者として,経営目的に適合した社会システム   これらの特質を持つサービス産業の経営システ の中に組み込むことが求められる。        ムの構造を,戦略的サービスマーケティングとの それは,サービスを供給する場合に直接にサー  関連から,サービスコンセプト,市場区分,サー ビス供給者と顧客とが相対する場合だけを意味し  ビス供給システム,イメージ,文化と使命の構成 ているのではなく,実際に相対するのは施設・設  要素に分け,これらの要素が使命を基底要素とし 備であって,サービスの供給者と顧客が直接に相  て相互に結合し,システムとして活動するものと 対しない場合であっても,相互に人間である相手   して構成することができる。

のパーソナリティを意識することを意味している。   まず,サービスコンセプトは,顧客の便益は何 このサービス産業の経営特質は,物財を消費す  か,どのサービスの要素が顧客の便益を最もよく る場合,顧客がその品質を判断するのは物財その  実現するかを確定することによって構成される。

ものについてであって,その物財を生産している  この場合,次の段階についてそれぞれ検討し,相 工場の作業者のあり方を問題にすることはほとん  互に関連づける必要がある。

どないという事実と対照するときに一層明白にな   第1に,顧客便益コンセプトの確定である。こ る(3)。       こでは,顧客が求めている便益の本質は何かを明

さらに,サービス産業の経営でぱその生産物で   らかにする必要がある。この場合,顧客自身が,

あるサービス自体が,環境との相互作用がなけれ  サービスコンセプトについて未経験であり,サー ば成り立たない点で,特にオープンシステムとし  ビスコンセプトに何を期待するかを知らず,自身 ての性質が強調される。物財生産産業の経営では,  の潜在的なニーズを明らかにする能力を持たず,

その生産物である物財自体は,自己完結的な閉じ  必ずしも自身の求める便益を常に自覚していると られたシステムとしての性格を持っている。この  は限らない場合がある。

相違から,例えば,物財の生産は顧客とは無関係    したがって,サービス供給者は,顧客によって な後方部門としての工場で行うことができ,サー  求められているサービスコンセプトの便益の重要 ビスの生産は直接・間接に顧客と対峙するフロン  性を顧客の立場から測定しその重要性を理解する ト部門で行われる。      と同時に,システム的な観点からその便益が真に このオープンシステムとしての特質は,さらに,  顧客及び社会の価値実現に有効であるか否かを判

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断して,適切な顧客便益コンセプトを採択する必  者のデザインしたサービスコンセプトの構造と必 要がある。教育サービス産業においてもこのこと  ずしも一致するとは限らない点に注意する必要が は極めて重要である。       ある。

第2に,サービスコンセプトの確定である。こ   第4に,サービス方式である。これは,上述の れは,顧客便益コンセプトに基づいてサービス供  サービスパッケージをどのような方式によって供 給者が供給する一般的・本質的な便益の枠組みで  給するかに関する概念である。この場合,まず,

あり,次のサービスコンセプトのデザインの段階  供給過程の個別性と複合性が問題となる。個別性 の基盤となる。ここでは,サービス供給者の使命・  はどの程度ユニークであり,標準化されるかに関 目的,顧客のどのような便益に応えようとするの  し,複合性はサービスを供給する際に必要なステッ かを明確に定義する。       プ(機能)の数と複雑性(精密さ)に関連する。

第3の段階は,サービスコンセプトのデザイン   第5に,サービスレベルである。これは,顧客 である。ここでは基本的なサービスコンセプトの  が,その受け取る便益の品質と量に対して,どの 発想に,より特定の詳細な形式を与え,特定のサー  ような判断をするかに関連する。品質については,

ビスとして構成する。この場合,生産されるサー  顧客の満足・価値との関連で,約束したサービス ビスの内容,供給時期,供給方法,供給場所,サー  の確実な履行能力に関する信頼性,施設設備・サー ビス供給要員についての意思決定が必要である。  ビス要員・コミュニケーション用具の外観等に関 この決定は,サービスコンセプトとサービス供給  する明証性,顧客に対する積極的な支援と迅速な システムとに密接に関連する。      対応能力に関する応答性,サービス要員の専門的 サービスコンセプトは,サービスパッケージ  能力に関する保証性,個々の顧客に対する感情移

(service package)として,一方において,顧  入性,利用・コンタクトの容易さに関する利便性,

客がその中心とするサービスとそれに付加された  顧客に理解できるような情報の提供と顧客からの さまざまなサービスを統合して消費し,他方にお  情報を受容する能力に関するコミュニケーション いて,サービス供給者が顧客に供給する相互に関  能力等が問題となる。これらの品質要件は,教育 連のあるサービスのセットである。        サービス産業においても重要な影響力を持つ。サー その構成は,中核サービスと周辺サービスから  ビスの量については,サービスの中で,それが実 成る。中核サービスは,サービス供給者にとって  際に供給される量,時間が問題となる。

中心となるより重要度の高いサービス,顧客が購   さらに,サービス産業の経営システムの構成要

買する主たる理由となるサービスであり,周辺サー  素としての市場区分は,サービスシステムが設計      

rスは,中核サービスに付随しこれに付加価値を  される場合の対象である顧客の特定のタイプに関 与えるサービスである。さらに,サービスの供給  連する〔4)。

において,物的要素としてサービス供給者が用い    そのための基盤には,例えば,地理的要素,人 る支援物,顧客が用いる促進物,サービス供給者・  口統計学的要素,サイコグラフィック的要素,行 顧客によって明確に定義されている明示的便益,   動的要素,便益的要素,サービスの利用レベル要 サービス供給者・顧客によって明確に定義されな  素が挙げられる。これらの中で,高等教育サービ い含蓄的便益の概念枠組みがある。        ス産業の市場区分にかかわる要素として,顧客等 サービス供給者は,経営上,中核サービスを主,  の購買行動に影響する態度・関心・意見・方法に 周辺サービスを従と考え,それぞれ別個に供給す  関するサイコグラフィック的要素,顧客のサービ るが,顧客は最終的にそれぞれの便益を得るため  スに対する代替的な評価の過程での,サービスや にサービスをパッケージとして消費する。この顧  その属性に関する知識・態度・反応に関する行動 客のサービスパッケージの構造は,サービス供給  的要素,顧客が求めている便益に関する便益的要

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素,組織体の現在の顧客,組織体の競争者の顧客,  動もまた顧客の品質知覚に影響する。作用的品質 潜在的顧客で,現在,自組織体と競争組織体のい  は,このように,顧客がどのようにしてサービス ずれの顧客でもない顧客に関する利用レベル要素  を受けるかという品質次元である(5)。

が重要と考えられる。      サービス供給システム要素としての顧客は,前 サービス供給システムはサービスコンセプトが  述のように,サービス経営において単にサービス 市場区分に応じて実現される過程で,サービス要  を購買し消費する役割だけでなく,サービスの生 員,顧客,知識・技術・物的要素の構成要素から  産と供給の共同の成員,マーケッターとしての役 成る。       割を果たす。この場合,現在の顧客だけでなく,

まず,サービス要員はサービスの生産・供給を  過去及び将来の潜在的な顧客もまたサービスに影 行う要員であり,前述のサービス産業の諸特質を  響を与える。

最も具現化する要素である。この場合,サービス   以上のサービスコンセプト・市場区分・サービ 要員は自身と顧客,自身と専門的知識・技術・物   ス供給システムの要素に対して,イメージは,個 的要素,自身と専門的知識・技術,物的要素を介  人,または集団によって承認された現実について した顧客との3方向のサービストライアングルに  の知的象徴である。換言すれば,イメージは,現 よる相互作用に関係する。これと対照的に,物財   象あるいは状況についての信念や理解を表わすモ 生産に従事する要員は,自身と専門的知識・技術,  デルである。この特定の個人または集団が持つ知 物的要素との2方向の相互作用に関係するだけで  的モデルには,正確なものと誤っているものとが ある。       あるが,いずれの場合でも,それは人間の行動の

こうした相互作用の関係は,サービス品質に大  指標になるという点で重要である。

きな影響を与える。サービス品質には,技術的品   イメージが真実であるか誤りであるか,有用で 質(technical quality)と作用的品質(functi一  あるか無用であるか,明確であるか曖昧であるか onal quality)があるとされる。技術的品質は,  にかかわりなく,人間は彼自身の知覚にしたがっ 顧客とサービス要員との相互作用において,例え  て選択し行動する。イメージがいわば社会的現実 ば,教育サービス産業における教育内容,教員の  を作り出すのである。イメージが,人々に影響を 専門的知識技術,教具にかかわる。この品質は,  与えるための強力な武器となるのは,主としてこ 顧客である被教育者のサービス要員である教員と  の理由による。換言すれば,それは有力なコミュ の相互作用による産出結果として知覚されたサー  ニケーションの用具となり得るのである。

ビス品質であり,顧客が何を得るかの問題に答え   イメージの持つ上の性質から,サービス産業の るものである。      経営においてイメージ管理はきわめて重要である。

しかし,サービスは顧客との相互作用において  前述のサービスの非触知性等の諸特質から,顧客 生産されるので,この技術的品質のみによって顧  等に適切な行動を引き起こし,望ましい選択をさ 客が知覚した全ての品質を説明することはできな  せるためには,単にサービスの結果を示すだけで い。顧客が知覚したサービス品質には,これらの  なく,さらに洗練された方法で顧客等とコミュニ 技術的品質がどのようにして顧客に移転されたか  ケートし,その現実についての知覚に影響を与え

ということも含まれる。例えば,教員の外見と行  ることが必要なのである。

動のように,サービス要員がどのようにその課業   以上のサービスコンセプト,市場区分,サービ を遂行し,何をどのように語るか,顧客とどのよ  ス供給システム,イメージの要素に対して,使命 うに対応するかといったことも顧客のサービスに  は,これらを基底的に包括する原理として,サー 対する知覚に影響を及ぼす。さらに,顧客自身が  ビスが供給され顧客が便益を受けるに至るまでの 相互作用において行う行動の手順や他の顧客の行  社会過程を理念的にコントロールし発展させる概

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念である。後述のように,高等教育サービス産業  知識・技術・熱意・関与度等のパーソナリティが としての大学においても,その使命の確立が,戦  産出結果を統合するのである。このことは,被教 略的経営の基本的概念枠組みの基盤となる(6)。   育者に供給される教育サービスの質的レベルは,

最終的には,ある特定の状況の下での教育サービ 2 教育サービス産業における経営システム要素  ス供給者とその被教育者とのパーソナリティによっ

の焦点化       て決定されることを意味している(8)。

これまでみてきたサービスの特質としての非触   次に,サービス産業におけるサービスコンセプ 知性,同時性,消滅性,異質性,所有権の欠如,  トの一般的抽象的シンボル操作システムという特

さらに,サービス産業における経営の基本的特質  質に関連して,特に,教育サービスコンセプトの としてのパーソナリティ集約性,社会的ダイナミッ  特質は,その知的サービスにある。

クス,オープンシステム,自律的システム,抽象   この知的サービスの構造・役割に関して,サー 的シンボル操作システム,その経営システム要素   ビスコンセプトを生産要素の観点からみれば,サー としてのサービスコンセプト・市場区分・サービ  ビス供給者の肉体力による肉体的要素,サービス ス供給システム・イメージは,各要素のウエイト  供給者の知識・経験等の知的能力による知的要素,

を異にしながら教育サービス産業にも妥当する。  物財による物質的要素のカテゴリーに分けること この場合のウエイトの相違に関して,サービス  ができる。

が働きかける対象とサービスの主要な特質である   先史時代のまだ文字やそれを記述する媒体が存 触知性の二つの要因の組み合わせによって,サー  在しなかった段階では,有形物の形で効用を生産 ビス産業は,①例えば,理美容・旅客運輸・レス  し蓄積することが,効用を時代間・世代間に渡っ トランのように,主として人間の身体に対して働  て引き継ぐための唯一の方法であった。したがっ きかけ,比較的に触知的なサービスを供給する産   て,当時の人々にとって効用は有形物を所有する 業,②例えば,施設・設備の保守管理,警備保障,  ことと同義であり,そうした有形物に関する実用 クリーニングのように,主として物財に対して働  的な技能が,文化を伝達するための最も信頼でき きかけ,比較的に触知的なサービスを供給する産  る媒体であったのである。

業,③例えば,教育,情報,通信のように,主と   しかし,やがて,人々の言語・数等の記号操作 して人間の精神に対して働きかけ,比較      の能力が発達し,観念を記録し伝達するための実 的に非触知的なサービスを供給する産業,④例え  際的な手段が創出されるに及んで,観念自体が独 ば,金融・保険,法律・会計のように主として非   立して効用の源泉となるに至った。即ち,知的要 触知的な資産に対して働きかけ,比較的に非触知  素が独立した効用を持つに至ったのである。

的なサービスを供給する産業に分けられる。教育   この場合の知的要素は,知識(knowledge)だ サービス産業は,上にみるように,人間の精神に  けでなく,知識を活用する知的スキル(intellect一 働きかけ,非触知的なサービスを供給する産業と  uall skills)・認知方略(cognitive strategies)の

して位置付けられるω。      概念を含んだものである。

この分類のカテゴリーから,教育サービス産業   知識は,人間の認識作用によって得られたある の経営においては,特に,次のシステム要素が焦  観念であるが,断片的なものではなく,事柄自体 点化される。即ち,まず,教育サービス産業は,  や事柄相互の関係についてある意味を持つように 人間の精神に働きかけ,非触知的なサービスを供  組織化された集合であり,言語等の記号と概念か 給するという点で,前述のパーソナリティ集約性   らなる。

が重要な意味を持つ。ここでは,教育サービスを   知的スキルは,周囲の環境を概念化してとらえ,

提供することに責任を持つ教育サービス供給者の  その結果得られた言語等の記号を操作して,人間

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の内的・外的コミュニケーションを図り,未知の   このことに対して,教育サービス産業の果たし 問題を解決することのできる能力である。この能  た役割は極めて大きいものがある。例えば,初頭・

力の発達のプロセスは,最も初期の周囲の具体物   中等・高等の各学校段階別にそれぞれの教育を受 について弁別(discrimination)する段階,弁別  けた人口の割合を国際比較した場合,その割合が の経験の中から,様々な具体物に共通する特質を  高等教育へ向けてシフトする度合いが大きいほど,

あるカテゴリーにまとめることによって,具体的  その経済的発展の度合いが大きいという事実が,

概念(concrete concepts)を形成する段階,具体  我が国を含め先進諸国の多くについて認められて 的概念を言語によって定義し,法則(rules)を形  いる。また,これと対照的に,多くの開発途上国 成する段階,これらの法則を組み合わせて,さら  における経済的発展の停滞の主要な原因が,こう に高度の法則を作り出し操作することによって問   した知的要素の度合いが低いためであるというこ 題解決を図る段階に分けることができる。この要   とが指摘されている(9)。

素は,後述の現代経営管理者に求められる概念的

能力と深く関連する。認知方略は,人間が上述の   3 大学における戦略的経営のプロセス 知識の蓄積や知的スキルという内心の知的活動の   以上のサービス産業及び教育サービス産業にお プロセスを,自ら制御するように組織化する技術  ける経営の特質を踏まえて,高等教育サービス産 である。それは,特に,知的スキルの問題解決の  業としての大学は,高度知的専門サービス供給者 段階とかかわっている。例えば,問題の発掘,資   として位置付けられる。この位置付けから,次に,

料収集,知識・知的スキルの適用,仮説の設定,  その戦略的経営のプロセスについて検討する。

分析,総合,検証,修正のような問題解決のため    まず,一般的な戦略的経営についてみれば,後 の思考活動のプロセスを自ら組織化し制御する技  述するように,今後,全ての組織体の存続にとっ 術である。この方略には問題解決の種類に応じて   て,戦略的経営の重要性は一層増大する。この間 様々な態様が考えられるが,イノベーションにか  の事情は,大学においても全く同様と言える⑩。

かわる重要な方略は発見の方略であり,それが社   この場合の戦略とは,組織体の使命・目的に合 会的ダイナミックスに結びつく。         致した結果を達成するための計画を意味し,戦略 こうした教育サービスコンセプトにおける知的  の策定,戦略の適用,戦略のコントロールの各段 要素の価値は,物質的要素のようにそれ自体が消  階からなる。戦略的経営は,上の戦略の各段階だ 費・摩耗によって減じるということはない。しか  けでなく,さらにそれに先んじて,外部環境の文 し,市場との関係では,教育サービス供給者の知  脈の中で組織体の使命・目的を決定する段階をも 的要素の蓄積の過程において,新しい知的要素の  含んでいる。

所有者の出現により,従前の知的要素の減価が生    したがって,戦略的経営は,環境に存在する機 じる。したがって,教育サービス供給者の不断の  会と脅威(制約)の分析,組織体内部の長所と短 知的サービスコンセプトの開発が重要な戦略的課  所の分析(資源分析),組織体の使命・目的・目 題となる。      標の確立,組織体の長所と短所を外部環境の機会 知的要素の存在と重要性は,その蓄積率が加速   と脅威に適合させるための戦略の策定(組織体全 されるにつれて明白となり,やがてその蓄積が一  体レベル,事業単位レベル,機能レベル),戦略 定量以上になったとき,社会にドラスチックな転  の適用,戦略的コントロールを達成する一連の段 換をもたらすまでに至る。例えば,これを歴史的  階とみることができる。

にみれば,知的要素の蓄積の飛躍的な増大が19世   上の一般的定義に則して,大学における戦略的 紀の産業革命を導き,今世紀半ば以後の情報革命・  経営もまた次のプロセスを経る。

技術革新を導いたのである。      (1)環境・資源分析

(8)

まず,大学は,過去・現在及び将来の予想され   これらの環境・資源分析に関して,特に,公共 る環境を分析する。分析の対象となる環境要素に  サービス産業としての大学にとって留意すべきこ は,大学内部の環境要素として,例えば,理事会・  とは,これらの分析が現在及び将来についてのみ 評議委員会・学部・教職員が,市場環境要素とし  なされるのでなく過去についても行われ,環境と て,例えば,学生・潜在的学生・社会人・卒業生・  の対応状況が過去・現在・将来の時系列の局面に 大学への資源提供者・企業等の雇用主が,公共環   ついて分析される点である。

境要素として,例えば,行政・情報媒体・一般市    さらに,顧客の概念は,営利企業のそれに比し 民が,競争環境要素として,例えば,他大学等の   てより広く,単に現在の学生だけでなく,潜在的 高等教育サービス産業が,巨視的環境要素として,  学生,社会人,卒業生,大学への資源提供者,企 例えば,人口統計学的・経済的・技術的・政治的・  業等の雇用主,行政等の諸環境要素をも幅広く含 文化的要素が挙げられる。この場合の分析の視点   む。それは,公共サービス産業の社会的規範性と は,これらの環境要素の主たるトレンド,大学に  その利害関係者の多岐性に基づくものである(11)。

とってのこれらのトレンドの意味,その最も重要   以上の環境・資源分析のプロセスにおいて,機 な機会と脅威を明らかにするところにある。    能戦略としてのサービスマーケティングの観点か 環境の脅威要因は,明確な目的を持った確固た   らすれば,まず,市場における位置付けを確定す る行動を取らなければ,大学全体またはその一部  ることが必要である。これは,大学・教育サービ の計画の実現が停滞・衰微・消滅するに至る環境  スの供給の独自性を構築し維持するためのプロセ 要素のトレンドによる影響ということである。こ  スである。競争市場においては,この位置付けは,

れらの脅威は,それが現実化した場合に大学が失   学生等の諸環境要素が,どのように大学・教育サー う財政・社会的評価の大きさ,及び,その発生の   ビスの活動をその特定の属性に関して競争者と対 可能性の点から査定される。      比して知覚するかという問題にかかわる。

一方,機会要因の査定は,これによって成長の   市場における位置付けの目的は,教育サービス 可能性を増大させることができるという点で,脅  コンセプト,教育サービスコンセプトの改善の方 威要因の場合よりも重要である。機会要因の査定  向,改善のための行動の問題を解決するところに は,大学にとって価値のある潜在的な魅力,及び,  ある。即ち,第1に,それは,教育サービスと市 その機会を開発することによって成功する可能性  場との関係を定義し理解するために,①教育サー の観点から行われる。       ビスを,その特定の属性について,競合するサー 環境分析に次いで,資源分析を行う。資源とは,  ビスと比較する,②生産された教育サービスの遂 人材・資金・物財・情報・システムである。資源   行力が,特定の遂行基準に照らして,学生等の諸 分析の目的は,環境分析に対応して,大学が有し  環境要素のニーズと期待に合致しているかどうか ている資源(長所)と不足している資源(短所)  を判断する。③特定の遂行力を持つ教育サービス を確定することによって,その有する長所を活用  に対する消費のレベルを予測する。

し,短所に関連する環境への対応を避けるべきで   第2に,新教育サービスの導入に関し,標的市 あるとする観点に基づく。例えば,学生数に対す  場区分は何か,競争優位の属性は何かについて,

る教員の数教育の質,キャンパスについて,他  さらに,現在の教育サービスの改良,市場におけ に比して特に際立った点があるかを検討する。こ   る再位置付けに関し,現在と同一の市場区分を対 の場合,前述のように,大学当事者が認識してい  象とするのか,又は新市場区分を対象とするのか,

る長所・短所と,外部環境要素が大学に対して抱  付加・除去・変更すべき属性は何か,促進策で強 いているイメージが一致しない場合があることに  調すべき属性は何かについて,また,廃止すべき 注意する必要がある。      教育サービスに関し,学生等の諸環境要素のニー

(9)

ズを満足させない教育サービスは何か,過剰な競  場環境要素のソフィステケイト化・知的サービス 争下にある教育サービスは何かについての市場機  化が注目される。

会を確定する。      まず,企業経営の動向として製造業においては,

第3に,立地・施設設備のタイブ時間,コミュ  高付加価値化・省力化のための投資の活発化,設 ニケーションにおけるメッセージの内容,強調さ  備投資の増加がみられ,製品の生産要素の一つと れるべき属性,コミュニケーションチャネルを確   しての知的要素の比重が,他の物的・肉体的要素 定する。       に比して増大している。

これらの市場における位置付けを行うためのス   ー方,サービス産業においても生産過程におけ テップとして,まず,市場分析を行う。ここでは,  る中間投入として,技術開発,マーケティング,

大学・教育サービスに対する需要の全体的規模と  経営管理等の知的サービス機能の必要性が高まり,

動向,それらの需要の地理的分布等の要素を決定  科学技術の変化に基づく産業の統合,市場細分化 し,次いで,市場規模・潜在能力を考慮していく  が進展し,新たな規模の経済性を求めて,中間投 つかの代替的な市場区分の方法について考慮する。  入サービス企業及び大規模サービス企業が合併に この場合,それぞれの市場区分内における学生等  よってさらに大規模化するとともに,新サービス の諸環境要素のニーズ・選択方法・競争環境に対  の導入や競争企業に対する対応が一層迅速化し,

する知覚についての洞察を得る。        国際的活動が増加し,新たな範囲の経済を実現し さらに,内部環境の分析を行う。ここでは,そ  ている。

の資金的・人的・物的・情報・システム資源,制   また,専門サービス産業・職業における科学技 約,経営の質・目標を確定する。この分析の結果  術の導入が,サービス品質を高め,一層複雑・綿 を踏まえて,現行又は新教育サービスに適切ない   密な経営を可能にし,この結果,限界費用を増大 くつかの市場区分を設定する。      せずに高品質の多様なサービスの生産・販売によ また,競争環境の分析を行う。ここでは,競争   り顧客と企業を直接結びつけ,顧客に対する個別 者の確定と分析を行い,大学の長所と短所,差別  的な対応を迅速・適確にしつつある。

化のための機会を洞察する。このことによって,   職業構造については,高学歴者による専門的・

標的とする学生等の諸環境要素に対してどのよう  技術的職業従事者が増加し,雇用・就業の面では,

な便益を供給すべきかが明らかになる。この場合  職業的関心から企業を選び,企業の中で特定の専 の競争者については,直接的な競争者についてば  門分野をたどる専門職を希望する者の増加傾向が かりでなく,間接的な競争者についても分析を行  みられる。この点から,人材育成についても,例 う。以上のステップを統合して,市場における位  えば,技能者については,従来の熟練技能だけで 置付けを決定するのである㈹。      なく,科学技術の知識と技術を持った技術者への これらの環境・内部資源要素の分析に関して,  移行により,技術革新による急激な変化の時期に 我が国の場合,例えば,産業環境・市場環境要素  対応するため,従業員訓練はOJTでは不十分で,

のソフィステケイト化・知的サービス化,学術研  Off−JTを併用する傾向がみられる。

究の高度化,技術革新・情報化・国際化による人   組織の問題については,技術革新により,これ 材需要のソフィステケイト化,進学率の増大,学  まで多くの労働力を必要としたルーチンワークが 生の多様化,18歳人口の減少及び高齢化に伴う生  減少し,情報技術の発達により情報の共有化が進 涯学習ニーズと大学に対する社会的期待の増大が  むため,組織の簡素化,フラット化が進行し,人 挙げられる。この場合,高度知的サービス供給者  間による組織間の調整機能が削減する。その結果 としての大学教育に対する諸環境のニーズの規模  課制の廃止,グループ制への移行,中間管理職の と方向性の予測との関連で,特に,産業環境・市   削減傾向がみられる(13)。

(10)

こうした環境変化に伴って,企業の戦略的経営  で行うようになっている。こうした関与が自身の が,顧客自身による価値創造への支援を主とする  消費の価値を高める。その消費は,より目的志向 顧客志向へ向かっている。即ち,工業化社会にお  になり,同質的な大量消費を特徴づける受動的な いては,顧客をある種の活動から解放するために  消費行動は,しばしば,特定化された個別的・能 物財・サービスを生産したが,今日では,顧客が  動的行動に置き換えられる。

自分自身のためにあることをなすことができるよ   多くの重要な消費分野において,顧客が自身の うにさせる,即ち,顧客自ら価値創造活動を行う  価値創造に参加することに意欲を持ちつつあり,

ことができるようにするために,物財・サービス   ソフィステケイト化された消費需要と意欲が増大 の生産が行われる傾向がみられる。        している。また,こうした消費目的の変化に伴っ これらの傾向の基盤には,第1に上述の技術的  て,顧客自身の学習が重要な構成要素となってい 要素のウエイトが大きい。特に,情報技術の発展  る。特に,レベルの高い物財・サービスの消費の は,情報の蓄積・処理・伝達のより迅速で効率的   場合には,顧客の持つ既存の知識では不十分で,

な方法を供給する。この結果,知識は,多方面に  顧客は,供給者と提携して知識の発展のために自 組織階層の多くのレベルに渡って広がる。異なっ  ら参加することが必要となっている。こうした環 た資源相互の間に,その物的・組織的・階層的・  境要素の動向は,高度知的専門サービス供給者と 地理的な相違にかかわらず,効率的なチャネルが   しての大学の戦略策定と密接にかかわる(14)。

作り出されている。このことは,さらに転じて,  (2) 使命の確立

例えば,データ・情報・知識・活動等の相互の関   以上の環境・資源分析に基づいて,大学の使命 係に対して顧客の関心を呼び起こし,顧客にとっ  を再検討・確定し,これを基盤としてより具体的 て,情報資源は,より容易に迅速に蓄積・伝達・  な目的・目標を再検討・確定する。ここでは,大 処理されるようになっている。かくして,情報技  学がなすべきことは何か,誰が顧客か,顧客にとっ 術は,組織体・素材供給者・顧客,その他のパー  て大学の価値は何か,大学は今後どうなるべきか,

トナー間の境界を取り除くことに成功しつつある。  大学の教育サービスとしての今後の活動はどうあ 第2の基盤として社会的要素がある。特に顕著  るべきか,を確定する㈲。

に認められる社会的要素として,まず,高学歴化   大学に関する外部環境要因の法的規制として,

があり,このことが,新しい事物を学ぶ習慣を育  我が国の場合,憲法・教育基本法・学校教育法・

て,生涯を通じて学習を継続させる傾向を生んで  大学設置基準が挙げられ,直接的には,特に,学 いると同時に,知的教育サービスが,職業生活と  校教育法・大学設置基準が重要なかかわりを持つ。

消費生活に影響を与えている。さらに,若年の時   これらの中で,大学の使命・目的に関して,学校 期からのそれぞれの国際的経験が,世界市民を作  教育法において「大学は,学術の中心として,広 り出し,その選択を多様化している。また,物的  く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授 豊かさの中での新しい需要が,自己実現・成長・  研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させ アイデンティティを作り出す個人主義の方向に向  ることを目的とする。」(学校教育法第52条)と かっている。       規定されている。

このことに関連して,市場としての顧客の変化   これを,高度知的専門サービス供給者としての についてみれば,これらの技術的要素と社会的要  観点から解すれば,大学は,公共サービスとして 素を基盤として,顧客は,新しい消費のパターン  全体システムとサブシステムとの調和を図るとい を作り出している。そこでは,顧客は,経費を節   う規範性を踏まえながら,サービスコンセプトと 減することのほかに,その購買する物財・サービ  しての高度知的専門サービスの研究開発と,その スからより多くの価値を得るために,物事を自身   成果・方法を学生等の諸環境要素に供給すること

(11)

によって,それぞれのシステム的価値創造による  スの供給による知的要素の育成に関して,例えば 社会的自己実現を支援することを使命とする。そ  昨今では前述の外部環境における産業のソフィス こには,サービス産業の特質としての社会的ダイ  テケイト化に関連して,企業の経営管理者は,戦 ナミックスにつながる自由な発想と公共サービス  略的経営の矛盾した状況に直面する。即ち,経営 としての自律的コントロールシステムが存在する。  管理者は,一方で,計画による利益を上げるため

全ての人生の目的は,オープンシステムにおけ  に組織的効率性と内部の安定性とを維持する役目 る社会的自己実現として社会と個人の相互関係に   を果たさなければならないが,他方で,外部環境 おいて概念化される。社会のサブシステムとして  要素の脅威・機会要因に対応して企業を迅速に変 の顧客,即ちこの場合の学生等の諸環境要素は,  化させることが求められる。こうした一見矛盾す より広いシステムによって決定されている目標を  る状況を均衡させるには,どのような能力が必要 達成しなければならない。したがって,そのさま  であるのかが問題となる。

ざまな態様の自己実現は,全て社会の維持と発展   変化する外部環境要素の中で,最高経営管理者 を基盤としてなされるのである。        の戦略的経営が困難になる能力的な理由は,概念 かくして,諸環境要素の価値創造は,サブシス  的な能力,即ち,前述の知的スキルを十分開発し テム・オープンシステムとしての社会的自己実現  ないところにある。狭く定義された初心者レベル にほかならず,大学の教育的使命は,高度知的サー  の職務で有用な能力は,通常,より広く定義され ビスの研究開発と,その成果・方法の供給によっ   た最高経営管理者の場合にはほとんど価値がない。

てこれを支援するところにある。学生等の諸環境  有効な経営管理は,次の三つの基本的能力,即ち,

要素をシステム的価値創造の観点から理解し,そ   技術的・人間的・概念的能力の適切な配合にかかっ れらの期待に適切に対応することが必要である(16)。  ている。

さらに,この規定に関連して注意すべきことは,   技術的能力は,職務を遂行するために,技術を 学校教育法制定前においては,大学その他の高等   用いる能力から成り立ち,事物に関連する。人間 教育サービス産業については,帝国大学令・大学   的能力は,目標の達成に人々と共に働く能力から 令・高等学校令・専門学校令・師範教育令等の各  成り立つ。概念的能力は,企業を,その環境に影 種勅令によってその根拠が定められていたが,こ  響を与え,環境から影響を受けるものとして,そ れらの諸勅令は,学校教育法の制定とともに廃止  の複雑性を理解できる能力で,状況の発生理由と され,すべて学校教育法において規定されるとこ  企業に対する全体的把握に関連する。

うとなった。      企業の監督管理層から最高管理層へ移るに従っ このことは,従前の大学制度にとって,初等教   て,技術的能力に対するニーズが減少し,概念的 育・中等教育と同一の学校教育体系の延長上とし  能力に対するニーズが増大する。また,最高経営 ての位置付けは第二義的であったのに対し,現行  管理者の能力を持つとみなされる者ほど,問題を の学校教育法に包括されたことによって,大学が,  概念化し,情報を企業のさまざまな機能の分野に 小学校・中学校・高等学校に接続する一貫した学   交差させて用いることができる傾向が多いとされ 校体系の一環として位置付けられたとを意味する  る。こうした技術的能力から概念的能力の重視へ ものと考えられる。この点から,大学は,教育サー  の移行は,企業にとって,基本的に,企業の管理 ビス産業の一分野として共時的・時系列的にその   者によって遂行される概念的職務が戦略形成の中 特質と共通性が問われることになったのであり,  核であることを示しており,このことが高度知的 戦略的経営の観点からも,特に,高等学校等の中   サービス供給者としての大学の人材育成の使命と 等教育に対する理解が一層求められている。    深くかかわっている(17)。

ちなみに,使命としての高度の知的専門サービ   (3) 戦略策定

(12)

以上の使命の確定に次いで,戦略策定を行う。  く,学生等の諸環境要素の便益のトータルシステ 大学における戦略策定もまた,前述のサービス産  ムを供給するという観点である(18)。

業の経営システムの構造に則して,教育サービス   さらに,新教育サービスコンセプトの開発のプ コンセプト,市場区分,教育サービス供給システ  ロセスにおいて,第1に,その発想の基盤として,

ム,イメージについて行われる。         現在及び潜在的学生の居住地域,現在の教育サー 以下,高等教育サービスマーケティングの観点  ビスに対する不満,他の教育サービス産業・経済 から,特に,考慮すべき点について検討する。   的・社会的変化の予測,外国の教育サービス,学 まず,教育サービスコンセプトの開発について,  生等の諸環境要素の教育サービスに対する知覚と そのプロセスは,一般的なサービスコンセプトの  大学側の知覚とのギャップ,満たされないニーズ 場合と同様,顧客である学生等の諸環境要素の便   を持つ学生の行動,について分析する必要がある。

益の確定,教育サービスコンセプトの確定,教育   例えば,現在の学生の教育サービス供給の場に サービスコンセプトのデザイン,教育サービス方  おける存在の有無について,教育サービス供給の 式,教育サービスレベルのステップによるが,そ  全てのプロセスを通して存在する必要があるのか,

の他に,特に教育サービスの開発の方向と市場の  教育サービス供給の始めと終わりに存在する必要 開発の方向とのベクトルの観点から特に考慮すべ  があるのか,教育サービス供給の全てを通して存 き局面として,新教育サービスコンセプト,新市  在する必要がないのかを検討する。さらに,現在 場における教育サービスの種類に適合する資源,  の学生の教育サービス供給の際の精神的関与の問 教育サービスの範囲がある。      題について,その精神的関与は,物理的に隔たっ 新教育サービスコンセプトについては,次世代  たところで,通信を通じて維持されることができ の教育サービス,大学にとっては新規であるが,  るかについて検討する。特に,双方向性のコミュ 市場においてはすでに実施されている教育サービ  ニケーション媒体が,教員と学生がそれぞれ離れ ス,すでに実施されているが,新市場にも適用で  た場所にいながら,そのプロセスにおいて必要が きる教育サービス,全く新しい教育サービスの枠  あれば,直接に相互作用することを可能にする。

組みがある。       また,大学の使命をより具体化して設定した教 新市場における教育サービスの種類に適合する  育サービスの目的が,現在及び潜在的学生によっ 資源については,市場参入のために大学が持って  て教育サービスが受容される段階でどのように修 いる,あるいは持つことのできる資源は何かにつ  正されるか,現在及び潜在的学生は,その修正さ いて検討する必要がある。      れた教育サービスの目的から,どのようにして便

さらに,教育サービスの範囲は,その市場区分  益を得るかについて検討することも必要である。

とそれぞれの市場区分に応じた教育サービスの種  前述のように,教育サービスの非触知性等の特質 目に関連する。教育サービスの範囲をデザインす  から,実際の教育サービスがどのようなものであ る場合に,教育サービスの最適な範囲,競争者の   り,現在及び潜在的学生に対して実際に何をなす 教育サービスに対する市場での位置付け,個々の  ことができるかについては,必ずしも明確ではな 教育サービスの補完性,範囲の開発による相乗効  い。この点から,教育サービスの目的を確定し,

果について配慮する。      それが現在及び潜在的学生によって受容される段 このことは,高等教育サービス産業としての大  階でどのように修正されるかを調査することによっ 学が,多角的に成長することを意味すると共に,  て,教育サービスの性質とそれが供給する中核的 システム的な高等教育サービスの供給という考え  便益に対する理解を深めることができるのであ 方の発展を示すものである。即ち,高等教育サー  る(19)。

ビス産業は,教育に関する狭いコンセプトではな   第2に,評価基準を設定し,その評価基準に照

(13)

らしていくつかの代替案を比較秤量し,優先順位  応じて次の意思決定がなされる。即ち,C・Q・

をつける。この場合,戦略的に重要なことは,全   MV共に高の状況には大規模な拡大と質的レベル ての大学に適用される唯一の評価基準というもの  の一層の向上が,Cが高でQ・MVが低の状況に は存在しないということである。大学は,それぞ  は規模の縮小と質的レベルの向上が,C・Q・M れの特定の戦略的要素の分析に照らして,自らの   V共に中の状況には規模と質的レベルの現状維持 評価基準を開発し適用する必要がある(2°〉。     が,Cが低でQ・MV共に高の状況には規模の拡 第3に,以上を踏まえて,教育サービスコンセ  大と質的レベルの現状維持が,C・Q・MV共に プトを開発しテストする。教育サービスコンセプ  低の状況には規模の縮小又は廃止が,意思決定と

トの開発においては,代替案の中から教育サービ  してなされる。

スとして可能なものが機能的・客観的な用語で定   第2に,学生確保の機会設定に関する戦略とし 義される。教育サービスコンセプトのテストにお  て,例えば,教育サービス経営システム(現行・

いては,開発された教育サービスコンセプトに対  修正・新規)と市場(現在・地理的・新規)の要 する標的とする現在及び潜在的学生グループの反  素のマトリックスにより次の戦略が策定される。

応を検討する。       即ち,現在の教育サービス経営システムの下で,

第4に,開発された新教育サービスコンセプト  さまざまな促進活動により学生をより多く集める を,大学の事業としての要請の観点にたって検討  市場参入戦略(例えば,オフィスアワーの設定,

する。即ち,高等教育サービス事業の観点からみ  多様なメディアの活用,高等学校での学習内容に たコンセプトの魅力,その成否の可能性について  配慮した授業の実施),現在の教育サービス経営 分析する。その主たる分析は,新教育サービスコ  システムのための新しい市場機会を得るための,

ンセプトを実施する際に必要な人材・物的資源,  地理的拡大戦略(例えば,都市の新地域,新都市,

既存の教育サービスの範囲に対する新教育サービ  外国への進出による高等学校・大学院の設置),

スの貢献,イノベーションに対する予想される学  現在の教育サービス経営システムによって,新市 生等の諸環境要素の反応,他の教育サービス産業  場を開拓するための新市場開発戦略(例えば,個 の予想される反応,についてなされる。      人として老人・主婦,団体として企業・社会団体

以上の戦略的マーケティングを踏まえて,全体  を対象)が策定される。

的な大学の戦略策定を行う。そのために,例えば,   さらに,現在の市場に適合するための教育サー 大学に関するポートフォリオ分析を行う。即ち,  ビス経営システムの部分的修正戦略(例えば,主 第1に,現在の教育サービス(学部・学科・コー  婦,職業を持つ女性のような通常の通学が不可能 ス・教育課程)の点検・評価(ランク付け)によっ  な者のために短期コース・夜間コース・週末コー て,それぞれの存続・廃止・修正を決定する。そ  スの設定,新供給システムとして通学のための交 のために,それぞれの要素について,前述の大学  通手段の開発),分散市場のための教育サービス の使命の遂行にとって中核となるレベルの次元  経営システム修正戦略(例えば,国内外に分散し

(centrality,以下,記号Cで表す),及び全国的  ている企業の従業員のための教育サービス経営シ レベルと比較した場合の評価(quality,以下,  ステムの構築),新市場のための教育サービス経 記号Qで表す)をマトリックスとして構成し,そ  営システムの修正戦略(例えば,定年退職者のた れそれの交差した状況について実行可能性のレベ  めに,授業時間の短縮,テキストの文字の大きさ ル(market viability,以下,記号MVで表す)  等の改善)が策定される。

を付加し,各次元を,高・中・低の順位に区分す    また,現行及び新規の市場を対象とする教育サー る。      ビス経営システムの範囲の変更(拡大・多様化・

このことによって,例えば,それぞれの状況に  新開発)を行う部分的・地理的・全体的革新戦略

参照

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