歪多項式環と種々の環拡大
山中 聡
2015 年 3 月
岡山大学
大学院自然科学研究科(博士課程)
序 文
本論文では分離拡大,平田分離拡大,G-ガロア拡大,弱分離拡大,弱擬似分離拡大等 の種々の環拡大について考察する. その上で主として歪多項式環のモニックな多項 式によって生成されるイデアルによる剰余環として現れる環拡大を取り扱う. 歪多 項式環における分離多項式や平田分離多項式,ガロア多項式等の研究は岸本量夫,永 原賢,宮下庸一,池畑秀一, G. Szetoらにより幅広く研究されてきた. とりわけ岸本は 特殊な形の多項式について研究し, 永原は2次の多歪項式について徹底に考察した. また宮下により一般次数の歪多項式の研究の礎となる手法が確立され, これをもと
に池畑やSzetoらは歪多項式環における分離多項式,平田分離多項式,ガロア多項式
等の更なる研究を行ってきた.
本論文は四章からなる. まず第一章では宮下庸一により与えられた歪多項式環に おける分離多項式と平田分離多項式に関する必要十分条件(宮下の定理)の別証明を 与える. すでに筆者と池畑秀一により自己同型型および微分型それぞれの歪多項式 環において宮下の定理の別証明を与えているが, ここでは一般の歪多項式環におけ る別証明を与える. その証明は直接的な計算のみを用いて示される点が特徴である.
第二章では係数環が素数標数pの場合の微分型歪多項式環におけるp次のガロア 多項式について考察する. 多項式Xp−Xa−b かつa̸= 1について,それがガロア多 項式であるか否かを判断するのは難しい. これに関して永原賢はp = 2の場合に上 記の多項式がガロア多項式になるための必要十分条件を与えた. 本章では永原の結 果を素数次数pの場合に拡張する.
第三章では弱分離多項式および弱擬似分離多項式について考察する. 最近,浜口 直樹と中島惇により分離拡大および擬似分離拡大の一般化として弱分離拡大および 弱擬似分離拡大が導入された. 浜口と中島は可換環上の特別な形のモニック多項式 f(X)について,その弱分離性を導関数f′(X)および判別式δ(f(X))の非零因子性に より特徴づけたが,本章第二節ではこれを一般のモニック多項式f(X)に場合に拡張 する. また浜口と中島は係数環が整域の場合の歪多項式環における弱分離多項式お よび弱擬似分離多項式を考察したが, 本章第三節では彼らが得た結果を係数環が非 可換環の場合の歪多項式環へと拡張する. さらに歪多項式環における分離性と弱分 離性の差異を示す定理を与える.
第四章では環拡大の森田同値について考察する. 環拡大の森田同値は宮下庸一に より定義された概念であり, 現在までに宮下によりG-ガロア拡大およびフロベニウ ス拡大について, また池畑秀一により分離拡大,平田分離拡大, symmetric拡大, QF- 拡大について,これらの環拡大のクラスが森田不変であることが示されている. 本章 ではこの他にtrivial拡大, liberal拡大, depth two拡大,強分離拡大,弱分離拡大等に ついて,これらのクラスは森田不変であることを示す. また最後に森田不変でない環 拡大のクラスの例をあげる.
目 次
1 歪多項式環における宮下の定理 4
1.1 序と準備 . . . . 4
1.2 宮下の定理の別証明 . . . . 9
2 微分型歪多項式環におけるガロア多項式 15 2.1 序と準備 . . . . 15
2.2 p次のガロア多項式 . . . . 17
2.3 自己同型群 . . . . 19
3 弱分離多項式と弱擬似分離多項式 22 3.1 序と準備 . . . . 22
3.2 可換環上の弱分離多項式 . . . . 24
3.3 歪多項式環における弱分離多項式と弱疑似分離多項式 . . . . 26
3.3.1 自己同型型B[X;ρ]の場合 . . . . 27
3.3.2 微分型B[X;D]の場合 . . . . 31
4 環拡大の森田同値 36 4.1 序と準備 . . . . 36
4.2 環拡大の森田同値 . . . . 38
4.3 森田不変な環拡大のクラス . . . . 43
1 歪多項式環における宮下の定理
[26]において宮下庸一は歪多項式環における分離多項式と平田分離多項式に関す る必要十分条件(宮下の定理)を与えた. また[43]において,筆者と池畑秀一は自己同 型型と微分型の歪多項式環それぞれにおいて宮下の定理の別証明を与えた. 本章で は諸条件のもとで,一般の歪多項式環における宮下の定理に対する別証明を与える.
1.1 序と準備
本論文全体を通してすべての環は単位元をもち,その部分環も同じ単位元をもつと する. また環拡大をA/Bのように表す.
B を環, ρをB の自己同型, Dをρ-微分(すなわち, DはB からB への加法的 な写像で, 任意のα, β ∈ B についてD(αβ) = D(α)ρ(β) +αD(β)をみたす)とす る. B[X;ρ, D]をその乗法がαX = Xρ(α) +D(α) (α ∈ B)によって定まる歪多項 式環とする. B[X;ρ] = B[X;ρ,0]を自己同型型(automorphism type), B[X;D] = B[X; 1, D]を微分型(derivation type)という. またB[X;ρ, D](0)をB[X;ρ, D]にお けるモニックな多項式fでf B[X;ρ, D] =B[X;ρ, D]fをみたすもの全体とする. 任 意のf ∈ B[X;ρ, D](0)に対し, 剰余環B[X;ρ, D]/f B[X;ρ, D]はBのfreeな拡大環 となる.
本章および第二章,第三章において以下の記号を用いる:
Z = Bの中心.
U(Z) = Zにおける可逆元全体.
Bρ={α∈B|ρ(α) = α}. BD ={α∈B|D(α) = 0}. Bρ,D =Bρ∩BD.
ZD =Z ∩BD.
D(B) ={D(α)|α ∈B}.
可換環上の通常の多項式環とは異なり,歪多項式環B[X;ρ, D]におけるモニックな 多項式f が常にf B[X;ρ, D] = B[X;ρ, D]f をみたすとは限らない. これに関して, 以下の補題1.1.1から補題1.1.5が成り立つ. これらは直接的な計算により容易に示 される.
補題 1.1.1. ([9, Lemma 1.1]) f =Xm+Xm−1am−1+· · ·+Xa1+a0 ∈B[X;ρ, D]
について, f ∈B[X;ρ, D](0)であるための必要十分条件はαf = f ρm(α) (α∈ B)か つXf =f(X−ρ(am−1) +am−1)となることである.
証明. f ∈ B[X;ρ, D](0) とする.任意のα ∈ B について, 適当なb ∈ B により αf = f bと表されるが, αf = Xmρm(α) +· · · およびf b = Xmb +· · · より最高 次の係数を比較知してb = ρm(α)を得る. またXf = f(X −c)であるが, Xf = Xm+1+Xmam−1+· · · およびf(X−c) =Xm+Xm(ρ(am−1)−c) +· · · よりXmの 係数を比較してc=ρ(am−1)−am−1を得る. 逆は明らかである.
補題 1.1.2. ([9, Lemma 1.2]) ρD = Dρを仮定する. このとき, f = Xm + Xm−1am−1+· · ·+Xa1+a0 ∈B[X;ρ, D]について, Bf =f Bであるための必要十 分条件は次が成り立つことである:
aiρm(α) =
∑m j=i
(j i
)
ρiDj−i(α)aj (α∈B, 0≦i≦m−1, am = 1). (1.1)
証明. Bf = f Bとする. このとき,補題1.1.1より任意のα ∈ B についてαf = f ρm(α)となる. また帰納的な計算により,
αXj =
∑j i=0
(j i
)
XiρiDj−i(α) (α ∈B, j ≧0) を得る.よって
αf =
∑m j=0
∑j i=0
(j i
)
XiρiDj−i(α)aj =
∑m i=0
Xi
∑m j=i
(j i
)
ρiDj−i(α)aj, f ρm(α) =
∑m i=0
Xiaiρm(α)
より,式(1.1)とBf =f Bが同値であることがわかる.
補題 1.1.3. ([9, Lemma 1.3]) f =Xm+Xm−1am−1+· · ·+Xa1+a0 ∈ B[X;ρ]
について, f ∈B[X;ρ](0)であるための必要十分条件は次が成り立つことである: (1) αai =aiρm−i(α) (α ∈B, 0≦i≦m−1).
(2) ρ(ai)−ai =ai+1(ρ(am−1)−am−1) (0≦i≦m−2).
(3) a0(ρ(am−1)−am−1) = 0.
証明. 補題1.1.1より, f ∈ B[X;ρ](0)であるための必要十分条件はαf = f ρm(α) α ∈ B およびXf = f(X − ρ(am−1) + am−1)が成り立つことである. このとき 両辺の係数を比較することにより, αf = f ρm(α)と(1)が同値であり, またXf = f(X−ρ(am−1) +am−1)と(2), (3)が同値であることが示される.
補題 1.1.4. ([9, Lemma 1.6]) f =Xm+Xm−1am−1 +· · ·+Xa1 +a0 ∈B[X;D]
について, f ∈B[X;D](0)であるための必要十分条件は次が成り立つことである: (1) aiα=
∑m j=i
(j i
)
Dj−i(α)aj (α∈B, 0≦i≦m−1, am= 1).
(2) ai ∈BD (0≦i≦m−1).
証明. 補題1.1.1より,f ∈B[X;ρ](0)であるための必要十分条件はαf =f α (α∈ B)およびXf = f Xが成り立つことである. このとき, 補題1.1.2よりαf =f αと (1)は同値である. また両辺の係数を比較することでXf =f Xと(2)が同値である ことが示される.
補題 1.1.5. ([9, Corollary 1.7]) Bの標数を素数pとする. このとき, B[X;D]に おけるp-多項式f =Xpe+Xpe−1be+· · ·+Xpb2+Xb1+b0 について, f ∈B[X;D](0) であるための必要十分条件は次が成り立つことである:
(1)
∑e i=0
Dpi(α)bi+1 =b0α−αb0 (α∈B, be+1 = 1),かつ bi+1 ∈Z (0≦i≦e−1).
(2) bi ∈BD (0≦i≦e).
証明. 補題1.1.4より直ちに導かれる.
環拡大A/Bが分離拡大(separable extension)であるとは,A⊗BAからAへのA-A- 準同型a⊗b 7−→abが分解(split)することである. またA/Bが平田分離拡大(Hirata separable extension)であるとは, A⊗BAがAの有限個の直和の直和因子にA-A-同 型であることである. 平田分離拡大は東屋多元環の概念の一般化として平田和彦に より導入され,平田や菅野孝三らにより研究された. 良く知られているように平田分 離拡大は分離拡大である. ここで環拡大A/Bについて,
(A⊗BA)A ={µ∈A⊗BA|µx=xµ(x∈A)}, VA(B) ={x∈A|αx=xα (α∈B)}
と定める.この記号は本論文を通して利用する. 分離拡大と平田分離拡大について, 次の補題は定義から直接導かれる.
補題 1.1.6. ([6, Definition 2]) 環拡大A/BについてA/Bが分離拡大であるため の必要十分条件は適当な∑
ixi⊗yi ∈ (A⊗BA)Aが存在して∑
ixiyi = 1が成り立 つことである.
補題 1.1.7. ([37, Proposition 1]) A/B は平田分離拡大であるための必要十分条 件は適当なvi ∈VA(B)と∑
jxij⊗yij ∈(A⊗BA)Aが存在して次が成り立つことで ある:
1⊗1 = ∑
i,j
vixij ⊗yij =∑
i,j
xij ⊗yijvi.
f ∈ B[X;ρ, D](0)について, fがB[X;ρ, D]における分離多項式(resp. 平田分離 多項式)であるとは剰余環B[X;ρ, D]/f B[X;ρ, D]がB上分離拡大(resp. 平田分離 拡大)であるときにいう. 歪多項式環における分離多項式および平田分離多項式は岸 本量夫,永原賢,宮下庸一,池畑秀一, G. Szetoらにより幅広く研究されてきた(文献 表参照).
以降,本章を通してf = Xm+Xm−1am−1+· · ·+Xa1+a0 ∈ B[X;ρ, D](0), A = B[X;ρ, D]/f B[X;ρ, D], x = X +f B[X;ρ, D]とする. また以下のようにyj ∈ A (0≦j ≦m−1)を定める:
y0 =xm−1+xm−2am−1+· · ·+xa2+a1. y1 =xm−2+xm−3am−1+· · ·+xa3+a2.
...
yj−1 =xm−j+xm−j−1am−1+· · ·xaj+1+aj. ...
ym−2 =x+am−1. ym−1 = 1.
歪多項式環における分離多項式および平田分離多項式に関して, [26]において宮下 庸一は次の命題(宮下の定理)を与えた.
命題 1.1.8. ([26, Theorem 1.8]) f = Xm + Xm−1am−1 + · · · + Xa1 + a0 ∈ B[X;ρ, D](0)について, fが分離多項式であるための必要十分条件は適当なh ∈Aが 存在して∑m−1
j=0 yjhxj = 1かつρm−1(α)h=hα (α ∈B) が成り立つことである.
命題 1.1.9. ([26, Theorem 1.9], [10, Lemma 1.1]) f =Xm+Xm−1am−1+· · ·+ Xa1 +a0 ∈ B[X;ρ, D](0)について, fが平田分離多項式であるための必要十分条件 は適当なgi, hi ∈Aが存在して
∑
i
gixm−1hi = 1, ∑
i
gixkhi = 0 (0≤k≤m−2), αgi =giα, ρm−1(α)hi =hiα (α∈B),
が成り立つことである.
[43]において,筆者と池畑はB[X;ρ]とB[X;D]それぞれにおいて,命題1.1.8およ
び命題1.1.9の別証明を与えた. その証明は直接的な計算のみを用いて示される点が
特徴である. 本章ではρD=Dρを仮定し, 一般の歪多項式環B[X;ρ, D]において命
題1.1.8および命題1.1.9の別証明を与えることを目標とする.
ここでρD=Dρの場合,次が成り立つ.
補題 1.1.10. ρD=Dρを仮定する. このとき, f =Xm+Xm−1am−1+· · ·+Xa1+ a0 ∈ B[X;ρ, D]について, f ∈ B[X;ρ, D](0)であるための必要十分条件は次が成り 立つことである:
(1) aiρm(α) =
∑m j=i
(j i
)
ρiDj−i(α)aj (α∈B, 0≤i≤m−1, am = 1).
(2) D(ai) = ai−1−ρ(ai−1)−ai(ρ(am−1)−am−1) (1≤i≤m−1).
(3) D(a0) = a0(ρ(am−1)−am−1).
証明. 補題1.1.1により,f ∈B[X;ρ, D](0)であるための必要十分条件は
αf =f ρm(α) (α∈B) (1.2)
Xf =f(X−ρ(am−1) +am−1) (1.3) が成り立つことであるが,補題1.1.2より(1.2)と(1)は同値である. さらにXf = Xmam−1+∑m−1
i=1 Xiai−1および f(X−ρ(am−1) +am−1)
=
m∑−1 i=0
Xi(Xρ(ai) +D(ai))−
m∑−1 i=0
Xiai(ρ(am−1)−am−1)
=
m∑−1 i=0
Xi+1ρ(ai) +
m−1
∑
i=0
Xi(D(ai)−ai(ρ(am−1)−am−1))
=Xmam−1+
m∑−1 i=1
Xi(ρ(ai−1) +D(ai)−ai(ρ(am−1)−am−1)) +D(a0)−a0(ρ(am−1)−am−1)
より(1.3)と(2), (3)は同値であることがわかる.
補題1.1.10により,次の系が直ちに導かれる.
系 1.1.11. ρD = Dρを仮定し, C(Bρ,D)をBρ,D の中心とする. このとき, f ∈ B[X;ρ, D](0)∩Bρ[X]ならば, f ∈C(Bρ,D)[X]である.
1.2 宮下の定理の別証明
本節ではρD = Dρを仮定し, f ∈ B[X;ρ, D](0)∩Bρ[X]について命題1.1.8およ び命題1.1.9の別証明を与える. 以降, f = Xm +Xm−1am−1 +· · ·+Xa1 +a0 ∈ B[X;ρ, D](0)∩Bρ[X],A=B[X;ρ, D]/f B[X;ρ, D],x=X+f B[X;ρ, D]とする. 系 1.1.11よりf ∈C(Bρ,D)[X]であることに注意しておく. またyj ∈A(0≦j ≦m−1) を前節で定めたものとする.
証明に際して,まず次の補題を示す.
補題 1.2.1.
(A⊗BA)A= {m∑−1
j=0
yjh⊗xjh∈A, ρm−1(α)h=hα (α∈B) }
.
証明. {1, x, x2,· · · , xm−1}はB上freeなAの基底なので,A⊗BAにおける任意の 元は適当なzj ∈Aを用いて∑m−1
j=0 zj ⊗xjとかける. ∑m−1
j=0 zj ⊗xjを(A⊗BA)Aに おける任意の元とする. すなわち∑m−1
j=0 zj ⊗xjは α(
m∑−1 j=0
zj ⊗xj) = (
m∑−1 j=0
zj⊗xj)α (α∈B) (1.4)
x(
m∑−1 j=0
zj ⊗xj) = (
m∑−1 j=0
zj⊗xj)x (1.5)
をみたすとする.帰納的な計算により Xjα=
∑j i=0
(j i
)
(−1)j−iρ−jDj−i(α)Xi (α∈B, 0≤j) となることに注意して, (1.4)より
m∑−1 j=0
αzj ⊗xj =
m∑−1 j=0
zj ⊗xjα
=
m∑−1 j=0
zj ⊗(∑j
i=0
(j i
)
(−1)j−iρ−jDj−i(α)xi )
=
m∑−1 i=0
(m∑−1
j=i
(j i
)
(−1)j−izjρ−jDj−i(α) )⊗xi
=
m∑−1 j=0
(m∑−1
i=j
(i j
)
(−1)i−jziρ−iDi−j(α) )⊗xj
がわかる.すなわち
αzj =
m−1
∑
i=j
(i j
)
(−1)i−jziρ−iDi−j(α) (0≤j ≤m−1)
が成り立つ. ここでh = zm−1 とおくと, ρm−1(α)h = hα (α ∈ B)である. xm =
−∑m−1
j=0 xjaj =−∑m−1
j=0 ajxjであることに注意して, (1.5)より
m∑−1 j=0
xzj⊗xj =
m∑−1 j=0
zj⊗xj+1
=
m∑−2 j=0
zj⊗xj+1+h⊗xm
=
m∑−1 j=1
zj−1⊗xj−
m∑−1 j=0
haj⊗xj
=−ha0⊗1 +
m∑−1 j=1
(zj−1−haj)⊗xj がわかる.よって {
xzj =zj−1−haj (1≤j ≤m−1) xz0 =−ha0
を得る. haj =ρm−1(aj)h=ajh (0≤j ≤m−1)より {
zj−1 =xzj+ajh (1≤j ≤m−1) xz0 =−a0h
となり,よって帰納的にzj =yjh (0≤j ≤m−1)が成り立つ. 逆に, h∈Aがρm−1(α)h=hα (α ∈B)をみたすとする. このとき
{
xyj =yj−1−aj (1≤j ≤m−1) xy0 =−a0
より
x (m∑−1
j=0
yjh⊗xj )
=
m∑−1 j=0
xyjh⊗xj
=xy0h⊗1 +
m∑−1 j=1
(yj−1−aj)h⊗xj
= (−a0h)⊗1 +
m−1
∑
j=1
(−aj)h⊗xj+
m∑−1 j=1
yj−1h⊗xj
=h⊗(−a0) +h⊗(−
m−1
∑
j=1
xjaj) +
m∑−2 j=0
yjh⊗xj+1
=h⊗xm+
m−2∑
j=0
yjh⊗xj+1
= (m∑−1
j=0
yjh⊗xj )
x
がわかる. 次に任意のα∈Bについて, α(∑m−1
j=0 yjh⊗xj) =∑m−1
j=0 αyjh⊗xjおよび (m∑−1
j=0
yjh⊗xj )
α=
m−1
∑
j=0
yjh⊗xjα
=
m−1
∑
j=0
yjh⊗(∑j
i=0
(j i
)
(−1)j−iρ−jDj−i(α)xi )
=
m−1
∑
i=0
(
m∑−1 j=i
yjh (j
i )
(−1)j−iρ−jDj−i(α))⊗xi
=
m−1∑
j=0
(m−1∑
i=j
yi (i
j )
(−1)i−jρm−i−1Di−j(α)h
)⊗xj.
より,α(∑m−1
j=0 yjh⊗xj) = (∑m−1
j=0 yjh⊗xj)α を示すには αyj =
m−1∑
i=j
yi (i
j )
(−1)i−jρm−i−1Di−j(α) (0≤j ≤m−1) (1.6) を示せば十分である. これをjに関する帰納法で示す. まずym−1 = 1より,j =m−1 のとき成り立つ. あるj (0≤j ≤m−2)について
αyj+1 =
m−1
∑
k=j+1
yk ( k
j+ 1 )
(−1)k−j−1ρm−k−1Dk−j−1(α) が成り立つと仮定すると
αai =
∑m k=i
ak (k
i )
(−1)k−iρm−kDk−i(α) (0≤i≤m, am = 1) yj =xyj+1+aj+1 (0≤j ≤m−2)
であることより
αyj =αxyj+1+αaj+1
=xρ(α)yj+1+D(α)yj+1+αaj+1
=x(
m∑−1 k=j+1
yk ( k
j+ 1 )
(−1)k−j−1ρm−kDk−j−1(α))
+
m∑−1 k=j+1
yk
( k j+ 1
)
(−1)k−j−1ρm−k−1Dk−j(α) +
∑m k=j+1
ak ( k
j+ 1 )
(−1)k−j−1ρm−kDk−j−1(α)
=
m−1
∑
k=j+1
(yk−1−ak) ( k
j+ 1 )
(−1)k−j−1ρm−kDk−j−1(α)
+
m∑−1 k=j+1
yk ( k
j+ 1 )
(−1)k−j−1ρm−k−1Dk−j(α)
+
∑m k=j+1
ak ( k
j+ 1 )
(−1)k−j−1ρm−kDk−j−1(α)
=
m∑−2 k=j
yk
(k+ 1 j+ 1
)
(−1)k−jρm−k−1Dk−j(α)
−
m∑−1 k=j+1
yk ( k
j+ 1 )
(−1)k−jρm−k−1Dk−j(α) +
( m j + 1
)
(−1)m−j−1Dm−j−1(α)
=yjρm−j−1(α) +
m∑−2 k=j+1
yk
{(k+ 1 j+ 1
)
− ( k
j+ 1 )}
(−1)k−jρm−k−1Dk−j(α) +
{( m j+ 1
)
−
(m−1 j+ 1
)}
(−1)m−j−1Dm−j−1(α)
=yjρm−j−1(α) +
m∑−2 k=j+1
yk (k
j )
(−1)k−jρm−k−1Dk−j(α) +
(m−1 j
)
(−1)m−j−1Dm−j−1(α)
=
m∑−1 k=j
yk (k
j )
(−1)k−jDk−j(α)
よって帰納的に式(1.5)は成り立つ.
本章の終わりに命題1.1.8および命題1.1.9の別証明を与える.
命題1.1.8の証明. 補題1.1.6および補題1.2.1より明らかである.
命題1.1.9の証明. f をB[X;ρ, D] における平田分離多項式とする. このとき,補 題1.1.7と補題1.2.1より適当なgi ∈ VA(B)および∑m−1
j=0 yjhi ⊗xj ∈ (A ⊗B A)A (ρm−1(α)hi =hiα (α ∈B))が存在して
1⊗1 =∑
i
gi
m∑−1 j=0
yjhi⊗xj =
m−1
∑
j=0
(∑
i
giyjhi)⊗xj が成り立つ.両辺を比較すると
∑
i
giy0hi = 1,
∑
i
giykhi = 0 (1≤k≤m−1) であるので,帰納的に
∑
i
gixkhi = 0 (0≤k ≤m−2),
∑
i
gixm−1hi = 1 を得る.
逆に適当なgi, hi ∈Aが存在して
∑
i
gixm−1hi = 1, ∑
i
gixkhi = 0 (0≤k ≤m−2), αgi =giα, ρm−1(α)hi =hiα (α∈B),
が成り立つとする. このとき,帰納的に
∑
i
giykhi = 0 (1≤k ≤m−1),
∑
i
giy0hi = 1, を得る.補題1.2.1より∑m−1
j=0 yjhi⊗xj ∈(A⊗BA)Aであり,
∑
i
gi
m∑−1 j=0
yjhi⊗xj =
m−1
∑
j=0
(∑
i
giyjhi)⊗xj = 1⊗1
が成り立つので補題1.1.7よりfはB[X;ρ, D]における平田分離多項式である.
注意 1.1. ここで示した命題1.1.8および1.1.9の証明は,宮下のそれとは違い直接 的な計算のみを用いて示される点が特徴である. しかしながら,証明の際にρD=Dρ およびf ∈ Bρ[X]を仮定しており, [26]において宮下庸一はこのような条件を仮定 せず一般的の場合における証明を与えている.
2 微分型歪多項式環におけるガロア多項式
本章ではBを素数標数pとし,微分型歪多項式環B[X;D]におけるガロア多項式 について考察する. 岸本量夫によりXp −X −b ∈ B[X;D](0)はガロア多項式であ ることが知られているが, 一般的にf = Xp−Xa−b ∈ B[X;D](0)かつa ̸= 1の場 合,f がB[X;D]におけるガロア多項式であるか否かの判断は難しい. 一方, 永原賢 p= 2の場合にfがガロア多項式であるための必要十分条件を与えた. 本章第二節で はこの永原の結果を素数次数pへ拡張した定理(定理2.2.2)を与える. また第三節で はp次のガロア多項式のガロア群について考察する.
2.1 序と準備
本章の内容は筆者と池畑秀一の共著論文[45]を基としている.
A/Bを環拡大, GをAの自己同型からなる有限群とする. このとき, A/BがG-ガ ロア拡大(G-Galois extension)であるとは,B =AG (AにおけるGの固定環)かつ適 当なAの有限個の元の集合{xi;yi}が存在して∑
ixiσ(yi) = δ1,σ (σ∈G)が成り立つ ときにいう. ここでδ1,σはクロネッカーのデルタである. 上の{xi;yi}をA/BのG- ガロアシステムと言う. 良く知られているようにG-ガロア拡大は分離拡大である.
歪多項式環B[X;ρ, D]において,f ∈B[X;ρ, D](0)がガロア多項式であるとはある 有限群Gにより剰余環B[X;ρ, D]/f B[X;ρ, D]がB上G-ガロア拡大であるときに いう. 本章では微分型歪多項式環B[X;D]におけるf =Xp−Xa−bという形の多 項式のガロア性について考察する. まず補題1.1.5より, 次の系が導かれることに注 意しておく.
系 2.1.1. ([9, Corollary 1.7])f =Xp−Xa−b ∈B[X;D]についてf ∈B[X;D](0) であるための必要十分条件は次の(1), (2)が成り立つことである.
(1) a∈ZD,かつb ∈BD.
(2) Dp(α)−D(α)a =αb−bα (α∈B).
B[X;D]におけるガロア多項式について,次は基本的である.
補題 2.1.2. ([21, Theorem 1.1 and Corollary 1.1], [17, Lemma 2.3])f =Xp−X− b ∈B[X;D](0)とする. このときfはB[X;D]におけるガロア多項式である. より正 確に言うと, A =B[X;D]/f B[X;D], x =X+f B[X;D]とするとき, σ(x) =x+ 1 で定められるAのB-自己同型σにより生成される位数pの群G =< σ >により, A/BはG-ガロア拡大である.
証明. この補題の証明はすでに知られているが, [45]において筆者と池畑秀一はこ の補題における具体的なG-ガロアシステムを示す別証明を与えたので, ここではそ れを記す.
まずAG =Bは明らかである. このとき,以下がA/BのG-ガロアシステムである:
{1, x,· · ·, xi,· · · , xp−1; 1−xp−1, (p−1)xp−2,· · · , (−1)i−1
(p−1 i
)
xp−i−1, · · · , −1} (2.1) 実際,
1 =kp−1 = (−x+σk(x))p−1
=
p−1
∑
i=0
(−1)i
(p−1 i
)
xiσk(xp−1−i) (1 ≤k ≤p−1),
0 = (−x+x)p−1 =
p−1
∑
i=0
(−1)i
(p−1 i
)
xixp−1−i,
より
1 = 1−0 = 1−
p−1
∑
i=0
(−1)i
(p−1 i
)
xixp−1−i
= 1·(1−xp−1) +
p−1
∑
i=1
xi {
(−1)i−1
(p−1 i
) xp−1−i
} ,
0 = 1−1 = 1−
p−1
∑
i=0
(−1)i
(p−1 i
)
xiσk(xp−1−i)
= 1·σk(1−xp−1) +
p−1
∑
i=1
xiσk {
(−1)i−1
(p−1 i
) xp−1−i
}
(1≤k ≤p−1), となるので, (2.1)がA/BのG-ガロアシステムであることがわかる.
補題2.1.2が示す通りf =Xp−X−b∈B[X;D](0)はB[X;D]におけるガロア多 項式であることは知られているが, 一般的にf =Xp−Xa−b ∈B[X;D]かつa ̸= 1 のとき, f がガロア多項式であるか否かを判断するのは難しい. これに関して,永原 賢はp= 2の場合に次を示した.
命題 2.1.3. ([29, Theorem 3.7]) Bの標数を2, f =X2−Xa−b∈B[X;D](0)と する. ことのときfがB[X;D]におけるガロア多項式であるための必要十分条件は ある適当な元s ∈U(Z)が存在してD(s) +as = 1が成り立つことである.