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中央学術研究所紀要 第42号 181竹口弘晃「地域文化資源の顕在化と社会的関与に関する基礎研究」

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1.課題の設定

 まちづくり、地域活性化、地域再生に対する関心が高まる中で、それらの課題に応 えようとする社会的実践が多く見られるようになった。そうした実践において、地域 の文化的な資源の利活用を試みる取り組みが多くみられるようになってきたが、その 結果が必ずしもはかばかしくないのが現状であるように思われる。  今日の多くの地域においては、伝統的な地域文化を創造し継承してきた共同体の基

竹 口 弘 晃

1.課題の設定 2.文化資源に関わる先行研究の検討  2.1.文化資源概念とその意義  2.2.資源研究における「資源」  2.3.資源研究の展開とその特徴  2.4.「文化資源」に関する先行研究  2.5.文化の「資源化」  2.6.まとめ 3.「場」に関する理論的基盤の検討  3.1.「場」の定義  3.2.「場」の形成とその基本要素  3.3.SECI モデルによる知識創造のプロセス  3.4.知識創造プロセスに対応した「場」の類型 4.コンテクスト転換による価値創造に関する理論的基盤の検討  4.1.コンテクストに関する先行研究  4.2.コンテクストの機能  4.3.コンテクストの転換 5.結語 参考文献

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盤が脆弱なものとなり、文化の創造、体験や実践を通じた文化の継承という流れが滞 り、地域の文化が当該地域や住民にとってどのような意味があるのかという文脈の解 読を一層困難なものとし、その結果として地域文化はそれ自身の断片化や潜在化、あ るいは断絶といった厳しい現実に直面していることも少なくないだろう。  文化は、その文化を培ってきた歴史や人々の生活や環境と不可分な関係にあり、そ の地域に住む人々やその土地の文脈の中においてこそ、地域固有の価値として存在す ることができると考えられる。このような現実を踏まえるならば、文化的資源の価値 そのものを単体として論じるだけでは十分ではなく、文化的資源の価値を社会的環境 との関係からとらえる視点が求められるはずである。このような問題意識に基づいて、 潜在的な文化的諸資源をめぐる価値付けや意味づけに対する社会的関与の視点とその ダイナミズムを明らかにすることを本研究の目的とする。  研究課題に取り組むため、まず、文化資源に関する先行研究をレビューし、文化資 源という概念の意義を踏まえた上で、従来の文化政策領域の研究でふれられることの なかった資源研究に言及し、資源が人間の努力と行動に応じて資源としての可能性が 変化する生きた現象であることを明らかにし、資源をめぐるアクターの「働きかけ」 のプロセスによって資源としての可能性を高めていくプロセス全体を「資源化」とい う概念で把握する。このような文化資源に関わる先行研究の検討を通して、資源に対 する社会関与のあり方を明らかにする。さらに、アクター間の関係性を踏まえた価値 発現の理論的視角を得るため、「場」における知識創造の理論や知識創造と密接に関 わるコンテクスト研究に言及し、価値付けや意味づけのダイナミズムの理論的基盤に ついて明らかにする。最後に、本研究の議論から得られた知見を提示する。

2.文化資源に関わる先行研究の検討

2.1.文化資源概念とその意義  本研究の主要な概念の一つである「文化資源」とは、今世紀の変わり目あたりから 使用されるようになったものであり1、近年の文化行政において盛んに用いられている 語のひとつであるが、その意味するところは論者によって異なり、漠然として了解さ れてきているように思われる。  文化という語については極めて多様な見解が存在するが、大辞林によれば、社会を 構成する人々によって習得・共有・伝達される行動様式ないし生活様式の総体、さら に、学問・芸術・宗教・道徳など主として精神的活動から生み出されたものに大別さ 1  佐藤健二(2007)「文化資源学の構想と課題」山下晋司責任編集『資源化する文化』弘文堂pp.27 69。

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れている。前者は、社会学や文化人類学的な観点から、文化を広く社会の構成要素と して機能面から捉えたものに対して、後者は文化を人間の知的・精神的産出物として とらえる見方であるといえる。  文化資源学会の設立趣意書2によれば、「文化資源とは、ある時代の社会と文化を知 るための手がかりとなる貴重な資料の総体であり、(中略)建物や都市の景観、伝統的 な芸能や祭礼など、有形無形のもの」を含むものとして位置づけられている。さらに、 国立民族学博物館の研究センターは、「さまざまな有形のモノや情報、身体化された知 識・技法・ノウハウ、制度化された人的・組織的ネットワークや知的財産など、社会 的運用に向けて開発可能な資源とみなされるもの」と定義されており、「文化資源」は 学問的に発展途上の概念であるといえよう。  こうしたことから理解できるのは、「文化資源」とは、まず、専門家や行政が主体と なって、学術上、歴史上、芸術上価値の高いものを相対的に選別し3、その相対評価で 選ばれたものを指定・選定・登録等を通じて保護される文化財に限定されない。つま り、国宝や重要文化財といった極めて価値の高いものに限らず、広くその価値が認知 されていないようなものについても含まれる広い概念である。それは、基本的は価値 の序列に基づいていない状況、いわば価値発現の候補としての資源として存在してい るということを意味している。  伊藤裕夫は、文化資源を広義と狭義という視点から捉えており、広義の文化資源と は文化を習得・共有・継承してきた仕組みや、また、異文化との出会いの中で新たに 生まれてきた関心(好奇心)や刺激に基づく新たなネットワーク形成などの文化的環 境システムであるとする。一方で、狭義の文化資源とは地域の文化資源のうち社会的 に運用可能なものを指すとしている。そして、両者が相互に影響しあって狭義の文化 と広義の文化を再生産してきたと指摘する4  文化資源というと有形・無形の個々の文化的事象の利活用に関心が高まりがちであ るが、その本質は、そうした文化的事象とそれらを共有・継承し、かつそれらを持続 可能な発展の基盤となる講や結といったコモンズのような「仕組み」にあるのではな いかとして、狭義の文化資源へと接近する「やりとり」を通して、広義の文化資源の 発見・把握、それらの再生・創生を見出すことの重要性を提起している。しかし、そ の「やりとり」の実態をどのような視点からとらえていくのかについては課題として 残されている。  以上を踏まえ「文化資源」という新しい概念が提起された意義を考えると、まず、価値 2 文化資源学会 HP:http://www.l.u-tokyo.ac.jp/CR/acr/overview/shuisho.html を参照。 3 文化財保護法における文化財の定義による。 4  伊藤裕夫(2010)「『文化資源マネジメント』という観点について」富山大学地域生活学研究会 『地域生活学研究1』pp.70 71。

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認定の主体について、文化財においては専門家や行政がその主たる役割を担うのに対 して、文化資源においては必ずしもそれらの主体に限定されず、地域の住民や共同体 が参画することができる可能性が示されたこと。さらに、文化財として認定されない モノ・コトであっても、資源として積極的に位置づける視点が示されることによって、 潜在的な価値を秘めた資源の保存や利活用への可能性が高まることにその意義がある と考えられる。一方で、利活用に到るまでの潜在的な文化的資源の価値を高めていく 方途に関する分析視点をどのように設定していくのかという課題が残されている。 2.2.資源研究における「資源」  前項でみたように、文化資源とはいわゆる文化財では回収しきれない幅をもつ文化 的な資源を対象としてそれらを積極的に位置づけ、社会的に運用していこうとする文 化の新しい捉え方を示した点に文化資源概念が提起された意義があると考えられる。 しかしながら、文化政策領域において文化資源を論じた既往研究について、 「資源(re-source)」に関する先行研究のレビューをふまえた上で文化資源を論じるものは管見の 限りみられない。そこで、ここでは「資源」に関する先行研究をレビューし、潜在的 な価値を秘めた資源の利活用への可能性を高めるための方途を考察するための手がか りを探求する。  学術的な資源についての論究としてはジンマーマンによる研究があげられる。彼は、 『世界の資源と産業』を著して資源研究の体系化を試みた経済学者である。ジンマーマ ンは、「『資源』という言葉は、事物または物質に当てはまるものではなく、事物また は物質の果たしうる機能、あるいはそれが貢献しうる働きに当てはまる。すなわち、 欲求の充足のような所与の目的を達成するための機能、または働きをいうのである5 として、資源は人間の価値観と利用方法によって見出されていく受動的な存在として 位置づけられる。  そして、人間の使う資源の大部分は圧倒的な大部分が天然資源ではなく、人間の使 う資源の大部分は、ゆっくりと忍耐強くやっと手に入れた知識と経験に助けられた、 人間の発明の才の賜物であると述べる6。人間資源と文化資源とを顧みず、いわゆる天 然資源のみにとらわれる先入観は、資源の明解な会得と資源の範囲の完全な把握を妨 げるとして、資源を物質、力、周囲の条件、相互関係、制度、政策などの総合的合成 物であり、人間の努力と行動に応じて拡縮する生きた現象であることを主張するので ある7  ジンマーマンはさらに、資源は人を前提にしているという意味において社会科学の 5  ジンマーマン、ハンガー編、石光亨訳(1985)『資源サイエンス:人間・自然・文化の複合』三 嶺書房 p.13。 6 ジンマーマン、ハンガー編、石光亨訳(1985)、前掲書、p.18。 7 同上書、pp.11 12。

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領域に属する概念であると指摘し8、重要なことは知識や技術といった人間に備わって いる資源化の条件であるとして、資源と人間社会が不可避の関係に置かれていること を資源の根底にすえている。このように資源は「ある」のではなく、資源をめぐる人 間社会との関わりの中において資源に「なる」という視点を提起している。  「なる」という視点においてその根底をなすものをジンマーマンは知識に見出してい る。知識はまさに他のあらゆる資源の母体であり、全知の科学であるといえども、無 から資産やエネルギーを創り出すことはできないと述べて、人間資源のうち比べもの にならないほど大切なものとして知識に着目している9。このように知識を他のあらゆ る資源の母体として位置づけ、人類がより高い文化水準へ向上する限り、文化は資源 を作りだす動的な力としてますます重要になると指摘する10。知識は文化資源の一つと 考えられているが、知識資源が種々の資源を創出する基盤となるということは、資源 が人間社会を抜きにして成立し得ない概念であるということを物語っているといえ る。  内堀基光は、人間社会は言語を使って生産される象徴系資源と社会を取り巻く環境 である生態系資源という二つの資源基盤上に成立しており11、2つの資源体系は、象徴 系資源によって生態系資源となる範囲が決定される関係にあると述べているが、換言 すれば知識によって文化が意味づけられることで資源化されることを明らかにしてい るのである。  以上のように、資源研究における「資源」は、資源として「ある」のではなく、社 会環境の動態や人々の意識化や意味づけによる「働きかけ」のダイナミズムによって 資源に「なる」という、いわばその可変性を特徴としている。そして、その根底をな すものとして、人間の知識が位置づけられているのである。 2.3.資源研究の展開とその特徴  「資源論」は、学問分野としては主に経済地理学に属する分野であり、資源問題一般 に関心をもつ経済学者や自然科学者をも抱え込むプラットフォームのような機能を担 ってきており、学問対象として展開する以前の資源に関する論考を含めれば、日本の 資源論は戦前までさかのぼる事ができるという。  日本における資源に関する議論には、国家総動員法への動きに由来する政治的な系 譜と、資源枯渇への危機感に由来する社会的な系譜との大きく2つの系譜があり、互 いに関連しつつも直接結びつくことはなかったという12。資源論は、1950年代∼60年代 8 ジンマーマン、ハンガー編、石光亨訳(1985)、前掲書、p.20。 9 同上書、p.19。 10 ジンマーマン、ハンガー編、石光亨訳(1985)、前掲書、pp.19 23。 11 内堀基光(2007)「序 資源をめぐる諸問題」内堀基光編『人間と資源』弘文堂 pp.26 27。 12 同上論文、p.572。

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にかけて最盛期を迎えるが、1980年代後半以降にはほとんど話題に上がらなくなり、 幾人かの卓越した個人が営む属人的な学問として展開したが、資源論が大学の専攻や 学科として制度化されることはなく、その存在は環境社会学や環境経済学の背後に退 き、環境諸学に先行する知の枠組みとして認知されないまま忘れさられようとしてい るという13  佐藤仁によれば、資源論のサーベイは過去20年以上行われておらず、その最後にあ たる研究は1983年に『経済地理学年報第29巻第4号』に掲載された森滝健一郎による 「わが国における資源論の動向と課題」であるという。森滝によれば、資源論はとりわ け学際的な分野であり、これにかかわってくる諸科学それぞれの固有の担当領域を線 引きしにくい分野であり、かえってそうした線引きが有害なものとなり、資源問題の 解明を遅らせるものになると結んでいる14。その後、地理学においても1990年代には資 源学という言葉はほぼ消滅したという15  日本における資源論の学問的な起こりは、地理的決定論への批判として立ち現れて きた。資源の歴史性を強調した大原久和は、資源として最も重要となる点は、それが どの程度評価の対象となるか否かの問題であり、科学・技術の進歩や、社会経済諸条 件等によって左右されて変化するために、絶対的に限定することはできないと主張し た16。また、地理的決定論を資源論の文脈で最も力強く批判した飯塚浩二は、「資源」 として認知されているモノそれ自体に考察を限定するのではなく、モノが必要に応じ て資源化される状況に光を当てた17  戦前の資源論は動員政策に誘導されたものであり、学問の対象として資源を捉えよ うとする試みはほとんどなかった。そのような状況の中で小島栄次は、戦後資源論に 先駆けた議論を1937年に発行された『三田学会雑誌』に掲載された「資源問題考究の 若干の基礎」において示している。  小島栄次は、資源を「資源とは人間によってその有用性を評価された環境18」というジ ンマーマンの定義を採用する。そして、「資源なる概念をもって、上述の如く広大無邊 の範囲にわたる有形無形のもの4 4が持つところの欲求充足なりとすることは、結局に於 いて、従来幾多の自然科学・社会科学ないし技術学の分野において分業的に研究され 13  佐藤仁(2011)『「持たざる国」の資源論―持続可能な国土をめぐるもう一つの知―』東京大学 出版会 pp.181 182。 14  森滝健一郎(1983)「わが国における資源論の動向と課題」『経済地理学年報第29巻第4号』pp.231 232。 15  佐藤仁(2009)「資源論の再検討―1950年代から1970年代の地理学の貢献を中心に―」『地理学 評論82 6』p.571。 16 大原久和(1956)「経済地理学における資源論」『国民経済雑誌93⑷』p.51。 17 佐藤仁(2009)、前掲論文、p.573。 18 小島栄次(1937)「資源問題考究の若干の基礎」『三田学会雑誌31』p.1557。

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てきたところを、資源なる観点より統合的に見直すということを意味するのである19 と述べる。このように、資源がその時々における社会状況、とりわけ社会的欲求や特 定階級の利害に流されやすい対象であること、そして、資源が社会的文脈と密接に結 びつくものであり、それゆえに社会科学的な考察が要請されるという先駆的な視点を 資源に見出したのである。  従前の「資源論」は、有力な理論的基盤を整えないまま資源をめぐる議論の総称に とどまっていた。一方で戦後の資源学は、1957年に誕生した有志による研究グループ である「資源論研究会」が、政府組織の一部になることで領域横断的な「資源論」の 発言母体となっていった20。その目的は、「資源論の科学的、実証的研究は、経済学、 地理学、行政学及び各種の自然科学、ないし技術学の中間領域にあり、これらの各部 門の科学の協力によって総合的な見地から行われなくてはならない21。〈中略〉わが国 の資源政策に科学的な基礎を提示したい」と示されるように、学問的な資源論として は、総合的かつ学際的研究を目指すものであった。  同調査会のメンバーの全てが必ずしも「資源論」を追及したわけではないが、石井 素介は、資源価値の評価主体が資源の社会的性格を規定することを指摘し、弱者のニー ズや環境価値を優先的に取り入れるような資源論を提唱した22。石光亨は、資源不足の 原因を物質の不足ではなく、働きかける人間の創造性、先見の明、賢明な政策、国際 社会間の信頼と協力の欠如にこそ資源不足の本質的な原因があることを指摘した23。黒 岩俊郎は資源を人間による働きかけと自然からの反作用を、相互交渉の過程として一 体的に読み取ろうとした24。黒澤一清は資源という概念は、なにかひとつの要素的なモ ノではなくて、複数の要素の間に形成されるある種の関係であり、働きであり、変換 の過程であり、形態である25として、自然科学と社会科学の融合を資源論の中に体系的 に取り組もうとしたのである。  以上のように、各論者の視点はそれぞれに異なった特徴をもち、必ずしも体系的に 取り扱われてきたわけではなく、関連した知見を多様な視点から散発的に掲示してき た分野であった26。一方で、一連の議論の底流には3つの重要な共通事項があった。す 19 小島栄次(1937)、前掲論文、p.1569。 20 佐藤仁(2009)、前掲論文、p.576。 21  嘉治真三(1957)『最近における資源論の発展と資源保全に関する研究』昭和32年度科学試験研 究費補助金研究計画調書 p.1。 22 石井素介(1989)「資源論への一つの基礎視角」『国民経済雑誌160⑷』pp.1 17。 23 石光亨(1973)『人類と資源:生きのびるための英知』日経新書 p.25。 24  黒岩俊郎(1964)『資源論』勁草書房、黒岩俊郎(1979)『日本資源論』東洋経済新報社、黒岩 俊郎(1982)『資源論ノート』ダイヤモンド社を参照。 25 黒澤一清(1986)『産業と資源』放送大学出版協会 p.14。 26 佐藤仁(2011)、前掲書、p.212。

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なわち、①社会問題として資源問題を位置づける努力、②現場の特殊性を重視する方 法、③国家よりも人間を中心におき、国民に語りかけるという民衆重視の思想である。 そして「資源論」の意義を、細分化と断片化の時代にあって、個別の各論を一段抽象 化したレベルで相対化することを通じて相互のつながりを想起させることができる点 にあるとする27  資源を学問的に研究する方法論として留意するべき点として、資源問題において持 続可能性(sustainability)の問題に象徴されるように、人類は不可逆的な進路を強いら れていること、であるがゆえに、有限で不可逆的な性質をもつ資源環境問題を扱う場 合、十分な数の事例が揃う頃にはもはや取り返しのつかない可能性があると指摘する。 その上で、資源を研究する学問的な方法論として、多くの事例の多さと量的な厚みを 説得力の指標にしがちである今日の実証系社会科学の文化を再考し、小さな部分のつ らなりから大きな変化の兆候をつかめるような一般化の方法、そこで得られた知見を 裾野の広い公共行動に結びつける筋道をたてる知の枠組みの必要性を強調している28 2.4.「文化資源」に関する先行研究  それでは「文化資源」はどのように論じられてきたのであろうか。文化人類学の視 点から山下晋司は、タイラーやポアズの研究にふれながら、文化資源を論じる際に、 文化的相対主義的な生活様式としての文化と普遍主義的な芸術的な文化の関係を論じ ることが重要であるとした上で、クリフォードやブルドューの先行研究の知見にふれ ながら、文化と芸術、文化資源と文化資本が互いに排除的な関係ではなく、動態的な 相互生成関係にあると論じ29、文化の動態的な資源化のプロセスの視点を提示する。  先行研究では、2007年に山下晋司が編者となって著した『資源化する文化』におい て、文化を動態的な資源化のプロセスを文化人類学的な視点から事例分析した研究が 挙げられる。同著書においては具体的な事例として、マダガスカルにおける女王の移 葬、ロシアにおける言語教育の事例、フィリピンの植林運動とその映像化、ネパール のメイファルという催しとそれに関する歌・踊り、オーストラリアにおけるアボリジ ニ美術、ノルウェーを中心とする北欧の先住民族サーミ人の権利回復運動と彼らの文 化、日本の「ふるさと」を主な切り口とする民俗文化に関する諸政策、日本の環境観 光における里山などを題材として、資源化する文化について論じられている30  文化「資源」と文化「資本」の違いについて山下は、資源としての文化が生きてい くための手段として利用され活用されるものであると位置づけられるのに対して、資 本としての文化は蓄積され再生産されるものとして論じる31 27 佐藤仁(2009)、前掲論文、p.584。 28 佐藤仁(2011)、前掲書、p.216。 29 山下晋司(2007a)「文化という資源」内堀基光編『資源と人間』弘文堂 pp.51 56。

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 文化「資本」という概念が、階級分化と階級の再生産という社会の構造に関わる事 象を何らかの時間的幅において補足する構造志向的概念である一方、文化資源は行為 志向的で、ある特定の行為者がある特定の行為によってある特定のものを「資源」と して活用する、その行為の具体性およびその行為が紡がれる場の具体性を可視化する ものとして、文化資源という概念を用いることができるのではないかと述べる32  そして、場の具体性を可視化する方法として、「誰が」「誰の『文化』を」「誰の『文 化』として」「誰をめがけて」という4つの問いにおいて捉える視点を示している。こ うした視点によれば、文化資源とは多分に、文化資源とそれをめぐる環境の接点をど のように構築していくのかという戦略的な視点を含んでいるように思われる。  以上のように、文化資源とは潜在的な可能性をもったモノやコトに対して、さまざ まなアクターが働きかけの対象として見出した社会的な産物であり、「なにかひとつの 要素的なモノではなくて、複数の要素の間に形成されるある種の関係であり、働きで あり、交換の過程であり、形態である33」といえる。このように、文化資源への可変性 については、資源との接近時における関係の取り結び方によって可能性が変化すると いう点において、文化資源が社会学的な分析に適した面をもつ研究領域であることを 示しているといえる。 2.5.文化の「資源化」  佐藤健二は、資源化の過程は、資源という対象の概念規定以上に注目すべき考察の 領域であり、その意識化と意味づけのダイナミズムは、文化資源を論じる際に忘れて はならないプロセスであると指摘している。文化の「資源化」とは、文化がある条件 において、ある目的にとって、ある機能もしくは効能をもつことによって成立してい く一連の過程である。換言すれば、「資源化」の過程とは、文化資源をめぐる意識化と 30  一連の研究の著作者と研究タイトルを示す。森山工(2007)「文化資源使用法:植民地マダガス カルにおける『文化』の『資源化する文化』」山下晋司責任編集『資源化する文化』弘文堂pp.61 69。渡邊日日(2007)「文化資源の開放系の領域について―ロシア・南シベリアにおける二言語教 育と公共問題―」、同前書、pp.93 120。清水展(2007)「文化を資源化する意味付与の実践―フィ リピン先住民イフガオの村における植林運動と自己表象―」、同前書、pp.123 150。名和克郎(2007) 「資源としての知識、資源化される伝統―ネパール、ビャンスのメイファルをめぐって」、同前書、 pp.151 180。窪田幸子(2007)「アボリジニ美術の変貌―文化資源をめぐる相互構築―」、同前書、 pp.181 208。葛野浩昭(2007)「ローカルかつグローバルな資源へ、過去遡及かつ未来志向の資源 へ―北欧の先住民サーミ人による文化の管理と表現の試み―」、同前書、pp.209 236。岩本通弥 (2007)「現代日本の文化政策とその政治資源化―『ふるさと資源』化とフォークロリズム―」、同 前書、pp.239 272。田中大介(2007)「葬儀サービスのイノベーション―現代日本葬儀産業による 文化資源の利用―」、同前書、pp.303 332。堂下恵(2007)「里山の資源化―京都府美山町の観光実 践より―」、同前書、pp.273 302。 31 山下晋司(2007a)、前掲書、p.55。 32 森山工(2007)、前掲書、p.63。 33 黒澤一清(1986)、前掲書、p.14。

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意味づけのダイナミズムのプロセスとして把握される34  佐藤仁は、資源を「働きかけの対象となる可能性の束35」と定義した上でその特徴 を、①資源とは動的であり、何に資源を見るかは私たちの「見る眼」に依存する、② 資源とは常に集団を主語とするものであって、その管理や利用には協働が必要になる、 ③資源とはそこにあるものを見出そうとする態度に動機づけられているとする36  定義に示される「働きかけ」について、①社会の決まりやしくみといった「制度」、 ②制度の中で明文化されていない、暗黙の慣習やルールといった「文化」、③人々が資 源に働きかける際の手段である「技術」というメカニズムを明らかにし、資源が単体 として孤立した存在ではなく、それを取り巻く社会環境の動態によって変化する存在 であると位置づけられている37  資源が、見る人によって、あるいは、その人の置かれている社会的状況や立場、動 員できる技術・資本によって異なるということは、資源管理には人々の間の共通理解 と利害調整や交渉が必要になることを意味する。このような点を踏まえると、資源化 のプロセスにおいては、アクター間の関係性や資源とアクターとの関係性が問題関心 となり得るのであり、資源の可能性については、資源とアクター、資源をめぐるアク ター間の関係性と密接に関連していると考えられる。  こうした関係性の糸を探る視点として、山下晋司は、文化の資源化における社会的 区分について、①日常の実践の場での資源化、②国家による資源化、③市場による資 源化という3つの区分を指摘する38。①日常の実践の場での資源化とは、家庭・職場・ 学校・地域社会などにおいて、言語から宗教までのさまざまなレベルの文化を無意識 のうちに行う資源化のことである。さらに、②国家による資源化にはその下位概念と して、国家を正当化するための資源化、学校教育を通しての資源化、国家による文化 政策として行われる資源化を挙げる。③市場による資源化とは、文化的価値を有する ものに経済的価値を認めて商品化するということである。  ①については、地域で行われる祭祀、日常的に使用される言語、ライフスタイルな どが、②については、文化財保護法による指定・認定などが、③については、観光を 目的として建築物、景観、祭祀をアピールすることなどが考えられる。  直近の研究では、観光を目的とした資源化を念頭に置いて、人びとが地域の要素の 34 佐藤健二(2007)、前掲書、pp.46 47。 35  佐藤仁(2011)『「持たざる国」の資源論―持続可能な国土をめぐるもう一つの知―』東京大学 出版会 p.17。 36  佐藤仁(2008)「今、なぜ『資源分配』か」佐藤仁編『資源を見る眼−現場からの分配論』東信 堂 pp.15 16。 37 山下晋司(2007b)「序 資源化する文化」山下晋司編『資源化する文化』弘文堂 pp.15 17。 38 佐藤健二(2007)、前掲書、p.54。

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何らかの働きかけを行う意向をもつ段階を「対象化」と位置づけ、実際の人びとの働 きかけによって地域の要素を資源に変換するプロセスを「(狭義の)資源化」、さらに 資源を生産・流通・交換できる財・サービスに変換するプロセスを「商品化」と捉え、 この一連のプロセス全体を「(広義の)資源化」ととらえる研究39が見られるほか、京 都府美山町を対象として里山が観光資源化されるプロセスを詳細に描き出した研究が 見られる40  ところで、先行研究においては以上の3つの社会区分が示されているが、①におけ る「無意識」のうちに行う資源化とはブルドューの文化資本概念における構造志向的 な分析視点であり「意識的」に行われるような文化資源概念における行為志向的な分 析視点が考慮されているとはいえない。それゆえ、資源研究の特徴でもある行為志向 的な視点に立った、つまり、意識的に行われる資源化についての社会的区分も考慮に 入れる必要があるだろう。また、②国家による資源化については、実質的には行政が その執行部分において深く関与することに鑑みて、国家という表現の中に行政も含ま れると考えてよいだろう。  また、厳密に考えれば、概念上設けられた社会区分については、その区分内で完結 するような閉じられたものではなく、相互に重なり合ったり働きかけられたりする開 かれたものであると考えられる。さらにアクターについては、各社会区分を越境する 39  森重昌之(2012)「観光資源の分類の意義と資源化のプロセスのマネジメントの重要性」『阪南 論集 人文・自然科学編 47(2)』p.114。 40 堂下恵(2012)『里山観光の資源人類学―京都府美山町の地域振興―』新曜社 p.13。 図1:文化の「資源化」とアクターの働きかけ 出典:筆者作成。

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ような横断的なアクターの存在も想定される必要があるだろう。意識的に行われる資 源化のアクターは、主に NPO/NGO、市民活動団体等のアソシエーションが想定され る。地域において展開される文化資源による地域再生や地域活性化等の利活用を目指 したまちづくりの営みは、こうした社会区分を設けることによってよりよく理解され ると考えられる。  文化の資源化においては、こうした4つの社会区分に見られるアクターが、「制度」 「文化」「技術」を通して可能性の束に接近し、その過程で各アクターが関係をとり結 ぶ場を形成すると考えられる。これまでの議論を踏まえた文化の「資源化」をめぐる アクターの働きかけの関係を表すと、図1のように表すことができる。 2.6.まとめ  文化資源概念の提起によって、潜在的な価値を有する資源の利活用への可能性が高 まる一方、文化資源に対する分析視点が明確にされていない現状に鑑みて、資源研究 をレビューし文化資源という概念についての掘り下げを試みた。その結果、文化資源 とは、潜在的な可能性をもったモノやコトに対して、さまざまなアクターによって働 きかけの対象として見出され、各アクターによる行為が紡がれる場の形成によって成 立する社会的な産物であり、その特徴として行為志向と可変性を見出すことができ、 資源は人間社会を抜きにしては成立し得ない概念として位置づけることが可能である ことが明らかとなった。この文化資源の可変性は、資源への接近時における関係の取 り結び方によって資源としての可能性が変化するということであり、文化資源が社会 学的な分析に適した面をもつ研究領域であることを示している。  また、資源を研究する学問的な方法論としては、多くの事例の多さと量的な厚みを 説得力の指標にしがちである今日の実証系社会科学の文化を再考し、小さな部分のつ らなりから大きな変化の兆候をつかめるような一般化の方法を重要視し、そこで得ら れた知見を裾野の広い公共行動に結びつける筋道をたてる知の枠組みを提供すること に、今日的な学問意義が見出されていることが理解された。  文化の「資源化」の内実においては、各アクターが密接に関わりながらアプローチ し、かつ、利害調整や交渉を通じて人々の間に共通理解と協調的な関係を構築させな がら資源としての利活用の方向性が見出されていくことで資源に「なる」。このよう に、文化の「資源化」とは、一見何の脈絡もないと思われる要素をある方向性に基づ いて脈絡のあるものとして構築することにより、新しい価値を見出そうとしたり、積 極的に創造していこうとする営みとして捉えられる。  一方で、各アクターが可能性の束としての文化資源に対してどのような可能性を見 出そうとするのかは多様であり、必ずしも一致しないと考えられることから、対立や 不和を乗り越えて協調的な関係を構築していくためのマネジメントが重要な課題とな ると考えられる。先行研究においては、多様なアクターの重層的な関わりによるガバ

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ナンスの重要性を指摘する研究も見られるが、その具体的な姿にまで踏み込んだ議論 は十分に行われていない。ガバナンスをアクターの関係性に関わる分析視角として理 解すれば、アクター間の関係性を踏まえた価値発現の理論的視角が求められていると いえるだろう。  ジンマーマンが指摘したように、資源に「なる」という根底においては知識が重要 であり、知識は他のあらゆる資源の母体、つまり、知識資源が種々の資源を創出する 基盤となるということであった。こうした点を踏まえるならば、アクター間の関係性 の結節点である「場」において知識を豊かに創造することで資源の可能性を高めると いう方向性が考えられる。次に、こうした可能性を明らかにする為、「場」における知 識の創造に着眼して議論を進めていくことにする。

3.「場」に関する理論的基盤の検討

3.1.「場」の定義  伊丹敬之は、「場」とは人々が参加し、意識・無意識のうちに相互に観察をし、コミ ュニケーションを行い、相互に理解をし、相互に働きかけあい、共通の体験をする、 その状況の枠組みであり、そこでは、人々が様々な様式で情報を交換し合い、その結 果人々の認識(情報集合)が変化する。このプロセス全体が情報的相互作用で、場と はいわばその相互作用の容れもののことであると定義する41。また、野中郁次郎と紺野 登は、「場」について「物理的空間(オフィス・分散した業務空間)、仮想空間、特定 の目的を共有しているメンタルスペース(共通経験、思い、理想)のいずれでもあり うる、場所 platform である」と定義する42  このように、「場」は関係の時空間であり、各々の存在が共有される場所である。そ こでは、個人は他者との相互作用的な関係に布置され、相互作用を通じて各人の視点 が総合的に取り込まれることで新しい知識(価値)を創造するのである。「場」の参加 者は、場に持ち込まれたさまざまな関係性や文脈を相互に共有することで、変化して いくのである。すなわち、「場」とは単に参加できるという意味合いにおけるものでは なく、対話や交流を通じて相互作用や関係変容が起こることが重要なのである。  以上のことから、「場」は、知識の創造、共有、活用、蓄積を活発化させるために、 個々の知識(価値)を共有したり、共同で知識(価値)を創造したりするための結節 点として位置づけられるものであると理解できる。 41 伊丹敬之(1993)「場のマネジメント序説」『組織科学第26巻1号』組織学会 pp.4 5。 42  野中郁次郎、紺野登(2000)「場の動態と知識創造―ダイナミクスな組織知に向けて―」伊丹敬 之、野中郁次郎、西口敏宏編著『場のダイナミズムと企業』東洋経済新報社 pp.56 57。

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3.2.「場」の形成とその基本要素  それでは、「場」はどのようにして形成されるのであろうか。「場」が形成されるき っかけは、いずれかのメンバーが外部環境から何らかのシグナルを探索し、受信する ことから始まる。このような「場」において、高密度で継続的な情報的相互作用が展 開されるには、参加するメンバーが4つの基本要素を共有していることが必要である とする。その4つの要素とは、①アジェンダ(情報は何に関するものか)、②解釈コー ド(情報はどう解釈すべきか)、③情報のキャリアー(情報を伝えている媒体)、④連 帯欲求である43  アジェンダの共有とは、どの情報を収集し、交換し創造していくかという意図をメ ンバーの中に共有していくことである。解釈コードの共有とは、場の参加者が、発信 者の社会の習慣を理解し、その状況に至るまでの歴史的組織的経過に対する理解や了 解をかなりの程度共通に有していることが重要である。さらに、情報のキャリアーに ついては、人間が五官を有し、観察能力を有するがゆえに、「物理的空間の共有」は情 報のキャリアーの共有を可能にしているという。中でも、対面による物理的空間の共 有は情報のキャリアーの飛躍的増大という点で重要な意義を有している44  これらの要素の共有が進むことで、①周囲の共感者との相互作用、②全体での統合 努力、③全体から個へのフィードバックという3つのタイプの相互作用が起こり、そ 43 伊丹敬之(1999)『場のマネジメント』NTT 出版 pp.41 42。 44 同上書、p.42。 図2:場の共通理解と心理的エネルギー発生のプロセス 出典:伊丹敬之(2005)『場の論理とマネジメント』東洋経済新報社 p.184を基に筆者作成。

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の結果として、「全体への共通理解」という秩序への収斂と全体の心理的エネルギーの 発生がもたらされると考えられている。このような、場のメンバーの「個」と場の「全 体」とを結ぶループ状のフィードバック(ミクロマクロループ)が働き、共通理解と 心理的共振が同時に達成されるのである45(図2)。 3.3.SECI モデルによる知識創造のプロセス  まず、知識それ自体について述べる前に、場と知識の関連性について言及される必 要があるだろう。野中らは知識というものが、それが独立して存在し得るものではな く、常に人々によって共有される文脈としての「場」に埋め込まれた形でしか存在し 得ないと考えているのである。したがって、「場」と知識とは相互に分かち難く結びつ いていると考えられる。  さて、知識創造の研究領域における知識は、「正当化された真なる信念であり、個人 の信念が『真実』へと正当化されるダイナミックな社会的プロセス」とされる46。知識 は、個人の主観的な思い・信念や価値観が、社会環境との相互作用を通じて正当化さ れ客観的な「真実」になるプロセスであるととらえられている47。知識創造のプロセス とは、知識ビジョンなどの「どう成りたいか」という目的に動かされた成員が、互い に作用しながら自身の限界を超えて知識を創造することにより将来のビジョンを実現 させることである48  これらの点を踏まえると、価値や意味はこうした知識と分かち難く結びついている と考えられる。なぜなら、価値や意味は、知識の創造、伝播、共有によって明確にな ると考えられるからである。このように、知識と価値は表裏一体のものであると考え ることができるのである。一方で、知識そのものにも価値や意味が認められることに は留意が必要であろう。  知識創造に関する SECI モデルは、知識における「暗黙知」と「形式知」の2つの 側面に着目している。「暗黙知」とは直感やスキルなど言葉では容易に表現することが できない知識のことである。こうした知のあり方に対して「形式知」が対置される。 「形式知」とは、学校で学ぶ知識のように言葉や文章での伝達が可能で、コード化し得 る知識のことである49。これらの2つの知識は相互に排他的なものでなく、相互循環 的、補完的関係にあり、暗黙知と形式知との間の相転移を通じて時間と共に知識が拡 45 伊丹敬之(1999)、前掲書、pp.80 85。 46  野中郁次郎、遠山亮子、平田透(2010)『流れを経営する―持続的イノベーション企業の動態理 論―』東洋経済新報社 p.7。 47 野中郁次郎、遠山亮子、平田透、(2010)前掲書、p.20。 48 同上書、pp.12 16。 49  立見淳哉(2008)「産業論・環境論と創造都市⑵」塩沢由典、小長谷一之編著『まちづくりと創 造都市―基礎と応用―』晃洋書房、p.31。

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張していくダイナミックなモデルとして提示される50。そして、人間の創造的活動にお いて、知識変換のプロセスを通じて暗黙知と形式知が質的にも量的にも増幅すると考 えられているのである51  SECI モデルのプロセスは、「共同化(Socialization)」→「表出化(Externalization)」 →「連結化(Combination)」→「内面化(Internalization)」という4つのモードからな る。「共同化」とは、経験の共有によって個人の暗黙知からグループの暗黙知を創造 し、「表出化」とは、暗黙知を明確なコンセプトに表すことによって暗黙知から形式知 を創造し、「連結化」とは、コンセプトを組み合わせて一つの知識体系を創り出すこと で個別の形式知から体系的な形式知を創造し、「内面化」とは形式知を暗黙知へと体化 することで形式知から暗黙知を創造することである52(図3)。 図3:SECI モデルのプロセス 出典:野中郁次郎、竹内弘高、梅本勝博訳(1996)『知識創造企業』東洋経済新報社 p.106を基に筆者作成。  以上の4つのモードのスパイラルを経て、個人的で主観的な知識(価値)は、社会 的で客観的な知識(価値)へと変換される。このスパイラルが活性化されることによ り、豊かな暗黙知が形成され、ますます豊かな知識(価値)の創造が期待されるので ある。これが、野中の提示する知識創造に関するモデルである。 3.4.知識創造プロセスに対応した「場」の類型  「場」は SECI モデルを活発に駆動させる際の触媒や媒介の役割を担っており、先に 述べた SECI モデルの「共同化」、「表出化」、「連結化」、「内面化」を場に対応させて 考えると、「創発場」、「対話場」、「システム場」、「実践場」の4つの分類による理解が 50 野中郁次郎(1985)『企業進化論』日本経済新聞社 p.56。 51 野中郁次郎、竹内宏高、梅本勝博訳『知識創造企業』東洋経済新報社 p.90。 52 同上書、pp.91 104。

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可能である。  「創発場」とは、共同化に対応する「場」であり、個人的かつ直接的相互的関係によ って規定される場であり53、ここでは主に、経験、思いなどの暗黙知が共有される54 「対話場」とは、表出化に対応する「場」であり、集団的かつ直接的な相互関係によっ て規定される場であり55、各自が対話を通じてそれぞれの暗黙知を言語化・概念化す る56。「システム場」とは、連結化に対応する「場」であり、集団的かつ間接的な相互 関係によって規定され57、形式知を相互に移転、共有、編集、構築する58。「実践場」と は、内面化に対応する「場」であり、個人的かつ間接的な相互関係によって規定され59 形式知を暗黙知として取り込んでいくための場である60(図4)。 図4:「場」の4類型 出典:筆者作成。  先述したように、「場」は、SECI モデルを活発に駆動させる際の触媒や媒介の役割 を担い、「場」における相互作用を通じて他者と文脈を共有しつつ、その文脈を変化さ せることによって知識(価値)を創出するのである。この文脈を別の言葉で表現する とコンテクスト(context)となり、コンテクストはコンテンツ間の関係性解釈の着眼 点であり、ある情報や知識の意味に影響を与える(意味づける)ものである。コンテ クストは、コンテンツが有している潜在的な価値を顕在化させる上で重要な役割を担 っている。すなわち、場の活性化による知識創造は、価値の顕在化に関わるコンテク 53 野中郁次郎、遠山亮子、紺野登(1999)「『知識創造企業再訪問』」『組織科学』第33巻第1号p.40。 54 野中郁次郎、紺野登(1999)『知識経営のすすめ』株式会社精興社 p.170。 55 野中郁次郎、遠山亮子、紺野登(1999)、前掲書、p.40。 56 野中郁次郎、紺野登(1999)、前掲書、p.172。 57 野中郁次郎、遠山亮子、紺野登(1999)、前掲書、p.40。 58 野中郁次郎、紺野登(1999)、前掲書、p.173。 59 野中郁次郎、遠山亮子、紺野登(1999)、前掲書、p.40。 60 野中郁次郎、紺野登(1999)、前掲書、p.173。

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スト自体の創造や更新と密接に関わっていると考えられるのである。そこで次に、価 値の顕在化とコンテクストの関係について先行研究に基づいて議論を整理する。

4.コンテクスト転換による価値創造に関する理論的基盤の検討

4.1.コンテクストに関する先行研究  「コンテクスト」という概念については言語学分野からその使用がはじまり、心理学 領域においては、ゲシュタルト心理学や認知心理学、芸術領域においてはキュービズ ムや現代建築、文化研究領域においては社会学や文化人類学へとその適用範囲の広が りをみせているという。近年は、経営・マーケティングにおける重要な戦略概念とし て認識されつつあり61、さらには、一つの組織という枠組みからさらに押し広げて、社 会や地域を考察の対象に、戦略概念としてのコンテクストの積極的な活用による地域 ブランディングや地域デザインに関する研究も見られるようになってきている62  これらの広範なコンテクスト研究の成果から導き出されるのは、コンテクストとは、 認識論であり、かつ、イノベーション(創造戦略)63として位置づけられているという ことである。認識論とは、人間が、文章や対象や文化を認識する際に、単独の要素(コ ンテンツ)としてではなく、全体(コンテクスト)の中でそれを位置づけて把握して いるということであり、イノベーション(創造戦略)とは、同じ要素(コンテンツ) も、異なる場面(コンテクスト)に持っていくと、まったく新しい価値を生み出すと いうことである64。このようにコンテクストとは、コンテンツの潜在的価値の顕在化や 価値の増大を可能にするものであると位置づけられるのである。  逆にいえば、価値の顕在化あるいは価値の増大については、それを実現するための 装置がなければ、コンテンツの価値が十分な水準に達するようなかたちで現出するこ とは困難であるといえる。その意味において、コンテクストは価値のいわば最終的な 決定要因になると考えられるのであり、この価値の発現に関わる価値増大装置(レバ レッジ)としてコンテクストを位置づけることが可能となる65 61  三浦俊彦、原田保(2012)「コンテクストデザインに至る理論の流れ―言語学・心理学・芸術・ 文化人類学・経営・マーケティングなどの先行研究レビュー―」原田保、三浦俊彦、高井透編著、 戦略学会編集『コンテクストデザイン戦略―価値発現のための理論と実践―』芙蓉書房出版p.24。 62  例えば、原田保、三浦俊彦編著『地域ブランドのコンテクストデザイン』同文舘出版、地域デ ザイン学会編集『地域革新と地域デザイン』芙蓉書房出版、地域デザイン学会編集、原田保、武 中千里、鈴木敦詞著『奈良のコンステレーションブランディング』芙蓉書房出版がある。 63 三浦俊彦、原田保(2012)、前掲書、p.68。 64 同上書、pp.68 69。 65  原田保(2008)「相互関係のコンテクストブランディング」『日本情報経営学会誌vol.28,No3』 pp.34 35。

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 コンテクストは、コンテンツ間の関係性解釈の着眼点であり66、コンテクストは文脈 や状況、コンテンツは固有の意味や価値を意味し、人々の認知や決定や行動を支える 構造的前提、または解釈枠のことである67。コンテクストは、ある情報や知識の意味に 影響を与える(意味づける)ものであり、コンテンツが有している潜在的な価値を顕 在化させる上で重要な役割を担っていると考えられる。 4.2.コンテクストの機能  コンテクストには、「コンテクスト表示性」、「コンテクスト再帰性」、「コンテクスト 型式性」の3つの機能がある。コンテクスト表示性とは「ある情報・知識(コンテン ツの意味を解釈する時の枠組み」としての機能、コンテクスト再帰性とは「引き続き 訪れる局面のコンテクストを形成する」機能、コンテクスト型式性とは、「対話者の背後 に存在する関係性、すなわちコミュニケーションに型を与える」機能を有している68 このような3つの機能はいずれもコンテンツ(固有の意味や価値)の認知に関わる機 能である。  コンテクストは、コミュニケーション行為において、効率的かつ効果的なコミュニ ケーションを成立させる機能を有しており、「場」において多様な関係者と適切なコミ ュニケーションを展開するためには、コンテクストの共有が必要になる。一方、直接 的なコミュニケーションが伴わない場合においても、コンテクストの共有があれば、 ある一つの情報や知識について同じような意味や価値付けが可能となるのである69  コンテクストは、コンテンツの価値を表示性、再帰性、形式性という3つの機能的 な特性を利用して引き出す装置として作動することで、潜在的価値であるコンテンツ の価値を顕在化させるための装置として機能すると考えられる。つまり、コンテクス トのありようによって、コンテンツから引き出される価値が変化すると考えられるの である。であるならば、コンテクストの共有のみならず、コンテクストを変化、ある いは、新たに創造することができるのか否かが重要な論点となる。 4.3.コンテクストの転換  寺本義也は、野中郁次郎の組織的知識創造プロセスの研究を援用して、共有され再 定義される動的な文脈としての「場」という概念とも密接に関連していることを指摘 し70、多様な参加者が既存のコンテクストを共有するだけでなく、さらに進んで参加の 66  涌田幸宏(2007)「境界連結を通じた情報技術とコンテクストの構造化プロセス」小松陽一、遠 山暁、原田保編著『組織コンテクストの再構成』中央経済社 p.123。 67 古賀広志(2007)「情報戦略におけるコンテクスチャルデザインの射程」同上書 p.98。 68  寺本義也(2005)『コンテクスト転換のマネジメント―組織ネットワークによる「止揚的融合」 と「共進化」に関する研究』白桃書房 pp.74 75。 69 同上書、p.81。 70 寺本義也(2005)、前掲書、p.82。

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相互作用を通じて、異なるコンテクストを融合し、新たなコンテクストを創造(止揚 的融合)するように働きかけることの重要性を指摘する。  寺本義也は、コンテクストの転換を企図する場合の対象となる3つのコンテクスト として、「価値的コンテクスト」、「主体的コンテクスト」、「関係的コンテクスト」を挙げ る。この3つのコンテクストの相互関係については、次のように考えることができる71  主体はそれ自体で孤立して存在するわけではなく、他の主体との関係によって区別 され、識別される。ゆえに、主体は他者との関係性の中に編みこまれている。関係性 についても、何も存在しないところではそれは成り立たず、主体間の関係性は、それ 自体で存在するというよりも、それぞれの主体の中に編みこまれていると見るべきで あろう。  また、価値についても、その概念には判断基準や評価基準という意味を内包してい るが、同時に、それは主体および主体間の関係を排除したところで、先見的に付与さ れているものではなく、価値の形成には主体と主体間の関係性に関する情報・知識72 深く関わっており、価値もまた、こうした主体と主体間の関係性の中に埋め込まれて いるのである。このように、コンテクストを形成する3つの概念は相即不離の関係で あると考えられる。  原田保は、コンテクストとその転換について、寺本の述べた3つのコンテクストに 「行為」という視点を加え、「価値」のコンテクスト、「主体」のコンテクスト、「関係」 のコンテクスト、「行為」のコンテクストという4つのコンテクスト転換を提示する73 (図5)。  4つのコンテクストの意味は次の通りである。「価値転換」における価値とは、経営 理念や企業理念、基本理念を指し、自らの行動指針となる価値の転換に関わるもので あって、組織としての基本的価値を転換することは、自らの行動を変えることを意味 する。「主体転換」の主体とは、ある情報や知識をそれぞれの定義されている主体、当 71 寺本義也(2005)、前掲書、pp.79 80。 72  寺本は、「情報」と「知識」を明確に峻別している。「情報」とは、個々の情報が必ずしも相互 に関連付けられていないのに対して、知識は他の知識と何らかの形で関連付けられているストッ ク的資産であると位置づける。情報が部分的・局所的であるのに対して、知識は全体的で、世界 的であると考えられている。また、情報は、主体の存在とは関係なく客観的な認識の対象として おかれているのに対し、知識はそれぞれの主体の主体的な認識によって基礎付けられている。以 上のことから、情報の生産や消費には主体の関与が必要とされないのに対して、知識は創造、活 用のプロセスに対して、なんらかの意味において主体が関与する。情報は、目的と手段に関わる ものであるのに対して、知識はその背後にある意味を問うものであるとしている。寺本義也、小 松陽一、福田順子、原田保、水尾順一、清家彰敏、山下正幸(1999)『パワーイノベーション』新 評論 p.12。 73  原田保(2010)「基礎理論とモデル概論」戦略研究会編集、原田保、三浦俊彦編著『ブランドデ ザイン戦略』芙蓉書房出版 pp.19 20。

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事者である個人や組織体を示し、主体の転換とは、当事者が「変」わる、あるいは 「替」わることである。「関係転換」とは、情報や知識をそれぞれの定義で捉えている 主体間の関係付けが変わることを意味する。ある情報や知識に対するコンテクストが A と B とで異なっている場合には、それは A と B の相互の関係がそれぞれのコンテク ストを規定することである。「行為転換」とは、前出の3つのコンテクストの転換が行 われた後、主体間の相互作用は従来と全く異なるものとなり、その結果、従来では決 して生まれなかったであろう知の創造が行われ、同時に組織全体の行為も転換される。  以上の4つのコンテクストは、すべて独立して機能するが、相互に影響しあったり、 あるいは複合的に展開されることもあるとされ、4つのコンテクストが同時に展開す る場合には、マルチレベルのコンテクスト転換と呼ばれ、「行為転換」はすべてのコン テクスト転換が行われた後に行われるのが一般的現象であるという74。こうしたコンテ クストの転換については、一組織の枠を越えて、社会との関係性を射程に含めたより マクロ的な議論の広がりをもつものとして論じられている。それ故、まちづくり組織 のような組織と地域社会との関係におけるコンテクストを考察する視点としても援用 することができると考えられる。

5.結語

 本研究は、文化的資源の価値を社会的環境との関係からとらえる視点が求められる との問題意識に基づき、潜在的な文化的諸資源をめぐる価値付けや意味づけに対する 74 原田保(2010)、前掲書、p.20。 図5:4つのコンテクスト転換 出典: 戦略研究学会編集、原田保「基礎理論とモデル概論」原田保、三浦俊彦編著『ブランドデザイン戦略― コンテクスト転換のモデルと事例―』芙蓉書房出版 p.19。を基に筆者作成。

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社会的関与の視点とそのダイナミズムを明らかにすることを本研究の目的として位置 づけた。  こうした課題に取り組むため、文化資源に関する先行研究をレビューし、資源に対 する社会関与のあり方を明らかにした。さらに、アクター間の関係性を踏まえた価値 発現の理論的視角を得るため、「場」における知識創造の理論や知識創造と密接に関 わるコンテクスト研究に言及し、価値付けや意味づけのダイナミズムの理論的基盤に ついて明らかにしたのである。  資源研究の泰斗であるジンマーマンは、資源を、物質、力、周囲の条件、相互関係、 制度、政策などの総合物であり、人間の努力と行動に応じて資源としての可能性が変 化する生きた現象であると位置づけた。つまり、社会環境の動態や人々の意識化や意 味づけによる「働きかけ」のダイナミズムによって資源に「なる」のである。  可能性の束としての資源への具体的な「働きかけ」については、「制度」、「文化」、 「技術」というメカニズムを通して行われ、資源への具体的な関係性を取り結ぶアク ターの社会区分については、①無意識的に行われる日常の実践の場での資源化、②国 家による資源化、③市場による資源化が指摘されていたが、新たに④有意識的に行わ れる日常の実践の場での資源化という社会区分を設け、NPO/NGO、市民団体等のアソ シエーションを積極的に資源に働きかけるアクターとして位置づけた。  このように、文化の「資源化」とは、一見何の脈絡もないと思われる要素をある方 向性に基づいて脈絡のあるものとして構築することにより、新しい価値を見出そうと したり、積極的に創造していこうとする営みとして捉えられる。そしてその内実にお いて、関係性の結節点としての「場」における協調的な関係の構築によって文化資源 の可能性が拡縮するのである。  他方で、アクター間の関係性を踏まえた価値発現のマネジメントが課題であり、課 題を論じるための分析視角として、ジンマーマンが資源化の根底に知識を位置づけた ことに着眼し、アクターの結節点である「場」で知識が創造されることによって、資 源の可能性を高めるという方向性が導きだされた。  そこで、「場」における知識創造に関する研究をレビューした。「場」は、知識創造 を活発に駆動させる際の触媒や媒介の役割を担い、「場」における相互作用を通じて他 者と文脈を共有しながらその文脈を変化させることによって知識(価値)を創出する ことが明らかにされた。また、「場」の活性化による知識創造は、価値の顕在化に関 わるコンテクスト自体の創造や更新と密接に関わっていることが明らかにされ、「場」 は単に参加するという意味合い以上に相互に関係変容が起こることが重要であること が理解された。  価値の顕在化とコンテクストの関係性については、コンテクストは価値の最終的な 決定要因、つまり、ある情報や知識の意味に影響を与える(意味づける)ものであり、

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コンテクストは価値発現に関わる価値増大装置であり、コンテクストは認識論であり、 かつ、創造戦略として位置づけられる。そして、具体的には4つのコンテクスト転換 によって、新たな価値を創造することが可能であることが先行研究のレビューから明 らかにされたのである。  ここで、潜在的な文化的諸資源をめぐる価値付けや意味づけに対する社会的関与の 視点とそのダイナミズムについて、本研究の議論から得られた知見を時系列的にまと めると次のようになるであろう。  まず、①資源を見出すアクターが現れ、外部からのシグナルの受信によって場の形 成が促される。この段階では、アクター間のネットワークは存在せず、知識創造のプ ロセスも行われていない。②場に共通理解や共感が形成されつつ、アクター間のネッ トワーク化が試みられ、場における知識創造が駆動しはじめる。③場に有力な全体理 解が台頭、全体での共振が起こり、ネットワークの安定化によって、場における知識 創造が活性化される。④場において全体の共通理解という秩序への収斂が行われ、全 体の心理的エネルギーが発生し、ネットワークが安定的に機能し、知識創造が旺盛に 行われている。このようなプロセスを経ながら4つのコンテクストが徐々に転換され、 潜在的な文化資源が顕在的文化資源として立ち現れるのである(図6)。  以上が、潜在的な文化的諸資源をめぐる価値付けや意味づけに対する社会的関与の 視点とそのダイナミズムの解明という本研究の課題に対する結論である。このような 結論から理解できることは、小さな変化や成果を積み重ね、それらの変化を徐々に全 体に及ぼしていくような地道なプロセスであるということである。 図6:本研究の議論のまとめ 出典:筆者作成。

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 最後に本研究の課題についても検討されなければならないだろう。今後の課題とし ては、分析枠組みの有効性やその精緻化が課題となる。さらに、本研究は基礎研究で あるため分析枠組みのデザインの提示に留まったが、マネジメントの視点についても 当然重要な論点となる。これらの点については、本研究で得られた知見に基づいた事 例研究を通して、今後さらに探究されなければならない課題である。 参考文献 〔1〕石井素介(1989)「資源論への一つの基礎視角」『国民経済雑誌160⑷』 〔2〕石光亨(1973)『人類と資源:生きのびるための英知』日経新書 〔3〕伊丹敬之(1999)『場のマネジメント』NTT 出版 〔4〕 伊藤裕夫(2010)「『文化資源マネジメント』という観点について」富山大学地域 生活学研究会『地域生活学研究1』 〔5〕 岩本通弥(2007)「現代日本の文化政策とその政治資源化―『ふるさと資源』化 とフォークロリズム―」山下晋司責任編集『資源化する文化』弘文堂 〔6〕内堀基光(2007)「序 資源をめぐる諸問題」内堀基光編『人間と資源』弘文堂 〔7〕大原久和(1956)「経済地理学における資源論」『国民経済雑誌93⑷』 〔8〕 嘉治真三(1957)『最近における資源論の発展と資源保全に関する研究』昭和32 年度科学試験研究費補助金研究計画調書 〔9〕 葛野浩昭(2007)「ローカルかつグローバルな資源へ、過去遡及かつ未来志向の 資源へ―北欧の先住民サーミ人による文化の管理と表現の試み―」山下晋司責任 編集『資源化する文化』弘文堂 〔10〕 窪田幸子(2007)「アボリジニ美術の変貌―文化資源をめぐる相互構築―」山下 晋司責任編集『資源化する文化』弘文堂 〔11〕黒岩俊郎(1964)『資源論』勁草書房 〔12〕黒岩俊郎(1979)『日本資源論』東洋経済新報社 〔13〕黒岩俊郎(1982)『資源論ノート』ダイヤモンド社 〔14〕黒澤一清(1986)『産業と資源』放送大学出版協会 〔15〕 古賀広志(2007)「情報戦略におけるコンテクスチャルデザインの射程」、小松陽 一、遠山暁、原田保編著『組織コンテクストの再構成』中央経済社 〔16〕小島栄次(1937)「資源問題考究の若干の基礎」『三田学会雑誌31』 〔17〕 佐藤健二(2007)「文化資源学の構想と課題」山下晋司責任編集『資源化する文 化』弘文堂 〔18〕 佐藤仁(2011)『「持たざる国」の資源論―持続可能な国土をめぐるもう一つの 知―』東京大学出版会 〔19〕 佐藤仁(2009)「資源論の再検討―1950年代から1970年代の地理学の貢献を中心

参照

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