博 士 ( 環 境 科 学 ) 松 本 優 子
学位論文題名
Analytical Study on the Detection of Some Organic Pollutants Based on the Interaction with the Binding Sites of Biomolecules
(生体分子の結合サイトとの相互作用に基づく 有 機 汚 染物 質の 検出に 関す る分 析的 研究)
学位論文内容の要旨
1960年 代 以 降 、 世 界 各 地 で 人 や 野 生 生 物 の 生 殖 機 能 の 異 常 な ど7ゝ 髏 さ れ て い る 。 中で も、 か つて 流産 防 止 の 目 的 な ど に多 用 され てい た 、合 成エ ス ト口 ゲン で ある ジェ チ ルス チル ベ スト 口ー ル を胎 児期 に 暴露 され た 女 陸 に 遅 発 性 の癌 が 確認 され た こと 、野 生 生物 の生 殖 行動 など の 異常 が有 機 塩素 系化 合 物に よる 環 境汚 染に よ る 疑 い が 指 摘 され た こと 、ま た 、実 験中 に 用い た実 験 器具 から 溶 出し たノ ニ ルフ ェノ ー ルか らェ ス トロ ゲン 作 用が 認 めら れた こ とな どを 受 けて 、環 境 中の 物質 の 生体 内に お ける 内分 泌 撹乱作 用カ遡鯰:される ようになって き た 。 そ こ で 環 境 省 は 、1998年 に 専 門 家 に よ る 検 討 結 果 に 基 づ ぃ て 、 「 一 環 境 ホ ル モ ン 戦 略 計 画SPEED'98
― 」 を と り ま とめ 、 これ に従 い 、内 分泌 攪 乱作 用が 疑 われ る化 学 物質 の環 境 中の 濃度 の 測定 、生 物 の生 体内 で 内 分 泌 系 へ の 作用 を 介し た各 種 の影 響に つ いて 検討 を 進め てき た 。結 果と し ては 、検 討 され た多 く の物 質は 内 分 泌 攪 乱 作 用 を 示 さ な い が 、/二 ル フェ ノ ール 等い く っか の物 質 につ いて は 、人 の細 胞 核の 数種 類 のレ セプ タ ー に 結 合 す る こ と が 確 認 さ れ た 。 ま た、 内分 泌 攪乱 作用 の 疑わ れるPCB、 ア ルキ ルフ ウ ノー ル類 、 ビス フウ ノ ー ルA、17pー エス ト ラジ オー ル が水 質調 査 地点 の半 数 以上 で検 出 され ると い う結 果も 示 され た。 こ のた め、 こ れら環境汚染物 質のより高感度か つ選択的な新規分析 法の開発カ泌要と なっている。
一ブ云生体内 における柏ミ々な 機能の j蔘擦〕市喞は、捗淋―捗源、レセプターーホJレモン、酵素→基質といったタ ンバ ク ーリ ガンド あるいt翻 亥竣ーインターカ レーターなどのよ うに、生体分子の有 する結合サイトに おける高い分 子認ミ哉台亀カと強い粍甅鰤に嚢E沁ゝているものカ渉い。これらの相互作用は、有害)陸カifi摘されている様々な化学 物質の検出法や 除去法の開発にも 応涌されうる。
本 研 究 で は 、 こ の よ う な 生 体 内 に お け る 分 子 認 識 能 カ に 着 目 し 、 抗 体 ― 抗 原 、DNAーイ ンタ ー カレ ータ ー の 持 つ 高 い 分 子認 識 能カ や結 合 サイ トに お ける 強い 相 互作 用を 利 用す るこ と で、 有害 化 学物 質や 天 然の ホル モ ン物質などの検 出法の開発を行っ た。
本論文は6南うゝら構成 されている。第1章では、内 分泌損活鵬勿質に 関する背景と経過 、質量分析を和爛した方法 とのHニ轗 制 ヒ掌 的手 法 の禾 |J点 と改 善 点ー そし て 本穆 侈Eの 目的とその概要につ いて識した。第2,3章では、極 低滞涯どでも生 物のホJレ モン系を舌しすと 顛揃ているエスト ラジオー)I/(E2)に対するエンづイムイムノアッセイ(EIA 法 の 開 発 を 行 い 、 環 境 中 のE2濃 度 の 澳庭 を試 み た。 第4〜6章で は、DNAへ の 平面 構造 を 有す る物 質 のイ ンタ ー カレ ー ショ ンや ウ リレ ーブ 結 合を 利用 し て、 環境 汚 染物 質の 電 気化 学的 検 出につ いて検討した。本 実験では、水
溶性 で機械 的強度 の低いDNAを機能 性材料 として 用いるた めに開 発され た、DNA‑アルギン 酸複合体、UV照 射DNAに 着目し 、これ らのフ ィルム を電極 上に作 製し、こ のDNAへ の集積を利用した環境汚染物質の電気化 学的検出について検討を行った。以下、第2章から6章までの概要を述べる。
第2章では、ピオチン化エストラジオールをプ口一プリガンドとして用いた均一反応によるE2の新規螢光EI Aの開発について記述した。現在市販されているアッセイキッ卜の多くは固相に固定化した抗体に対し、酵素 を修 飾した りガン ドとE2との競争に基づいてE2の定量を行なっている。しかしながら酵素のような巨大分子 を直接リガンドに修飾することは、エストラジオールの抗体への反応性に影響を与える恐れがあると考えられ る。そこで、本研究では低分子であるピオチンを修飾したピオチン化エストラジオールを合成し、このルガン ドとE2を競争 させた 後、このピオチン部位に特異的に結合する酵素を修飾したアピジンを添加することでE2 の定量を行なった。さらに抗体には特異性の高いモノク口ーナル抗体、検出には螢光基質を用いることで、高 感度かつ高選択的なEIAの開発に成功した。
第3章では、抗体を固定化した96ウェルマイク口夕イタープレートを用いるEIAにおいて、第2章で述べたピ オチン化工ストラジオールを用い、さらに簡便なアッセイ法の開発に取り組んだ。そして本法を環境庁の定め る外 因性内 分泌攪 乱化学物質調査暫定マニュアルに従った固相抽出法と組み合わせることで、河川水中のE2 の定量に応用した。調査地点からは0.06 ‑ 67pMのE2が検出され、この際の添加実験の回収率、それぞれの結 果の相対標準偏差、および再呪性は良好であった。
第4章 では、 カルシ ウムイ オンを 架橋材 として、水溶性のDNAをアルギン酸膜に閉じ込めて不溶化した、D NAアルギン酸複合体フィルムを電極上に作製し、このフィルムに平面構造を有する電魎活性な臭化エチジウム (EtBr)をインター−カレートさ世鳩のサイクリックオヤレタンメトリー(C.Oを澳淀することで、DNAとEtBrとの相 互作三用について検討した。EtBrcDDNAへの集程非釦彊矧立E助mこよる集稽激の変化旧観察されなかったカi集積 後の フィル ムの洗 浄時に 、十700mVよ りも正 の電位 を印加 するこ とでDNAからEtBrを排出することができ、
DAFの再 生利用 が可能 である ことが 示唆さ れた。 これは有 機溶媒 等を用いずに、DNAからインターカレータ ーの 排出を 可能と したものであり、インターカレーションの電気化学的コント口ールの可能性をも示した。
第5章 では、 紫外線 照射によルフィルム化したDNAフィルムを用いて有害物質の検出法について検討した。
電極 活性なEtBrをイン 夕一カ レート させた 時の(Nを測定 し、EtBrのDNAフィルムヘの集積挙動について検 討を 行い、 平面構 造を有するジベンゾフランのBDの検出に応用した。ダイオキシンの骨格物質としても知ら れるDBFは、他の多くの有害物質と同様に電極不活 陸物質としゝうことが知られているが、EtBrとDBFをDNA に対 して競 争的に 反応さ せ、その とき得 られるEtBrの電極応答の変化からDBFの集積を検出可能であること が確 認され た。こ のこと からDNAへ の結合 サイト に対する 競争反 応によりDBFのような電極不活性物質であ っても、電気f匕芋的検出カ沛丁冑亀であることカ萌ミ唆された。
第6章 では、 さらに 、この紫外線照射DNAフィルム電極をエスト口ゲン物質に応用した。本実験では最も強 いェ スト口 ゲン活 性を示 すE2と、 合成女 陸ホルモ ンのDESを用い て検討を行った。この結果、DESにおいて 明ら かなDNAと の相互 作用に 基づく 電極応 答が確 認され、 掃引速 度依存性の結果からも、この応答ばDESの DNへの 吸 着 に基づ く応答 である ことが 確認さ れた。 そこで、DESとDNAと の相互 作用の 結合様 式を明 らか にす るため 、代表 的なインターカレーターとグルーフシマインダーを用いて、DESとDNAとの相互作用につい て電 気化学 的に検 討した 。その結 果、こ の相互 作用は ウ帆/ ーブ結 合の寄与が大きいことが示唆された。
以上の研究から、抗体一抗原、アピジンービオチンといったタンバクーリガンド相互作用を利用することで、
天然 のホル モン物 質であ るE2の高 選択的 かつ高感度な測定が可能となり、DNAーインターカレーター、ある
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いはグルーフシヾインダーの結合サイトとの強い相互作用を利用することで、DBFやDESといった有害物質の 検出が可能となった。このように生体分子の分子認識能およびその反応を利用することで、環境汚染物質の選 択的な検出の可能陸が示唆され、環境汚染物質の定期的なモニタリング法の1つとしての利用カ讐胡待される。
学位論文審査の要旨 主 査
教 授
田 中 俊 逸 副 査
教 授
嶋 津 克 明 副 査
教 授
坂 入 信 夫 副査 准教授 沖野龍文
学 位 論 文 題 名
Analytical Study on the Detection of Some Organic Pollutants Based on the Interaction with the Binding Sites of Biomolecules
( 生 体 分 子 の 結 合 サ イ ト と の 相 互 作 用 に 基 づ く 有 機 汚 染 物 質 の 検 出 に 関 す る 分 析 的 研 究 )
現 代 に お い て は 多 種 多 様 な 人 工 、 天 然 の 化 学 物 質 が 我 々 の 生 活 を 支 え て い る 。 し か し こ れ ら の 化 学 物 質 の 中 に は 人 間 の 健 康 や 生 態 系 に 影 響 を 与 え る 恐 れ カ ゞ あ る も の も あ り 、 特 に 内 分 泌 攪 舌 し 作 用 カ 践 耐っ れ てい る化 学 物 質 は 、 非 常 に 低 濃 度 で 生 体 ヘ 影 響 を 及 ぼ す こ と が 報 告 さ れ て い る 。 こ の た め 、 こ れ ら 環 境 汚 染 物 質 を 高 感 度 か つ 選 択 的 、 そ し て 週 速 、 簡 便 に 分 析 で き る 手 法 の 開 発 が 求 め ら れ て い る 。 一 方 、 生 錐 内 に お け る 様 々 な 機 能の 発1屠や 簡 脚は 、 抗| 本 ーfJ‑| レセ ブ 夕 ー ―オ ル レモ ン、 酉 季素 一基質 といったタンバ ク―リガンド あるいI甜亥 酸 一 イ ン タ ー カ レ ー タ ー な ど の よ う に 、 生 体 分 子 の 有 す る 結 合 サ イ ト に お け る 高 い 分 子 認 識 能 カ と 強 い 相 互 作 用 に 墓mゝ て い る も の カ 蓬 多 い 。 こ れ ら のキ 日 互作 用 はま た、 有 害性 カ 苛旨 摘 され てい る 様々 な 化学 物 質の 検 出法 や除 去 法 の開 発に も 応用 さ れう る 。
本 博 士 論 文 は 、 こ の よ う な 生 体 内 に お け る 分 子 認 識 能 カ に 着 目 し 、 抗 体 ー 抗 原 、DNA− イ ン タ ー カ レ ー タ ー の 持 っ 分 子 認 識 能 カ や 結 合 サ イ ト に お け る 強 い 相 互 作 用 を 利 用 す る こ と で 、 有 害 化 学 物 質 や 天 然 の ホ ル モ ン 物 質 な ど の 検 出 法 の 開 発 を 行 っ た も の で あ る 。 主 に ニ つ の 手 法 が 検 討 さ れ て お り 、 一 つ は 極 低 濃 度 で も 生 物 の ホ ル モ ン 系 を 舌 し す と 疑 わ れ て い る エ ス ト ラ ジ オ ー ル(E2)に 対 す る エ ンザ イム イ ムノ ア ッセ イ(EIA)法 の開 発 で あ り 、 開 発 し た 検 出 法 を 用 い て 環 境 中 のE2濃 度 の 溟 健 を 行 っ た も の で あ る 。 ま た 、 も う ― つ の 手 法 は 、 電 極 上 に 構 築 し たDNAフ ィ ル ム を 用 い て 、DNAへ の イ ン タ ー カ レ ー シ ョ ン や グ ル ー ブ 結 合 な ど の 相 互 作 用 を 利 用 し て、 環境 汚 染物 質 の電 気 化学 的 検出 につ い て検 討 した も ので ある 。
女 性 ホ ル モ ン 物 質 の ー つ で あ る エ ス ト ラ ジ オ ー ル(E2)の 生 体 や 環 境 中 の 濃 度 を 測 定 す る に は 、 エ ン ザ イ ム イ ム ノ ア ッ セ イ 法 (EIA)が 用 い ら れ て い る が 、 市 販 さ れ て い るEIAキ ッ ト の 多 く は 固 相 に 固 定 化 し た 抗 体 に 対 し 、 酵 素 を 修 飾 し た り ガ ン ド とE2と の 競 争 に 基 づ ぃ てE2の 定 量 を 行 な っ て い る 。 し か し 酵 素 の よ う な 巨 大 分 子 を 直 接 リ ガ ン ド に 修 飾 す る こ と は 、E2の 抗 体 へ の 反 応 性 に 影 響 を 与 え 、 交 差 反 応 を 増 大 さ せ る 恐 れ
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がある。そこで、本研究では低分子であるビオチンを修飾したピオチン化工ストラジオールを合成し、この りガンドとE2を競争させた後、このピオチン音BttLに特異的に結合する酵素を修飾したアピジンを添カロする ことでE2の定量を 行なう方法を開発している。さらに抗体に特異性の高いモノク口ーナル抗体、検出には 螢光基質を用いることで、高感度かつ高選択的なEIAの開発に成功している。本法を環境庁の定める外因性 内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアルに従った固相抽出法と組み合わせ、札t鼎i内を流れる河川及鹹胡沼 水中のE2の定量に 応用した。その結果、調査地 点から0.06 ‑ 67pMのE2が検出され、特に下水処理場から の排出水が流入す る河川において比較的高濃度のE2を検出している。この結果は、他の手法による報告や 海外での報告例と一致しており、天然の女性ホルモン物質からの汚染を示す貴重なデータとなっている。こ の 際 の 添 加 実 験 の 回 収 率 、 そ れ ぞ ゎ の 結 果 の 相 対 標 準 偏 差 お よ び 再 現 陸 も 良 好 なも ので あ る。
次に、水溶性のDNAをアルギン酸膜に閉じ込 め不溶化したDNAアルギン酸 複合体フィルムを電極上に作 製し、このフイルムに平面構造を有する電極離紺ぬ匸臭化エチジウム(EtBr)をインターカレートさせた時の電気 fビ淘拘応答を4llt ‑ることで、DNAとEtBrとの相互作用について検討している。EtBrのDNAへの集御寺の電 位fWJOIこよる集程滋における変化t蠹覘察されなかったカミ集積鰤フイ)レムの洗浄時に正電位をErJカロするこ とでDNAからEtBrを 容易 に排 出することができ 、DNA膜の結合サイトの再生 利用が可能であることを示 唆した。このこと はDNAからインターカレータ ーを有機溶媒等の溶離剤を用いずに排出できることを示し たものであり、インターカレーションの電気´ビ黼コント口ールの可能性を示唆することに成功している。
さらに、電極上に 紫外線照射によルフィルム化 したDNA膜を用いて、電極冶陸なEtBrとダイオキシンの骨 格構 造を有するジベ ンゾフランのBDを、DNAの結 合サイトに対して競争的に 反応させ、そのとき得られ るEヒBrの電極応答 の変化からDBFの集積を検出 することに成功している。また、この紫外線照射DNAフイ ルム電隠をエスト 口ゲン物質に応用し、強いエ スト口ゲン活性を示すE2と、合成女陸ホルモンのDESを用 いて検討を行い、DESにおいて明らかにDNAとの 相互作用に基づく電極応答 の変化を確認するとともに、
代表的なインター カレーターとグルーブバイン ダーを用いて、DESとDNAと の相互作用について電気化学 的 に 検 討 し 、DESとDNAと の 相 互作 用 はウ リレ ーブ 結 合の 寄与 が大 きい こ とを 明ら かに して い る。
以上の研究から、抗体ー抗原、アピジン―ピオチンといったタンバクーリガンド相互作用を利用すること で、天然のホルモ ン物質であるE2の高選択的か つ高感度な測定を可能とし、また、DNA―インターカレ一 夕ーあるいはウm′ーブンゃインダーの結合サイトとの強い相互作用を利用することで、DBFやDESといった 有害物質の検出を可能とした。このように生体分子の分子認識能およびその反応を利用することで、環境汚 染物質の選択的な検出の可能陸が示唆され、開発した手法は環境汚染物質のモニタリング法の1つとしての 利用が期待される。
審査委員一同は ,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であり,大学院博士課程 における研鑚や修得単位などもあわせ,申請者が博士(環境科学)の学位を受けるのに充分な資格を有する ものと判定した。