平成 25 年 12 月 4 日
米国のメキシコ湾岸向け原油パイプラインに関する最新状況
米国内陸部の原油生産増加に伴い、パイ プライン(以下、PL)や鉄道等の輸送手段 への関心も高まっている。米国内で原油生 産量が急激に増加しているノースダコタ 州やテキサス州西部等は、製油所が集まる 沿岸部(メキシコ湾岸、太平洋岸、大西洋 岸)から離れているため、生産者側にとっ ても消費者側にとっても輸送インフラの 整備は重要である。本レポートでは最近の メキシコ湾岸向け原油 PL 関連動向を取り 上げる。 1. 最近の米国内の原油需給バランスと原油市況動向 1.1. STEO11 月の米国原油需給データエネルギー情報局(EIA)は、毎月発表する短期見通し Short Term Energy Outlook (STEO)の 11 月発表では、2014 年も 2013 年同様に米国原油生産が前年比 100 万 バレル/日(以下、BD)の増加となり、原油輸入が減少する見通しを示している。 表 1:2012~14 年の米国原油生産・輸入・処理量見通し(11 月 STEO データ抜粋) 2012年 2013年 2014年 6.50 7.49 8.49 アラスカ 0.53 0.51 0.47 メキシコ湾岸(連邦政府管轄) 1.27 1.25 1.35 米国本土(除くメキシコ湾岸) 4.71 5.73 6.67 8.46 7.51 6.54 15.00 15.18 15.22 原油生産量(単位:百万バレル/日) 原油輸入量(単位:百万バレル/日) 原油処理量(単位:百万バレル/日) 表 1 中、「米国本土」に含まれるのが、ノースダコタ州にあるバッケンシェールや テキサス州西部にあるイーグルフォードシェール、パーミアン盆地の開発による原油 生産増である。EIA の 2013 年 11 月 15 日付けレポート(Today in Energy)によれば、 バッケンシェールの原油生産量は 12 月に 100 万 BD に到達する見通しだ。 なお同じく EIA データによれば、原油輸入量に占めるカナダ産原油の数量は 2012 年で約 243 万 BD、2013 年以降の月間輸入量は 250 万 BD を上回ることがしばしばで あり、カナダ産原油の米国向け輸入量も増加中である。
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1. 最近の米国内の原油需給バランスと原油市況動向 1.1. STEO11 月の米国原油需給データ 1.2. WTI-ブレント市況格差の推移 2. メキシコ湾岸地域の輸送インフラに関する状況 2.1. クッシングとメキシコ湾岸を結ぶ PL の状況 2.2. テキサス州西部とメキシコ湾岸を結ぶ PL 計画の状況 2.3. ヒューストン・ポートアーサー地区の原油貯蔵設備と HO-HO PL 計画 2.4. 北部原油生産地域とクッシングを結ぶ PL計画の状況 3. まとめ 3.1. 米国原油需給・市況動向 3.2. 米国産原油処理に向けた米国石油精製企業の動向 3.3. 国際原油市場への影響1.1. WTI-ブレント市況格差の推移
毎年 7 月に EIA が発表する Refining Capacity Report によれば 2013 年 1 月 1 日時 点の 1 日当たりの米国原油処理能力は、前年比 50 万バレル増加しており、2012 年の 米国製油所稼働の好調さを示している。主な要因には、米国原油指標の WTI 原油価格 が2011 年以降、国際原油指標価格であるブレント原油価格を大幅に下回って推移し、 原油調達コストが抑えられてきたことが挙げられる。 しかし、この WTI-ブレント市況格差は 2013 年に入ると縮小し始め、特に 2013 年 第 2 四半期以降、WTI 値付けのベースとなるオクラホマ州クッシングの原油在庫(図 2)の急激な下落に連れ、同市況格差(図 1 の緑線)は大幅に縮小した。米国石油精 製業界各社が当該四半期決算において収益減少を発表した際、原油調達コスト増は主 な要因に挙げられた。 図 1:2010 年以降の WTI、ブレント市況推移(出所:EIA ホームページ) 図 2:クッシング週間在庫の推移(出所:EIA ホームページ) (青線が直近 1 年間の在庫。他の 5 本の線は直近 5 年間の在庫実績) EIA は 2013 年上期に発生した WTI-ブレント格差縮小について、2013 年 8 月 5 日 付けレポート(Today in Energy)で取り上げ、要因の一つとして米国内新規輸送イ ンフラのサービス開始を挙げた(他は高い製油所稼働率、軽質原油輸入の減少)。
なお、その後は図 1・2 からも明らかなようにクッシング在庫が増加し、WTI-ブレ ント格差も再び拡大するなど、2013 年以降の動きは激しくなっている。 以下では、米国内原油需給動向を通じて米国石油精製業の経営環境にも大きな影 響を与える輸送インフラに関し、メキシコ湾岸向け原油輸送 PL に関する動向を中心 に最近の動向を記載する。 2. メキシコ湾岸地域の輸送インフラに関する状況 2.1. クッシングとメキシコ湾岸を結ぶ PL の状況 WTI 市況値付けのベースとなるクッシング原油在庫は、2012 年 3 月から 2013 年 7 月末にかけて 4 千万バレルを上回り、高いレベルで推移してきたが、最近はメキシコ 湾岸向けに払い出す PL 計画に進捗が見られ、図 2 の青線が示すとおり在庫レベルが 下がりつつある。 (丸数字の記載があるものは、以下の個別の説明で引用。テキサス州周辺 PL に関す る地図は図 4 参照。) 図 3:主要原油パイプライン地図(出所:JBC Energy) 表 2 : 主なクッシング⇒メキシコ湾岸 PL 計画(各社 HP 等から抜粋) 企業 輸送能力 始点 終点 状況 ① Seaway PL Enterprise /Embridge (最終的に) 85万BD クッシング フリーポート (テキサス州) 40万BDで稼働中。 2014年中に45万BD 増強し、85万BDとな る計画 ② Gulf Coast Project TransCanada 70万BD (同上) ネダーランド (テキサス州) 2013年中に 稼働開始の見通し ③ Trunkline Embridge/ Energy Transfer 40万BD Patoka (イリノイ州) セントジェームス (ルイジアナ州) 2015年後半以降に開通する計画 PL名 ① ② ⑨ ⑩ ⑪Franagan South PL: Speardhead に並行 して建設される計画 ③Trunkline PL PakotaからSt. Jamesに原 油 を 輸 送 。 ( シ ェ ル の Capline とは別の計画)
① シーウェイ PL(図 3 の桃色線)
従来、メキシコ湾岸から中西部に原油を供給してきた既存 PL の逆送が、2012 年 11 月に開始された。当初輸送能力は 15 万 BD だったが、2013 年 1 月に終了した増 強工事により輸送能力は 40 万 BD となった。
オペレーション上の制約により輸送能力をフルに生かし切れていない状況が報道 されてきたが、EIA は、2013 年 10 月 30 日付け This Week In Petroleum において、 クッシングに在庫された重質原油輸送に効果を発揮しており、ヒューストン(テキ サス州)およびニューオーリンズ(ルイジアナ州)の重質原油輸入量減少に貢献し ているとの分析を示した。 並行する新 PL(輸送能力 45 万 BD)が計画されており、2014 年中頃にサービス 開始予定の計画である。 ② ガルフコーストプロジェクト(図 3 の黄色点線) トランスカナダが計画するキーストーン XL プロジェクトのうち、クッシングとヒ ューストンを結ぶ部分の PL 計画で、輸送能力は 70 万 BD。2013 年末までの操業開 始が、2013 年 10 月に同社から発表された。 ③ トランクラインプロジェクト エナジー・トランスファー・パートナーズ社(ETP)が所有する天然ガス PL の逆 送計画で、同社とエンブリッジの折半出資によるプロジェクト。イリノイ州 Patoka のターミナルに貯蔵された原油をルイジアナ州セントジェームズに輸送する。(図 3 で緑太線表示の Capline PL を概ね逆送するルート) 2013 年 11 月初旬、顧客が集まらないことによる計画の延期と、2015 年後半から 2016 年早期にサービス開始を計画していることが ETP から発表された。 2.2. テキサス州西部とメキシコ湾岸を結ぶ PL 計画の状況 原油生産が豊富なイーグルフォードシェール(テキサス州鉄道委員会発表による 2013 年 1-8 月の原油生産量は約 64 万 BD、コンデンセート生産量は 18 万 BD)、パ ーミアン盆地(同、原油生産量は約 92 万 BD)を擁するテキサス州西部からもメキシ コ湾岸の製油所向け PL 計画が複数存在する。 表 3 主なテキサス州西部⇒メキシコ湾岸 PL 計画(各社 HP 等から抜粋) 企業名 輸送能力 始点(テキサス州) 終点 状況 ④ Longhorn Magellan 22.5万 BD Crane ヒューストン (テキサス州) 稼働中、2014年中頃 迄に5万BD増強予定 ⑤ Bridge Tex Magellan /
Occidental 30万BD Colorado City
ヒューストン
(テキサス州) 2014年中頃稼働開始予定 Permian Express
Phase 1 15万BD Wichita Falls
ネダーランド/ボーモント (ポートアーサー近郊) 9万BDで稼働中。 2013年中に15万BD Permian Express Phase 2 20万BD Midland, Garden City, Colorado City
(メキシコ湾岸の他の PLと接続)
2014年第2四半期 稼働開始予定 - West Texas Gulf 11万BD Colorado City ネダーランド他(ポートアーサー近郊) 稼働中
Sunoco Logistics ⑥
図 4 テキサス州周辺パイプライン地図(出所:Wall Street Journal ホームページ) ④ ロングホーン PL(図 4 の①) マゼラン社が、安価なテキサス州西部産原油をヒューストン地区製油所向けに供 給するため 2013 年 4 月に既存 PL を逆送させた。輸送開始後、輸送能力を上回る需 要が見込まれるため、55 百万ドルを投資し 2014 年中頃迄に輸送能力を 5 万 BD 増 強する計画が発表された。 ⑤ ブリッジテックス PL(図 4 の②) 2014 年第 2 四半期までに操業開始予定。輸送能力 30 万 BD で、パーミアン盆地 産原油をヒューストン地域の製油所に供給する PL 計画。 ⑥ パーミアンエクスプレス PL(図 4 の④がフェーズ 1、③がフェーズ 2) 2 フェーズで進行中。第 1 フェーズは、ポートアーサー近郊のネダーランドに向 かう輸送能力 15 万 BD の PL で、2013 年 6 月に 9 万 BD の輸送能力でサービスを 開始し、2013 年中にフル稼働となる計画。 第 2 フェーズは 2014 年第 2 四半期までに、更に 20 万バレル/日を輸送する計画で あり、第 1 フェーズと合わせ 35 万バレル/日の輸送能力となる。 2.3. ヒューストン・ポートアーサー地区の原油貯蔵設備と HO-HO パイプライン計画 既述のとおり、メキシコ湾岸の製油所群の中央に位置するヒューストン・ポートア ーサー地区には、クッシングを通じてノースダコタ州産原油やカナダ西部産原油を、 またテキサス州西部産原油を輸送する PL 計画が着々と進行中である。 こうして PL による北米産原油の輸送量が増加し、同地区への原油集積量が増加す
る中、同地区の原油貯蔵ターミナルの能力、更に同地区に輸送された原油を、更にメ キシコ湾岸の東側にある製油所群に輸送するための PL 計画もある。 図 5 メキシコ湾岸製油所地図(出所:MUSE STANCIL、2012 年 10 月作成資料) ⑦ Oiltanking Partners(OTP)のヒューストン港貯蔵ターミナル ヒューストン港では、OTP の原油ターミナルで貯蔵能力の増強計画が進行中であ る。 図 6 OTP ヒューストンターミナル図(出所:OTP ホームページ) 本ターミナルでは原油貯蔵能力を、2013 年末までに+320 万バレル、2014 年末ま でに+330 万バレル増強する計画で、2013 年末時点の貯蔵能力は 1,600 万バレル、 ヒューストン、 ポートアーサー レイク チャールズ セント ジェームズ
2014 年末時点には 2,000 万バレルとなる計画である。
図 6 のとおり、イーグルフォードシェール、パーミアン盆地、クッシングからヒ ューストンに原油を輸送する複数の PL と接続している他、ヒューストン地区の 4 件の製油所(バレロ、ライオンデル、PRSI(Pasadena Refining System, Inc. ペト ロブラス出資比率 50%)、シェルの Deer Park、原油処理能力合計 85 万バレル/日)、
エクソンモービルのベイタウン製油所(原油処理能力 56 万バレル/日)、テキサスシ
ティの 3 件の製油所(BP、マラソン、バレロ、原油処理能力合計 79 万バレル/日) に接続されている。
⑧ Sunoco Logistic Partners LP 社(以下、スノコ)のネダーランドターミナル
スノコ社(2012 年 4 月末に ETP により買収)は、ヒューストンの東方約 90 マイ ル(約 140km)のポートアーサー近郊にあるネダーランドにターミナル(貯蔵能力 は約 22 百万バレル)を所有している。 同ターミナルは、スノコが所有し、主にパーミアン盆地産原油を輸送するパーミ アンエクスプレス PL フェーズ 1 やウェスト・テキサス・ガルフ PL に接続されてい る他、鉄道や船舶からの原油荷卸設備も所有している。 近隣のボーモントやポートアーサーにある製油所のうち、エクソンモービルのボ ーモント製油所(原油処理能力 36.5 万 BD)、バレロ(同 31 万 BD)、トタルのポー トアーサー製油所(同 17.4 万 BD)、シェル・サウジアラムコ合弁の Motiva 製油所 (同 60 万 BD)に接続している。 図 7 : ポートアーサー近郊地図(出所:Google マップに加筆) Port Neches ヒューストン レイク チャールズ ニューオーリンズ ネダーランド ターミナル メキシコ湾
⑨ ⑨シェルの Houma-to-Houston(Ho-Ho)PL 逆送計画 同 PL は、ルイジアナ州ネダーランドに隣接する Port Neches(位置については図 7 参照)を経由してヒューストンに到達し、メキシコ湾で生産または輸入された原油 をヒューストンの製油所に供給するために使用されてきた。 しかし、既述のとおりヒューストンにはテキサス州西部やクッシング等から北米 産原油が大量に供給される見通しとなる中、シェルは同 PL を逆送させ、メキシコ湾 岸の東側にある製油所向け原油供給のために使用することとした。 ヒューストンから Port Neches までの区間は(輸送能力 25 万 BD)は既に開通し、 Port Neches から Houma までの区間(輸送能力 36 万 BD)は 2013 年 11 月に開通 する計画で進められている。 図 8 : メキシコ湾岸におけるシェルの PL 地図(出所:同社ホームページ) 2.4. 北部原油生産地域とクッシングを結ぶ PL 計画の状況 クッシング原油在庫を払出す PL 計画については、シーウェイ PL 増強やガルフコー ストプロジェクトの完成により、今後 1 年以内に 110 万 BD の輸送能力増強が見込ま れる状況であることは、既に 2.1 項で触れたとおりである。 一方、ノースダコタ州や(10 月 15 日の同州鉱物資源局発表によれば、2013 年 8 月の生産量は、前年比 3 割増しの 91 万 BD)やカナダ西部での原油生産も増加してお り、こうした原油をクッシングへ輸送する PL 計画も進行中である。 ⑩ トランスカナダのキーストーン XL PL 計画(図 3 の黄色破線) カナダ・アルバータ州からネブラスカ州スティールシティに原油を輸送する同計 画(輸送能力 83 万 BD、内 10 万 BD はバッケンシェールオイル等の軽質原油を輸 送)は、2013 年9 月で同社が米国国務省に初めて申請してから丸5 年が経過したが、 引続き膠着した状況が続いている。 当初問題になったネブラスカ州通過ルートについては、同州政府と同社の協議に より策定された代替ルートが 2013 年 1 月に同州政府に承認され、現在は国務省によ る環境影響評価が行われている。 2013 年 6 月にオバマ大統領が行った演説では、本計画の実施により GHG 排出量 Capline PL イリノイ州Patoka に至る Ho-Ho PL
が総合的な観点から増加しないことが米国政府による本計画承認の条件とされてお り、カナダオイルサンド開発を巡る GHG 排出の評価を巡り、賛成派・反対派が双 方の主張を続けている状況である。2013 年 11 月、トランスカナダ社は同 PL 開通予 定を当初予定から後送りし、2016 年とした。
⑪ Enbridge の Franagan South PL 計画
イリノイ州シカゴ南西約 100 マイル(約 160km)にあるフラナガンターミナルに 貯蔵された原油をオクラホマ州クッシングに輸送する輸送能力 60 万 BD の PL 計画 である。 図 3 に紫線で表示された同社原油輸送パイプライン網のうち Spearhead PL(図 3 の紫細線)に並走して建設される計画で、サービス開始時期は 2014 年中頃に予定さ れている。2 本の PL による輸送能力が最大 80 万 BD となる計画が発表されている。 図 6 : Enbridge の PL 地図(出所:同社ホームページ) ⑫ Talgrass Energy の Pony Express PL 計画
本計画は既存天然ガス PL の逆送(図 7 の赤実線部分)と新設 PL(図 7 の赤点線 部分)によりバッケンシェールや、開発が進むロッキー山脈で生産された原油をク ッシングに輸送する PL 計画(輸送能力 35 万 BD)。2014 年第 3 四半期のサービス 開始が予定されている。
図 7 Pony Express PL 地図(出所:キンダーモルガンホームページ) 3. まとめ 本レポートではクッシングおよびテキサス州西部からメキシコ湾岸向けに原油を輸 送する PL 計画を中心に取り上げたが、いずれのルートも 2014 年中に複数の PL 開通 による北米産原油の輸送能力増強が計画されている。北米の内陸部で増産されている 原油が、メキシコ湾岸に集積されようとしている様子が伺える。 3.1. 米国原油需給・市況動向 本レポートの冒頭で、2013 年 6 月末以降、10 月初旬にかけて続いたクッシング 在庫下落にあわせ、WTI-ブレント格差の縮小、米国石油精製業界の収益減少といっ た現象が起こったことにについて触れた。 これとは対照的にメキシコ湾岸を含むPADD3地区の原油在庫は8月中旬から増加 傾向にあったことも EIA データは示している(図 8)。10 月 25 日時点の週間在庫は 1 億 97 百万バレルまで増加したが、これは 2009 年 4 月末以来の高さである。 図 8 PADD3 地区週間在庫の推移(出所:EIA ホームページ) (青線が直近 1 年間の在庫。他の 5 本の線は直近 5 年間の在庫実績)
こうした状況において EIA の 10 月 30 日付け This Week In Petroleum は、メキシ コ湾岸で指標価格として使用されるルイジアナ・ライト・スイート原油(LLS)の価 格が、10 月末時点でブレント市況対比▲11 ドル/バレルのディスカウントとなった ことを取り上げた。LLS-ブレント格差は従来、若干のプレミアムで推移してきた。 パイプラインを始めとする輸送インフラ発達により、クッシング原油在庫の余剰 が緩和される方向にある一方、原油在庫余剰はメキシコ湾岸にシフトし、引続き米 国原油市況の軟化要因として作用していくとの見方もある。 2013 年 10 月は定修影響で米国内製油所稼働が低調だったこともメキシコ湾岸で 原油在庫の増加が進んだ一因であるが、2014 年開通予定の PL 計画が複数あり、メ キシコ湾岸向け原油輸送量が更に増加する見通しの中、原油処理能力の増強がなけ れば、当該地区の原油需給が余剰気味に推移するとの見通しは理解できる。 バレロの CEO、Bill Klesse 氏は 2013 年第 3 四半期決算発表において、米国やカ ナダで生産される原油市況が、第 4 四半期以降、国際原油市況対比のディスカウン ト幅を拡大していることに言及している。冒頭に紹介した EIA の 11 月 STEO は、 WTI-ブレント格差の見通しを、2013 年第 4 四半期が 10 ドル/バレル、2014 年は 8 ドル/バレルとした。米国内原油市況の国際原油市況対比ディスカウントが続くこと は、今後も米国石油精製企業にとって有利な環境を提供すると考えられる。 3.2. 米国産原油処理向けた米国石油精製企業の動向 米国内石油精製企業の中ではバレロが米国産原油の積極的な活用に向けた取組を続 けていることが知られる。 バレロはコスト競争力のある米国産軽質原油処理量を増強するため、2015 年後半に 操業開始の予定で、ヒューストン製油所で 9 万 BD、コーパスクリスティ製油所で 7 万 BD の軽質原油処理用トッパーを建設中の他、Mckee 製油所(テキサス州北部)でも原油処理 能力を 2.5 万 BD 増強する工事を実施している(2015 年前半に操業開始予定)。他にもポ ートアーサー製油所や Meraux 製油所(ルイジアナ州)でも軽質原油処理増強を検討して いるとのことだ。 また、ポートアーサー製油所やメキシコ湾岸およびメンフィス製油所(テネシー州) における軽質原油を2012 年第4 四半期時点で国産原油に置換したことも報じられた。 一方、フィリップス 66 も、2013 年 3 月の報道ではメキシコ湾岸にある製油所で処 理する軽質原油には輸入品を使用していないとされ、米国産原油処理を進めているこ とが伺える一方、最近は、同社がシェールから生産される天然ガスや天然ガス液 (Natural Gas Liquid、NGL)を活用した石油化学設備への投資を強化していることが 報じられている。
カナダとも将来見通しが堅調であることが背景にあると分析されている。 3.3. 国際原油市場への影響 米国内での輸送インフラ発達により米国産原油が国内に普及することは、表 1 のと おり米国の原油輸入量減少にもつながっている。こうした中、従来米国市場に輸入さ れていた原油がアジア市場に仕向け地を変更していることも報じられている。 2013 年 7 月の PADD3 原油輸入量 370 万 BD は、2008 年平均の 560 万 BD に 対して3 分の2 を下回るレベル。輸入量減少の大半は軽質原油で発生している。 重質原油ではメキシコ、ベネズエラ産原油が減少傾向にある中、カナダ産原油 輸入は増加傾向にあり、カナダ産への置換が進んでいる。2.4.項、⑩で既述の とおりキーストーン XLPL 計画の進捗は滞っている一方で、増産が続くカナダ 産原油の輸送は、鉄道輸送により代替されるとの見通しが示されている。) メキシコ湾岸で米国産原油の流通量が増加したことにより、コロンビア等のラ テンアメリカで生産される原油のアジア市場での取引量が増加している。 また、米国内で増産されているシェールオイルが軽質原油であり、軽質原油処理に 適した米国内製油所数が限られていることは、米国内の原油輸出解禁に向けた政治的 な議論の機運を高めているが、米国内ガソリン価格への影響に対する消費者の懸念と も結びつくため、政治的に慎重な扱いが必要とされる。 11 月初旬の報道によれば、連邦議会上院のエネルギー天然資源委員会で共和党の筆 頭議員であるリサ・マコウスキ議員(アラスカ州)は、米国産原油輸出の議論開始時 期について”sooner rather than later(後でというよりむしろすぐに)”との考えを示す 一方、同委員会委員長の民主党ロン・ワイデン議員(オレゴン州)は、議論を開始す る前に消費者の利益について確認する必要があるとの考えを示している。 増産が続く米国内陸部での原油生産と、パイプラインを始めとする輸送インフラの 発達状況は、今後も米国石油精製業界の経営環境、更に国際的な原油需給・市況動向 に大きな影響を与えることが予想されるため、今後も注視していく必要がある。 3.4. その他 PL による環境影響に関する議論が高まりを見せる中、トランスカナダはキーストー ン XL PL 計画のウェブサイト上に以下の写真(図 9)を掲載し、PL 建設による環境影 響を最小限のものにするための取組を行っていることを明らかにしている。 新規 PL 計画は雇用創出等の経済効果が期待される一方、環境影響評価上の課題を クリアすることが重要な課題である。
図 9 パイプライン建設前後の図(出所:トランスカナダホームページ) (左側が建設途中、右側が建設後の写真) 以上 本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析 したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは [email protected] までお願いします。
Copyright 2011 Japan Petroleum Energy Center all rights reserved 次回の JPEC レポート(2013 年度 第 21 回)は
「大水深開発に挑む中国」 を予定しています。