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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 水 産 科 学 ) 小 西 健 志

     学位論文題名

ANECOLOGICAL STUDY OF ANISAKID NEMATODES     FROM WALLEYE POLLOCK THERAGRA

CHALCOGRArvLrvL4 AND THREE PINNIPED SPECIES   IN JAPANESE WATERS

   (日本沿岸域におけるスケトウダラと鰭脚類3 種に寄生する    アニサキス科線虫類 の生態学的研究)

学位論文内容の要旨

  アニサキス科線虫類(superfamily Ascaridoidea)は、海洋生態系の捕食一 被食関係を通じて動物プランク卜ンから魚類や頭足類を経て海棲哺乳類 などの高次捕食者で成熟する寄生虫であり、亜寒帯から寒帯にかけての魚 類および頭足類に一般的にみられる。本線虫類に関しては、ヒトがこれら の線虫が寄生した魚類を生食して起こる「アニサキス症」を中心に、これ まで主に病理学的な見地から研究されてきた。しかし近年では、水産学の 分野において寄生虫を宿主の系群判別の指標として用いる研究が数多く 行われている。一般的に、魚類の系群判別には人口標識が用いられるが、

費用が高く再捕獲が必要であり、更には標識個体が異常行動を起こす可能 性がある。また、系群判別を行う際には、あらゆる方法によって得られた 結果を総合的に判断する必要がある。アニサキス科線虫類は比較的発見が 容易で寄生数も多いことから、北大西洋では有用魚種を中心に本線虫類の 定量的な調査が行われている。

  スケトウダラTheragra chalcogrammaは北海道沿岸域で最も重要な魚種の ーつであり、現在では日本海、太平洋、オホーツク海および根室海峡の4 系群に大別されている。しかし、それそれの系群内にも複数の産卵場が含

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  まれ、移動も広範囲に及ぷことから、詳細については明らかでない。スケ     トウダラには2種のアニサキス科線虫(Anisakis simplex.Contracaecum   oscularum)が高率で寄生しており、カナダおよびロシア海域においてこれ   ら の線 虫を用 いた スケ トウ ダラの 回遊推定や系群判別が行われている。

    一方で、寄生虫を生物指標として用いる際の有用性を検討する場合には、

これら寄生虫の生活環および感染経路に関する情報が不可欠である。しかし、

アニサキス科線虫類の感染経路に関しては未だ不明な点が多いのが現状であ る。これら線虫類の分布を決定する要因としては、海洋環境や食物構造の違い などが挙げられるが、寄生虫は特定の宿主に特異的に適応しており(宿主特異 性)、感染経路の解明には食物構造に関する知見のみでは不十分である。とりわ け、最終宿主はアニサキス科線虫類が成熟して卵を海中に放出することから、

生活環の中で重要な位置を占める。しかし、アニサキス科線虫類の最終宿主に おける宿主特異性に関しては断片的な情報しかなく、日本近海における鰭脚類 に 関 し て は キ タ オ ッ ト セ イ に つ い て 調 査 さ れ て い る に 過 ぎ な い 。   以上の観点から、本研究では(I)道東海域のスケトウダラに寄生するアニサ キス科線虫の寄生状況、季節変化および分布、(II)スケトウダラの異なる系群間 での寄生状況の比較およぴその結果に基づく系群判別、(III)トドEumetopias jubatus¥ゴマフアザラシPhoca larghaおよびクラカケアザラシPhoca fasciataに おけるアニサキス科線虫の宿主特異性の3点から北海道沿岸海域におけるアニ サキス科線虫類の感染経路を解明を目的とした。

  (1) 1999‑2000年の1月・2月(冬期)および6月.7月(夏期)に道東沿岸海域 において北海道区水産研究所により漁獲されたスケトウダラを用いた。スケト ウダラには主にAnisakis simplexおよびContracaecum osculatumの3期幼虫が寄 生していた。両線虫種の寄生数は宿主の成長に伴い増加する傾向を示し、寄生 による宿主の肥満度への影響はみられなかった。寄生数は夏期から冬期にかけ て増加する傾向が見られた。両線虫種の寄生数は調査地点間において有意に異 なった。特に若齢個体においてその差は顕著であり、加齢に伴いに均一化する

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傾向 が見 られ た。こ のこ とは 、ス ケト ウダ ラが 成長 ・成 熟に 伴い 回遊 や移動 の 規模が大きくことによると考えられた。

  (II)(I)の 冬 期 の 標 本 に 加 え て199912月 か ら20002月 に 北 海 道 立 水産 試験 場が 採集 した礼 文島 沖、 熊石 沖、 鹿部 沖お よび 根室 海峡 のス ケト ウダラ に お い て 、AI simplexお よ びCIosculatumの 寄 生 状 況 を 比 較 し た。 この 結果、A simplexの 寄生 率お よび 寄生 数は スケ トウ ダラの 系群間およぴ系群内で異なり、

礼文 島沖 およ び根室 海峡 で最 も寄 生数 が多 かっ た。 また 、日 本海 系群 の礼文 島 沖と 熊石 沖、 太平洋 系群 の鹿 部沖 と道 東沖 のス ケト ウダ ラに もそ れそ れ有意 な 差が 認め られ た。C. osculatumの寄 生率 およぴ 寄生数はスケトウダラの系群間 でのみ異なり、特に根室海峡のスケトウダラに最も多く寄生していた。A. simplex の寄 生数 は、 中間宿 主で ある オキ アミ 類を 主に 摂餌 する 系群 で多 く、 海域間 に おけ るス ケト ウダラ の成長の差異にも影響を受けることが窺えた。CI osculatum の中 間宿 主はA. simplexと 同様 にオ キア ミ類で あるが、寄生数の違いは宿主の 食性 を反 映し ていな かっ た。 尚、 本研 究は 両線 虫種 がス ケト ウダ ラの 系群判 別 の指標として有効であることを示している。

  (III)1999年 の1‑3月 に 根 室 海 峡 に お い て ト ド、 ゴ マ フア ザラ シお よぴク ラ カ ケ ア ザ ラ シ の 胃 よ ル アニ サキ ス科 線虫 類を採 集し た。 これ らの 鰭脚 類に はA simplex、C.osculatum、Phocascaris cystophoraeおよびPseudoterranova decipiens のアニサキス科線虫が寄生していた。すべての鰭脚類にA. simplex、C.osculatu.腕 およびP.ぬcゆfe門sの3期幼虫が多量に寄生していた。しかし、尸,ぬcゆf伽s 虫 は主 にト ドお よび ゴマ フア ザラ シにの み寄 生し てい た。 さら に、 トドにおけ る 寄生 数は ゴマ フア ザラ シの それ よりも 有意 に多 かっ た。C. 甜cHn弸の成虫 は クラ カケ アザ ラシ にの み多 く寄 生して いた 。以 上の こと から 、ト ドおよびゴ マ フア ザラ シはP.ぬc桝開臥クラカケアザラシはC.〇sc ぬn弸の最適な最終宿 主であることが明らかとなった。また、上記鰭脚類3種はA.ぷf 叩ム舛の最適な 宿 主で はな いこ とが 示さ れた 。宿 主の体 長、 胃内 容物 湿重 量お よび 胃壁重量と ア ニ サ キ ス 科 線 虫 の 成 虫 寄 生 数 と の 関 係 は 見 い だ せ な か っ た 。

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  本研究の結果から、根室海峡系のスケトウダラにはC. osculatumが多く寄生 すること、クラカケアザラシはC. osculatumの分布に大きく影響することが明 らかとなった。この理由として、北海道周辺海域では、クラカケアザラシはオ ホーツク海およぴ根室海峡にのみ分布する。っまり、これらの海域には潜在的 にcI osculatumの分布密度が他の海域よりも高いことが窺える。根室海峡系の スケトウダラは、オホーヅク海において摂餌することから、この海域において オキアミ類などから多数のCI osculatumの幼虫を取り込むものと考えられた。

また、本研究で調査した鰭脚類はA. simplexの重要な宿主ではないことが明ら かとなった。A simplexの最終宿主は一般的に鯨類と考えられており、それら の広範囲にわたる分布は、スケトウダラの海域間における寄生数の差異に影響 を与えないものと推察された。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査    教 授    小 城 春 雄 副 査    教 授    仲 谷 一 宏 副 査    教 授    嶋 津    武 副 査    助教 授    桜井 泰憲

     学位論文題名

ANECOLOGICAL STUDY OF ANISAKID NEMATODES     FROM WALLEYE POLLOCK THERAGRA

CHALCOGRAMMA AND THREEP 工 NNIPED SPECIES      、IN JAPANESE WATERS

     (日本沿岸域におけるスケトウダラと鰭脚類3 種に寄生する      アニサキス科線虫類の生態学的研究)

アニ サキス 科線 虫類 (Ascaridoidea)は 、食 物連鎖 を通 じて 動物プ ラン ク卜 ン 、 魚類 、 頭 足 類 等 の 延 長 宿 主 ( 中間 宿 主 ) を 経 て 、 海 棲 哺乳 類等 の高 次 捕 食 者を 最 終 宿 主 と す る 寄 生 虫 で ある 。 亜 寒 帯 か ら 寒 帯 に かけ ての 魚類 や 頭足 類中で 、こ れら 線虫 類は一 般的 に見 られ る寄生 虫で あり 、人が これ らの 生物を生食して起こる「アニサキス症」は良く知られている。アニサキス科線虫 類は 、延長 宿主として多くの生物種に寄生しているのが発見されているが、そ れら は殆ど 幼虫 期で ある 。成虫 は、 極め て限 られた 最終 宿主 種中で のみ 成熟 し 産 卵 す る が 、 線 虫 類 各 種 の 最 終 宿 主 と な る 種 に っ い て は 、Aぬisakis sim plexがミンククジラを最終宿主としていることが知られているに過ぎない。

近 年 、 欧 米 各 国 で は 中 間 宿 主 の 魚 類 に 寄 生 す る 線 虫 類 の 寄 生 傾 向か ら 、 水 産 有 用 魚 類 の 回 遊 経 路 推 定 や 系 群 判 別 が 行 わ れ て い る が 、 我 が国 で の 寄生虫の水産への応用研究は皆無に等しい。

  以 上の背 景を 踏ま え本 研究で は、 第一 に道 東海域 のス ケト ウダラ に寄 生す るア ニサキ ス科線虫の種類、寄生数、寄生時期、およびスケトウダラの成長に 伴 う 寄生 率 、 寄 生 魚 の 分 布 傾 向 を 解析 し た 。 続 い て 北 海 道 周辺 海域 のス ケ トウ ダラ系 群間 での アニ サキス 線虫 類の 寄生 状況を 基に 、寄 生虫に よる 系群 判別 の可能 性を 検討 した 。アニ サキ ス線 虫類 は種ご とに 最終 宿主と なる 海棲 哺乳 類が定 まっている。そこで、アニサキス線虫類の感染経路を解明するため に、トド、ゴマフアザラシ、クラカケアザラシ3種の鰭脚類を最終宿主にしている アニ サキス 線虫種の判別を試みた。得られた結果は以下のように要約できる。

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  第 一には 、1999→2000年冬季(1ー2月)およぴ夏季(6−7月)に道東海域で 漁獲 したス ケト ウダ ラに は4カムakis simplexとContracaecum〇 ざculatumの 3期 幼虫 が主 に寄 生して いた 。両 線虫種 は、 スケトウダラの成長に伴い増加す る傾向を示すとともに、寄生数は夏季から冬季に増加した。寄生によるスケトウ ダ ラ の肥 満 度 へ の 影 響 は 見 出 せ な かっ た 。 両 線 虫 類 の 寄 生 数 は調 査地 点間 で有 意に異 なっ た。 寄生 数はま た加 齢に 伴い 均一化 する 傾向 が見ら れた が、

このことはスケトウダラが成長に伴い回遊や移動の規模が大きくなることによる と考えられた。

第 二 には 、 先 の 道 東 沖 ス ケ ト ウ ダ ラに 加 え て 礼 文 島 沖 、 熊 石 沖、 鹿部 沖、

根室海峡で漁獲されたスケトウダラについて、A. simplexおよびビ.osculatum の寄 生率と 寄生 数を比較した。A. simplexは、スケ卜ウダラの系群間でおよび 系 群 内で 寄 生 率 と 寄 生 数 で 異 な り 、礼 文 島 沖 お よ び 根 室 海 峡 で最 も寄 生数 が 多 かっ た 。 日 本 海 系 群 の 礼 文 島 沖と 熊 石 沖 、 太 平 洋 系 群 の 鹿部 沖と 道東 沖の スケト ウダ ラでもそれぞれ有意な差が見出だされた。また、A. simplexの 寄生 数は、 中間 宿主 であ るオキ アミ 類を 主要 餌生物 とす る系 群で多 かっ たこ とから、海域間におけるスケトウダラの成長の差異にも影響を与えていることが 窺え た。C. osculatumは 、スケ トウ ダラ の系 群間で のみ 寄生 率およ び寄 生数 が異 なり、 特に 根室海峡のスケトウダラに最も多く寄生していた。本種も延長 宿主 はオキ アミ 類で ある ものの 、寄 生数 は宿 主の食 性の 差を 反映し てい なか った 。これ らの 結果から、両線虫種がスケ卜ウダラの系群判別指標として有効 であることが判明した。

第三 に、1999年1−3月に根室海峡で捕獲したトド、ゴマフアザラシ、クラカケ アザ ラシ各3頭の 胃中よ り全 ての アニサ キス 線虫類を摘出して種判別を行うと 共 に 発 育 段 階 区 分 を 行 っ た 。 出 現 種 と 発 育 段 階 は 、A. simplex、 ビ . oscula tum、Pseudoterranova decipiensが 全ての 鰭脚 類か ら大量 に出 現し た が 大部 分 は3期 幼 虫 で あ っ た 、そ してPhocascaris cystophoraeは 、4期幼 虫と成虫が全ての鰭脚類から出現したものの、3期幼虫の発見がなかったこと、

そ し て分 類 学 的 に 問 題 点 が あ る た め検 討 か ら 除 い た 。 線 虫 類 の成 虫の 寄生 状況から、トドおよびゴマフアザラシは尸. decipienぷ、クラカケアザラシはビ.

oscula tumの最 適な 最終 宿主で ある こと が判 明した 。ま た、A. simplexは上 記 鰭 脚 類3種 の 最 適 な 最 終 宿 主 で は な い こ と も 明 ら か と な っ た 。 上 記 の内 容 は 、 北 海 道 周 辺 海 域 に おけ る ス ケ ト ウ ダ ラ の 系 統 群の 判別 にア ニサ キス科 線虫 類の寄生数や寄生率が有効であることを解明したに留まらず、

これ まで未 知で あっ たア ニサキ ス線 虫類2種 の最終宿主を明らかにしたものと 高く 評価で きる 。よ って 審査員 一同 は本 研究 が博士 (水 産科 学)の 学位 を授 与される十分な資格のあるものと判定した。

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