博 士 ( 農 学 ) 前 田 武 己
学 位 論 文 題 名
家畜糞の堆肥化におけるアンモニア揮散に関する研究 学位論文内容の要旨
我が国で排出される家畜糞尿の総量は約1億t ‑ /y‑lと推計され,その多く は固形物の状態で堆肥 化あ るい は乾 燥さ れる。現在の堆肥化方法は,材料に強制 的に通気を行う高速堆肥化法が主流であ る。 しか し, 材料 に通気を行うことは,糞尿に含まれる各 種の臭気物質を外部に揮散させる大きな 原因 とな る。 特に 揮散したアンモニアは,飲用水として使 用する地下水の硝酸塩濃度の増加,酸性 雨, 森林 枯死 など の原因物質となるため,環境汚染物質と して位置づけられている。本研究は,家 畜糞 の堆 肥化 にお けるアンモニア揮散の諸要因とその発生 量の解明,および揮散低減方法とその効 果 を 明 ら か に す る こ と を 目 的に 行っ た。 実 験は 容積 約1Lの密 閉型 小型 反応 槽を 用い て行 った 。 1.小容積 反応槽によるアンモニア揮散の要因の解析
乳牛糞と破砕籾殻をC/N比が31,38,46,53になるように混合し,送風量を固形物1kg当たり毎分0.2
〜 0.6L (L‑mH1.IgDM.1)に設定して5日間の堆肥化を行い,発生するアンモニア揮散 を調べた。
1) アン モニ ア揮 散 は試 料最 高温 度が55℃ 以上 に達 した 実験 区で 多く ,この範囲ではC/N比が低く 送風 量が 多い実験区ほど多 い。低C/N比の実験区ほどアンモニア揮散が多いのは, 堆肥化前の 全窒 素量 が多 く特 にア ンモ ニア 性窒 素が多いためであ る。また,C爪比や送風量の 違いにより 生 じ る 堆 肥 化 過 程 の 上 昇 温 度 の 違 い も ア ン モ ニ ア 揮 散 に 影 響 を 及 ぼ す 。 2)堆肥化後のpHが8.8〜9.0以上の実験区では,pHが高いほど揮散が多い。堆肥化によるpH上昇は,
有機酸の生成が抑制あるいは分解された結果と 推測される。
2.畜糞の違いがアンモ ニア揮散に及ぼす影響
豚糞 ,乳 牛糞 ,鶏 糞 をそ れそ れ単 独ま たは白樺材おが眉を 混合して7日間の堆肥化を行 い,畜糞 の違いがア ンモニア揮散に及ぼす影響を調べた。
1)アンモニア揮散量は,豚糞試料ではC/N比13.送風量1.OL.minI ̄.kgDM‑1のとき,乳牛糞試料と 鶏糞 試料 ではC/N比19・送風量0.6L‑ min‥.kgDM‑lのときに最も多い。これらの揮散量 は,堆肥 化前 全窒 素の それ そ れ32.4,8.8,39.90/0に相当する。畜 糞におが眉を混合することによりC/N 比を 高く して も,アンモニア揮 散率(堆肥化前の全窒素に占める割合)はさほど低くな らない。
揮散率は ,各畜糞ともに有機物分解率が大きい実験区ほど大きい 。
2) 畜糞 によ るア ンモ ニア 揮散 の違 いは ,堆 肥化前のアンモニア性窒素量と有機態窒素の 無機化難 易性 の影 響に よる も のと 考え られ る。 また アン モニ ア揮 散以 外の 窒素損失は極めてわ ずかであ る。
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3.畜糞の堆肥化における有機物分解と成分 ・性状の変化
各畜 糞を60℃ ,65℃ま たは70℃ の2つ の温 度下 で堆肥化し,有機物分解と成分・性状の変化等に ついて検討した。
1)7日間の有機物 分解率は,60℃では豚糞が26.4%,乳牛糞が20.7070,鶏糞IJS26.2u/oであり,65℃ま たは700C以上で はそれそれ15.4%,15.9%,20.4u/oであった。
2)い ず れの 畜糞 にお いて も, 有機 態窒 素は 有機 物分解とともに無機化されて減少する。豚糞と乳 牛糞 では ,有 機物 分解 率が 低い と きに 無機 化さ れる 窒素 量が 多く ,分 解が進むと無機化される 窒素 量が 少な くな る。 また ,650Cまた は70℃以 上に おけ る有 機態 窒素 残存率が60℃のそれより も 低 い 。 鶏 糞 の 有 機 態 窒 素 変 化 は, 有機 物分 解率 や堆 肥化 温度 と の関 係が 明ら かで はな い。
4.副資材(おが眉,麦稈)の堆肥 化における有機物分解と成分・性状の変化
畜 糞の 堆肥 化に 際して副資材 として使用されるおが眉,麦稈に,それそれ無機態窒素 源および栄 養塩 を添 加し て60℃と65℃ の2つ の温 度下 で堆 肥化を行い,堆肥化中の有機物分解率の 違いと窒素 の変化過程を検討した。
1)7日間の有機物分解率は,60℃ではおが眉が5.2%,麦稈が25.20'/0であり,65℃ではそれそれ4.2%, 18.9%であった。
2) おが 眉に 含 まれ る有 機態 窒素 は, 有機 物分 解の開始直後から無機態窒素の有機化に より急速に 増 加す る。 しか し,おが眉を 堆肥化するときに有機化される窒素量には限界値がある とみられ,
こ の 値 は 堆 肥 化 前 の お が 属 固 形 分1kg当 た り3340mg程 度(mg. kgDM")と 推 測 さ れ る 。 3) 麦稈 に含 ま れる 有機 態窒 素量 は有 機物 分解 率が約4%までは増減の変化がみられない が,分解率 が 約40/0よ り大 きく なる と増 加す る。 麦 稈を14日間堆肥 化したときの有機態窒素の増加量は,6 0℃では4690mg.kgDM‥,65℃では2650mg ‑kgDM・1であった。この結果から,アンモニア揮散低減 の ため には ,有 機化 され る窒 素量 が大 き い麦 稈の 方が おが 眉よ りも 副資材として適 している。
5.畜 糞の 堆肥 化に おけるアンモ ニア揮散低減
堆肥 化中 のア ンモ ニア揮散のシミュレーションモデルを作 成し,作成したモデルによルアンモニ ア 揮散 の低 減方 法お よび その 効果 を検 討し た 。
1)作 成し たモ デ ルに よる 計算 結果 は, 全て の畜糞で実測値 とおおむね適合した。特に乳牛糞では アン モニ ア揮 散が 量的 にも 精度 よく 再現 さ れた 。同 モデ ルに より ,試 料のアンモニア性窒素量 やpHがア ンモ ニア 揮散 に及 ぼす 影響 が, 畜 糞の 種類 や堆 肥化 開始 から の時間によって異なるこ とが 明ら かに なっ た。
2)排 気酸 素濃 度 が一 定に なる よう に送 風量 を制御すると, 堆肥化開始直後はアンモニア揮散量が 増加 する が約4日目 から は低 減効 果が 認め られ,その効果 は排気酸素濃度を低く設定するほど大 きく なる 。送 風量 制御 によ る揮 散低 減効 果 は乳 牛糞 が最 も大 きく ,次 に鶏糞であり,豚糞は最 も小 さい 。
3)試 料のpHが 一 定値 を越 えな いよ うに 制御 すると,堆肥化 開始直後からアンモニア揮散を低減で き, その 効果 はpH設定 値を 低く する ほど 大 きく なる 。pH制御 によ る揮 散低減効果は乳牛糞が最 も大 きく ,豚 糞と 鶏糞 は同 程度 であ る。
4) 送 風 量 制 御 ,pH制 御 に よ る 揮 散 低 減 効 果 は , 堆 肥 化 期 間 が 長 く な る と 小 さ く な る 。
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5)豚糞の堆肥化において副資材としておが眉,あるいは麦稈を使用すると,12日間の堆肥化にお ける糞中窒素の揮散低減率は,おが眉混合区では240/0,麦稈混合区では43010に達する。
6)副資材の混合は試料内部のアンモニア性窒素を減少させるため,アンモニア揮散低減に効果的 である。しかし,揮散をなくすことはできない。また,材料に強制的に通気を行い有機物の分 解を促進する高速堆肥化法は,アンモニア揮散の低減とは基本的には両立しにくいと結論づけ られる。したがって,揮散アンモニアの大気中への放出を完全に防ぐためには,密閉型の施設 と排気中のアンモニアを除去する装置の併設が不可欠となる。
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学位論文審査の要旨 主 査 教授 松田從三 副 査 教授 伊藤和彦 副査 教授 大久保正彦 副 査 教授 寺澤 實
学 位 論 文 題 名
家畜糞の堆肥化におけるアンモニア揮散に関する研究
本 論 文 は , 図38, 表27, 写 真2を 含 む 総 頁 数113の 和 文 論 文 で あ り , 他 に 参 考 論 文 3編 が 添 えら れ て いる 。
我 が 国で 排 出 され る 家 畜糞 尿 の 総量 は 約1億t.y.1と 推 計さ れ , その 多 くは堆 肥化さ れる 。 現 在の 堆 肥 化施 設 で の堆 肥 化 方法 は , 材 料に 強 制 的に 通 気 を行 う 高 速堆肥化 法が 主流 で あ る。 し か し, 材 料 への 通 気 は臭 気 物 質 を外 部 に 揮散 さ せ る大 き な 原因とな り,
特に 地 下 水の 硝 酸 塩濃 度 の 増加 , 酸 性雨 , 森 林 枯死 な ど の原 因 と なる ア ン モニアの 発生 が多 い 。 本研 究 は ,こ れ ま で詳 細 な 検討 が な さ れて い な かっ た 家 畜糞 の 堆 肥化にお ける アン モ ニ ア揮 散 の 諸要 因 と 発生 量 , およ び 低 減 方法 と そ の効 果 を 明ら か に するため に行 われ た 。 成果 の 概 要は 以 下 の通 り で ある 。
(1)小容積 反応槽 によるア ンモニ ア揮散の 要因の解 析
容 積 約1Lの 密 開 型 小 型 反 応槽 を 備 えた 装 置 を制 作 し ,乳 牛 糞 と破 砕 籾 殻を4段 階 の混 合比で 混ぜ合わ せ,送 風量を固 形物lkg当たり 毎分O.2〜0.6Lに設定して堆肥化を行った。
ア ン モ ニ ア 揮 散 は 試 料温 度 が55℃ 以 上 に達 し た 実験 区 で 多く , こ の範 囲 で はC/N比 が低 く 送風 量 が 多い 実 験 区ほ ど 多 かっ た 。 揮散 の 多 い 実験 区 は 、堆 肥 化 後試 料 の アンモ ニア 性窒素 が多く,pHも8.8〜9.O以上 と高かっ た。送 風量の違 いによって上昇温度も変化し,
これも 影響を及 ぽすこ とが判明 した。
(2)畜糞 の 違 いが ア ン モニ ア 揮 散に 及 ぼ す影 響
豚 糞, 乳 牛 糞, 鶏 糞 をそ れ そ れ単 独 ま たは 白 樺 材 おが 屑 と 混合 し て 堆肥 化 を 行っ た。
7日 間 のア ン モ ニア 揮 散 の最 大 量 は, 豚 糞 試料 で は 堆 肥化 前 全 窒素 の32.4% ,乳 牛糞 試 料 で は 同8.8%, 鶏 糞 試料 で は39.9%に 相 当 し た。 揮 散 は,各畜 糞とも に有機物 分解率が 大 き い 実験 区 ほ ど大 き い 。畜 糞 に よる 揮 散 量の 違 い は ,堆 肥 化 前試 料 の アン モ ニ ア性窒 素 含 量 と有 機 態 窒素 の 無 機化 難 易 性に よ る もの で あ る 。
て3)畜糞の堆肥化における有機物分解と成分・性状の変化
各 畜 糞 を60℃ ,65℃ ま た は70℃ の2つ の 温 度 下 で 堆 肥 化 し , 有 機 物 分 解 と 成 分 ・ 性 状 の 変 化に つ い て 検討 し た 。7日 間 の有 機 物 分解 率 は ,60℃ では豚 糞jjs26.4% ,乳牛糞 が 20.7%,鶏糞/jS26.2%であり,65゜Cまたは70℃以上ではそれそれ15.4%,15.9%,20.4%で あ っ た。 い ず れ の畜 糞 も ,有 機 態 窒素 は 有 機物 分 解 とと も に 無機 化 さ れ て減 少 した。 豚 糞 と 乳牛 糞 で は ,有 機 物 分解 率 が 低い と き に無 機 化 され る 窒 素量 が 多 く ,分 解 が進む と 無 機 化さ れ る 窒 素量 が 少 なく な る 。ま た ,65℃ ま たは700C以 上 に おけ る 有 機態 窒素 残存 率 は600Cの それ よ り も低 い 。 鶏糞 の 有 機態 窒 素 変化 は , 有機 物 分 解 率や 堆 肥 化温 度との 関 係 が 明 ら か で は な い 。 堆 肥 化 中 の 有 機 態 窒 素 とpHの変 化 は 有機 物 分 解率 の 関 数と し て定式化できた。
(4)副 資 材 ( お が 屑 , 麦 稈 ) の 堆 肥 化 に お け る 有 機 物 分 解 と 成 分 ・ 性 状 の 変 化 畜 糞 の 堆肥 化 に 際し て 副 資材 と し て使 用 さ れる お が 眉, 麦 稈 に ,無 機態 窒素源と 栄養 塩を 添 加 し て60℃ と65℃ の2つ の 温度 下 で 堆肥 化 を 行っ た 。7日間 の 有 機物分解 率は,60
℃では おが屑が5.2% ,麦稈が25.2%であ り,65℃で はそれ それ4.2%,18,9%であった。
おが 属 に 含 まれ る 有 機態 窒 素 は有 機 物 分解 の 開 始直 後 か ら急 速 に 増 加す るが,有 機化さ れ る 窒 素 量 は 堆肥 化 前 のお が 属 固 形分lkg当 た り3340mg程 度(mg.kgDM‑1)が 上 限と み ら れ る 。 一 方 , 麦稈 に 含 まれ る 有 機 態窒 素 量 は有 機 物 分解 率 が 約4% ま では 増 減 の変 化 が み ら れ ず , 分 解率 が 約4% よ り 大 きく な る と増 加 す る。 麦 稈 を14目 間堆 肥 化 した と き の 有機 態 窒 素 の増 加 量 は,60℃で は4690mg.kgDM‥,65℃で は2650mg.kgDM.1で あった。
(5)畜 糞 の 堆 肥化 に お ける ア ン モニ ア 揮 散低 減
堆肥 化 中 の アン モ ニ ア揮 散 の 数値 計 算 モデ ル を 構築 し , 同モ デ ル に より 揮散 低減方法 お よ ぴそ の 効 果 を検 討 し た。 作 成 した モ デ ルに よ る 計算 結 果 は全 て の 畜 糞で 実測値と 適 合 し ,揮 散 量 の 変化 が 精 度よ く 再 現で き た 。同 モ デ ルに よ り ,揮 散 低 減 方法 の効果を 評 価 す るこ と が 可 能と な っ た。
排気 酸 素 濃 度を 一 定 に保 っ よ うに 送 風 量を 制 御 する と 揮 散低 減 効 果 が認 めら れ,その 効 果 は 排 気 酸 素 濃 度 を 低 く 設 定 す る ほ ど 大 き い。 ま た ,試 料 のpHが あ る一 定 値 を越 え 詮 い よ う に 制 御 す る 方 法 も 揮 散 低 減 効 果 が 認 めら れ , その 効 果 はpH設 定値 を 低 くす る ほ ど 大 き い 。 し か し , 送 風 量 制 御 ,pH制 御 によ る 揮 散低 減 効 果は , 堆 肥化 期 間 が長 く な る と少 な く な る。 こ れ に対 し 副 資材 の 混 合は ア ン モニ ア 揮 散低 減 に 効 果的 である。 こ の 効 果は 畜 糞 や 副資 材 の 組み 合 わ せや 混 合 比に よ り 異な る が ,豚 糞 の 堆 肥化 において12 日 間 の糞 中 窒 素 の揮 散 低 減率 は , おが く ず 混合 区 で は24% ,麦 稈 混 合 区で は43% であっ た 。 しか し , 副 資材 混 合 だけ で は 揮散 を 全 くな く す こと は で きな い 。 し たが って,揮 散 ア ン モニ ア の 大 気中 へ の 放出 を 完 全に 防 ぐ ため に は ,揮 散 を 低減 す る と とも に密閉型 施 設 と 揮散 ア ン モ ニア の 回 収装 置 が 必要 と な る。
以 上 のよ う に 本研 究 は , 家畜 糞 の 堆肥 化 に おけ る ア ンモ ニ ア 揮散 に つい て,諸要 因等