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感染症学雑誌 第82巻 第 2 号
肺炎球菌による多発性化膿性脊椎炎・脊髄炎の 1 例
1)
松山赤十字病院内科,
2)同 細菌検査室
和泉 賢一
1)詫間 隆博
1)岡田 貴典
1)西山 政孝
2)横田 英介
1)(平成 19 年 7 月 9 日受付)
(平成 19 年 12 月 21 日受理)
Key words : Streptococcus pneumoniae, vertebral osteomyelitis
序 文
肺炎球菌は,通性嫌気性グラム陽性の双球菌で,そ の名のとおり肺炎,髄膜炎,中耳炎を起こす病原体と して有名である
1).しかし,化膿性脊椎炎の原因菌と しては報告はあまりない.今回,われわれは,肺炎球 菌による多発性化膿性脊椎炎・脊髄炎の 1 例を経験し たため報告する.
症 例
症例:73 歳,男性.
主訴:腰痛.
家族歴:弟が糖尿病.
生活歴:喫煙(−),飲酒:焼酎 1 合! 日 既往歴:2003 年,糖尿病・腰部脊柱管狭窄症.
肺炎球菌ワクチン接種歴なし.
現病歴:もともと腰部脊柱管狭窄症で慢性的に腰痛 があった.2005 年 11 月ごろから腰痛が急に悪化し近 医整形外科を受診.発熱はなかったが炎症反応高値を 認めたため,感染による腰痛の除外診断目的のため,
松山赤十字病院内科を紹介され,11 月 29 日入院とな る.
入院時身体所見:体温 36.7℃.血圧 144! 78mmHg.
脈拍 100! 分,整.胸部にて心音・呼吸音に異常を認 めず.腹部は平坦,軟で圧痛なく,肝脾腫触知せず.
腰背部に自発痛があったが,叩打痛は認めなかった.
神経学的所見は,意識レベル清明で,四肢に運動・感 覚障害は認めず,深部反射は正常で病的反射も認めな かった.
入院時検査所見(Table 1,2):検尿にて糖(3+)
と蛋白(+).末梢血にて白血球増加および核の左方 移動を認め,生化学検査では蛋白 5.3g! dL,アルブミ ン 1.9g! dL と低下,血糖 337mg! dL,HbA1c 8.6% と
高血糖状態であり,CRP 32.0mg ! dL と高値を認めた.
骨単純写真にて異常所見無く,MRI でも腰部脊椎 管狭窄症の所見以外明らかな異常は認めなかった.
入院経過(Fig. 1):入院 時,自・他 覚 所 見,検 査 所見から,腰部に炎症があると考えられた.入院時 CT・MRI(Fig. 2A)にて明らかな膿瘍は認めなかっ たが,炎症反応高値より感染症の可能性が強いと考え られたため MEPM 0.5g×2 回! 日の投与を開始した.
入院翌日より,膀胱直腸障害,左下肢の不全麻痺が出 現,さらに 4 日目から右上肢の不全麻痺を認め,神経 障害の悪化が考えられた.そのため,再度 MRI(Fig.
3A)をとったところ第 4 頸椎から第 7 頸椎までの膿 瘍形成が疑われた.また,MRIT1WI にて C5! C6 に 脊髄内の造影効果が認められ,T2WI にて C3-Th1 レ ベルの脊髄に異常高信号が認められたため,脊髄炎が 起きていると判断した.しかし,頸椎の化膿性脊椎炎・
脊髄炎では膀胱直腸障害までは,説明がつかず,腰部 の画像の経過を追うことにした.7 日目に撮影した MRI(Fig. 2B)にて,膀胱直腸障害の原因病巣と思 われる膿瘍を第 4 腰椎に認め,さらに翌 8 日目には頸 椎の膿瘍もさらに悪化していた(Fig. 3b).症状も進 行 し て い た た め,MEPM を 0.5g×4 回! 日 に 増 量,
CLDM 600mg×4 回 ! 日を追加した.また,同日,入 院時施行していた血液培養から肺炎球菌が分離され た.膿瘍穿刺・排膿も考えたが,多発性であり危険性 が強いこと,本人が観血的治療を拒否したことから施 行せず,保存的に抗菌薬投与を継続した.15 日目に は頻回に下痢が起き,抗菌薬関連性腸炎を疑い MEPM と CLDM を FOM 2g×2 回! 日と PAPM! BP 0.5g×2 回! 日に変更した.1 カ月後,炎症反応は陰性化し,次 第に麻痺も軽快した.軽い左足の不全麻痺は残ったが,
自力で歩行可能となり,リハビリ目的で転院となった.
症 例
別刷請求先:(〒790―8524)愛媛県松山市文京町 1
松山赤十字病院内科 和泉 賢一
肺炎球菌による多発性化膿性脊椎炎・脊髄炎 91
平成20年 3 月20日
Table 1 Laboratory findingson admission Blood gasanalysis(room air) Urinalysis
mg/dL 21.9 BUN
7.500 pH
6.0 Ph
mg/dL 0.90 Cr
mmHg 33.8 pCO2
+ Prot
mg/dL 3.4 UA
mmHg 74.4 pO2
3+
Glu.
mEq/L 136 Na
mmol/L 25.8 HCO3
- Ketone
mEq/L 3.3 K
2.9 BE
- O.B.
mEq/L 100 Cl
% 97.1 O2sat
- bil
mEq/L 3.2 Ca
- WBC
mg/dL 3.3 P
Serology and immunology
mg/dL 118 T-chol
g/dL 5.3 TP
CBC
mg/dL 162 TG
g/dL 1.9 Alb
/μL 19,160 WBC
mg/dL 17.0 HDL
mg/dL 1.0 T.bil
% 18 st
mg/dL 68.6 LDL
U/L 31 AST
% 74 seg
mg/dL 337 FBS
U/L 27 ALT
% 5 ly
% 8.6 HbA1c
U/L 202 LDH
% 3 mo
mg/dL 32.00 CRP
U/L 682 ALP
/μL 4,200,000 RBC
μIU/mL 2.56 TSH
U/L 76 γGTP
g/dL 13.0 Hb
pg/mL
< 1.00 fT3
U/L 134 ChE
% 39.2 Hct
ng/dL 1.22 fT4
U/L 37 CK
/μL 160,000 PLT
Table 2 Immunology and blood culture
Blood culture:S.pneumoniae(PISP)+
Immunology
0.5 PCG
MIC (- )
RPR
1 ABPC
(μg/mL) (- )
TPHA
1 SBT/ABPC (- )
HBs
1 LVFX
(- ) HCV
1 CTX
titer 20 ANA
2 CZOP
IU/mL 15 RF
0.25 MEPM
/mL 48.6 CH50 (30~ 45)
> 2 EM
mg/dL 1,002.4 IgG
Sputum Gaffky:negative mg/dL
323.6 IgA
Culture:normalflora mg/dL
67.8 IgM
U/mL
< 1.3 MPO-ANCA
U/mL
< 1.3 PR3-ANCA
考 察
肺炎球菌はグラム陽性の双球菌で,通常の血液寒天 培地に発育し,α 溶血性を示す.コロニーは自己融解 のために中央がくぼんだ特徴的な形状を示す.肺炎・
敗血症・髄膜炎・中耳炎などの原因菌であるが,特に 小児など若年者では鼻咽頭に常在することも多い.肺 炎球菌には 90 種の血清型が認められているが,よく 知られた 10 種の血清型で重症の肺炎球菌合併症の 60% 以上を起こしていると考えられており,現在日 本では 23 種の血清型のワクチンが使われている
2).本 症例では,残念ながら,血清型までは判定できなかっ た.
本症例の原因菌となった肺炎球菌の penicillin G に 対する MIC が 0.12〜1 µ g ! mL であることから,この 肺炎球菌を PISP(penicillin intermediately resistant Streptococcus pneumoniae:ペニシリン低感受性肺炎球 菌)と判定した.1967 年,オーストラリアで無 γ グ ロブリン血症の患者から,MIC 値が 0.6 µ g ! mL の肺 炎球菌が報告
3)されてから,ペニシリン耐性・低感受
性の肺炎球菌の報告が相次ぎ,現在分離される肺炎球 菌 の 30〜50% が penicillin resistant S. pnumoniae
(PRSP)又は PISP といわれており
4),大きな問題と なっている.本症例では,重症感染症のため当初から カルバペネムを投与しており,PISP に対する感受性 もあったと考えられる.
硬膜外膿瘍の原因菌として多いものは,大腸菌・緑 膿菌・ブドウ球菌・結核菌であり,時折ブルセラ・真 菌なども膿瘍をつくることがあるという報告がある
5). 肺炎球菌による化膿性脊髄炎の報告は数少ないが,化 膿性脊髄炎の 9.5%(8! 84 例)であり,肺炎球菌感染 の脊椎感染症は肺炎球菌感染全体の 0.8%(5! 639 例)
であったという報告(1985〜1997 の統計)がある
6).
肺炎球菌性化膿性脊髄炎の特徴であるが,先行する
気道感染が 46% に認められ,アルコール乱用,副腎
皮質ステロイド剤の内服や他の免疫不全状態が肺炎球
菌感染のリスクとなり
6),化膿性脊椎炎の患者の約
20% が糖尿病を合併していたとの報告がある
7).本症
例では発症 1 週間前より咽頭痛があり,先行感染が
和泉 賢一 他 92
感染症学雑誌 第82巻 第 2 号
Fig. 1 ClinicalcourseInflammation disappeared after antibiotic treatment, and pain and paralysis were ameliorated.
MEPM: Meropenem, CLDM: Clindamycin, FOM: Fosfomycin, PAPM/BP: Panipenem/Betamipron, BIPM:Biapenem,MFLX:Moxifloxacin
Fig. 2 MRI(sagittalplane)
(A) Nothing conclusive in MRI on November 29.(B) Abscessseen atL4-5 (arrow)in MRIon December5.
Fig. 3 MRI(sagittalplane)
(A) Abscess with inflammation seen at to C5-6 (arrow) with MRIon December2.(B)Abscessisextended (arrow) and an abnormalsignalseen atspinalcord with MRIon December6.
あった可能性が高いと思われる.そして糖尿病の血糖 コントロールは,HbA1c 8.6% と不良であり,他に免 疫不全になる要素もなく,今回発症のリスクとしては 糖尿病があげられる.Turner DP らの報告によると,
肺炎球菌性化膿性脊髄炎では発熱があまり多くなく,
38℃ 以上の発熱は約 50%,白血球が 11,000 ! µ L 以上 の 症 例 が 約 75%,血 沈 90mm! h 以 上 が 60% 前 後,
CRP>10mg! dL 以上がほぼ全例に認められ,血液培 養が陽性になる率は 50〜70% ほどである
6).本症例も,
発熱がなく,白血球高値(WBC>19,000! µL)であり,
CRP は強陽性(CRP>30mg ! dL),血液培養陽性であっ た.
本症例では初期の CT! MRI で診断がつかず難渋し た.発熱もなく局所所見も乏しいが,高度の炎症反応 を認め背部に疼痛を訴える症例では,化膿性脊椎炎も 鑑別に上げるべきではないかと考える.疑いがあれば,
経過を追って,画像検査を繰り返すことも重要と思わ れる.今回は,予後がまだ良かったが,治療が遅れる と死亡率が高くなる疾患であり,この疾患を疑うとき は,診断が難しいとは思われるが,早期に治療を開始 するべきであろうと思われる.
なお,この症例においては,骨髄炎(osteomyelitis)・
椎間板炎(diskitis)・硬膜外膿瘍(epidural abscess)・
脊髄炎(myelitis)を合併しており,この 4 つの病変 は合併が多く,本症例としてはこれらを代表して,化 膿性脊椎炎・脊髄炎とした.
謝辞:臨床経過に貢献いただいた当院の整形外科 田中
恒先生,野田慎之先生,中城二郎先生,神経内科 萩原綱
一先生,山下順章先生に深謝します.本論文の要旨は第 76
回日本感染症学会西日本地方会総会,2006 年 11 月 26 日
岡山にて報告した.
肺炎球菌による多発性化膿性脊椎炎・脊髄炎 93
平成20年 3 月20日
文 献
1
)Musher DM:Streptococcus pneumoniae. In:
Mandell GL, Benett JE, Dolin R, edc. Mandell, Douglas and Benettʼs principals and practice of infectious disease, 6
thed. New York:Churchill Livingstone, 2004;p. 2392―411.
2
)福見秀雄,木村三生夫,加藤俊一,村中清一郎,
林 秀樹,川名林治,他:肺炎球菌多糖体 23 価 ワクチン(ニューモバックス)の安全性と抗原 性 に 関 す る 臨 床 報 告.感 染 症 誌 1984;58:
495―510.
3
)賀来満夫:今日の耐性菌事情とその臨床.日内 会誌 1996;85:131―5.
4
)生方公子,紺野昌俊,吉田 繁,井上真美子,清
水義徳,秋沢宏次,他:全国各地で分離された 肺炎球菌の疫学的研究.感染症誌 1994;68:
1338―51.
5
)Kaufman DM, Kaplan JG, Litman N:Infectious agents in spinal epidural abscesses. Neurology 1980;30:844―50.
6
)Turner DP, Weston VC, Isphahani P:Streptcoc- cus pneumoniae Spinal Infection in Nottingham, United Kingdom:not a rare event. Clin Infect Dis 1999;28:873―81.
7
)Sapico FL, Montgomerie JZ:Pyogenic verte- bral osteomyelitis : report of nine cases and re- view of the literature. Rev infect Dis 1979;1:
754―76.
A Case of Multiple Vertebral Osteomyelitis Due to Streptococcus pneumoniae
Kenichi IZUMI
1), Takahiro TAKUMA
1), Takanori OKADA
1), Eisuke YOKOTA
1)& Masataka NISHIYAMA
2)1)