宮崎県小林市の令和2年改定版
「こすもす科」の社会的課題への挑戦
Challenge the Social Issues of “Kosumosuka” Revised in 2020 in Kobayashi City, Miyazaki Prefecture
佐 藤 実 芳
SATO Miyoshi
キーワード:こすもす科、手話、情報モラル教育はじめに
宮崎県小林市では、平成 21 年度より「自ら目標をもち、未来をたくましく生きぬく子ども の育成」を目標に、全市立小中学校において「こすもす科」を新設して小中一貫教育を実施し ている。
「こすもす科」のテキストは、小林市教育委員会が市内の小中学校教員の協力を得て、市内 の児童生徒用に作成している。平成 22 年3月 23 日に小林市と野尻町が合併したことにともな い、平成 24 年度に「こすもす科」のテキストが改訂された。そして、令和2年度に、新学習 指導要領に基づく授業改善とキャリア教育の推進及び社会的課題への対応という観点から、再 び改訂版テキストが出版された。
本稿では、同市が Society5.0 超スマート社会など、変化の激しい社会の中で求められる能力 の育成を目指して「こすもす科」に新たに取り入れた内容である手話と情報モラル教育につい て検討し、同市が目指す新しい「こすもす科」の特徴を分析する。
1.手話
(1)小林市手話言語条例
平成 18 年 12 月 13 日に国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」1)の第 21 条(表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会)には、手話に関して以下の2項目がある。
⒝ 公的な活動において、手話、点字、補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら 選択する他の全ての利用しやすい意思疎通の手段、形態及び様式を用いることを受け入 れ、及び容易にすること。
⒠ 手話の使用を認め、及び促進すること。
更に第 24 条(教育)の1では、以下のように定められた。
締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、
機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯 学習を確保する。当該教育制度及び生涯学習は、次のことを目的とする。
⒜ 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに 人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
⒝ 障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最 大限度まで発達させること。
⒞ 障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。
また、平成 23 年に改正された「障害者基本法」の第3条においては、以下のように手話が 言語として位置付けられた。
第3条 第1条に規定する社会の実現は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本 的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保 障される権利を有することを前提としつつ、次に掲げる事項を旨として図られなけれ ばならない。
一 全て障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の 活動に参加する機会が確保されること。
二 全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保さ れ、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。
三 全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段 についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段につ いての選択の機会の拡大が図られること。
小林市では、「手話が言語であるとの認識に基づき、手話の理解と広がりをもって、全ての 市民が互いに助け合いながら安心して暮らすことができる」ことを目指して、平成 29 年 12 月 の市議会定例会において「小林市手話言語条例」が全会一致で可決され、平成 30 年4月1日 から施行された。
「小林市手話言語条例」(平成 29 年 12 月 22 日 条例第 22 号)の前文には、「手話を必要とす る人がいつでもどこでも安心して意思疎通を図ることができる地域社会の構築」を目指すこと が明記された。そして第6条(学校における理解の促進)において、以下のように定められた。
第6条 市は、学校教育の場において、基本理念にのっとり、手話に接する機会の提供その 他の手話に親しむための取組を通じて、児童生徒等に対し、手話への理解の促進に努 めるものとする。
2 市は、学校教育の場において、手話を必要とする児童生徒等に対し、手話による学 習支援に努めるものとする。
今回の「こすもす科」の改定により、手話が新しい指導項目として取り入れられたのは、障 がい者の権利を認めようとする世界的な潮流を背景として、「小林市手話言語条例」に基づき、
教育現場において共生社会を実現していくためである。
(2)手話の学習
手話の学習は、「こすもす科」においては「他者領域」のコミュニケーション能力を身に付 けさせるという項目に含まれる。ここでは、「社会規範に基づき、自他の個性を尊重し合いな がら、相互の信頼関係を築き、民主的な集団や社会を形成することができる資質や能力を育成 する」2)ことを目標に、「コミュニケーション能力」の育成を目指している。手話の学習は、小 学校3年と5年で各2時間(手話にふれよう)、中学校3年で3時間(手話で表現してみよう)
が組み込まれている。
① 小学校第3学年:「手話にふれようⅠ」(2時間)
この単元の目標及び各時間での目標は、『こすもす科指導者用手引きⅡ【令和2年 改訂版】
小学校 第3・4学年用』に以下のように示されている。
<単元の目標>
コミュニケーション(会話)の方法としての手話に関心をもち、基本的な手話に触れること をとおして手話の大切さを学び、手話に親しむことができる。
<1時間目の目標>
コミュニケーション(会話)の方法としての手話に関心をもち、基本的な手話に触れること をとおして手話の大切さを学び、手話に親しむことができる。
<2時間目の目標>
コミュニケーション(会話)の方法としての手話に関心をもち、簡単な手話を身に付けるこ とができる。
平成 29 年度告示の小学校学指導要領により、小学校3年生から外国語活動が導入された。
同指導要領の「第4章 外国語活動」では、その目標が以下のように示されている。
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国語による聞くこと、
話すことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとお り育成することを目指す。
⑴ 外国語を通して、言語や文化について体験的に理解を深め、日本語と外国語との音声の 違い等に気付くとともに、外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにする。
⑵ 身近で簡単な事柄について、外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを 伝え合う力の素地を養う。
⑶ 外国語を通して、言語やその背景にある文化に対する理解を深め、相手に配慮しながら、
主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。
手話を外国語と同様に言語と考えると、聴覚障がい者にとって手話がコミュニケーションの 手段であることを児童に理解させるには、小学校3年から始めるのが妥当であるといえる。
幼い頃から、障がいについて学習し、手話も言語の一つであることを理解させることにより、
「小林市手話条例」に示された「手話の理解と広がりをもって、すべての市民が互いに助け合 いながら安心して暮らすことができる小林市」が実現するであろう。
3年生では、ゲストティーチャーに数や季節を表現する手話を教わり、学んだことを児童が 家庭で話題にすることが勧められている。学校で学んだ手話を児童が家庭で披露することによ り、おのずと家庭にも手話の知識が広がることが期待できる。
② 小学校第5学年:「手話にふれようⅡ」(2時間)
この単元の目標及び各時間での目標は、『こすもす科指導者用手引きⅢ【令和2年 改訂版】
小学校第5・6学年 中学校 第1学年用』に以下のように示されている。
<単元の目標>
コミュニケーション(会話)の方法としての手話に関心をもち、基本的な手話に触れること をとおして手話の大切さを学び、自分の気持ちを手話で表すことができる。
<1時間目の目標>
コミュニケーション(会話)の方法としての手話に関心をもち、基本的な手話に触れること をとおして手話の大切さを学び、自分の気持ちを手話で表すことができる。
<2時間目の目標>
手話に触れることをとおして手話の大切さを学び、基本的な手話を身に付けることができる。
5年生では、聴覚障がい者が日常生活で困っていることを理解すると共に、「暑い」、「寒い」、
「嬉しい」、「悲しい」、「痛い」などの気持ちを表現する手話を学習する。聴覚障がい者と出会っ た場合、その人の気持ちを考えて行動することが大切である。手話を習得するのは容易なこと ではないため、手話で話すことが出来ない場合は、筆談という方法があることも児童に教える。
③ 中学校第3学年:「手話で表現してみよう」(3時間)
この単元の目標及び各時間での目標は、『こすもす科指導者用手引きⅣ【令和2年 改訂版】
中学校 第2・3学年用』に以下のように示されている。
<単元の目標>
手話がコミュニケーションの手段の1つであることを理解し、手話に親しむことで、様々な 人たちと共に生活することができる。
<1時間目の目標>
聴覚障がいとはどのような障がいなのか、手話とはどのような言葉なのかについて理解し、
様々な人たちとの共生について考えることができる。
<2時間目の目標>
自分たちにできることの 1 つとして、「手話」についての理解を深めて意欲的に実践をする ことができる。
<3時間目の目標>
自分たちの調べた手話での会話を発表し、手話に対する理解を深めるとともに、意欲的に実 践することができる。
中学校3年生では、聴覚障がい者が実際に困っている具体的な場面を想定して、どのような 言葉を選択するのが良いのかを生徒に考えさせる。そして困っている人がいたら手を差し伸べ ることができるように、グループごとに手話を使ったロールプレイで疑似体験をさせ、「手話」
で会話をする際には、口の動きや表情、手の動きなども情報伝達の助けになることを学習させ る。
小林市の児童生徒は、「こすもす科」において「手話」を小学校3年生から学び、中学校3 年生で「手話」を実践的に使用することにより「手話」の基本的な知識を取得するだけでなく、
様々な人と共に生活していくことの大切さを自然に身に付けていくであろう。このような取組 がなければ、「小林市手話条例」を実現することは難しく、机上の空論に過ぎなくなる。
2.情報モラル教育
平成 20 年3月に告示された学習指導要領の内容を踏まえ、発達の段階に応じた情報モラル 教育が推進されてきた。文部科学省も、教育の情報化の推進に取り組み、同省ホームページの
「情報モラル教育の推進」に含まれる5項目の中の「情報モラル教育の充実」で、児童生徒向 けの啓発資料を提供している。しかし、平成 29 年3月に告示された小学校及び中学校の学習 指導要領では、情報モラル教育というよりは、情報活用能力(プログラミング教育を含む)で ある、以下の2点が取組としてあげられている。
・コンピュータ等を活用した学習活動の充実(各教科等)
・コンピュータでの文字入力等の習得、プログラミング的思考の育成(小:総則、各教科等
〈算数、理科、総合的な学習の時間など〉)3)
総務省総合通信基盤局 消費者行政第一課による「インターネットトラブル事例集(2020 年 版)」には、以下のように述べられている。
インターネットやスマートフォンは、安全に正しく使うことができればとても役立つ便利 なものです。しかしながら、事件や犯罪に巻き込まれるきっかけになったり、誹謗中傷やい じめの温床になるなど、残念な事実もあります。また、子供たちが被害を受けるだけではな く、加害者になってしまうケースも生じています。
これからのデジタル社会を生きていく子供たちを被害者・加害者にしないためにも、イン
ターネット、スマートフォンを始めとするデジタル機器、SNS などのコミュニケーションツー ルを 「賢く活用する知識・知恵」 「ルールを守って使える健全な心」 「安全に利用するための 危機管理意識」 を育むことが、とても大切なのです。4)
小林市では、令和元年度に市内の児童生徒に携帯電話やスマートフォン等に関するアンケー トを実施した。その結果に基づき「こすもす科」のテキストには、情報モラル教育が、小学校 1年生から中学校3年生の各学年において、他者領域のコミュニケーション能力の項目として 発達段階に応じて系統的に以下のように組み込まれている。
① 第1学年:「生活をみなおそう」(2時間)
<単元の目標>
○ まわりの人の迷惑にならない過ごし方について考えることができる。
○ これからの自分の過ごし方について見直すことができる。
「情報モラル教育は、これからの時代を生きる子どもたちの人間関係作りに大変重要であり、
早い段階に指導することが望ましい」5)という小林市の考えにより、小学校に入学した段階から 情報モラル教育が始まる。小学校1年生では、周りの迷惑にならない過ごし方について、公園 の風景画を教材として用いる。ゴミをポイ捨てしている子ども、周囲に遊んでいる子どもがい るのにフリスビーを投げて犬と遊んでいる女性、自転車に乗ってスマートフォンを操作してい る男性など、小学校1年生でも周りの人に迷惑になる行動がわかりやすく、日常生活で気を付 けるべきことが具体的に理解できる。情報モラルの基本は、人に迷惑をかけないことである。
そのことを小学校1年生から年齢に応じた内容として厳選し教えることは、極めて重要なこと である。
② 小学校第2学年:「つかいすぎていないかなⅠ」(2時間)
<単元の目標>
○ 長い時間、ゲームやインターネットを使うと良くないことを知る。
○ これまでの自分の行動について見直し、これからの生活を意識して過ごすことができる。
内閣府が実施した「令和元年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、令 和元年度のインターネットの利用時間は、6歳で 76.3 分、7歳で 85.1 分、8歳で 97.4 分、9 歳で 101.8 分と、年齢と共に利用時間が長くなっている。ゲームやインターネットの過度な使 用による生活習慣の乱れや睡眠不足は、児童の健康や学習に悪影響を及ぼす。学校教育でその ことについて児童が的確に理解できるように努めれば、児童が相互にゲームやインターネット の過度な使用を控えることが期待できる。また、家庭でもゲームやインターネットの使用ルー ルを決め、それを守る習慣を身に付けさせることで、早くから児童にゲームやインターネット、
スマートフォンの長時間利用を自制する力を育てさせることができると期待される。
③ 小学校第3学年:「自分と相手の違い」(2時間)
<単元の目標>
○ 言葉の受け取り方は、人それぞれ違うことを知る。
○ これまでの自分の行動について見直し、これからの生活を意識して過ごすことができる。
言葉は、一人一人受け止め方が異なる。何気ない一言で、相手を傷つけてしまうことがある ことから、言葉遣いに気を付けることは日常の会話でも大切なことである。特に SNS などの 会話の場合、「?」 と 「!」 では意味が真逆になる可能性があるなど、対面での会話以上に注意 が必要である。SNS などのトラブル防止策として、顔文字やスタンプなどの活用があることを 児童に教え、対面での会話とは異なる工夫をする方法を教える。
3年生は、外国語活動の時間で英語の学習が始まると同時に、「こすもす科」では手話の授 業がある。コミュニケーションにはいろいろな方法があり、各々特徴がある。それを理解した 上で活用することの重要性を学ばせるという点で、3年生でのこの授業は極めて深い意味を持 つ。
④ 小学校第4学年:「つかいすぎていないかなⅡ」(2時間)
<単元の目標>
○ ゲームやインターネットの適切な使い方について考える。
○ これまでの自分の行動について見直し、これからの生活を意識して過ごすことができる。
インターネットの利用時間は、年齢と共に長時間になる傾向がある(表1参照)。児童に長 時間のゲームやインターネット利用について繰り返し考えさせることにより、それらの使い過 ぎに注意し、時間の有効な利用の仕方を身に付けさせることができるであろう。
表1:年齢別インターネットの平均利用時間(9歳~ 16 歳)
年齢 9歳 10 歳 11 歳 12 歳 13 歳 14 歳 15 歳 16 歳 平均利用時間(分) 101.8 116.2 131.4 141.9 163.8 174.5 205.8 252.5
内閣府「令和元年度 青少年のインターネット利用環境実態調査(速報)」16 頁より作成。
⑤ 小学校第5学年:「ネットゲームに夢中になると・・・」(1時間)
「SNS への書き込みの影響」(1時間)
「パスワードについて考えよう」(1時間)
<単元の目標>
○ ゲーム依存の傾向や問題点を理解し、けじめをつけてインターネットを利用する。
○ SNS への不適切な書き込みの問題点と影響を考えることを通して、インターネット上に 情報を発信する際の責任を理解させ、インターネットを適切に利用する態度を養う。
○ パスワードを適切に用いて情報機器やインターネットのサービスを利用しようとする態 度を養う。
内閣府「令和元年度 青少年のインターネット利用環境実態調査(速報)」14 頁より作成。
図1:子どもの年齢別子ども専用の機器の保有率
図1は、子どもの年齢別子ども専用の機器の保有率である。10 歳以降、子ども専用の機器を 使用する割合が急増し、親との共用の割合が減少する。子ども専用の機器を使用するようにな る小学校5年生くらいから、子どもがインターネット関連に精通し、SNS を活用する機会が増 えてくることを踏まえ、ゲームやインターネットを使い過ぎていないかを改めて検討させ、健 康的な生活ができるように指導しておくことは意味がある。また、インターネットの書き込み の危険性をわかりやすく伝え、理解させておくことも必要である。インターネットの特徴とし ての「公開性(全世界に公開される可能性)」と「記録性(削除できない)」を理解することが できていれば、児童がトラブルに巻き込まれる危険も少なくなる。インターネットサービスを 利用する際は、パスワードを用いてロックをかけることで、自分のプライバシーや身の安全を 守ることができることに関しても、5年生から習慣づけることにより、将来的にも安全にイン ターネットを利用することができると考えられる。
日本では、携帯電話やインターネットが急速に普及する反面、情報モラル教育が遅れている。
情報モラルに関して、子どもに教えることができる十分な知識が全ての家庭にあるわけではな い。学習内容を学級通信などで家庭に伝えることにより、家庭でも学校と同様な指導が可能に なり、家庭が学校での学習成果を実践する場となる。
小学校高学年から増加する「ネットいじめ」などの問題で子ども達が傷つかないよう、学校 で徹底した情報モラル教育をこの時期に実施することは極めて有意義だと考える。
⑥ 小学校第6学年:「そのページ、確認しなくて大丈夫?」(1時間)
<単元の目標>
○ 無料を装って個人情報を取得するウェブサイトやアプリが存在することを理解させるこ とを通して、安全に賢くインターネットを活用しようとする態度を養う。
個人情報を取得する危険なウェブサイトやアプリがある。早い時期に、児童に個人情報の取 得を目的とする悪質なウェブサイトやアプリが存在することを理解させておくことは、トラブ ルに巻き込まれないために重要なことである。インターネットを利用する際は、無料のウェブ サイトやアプリでも安全か否かを確認したうえで接続する習慣を身に付け、安易に個人情報を 発信しないことを徹底させる必要がある。
平成 20 年に制定された「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備 等に関する法律」(平成 20 年 法律第 79 号)が平成 30 年に改正され、新たに携帯電話事業者 には、契約締結時の青少年確認義務や説明義務、フィルタリングの設定やインストールを行う 有効化措置義務が課された。青少年が安全に安心してインターネットを利用できるように、フィ ルタリングの利用促進を目的とした法整備も行われている。しかしフィルタリングの利用には、
携帯電話事業者と契約する保護者の理解と協力が不可欠である。児童に悪質なウェブサイトや アプリの存在を理解させるだけでなく、学校は家庭とも連携してそれらから児童を守ることが 必要である。
⑦ 中学校第1学年:「身近にひそむネット依存」(2時間)
○ 「ネット依存」を防ぐために、健康や社会生活を意識しながら、適切にインターネット と関わることができるような自己管理のあり方について考え、実践できる態度を養う。
ネット依存とは、インターネット(スマートフォンを含む)の使用を自分の意志でコントロー ルできない状態のことをいう。ネット依存防止策として、ネット依存について予め理解し、生 徒自身が節度をもってインターネットを利用することが大切である。表2は、インターネット を3時間以上使用する年齢別割合(12 歳~ 16 歳)である。13 歳になると、5時間以上使用し ている割合が1割を超え、16 歳では3割を超える。勉強等に利用している生徒もいるが、中学 生では動画の視聴やゲーム、コミュニケーション関連の利用が多い。ネット依存になった場合、
日常生活のリズムが崩れて昼夜逆転の生活になり体調を崩しかねない。学校も休みがちになり、
勉強も疎かになる。生徒がネット依存に陥って直面する深刻な現実を事前に理解することがで きていれば、インターネットの魅力に負けることなく、それらを活用をする態度が育成される ことが期待できる。
表2:インターネットを3時間以上使用する年齢別割合(12 歳~ 16 歳)
3時間以上4時間未満 4時間以上5時間未満 5時間以上 3時間以上 12 歳 16.0% 8.0% 9.3% 33.3%
13 歳 18.9% 10.6% 13.1% 42.6%
14 歳 16.8% 10.0% 17.6% 44.4%
15 歳 22.6% 10.7% 23.6% 56.9%
16 歳 19.3% 16.1% 32.9% 68.3%
内閣府「令和元年度 青少年のインターネット利用環境実態調査(速報)」16 頁より作成。
⑧ 中学校第2学年:「軽はずみな SNS への投稿」(2時間)
〇 SNS への不適切な写真の投稿の問題点とその後の影響について考えさせることを通し て、インターネット上に情報を発信する際の責任を理解させ、インターネットを適切に活 用する態度を養う。
SNS は、正しく活用すれば便利で有用である。危険であるから使用を控えるように指導する のでは、これからの情報社会には適応することができない。大切なことは、無責任な発信をし た際にどうなるのかを、生徒に理解させておくことである。
飲食店やコンビニ店のアルバイト店員が食材などで悪ふざけをする動画を SNS に投稿し、
企業が謝罪に追い込まれるトラブルが相次いでいる。その結果、職場に迷惑をかけるだけでな く、会社側から刑事、民事両面で法的措置が取られる事例も出ている。中学校2年生では、ア ルバイト店員の軽率な動画の投稿の映像を教材に用いる。中学校2年生では、「こすもす科」
において職場体験を実施するため、この時期に、SNS への軽率な投稿がどのような事態を招く か、インターネットの危険性について生徒に意識をさせることは、職場体験との相乗効果があ り、高い教育効果を期待することができる。
⑨ 中学校第3学年:「情報流出やネット詐欺の怖さを知ろう」(3時間)
〇 性的な写真や動画がインターネット上に流出する事案について、問題が起きてしまった 原因や、どのように行動すべきであったのかを考え、事態を深刻にするインターネットの 特性を理解するとともに、被害者にも加害者にもならないようにする態度を養う。
〇 インターネット上での契約や個人情報を入力する際に、トラブルに巻き込まれないよう にするための注意点を理解させ、トラブルに巻き込まれたときに解決を図るための判断力 を養う。
性的な写真や動画のインターネット上の流出の危険については、中学生でも友人関係のトラ ブルなどから生徒が直面する可能性がある。被害者にも加害者にもならないようにするために、
インターネット上に性的な写真や動画を投稿する行為が違法行為(「刑法」、「児童ポルノに係 る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」、「私事性的画像記録の提供等によ る被害の防止に関する法律等」)であり、軽率な行為が重い罪に問われることを生徒に教えて おくことは、生徒の軽率な投稿の防止に役立つ。
中学生段階では、インターネットショッピングや通信販売を利用することは少ないであろう が、将来的には誰しも利用する可能性がある。中学校卒業と同時に就職する生徒もいることか ら、学校での情報モラル教育の最後に、インターネットショッピングの利便性だけでなく、ネッ ト詐欺や不正請求などに巻き込まれないような判断力の基礎となる教育を実施しておくこと は、大変有意義なことである。
終わりに
好奇心旺盛な小学生にとって、手話はお遊戯感覚で簡単に覚えることができる。筆者も、放 課後子ども教室で「元気 100 倍アンパンマン」の手話を教えた経験がある。児童は興味津々で 手話を覚え、楽しく手話をしながら歌っていた。小林市でも、小学校3年生から障がい者のこ とを含め手話を教えていくことにより、将来的に真の意味の共生社会の実現が可能になると考 える。子どもの頃から共生社会が当然という意識を育てなければ、「小林市手話条例」を制定 したからといって社会は容易には変化するものではない。
新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、情報化社会が急激に進んでいる。情報機器の操作 の普及が先行し、情報モラル教育の遅れから、子ども達が様々なトラブルに巻き込まれている ことは、否定できない。小林市の9年間の一貫した情報モラル教育は、児童生徒が生涯に渡り 主体的に情報社会を生き抜く基礎を築くことを目指している。情報機器は時代とともに変化し ていくが、それを使う際のモラルさえ身に付けておけば、どのような機器でも主体的に使いこ なすことができると考えられる。
小林市の教育は、児童生徒が未来を生き抜く力の育成を目指している。予想することができ ない未来を生きていく児童生徒に、「こすもす科」という市独自の教育で素晴らしい人間性を 育成していくことを益々期待する。
注
1) 平成 18 年 12 月、「障害者の権利に関する条約」が第 61 回国連総会で採択され、平成 20 年5月に発効した。日本は、平成 19 年9月 28 日に当該条約に署名するとともに、様々な法 制度等の整備をはじめとする諸改革を実施して条約締結の準備を進めた。そして平成 25 年 に国会で条約締結が承認され、平成 26 年1月 20 日、障害者権利条約の批准書を国連に寄託 して、同年2月 19 日に日本において発効した。
2) 『こすもす科指導者用手引きⅠ【令和2年 改訂版】 小学校 第1・2学年用』「こすもす科」
総則 総 -7。
3) 文部科学省ホームページ「平成 29・30 年改訂 学習指導要領、解説等」の「幼稚園教育 要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント」
https://www.mext.go.jp/content/1421692_1.pdf(令和2年 12 月4日取得)。
4) 総務省 総合通信基盤局 消費者行政第一課「インターネットトラブル事例集(2020 年版)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000707803.pdf(令和2年 12 月4日取得)。
5) 『こすもす科指導者用手引きⅠ【令和2年 改訂版】 小学校 第1・2学年用』、22 頁。
主要参考資料
1.小林市教育委員会『こすもす科 小学1・2学年用 【令和2年 改訂版】』、令和2年。
2.小林市教育委員会『こすもす科 小学3・4学年用 【令和2年 改訂版】』、令和2年。
3.小林市教育委員会『こすもす科 小学5・6学年用 中学1学年用 【令和2年 改訂版】』、
令和2年。
4.小林市教育委員会『こすもす科 中学2・3学年用 【令和2年 改訂版】』、令和2年。
5.小林市教育委員会『こすもす科指導者用手引きⅠ【令和2年 改訂版】 小学校 第1・2学 年用』、令和2年。
6.小林市教育委員会『こすもす科指導者用手引きⅡ【令和2年 改訂版】 小学校 第3・4学 年用』、令和2年。
7.小林市教育委員会『こすもす科指導者用手引きⅢ【令和2年 改訂版】 小学校 第5・6学 年 中学校 第 1 学年用』、令和2年。
8.小林市教育委員会『こすもす科指導者用手引きⅣ【令和2年 改訂版】 中学校 第2・3学 年用』、令和2年。
9.総務省 総合通信基盤局 消費者行政第一課「インターネットトラブル事例集(2020 年版)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000707803.pdf (令和2年 12 月4日取得)。
10.内閣府「令和元年度 青少年のインターネット利用環境実態調査(速報)」
https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_torikumi/tyousa/r01/net-jittai/pdf/
sokuhou.pdf (令和2年 12 月4日取得)。
11.文部科学省『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)』、173 頁。
https://www.mext.go.jp/content/1413522_001.pdf (令和2年 12 月4日取得)。