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家庭科の家族・家庭生活領域の学習とSDGs シリーズ 家庭科教育とSDGs 2

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Academic year: 2021

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33 日本家庭科教育学会誌 第 63 巻 第 1 号 (2020. 5) 1.はじめに SDGs( 持 続 可 能 な 開 発 目 標 Sustainable Development Goals)の概要とSDGsと家庭科教育の 関連については,シリーズ第1回(井元 2020)で説 明されているので,第2回の今回は,家族・家庭生活 領域の学習とSDGsとの関連を検討する。 家族・家庭生活の学習とSDGsの関係を確認するた めに,まず,国連が示した5つのPを紹介したい(国 際連合広報局 2016)。ロゴの表現で示すと表1のと おりである。まず,人間(People)のPで,目標1,2, 3,4,5および6が括られる。あらゆる形態と次元の 貧困と飢餓に終止符を打つとともに,すべての人間が 尊厳を持ち,平等に,かつ健全な環境の下でその潜在 能力を発揮できるようにする目標である。次に,豊か さ・繁栄(Prosperity)のPで,目標は7,8,9,10 および11である。すべての人間が豊かで充実した生活 を送れるようにするとともに,自然と調和した経済, 社会および技術の進展を確保する目標である。そして, 地球(Planet)のPで,目標は12,13,14および15で ある。持続可能な消費と生産,天然資源の持続可能な 管理,気候変動への緊急な対応などを通じ,地球を劣 化から守ることにより,現在と将来の世代のニーズを 充足できるようにする目標である。さらに,平和 (Peace)のPで目標は16である。恐怖と暴力のない 平和で公正かつ包摂的な社会を育てる。平和なくして 持続可能な開発は達成できず,持続可能な開発なくし て平和は実現しないためとしている。最後にパートナ ーシップ(Partnership)のPで,目標17である。17 の目標は相互に関連しているが,特に本稿と関連の深 い目標は,5つのPのうち,人間(People),豊かさ・

家庭科の家族・家庭生活領域の学習とSDGs

和洋女子大学 

久 保 桂 子

家庭科教育とSDGs 2

連載2

繁栄(Prosperity),平和(Peace)の目標である。 2.SDGs との関連で検討する内容 学習指導要領のA領域から,SDGsとの関連で,授 業で特に扱いたい内容を確認すると,家庭生活を支え る仕事,互いに協力し分担(小学校),家族や地域の人々 と協力・協働(中学校),男女の平等と協力,男女共 同参画社会の推進,固定的な性別役割分業意識の見直 し,ワーク・ライフ・バランス,さらに様々な生き方 への理解(高等学校)などがあげられる。 (1)男女の平等 まず,男女の平等の扱いについて検討する。この内 容は,SDGsの目標 5「ジェンダーの平等を達成し, すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」と関 連する。特に,ターゲット5.1の「あらゆる場所にお 表1 5つのPとSDGsのロゴの表現 ●人間(People) 目標 1 貧困をなくそう 目標 2 飢餓をゼロに 目標 3 すべての人に健康と福祉を 目標 4 質の高い教育をみんなに 目標 5 ジェンダー平等を実現しよう 目標 6 安全な水とトイレを世界中に ●豊かさ・繁栄(Prosperity) 目標 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに 目標 8 働きがいも経済成長も 目標 9 産業と技術革新の基盤を作ろう 目標10 人や国の不平等をなくそう 目標11 住み続けられるまちづくりを ●地球 (Planet) 目標12 つくる責任 つかう責任 目標13 気候変動に具体的な対策を 目標14 海の豊かさを守ろう 目標15 陸の豊かさも守ろう ●平和 (Peace) 目標16 平和と公正をすべての人に ●パートナーシップ(Partnership) 目標17 パートナーシップで目標を達成しよう

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34 日本家庭科教育学会誌 第 63 巻 第 1 号 (2020. 5) けるすべての女性及び女児に対するあらゆる形態の差 別を撤廃する。」の内容の扱いとなる。さらに,目標 10の「各国内及び各国間の不平等を是正する。」も関 連する。特にターゲット10.3の「差別的な法律,政策 及び慣行の撤廃,並びに適切な関連法規,政策,行動 の促進などを通じて,機会均等を確保し,成果の不平 等を是正する。」は,女性差別の問題だけでなく,親 としての権利の問題とも関係が深い。本稿では,「夫 婦の氏」と「離婚時の親権」について検討したい。 1)「夫婦の氏」の問題 現行民法第750条では,「夫婦は,婚姻の際に定める ところに従い,夫又は妻の氏を称する。」と,夫婦同 姓を規定している。一方,1996年の法制審議会民法部 会(1996)の民法改正案では,「夫若しくは妻の氏を 称し,又は各自の婚姻前の氏を称する。」と,夫婦同 姓でも別姓でもどちらも選べる選択的夫婦別姓制度を 提案した。しかし,いまだにこの改正案は実現してい ない。さらに,2015年の最高裁判所大法廷(最高裁判 所 2015)での夫婦の氏を巡る裁判では,夫婦同姓の 規定は「その文言上性別に基づく法的な差別的取扱い を定めているわけではな」いと,違憲でないという判 断を示している。 この判断をどう見るか。授業で扱ってほしいところ である。SDGsの目標やターゲット,指標には具体的 な記述はないが,国連の人権に関する意見を確認すれ ば,結果の不平等を生じさせる法規定である。国連の 女子差別撤廃委員会は,「実際には多くの場合,女性 に夫の姓を選択せざるを得なくしている」とし,日本 に対し「女性が婚姻前の姓を保持できるよう夫婦の氏 の選択に関する法規定を改正すること」を求めている (内閣府男女共同参画局 2016)。「婚姻に関する統計」 (厚生労働省 2017)からも,法律が不平等を生じさ せていることは明らかであり,初婚同士の夫婦の場合 妻の氏を名乗る夫婦は2.9%にすぎず,97%の女性が 氏を変更している。日本では,結婚したら夫婦同姓が 当たり前という意識が根強いが,表2のとおり,国会 における答弁によれば,世界的に見ると夫婦同姓を法 律が強制しているのは日本の他に見当たらない。 2)離婚時の親権者の決定 民法第818条では,「親権は,父母の婚姻中は,父母 が共同して行う。」としている。しかし,離婚した場 合は,第819条で父母の一方を親権者と定めることが 規定され,どちらか一方が親権を失う。夫と妻の「全 児の親権を行う場合」の割合が,1966年にはじめて妻 の場合が47.2%と,夫の場合の43.6%を上回り,その 後も「妻が全児の親権を行う場合」の割合の増加が続 き,2017年 に は84.6 % に 上 っ て い る( 厚 生 労 働 省  2018)。 夫婦関係は解消されても親子関係は解消されない。 それにも関わらず,離別後の父親に親としての権利が 保障されないのは,法的には不平等である。また,国 際的には離婚後も父母の共同親権が継続する傾向にあ り,国連の子どもの権利委員会も,日本に対し,児童 の最善の利益である場合に,外国籍の親も含めて児童 の共同養育を認めるために,共同親権の措置をとるよ うに勧告を行っている(外務省 2019)。子どもの権 利の視点からも問題視されている。 (2)男女,家族の協力・分担 次に男女や家族の協力・分担の扱いについて検討す る。SDGsの目標5のターゲット5.4は,「公共のサー ビス,インフラ及び社会保障政策の提供,ならびに各 国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通 じて,無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価す る。」という内容であり,指標としては,「5.4.1 無 償の家事・ケア労働に費やす時間の割合(性別,年齢, 場所別)」をあげている。さらに,目標8は「包摂的 かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ 生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディ ーセント・ワーク)を促進する。」とし,ターゲット 表2 第189回国会(参議院)の選択的夫婦別姓 に関する質問と答弁の一部 質問第三二一号 平成二十七年九月二十五日 糸数 慶子 「選択的夫婦別姓に関する質問主意書」 五 二〇一五年現在,日本のように婚姻した際,法 律で夫婦の姓を同姓とするように義務付けている国 があれば示されたい。 答弁書第三二一号 平成二十七年十月六日 内閣総 理大臣 安倍 晋三 五 現在把握している限りにおいては,お尋ねの「法 律で夫婦の姓を同姓とするように義務付けている 国」は,我が国のほかには承知していない。 出所)参議院(2015)より

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35 日本家庭科教育学会誌 第 63 巻 第 1 号 (2020. 5) 8.5では,「2030年までに,若者や障害者を含む全ての 男性及び女性の,完全かつ生産的な雇用及び働きがい のある人間らしい仕事,並びに同一労働同一賃金を達 成する。」としている。 ターゲット5.4では,世帯・家族内における責任分 担を通じて家事労働を評価するとしているが,もう一 歩踏み込んで,男性の家事・育児参加を推し進めるこ とが必要である。なぜなら,目標8の女性の労働参加 のためには,男性も家族的責任を担うことが重要な条 件だからである。家事は女性,特に妻がするものとい う思い込みがいまだ根強いが,家事の担い手について の様々な選択肢を取り上げると,問題が浮かび上がる。 家族外の人間すなわち家事使用人に家事を任せるのか, それとも家族の中で家事を行うのか。家族の中で行う としたら,世代間分業で親世代が担うのか,性別役割 分業で妻が担うのか,それとも夫婦の分担かなどの選 択肢を設定する。 例えば,山田(2010)は,香港・シンガポールなど では移住労働者を月3万円ほどの給料で家事使用人と して雇い,それによって共働き夫婦のワーク・ライフ・ バランスが実現できていることを紹介した。このよう な家事使用人の雇用はどうだろうか。SDGs目標8, 目標10からみると問題である。ターゲット8.8では,「移 住労働者,特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態 にある労働者など,全ての労働者の権利を保護し,安 全・安心な労働環境を促進する。」としている。すで にILOの2011年の家事労働者条約(第18号)(ILO駐日 事務所 2011)では,家事労働者の労働条件の改善を 目指して国際基準を設けている。安全で健康的な作業 環境の権利,一般の労働者と等しい労働時間,最低で も連続24時間の週休,現物払いの制限などの就労に係 わる基本的な権利などを規定している。さらに,児童 家事労働者の義務教育を受ける権利なども規定してい る。 日本の場合,2019年10月からの最低賃金は,東京都 では時給1,013円であり,1日8時間月20日の拘束な らば最低でも16万円余りは支払うことになる。住込み ならば拘束時間はさらに長くなり,日本では住み込み の家事使用人が家事・育児を担当するという形態も, 通いの家事代行者がサービスを提供する形態も,勤労 者世帯が長期にわたり利用する可能性は低いと考えら れる。 では,家族の中で家事を行うとしたら,世代間分業 で親世代が担うのか,性別役割分業で妻が担うのか, それとも夫婦の分担か。世代間の分業は,高齢世代の 健康,居住関係,人間関係と関わり,個人差が大きく 育児と介護とのダブルケアにもなりかねない。また。 SDGsの目標5と8から考えれば,性別役割分業で妻 だけが担うのではなく,男女がともに担う社会であろ う。 男女共同参画の意識を家庭科の授業でどのように高 められるか。中学校家庭科で男女共同参画社会を題材 にした萬崎の実践(萬崎他 2015)では,生徒がロー ルプレイングで役割を演じることで,日常生活では当 たり前のこととして意識していなかった生徒自身の固 定的な性別役割分業観が顕在化し,教師の問いかけに, 自らの固定観念に揺さぶりをかけられている。例えば, 演じてみて,父は働く人,母は家事をする人という勝 手な解釈があったが,それによって女性の人材を無駄 にしている,女性だけに家事を押しつけることが女性 の可能性を奪っていると気づいたという感想を述べて いる。そうした気づきの積み重ねが,男女,家族の協 力の意識を醸成すると考えられる。 なお,目標6,7の水と衛生,エネルギーへのアク セスなどは,途上国においては家事労働と関わる問題 である。水くみの負担や料理の燃料による室内の空気 汚染の問題など,家事労働の負担の軽減は重要な課題 であり,家事・育児をどこまで社会化していくのかも 取り上げたい問題である。 (3)様々な生き方への理解 様々な生き方への理解として,同性愛者や両性愛者, ト ラ ン ス・ ジ ェ ン ダ ー(LGBT=lesbian, gay, bisexual and transgender)などの性的少数者に関し ての扱いである。LGBTについてSDGsには具体的な 記述はみられない。しかし,前述の目標5のジェンダ ー平等や目標10,さらにターゲット10.3では,差別的 な法律,政策及び慣行の撤廃などを通じて,機会均等 を確保し,成果の不平等を是正することが述べられて いる。さらに目標16のターゲット16.bでは,非差別 的な法規および政策の推進,実施が述べられている。 すでに国連(2011)では,人権理事会が,2011年6 月に性的指向と性同一性に関するものとしては初の国 連決議を採択し,個人の性的指向や性同一性を理由と する暴力や差別に対する「由々しき懸念」を表明し,

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36 日本家庭科教育学会誌 第 63 巻 第 1 号 (2020. 5) 同性愛者や性同一性障害者を標的とする暴力から個人 を守ることを法的義務としている。この考えを共有す ることが求められる。 3.まとめ 本稿では,個人間,国家間の不平等を是正すること や,人権を擁護する目標であるSDGsの5,10の目標 を主に取り上げた。我々自身が自らの権利を自覚する とともに,自分の生活が,他の人や他の国の人々の貧 困や抑圧された状態の上に成り立っていないかなど, グローバルな視点で人々の人権に思いを巡らすことが 求められている。本稿で取り上げた課題は,それ独自 で取り組む課題であるとともに,地球規模において, 貧困や飢餓の撲滅,持続可能な消費と生産,生態系の 保護,平和など,生活の基盤となるSDGsの他の目標 と同時に取り組む課題である。生活を総合的に学ぶ家 庭科はSDGsの学習に最もふさわしい教科であり,教 育界全体を牽引する役割を担う必要があろう。 文献 外務省.(2019).「日本の第4回・第5回政府報告に関する 総 括 所 見( 国 際 連 合 )」https://www.mofa.go.jp/mofaj/ files/000464155.pdf 法制審議会民法部会.(1996).民法の一部を改正する法律 案要綱案.ジュリスト,1084,126-127. ILO駐日事務所.(2011).2011年家事労働者の適切な仕事 に関する条約. https://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-conventions/ WCMS_239179/lang--ja/index.htm 井元りえ.(2020).SDGsとは?家庭科教育とSDGsとの関 連とは?.日本家庭科教育学会誌,62(4)276-281. 国際連合.(2011).人権理事会によって採択された決議 *17/19人権,性的指向およびジェンダー同一性. https://www.unic.or.jp/files/a_hrc_res_17_19.pdf 国際連合広報センター.(2016).我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための2030アジェンダ.https://www. unic.or.jp/activities/economic_social_development/ sustainable_development/2030agenda/ 厚生労働省.(2017).平成28年度 人口動態統計特殊報告 「婚姻に関する統計」の概況.http://www.mhlw.go.jp/ toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/konin16/dl/01.pdf 厚生労働省.(2018).人口動態統計(2017年,上巻10−10親 権を行わなければならない子をもつ夫妻別にみた年次別 離 婚 件 数 及 び 百 分 率.https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files 萬崎保子・久保桂子・中山節子.(2015).中学校家庭科に おけるロールプレイングの活動を取り入れた家族学習. 千葉大学教育学部研究紀要.64,9−17. 内閣府男女共同参画局.(2016).第7回及び第8回報告報 告に対する女子差別撤廃委員会最終見解(女子差別撤廃 委 員 会 )(2016年 3 月 7 日 ).http://www.gender.go.jp/ international/int_kaigi/int_teppai/pdf/CO7-8_j.pdf 最高裁判所.(2015).最高裁判例,事件番号平成25(オ)1079  損害賠償請求事件.民集.69(8)http://www.courts.go.jp/ app/hanrei_jp/detail2?id=85546 参 議 院.(2015).選 択 的 夫 婦 別 姓 に 関 す る 質 問 主 意 書 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/ syuisyo/189/meisai/m189321.htm 山田昌弘.(2010).「格差社会を生きる若者のWLB視点(内 閣府仕事と生活の調和推進室配信)http://wwwa.cao. go.jp/wlb/e-mailmagazine/backnumber/015/index. html#h01

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