Kobe Shoin Women’s University Repository
Title
源氏物語鈴虫巻の本文
On The Texts of The Tale of Genii —The Textual Analysis of "SUZUMUSHI"- Author(s) 片岡 利博(KATAOKA Toshihiro)
Citation 文林(BUNRIN),No.25:1-86
Issue Date 1990
Resource Type Bulletin Paper / 紀要論文
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源
氏
物
語
鈴
虫
巻
の
本
文
片
岡
利
博
﹃ 激 民 物 語 大 成 校 異 篇 ﹄ の 鈴 虫 の 巻 は 、 青 表 紙 本 の 大 島 本 を 底 本 に 、 毒 表 紙 本 系 統 の 六 本 、 河 内 本 系 銃 の 七 本 、 別 本 の 五 木 の 校 異 が 各 系 統 別 に 記 さ れ て い る 。 本 稿 椎 、 こ れ を 用 い て 鈴 虫 の 巻 の 河 内 木 お よ び 青 表 紙 本 の 本 文 に つ い て 考 察 し よ う と す る ら の で あ る 孕 氏軌語蛉虫巷の本文 ー 目 次 1 1 醍 料 に つ い て ・・ ⋮ ・3 1 冊 略 校 異 衷 の 作 成 ⋮ ⋮ 3 営 伝 繭 原 俊 成 葦 本 に つ い て ・: ⋮ 4 3 ﹃ 源 氏 物 語 大 成 校 異 篇 ﹂ 嵐 外 の 資 料 ⋮ ⋮ 臼文林 二十五号 皿 河 内 本 の 本 文 一 似 て 非 な る 河 内 本 : ⋮ ・ m 1 天 理 本 の 本 文 ・⋮ ・・ 12 2 為 家 本 の 本 文 ⋮ ⋮ 19 3 二 河 内 本 の 分 類 と 系 統 ⋮ ⋮ 器 1 高 松 宮 象 本 の 本 文 ⋮ ⋮ 26 2 大 島 本 の 本 文 ⋮ .. . 29 4 東 山 御 文 庫 蔵 各 筆 源 氏 の 本 文 .. .・ .・ 5ε 三 結 語 ・ 注 ⋮ : 42 亀 州 家 本 の 本 行 本 文 ⋮ ⋮ 22 3 凪 来 寺 本 の 本 文 ⋮ ⋮ 30 匹 青 衷 紙 本 の 本 文 一 諸 本 の 書 入 れ に つ い て ⋮ ⋮ 46 ゴ 青 表 紙 本 系 統 諸 本 の 分 類 ・・ : : 54 三 大 成 本 文 の 独 自 異 文 に つ い て ⋮ ⋮ 駆 四 ﹁ 西 肖 三 ﹂ グ ル ー プ の 本 文 障 つ い て .⋮ 60 1 西 下 本 の 本 文 に つ い て ⋮ ⋮ ε2 2 肖 柏 本 の 本 文 に つ い て ⋮ ・. ・ 65 五 ﹁ 横 島 池 ﹂ グ ル ー プ の 本 文 に づ い て ⋮ ⋮ 弱 工 横 山 本 の 系 統 四 独 由 異 文 ⋮ ⋮ 69 2 田 本 大 学 総 合 図 書 館 蔵 伝 為 氏 筆 本 の 系 統 内 独 白 異 文 ⋮ ⋮ η 一 ? 一 一
3 池 田 本 の 系 統 内 独 自 異 文 ⋮ ⋮ 73 4 ﹁ 横 島 池 ﹂ グ ル ー プ 内 で の 本 文 の 対 立 ⋮ ー 74 六 大 成 本 文 二 二 条 西 家 本 ・ 池 田 本 の 本 文 の 比 較 : ⋮ ・η 七 結 語 ・ 注 ⋮ ⋮ 麗 1 資 料 に つ い て 物騰鈴虫巷の本文 1 簡 略 校 異 表 の 作 成 ﹃ 源 氏 物 語 大 成 校 異 篇 ﹄ の 校 異 の 表 示 の し か た は 、 青 表 紙 本 と 、 河 内 本 や 別 本 と の 間 で 音 便 の 類 の 扱 い や 書 き 入 れ 本 文 の 扱 い な ど に お い て 異 な っ て お り 、 青 表 紙 本 の 校 異 表 示 は 詳 細 で 、 河 内 本 ・ 別 本 の そ れ は 簡 略 化 さ れ て い る 。 こ の ま ま で は 異 系 統 間 の 本 文 異 同 を 比 較 す る 際 に 統 一 が と れ な い の で 、 青 表 紙 本 の 校 異 表 示 を ほ ぼ 河 内 本 の そ れ に 改 め て 、 簡 略 校 異 表 を 作 成 し て み た 。 簡 略 校 異 表 で は 、 青 表 紙 本 校 異 の う ち 、 音 便 の 違 い は 捨 て 、 訂 正 の 書 入 れ は 訂 正 後 本 文 に よ っ た 上 で 、 青 表 紙 本 ・ 河 内 本 ・ 別 本 の 境 界 を 取 り 外 し て 一 括 表 示 し て い る 。 た と え ば 、 ﹃ 源 氏 物 語 大 成 校 異 篇 ﹄ 一 二 九 一 ぺ ー ジ の 8 行 目 ( 以 下 、 九 一 1 8 の よ う に 表 示 す る ) に あ る ﹁ 百 部 の く の え か う ﹂ の 本 文 に 対 し て 、 青 表 紙 本 校 異 欄 に は ﹁ 百 ふ の え か う 横 島 池 西 三 -百 部 の く ぬ え か う 肖 ﹂ と あ り 、 河 内 本 校 異 欄 に は ﹁ 百 ふ の え か う 河 ﹂ と あ り 、 別 本 の 校 異 欄 に は ﹁ 百 分 の え か う 陽 -百 ふ の く ん え か う 保 ﹂ と あ る が 、 こ れ を つ ぎ の よ う に 簡 略 化 す る 。
文林 二十五号 o く の え か う ( 大 成 本 文 ・ 肖 / * / 保 言 麦 阿 ) 1 え か う (横 島 池 西 三 / 河 / 陽 ) (九 ] 1 8 ) ま た 、 九 一 1 11 に あ る ﹁ か く し ほ ∼ う け て ﹂ の 本 文 に 対 し て 、 青 表 紙 本 校 異 欄 に は ﹁ か く し ほ お ( ほ ) ほ ろ け て 横 ー か く し ほ ろ ∼ け て 西 肖 ﹂ と あ り 、 河 内 本 校 異 欄 に は 記 載 が な く 、 別 本 の 校 異 欄 に は ﹁ 補 入 保 ー か く し ほ ろ け て 言 ー ナ シ 麦 阿 ﹂ と あ る が 、 こ れ を 次 の よ う に 簡 略 化 す る 。 。 ほ ∼ ろ け て ( 大 成 本 文 ・ 横 島 池 三 / 河 / 陽 保 ) ー ほ ろ ∼ け て (西 肖 / * / * ) i ほ ろ け て ( * / * / 言 ) ー ナ シ ( * / * / 麦 阿 ) ( 九 一 ー 11 ) 2 伝 藤 原 俊 成 筆 本 に つ い て 鈴 虫 の 巻 に 採 用 さ れ た 河 内 本 七 本 の な か に ﹁ 伝 藤 原 俊 成 筆 宮 崎 半 兵 衛 氏 蔵 ﹂ な る 本 が あ る 。 河 内 本 校 異 欄 に ﹁ 俊 ﹂ の 略 号 で そ の 校 異 が ・表 示 さ れ て い る が 、 こ の 本 に 関 す る 解 説 は ﹃ 源 氏 物 語 大 成 研 究 篇 ﹄ に も 見 あ た ら な い 。 い っ ぼ う 、 ﹃ 源 氏 物 語 事 典 ﹄ の ﹁ 諸 本 解 題 ﹂ ( 大 津 有 一 氏 に よ る ) は 、 ﹁ 天 理 図 書 館 蔵 伝 俊 成 筆 鈴 虫 巻 ﹂ の 項 に お い て 、 つ ぎ の よ う に 記 し て い る 。 ︹ 冊 数 ︺ 一 巻 。 ︹ 体 裁 ︺ 巻 子 本 。 ︹ 筆 者 ︺ 藤 原 俊 成 筆 と い わ れ て い る が 真 偽 の ほ ど は 明 ら か で な い 。 ︹ 内 容 ︺ の 系 統 は 河 内 本 で あ る 。 ︹ 参 考 ︺ ﹃ 校 異 源 氏 物 語 ﹄ ﹃ 源 民 物 語 大 成 ﹄ 校 異 篇 に 略 号 ﹁ 俊 ﹂ と し て 採 用 。 本 文 一4一
こ の 天 理 図 書 館 現 蔵 の 巻 子 本 (以 下 、 天 理 本 と 称 す る ) は 天 理 図 書 館 善 本 叢 書 さ れ て お り 、 同 書 巻 末 に 収 め ら れ た 曽 沢 太 吉 氏 に よ る 解 題 も 、 ﹃ 源 氏 物 語 諸 本 集 二 ﹄ に 影 印 出 版 本 巻 は 、 ﹁ 大 成 校 合 篇 ﹂ に 、 略 号 ﹁ 俊 ﹂ と し て 収 め ら れ て い る が 、 解 説 は な い 。 (十 六 ペ ー ジ ) 源氏物語鈴虫巻の本文 と し て 、 こ れ を ﹃ 源 氏 物 語 大 成 ﹄ の ﹁ 俊 ﹂ 本 に 同 定 し て い る 。 と こ ろ が 、 い ま こ の 天 理 本 の 影 印 本 に よ っ て ﹁ 大 成 校 異 篇 ﹄ の ﹁ 俊 ﹂ 本 の 校 異 を チ ェ ッ ク し て み る と 、 両 者 が 同 一 の 本 で あ る と は と う て い 考 え ら れ な い よ う な 諸 例 が ず い ぶ ん 多 く 目 に つ く 。 類 型 別 に い く つ か の 例 を あ げ る と 、 o ﹃ 大 成 ﹄ に は ﹁ は な の ー は ち す の 河 ﹂ ( 九 一 1 8 ) と い う 河 内 本 校 異 が 表 示 さ れ て い る 。 こ れ に よ れ ば ﹁ 俊 ﹂ 本 は ﹁ は ち す の ﹂ で あ る こ と に な る が 、 天 理 本 本 文 は 明 ら か に ﹁ は な の ﹂ (影 印 本 三 三 四 ペ ー ジ ) で あ っ て 、 大 成 本 文 と 同 文 に な っ て い る 。 ま た 、 ﹁ ひ と へ に ー ひ と へ に お も ほ し と り て い と 河 ﹂ (九 六 1 5 ) も 、 天 理 本 本 文 は 大 成 本 文 と 同 様 ﹁ ひ と へ に ﹂ ( 三 四 五 ペ ー ジ ) で あ る 。 こ う し た パ タ ン の 例 は ほ か に も い く つ か あ る 。 o ﹁ 御 あ そ ひ を も ー あ そ ひ を も 御 宮 尾 為 鳳 1 あ そ ひ を 大 ﹂ ( 〇 三 1 4 ) に よ れ ば 、 ﹁ 俊 ﹂ 本 は ﹁ 御 あ そ ひ を も ﹂ と な っ て 大 成 本 文 に 一 致 し て い る こ と に な る が 、 天 理 本 本 文 は ﹁ あ そ び を も ﹂ ( 三 六 三 ペ ー ジ ) で あ っ て 河 内 本 諸 本 と 同 文 で あ る 。
文林 二十五号 o ﹁ か ら の か み ﹂ ( 九 ニ ー 1 ) に は 校 異 が 記 さ れ て お ら ず 、 ﹁ 俊 ﹂ 本 も 同 文 で あ る は ず で あ る が 、 天 理 本 文 は 明 ら か に ﹁ か ら か み ﹂ (三 三 五 ペ ー ジ ) と 、 異 文 に な っ て い る 。 o ﹁ え さ も ー え さ し も 俊 ﹂ ( 九 六 1 10 ) ﹁ 有 様 に ー あ り さ ま 俊 ﹂ ( 〇 三 ー 7 ) と あ り 、 ﹁ 俊 ﹂ 本 の 独 自 異 文 が 表 示 さ れ て い る が 、 天 理 本 本 文 は ま ぎ れ も な く ﹁ え さ も ﹂ ( 三 四 六 ペ ー ジ ) ﹁ あ り さ ま に ﹂ ( 三 六 一 ペ ー ジ ) で あ っ て 大 成 本 と 同 文 で あ る 。 ﹃ 源 氏 物 語 大 成 校 異 篇 ﹄ に 少 な か ら ぬ 量 の 校 合 ミ ス が あ る こ と は こ れ ま で に も し ば し ば 指 摘 さ れ て い る と こ ろ で あ り 、 こ の 種 の 書 に お い て は 多 少 の ミ ス は 不 可 避 と せ ね ば な る ま い が 、 上 に 見 た よ う な 例 が す べ て ﹃ 大 成 ﹄ の 校 合 ミ ス で あ っ た り 誤 植 で あ っ た り す る な ら ば 、 ﹃ 源 氏 物 語 大 成 校 異 篇 ﹄ は と う て い 利 用 に た え る も の で は な い こ と に な っ て し ま う 。 そ こ で 、 天 理 本 の 入 手 経 路 に つ い て 天 理 図 書 館 に 照 会 し て み た と こ ろ 、 昭 和 二 十 五 年 三 月 に 七 海 兵 吉 氏 か ら 弘 文 荘 に 入 り 、 そ の 後 天 理 図 書 館 に 入 っ た も の で あ っ て 、 そ の 経 緯 に つ い て は 反 町 茂 雄 氏 ﹃ 一 古 書 騨 の 思 い 出 4 ﹄ に 記 述 が あ る と の 御 教 示 を 得 る こ と が で き た 。 し か し 、 そ れ 以 前 の 伝 来 に つ い て の 情 報 を 得 ら れ ず に い た と こ ろ 、 国 文 学 研 究 資 料 館 の 初 雁 文 庫 に 、 ﹃ 源 氏 鈴 虫 伝 俊 成 筆 本 ﹄ な る 写 本 が あ る こ と を 知 っ た 。 こ の 本 の 巻 末 の 書 写 奥 書 に は 次 の よ う に 記 さ れ て い る 。 一6一
右 一 巻 は 京 都 市 中 京 区 堺 町 通 御 池 下 ル 宮 崎 半 兵 衛 氏 蔵 に 係 る 俊 成 筆 云 々 の 真 偽 の 程 は 証 し 難 も 凡 そ の 時 代 は マ マ 違 は ざ る べ く そ の 筆 蹟 は 前 田 家 清 輔 本 古 今 集 に 似 た り 此 本 巻 子 本 に て 竪 ( ﹁ 竪 ﹂ 字 補 入 ) 一 寸 七 ( ﹁ 五 ﹂ を ミ セ ケ チ に し て ﹁ 七 ﹂ 傍 書 ) 分 、 横 七 寸 五 分 の 紙 廿 八 枚 を ( ﹁ 綴 ﹂ ミ セ ケ チ ) つ な ぎ 一 枚 に 十 一 行 か き た り こ の 写 本 マ マ は 一 枚 分 を 半 枚 に か き て 十 四 枚 と せ り 二 十 八 枚 の 内 第 三 第 四 は 入 れ か る 今 の 写 本 は 直 し て う つ せ り 昭 和 六 年 一 月 廿 五 日 上 洛 し て 鉛 筆 に て う つ し 今 日 清 書 了 昭 和 六 年 二 月 三 日 西 下 経 一 源氏物語 鈴虫巻の本文 と あ る 。 書 誌 の 記 述 に は 錯 誤 が あ る よ う で あ る が 、 こ の 初 雁 文 庫 本 を 天 理 本 と 比 較 す る と 、 初 雁 文 庫 本 の 書 本 が 天 理 本 そ の も の で あ る こ と は 一 目 瞭 然 で あ り 、 改 行 箇 所 、 字 母 、 句 点 な ど も そ の ま ま に 臨 模 し て あ り 、 誤 写 も 三 箇 所 程 度 し か な い 。 ま た 、 西 下 氏 の 奥 書 が 伝 え る と こ ろ の 書 本 の 錯 簡 は そ の ま ま 天 理 本 に も あ て は ま る も の で あ る 。 こ れ に よ う て 、 天 理 本 が 昭 和 六 年 当 時 、 宮 崎 半 兵 衛 氏 蔵 で あ っ た こ と は 確 実 で あ る 。 大 津 氏 、 曽 沢 氏 が 、 ﹃ 大 成 ﹄ 所 収 の ﹁ 俊 ﹂ 本 を 天 理 本 に 同 定 さ れ る の は 、 天 理 本 が 伝 俊 成 筆 で あ る こ と と 、 宮 崎 半 兵 衛 旧 蔵 で あ っ た こ と と だ け か ら で あ っ て 、 本 文 を 照 合 さ れ て の こ と で は な い の で あ ろ う と 付 度 す る 。 ﹃ 大 成 校 異 篇 ﹄ は 、 凡 例 の ﹁ 校 異 二 採 択 シ タ 諸 本 ﹂ の 一 覧 表 、 お よ び 鈴 虫 の 巻 の 巻 頭 の 校 合 本 一 覧 に 、 ﹁ 俊 ﹂ 本 の 所 蔵 者 に つ い て ﹁ 伝 藤 原 俊 成 筆 宮 崎 半 兵 衛 氏 蔵 ﹂ と 明 記 す る が 、 こ れ が 本 当 だ と す れ ば 、 宮 崎 半 兵 衛 氏 の 蔵 書 に は 天 理 本 と は 別 な も う ひ と つ の 俊 成 筆 本 が あ り 、 ﹃ 大 成 校 異 篇 ﹄ は そ ち ら の ほ う を 採 用 し た と 考 え ざ る を え な い 。 し か し 、 そ う で
文林 二十五 号 は な く て 、 ﹃ 大 成 ﹄ 所 収 の ﹁ 俊 ﹂ 本 は 、 宮 崎 半 兵 衛 蔵 本 で は な く て 、 ま っ た く 別 な 本 を 校 合 に 用 い た の で は な い か と 私 は 疑 っ て い る 。 ﹃ 大 成 ﹄ が 、 実 際 に 校 合 す る 際 に は 校 合 本 一 覧 に 示 し た 本 と は 異 な る 本 を 用 い て い る の で は な い か と 疑 わ れ る 不 審 な 例 と い う の は 他 に も あ っ て 、 昭 和 五 年 の 時 点 で す で に 欠 帖 と な っ て い た は ず の 三 条 西 家 本 夕 霧 巻 が 、 夕 霧 巻 の 校 合 本 一 覧 に ﹁ 三 条 西 家 本 三 条 西 伯 爵 家 蔵 ﹂ と し て あ げ ら れ て お り 、 そ の 詳 細 な 校 異 が 校 異 欄 に 示 さ れ て ( 1 ) い る と い う 不 可 解 な 例 を 、 池 田 利 夫 氏 が 報 告 し て お ら れ る 。 こ こ も そ れ と 同 様 で 、 実 際 に 校 合 す る 際 に は 校 合 本 一 覧 に 掲 出 し た ﹁ 宮 崎 半 兵 衛 氏 蔵 本 ﹂ で は な い 、 別 の 本 が 用 い ら れ た の で は な い か と 思 う 。 も し 上 述 の 推 測 が 誤 り で あ る と す れ ば 、 ﹃ 大 成 校 異 篇 ﹄ に 表 示 さ れ た ﹁ 俊 ﹂ 本 の 校 異 は で た ら め な も の で あ る と い わ ね ば な ら ず 、 ひ い て は ﹃ 大 成 校 異 篇 ﹄ そ の も の の 信 愚 性 を 大 き く そ こ な う こ と に も な り か ね な い 。 以 上 述 べ た よ う に 、 私 は ﹃ 大 成 ﹄ の ﹁ 俊 ﹂ 本 と 天 理 本 と の 同 定 に つ い て 強 い 疑 義 を 禁 じ 得 な い の で あ る が 、 な お ﹃ 大 成 校 異 篇 ﹄ に 収 録 さ れ た ﹁ 俊 ﹂ 本 な る も の の 素 姓 が さ だ か で な い の で 、 本 稿 で は 、 ﹃ 大 成 ﹄ に 示 さ れ た ﹁ 俊 ﹂ 本 の 校 異 の い っ さ い を 捨 て て 、 天 理 本 で あ ら た に 校 合 し な お し た も の を 代 用 す る こ と に し て お く 。 な お 、 以 下 、 天 理 本 本 文 を ﹁ 天 ﹂ 本 の 略 号 で 表 示 す る 。 (ち な み に 、 本 稿 で は 、 天 理 本 、 と い う 言 い 方 と 、 ﹁ 天 ﹂ 本 、 と い う 言 い 方 と を 区 別 し て 用 い て い る 。 前 者 は 伝 本 自 体 を さ し て 言 う 場 合 に 用 い 、 後 者 は そ の 本 文 を さ し て 言 う 場 合 に 用 い る 。 飛 鳥 井 雅 康 筆 大 島 本 -大 成 本 文 、 尾 州 家 本 1 ﹁ 尾 ﹂ 本 、 等 も 同 様 の 区 別 を し て い る ) ま た 、 曽 沢 氏 は 上 掲 書 に お い て 、 天 理 本 の 本 文 が 河 内 本 で は な い こ と を 指 摘 し て お ら れ 、 私 見 で も 結 果 的 に は 曽 沢 氏 の 結 論 に 近 い が 、 し ば ら く は 通 説 に し た が っ て 河 内 本 と し て 取 り 扱 っ て い く こ と に す る 。 一8一
3 ﹃ 源 氏 物 語 大 成 校 異 篇 ﹄ 以 外 の 資 料 上 記 1 の 簡 略 校 異 表 は 、 2 に 述 べ た ﹁ 俊 ﹂ 本 を ﹁ 天 ﹂ 本 と 差 し 替 え た の を 例 外 と し て 、 す べ て ﹃ 源 民 物 語 大 成 校 異 篇 ﹄ に 表 示 さ れ て い る 校 異 に よ っ て 作 成 し た 。 複 製 ・ 影 印 ・ 翻 刻 等 が 刊 行 さ れ て い る も の に つ い て は そ れ ら を 参 照 し た が 、 そ れ ら に よ っ て 校 異 表 自 体 を 増 補 訂 正 す る こ と は し て い な い 。 ﹃ 大 成 ﹄ の 不 備 な 点 に つ い て は 、 必 要 に 応 じ て 以 下 の 論 の 中 で 指 摘 し て い く こ と と す る 。 参 照 し た 書 は 次 の と お り で あ る 。 源氏物語鈴虫巻 の本文 尾 州 家 河 内 本 源 氏 物 語 (日 本 古 典 文 学 会 刊 ) 高 松 宮 御 蔵 河 内 本 源 氏 物 語 (臨 川 書 店 刊 ) 御 物 本 各 筆 源 氏 物 語 (貴 重 本 刊 行 会 刊 ) 陽 明 叢 書 ﹃源 氏 物 語 ﹄ (思 文 閣 出 版 刊 ) 中 山 家 本 源 氏 物 語 (日 本 古 典 文 学 会 刊 ) 穂 久 逓 文 庫 本 源 氏 物 語 (日 本 古 典 文 学 影 印 叢 刊 ) 日 本 大 学 総 合 図 書 館 蔵 伝 為 氏 筆 本 ( ﹃商 学 集 志 ﹄ 7 1 1 )
文林 二十五号 i 河 内 本 の 本 文 一 似 て 非 な る 河 内 本 上 記 の 簡 略 校 異 表 に よ る と 、 大 成 本 文 を 含 赴 青 ・衷 紙 本 七 本 お よ び 河 内 本 七 本 が 関 係 す る 校 異 箇 所 の 総 数 は 一 九 一 簡 所 で あ る 。 こ の ↓ 九 一 箇 所 の な か で 、 叫 本 が 同 一 系 統 内 の 他 本 の す べ て と 対 立 す る 箇 所 ( 系 疏 内 独 自 異 文 A ) と 、 異 系 統 諸 本 も 含 珍 た 大 成 所 収 の す べ て の 他 本 と 対 立 す る 箇 所 ( 独 自 異 文 B ) と の 数 値 を そ れ ぞ れ 各 本 ご と に 数 え て み る と つ ぎ の よ う に な る 。 な お 、 参 考 の た 訪 、 大 成 本 文 に 対 す る 翼 文 の 総 数 点 C ) と 、 在 忙 対 す る B の 百 分 比 ( D } と を 付 記 し た 。 一10一 ︹ 表 一 ︺ 膏 表 紙 本 系 髄 大 成 本 文 横 島 A 一 三 二 三 一 一 B 九 八 八 C 三 四 二 七* D 六 二 箔 七 八 八 二
源氏物 語鈴虫笹の本文 池 西 肖 三 河 内 本 系 統 天 風 為 大 尾 宮 御 三 一 七 七 一 一 六 七 二 二 四 二 九 六 六 ゴ 九 凹 二 一 六 二 一 〇 六 五 六 九 〇 四 五 五 六 五 五 七 六 七 六 五 一 二 九 六 七 八一昌■ 八一晶 八←⊥」 _一 ノ 、 ノ 、 八 五 五 〇 一 〇 〇 九 四 三 三 九 一 二 九 こ の 表 を み る と 、 ﹁ 尾 ﹂ 本 以 外 の す べ て の 本 に お い て 系 統 内 独 自 異 文 数 八 と 独 自 異 文 数 B と の 間 に 大 な ら 小 な り 差 が 崖 じ て い る 。 こ れ は 、 同 一 系 統 内 に お い て は 同 文 の 本 餌 な い に も か か わ ら ず 、 他 系 統 の 諸 本 の な か に 共 通 異 文 を 有 す る 本 が あ る こ と を 意 味 す る 、 こ う い う 現 象 が 見 ら れ る 本 は 、 理 論 的 に は 、 異 系 統 本 文 に よ っ て 校 訂 が 行 わ れ た 疑 い が も た れ る こ と に な る わ け で あ る が 、 青 表 紙 本 系 統 と い い 、 河 内 本 系 統 と い う て み た と ζ ろ で 、 い ず れ も 祖 本 自 体 が
文林 二十五号 校 訂 本 の 性 格 を も つ の み な ら ず 、 各 系 統 の 祖 本 そ の も の が 複 数 箇 存 在 し た ら し い こ と ま で が 指 摘 さ れ て い る 現 状 で は 、 こ の 程 度 の 資 料 で あ ま り 細 か い 詮 索 を し て み た と こ ろ で 意 味 は な い で あ ろ う 。 し か し 、 A と B の 差 が 極 端 に 大 き い も の ( D の 数 値 が 極 端 に 小 さ い も の ) に つ い て は 、 そ も そ も そ の 系 統 の 本 と し て 認 定 し た こ と 自 体 に 誤 り が あ っ た の で は な い か と い う こ と を 疑 っ て み る 必 要 は あ る で あ ろ う 。 そ う い う 目 で 上 の 表 を 見 た と き に 、 き わ だ っ て 目 に つ く の が ﹁ 天 ﹂ 本 と ﹁ 為 ﹂ 本 で あ る 。 ﹁ 天 ﹂ 本 に つ い て は 、 前 節 で も 触 れ た よ う に 、 曽 沢 氏 が こ れ を 河 内 本 と す る 従 来 の 説 に 対 し て 疑 義 を 出 し て お ら れ る 。 曽 沢 氏 の 所 論 と 重 複 す る と こ ろ も 多 い が 、 ま ず ﹁ 天 ﹂ 本 か ら み て ゆ き た い 。 1 天 理 本 の 本 文 ﹁ 天 ﹂ 本 を 河 内 本 と み な し た 場 合 の 系 統 内 独 自 異 文 数 は 、 ︹ 表 一 ︺ に 示 し た よ う に 二 十 一 で あ る 。 ﹁ 御 ﹂ 本 の 三 十 四 に 比 べ る と 少 な い が 、 東 山 御 文 庫 蔵 各 筆 源 氏 に は 単 純 な 誤 写 に よ る と お ぼ し き 欠 陥 本 文 が 多 く 、 書 写 の 精 度 の 低 い 写 本 と し な け れ ば な ら な い か ら 、 こ の 数 値 と 比 べ て み て も あ ま り 意 味 は な く 、 や は り 二 十 一 と い う 数 値 は 相 当 に 大 き い と す べ き で あ る 。 以 下 に こ の 二 十 一 箇 所 を 列 挙 す る 。 (河 内 本 諸 本 ー ﹁ 天 ﹂ 本 の 順 に 掲 出 す る ) 一12一 ︹ 表 二 ︺ ア は ち す の ー は な の ( 九 一 ー 8 )
氏物語鈴虫巷 の本文 チ タ ソ セ ス シ サ コ ケ ク キ カ オ ェ ゥ ィ か ら の か 昂 1 か ら か み (九 ニ ー 1 ) は ∼ か り な き ー は か り な き (九 二 ー 14 ) い れ し つ め 給 て ー い れ 給 し つ め て (九 三 1 4 ) と や ー と か や (九 四 1 3 ) な と ー ナ シ (九 五 1 4 ) ひ と へ に お も ほ し と り て い と ー ひ と へ に ( 九 六 1 5 ) 十 五 夜 の 月 の ま た 影 か く し た る 1 十 五 夜 の (九 六 i 10 ) ゆ ふ く れ の ほ と に ー タ 暮 れ に (九 六 1 10 ) あ る へ き い と ま れ に ほ の め く な と け 忙 こ そ こ と な れ ー あ る へ 春 ( 九 七 1 4 ) か き な ら し ー か 幸 な し ( 九 八 1 1 ) 殿 上 人 の 1 殿 上 人 (九 八 1 2 ) 故 楯 大 納 言 -権 大 納 言 ( 九 八 l U ) と き 1 秋 (九 九 1 12 ) 御 ま い り の 1 碑 ま い り ( O O 1 5 ) に へ め る を 1 侍 る を (〇 一 1 1 ) な と て か ー な と か (〇 ニ ー 1 )
文 林 二十五号 ト テ ツ ナ 御 た う し む は つ か せ 給 ら ん 1 御 た う し ん は ( 〇 ニ ー 2 ) な む と ︿ な と 為 大 > 1 な む ( 〇 ニ ー 3 ) こ 宮 す 所 -宮 す 所 ( 〇 ニ ー 4 ) い ま は ま か て た ま ふ ー ま か て 給 ふ ( 〇 四 1 2 ) こ の う ち 、 イ オ カ サ ソ テ の 六 箇 所 は 大 成 所 収 の ど の 本 に も 同 文 の も の は な く 、 ﹁ 天 ﹂ 本 の 独 自 異 文 で あ る 。 サ だ け は ﹁ 天 ﹂ 本 の 本 文 で は 具 合 い が 悪 い よ う に 思 わ れ る が 、 そ の ほ か は こ れ で も 意 味 が 通 ら な い わ け で は な い 。 而 し て 、 天 理 本 は 合 理 的 な 本 文 を も ち 、 単 純 な 誤 脱 術 の き わ め て 少 な い 、 い わ ゆ る 善 本 で あ る と い っ て よ い の だ と 思 う 。 次 に 六 箇 所 の 独 自 異 文 を 除 い た 残 ゆ の 十 五 箇 所 の 共 通 異 文 を 調 べ て み る と 、 ア エ キ ク ケ コ セ タ チ ツ ト ナ の 十 二 箇 所 は 青 表 紙 本 の す べ て の 本 な い し 数 本 と 同 文 で あ り 、 ウ エ キ ク ケ コ シ ス セ タ チ ツ ト ナ の 十 四 箇 所 は 別 本 の 一 本 な い し 数 本 と 同 文 で あ る 。 こ の よ ヶ な 本 文 を 有 す る ﹁ 天 ﹂ 本 は 、 も は や 河 内 本 で あ る と は 言 い が た い 。 で は 、 ﹁ 天 ﹂ 本 は 青 表 紙 本 系 統 と す べ き で あ ろ う か 。 ﹁ 天 ﹂ 本 を 青 表 紙 本 と み な し た 場 合 、 ﹁ 天 ﹂ 本 の 青 表 紙 本 系 統 内 独 自 異 文 は つ ぎ の 二 十 四 箇 所 と な る 。 (青 表 紙 本 諸 本 -天 理 本 の 順 に 掲 出 す る ) 一14一 ︹ 表 三 ︺
源氏物語姑虫巻の本文 ユ ヤ モ メ ム ミ マ ホ ヘ フ ヒ バ ノ ネ 鼠 二 み .丁 ー 丁 ( 九 唱 1 ε ) こ の 世 の ー こ の (九 一 ー 14 ) か ら の か み ー か ら か み ( 九 二 ー 2 ) 給 て ー た ひ て ( 九 ニ ー 2 ) よ り も ー よ O ( 九 ニ ー 18 ) は ㌔ か り な き ー は か り な き ( 九 ニ ー 14 ) へ た て な く と を ︿ へ た て な く と 横 西 肖 三 > ー へ た て な く (九 三 ー 8 ) か む し き と ー か な し き (九 三 1 9 ) と や ー と か や ( 九 四 ー ヨ ) な む ー ナ シ (九 四 ー 9 ) な と ー ナ シ ( 九 五 ー 4 ) か き な ら し ー か き な し ( 九 八 1 1 ) 殿 上 人 の ー 殿 上 人 ( 九 八 1 2 ) 故 権 大 納 言 -権 大 納 言 ( 九 八 1 11 ) 虫 ー モ ら の (O O 1 4 ) 御 ま い り の 1 御 ま い り (O O 1 5 )
文林 二十五号 ヲ ワ ロ レ ル リ ラ ヨ お り ふ し は ー お り ふ し な と は ( O O 1 5 ) か く ー ナ シ ( ○ O 1 7 ) お も ひ た ま ふ る に ︿ 思 給 へ る に 西 肖 三 > 1 お も ひ た ま ふ る を ( 〇 一 1 1 ) な む と ー な む ( 〇 二 ー 3 ) ほ い も ー ほ い ( 〇 三 1 7 ) む か し よ り も ー む か し よ り (〇 四 1 4 ) 御 あ そ ひ を も ー あ そ ひ を も ( 〇 四 1 4 ) な り ま さ り た ま ふ ー な り ま さ り た ま ふ 六 条 の ゐ ん も も ろ 心 に い そ き た ま ひ て 御 は か う な と を こ な は せ た ま ふ と そ (〇 四 1 7 ) 一16一 こ の 二 十 四 と い う 数 値 は 河 内 本 と 見 な し た 場 合 の 数 値 よ り も 大 き い ば か り か 、 青 表 紙 本 諸 本 の な か で は 度 外 れ て 大 き な 数 値 と な る 。 さ ら に 、 独 自 異 文 六 箇 所 ( ネ ホ ミ ム ユ ル ) を 除 い た 残 り の 十 八 箇 所 の 共 通 異 文 を 調 べ て み る と 、 河 内 本 の す べ て の 本 と 同 文 の 箇 所 が 十 三 箇 所 ( ヌ ノ ハ フ ヘ マ ヤ ヨ ラ リ レ ロ ヲ ) 、 河 内 本 の 一 部 の 本 と 同 文 の 箇 所 が 二 箇 所 ( ニ ワ ) と な る 。 河 内 本 の い ず れ の 本 と も 異 文 に な る 三 箇 所 ( ヒ メ モ ) は ︹ 表 二 ︺ に あ げ た ウ シ ス に 相 当 し 、 青 表 紙 本 諸 本 に 対 し て も や は り 異 文 に な っ て い る 。 ま た 、 別 本 の い ず れ か と 同 文 に な っ て い る 箇 所 は 十 箇 所 ( ノ ヒ ヘ メ モ ヤ ヨ リ ロ ヲ ) で あ る 。 以 上 の 結 果 は 、 河 内 本 に 近 い ﹁ 天 ﹂ 本 の 性 質 と い う も の を 浮 き 彫 り に し て い る と い っ て よ い で
源氏物語鈴虫巻の本文 あ ろ う 。 し た が っ て 、 ﹁ 天 ﹂ 本 は と う て い 青 表 紙 本 で は あ り え な い 。 河 内 本 で も な く 、 青 表 紙 本 で も な い と す れ ば 、 ﹁ 天 ﹂ 本 は や は り ﹁ 別 本 ﹂ と い わ ざ る を え な い で あ ろ う が 、 問 題 は ど う い う 性 格 の 別 本 な の か で あ る 。 曽 沢 氏 は 前 掲 書 に お い て 、 ﹁ 本 文 は 、 河 内 本 、 別 本 に 疎 で 、 青 表 紙 本 に よ り 親 な の で あ る ﹂ と 結 論 し て お ら れ る 。 曽 沢 氏 の こ の 結 論 は 、 上 に 見 て き た 結 果 と く い ち が っ て い る 。 私 見 で は 、 ﹁ 本 文 は 河 内 本 に 親 で 、 青 表 紙 本 に は 疎 ﹂ と い う こ と で あ ら ね ば な ら な い 。 曽 沢 氏 の 見 解 と 私 見 と が こ の よ う に く い 違 う 結 果 に な っ た 理 由 は 、 曽 沢 氏 が 、 ヌ ハ ラ の 三 例 を あ げ て 、 ﹁ こ れ ら は 、 何 も 本 文 が 特 に 河 内 本 に 属 す る と い う 独 立 し た 性 格 を 示 す 条 件 で は な い ﹂ と し て 無 視 し て し ま わ れ た と こ ろ に あ る 。 た し か に 、 こ う し た 違 い は さ さ い な 違 い で は あ る 。 そ れ に 比 べ る と 、 上 の キ ク コ の よ う な 例 は 、 河 内 本 と 青 表 紙 本 と が 大 き な 違 い を 呈 す る 箇 所 で あ っ て 、 目 に つ き や す い 。 そ う し た 箇 所 に お い て 、 ﹁ 天 ﹂ 本 は 河 内 本 に 一 致 せ ず 、 む し ろ 青 表 紙 本 に 一 致 す る 傾 向 を 示 す 。 し た が っ て 、 ﹁ 天 ﹂ 本 は 一 見 、 青 表 紙 本 に 近 い よ う に 見 え る の で あ る 。 し か し 、 キ ク コ の よ う な 例 は 河 内 本 と 青 表 紙 本 の 間 だ け で の 対 立 で は な く て 、 別 本 諸 本 の 間 で も 同 様 の 対 立 が 見 ら れ る 。 キ ク コ の よ う な 例 を 重 視 し て ﹁ 天 ﹂ 本 は 青 表 紙 本 に 近 い と い う の で あ れ ば 、 そ れ は そ の ま ま ﹁ あ る 種 の 別 本 に 近 い ﹂ と い う ふ う に も い い か え る こ と が で き る 。 し か し 、 曽 沢 氏 が 無 視 さ れ た ヌ パ フ マ ラ レ の よ う な 例 は 、 さ さ い な 違 い で は あ っ て も 河 内 本 以 外 に は 同 文 を 見 い だ す こ と の で き な い 、 い わ ば 河 内 本 の 特 有 本 文 と い っ て よ い 異 文 で あ る 。 こ う し た 河 内 本 の 特 有 本 文 を ﹁ 天 ﹂ 本 が 共 有 し て い る と い う 事 実 は 、 け っ し て 無 視 さ れ る べ き で
文林 二十五号 は な い と 、 私 は 考 え る の で あ る 。 さ ら に 、 や や 憶 測 を ま じ え て い え ば 、 キ ク ゴ の よ う に 目 に つ き や す い 大 異 同 は 校 訂 の 対 象 に な り や す い 。 源 親 行 は 河 内 本 奥 書 に お い て 河 内 本 が 校 訂 本 で あ る こ と を 標 榜 し て い る が 、 親 行 が 校 訂 を お こ な っ た 際 に も 、 そ う し た 目 に つ き や す い 大 異 同 は 当 然 校 訂 の 対 象 と な っ た は ず で あ る 。 河 内 本 奥 書 に よ れ ば 、 親 行 が 校 訂 に 用 い た 二 十 一 部 の 諸 本 の な か に は 青 表 紙 本 が 入 っ て い た の で あ る か ら 、 親 行 は キ ク コ に お い て 青 表 紙 本 の よ う な 本 文 が 存 在 す る こ と は 熟 知 し て い た は ず で あ り 、 に も か か わ ら ず 、 親 行 は 青 表 紙 本 本 文 を 採 用 せ ず に 、 異 文 の ほ う を 積 極 的 に 選 び 採 っ た の だ と 考 え ら れ る 。 く だ ん の ﹁ 天 ﹂ 本 は 親 行 が 採 用 し た ほ う の 異 文 を も た な い の で あ る か ら 、 河 内 本 で な い こ と は あ き ら か で あ る 。 し か し 、 そ の こ と と 、 ﹁ 天 ﹂ 本 が ﹁ 青 表 紙 本 に 親 で 、 河 内 本 に 疎 で あ る ﹂ と い う こ と と は 、 お の ず か ら ま た 別 の 問 題 で あ る 。 そ の い い 例 と し て 、 上 の ク を あ げ る こ と が で き る で あ ろ う 。 ﹁ 十 五 夜 の ﹂ は お そ ら く 青 表 紙 本 本 来 の 本 文 で あ ろ う と 思 わ れ る が 、 ﹁ 西 ﹂ ﹁ 肖 ﹂ 両 本 は ま ぎ れ も な く 青 表 紙 本 で あ る に も か か わ ら ず 、 こ こ が ﹁ 十 五 夜 の 月 の ま だ 影 か く し た る ﹂ と い う 異 文 に な っ て い る 。 こ れ は 、 こ の 部 分 だ け を 河 内 本 あ る い は 別 本 に よ っ て 校 訂 し た 結 果 な の で あ ろ う 。 ク に お い て ﹁ 西 ﹂ ﹁ 肖 ﹂ 両 本 に 河 内 本 と 同 文 の 異 文 が 見 ら れ る か ら と い っ て 、 ﹁ 西 ﹂ ﹁ 肖 ﹂ を ﹁ 河 内 本 に 親 で 、 青 表 紙 本 に 疎 ﹂ と い う ふ う に い う こ と は で き な い は ず で あ る 。 キ ク ゴ の よ う な 大 き な 異 同 は 目 に つ き や す く 、 し た が っ て 部 分 的 な 校 訂 の 対 象 に な り や す い 。 そ う し た 箇 所 に お い て よ り も 、 む し ろ ど ち ら で あ っ て も た い し た 違 い の な い さ さ い な 異 同 の 箇 所 に お い て ﹁ 天 ﹂ 本 が 青 表 紙 本 よ り も 河 内 本 の ほ う に し ば し ば 一 致 す る と い う 現 象 の ほ う を 重 視 し て 、 ﹁ 本 文 は 河 内 本 に 親 で 、 青 表 紙 本 に は 疎 ﹂ で あ る と 、 私 一18一
は い う の で あ る 。 源氏物語鈴虫巻 の本文 2 為 家 本 の 本 文 次 に ﹁ 為 ﹂ 本 を 見 て み 葛 。 ﹁ 為 ﹂ 本 は 、 ︹ 表 芒 匡 示 し た よ う に 、 大 成 杢 走 対 す る 異 文 総 数 が 五 + 六 で あ り ・ こ れ は ほ ぼ 河 内 本 諸 本 の ]平 均 的 な 数 値 で あ る と い っ て い よ い 。 ま た 系 統 内 独 自 異 文 も 六 と い う 低 い 数 値 [で あ , て 、 ﹁ 為 ﹂ 本 竺 見 比 較 的 純 良 な 河 内 本 の よ う に 見 え る の で あ る が 、 そ の 異 文 の 内 容 を 見 て み 石 と . こ れ を 河 内 本 と 見 な し て よ い か ど う か 疑 問 が も た れ る 。 以 下 、 ﹁ 為 ﹂ 本 の 六 簡 所 の 河 内 本 系 統 内 独 自 異 文 を 抜 き だ し て み る 。 ( 河 内 本 諸 本 1 ﹁ 為 ﹂ 本 の 順 に 掲 出 し 、 ﹁ 為 ﹂ 本 と 同 文 の 本 を 付 記 し た ) ︹ 表 四 ︺ f8doba か を り 忙 ー か ほ り ( 膏 / * / * ) ( 九 一 1 12 ) む し の ね ー む し の ね の (大 成 本 文 ・ 横 島 池 肖 / * / 別 ) い と 、 1 い と ( * ノ * ノ 保 奇 研 ) ︹ 九 八 1 12 ) こ せ ん ﹂ 御 と も ( O O 1 1 ) ま ね ふ も ー ま ね ふ ( O O 1 11 ) な と ー ナ シ ( * / * / 麦 阿 ) ( O O -14 ) ( 九 八 1 8 )
文林 二十五号 こ の う ち 、 d と e と は 大 成 所 収 の す べ て の 本 を 通 じ て 独 自 異 文 で あ る が 、 a b は 青 表 紙 本 に 同 文 が 見 ら れ 、 b c f は 別 本 の な か に 同 文 を 見 い だ す こ と が で き る 。 ま た 、 上 に 見 た よ う に ﹁ 天 ﹂ 本 は 河 内 本 で は な い こ と が 判 明 し た か ら こ れ を 別 本 の 扱 い に す れ ば 、 ﹁ 為 ﹂ 本 の 系 統 内 独 自 異 文 に は 、 さ ら に 、 ︹ 表 五 ︺ g み 丁 く み ち や う う え 御 V l 丁 ( * / 天 / * ) ( 九 一 1 6 ) h 行 か う ー き や う た う (横 島 池 三 / 天 / 陽 ) (九 ニ ー 7 ) i 給 へ る に く 給 る に 御 V l 給 へ る (青 / 天 / * ) (九 七 1 3 ) j く し て ー し て (横 島 池 三 / 天 / 陽 麦 阿 ) (九 八 1 3 ) 一一20一 の 四 箇 所 が 加 わ る こ と に な る 。 9 は ﹁ 天 ﹂ ﹁ 為 ﹂ 両 本 の み の 異 文 で あ る が 、 h i ー は 、 や は り い ず れ も ﹁ 天 ﹂ 本 以 外 に も 青 表 紙 本 や 別 本 の な か に 同 文 の も の を 見 い だ す こ と が で き る 。 以 上 、 都 合 十 箇 所 の 系 統 内 独 自 異 文 は い ず れ も 一 二 字 程 度 の さ さ い な 違 い で あ っ て 、 ﹁ 為 ﹂ 本 の み を 見 る 限 り で は い ず れ も 河 内 本 の 伝 写 過 程 に お け る 誤 写 と い う ふ う に 言 え な く も な さ そ う な の で あ る が 、 d e を 除 く 八 箇 所 の 異 文 は い ず れ も 異 系 統 諸 本 の な か に 同 文 の 本 文 を 見 い だ す こ と が で き る の で 、 一 概 に 誤 写 と し て し ま う べ き で は な い で あ ろ
源氏物語鈴虫巻の本文 う 。 も し 、 そ れ ら の す べ て が ﹁ 為 ﹂ 本 の 誤 写 で あ っ て ﹁ 為 ﹂ 本 は や は り 河 内 本 で あ る と 、 な お 主 張 す る 論 者 が あ る と す れ ば 、 こ れ ら 八 箇 所 の 異 文 は 、 ﹁ 為 ﹂ 本 の 筆 者 に よ る 誤 写 の 結 果 が 偶 然 に も 異 系 統 本 文 と す べ て 合 致 し た の だ と 説 明 し な け れ ば な ら な い こ と に な る 。 そ う い う 偶 然 を 考 え る の は グ ロ テ ス ク で あ ろ う 。 あ る い は 、 誤 写 と い う 考 え 方 を と ら ず に 、 ﹁ 為 ﹂ 本 の 筆 者 が こ れ ら 八 箇 所 に 限 っ て 異 系 統 本 文 に よ っ て 河 内 本 本 文 を 校 訂 し た の だ と い う ふ う に 説 明 す る こ と も 可 能 か も し れ な い 。 し か し 、 そ の 場 合 は 、 さ き に 見 た よ う な 大 異 同 の 箇 所 を そ の ま ま に し て お き な が ら 、 な ぜ こ の よ う な さ さ い な 違 い の 箇 所 に 限 っ て 校 訂 を お こ な っ た の か を 説 明 す る こ と が 困 難 と な る で あ ろ う 。 以 上 の こ と を 総 合 し て み る と 、 ﹁ 為 ﹂ 本 を 河 内 本 と す る こ と は 妥 当 で な い よ う に 思 わ れ る 。 む ろ ん 、 そ れ は ﹁ 河 内 本 ﹂ な る も の を ど の よ う に 定 義 す る か と い う こ と と 深 く か か わ る と こ ろ で は あ る 。 周 知 の よ う に 、 河 内 本 は 長 期 に わ た る 河 内 方 の 源 氏 物 語 研 究 の 成 果 と し て の 校 訂 本 で あ っ て 、 校 訂 作 業 の そ れ ぞ れ の 段 階 で の 稿 本 も 、 当 然 ﹁ 広 義 の 河 内 本 ﹂ と 呼 ば れ て よ い 。 し か し 、 い ま 問 題 に し う る の は ﹃ 大 成 校 異 篇 ﹄ に 収 め ら れ た 七 本 の 範 囲 内 で の 本 文 系 統 で し か な い わ け で あ る か ら 、 当 面 、 他 の 五 つ の 河 内 本 諸 本 の 共 通 祖 本 を ﹁狭 義 の 河 内 本 原 本 ﹂ と で も 規 定 す る な ら 、 ﹁ 為 ﹂ 本 は ﹁ 狭 義 の 河 内 本 ﹂ で は な い で あ ろ う と い う の で あ る 。 (本 稿 で ﹁ 河 内 本 ﹂ と い う 場 合 は こ の ﹁ 狭 義 の 河 内 本 ﹂ の 謂 で あ る 。 ) し か し 、 ﹁ 為 ﹂ 本 の 、 河 内 本 諸 本 に 対 す る 独 自 異 文 数 の 六 と い う 数 値 は 、 ﹁ 御 ﹂ 本 や ﹁ 大 ﹂ 本 の 数 値 に 比 べ て も 少 な い も の で あ り 、 し た が っ て ﹁ 為 ﹂ 本 が き わ め て 河 内 本 に 近 い 純 良 な 本 文 を も つ 本 で あ る こ と は 疑 う べ く も な い 。 し た が っ て 、 ﹁ 広 義 の 河 内 本 ﹂ や 、 河 内 本 の 成 立 と い っ た こ と を 問 題 に す る 際 に は 、 上 述 の ﹁ 天 ﹂ 本 と と も に 、 必 ず や 重 要 な 資 料 と な る に ち が い な い も の で あ る が 、 そ れ は 当 面 の 問 題 で は あ り え な い の で あ る 。
文林 二十五号 3 尾 州 家 本 の 本 行 本 文 ﹁ 尾 ﹂ 本 は 系 統 内 独 自 異 文 数 が 二 と い う 最 小 値 を 示 し て お り 、 河 内 本 で あ る と い う こ と が で き る 。 こ の 二 箇 所 の 異 文 の 内 容 は 、 大 成 所 収 の 河 内 本 七 本 の な か で は も っ と も 平 均 的 な o 御 て な ら し ︿ 御 て な ら ひ し 御 > 1 御 て な は ら し o 御 ら ん せ ら れ 1 御 ら ん せ さ ら れ ( ○ O 1 6 ) ( 九 ニ ー 1 ) と な っ て い る が 、 実 は こ の 二 箇 所 は い ず れ も ﹃ 大 成 校 異 篇 ﹄ の 校 合 ミ ス の 疑 い が あ る 。 尾 州 家 本 の 複 製 を 見 て み る と 、 前 者 は 本 行 本 文 が ﹁ 御 て な か ら し ﹂ と な っ て お り 、 ﹁ か ﹂ の 字 に 斜 線 を 引 い て こ れ を 抹 消 し て い る し 、 後 者 に つ い て も 本 行 本 文 ﹁ 御 ら ん せ さ ら れ ﹂ の ﹁ さ ﹂ に 斜 線 を 引 い て こ れ を 抹 消 し て い る 。 ﹃ 大 成 校 異 篇 ﹄ の 河 内 本 校 異 は 訂 正 後 本 文 を 採 用 す る 方 針 の は ず で あ る か ら 、 こ の 二 箇 所 の ﹁ 尾 ﹂ 本 は そ れ ぞ れ ﹁ 御 て な ら し ﹂ ﹁ 御 ら ん せ ら れ ﹂ と す べ き で あ っ て 、 そ う す る と ﹁ 尾 ﹂ 本 の 系 統 内 独 自 異 文 は 皆 無 と な る 。 か く し て 、 尾 州 家 本 は 河 内 本 の 代 表 と す る に ふ さ わ し い 、 き わ め て 純 良 な 本 文 を も つ と い っ て よ い の で あ る 。 し か し 、 は や く に 指 摘 さ れ て い る よ う に 、 尾 州 家 本 に は 、 巻 に よ っ て 多 寡 の 差 は あ る が 、 本 行 に 書 か れ た 本 文 に 対 し て 別 筆 の 訂 正 が ほ ど こ さ れ て い る 。 こ の 訂 正 後 本 文 を 採 用 し て い っ た 場 合 に 、 ﹁ 尾 ﹂ 本 は 上 に 見 た よ う な 純 良 な 河 一22一
河 本 と な る の で あ っ て 、 尾 州 家 本 の 本 行 本 文 自 体 が 河 内 本 で な い こ と は あ き ら か で あ る 。 堀 部 正 二 は 尾 州 家 本 東 屋 の 巻 の 本 行 本 文 を 論 じ て 、 ﹁ 尾 州 家 本 東 屋 の 巻 の 底 本 と な っ た 原 本 文 は 、 決 し て 河 内 本 系 統 の も の で な く 、 寧 ろ 湖 月 抄 ( 2 ) 本 文 と 一 致 す る 所 を 極 め て 多 く 含 ん で ゐ る 所 の 、 従 っ て 青 表 紙 本 系 統 の 要 素 を 多 分 に 有 す る も の で あ る ﹂ と し て い る 。 そ し て 、 堀 部 は さ ら に 、 尾 州 家 本 を 河 内 原 本 か ら の 第 一 次 写 本 で あ る と す る 説 の 論 拠 と な っ て い る と こ ろ の 、 夢 浮 橋 巻 末 に 書 付 け ら れ た 正 嘉 二 年 の 北 条 実 時 の 奥 書 に つ い て も 、 こ れ を 尾 州 家 本 の 書 写 奥 書 と は 見 ず 、 尾 州 家 本 が 校 合 に 用 い た 本 の 奥 書 を 転 写 し た に す ぎ な い 、 と す る 見 解 を 述 べ て い る 。 奥 書 に つ い て の 堀 部 の 解 釈 に 対 し て は 疑 義 も 提 出 さ れ て い る が 、 こ れ ら の 訂 正 が ほ ど こ さ れ る 前 の 東 屋 の 巻 の 尾 州 家 本 本 行 本 文 が 河 内 本 で な い こ と は 疑 う 余 地 が な い 。 こ の 鈴 虫 の 巻 に お い て も や は り 二 十 八 箇 所 に わ た っ て 訂 正 が ほ ど こ さ れ て お り 、 本 行 本 文 が 河 内 本 で な い こ と は 同 断 で あ る 。 そ こ で 、 本 節 で は 尾 州 家 本 の 本 行 本 文 に つ い て 考 察 を 加 え て み よ う と 思 う 。 ま ず 、 尾 州 家 本 鈴 虫 の 巻 の 本 文 訂 正 箇 所 を す べ て あ げ て み る 。 ( 本 行 本 文 ー 訂 正 後 本 文 の 順 に 掲 出 す る ) 源氏物語鈴虫巻 の本文 ︹表 六 ︺ ア 花 つ く へ 1 花 つ く え (九 一 1 5 ) イ 丁 1 み 丁 ( 九 一 1 6 ) ウ 花 1 は ち す ( 九 一 1 8 ) エ ひ と つ か ほ り ー ひ と つ か ほ り に ( 九 一 1 12 )
文林 二十五号 ト テ ツ チ タ ソ セ ス シ サ コ ケ ク キ カ オ け ち え ー け ち え ん (九 一 I U ) 御 て な か ら し ー 御 て な ら し (九 ニ ー 1 ) 椎 か り な き 1 砥 は か り な き (九 二 ー 14 ) い れ 給 し つ 酌 て ー い れ し つ 珍 給 て (九 三 ー 4 ) ち き O て は ー ち き り て も ( 九 三 1 11 ) な か ら す ー な ら す (九 四 1 2 ) む か し う ー む つ か し う ( 九 四 1 3 ) ひ と へ に ー ひ と へ に お も ほ し と り て い と ( 九 六 1 5 ) P ふ く れ に 1 月 の ま た か け か く し た る ゆ ふ く れ の ほ と に 邑 な た せ 給 へ る ー は な た せ 給 へ る に (九 七 1 3 ) 心 に ー い と ま れ に ほ の 酌 く ね な と け に こ そ こ と な れ 心 に 心 や す く ー い と 心 や す く ( 九 七 1 6 ) さ る へ き な と し て ー さ る へ き な と く し て (九 八 ー 2 ) あ き そ ー と き そ ( 九 九 1 12 ) そ ら ー そ ら の ( O O -4 ) お り ふ し ほ ー お り ふ し な と は ( O O -5 ) ( 九 六 1 10 ) ( 九 七 1 5 ) 一一・24一
源氏物 語鈴虫巻の本文 フ ヒ バ ノ ネ ヌ ニ ナ 御 ら ん せ さ ら れ 1 御 ら ん せ ら れ ( ○ O 1 6 ) ま ね ふ ー ま ね ふ も ( ○ O i 11 ) は へ る を ー は へ め る を ( 〇 ニ ー 1 ) な と か ー な と て か ( 〇 ニ ー 1 ) 御 た う し ん は -御 た う し ん は つ か せ た ま ふ ら ん 宮 す と こ ろ ー こ 宮 す と こ ろ ( 〇 ニ ー 4 ) い て き け る ー い て き た り け る ( 〇 ニ ー 6 ) な か く ー な か く い ま は ( 〇 四 1 2 ) ( 〇 ニ ー 2 ) こ の う ち 、 ア オ の 二 箇 所 は 表 記 の 違 い に す ぎ な い か ら 、 本 稿 の 問 題 外 で あ る 。 ま た 、 ヵ ケ コ サ ナ の 五 箇 所 は 大 成 所 収 の ど の 本 に も 見 ら れ な い 独 自 異 文 で 、 か つ 欠 陥 本 文 と な っ て お り 、 誤 写 を 訂 正 し た も の と 考 え ら れ る 。 残 り の 二 十 一 箇 所 に つ い て 、 本 行 本 文 と 同 文 に な っ て い る 本 を 調 べ て み る と 、 ﹁横 ﹂ ﹁ 池 ﹂ ﹁ 島 ﹂ の 十 八 箇 所 を は じ め と し て 、 コ 一こ の 十 七 箇 所 、 大 成 本 文 お よ び ﹁ 天 ﹂ の 十 六 箇 所 、 ﹁ 西 ﹂ ﹁ 肖 ﹂ の 十 五 箇 所 と い っ た よ う に 、 青 表 紙 本 諸 本 と の 一 ( 3 ) 致 が 目 立 つ 。 し か し 、 こ の こ と を も っ て 、 尾 州 家 本 の 本 行 本 文 が 青 表 紙 本 に 近 い と 結 論 す る の は 早 計 で あ ろ う 。 な ぜ な ら 、 尾 州 家 本 の 本 行 本 文 に は 、 訂 正 以 前 か ら す で に 河 内 本 本 文 と 同 文 に な っ て い た 箇 所 も か な り あ る か ら で あ る 。 ち な み に 、 尾 州 家 本 の 本 行 本 文 を 青 表 紙 本 と 見 な し た 場 合 の 系 統 内 独 自 異 文 数 は 十 九 で あ り 、 こ の う ち 五 箇 所 は 独 自
文林 二十五号 異 文 で あ る か ら 、 こ れ を さ し 引 い た 残 り の 十 四 箇 所 が 青 表 紙 本 に 一 致 せ ず 、 む し ろ 河 内 本 に 一 致 す る こ と に な る 。 こ の よ う な 数 値 を 示 す 本 文 を も っ て 青 表 紙 本 に 近 い な ど と は と う て い 言 え な い の で あ る 。 さ ら に 、 こ こ で も ま た 、 ﹁ 天 ﹂ 本 の 本 文 分 析 の 際 に 述 べ た の と 同 様 の こ と を 考 え て み な け れ ば な ら な い 。 た し か に 尾 州 家 本 の 二 十 一 箇 所 の 訂 正 前 本 文 は 総 数 の 上 で は 青 表 紙 本 諸 本 と の 一 致 率 が 高 い の で あ る が 、 そ の 際 に 青 表 紙 本 の み と 一 致 す る 箇 所 と い う の は 皆 無 で あ り 、 訂 正 前 本 文 が 青 表 紙 本 と 一 致 す る 場 合 に は 、 か な ら ず ﹁ 天 ﹂ 本 を は じ め と す る 別 本 の い く つ か と も 一 致 し て い る 。 そ れ に 対 し て 、 青 表 紙 本 と 一 致 し な い イ キ ニ の よ う な 例 に お い て 、 こ れ と 同 文 に な る の は 、 河 内 本 に 近 い 本 文 を も つ 別 本 の ﹁ 天 ﹂ 本 や ﹁ 為 ﹂ 本 だ け で あ る こ と は 注 目 さ れ ね ば な ら な い こ と で あ る 。 以 上 を 総 合 し て み る と 、 尾 州 家 本 の 本 行 本 文 は や は り 別 本 と せ ざ る を え ず 、 そ の 性 格 は 、 ﹁ 天 ﹂ 本 と 同 様 、 青 表 紙 本 に 似 た と こ ろ も あ る が 、 河 内 本 や 別 本 に 対 し て も か な り の 親 近 性 を 示 す 本 文 で あ る 、 と い う こ と に な る で あ ろ う 。 一一26一 二 河 内 本 諸 本 の 分 類 と 系 統 前 節 に も 述 べ た よ う に 、 ﹁ 尾 ﹂ 本 の 系 統 内 独 自 異 文 は 二 箇 所 の み (実 際 に は 皆 無 で あ る ) で あ る か ら 、 以 下 、 河 内 本 の 本 文 を 考 察 し て い く に 際 し て ﹁ 尾 ﹂ 本 を 規 準 本 文 と し て 採 用 す る こ と と す る 。 ま た 、 ﹁ 天 ﹂ 本 お よ び ﹁ 為 ﹂ 本 は 上 に 述 べ た よ う に 河 内 本 と は 考 え ら れ な い か ら 、 以 下 の 論 に お い て は 別 本 と し て 扱 う こ と に す る 。
河 内 ホ 諸 本 が ﹁ 尾 ﹂ 本 に 対 し て 異 文 に な る 箇 所 の 総 数 は 次 の 通 り で あ る 。 源 氏吻謳 鈴虫塩の本文 ︹ 表 七 ︺ 御 三 六 箇 所 宮 五 大 二 二 皿 = ( や は り 、 ﹁ 御 ﹂ 本 が 断 然 大 き な 数 値 を 示 す が 、 先 に も 述 べ た よ う に 東 山 御 文 庫 蔵 各 筆 源 氏 は 単 純 な 誤 脱 衛 の 多 い 、 聲 写 の 精 度 の 低 い 写 本 と 見 ら れ る 。 こ う し た 単 純 な 誤 写 の 多 い 本 は 上 の 表 で は 必 然 的 に 大 き 巷 数 値 を 示 す こ と に な る の で 、 こ の 数 値 だ け で 本 文 の 系 統 を 蛍 々 す る こ と は で き な い 。 そ こ で 、 今 、 仮 に 、 青 表 紙 ・本 ・ 河 内 本 6 別 本 の 都 合 十 九 本 を 通 じ て の 独 自 異 文 は と 吟 あ え ず 単 純 な 誤 脱 術 と 見 な す こ と に し て 、 こ れ ら を 差 し 引 い た 上 で 、 各 本 が ﹁ 尾 ﹂ 本 と 異 文 に な る 箇 所 を 数 え て み 鳥 と 、 上 記 の 数 値 ほ 次 の よ う に 変 わ う て く る 。 な お 、 ﹁ 大 成 校 異 篇 ﹂ の 校 合 ミ ス と お 惟 し き ﹁ 尾 ﹂ 本 の 二 箇 所 の 独 百 異 文 も 、 以 下 の 論 に お い て は 除 外 し 、 訂 正 後 本 文 に よ る こ と と す る 。 ︹ 表 八 ︺
文林 二十五号 御 八 箇 所 宮 二 大 四 鳳 四 こ れ に よ る と 、 ﹁ 宮 ﹂ ﹁ 大 ﹂ ﹁ 鳳 ﹂ ﹁ 御 ﹂ の 順 で 、 ﹁ 尾 ﹂ 本 と の 距 離 が 大 き く な っ て い る こ と が ほ ぽ 見 当 づ け ら れ る 。 以 下 、 こ の 順 に し た が っ て モ れ そ れ の 異 文 を 検 討 し て ゆ く 。 ユ 高 松 宮 家 本 の 本 文 ﹁ 尾 ﹂ 本 に 対 し て ﹁ ・冨 ﹂ 本 が 異 文 に な る の は 次 の 三 箇 所 で あ る 。 ︹ 表 九 ︺ a し ほ た れ ー し ほ れ (* / 宮 ! 保 ) (九 四 1 ? V b こ と た ら ぬ ー こ と た え ぬ (横 / 窩 大 ! * ) ( O O 1 11 ) o す ㌔ め を も ー す ∼ め け る を も ( * / 宮 ノ * } (〇 ニ ー 13 V 一 艶 ・一一
源氏物語鈴虫巻の本文 a は 、 講 師 の 読 み 上 げ る 願 文 を 聞 い て 全 員 が 涙 ぐ ん だ 、 と い う と こ ろ で あ る か ら 、 ﹁ し ほ た れ ﹂ が 適 切 で 、 ﹁ し ほ れ ﹂ は 欠 陥 本 文 と 考 え ら れ る 。 別 本 の ﹁ 保 ﹂ 本 が や は り ﹁ し ほ れ ﹂ と な っ て い る が 、 ﹁ 宮 ﹂ 本 が こ れ に よ っ て 本 文 を 校 訂 し た と い う よ う な こ と で は な さ そ う で あ る 。 ﹁ し ほ た れ ﹂ と ﹁ し ほ れ ﹂ の 誤 写 は 写 本 に は ま ま あ り が ち な 誤 写 で ( 4 ) あ る 。 b も 同 様 で 、 ﹁ こ と た え ぬ ﹂ は 欠 陥 本 文 で あ り 、 ﹁ ら ー え ﹂ の 誤 写 も 字 形 の 相 似 か ら し ば し ば 起 こ る 誤 写 で あ る 。 c は ﹁ 宮 ﹂ 本 の 独 自 異 文 で あ る 。 秋 好 中 宮 が 出 家 の 意 向 を 源 氏 に 漏 ら す 会 話 文 の な か で 、 ﹁ い か で よ う 言 ひ 聞 か せ む 人 の 勧 め を も 聞 き 侍 り て ﹂ と あ る と こ ろ 。 ﹁ す ∼ め け る ﹂ で も 語 法 的 に は 誤 り と は い え な い が 、 前 で ﹁ 言 ひ 聞 か せ む ﹂ と ﹁ む ﹂ を 用 い て お き な が ら 、 ﹁ 勧 め け る ﹂ と い う の は 不 合 理 で あ る 。 ﹁ け る ﹂ が 入 り 込 ん だ 理 由 は さ だ か で な い が 、 ﹁ 宮 ﹂ 本 の 術 と し て 処 理 す べ き と こ ろ で あ る 。 高 松 宮 家 本 は 、 巻 末 に 暁 雲 山 人 明 魏 の 蹟 歌 を 有 す る 、 い わ ゆ る 暁 雲 本 の 代 表 格 の 本 で あ り 、 源 語 本 文 研 究 に お い て 重 要 な 本 と さ れ る も の で あ る が 、 以 上 見 て き た と こ ろ か ら 、 ﹁ 宮 ﹂ 本 は ﹁ 尾 ﹂ 本 と 同 系 の 、 末 流 本 文 と み て よ い で あ ろ う 。 2 大 島 本 の 本 文 ﹁ 大 ﹂ 本 は 、 ﹁ 尾 ﹂ 本 に 対 し て 二 十 箇 所 の 異 文 が あ る が 、 い ず れ も 一 ∼ 二 字 程 度 の 違 い で あ り 、 そ の ほ と ん ど が 欠 陥 本 文 で あ り 、 当 然 の こ と な が ら 大 成 所 収 の す べ て の 本 を 通 じ て の 独 自 異 文 と な っ て い る 。 そ の 意 味 で は こ の 本 も 東
文林 二十五号 山 御 文 庫 蔵 各 筆 源 氏 と 同 様 、 を 受 け る 四 箇 所 は 、 書 写 の 精 度 の 低 い 写 本 で あ る と い わ ね ば な ら な い 。 ﹁ 大 ﹂ 本 の 異 文 で 、 .他 本 に よ る 支 持 ︹ 表 一 〇 ︺ a 中 に ー な か に も ( * / 大 / 言 ) ( 九 八 ー 10 ) b か ろ ∼ か な る ー か ろ ら か な る (横 島 池 肖 / 大 御 鳳 / 陽 言 麦 阿 ) c こ と た ら ぬ ー こ と た え ぬ ( 横 / 大 宮 / * ) ( ○ O 1 11 ) d な む と ー な と ( * / 大 / 為 麦 阿 ) ( 〇 ニ ー 3 ) 、 ( ○ O 1 3 ) で あ る 。 c ( こ れ に つ い て は ︹ 表 九 ︺ の b で 検 討 済 ) 以 外 は 欠 陥 本 文 と は い え な い が 、 い ず れ も 転 写 の 過 程 で 生 じ や す い 誤 写 に よ る 異 文 ば か り で あ っ て 、 と く に 他 系 統 本 と の 接 触 を 考 え ね ば な ら な い よ う な 異 文 は 見 あ た ら な い 。 し た が っ て 、 ﹁ 大 ﹂ 本 も や は り ﹁ 尾 ﹂ 本 と 同 系 の 、 や や 粗 悪 な 末 流 本 文 と 考 え て よ い で あ ろ う 。 ﹁ 宮 ﹂ 本 と は 欠 陥 本 文 C を 共 有 す る が 、 ﹁ ら ー え ﹂ の 誤 写 の 例 は き わ め て 多 い も の で あ る か ら 、 ﹁ 宮 ﹂ 本 と の 関 係 に つ い て も 、 こ の 例 だ け で は な ん と も い え な い 。 一30一 3 鳳 来 寺 本 の 本 文
﹁ 楓 ﹂ 本 は ﹁ 尾 ﹂ 本 に 対 し て 次 の 十 四 箇 所 の 異 文 を 有 す る 。 氏物 語鈴虫巻画本 文 ︹表 一 ︼ ︺ 且 五 六 十 人 -五 六 人 ( * / 鳳 / * ) (九 ニ ー 10 ) b 思 ひ は か れ ぬ ー お も ひ わ か ぬ ( * ノ 鳳 ノ * ) (九 二 ー 12 ) o く た す か な ー く た す ( * / 鳳 ノ * ) (九 三 1 12 ) a ま へ 中 の へ い ー ま へ な る へ い ( * ノ 鳳 ! * ) ( 九 五 ー 9 ) e し た ひ ー し た ま ひ (* ! 鳳 / * ) ( 九 五 i 11 ) f し け う ー け う ( * / 鳳 / * ) (九 六 ー 13 ) 9 い と 心 や す く 1 心 や す く ( 青 表 続 ・本 / 鳳 ノ 為 天 陽 言 慶 阿 ) ( 九 七 1 5 ) h し り に し を ー お も ひ し を ( * / 鳳 / * ) ( 九 七 1 8 ) i 吉 た め ー さ た ( * / 鳳 / * ) (九 八 -呂 ) j か ろ ㌧ か な る ー か ろ ら か な る (描 島 池 肖 ノ 大 御 鳳 ノ 陽 言 菱 阿 ) ( O O 1 3 ) k き た 勧 な き ー さ た な き ( * ノ 凪 / * ) ( 〇 一 1 13 ) ー す く ひ け む ー す く れ け ん ( 堵 / 鳳 / * ) ( 〇 三 1 3 ) 皿 は る く へ き ー は る ∼ 日 口 ( * / 鳳 / 言 ) ( 〇 三 1 6 )
文林 二十五号 n す ∼ み に た る ー す ∼ み わ た る ( * / 鳳 / 為 ) ( 〇 四 1 5 ) こ の う ち 、 f k 1 は 欠 陥 本 文 と せ ざ る を え な い と 思 わ れ る が 、 そ の 他 に つ い て は や や 検 討 を 要 す る 。 a は 、 ﹁ 十 ﹂ の 脱 を 考 え る べ き で あ ろ う か 。 ﹁ 五 六 人 ﹂ で は 上 文 の ﹁ 仮 り の 御 し つ ら ひ に 所 狭 く 暑 げ な る ま で ﹂ と あ る の に 適 合 し な い よ う に も 思 わ れ る し 、 大 成 所 収 の ど の 本 に も こ れ と 同 文 の も の は 見 あ た ら な い 。 た だ し 、 中 山 家 ( 5 ) 本 に こ れ と 関 係 が あ る か と 思 わ れ る 本 文 を 見 い だ す こ と が で き る 。 中 山 家 本 の 本 文 は 池 田 利 夫 氏 の 報 告 に よ れ ば ﹁ 大 成 本 校 異 中 で は 陽 明 文 庫 本 に か な り 近 い ﹂ 別 本 と さ れ て い る も の で あ る 。 中 山 家 本 の こ の 箇 所 は 、 諸 本 と 同 様 ﹁ 五 六 十 人 ﹂ ( 三 丁 ウ ) で あ る が 、 ﹁ 十 ﹂ の 右 脇 に 削 除 記 号 と お ぼ し き ﹁ 、、 ﹂ の 書 入 れ が あ る 。 中 山 家 本 に は 他 に も 若 干 の 書 入 れ が あ っ て 、 そ れ ら 書 入 れ の 性 格 は 一 様 で は な く 、 注 釈 の よ う な も の も あ れ ば 、 単 に 脱 字 を 補 っ た だ け と 思 わ れ る も の も あ る が 、 し か し ま た 、 明 ら か に 異 本 と の 校 合 結 果 の 書 入 れ と 見 な け れ ば な ら な い も の も あ っ て 、 た と え ば 、 ﹁ 行 道 ﹂ ( 三 丁 オ ) と 明 記 さ れ た 本 行 本 文 の ﹁ 道 ﹂ の 右 脇 に ﹁ 香 ﹂ と 書 き 入 れ て あ る の は 、 異 文 注 記 と 見 る ほ か な い 。 こ れ は ﹁ 行 か う (大 成 本 文 ・ 西 肖 / 御 宮 尾 大 鳳 / 保 言 ) 1 き や う た う ( 横 島 池 三 / * / 為 天 陽 ) ー ナ シ (* / * / 麦 阿 ) ﹂ (九 二 ー 7 ) と い う 異 同 の 見 ら れ る 箇 所 で あ っ て 、 申 山 家 本 の ﹁ 香 ﹂ と い う 書 入 れ は 異 本 と の 校 合 結 果 を 書 き 入 れ た も の と 見 る べ き で あ る 。 ﹁ 、 、﹂ も お そ ら く は 異 本 と の 校 合 結 果 の 書 入 れ で あ っ て 、 中 山 家 本 が 校 合 に 用 い た 異 本 に は ﹁ 五 六 人 ﹂ と あ っ た と 考 え ら れ る 。 以 上 の 推 定 が 妥 当 で あ れ ば 、 a の ﹁ 五 六 人 ﹂ と い う 異 文 は 、 い ち が い に ﹁ 鳳 ﹂ 本 の 脱 と は い い き れ な く な る 。 一32一
源氏物語鈴虫巻 の本文 b ・ c は 、 ど ち ら も 源 氏 の 会 話 文 で 、 そ れ ぞ れ 、 ﹁ 空 に 焚 く は 、 い つ く の 煙 ぞ と 思 ひ わ か れ ぬ こ そ よ け れ ﹂ ﹁ い ふ か ひ な く も 思 ほ し く た す か な ﹂ と あ る と こ ろ 。 ﹁ 鳳 ﹂ 本 で も あ な が ち 欠 陥 本 文 と は 言 い き れ な い が 、 他 本 の 本 文 の ほ う が 通 り が よ い よ う で あ り 、 ﹁ 鳳 ﹂ 本 の 脱 で あ る 可 能 性 が 強 い 。 d は ﹁ 秋 ご ろ 、 西 の 渡 殿 の ま へ 、 中 の 塀 の 東 の 際 を 、 お し な べ て 野 に 造 ら せ た ま へ り ﹂ と あ る と こ ろ 。 ﹁ 渡 殿 の 前 な る 塀 の 東 の 際 ﹂ を 野 に 造 っ た だ け で は 後 の ﹁ お し な べ て ﹂ が 無 意 味 に な る で あ ろ う 。 こ れ も お そ ら く 鳳 来 寺 本 の 誤 写 で あ ろ う と 思 わ れ る 。 e の ﹁ し た ま ひ ﹂ は あ き ら か に 欠 陥 本 文 で あ り 、 誤 写 を 考 え ね ば な ら な い 。 ﹁ 御 弟 子 に 慕 ひ き こ え た る 尼 ど も ﹂ と あ る と こ ろ で 、 女 三 宮 の 出 家 の 後 を 追 っ て 尼 に な っ た 者 た ち 、 の 意 で あ る 。 ﹁ ま ﹂ の 術 が 疑 わ れ る が 、 あ る い は ﹁ か ー ま ﹂ の 字 体 相 似 に よ る 誤 写 で 原 本 文 は ﹁ し た か ひ (従 ひ ) ﹂ で あ っ た と も 考 え ら れ る 。 河 内 本 ・ 別 本 は す べ て ﹁ し た ひ ﹂ で あ り 、 青 表 紙 本 の 多 く も ﹁ し た ひ ﹂ で あ る が 、 大 成 本 文 と ﹁ 島 ﹂ 本 は ﹁ し た か ひ ﹂ と な っ て い る 。 g は ﹁ い と ﹂ の 有 無 の 違 い で あ り 、 本 文 と し て は ど ち ら で も か ま わ な い 。 河 内 本 諸 本 の な か で は ﹁ 鳳 ﹂ 本 の み の 独 自 異 文 で あ り 、 こ う い う 副 詞 は 書 写 の 過 程 で 脱 落 し や す い も の で あ る が 、 他 系 統 を 見 て み る と 、 別 本 の ﹁ 保 ﹂ 本 以 外 は い ず れ も ﹁ 鳳 ﹂ 本 と 同 文 で あ る か ら 、 い ち が い に ﹁ 鳳 ﹂ 本 の 脱 と ば か り も 言 い き れ な い 。 -h は 鳳 来 寺 本 の 性 格 を 考 え る 上 で 注 目 す べ き 異 文 で あ る 。 当 該 本 文 は ﹁ 大 方 の 秋 を ば う し と 知 り に し を 振 り 捨 て が た き 鈴 虫 の 声 ﹂ と い う 女 三 宮 の 歌 で あ り 、 ﹁ お も ひ し を ﹂ と い う 異 文 は 大 成 所 収 の い ず れ の 本 に も 見 い だ せ な い 。 こ の 歌 を 詠 み か け ら れ た 源 氏 が す か さ ず ﹁ い で 、 思 ひ の ほ か な る 御 言 に こ そ ﹂ と 言 っ て い る の は 、 ﹁ 秋 ﹂ に ﹁ 飽 き ﹂ を
文林 二十五号 掛 け る こ と に よ っ て 宮 が 皮 肉 を 言 っ た も の と 理 解 し た か ら で あ る が 、 ﹁ お も ひ し を ﹂ と い う 本 文 で は そ の 皮 肉 の 意 味 が 前 面 に 出 て こ な い 。 し た が っ て 、 本 文 と し て は ﹁ 知 り に し を ﹂ の ほ う が 適 切 と い う べ き で あ る が 、 ﹁ し り に し を ー お も ひ し を ﹂ は 単 純 な 誤 写 に よ る も の と は 考 え ら れ な い 。 そ こ で 注 目 さ れ る の が 東 山 御 文 庫 蔵 各 筆 源 氏 の 本 行 本 文 で あ る 。 複 製 本 に よ っ て こ の 箇 所 を 見 て み る と 、 各 筆 源 氏 の 本 行 本 文 に も や は り ﹁ 思 し を ﹂ と 書 か れ て あ っ て 、 ﹁ 思 ﹂ の 右 脇 に 小 字 で ﹁ し り に ﹂ と 書 入 れ が し て あ る 。 大 成 の ﹁ 御 ﹂ 本 の 校 異 で は こ の 書 入 れ の ほ う を 採 用 し て い る の で 、 ﹁ 思 ひ し を ﹂ は ﹁ 鳳 ﹂ 本 の 独 自 異 文 と な っ て い る が 、 実 は 各 筆 源 氏 も 元 来 の 本 文 は ﹁ 鳳 ﹂ 本 と 同 文 な の で あ る 。 し た が っ て 、 ﹁ し り に し を 1 思 ひ し を ﹂ の 対 立 は 河 内 本 内 部 に お け る 数 少 な い 対 立 本 文 の ひ と つ と し て 扱 わ れ ね ば な ら な い で あ ろ う 。 i は 、 ﹁ 虫 の 音 さ た め を し 給 ふ ﹂ と い う 一 文 に か か わ る 異 同 で あ る 。 ﹁ 鳳 ﹂ 本 の ﹁ さ た ﹂ は 独 自 異 文 で あ り 、 あ る い は ﹁ 音 さ た ﹂ で ﹁ オ ト サ タ ﹂ と よ ま せ る の か も し れ な い が 、 い ず れ に せ よ 欠 陥 本 文 と せ ざ る を え な い 。 ﹁ 鳳 ﹂ 本 は 次 の k に お い て も や は り ﹁ さ た め ﹂ の ﹁ め ﹂ を 落 と し て い る か ら 、 常 識 的 に は こ こ も ﹁ め ﹂ の 脱 を 考 え る べ き で あ ろ う が 、 河 内 本 以 外 の 本 で は ﹁ 虫 の 音 ﹂ の 部 分 を 門 虫 の 音 の ﹂ と し て い る 本 が か な り 多 く あ り 、 ﹁ 虫 の 音 の ﹂ で あ れ ば ﹁ さ た ( 沙 汰 ) ﹂ で も 十 分 に 通 じ る こ と に な る 。 む ろ ん 、 ﹁ 鳳 ﹂ 本 の 現 状 は ﹁ 虫 の 音 ﹂ で あ っ て ﹁ 虫 の 音 の ﹂ で は な い か ら 、 ﹁ 鳳 ﹂ 本 の 本 文 自 体 は 欠 陥 本 文 と せ ざ る を え な い が 、 一 概 に ﹁ め ﹂ の 脱 と ば か り は 言 い 切 れ ず 、 ﹁ の ﹂ の ほ う を 脱 落 し た と 考 え る 途 も い ち お う は 残 し て お く べ き か と 思 う 。 な お 、 ﹃ 大 成 校 異 篇 ﹄ に よ れ ば 、 青 表 紙 本 の 西 下 本 の 訂 正 前 本 文 が や は り ﹁ む し の 音 さ た ﹂ と な っ て お り 、 ﹁ 鳳 ﹂ 本 と 同 文 で あ る 。 西 下 本 の 書 入 れ 訂 正 の 多 く は 、 後 一34一
源氏物語 鈴虫巻の本文 に 述 べ る よ う に 、 異 本 と の 校 合 に よ る も の で あ っ て 本 来 の 本 文 で は な い が 、 西 下 本 の 訂 正 前 本 文 と ﹁ 鳳 ﹂ 本 と の 関 係 に つ い て は 定 か で な い 。 ー に つ い て は ︹ 表 一 〇 ︺ の b で す で に 検 討 済 み で あ る か ら 、 繰 り 返 さ な い 。 m は 、 ﹁ か の 御 煙 晴 る く べ き こ と を せ さ せ 給 へ ﹂ と い う 文 に か か わ る 異 同 で あ る が 、 こ こ は 河 内 本 内 部 に お い て 本 文 が 複 雑 に 対 立 し て い る 。 他 系 統 本 も 含 め て そ の 異 同 を 示 す と 、 ﹁ は る へ き ( 大 成 本 文 / 御 / 天 陽 ) ー は る く へ き (横 島 池 西 肖 三 / 宮 尾 / 為 保 麦 阿 ) 1 は な る へ き (* / 大 / * ) ー は る ∼ へ き (* / 鳳 / 言 ) ﹂ と な っ て い る 。 ﹁ 御 煙 ﹂ を 主 語 と 解 す れ ば ﹁ 晴 る べ き ﹂ と な り 、 客 語 と 解 す れ ば ﹁ 晴 る く べ き ﹂ と な っ て 、 こ の 両 本 文 は 合 理 的 で あ る が 、 ﹁ は な る へ き ﹂ ﹁ は る ㌧ へ き ﹂ は い ず れ も 欠 陥 本 文 で 意 味 が 通 じ な い 。 そ れ ぞ れ ﹁ な ー る ﹂ ﹁ く ー ㌧ ﹂ の 字 形 相 似 に 関 係 し た 誤 写 で あ ろ う と 思 わ れ る 。 n は ど ち ら で も 意 味 は 通 じ る 。 本 文 は ﹁ か の 御 息 所 の 御 こ と を お ぽ し や り つ つ 、 お こ な ひ の 御 心 す す み に た る を ﹂ と あ る と こ ろ 。 ﹁ す す み わ た る を ﹂ の 場 合 は 、 ど ん ど ん す す ん で い く の を 、 と 解 す る こ と が で き る 。 ﹁ わ ー ホ ﹂ の 字 形 相 似 に よ る 誤 写 が 考 え ら れ る が 、 ﹁ 為 ﹂ 本 の 支 持 が あ る の で 、 い ち が い に ﹁ 鳳 ﹂ 本 の 誤 写 と も 言 い き れ な い 。 以 上 見 て き た よ う に 、 ﹁ 鳳 ﹂ 本 の 異 文 の な か に は 誤 写 と せ ざ る を え な い 欠 陥 本 文 が か な り 存 在 す る 。 鳳 来 寺 本 は 、 周 知 の よ う に 夢 浮 橋 巻 末 に 建 長 七 年 七 月 七 日 の 親 行 の 奥 書 を 有 し 、 そ の 署 名 、 花 押 が 親 行 自 筆 の ご と く 見 ら れ る こ と か ら 、 河 内 本 原 本 で は な い か と の 期 待 が 寄 せ ら れ て い る 本 で あ る が 、 以 上 見 て き た 鈴 虫 の 巻 の 本 文 の 検 討 結 果 か ら は 、 鳳 来 寺 本 が ﹁ 尾 ﹂ 本 の も と に な っ た 河 内 本 原 本 で あ る と は と う て い 考 え ら れ な い 。 し か し な が ら 、 い っ ぽ う で は ま た
文林 二十五号 ﹁ 鳳 ﹂ 本 に は h の よ う な 特 異 な 異 文 や 、 a e g n の ご と き 有 意 の 異 文 も 存 在 す る こ と か ら 、 こ れ を ﹁ 尾 ﹂ 本 の 末 流 本 文 と す る こ と も で き な い の で あ る 。 而 し て 、 ﹁ 鳳 ﹂ 本 は ﹁ 尾 ﹂ ﹁ 宮 ﹂ ﹁ 大 ﹂ の 系 統 と は 祖 本 を 異 に す る 、 別 系 統 の 河 内 本 と み る べ き で あ ろ う 。 4 東 山 御 文 庫 蔵 各 筆 源 氏 の 本 文 最 後 に 、 ﹁ 御 ﹂ 本 に つ い て 見 て み る 。 東 山 御 文 庫 蔵 各 筆 源 氏 は 青 表 紙 本 二 十 帖 ・ 河 内 本 二 十 二 帖 ・ 別 本 十 二 帖 か ら な る 取 り 合 わ せ 本 で あ る が 、 夢 浮 橋 巻 末 に 鳳 来 寺 本 と 同 じ 親 行 の 奥 書 を 写 し 伝 え て い る 本 と し て つ と に 有 名 で あ り 、 こ と に 鈴 虫 の 巻 は 、 唯 一 、 夢 浮 橋 の 巻 と 同 筆 (伝 後 二 条 院 ・ 後 伏 見 院 両 筆 ) に な る 巻 で あ る こ と か ら 、 河 内 本 研 究 上 の 資 料 的 価 値 が き わ め て 高 い と 見 ら れ る 本 で あ る 。 し か し な が ら 、 繰 り 返 し 述 べ て き た よ う に 、 こ の 本 の 書 写 の 精 度 は き わ め て 低 く 、 複 製 本 に よ っ て も う か が え る よ う に こ の 本 の 本 行 本 文 の 書 写 態 度 は 相 当 に 不 用 意 で あ っ て 、 目 移 り に よ る 長 文 の 脱 文 を 後 に 補 入 し た 箇 所 が 数 箇 所 あ る の み な ら ず 、 あ き ら か な 誤 写 を 後 に 訂 正 し た 箇 所 も か な り の 量 に の ぼ る 。 そ し て 、 そ う し た 訂 正 が 施 さ れ た 後 の 本 文 に よ っ て さ え 、 ﹁ 御 ﹂ 本 は 大 成 所 収 の す べ て の 本 に 対 し て じ つ に 二 十 九 箇 所 も の 独 自 異 文 を 有 し て い る 。 こ の 数 値 は 全 校 合 本 の な か で も 群 を 抜 い て 高 い と い わ ね ば な ら な い 。 し た が っ て 、 こ れ ら 独 自 異 文 の な か に は 、 な お 、 訂 正 の 目 か ら こ ぼ れ た 落 ち た か な り の 量 の 欠 陥 本 文 が 残 存 し て い る と み な け れ ば な ら な い で あ ろ う 。 し か し 、 い っ ぼ う で は 、 ﹁ 鳳 ﹂ 本 の h の 項 で も 見 た よ う に 、 こ の 本 の 訂 正 前 の 本 文 の な か に は 必 ず し も 欠 陥 本 文 と は い え な い 貴 重 な 異 文 が 伝 え ら れ て い る 場 合 が あ る こ と も 見 逃 し て は な ら な い の で あ る 。 一36一
源氏物語鈴虫濫の本文 ま ず 、 ﹁ 御 ﹂ 本 が ﹁ 尾 ﹂ 本 と 異 文 に な っ て お り 、 か つ 他 本 の 支 持 を 受 け る 八 箇 所 か ら 検 討 し て み る 。 ︹ 表 = 一︺ hgfedcba か う せ ち の ー か う せ ち な り の ( * / 御 / ﹁ か う せ ち な る ﹂ 麦 阿 ) ( 九 ニ ー 13 ) ま つ 虫 1 ま つ む し の ( 三 / 御 / 陽 ) ( 九 七 i 2 ) 給 へ る に 1 給 る に ( * / 御 / 保 ) (九 七 1 3 ) ほ か ま て ー ほ か ま て も ( * / 御 / 言 ) (九 八 1 11 ) 給 つ ー た ま ひ ぬ ( * / 御 / 為 ) ( 九 九 1 1 ) か ろ 、 か な る ー か ろ ら か な る (横 島 池 肖 / 御 鳳 大 / 陽 言 麦 阿 ) ( 0 0 1 3 ) す ま ひ に も や ー す ま ひ に も ( * / 御 / 保 ) ( 〇 一 1 4 ) は る く へ き ー は る へ き ( 大 成 本 文 / 御 / 天 陽 ) ( 〇 三 1 6 ) f は ︹ 表 一 〇 ︺ の b 、 h は ︹ 表 一 一 ︺ の m で 、 す で に 検 討 済 み で あ る 。 a の ﹁ か う せ ち な り の ﹂ は 明 ら か に 欠 陥 本 文 で あ る 。 こ の 箇 所 を 複 製 本 で 見 て み る と 、 本 行 に ﹁ か う せ 迎 な り の お り は ﹂ と 、 ま っ た く 意 味 不 明 の 本 文 が 書 か れ て あ る 。 意 味 が 通 る と か 通 ら な い と か に は ま っ た く 無 頓 着 な 、 ほ と ん ど 古 文 を 読 め な い 者 が 写 し た の で は な い か と 思 わ れ る よ う な 書 写 態 度 で あ る 。 各 筆 源 氏 の 本 行 本 文 に は こ う し た 欠 陥 本